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SEED-IF_CROSS POINT_第18話

Last-modified: 2010-03-22 (月) 07:32:27
 

第18話 『目を覚ませ 私の獣』

 
 

「ねぇねぇ、この前言ってたことって本気なの? あんな男の何処が良いかわかんないんだけど」
「あの時は深い意味で言ったわけじゃないってことを忘れないでよね。
 でもまぁ、う〜ん……最近一皮剥けそうな匂いがしないこともないけど、収穫はまだまだかな。
 1回派手にすっ転んで挫折して、それでも一生懸命に立ち上がれたら真剣に考えてみてもいいかも」
「やっぱ大人だぁ……んで、本当は何歳なの?」
「まだ言うか」

 

重力の無いボルテールの通路。移動する手摺を掴んだ数人の少女たちが、宙を舞う様に進んでいく。
その真ん中にはオペレーターをしている茶髪の少女があった。
空いた左腕で飲み物の入ったバッグを大事そうに抱えてたまま、周りの少女たちと談笑している。
真っ暗な宇宙空間ではあまり認識しにくいが、現在の時刻は夜8時を回ったところ。
当直以外の者にとってはそろそろ大人の時間なので内容がそっち方面に行くのは無理の無いことだろう。
ほら、修学旅行の夜みたいなノリで。

 

「大体今は私のことなんかよりも、あんたの……? あ、艦長だ」

 

向かい側から移動してくるのはサングラスをかけた中年の男性。思わず移動を止めて敬礼する少女たち。
敬礼を返して通り過ぎようとした艦長だが、少女たちの中にいるオペレーターの少女に気付くと
手摺を止めて彼女の名を呼んだ。
先に言ってるわねと再び動き出す友人たちに頷いた後、少女は傍に寄る。
艦長は少しだけ傾いたサングラスを中指で戻しつつ、ゴホンと咳払いをした。

 

「今からMSデッキに行くのか?」
「はい。もうすぐ間食の時間なんで配給を手伝っているところです。
 他の人がサンドイッチを持って行ってるんで、私は飲み物を」
「なるほど。お目当てはそこにいるであろうシン=アスカ、か」

 

はい、と頬を染めて頷く。
周囲に知られているのは恥ずかしいが、外堀を埋めているのだと考えればそこまで悪い気はしない。
むしろ任務中に何を浮ついているのかと怒られるかと心配したのだが、
艦長は特に怒ったりはしてこなかった。
ただ困ったような表情を浮かべているだけだ。あの、何か?

 

「……作戦中は恋愛禁止などということを言おうとは思わん。しかし君の人選に少し問題があってな。
 確かに彼は悪い人物ではない。外見も整っているし、女性クルーに人気があるのもわかる。しかし」
「しかし?」
「あまりべらべらと他人のプライベートを話したくはないのだが。
 ……彼には既に、ベルリンに恋人らしき女性がいるぞ?」
「えぇ!? そ、それは本当ですか!?」

 

何、だと……!?

 

落雷に感電したような衝撃が奔る。しまった、その可能性は考慮してなかった。
1人で戦場なんかに復帰してるから、そんな女性いないって思い込んでたよちくしょう。
そりゃあんな優良物件を周囲のハイエナどもがほっとくわけがないよなぁー。

 

「ああ、しかも2人だ。
 片方はミネルバ時代の同僚で、一時期FAITHの役職にも就いていたルナマリア=ホークという女性。
 それからもう1人、確かポニーテールの……お前と同年代くらいの少女が一緒にいたな」
「あ、ならオッケーです」
「いいのか!?」

 

今度は艦長が驚愕する番だった。
ずり落ちたサングラスを外して少女に詰め寄る。いつもの威厳なんてありはしない。無理も無いけどね。
だが勘違いしてもらっては困るのである。別に自分はハーレムの仲間入りなんて望んでいるつもりはない。
この戦いの勝者は唯一人、己のみ。それ以外の解答はいらない。
そして自分は、彼と一緒にいた今までの1週間でその性格をある程度掴むことはできていたのだった。

 

見たところ彼は女性関係にガツガツするタイプじゃない。しかも未だに心に傷を抱えている。
恋人が1人だけと言うのなら純愛ルート一直線っぽいが、
2人ならばどっちにも深入りせず微妙な関係を保つタイプとみた。
それ以外にも片方だけが恋人の場合敗れた方は身を引くだろうという予想もあるし、
先ほど述べた戦場へ戻ってきた云々を考慮しても彼がどちらかと付き合っているという可能性は低そうだ。

 

そんな考察を含めた

 

「つまり彼の隣の席はまだ空いているんだよ!!」
「な、なんだってー!!」

 

な会話を艦長とした後、少女は思考を再開する。
考察も良いが、このままでは時間が無いのは確かだ。
友人たちの命題に応えて一昨日は5回、昨日は6回会話の途中で軽くボディタッチしてきたが、
これ以上遠回りしている時間的余裕は無い。もう既にキラ=ヤマト討伐の任務は始まっているのだから。
次からは全弾強振で行けとも言われているし、自分ももうそれしか手はないと感じている。
すなわち肉体接触、あててんのよとかこっちのみ〜ずはあ〜まいぞとかそっち方面だ。

 

無論自分もそんな作戦を取りたくは無い。
恋物語において色気を前面に押し出す者は敗れると相場が決まっている。
あまりしつこく好き好き光線出し続けても 「このマンセーキャラうぜー」 となりかねないし。
サスペンスなんかじゃそういうキャラは真っ先に殺されてお風呂場で浮いている。
某金曜日の怪物に至っては言わずもがな。
この前見た恋愛アニメに出てた北なんとかというキャラもなんやかんやで結局は失恋してた。
……そういえばあのアニメの主人公、アスカさんに声が似てたなぁ。かっこ良さは月とスッポンだけど。
まあそれは置いといて、そういうわけで自分もこの作戦には乗り気でない。
しかし最終的な勝者になるためにこの際文句は言ってられないのだ。持ち味をイカせッッ!!

 

「努力したものが全て報われるとは限らない。しかし、成功した者は皆すべからく努力している。
 友人たちから送られた言葉です……では、行 っ て 来 ま す !!!」
「おかしいとこばっかり母さんに似てきたなぁ……」

 

育て方間違えたーと嘆く艦長を尻目に、少女は再びMSデッキに向かう。
羽のように丘を下り、優しい彼の許へ。
乙女ではあるが亜麻色ではなく茶髪なのはこの際気にしない方向で。
MSデッキに辿り着くと既に友人たちが集まった人たちに食事を配っていた。
大勢集まっているが、その中にシン=アスカの姿は無い。どこだろ。

 

「アスカさんは?」
「まだ整備班長と一緒に調整中だって。
 こっちは私たちがやっとくから、デスティニーのコックピットまで持って行ってきなさいな。
 ……うまくやんなさいよ?」
「ありがとう! ごめんね、最後まで手伝えなくて」
「何言ってんの。ここまで運ぶの手伝ってくれただけでも十分よ」

 

ウインクする友人に笑顔を返し、少女はデスティニーのコックピット目掛けて床を蹴る。
そして飲料ボトルを3本抜き出し、バッグを友人に向かって放った。
投げ返されてきたのは3つの小箱。中身は今日の間食であるサンドイッチだ。

 

「アスカさ〜ん!!」

 

デスティニーに向かって声をかけるとコックピットから整備班長が姿を現した。
そして中に向かって何か喋っている。
どうやら彼らは今が休憩時間だということに気付いていなかったようだ。

 

「失礼しまぁす。飲み物、アスカさんがコーヒーのブラックで班長はレモンティーで良かったですよね?」
「ありがとう。アスカさん、ここで一息つきましょう」
「すいません、もうちょっと」

 

真剣な表情でコックピット内の画面を見つめているその視線。思わずぞくりと来て唇を舐める。
やっぱりこの勝負に勝ちたい。彼の1番になりたい。彼の心を射止めたい。
そんな感情に任せて中に飛び込んだ。

 

身体なら。
身体ならいくらでもくれてやる。そのかわり――――

 

貴方の将来を私にくれっっっ!!!

 
 

「それ、心を射止めるんじゃなくて心臓を止める台詞だと思うんだが」

 

そうだっけ?

 
 

「コクピットにまで入って良いとは言ってないんだけどな……まあいいか」

 

はしゃいだ声を上げる少女に構わず、中にいた青年シン=アスカは目の前のキーボードを叩き続けた。
宇宙に出て2日目の今日はデスティニーの最終調整の日である。
画面の横、視界の隅に入ったのはまだ真新しい緑の制服。最近良く話しかけてくるオペレーターの女の子。
お互いの身の上を話したあの日以来なんだか懐かれてしまった。
入り口でコークスクリューパンチについて熱く語りだした班長の脇を抜け、作業中の画面を覗き込んでくる。

 

「そこ空けてくれないか。ちょっと狭いから」
「あ〜!! アスカさんそれ失礼です!! 私太ってなんかないですよ!?」
「いやそういう意味じゃなくて、流石に3人入るのはどうかと思うんだ。
 無重力なんだからコックピットの中にこだわらなくても」

 

頬を膨らませる少女にそう弁解しながらキーボードを叩く。
休憩に入るにしても切りの良いところまでやっておかないと……これで良し。
後は実際に宇宙に出てからの調整になるだろう。今の状態でも十分以上に戦えるが。
小箱とボトルを受け取り、そのまま彼女に座席を譲る。適当な窪みに腰掛けてサンドイッチの包みを解いた。
入っていたのは3種類。卵とハムに、ポテトサラダのサンドイッチ。
かぶりついて咀嚼したあと、コーヒーで流し込む。結構旨い。

 

「……なに?」
「いや、美味しそうに食べてるなぁって」

 

茶色の髪が視界をよぎる。顔を上げると目の前にはなんだか嬉しそうな少女。
にこにこと笑うその顔はとても幸せそうだ。
軍人なんてとっとと辞めて穏やかな場所で暮らして欲しいと思わず考えるくらい。

 

「ああ、まあ、そりゃ。……もしかして、君がつくったとか?」
「まさか。それ皆と同じやつですよ。
 でもアスカさんが食べたいって言うなら頑張って作っちゃいますけど」

 

そう言いつつ少女はシンの顔を覗き込む。
姿勢的に自分の豊かなミサイルをシンにアピールしているように見えなくもない。つかそう見える。
今の光景をコニールが見たら撲殺すること間違いなし。シンを。
この同世代のわんぱくボディに噛み付くのは自ら敗北を語るのと同義だし。
ルナはほら、あいつコンプリートファイターだから。
余裕を装って 「やるじゃない」 くらいは言いそうだけど。

敗北感に包まれるのは多分コニールだけだろね。

 

「あ。マヨネーズ、頬に付いちゃってますよ。取ってあげましょうか?」
「いやいいから。からかってるのか?」
「ふふっ……」

 

それにしてもほんとに懐かれてしまったな。
まあこの年頃は恋に恋する世代だからよくあることか。昔のホーク姉妹みたいなものである。
尤もメイリンは後にアスランの為に命張ってたから、同じに扱っては良くないかもしれないが。

 
 

「エルボー・ブロックで拳さえ壊さなければ……って聞いてないのか。
 あ〜、良ければ私、このハッチ閉めて30分ほど席を外しましょうか?
 他の整備士にも近くに寄るなと伝言を」
「いや30分って何のつもりですか」
「なんと、15分で足りますか。
 しかし男性側はそれで良くても女性には余韻などの時間が必要だと思うのですが……」
「勤務時間だって言いたいんだよこっちは」

 

変に気を利かすなやおっさん。しかも気を利かすとこ間違えてるし。
あと哀れみのこもった目でこっち見るな。俺は別に早くねぇ。

 

「ところで、もうデスティニーの調整は済んだんですか?」
「ああ、もうあらかたね。後はアスカさんに実際に宇宙に出てもらって、最終チェックするくらいかな」
「へえ……」
「とりあえずは明日テストする予定だから、君にも――――」

 

「大変だ!!!」

 

彼らの会話を遮るかのように室内に響く大声。
3人はサンドイッチを咥えたままコックピットから顔を出す。
ちょうど金髪を後ろに流したいつぞやの赤服の青年がデッキの中に飛び込んできたところだった。
大声出したのはお前か。
青年はシンの隣にいる少女を見つけると一瞬眉をしかめたが、
そんな場合ではないと言わんばかりに周囲を見渡す。

 

一体何があった――――いや愚問か。この部隊に配属されている者がこれほど動じる事など一つしかない。

 

「今ブリッジに連絡があって、ついにあいつらが姿を現したって!!」

 

その言葉が意味する事はただ一つ。MSデッキ内の空気が変わる。
ついに決戦の時が来た。

 

「来たか……随分タイミングのよろしいことで。交戦予想時間は?」
「さ、3時間後!!」
「どう考えても今日ぶつかるな」

 

他人事のようなその言葉に少女と整備班長が、
いや他のパイロットや整備士などその場にいる全ての人間がシンに視線を向けた。
そんな周囲を気にした様子もなく、シンは指に付いたマヨネーズを舌先で舐め取る。

 

「……最終チェックはできそうもありませんね」
「調整は今済ませたし問題ない。整備班の仕事は完璧だ……あとは俺たちの仕事だな」
「アスカさん……こ、心の準備とかは?」
「こういうのは今に始まった事じゃないから。心配無用だ」

 

不安な表情を見せる少女のおでこを軽く裏拳で小突き、シンはデッキにいる人間たちを見下ろす。
どうやら自分が何か言うのを待っているようだ。
今のザフトにはベテランが少ない。
彼らの多くは初陣のようだし、それなら少しでも負担を軽くしてやるというのが先立者の勤めか。
こういうポジションは慣れてないが、謙遜抜きでこの作戦のキモは自分だし。

 

「それじゃ、俺たちはこれから作戦に掛かるわけだけど」

 

「「「…………!!」」」

 

息を呑む音が聞こえる。これ以上精神を張り詰めさせるのも酷というものだろう。
熱い演説なんてするようなガラじゃないので、シンプルな言葉にしておいた。

 

「今夜は、残業無しにしようか」

 

「「「「――――――はい!!!」」」」

 

言葉一つにも気を使わなければならない。昔のアスランもこんなだったのだろうか。
上の者ってのも大変なもんだな。

 

うん。やっぱ、ガラじゃない。

 
 
 
 

遂に、シンと戦う日が来た。

 

「随分待ったな。この日を」

 

口からこぼれたのは力の抜けた声。鏡に写るのは軍服を纏い、長髪を髪留めで纏めた自分の姿。
キラはそんな自分を無感情に見つめた後、エターナルへ向かうために自室を後にした。
部屋の外には出陣する自分を見送りに来てくれた友人と被保護者。
最近自分の傍にいることが多い年の差コンビである。

 

「今から、行くんだ?」
「ああ。この子の事は頼んだよ。
 ラクス。君はミリィと、このディーヴァでおとなしく待ってるんだよ?」
「………」

 

こくりと頷く少女。今の状況を客観的に見たキラは思わず笑みがこぼれた。
心はとうに凍ったと思っていたが、自分も随分優しい声が出るようになったものだ。
シンの復帰に心が騒いでいるのかもしれない。
尤も殺されるかもしれない男の復帰を喜ぶなど、自分が相当歪んでいる証拠以外の何物でもないが。
まあいいや。どうせ今までもこの世は地獄だった。
自分がいかなる存在に堕ちようと、笑っていられるならその方が良い。
それが自分に対する蔑みの笑いでも。

 

「じゃあ、キラ。気をつけてね」
「ああ」

 

ミリアリアの言葉に頷き、キラは戦いへの覚悟を決める。
そして2人に背を向けて歩き出そうとして

 

「ん……」

 

少女に服の袖を掴まれた。なんか最近多いなこういうの。
無視するのも可哀想なので視線を向けると、目に写ったのは
何かを必死で訴えかけようとしている少女の表情。
ただ事ではない雰囲気に、思わず片膝をついて視線を合わせる。

 

ううっ……
「どうしたんだい?」

 

この子のこんな表情は初めて見る。何か言いたいのだろうか。
だが心の傷というものはそう簡単に治るものでもなく、彼女の口から言葉が漏れることはない。

 

うう〜っ……

 

声の出ない自分に怒っているのか、それとも悲しんでいるのか。
人の心がわからない自分には判断できなかった。
それでもいつもの自分ならいくらでも待ってやる事ができたのだろうが、
流石に出陣前の今では聞いてやる時間的余裕が無い。
彼女には申し訳ないが、もう行かないと。

 

「ごめん、帰ったら聞くよ。それじゃ行って来る」
あ………

 

頭を軽く撫でて今度こそ少女に背を向ける。
そしてエレベーターを降りMSデッキへと続く道を目にした時にはもう、
彼女たちのことは頭から消え去っていた。
頭を占めるのは今からの戦いについて。そして 『彼』 について。

 

「ああ……」

 

肌が粟立つ。掌が湿る。胸が締め付けられ動悸が激しくなる。
シンには悪いが、やはり彼の本質は戦士以外の何者でもなかったとキラは笑う。
だってそうだろう。まだ彼と同じ宙域にいるに過ぎないのに、自分は彼の存在を感じているのだ。
手加減や妥協といったものが必要ない、自分と同じ存在がそこに在るという事実を。

 

ようやく眠りに就けるのか。この戦いの後には。
ようやく終わるのか。この自分だけでは終われない戦いが。
彼がいなければ終わらないこの戦いが。

 

そう、自分はようやく再会した。
自分の友人だったシン=アスカではなく、かつて自分の驕りを圧し折った天敵シン=アスカと。

 
 

「やっと、会えたね。 『シン』」

 
 

さあ、始めようかシン。
僕が心待ちにしていた戦いを。

 
 
 
 

「………」

 

デスティニーのコクピットの中で、シンは自分の両肩を抱いていた。
他人が見れば、恐怖で震えて怯えているようにも、歓喜の喜びを押さえつけているようにも見えただろう。
何故震えているのかはシン自身にも分からなかった。
恐怖でも歓喜でもないことは、分かっているのだが。

 

目を閉じる。感じるのは背筋が凍るような重圧。
まだキラと同じ宙域にいるだけだ。相対したわけでもなく、発進すらしていない。
だが、分かる。頭や身体ではなく本能が理解している。
これより前に進めば、ただではすまないという予感。

 

「なるほどな」

 

小さく呟く。他のパイロット達が呑まれるのも良く分かる。キラを神格化していたザフト軍など尚更だ。
この重圧に耐えられる人間はそうはいないだろう。
不意に、これからの自分がしようとしていることがひどく愚かなことに思えてくる。
だがこれがキラと戦うということ。
昔の様な下手な小細工はもう通用しないし、向こうもつまらない策など仕掛けてこないだろう。
キラを倒す方法は一つだけ。
アイツよりも強い力で、真っ向から叩き潰すこと。ただそれだけだ。

 

『エターナルよりフリーダムの出撃を確認しました。
 本艦は他の部隊と共に敵母艦を叩きますので、アスカさんにはフリーダムの相手をお願いします。
 エターナルが沈めばキラも動揺し隙が出来るだろう、というのが艦長の考えです』

 

オペレーターの少女に声を掛けられた。彼女も怖いのだろう、顔が強張っている。
安心させるように笑いかけた。

 

「危険だから止めといたほうがいい。ディーヴァがやばくなったらキラがそっちに行きかねないし。
 遠くから見てて、俺がやられたら退けばいい」
『そういうわけにもいきません、任務ですので。ですがお気遣いは感謝します』

 

少しは落ち着いたのか、僅かに笑顔を返す少女。
それでいい。付き合いは短かかったが、彼女には不安な顔は似合わない。
そして艦内に彼女の声が響いた。

 

『コンディションレッド発令。各員、総力戦用意。
 敵母艦より出撃する機影を確認。フリーダム1、ストライク8。
 デスティニーならびに本艦所属MSは作戦行動の開始を願います。
 シン=アスカ、デスティニー発進スタンバイ。
 全システムの起動を確認しました。発進シークエンスを開始します』

 

滑らかに指示を出すオペレーター。なるほど、ボルテールに乗るだけの事はある。
彼女は艦長と会話をした後、こちらに視線を戻す。

 

『準備は、よろしいですか?』
「いつでも」
『ご武運を。上が何を言っているのかは知りませんが、無理はしないで下さいね』
「ありがとう。そう言えばずっと言いそびれてたんだけど、君の名前を聞いてなかったな。
 話をする機会も結構多かったのに」
『え、ああ!? ……そう言えば、そうでした………しまったなぁ。
 それじゃ遅くなりましたけど、私の名前は―――』
「いや、ここまできたら敢えて聞かないでおくよ。お互い無事に戦いを終えたらその時教えてくれ」
『………そう、ですね。了解です。絶対に聞きに来てくださいね!!』
「ああ」

 

お互い笑い合いながら通信を切った。もしかしてこういうのも死亡フラグになるんだろうか。
コックピットの中に再び彼女の声が響く。

 

『ハッチ開放。射出システムのエンゲージを確認しました。
 カタパルトオンライン。射出推力正常。針路クリアー。

 

 ―――デスティニー、発進どうぞ!』

 
 

「シン=アスカ。デスティニー、行きます!!」

 
 

深紅の翼を広げてデスティニーが舞う。
他の艦から先に出撃していたMSたちをあっさりと追い越して先陣を切る。
目指すは眼前にいる青き翼を持ったMS。
最高速で疾走しつつ、右肩のウェポンラックからアロンダイトを抜いた。
こちらから話すことは無い。挨拶代わりに一撃をくれてやる。
フリーダムは攻撃を仕掛けてこなかった。
不意を突かれたのか、余裕なのか。まだ何か話でもあったのかもしれない。こちらには関係ない話だが。
その一瞬でシンは間合いをゼロに変える。
フリーダムが両手にビームサーベルを抜くのが見えた。だが遅い、先手はこちらだ。
アロンダイトに紅い光が奔る。
長剣が空間を裂いて旋回した。

 

攻防は一瞬。

 

アロンダイトの一撃をフリーダムはビームサーベルを交差させて受け止めた。
機体を横回転させながら長剣を横に流しつつ、デスティニーの横をすり抜ける。
そして無防備な背中に向けて、右手のビームサーベルを横に薙いだ。
すれ違いざまに迫ってくるサーベルの刃。
シンは後退してそれを避けつつ、左手でパルマフィオキーナを放つ。
ビームシールドで受け止めるフリーダム。と、腹部のカリドゥスが火を噴く。
舌打ちと共にシールドで受ける。
光が収まったその瞬間、目の前にはフリーダムがサーベルを振りかぶっていた。
もう一度後ろに跳んで、その一撃を避ける。

 

避けた、はずだった。
だが目に映るのは火花を散らした自分の機体。
掠り傷で戦闘自体には問題は無いが、精神的なダメージは大きい。

 

――――ガチだよ。本気で殺しに来て良い

 

思い出すのはあの時のキラの言葉。
やはり強い。前大戦で戦ったときの比ではない。
これが今のキラ=ヤマト。
だがそれでも今はやるしかない。頭部のバルカンで牽制しながら距離をとった。

 

「……上等だ……」

 

アロンダイトを片手で持ったまま、左肩のウェポンラックからスコールを取り出し構える。
左右に細かく動いて撹乱しながらそれを連射。雨の様にフリーダムに降り注ぐものの、全て回避された。

 

今のままでは勝てない。それは間違いない。
ならば今は全てを忘れて、あの日に帰ろう。
ヤツを倒したあの日に。復讐を遂げたあの日に。
確かにキラを超えたあの一瞬に。
そして、昔の自分の様に呟いた。

 
 

「フリーダムは、俺が倒す……」

 
 
 

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