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SEED-IF_CROSS POINT_第26話

Last-modified: 2010-06-13 (日) 00:52:51
 

「会いたいなぁ、アスカさん。元気にしてるかなぁ……」

 

シン=アスカとキラ=ヤマトの戦いから1週間たった、ボルテールの休憩室。
オペレーターの少女はいつもの如く、友人たちと一緒に紙コップ片手に雑談していた。

 

「また言ってるよこの娘は。ミネルバの艦長から無事だって教えて貰ったんでしょ?」
「うん。それはまあ、そうなんだけどさぁ」

 

現在の自分は病気である。病名はアスカさん欠乏症。簡単に言うと恋の病。
一定期間あの紅い瞳を見なければ動悸・息切れ・倦怠感などを起こしてしまう深刻な病気だ。

 

「病原菌扱いしてない? それ」
「うっさい」

 

まあともかく彼と離れてからの最近の自分は仕事に身が入らないのだ。
嗚呼あの頃は良かった。
仕事合間での雑談やトレーニングルームで一緒に汗を流したり、一緒に食堂でご飯を食べたこともあった。
そして何より先日遭遇した休憩室での密着タイムも忘れてはならない。
いやまあもうちょっと突っ込んで何か出来たと今では後悔しているのだけれども。
ちなみにそのときの写真は自分の携帯とパソコンの最重要書類フォルダの中に入っている。
今でも携帯を開いてチラチラ見てみたり。
ふふふ、アスカさんの寝顔、すごくかわいいですぞ皆の衆。私のだから見せてやんないけどね。

 

そんなほのぼの恋愛ライフから、殺伐とした軍人ライフへと逆戻りなのだ。
自分がその落差にボケてしまうのも無理は無い。
今もあの人がよく座っていた席で少しでも彼の存在を感じようと、
真似をして飲めもしないブラックコーヒーをちびちびと舐めているところである。
めっちゃにがー。

 

「もう諦めなさいな。男なんか星の数だし、いつまでもそんなだと新しい出会いを見逃しちゃうわよ?」
「そうそう。あの人の事は次に会えた時にお互いがフリーだった時に考えればいいじゃない」

 

ずっとこんな調子の自分に付き合うのが面倒臭くなってきたのか、
しきりに気持ちの切り替えを勧める友人たち。
心配してくれる気持ちはありがたいし、げんなりしてる気分もわかる。
立場が変わればまず自分も同じ感想を抱くだろう。
だが彼女たちは自分にとっての彼と同じくらいの男性に出会っていないからそう言えるのだ。
あんな超ど真ん中のストレートを振りもせずに見逃してしまっては、一生後悔するに決まっている。

 

それに、新しい出会いって言ったって。

 

「でもさぁ。アスカさんの代わりに入ってきた人たちって、アレだよ?」
「む……まあそれを言われると何も言えないけどさ」
「こうも落差が大きいとねぇ……」

 

溜息を吐く女性陣。その視線の先にはやかましく騒いでいるアラサー男性たちの姿。
彼らこそがアスカさんに代わってボルテールに入ってきた連中である。
新たに補充されたパイロットで腕利きのベテランだったが、性格に難があった。
前大戦でデュランダル議長側に属していた者に多く見られる傾向で……まあそのなんだ。
クライン派に虐げられてたせいで性格がひん曲がったやつばかりなのであった。

 
 

第26話 『人が翼を持つと、自由になれるんですか?』

 
 

「猫も杓子もアスカアスカ、か。
 大体あいつがフリーダムをちゃんと倒してりゃこんな事になってなかったんじゃねえか」
「それが今や救世主だもんな。やれやれ、羽の生えたMSに乗れて羨ましいこって」

 

キラを撃退した報が本国に届き、一段と英雄扱いされ始めたシン=アスカ。
同じデュランダル派だったくせに何故ヤツだけ。男たちはそんな彼を妬む心を隠そうともせず騒ぎ立てる。
その姿はいい年齢になった大人のとる態度ではない。
傍を通りかかった少女 (と言っても多分同年代) が露骨に眉を顰めて
「やだなぁ」 と小さく呟いたほどだ。
だがその意見はまったくもって同感だが、今回の場合は少し不用意だった。
実際彼らは大きな声で騒いではいたものの、その声をしっかり聞いていたようだ。

 

「おい、ちょっとそこのお嬢ちゃん。今俺たちに何か言ったかい?」
「べ、別に何も」
「お兄さんたちこう見えて繊細だからさ。心無い言葉とか傷付いちゃうんだわ」

 

少女を呼び止めて距離を詰める。助けを求めて周囲を見渡す少女。
しかし周りの男性たちは見て見ぬ振りだ。
近くの席でジュースを飲んで雑談してたザフトレッドたちも何もしようとしない。

 

「おい、止めた方が良いんじゃねえかあれ」
「でもあいつら相手にすんのはちょっとなぁ。あれサトーはどこ行った」
「さっきトイレ行ってたぞ」
「ちっ、アスカさんがいりゃな……」

 

おのれ情けない男どもめ。いつもの赤服自慢はどうしたというのか。
しかもあんだけアスカさんの陰口叩いてたくせに、それ以上に厄介なやつが来たらそれか。
そんなだからモブキャラなのだ。人生の。

 

「ちょっとそっちまで行こうか。ここじゃ他の人たちの迷惑になるだろうし」
「や、やだ……誰かぁ……」
「心配しなくても、何も怖いことなんてしねえからさ。どうせ助けに来るやつなんかどこにも」

 

 ムカ。

 

「ここにいるぞ!」
「ちょ、ちょっとあんた何言ってんの!?」

 

これ以上は聞いてられなかった。制止する友人の手を外して前に出る。
モメたくはなかったが仕方ない。
あの子とは面識なんて無いけれど、可哀想だし助けないわけにはいかないし。
それに何より、ここでこの子を見捨てるような人間がアスカさんに好かれる筈が無いと思うのだ。

 

「なんだよ胸のでっかいお嬢ちゃん。俺たちと一緒に行きたいってんなら大歓迎だけどよ」
「その手を放してあげてください。さもないと」
「さもないと何だい? 君が俺たちを懲らしめてくれるって?」

 

いやらしい目をしながらこっちに狙いを定めた男たち。思わず眉を顰めた自分を誰も責めたりはしまい。
こんな男たちに話しかけるなんて、下水に手を突っ込むような気分だし。
だが、それにしても。

 

「そう、言おうとしてたんですけどね……」
「今更怖気づいても遅いよ。お前も一緒に…何溜息吐いてるんだ」
「怖気づくわけないでしょ貴方たちみたいな人に。それより気付いてないんですか? 後ろ」
「あん?」

 

それにしても、この人たちは本当に戦闘のプロなのだろうか。
彼女の存在に気付いていないなんて。

 

「こんなところで、何を騒いでいるんですか?」
「うおっ!?」

 

スターンという靴音が響いたと思いきや、男たちの後ろに1人の女性が現れた。
存在に気付かぬまま背後を取られた男たちは思わず硬直する。
女性はその隙を見逃さず、少女を掴んだ男を軽く突き飛ばし救出。自分の背後へと隠した。
そのかっこよさは未だに入ろっかやめよっか考え中の男どもとは段違いだ。

 

「看護婦さん!!」

 

少女の安堵の声にその場の注意が全て彼女に向けられる。
そんな空気の重さを気にした様子も無く、看護婦さんは黙って男たちに冷たい視線を向けた。
大した胆力だ。ボルテールの死神の名は伊達ではない。

 

「ここは私に任せて下がってなさい。誰かこの子を」
「あっちに私の友人たちがいます。みんな、お願い」
「わかってるわ。そこのあなた、こっちよ!」
「はい……!」

 

少女は呼びかける声の許へと駆け出し、その胸に飛び込んだ。
背中を抱き締める腕。頭を撫でる掌。自分の友人たちが総出でフォローに入る。

 

「怖かった? もう大丈夫だからね」
「ふ、ふええ……」
「ああ、よしよし。泣かないの」

 

あっちはあれで大丈夫だろう、そう判断して向き直る。
その場に残るは下品な男たちと2人の女性。
怒りを隠そうともしない目と冷たい視線が交錯し、火花が散った。

 

「またあなたたちですか。ザフト軍人の風上にも置けない」
「お前、この前の女か……」

 

看護婦さんの顔を見て、幾人かの男たちの表情が歪む。
以前この中の数人は彼女にセクハラを致そうと近づいたところ、
強烈なアッパーを決められて失神したことがあったのだ。
本人曰く
「待ち人は挨拶に来ないまま去って行き、こんな最低な男たちが寄って来たのがムカついた」
との事。
だが今回の男たちは人数もいる。強気な姿勢は崩さなかった。

 

「おい女、あんまり調子に乗るなよ。この間のは思い切り不意打ちだった。
 今回は女だからって容赦はしないぞ」
「か弱い女の子を怯えさせておいてその言動、しかも反省の色は無い。
 ならば相応の対応をさせてもらいましょうか。
 一つ言っておきますけど、この間のアッパーはボディブローを狙うファイター対策の奥の手……
『彼』 に捧げる技。
 私の本来のサンデーパンチはこっち。――――切り刻んであげる」

 

ヒュンヒュンと鎌の様に曲げた左手を振る看護婦さん。
なんか顔が変わったように見えるのは気のせいだろうか。眉毛太くなったし。
どうやら彼女は左で切り刻んだ後、打ち下ろしの右で決めるスタイルらしい。
ステップを踏む彼女の姿に男たちが後ずさりしたそのとき

 

「その辺にしとけよ、おっさん共」

 

脇から制止の声が上がった。発したのは髪を後ろに流した金髪の少年。
鋭い眼をしながら男性陣と女性陣の間に割って入る。そして先頭にいたリーダー格の男に近づいた。

 

「さっきから聞いてると随分上から目線で物言ってっけどさ。あんたらが一体どれほどのもんなんだよ」
「お、おいサトー、無茶すんなって」
「もう遅えよ赤服のぼっちゃん。……ガキ、言いたいことがあるなら続けてみろ」

 

なんだコラ。やんのかコラ。ピキピキとかいう音を立てながらメンチ切り合う2人。
周囲も女2人よりは赤服パイロットの方が強いと判断したのだろう、注目がそちらの方に行った。
それならそれで構わない。別に喧嘩したいわけじゃないし、女の子も助けたし。
ただあの金髪に喧嘩や格好つけのダシにされたような気がするのは良い気分がしないだけで。
アスカさんを馬鹿にするのはあいつも一緒だし、私にとってはどっちも似たような

 

「土足でドカドカ人の家に踏み込むような真似すんなってことだよ。
 ……それに、羽の生えたMSに乗れて羨ましい、だっけ?
 あんたらその羽を持った奴らが何を背負ってどんだけの力で飛んでるか、考えた事あんのか?」

 

……なにか心境の変化でもあったのだろうか。
いつの間にやらデレ期に突入してるではないか。まあ本人いないから意味無いけれども。
意外な言葉にどよめく周囲とは裏腹に、補充パイロットたちは見下した目で金髪を見る。

 

「なんだ、シン=アスカの弟分か。残念だが大好きなお兄さんは今ミネルバだ。
 此処に助けに来てはくれねえよ?」
「ふざけんな、誰があんなのの弟分だ。あの野郎は今でも大嫌いだよ俺は。
 いつもスカしてるしポッと出のくせにデスティニーなんて貰うし
 ボルテール内でいつも女侍らせてやがったし」
「ほう?」 

 

ちょっと最後の話を聞かせて貰おうか。そう間に入ろうと思わないでもなかったが、空気を読んで我慢する。
それにどうせ侍らしてた女とは自分のことだろう。ずっと一緒にいたんだし。
そう思いながらなんとなく友人たちに目を向けると、彼女たちのほとんどがサッと目を逸らした。

 

「何、だと……?」

 

予期せぬ反応にに思わず動揺の声が出る。自分と目が合ってるのは年齢不詳の友人だけだった。
ということはこいつら、私のアタックの陰でアスカさんにアプローチ試みてやがったのか……ッッ!!
ちなみにさっきまで泣いてた女の子も逸らしてた。

 

「う、裏切りものぉぉっっっ!!!」

 

情けない。信じられない。これでは自分はとんだピエロではないか。
何故友人の裏切りを見抜けなかったのか。
かつて

 

「もう、皆はあんなに私の恋を応援してくれてるって言うのに。からかってると思ってた昔の私のバカバカ」

 

とか考えてた自分。
今では混じりっ気無しの真っ直ぐな気持ちで 「この馬鹿」 と言いたい。

 

「いや〜ゴメンゴメン。でもそばにいたら話しかけたりするでしょフツー。その延長線上でさ」
「そ〜そ〜、どーせダメもとだったし」
「グスッ、あ、でもわたしジュース驕って貰えました。ツーショット写真もお願いしたら、別にいいよって」
「肥大した胸に胡坐を掻いていたのが貴方の敗因です」
「わ、わたしまだ負けてません!!」
「……チッ」

 

何をさりげなく人を脱落者にしようとしているのかこの看護婦さんは。
ああでもなんかこの場から帰りたくなってきたなぁ。さっきまでの正義の心が折れちゃったよ本当に。
喧嘩の方に視線を向けると金髪はまだ喋ってた。話が長すぎ。

 

「……けどな」

 

ようやくアスカさんへの悪口が終わる。
息がかかるほどに顔を近付け睨み合う両者。お互いのボルテージはMAXのようだ。
そしてついに金髪は先ほどからの見下す視線のお返しとばかりに、
心底相手を馬鹿にした表情をして言った。

 

「お前らみたいな腐った連中に貶されるほどじゃねえんだよ」

 

その声が戦闘開始の合図だった。男の1人が声を荒げ、少年に向かって殴りかかる。
金髪は前に踏み込み、男の鼻先にカウンターの頭突きを入れた。
鮮血が舞い、周囲から悲鳴が上がる。視界の端に何人かの女性が目を背けるのが見えた。
粗暴な言葉遣いに違わずケンカ慣れしているのだろう。
金髪の少年は上手く間合いを取りつつ補充パイロットたちを殴り飛ばしていく。
しかしやはり多勢に無勢、段々と劣勢になっていった。
目や頬を腫れ上がらせながらもまだ反撃しているが、ついに背後から羽交い絞めにされる。
勝負ありだ。これ以上はリンチになるだろう。
いかに嫌いな相手とはいえ、それは見ていて気分の良いものじゃない。

 

「偉そうな口を利いといて、戦いになったら多勢を頼む。骨身の髄まで最低な男たちね」

 

自分と同じ感想を抱いたのか、隣でしばらく戦いを眺めていた看護婦さんがぼそりと呟く。
そして輪の中に近づいて行くと、一番後ろで哂いながら囃し立てていた男の肩をとんとんと叩き、

 

「寝てなさい」

 

振り返った男の顔面に鞭の様にしなるフリッカージャブを連続で叩き込んだ。
声も無く倒れ伏すモブパイロットA。

 

「お、おい! 何しやがるこのアマ、調子に乗るのも大概に……!!」
「んだコラァ! 俺はまだ終わってねえぞジジイどもがぁ!!」
「ちっ、しぶといガキだ……」

 

もう女性陣との争いは終了済みだと思っていたのだろう。
意識外からの増援に不意を突かれたため拘束がおろそかになり、男たちは相手の脱出を許してしまった。
そして無双が再び始まる。
看護婦さんが放つ打ち下ろしの右に何人もの仲間が倒れ、完全にキレた金髪が所狭しと暴れまわった。
予期せぬ劣勢に焦る補充パイロットたち。その中の1人が、机の上にある花瓶を掴んで
戦っている2人の背後へと近付いて行く。
おそらくは自分以外誰も気付いていないだろう。

 

「……いいかげんにしてよね」

 

いくらなんでもそれは喧嘩の範疇を超えている。放っておくことはできない。
それにぶっちゃけ今の自分はすごく機嫌悪いことだし。
だから花瓶を持つ手首を握り、男に声をかけた。

 

「ちょっと」
「なんだよ小娘が、ちょっとあっちにいってろひぎゃっ、ごふぅ!!

 

手首を極め、四方投げで投げ飛ばす。そして起き上がった顔に直突き。
父親直伝のコンビネーション。まともに喰らった男は白目を剥いて倒れた。
そのまま起き上がってくる様子は無い。当たり前だ。
かつてトレーニング中、友人とのスパーリングを見たあの人に
「キッチンで戦えば俺でもキツいかも」
と言われたのは伊達ではないのだ。
それにしても護身術と称して父から叩き込まれたが、
役に立ったのは初めてだなぁと思いつつ目の前の屍を跨ぐ。
そして驚いた顔をしている男たちに向けて一言だけ告げた。両手を顔の前で妖しく踊らせながら。

 
 

「私もまぜろ」

 
 
 
 

その後のことはあまり思い出したくない。それが金髪の少年、サトーの正直な感想だった。

 

もともと仲の悪いこともあり、殴り合いの喧嘩にまで発展した自分と補充パイロットたち。
しかし仲間が手助けに来ない自分と向こうの戦力差は歴然で、
数の力で拘束されたりして深いダメージを負わされてしまった。
そんな多勢に無勢な自分を助けに? 来たのはオペレーターの女の子と看護婦さん。
2人は喧嘩を始めた原因の自分を無視して

 

「しないな」
「ああ、しない」

 

「「負ける気がしない」」

 

とか言いながら後にボルテール無双と呼ばれるほどの殲滅戦を開始。
その身体に傷一つ付けずに全ての敵を床に沈めた。
自分がしていたのは 「流石ですね!」 とか囃し立ててただけである。

 

いくら間柴とセガールが降臨したとはいえ、自分が苦戦していた相手に完勝。
しかも彼女たちの役職はオペレーターと看護である。
赤服として、パイロットとして、そして男としてのプライドが全てへし折られた自分は軽く鬱になってしまい

 

そして今では1人、懲罰房の中で体育座りで落ち込んでいるところである。

 

「馬鹿だねお前、だから止めとけって言ったのに。
 女の子たちはともかく、副長の話じゃ野郎共は3日間懲罰房入りだってよ」
「うるせー。つかお前らも参戦してくれても良かったじゃないか」
「やだよ、あんな厄介な連中に目をつけられた挙句こんなとこに閉じ込められるなんてさ」

 

覗きに来た友人たちの声が部屋に響く。
おのれ事なかれ主義の犬どもめ。お前らみたいに文句を言わない人間が増えているから、
世の中には空気読まずに何やってもいいみたいな人間が増えているのではないか。
トラストミーとかゴンさんとか八百長後のジャイアンリサイタルとか……あとエンドレスエイトとか。
なに、あれは長門に共感する為の斬新な演出だった? 馬鹿が、
アレで斬新ならM-1で5分間黙って突っ立ってるのも斬新になるわ阿呆。

 

「それにしてもどうしたんだよあの物言い。お前あの人嫌いじゃなかったのか?」

 

からかうような目で此方を見てくる友人たち。なんだよお前ら、何期待してんだ。
そんな目でこっち見たって期待してるようなもんは出てこねーよ。

 

「アホか。あの場でも言ったけど、今でも嫌いだよ普通に。ただあいつらがそれ以上に嫌いなだけで」
「やっぱそういう理由か。でもなんでお前、そんなにアスカさんが嫌いなんだよ。
 そりゃ俺たちだって最初は良い気分しなかったけど、もう認めるしかないだろあの人のことは。
 敵意さえ持たなけりゃ人当たりは良いし、強さだってキラを追っ払ったくらいだしさ」
「馬鹿だな、前に言っただろ? こいつが好きな女があの人にベタ惚れしてんだから嫌うのも仕方ねえよ」
「そこあんま触れんな」

 

それでは俺が妬み全開のダメ男みたいではないか。いやそれも理由の一つだけどさ。
けどそれ以外にちゃんとした理由が……理由……
なんだっけ?

 

「うーん……」

 

なんであの男が嫌いか、か。ちょっと真剣に考えてみる。
女にフラれたとかそんな表面的なものじゃなくて、もっと根本的な理由があった筈なんだが。

 

確かに友人の言う通り、その実力は認める以外に無い。というかスコアで完敗したときに認めてる。
人となりもつっかかる自分に対してそこまで嫌な言葉は吐かなかったし、戦場じゃ命だって助けて貰った。
あの撤退戦の時の話を聞いても、あの男なりの背負う物があるというのは感じ取れた。
悪いやつではないんだろうとは思う。尊敬できる、いやすべきところもある筈だ。
だから、ひっかかる所があるとすれば。

 

「……確かに半分以上は嫉妬かなぁ。
 あの力が俺にありゃ、プラントの敵を全部倒してやるのにって感じで。
 何しろ才能ってやつは、求めた者に宿るとは限らねーしさ」

 

まあ結論を言うとそんなところである。
なんでFAITHまで行って辞めたのか。
なんでプラントを守ろうとしないのか。
なんで民間人なんかやってるのか。

 

そして、何故力があるのが自分ではなくヤツなのか。

 

戦争が終わってもナチュラルどもは未だにプラントへの干渉を諦めていない。
政治的・軍事的圧力なんて日常茶飯事だ。
このままではいつバレンタインの悲劇が繰り返されるかわからない。
だから自分は軍に入った。だから自分は力を求めた。
地球の連中の横暴さに我慢できなかったというのもあるし、
プラントを守りたいという気持ちもあったからだ。
力を手に入れて、襲い掛かる者全てを薙ぎ払いたかった。

 

そうだ、あの男はそんな俺が欲しがっているものを全て持っているくせに、
あっさりと手放したのが気に入らないのだ。
もし全てを背負ったまま軍職を全うしていれば、俺もその後ろを目指したかもしれないというのに―――

 

ってちょっと待て。そこまで考えて気が付いた。気が付いてしまった。

 

本当は俺は、あの人を認めたかったのかもしれない。尊敬に値する人であって欲しかったのかもしれない。
だってそうだろう。キラ=ヤマトとラクス=クライン。アスラン=ザラにイザーク=ジュール。
この世界において現在進行形で英雄と呼ばれている連中は、皆ザフトやプラントに銃を向けた者ばかりだ。
そんな中、シン=アスカだけが最後までプラントを背に戦った。
クラインとの戦いには敗れたものの、FAITHに任命され運命の力を手にし、
レクイエムの危機からプラントを救った。
つまり、かつてのあの人の姿が己の理想に1番近いわけで。
自分は目に焼き付けたかった姿が期待していたものと違ったから、失望しただけなのではなかろうか。

 
 

「戦いの才能に嫉妬って言うんなら、キラ=ヤマトはどうなんだよ?」
「……え?」
「おいおい、会話中にぼんやりすんなよ。喋ってたのお前だぜ?」

 

脇からの声に思考を遮られ、現実に戻る。
隣には呆れたような視線の友人。その声にそれまで考えていたことを無理矢理切り捨てた。
突き詰めても気分良くはならなさそうな内容だったし。

 

「ああ、悪い。……キラ=ヤマトだっけ?
 確かにあれも別格だな。でも俺、あの男には嫉妬できねえよ」
「なんでさ?」
「正直ああはなりたくない」

 

キラ=ヤマトの戦いを映像で見たとき、感じたのは恐怖だった。
それはキラ自身の実力に怯えてというわけではない。
踏み込んだら間違いなく死んでしまう領域に平気で飛び込んでいくその危うい在り方と、
そんな場所に踏み込みながらも死神の方が彼を恐れて避けているのではないかというほどの絶対感。
そして画面越しからでも感じた、人間とは段違いな濃密な捕食者の匂いにである。

 

女神と謳われた伴侶を失くし、それまで得ていたものを全て血に染めて。
そこまでして初めて、あの桁違いの領域にまで辿り着けるのだろう。
いろんなものを抱えたままの自分では到底追いつけやしない。
人間やめたくないから追いつこうとも思わない。

 

「1人きりでしか登れない。あいつ見ててそういう高みもあるってわかった。
 ……今のキラ=ヤマトは全てを切り捨てて、もう人じゃなくなっちまったんだ。
 あいつにゃ嫉妬や憧憬の感情すら起こらない」
「だから力に対するやりきれない感情がキラ=ヤマトではなくシン=アスカに向かうというわけか」
「まあ、かっこ悪い話だけどそうなる……って艦長!? いつの間に」

 

いつの間にか入り口の傍に艦長が立っていた。おそらく自分たちの会話を聞いていたのだろう。
思わず敬礼をしようとする友人たちを手で制し、格子の前まで近づいてくる。
そして一瞬だけ小さく溜息を吐いた後、口を開いた。サングラスのせいで表情が読めない。

 

「もう聞いたかもしれんが、しばらくここで頭を冷やしていろ。明日には出してやる」
「明日ですか? さっきそいつらから3日間って聞いたんですけど」
「それでは作業に滞りが出る。そう長いこと閉じ込めているわけにもいかん。
 反省文で勘弁してやるから、此処から出たら機体の調整を済ませておけ」

 

機体の調整とな。それはある程度済ませてるし整備班からその報告も上に行ってる筈だ。
なのに今になってそういう事を言うということは。

 

「もしかして、キラに何か動きがあったんですか?」
「半分正解だ。最近の連合に不穏な動きが見える。ならばキラが動くのも時間の問題だろう。
 そうなれば我々も、そして彼らも動かなければならない」

 

つまりミネルバに合流する必要があるってことか。
またキラ=ヤマトと戦うことに正直恐怖心はあるが、だから嫌ですとは流石に言えない。
もう世間の注目はボルテールからミネルバに移っているとはいえ、
先日の戦いにおいて早めに撤退したおかげで最低限の戦力は確保しているし。
元々は自分たちが討伐隊だったわけだし。

 

「ミネルバ、か。行くんなら最低でも借りくらい返さねーとな」

 

それに、あの男にも再び会えるかもしれない。
最後に自分に格好つけて去って行ったあの男に。

 

「そういえば前の戦い、君は彼に助けて貰っていたな」
「そうっすよ。あんにゃろ、まるで……」
「ん? まるで、何だ?」
「いや、なんでもないです」

 

意図せぬ言葉が零れ落ちるのに気付き、思わず口を閉じる。
そして艦長の疑問の声をごまかし、サトーは壁に背を預けた。溜息を一つ吐く。
その表情は自分の感情を認めたがらない、ひねくれた子供のそれ。

 
 

言えるか。 「ヒーローみたいだった」 なんてダサい台詞なんざ。

 
 
 

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