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SEED-IF_CROSS POINT_第34話

Last-modified: 2013-04-19 (金) 22:31:04
 

睨み合った紅と蒼の機体。
場所や機体に違いはあるものの、それはいつかと同じ構図だった。

 

少しの間目の前の相手に合わせて動かなかったキラだったが、微動だにしないアスランに思わず眉を顰める。
機体の性能差は圧倒的だ。そしてそんな格上の相手に守勢に廻ったところで敗北は目に見えている。
それなのにセイバーは動く素振りを見せない。その事実が意味することはただ一つ。
シンの目覚めを待っている。

 

「俺がさせない、か。―――情けないもんだね。
 あのアスラン=ザラが、策も無く時間稼ぎしかできないなんて」
『………』
「言葉も無しか。まあいいよ。もう君は僕の敵じゃない」

 

キラが挑発めいた言葉を吐いた瞬間、セイバーがフリーダムに向かって飛び込む。
そのまま居合いの様にサーベルを一閃。
後ろに跳んで避けるキラ。アスランは構わず距離を詰めてきた。
もしかしたら未だに接近戦に活路を見出しているのというのだろうか。だとしたら論外だ。
フリーダムの機動力はCE最高。サーベルも両手に持っている。
遠距離攻撃のフルバーストに目が行きがちだが、
接近戦でもフリーダムを越える機体なんて存在しないのだから。
そもそも彼が自分に勝てないのはそんな問題じゃない。もっと根本的な問題だ。
攻撃は確かに鋭いが、この程度は予測の範疇。簡単にカウンターが取れる。
こんなふうに。

 

「はぁぁぁっ!!!」

 

攻撃してきた腕にサーベルを振り下ろす。先程までならいざ知らず、今のキラには迷いが無いのだ。
いつもの様に、持っていたサーベルごとセイバーの右手が切り落とされた。
見飽きた光景に当たり前の結果。溜息を吐いてアスランを見下ろすキラ。

 

だが、

 

『キィラァァァ!!!』
「ぐぅっ!?………クッ」

 

拳を失った手首で殴りつけられた。
吹き飛ばされるフリーダム。衝撃だけで、機体のダメージなどほとんど無い。
だが効いた。これまでのどんな攻撃よりも。
鉄拳制裁。そういえば、アスランに殴られたのはこれが初めてだ。

 

『一度勝利した。MSの性能が下がった。
 ……まさか、たったそれだけで俺の力を軽く見たわけじゃないよな?
 忘れたというなら思い出させてやろうか。
 かつてストライクを落とし、お前が負けたシンに勝ったのは誰だった?』
「アスラン……味な真似を……ッ!!」
『今の俺を甘く見るなよ………構えろキラ。
 お待ちかねの、本気になったアスラン=ザラだ。足腰立たなくなるまでぶん殴ってやる』

 

背筋が凍るような重圧。どうやら自分は寝ていた猛獣を起こした。

 

「何を今さら……そこをどくんだ、アスラン!!」
『させないと言ったぞ、キラ!!』

 

だがもう遅い。今の自分には生きる理由がある。勝たねばならない理由がある。
だからこんな所で負けられないのだ。あの子が待っているんだから。
自分を救ってくれる、あの子の笑顔が待っているんだから。

 
 
 
 

第34話 『メサイア』

 
 
 
 

気が付けば、一面の花畑の中に立っていた。
シンは現在の状況を上手く認識できないまま、ぼんやりと目の前の光景に見入る。

 

フリーダムに敗れたとは感じていたが、もしかしたら自分はそのまま死んでしまったのだろうか。
そしてここは死後の世界か。
もしそうだとしたら随分ベタだなと思う。ついでに三途の川でもあれば良かったのだが。
そんなどうでもいいことを考えながら辺りを見回す。地平線なんて初めて見た。
周囲には色とりどりの花の他には何もなく、風すら吹かない。

 

ただ、暖かい空気だけがそこにあった。

 

「お、1名様ごあんな〜い……ってか?」

 

背後からの声に思わず振り返る。
そこにいたのは岩に腰を落としてギターの弾き語りをしている青年。
シンの視線に気付き、演奏を止めて軽く手を振る。
オレンジの髪にザフトの赤服。その服装や気さくな態度、どこかで見た気が―――

 

「よう、ひさしぶりだな。元気そうで何よりだ。つっても俺たちはずっと見てたんだけど」

 

アンタは確か、ヴェステンフルス隊長……?

 

「ハ・イ・ネ。……俺のことは呼び捨てにしろって言わなかったか?
 でもまぁ正解だ。ミネルバには少ししかいなかったのによく覚えてたな。
 俺なんかの事を覚えてくれてるなんて、実はいいやつなんじゃないかお前」

 

軍に居たらグフをよく見たからな。だから覚えてたのかもしれない。
アンタ以上のグフ使いは見たこと無かったし。
FAITHになるほどだったんだから、当たり前のことなのかもしれないけど。

 

「そうか、素直に喜んどくぜ。まあ死んじまっちゃあ意味無いけどな」

 

微妙に返答に困る言葉を吐きながら、ハイネは笑う。
その笑顔に思わずシンも苦笑を返した。人誑しな性格は相変わらずか。

 

「……んで、何か聞きたそうな顔をしてるな。まあ言わなくてもわかるけど」

 

言わなくてもわかるんなら説明が欲しいというのは贅沢なのだろうか。
そういう視線を向けてもハイネはどこ吹く風といった感じで目を逸らした。
どうやら教えては貰えないらしい。本当はわかってないだけかもしれないが。
この場所の居心地は悪くないけれど、それよりも先に確認しなければいけないことがある。

 

ここは、どこだ。

 

「あくまで予想に過ぎないが」

 

声と共に近づいてくる3つの人影。
向かって右の人物は自分を叱り、見守り、そして心配してくれていた女性。
左にいるのは自分が夢を託そうとした人物。そして

 

「お前の心の中じゃないのか?」

 

その中央にいるのは金髪の青年。相変わらずの無表情で此方を見つめている。
しかしなんでここが俺の心の中だと思うんだろうか。
そんな自分の疑問に、親友は僅か微笑みながら答えた。

 

「暖かくて優しい世界……ここはその言葉が相応しいからな」

 

そっか。……そういや言うのが遅れたけど。
久しぶりだな、レイ。

 

「ああ、そうだな。……本当に、久しぶりだ」

 
 
 

それからしばらく5人で話をした。
思い出話。ハイネによる新曲の弾き語りとその感想。艦長と議長の関係について。
そして、自分たちの今の現状について。

 

「『あの娘を抱き締めてやるんだ』 って言ってたわね。あの子」
「今更って言うか、なんでこのタイミングで気付いちまうんだって言うか。
 救いが無さ過ぎるね、まったく」
「おそらくは彼もその事に気付いているのだろう。そしてもう後には退けないことも。
 あの叫び、私には泣き声にしか聞こえなかった」

 

3人の言葉に頷く。いくらシンでもあそこまで言われれば流石に理解した。
あいつは、キラはもう呪縛から解き放たれている。
だからどうだということもないのだが、始めの一歩を踏み出した理由がなくなって拍子抜けしたのも事実だ。
そして、良かったなと心のどこかで安堵している自分もいた。

 

このまま負けても良いのかもしれない。このまま死んで、この場に留まっても。
なんだか思考がそんな弱気な方向に進んでいくのだが、押し留めようとする何かがある。
何か未練でも残っているのだろうか。自分の思考を纏めきれない。

 

「お前は、これからどうするつもりだ?」

 

どうするもなにも。
現実に戻ったところですることは変わらない。キラと戦い、そして倒す……いや、殺すだけだ。
今更レイもそんなことを聞いてないと思う。聞いてきたのはおそらく、かつての自分の愚痴の答え。
呪縛から解き放たれた友人。彼の目指す明日を踏み潰して、その後自身はどんな明日へ向かっていくのか。
確かに、せめてそれぐらいの行き先は定めないとこの戦いに何の救いも見出せない。

 

自分のこれからに腹を括るほどのものがあるわけじゃない。だから答えなんて出せやしない。
いつも自分は間違ってばかりだった。盲目的に信じるばかりだった。周囲に流されるばかりだった。
蜘蛛の巣が張った己の脳味噌で必死に考えたところで、きっとまた今回も間違えるのだろう。

 

でも、だからこそ気付いていた。正解不正解は関係ない。
今から出す答えだけは、結果はどうあれ絶対に悔いのあるものにしてはならないと。

 

「誰となら戦いたい? 誰の為に生きたい? 細かいことなんて考えなくて良いからさ」
「向かう道は貴方自身が決めなさい。私たちのようになってはダメよ」
「迷ってしまうのは解る。行くべき道を不安に思ってしまうのも………だがね、シン。
 君がしたい事。君が望むもの。それは、君自身が1番よく知っている筈だ」

 
 

俺がしたい事。俺が望むもの。
それは何だっただろうか。俺は今まで何の為に生きてきた?
贖罪の為に生きていた。そう、確かその筈だった。
だけど苦しくはなかった。笑う事も多かったと思う。

 

そんな風に生きていられたのは、どうしてだったか。

 

「耳を澄ましてみな。聞こえる筈だぜ?」

 
 

――――おきなさいよ、しん。

 

――――めをさませ、このばか。

 
 

ハイネの言葉に従って目を閉じ耳を澄ますと、どこかで自分を呼ぶ声が聞こえた。
呆れるような優しい声と甲高い叫び声。だがそれは決して不快ではなく。
脳裏をよぎる、強い眼差しと震える肩。

 
 

思い出した。

 

ベルリン。
復興作業。
医学書。
ミネルバ。
仲間たち。

 

そして、2人の少女の存在を。

 
 

「俺は……」

 

口から出た声に、自分で驚く。
そういえば自分はさっきから喋ってなかった。

 

「レイ。俺は」
「答えは出たようだな。早く戻ってやれ、彼女たちはお前の大事な仲間だろう?」
「………いや、ちょっと違う」

 

今ならわかる。気付くのが遅すぎたかもしれないけど。
今なら言える。答えをどうするかなんて決めてはいないけれど。
ルナマリア=ホーク。コニール=アルメタ。彼女たちは俺の―――

 
 

「俺の、たからものだよ」

 
 

驚いたように目を開き、そして笑いだす親友。
そういえばコイツの笑顔は、いつも無愛想なぶん余計に優しく見えてたっけ。
気が付けば他の3人も笑っていた。

 

「フッ、わかっているなら早く行け」
「ああ。またな」

 

背を向けて歩き出す。4人の気配が消えたのを感じても、振り返ることはしなかった。
彼らが自分を救ってくれるからといって、いつまでも世話をかけるわけにはいかないからだ。
どうせいつかはまた会える。
精々その時に目一杯、お礼や、愚痴や、土産話でもしてやるさ。

 

だから―――

 
 

足を止める。目の前には金髪の少女。
おそらく一生自分の心の中に存在し続けるであろう存在を、シンは正面から見つめた。

 

いつの間にか周囲の花畑は消え去り、彼女と別れた雪の降る湖に場所を変えている。
先ほどまでとは違い、暖かくもなく優しくもない場所。
見ていて少し悲しくなってきた。
彼女には、いつまでもこんな場所にはいてほしくなかったから。

 

「ステラ。君はずっと、ここにいたのか」

 

彼女は何も答えない。口を開くことも、頷くこともなかった。
だが別に構わない。伝えたい言葉があったから。

 

「ごめんなステラ。もしかしたら俺は、君をベルリンで生きる言い訳に使ってたのかもしれない」
「………」

 

まず口から出たのは謝罪の言葉。ベルリンで暮らしていたのは間違いなく自分の意思である。
しかしそれは純粋なものではなかった。
ステラの償いのためと考えてはいたが、それは裏返せば自分の過ちから目を逸らしていたことにも繋がる。
結果的には自分も加害者の1人なのだ。
ステラが悪いことをした、だから代わりに自分が謝るなんて他人事じみた態度はもうできない。
自分の意思であの場所と向き合わなければ。

 

「いや、かもしれないじゃないな。多分今も心の何処かで言い訳に使ってるんだろう。
 でも俺、あの場所が好きなんだ。それにあそこには大事な人達もいる。
 だから……だからさ。だから俺、これからもベルリンで生きていくよ。
 償いとかそんな想いじゃない。
 ただ自分の為に。自分の望むものの為に」

 

―――――自分の大事な人達の為に。他の誰でもない、自分自身がそう強く願ったから。

 

それは区切りの言葉だった。彼女への想いとこれまでの自分に対しての。
それを聞いても彼女は何も答えない。表情も変わらない。
ただ、じっと自分に顔を向けたまま。

 

瞳をみつめて想いを吐き出す。
最後に、ずっと言いたかった言葉を彼女に告げる。

 

「ありがとう。ありきたりな言葉だけど、君に出会えて良かった」

 

全部吐き出した。これでおしまい。
けれど、やはり彼女は何も答えなかった。
もしかしたら此処にいる彼女は、懺悔の対象として自分が作り上げたものかもしれない。

 

だがそれでも構わない。

 

理由を彼女に押し付けずに。自分の意思で、自分の道を貫き通して。
いつか、ここでもないどこかで、きっと彼女にたどり着く。
その時が来るまで生きる。そう決めた。

 

そう、決めたんだ。

不意に地面が割れ、シンの足元が暗くなった。できたクレバスに身体が沈んでいく。
いや落ちていくというよりは、身体が闇に包まれていくような感覚だ。
驚きは無い。夢は終わり。
きっと今から、現実に戻るのだろう。

 

気が付けば、彼女が落ちていく自分を見下ろしていた。
再び絡み合う視線。
もう2度と忘れることが無いようその顔を記憶に焼き付けていると、彼女の口が開いた。
吐き出されたのは僅かに一言。

 
 

――――また、あしたね。シン

 
 

泣きそうになった。絶対夢だこれ。自分にこんなに救いがあっていい筈が無い。
だがはっきりと聞こえた。忘れてしまいそうだった彼女の声が。
しかも自分に笑顔まで向けてくれている。
夢じゃなきゃつまらない自己満足の具現化とかそんなもんだろう。
だがそれが幻だろうとなんだろうと、
シン=アスカがステラ=ルーシェの声に答えないなんて事はありえない。

 

「ああ」

 

だから思いきり笑ってみせてやった。彼女に初めて見せる、心からの笑顔で。
そして言った。その日が来ることを、心から願って。

 
 

「また、明日な」

 
 

生きている限り明日はやってくる。
だからそれまでは精一杯生きようと、再びシンは誓った。

 

いつか。彼女と自分の明日が交差するまで。

 
 
 
 
 

「だああああああッッ!!!」
『おおおおおおおッッ!!!』

 

両手に握ったサーベルで猛攻を仕掛けるフリーダム。
しかしその猛攻をセイバーは1本のサーベルで器用に捌く。
予想外のアスランの粘り。その光景を目の当たりにしたキラは思わず舌打ちをする。
これも受けるのか。一体彼はどこまで粘るというのか。

 

フリーダムと比べてセイバーの射撃兵装は貧弱だ。
本来ならば遠距離から多角的な攻撃を仕掛ける安全策で良いだろう。
しかし今のアスランの狙いは時間稼ぎである。形にこだわらず、シンが復活するまでしのげばいい。
遠距離からの射撃では防御や回避に専念されてしまうため、結果的に向こうの計算通りになってしまう。
だから選択肢は接近戦しかなかった。片腕というアドバンテージもあるので否定する理由も無い。
しいて言うならそんな状況でもアスランがここまで粘るとは思えなかっただけで。

 

普通のやり方じゃだめだ。
そう判断して残されたドラグーンを射出し、その全ての行き先をセイバーへと向ける。
そして搭載されたビーム砲は使わずにただ速さだけを高め、ミサイルの様に突っ込ませた。
自分の近接攻撃が終わった瞬間に4方向からの突撃。いくらアスランでも片腕では捌ききれない。
ドラグーンがフェイズシフト装甲と衝突し爆発した瞬間、両手のサーベルをライフルに持ち替える。
バランスを崩し無防備なセイバーを6つの砲門が捉えた。

 

「当たれぇぇぇぇ!!!」
『ちっ、ぐああああっっ!!!』

 

爆発を起こし吹き飛んでいくセイバー。戦いを終えてキラはゆっくりと息を吐く。
残ったドラグーン4基を特攻させてからのフルバースト。
持てる力の全てを使い、ようやくアスランに勝つことができた。
セイバーの破壊箇所は右腕・右肩・左足、そして右側のアムフォルタス。もう碌な力も残ってはいまい。
だがもしアスランが乗っていたのがセイバーではなくインフィニットジャスティスなら。
もしかしたら自分は負けていたかもしれない。

 

手強かった。あれが本気のアスラン=ザラか。
だが勝ったのは自分だ。戦場に「たら」「れば」は必要ない。
順番は変わったが結果的に条件は全てクリアした。
後はシンを戦闘不能にして、レクイエムを派手に破壊すれば全てが終わる。
そう思考を纏めて月面へ降り立ち、今度こそデスティニーに攻撃を仕掛けようとして―――

 

その前に、片腕を失くした紅いザクファントムが立ちはだかった。

 

まだいるのか。正直苛ついてきている。
アスランとの戦いに随分と時間を取られすぎた。早くしなければシンが目覚めてしまう。
そもそも、そんな機体の状況で戦うなんて無謀だ。

 

「どいてくれないかな? 別にシンの命まで取るつもりはないんだ」
『そういうわけにはいかないわよ。通りたかったら、実力で押し通りなさい』

 

わかりきった返答だったが、少し意外でもあった。
勝敗の行方なんて聞くまでも無い。そして自分はシンを殺さないと言った。
彼女の望みはシンとの平和で幸せな生活だった筈だ。ならば今は命を賭ける局面ではない。なのに

 

「……僕と戦うつもりなのかい? 君の実力で? ……やめときなよ、何の為にそんなこと」
『あら、旦那がダメな時は女房が頑張る。これって家族として当たり前のことだと思うけど?』
「それは……確かに、そうだけど……」

 

女房って。それにしてもシンは愛されている。
だからここで戦いを止めて、幸せで平穏な暮らしをすれば良いじゃないか。そう言いたい。
巻き込んだ自分が言う台詞じゃないのは分かっているけど。

 

「もういい。これ以上くだらない時間稼ぎに付き合ってられない。
 悪いけど、今は君に構っている時間は無いんだ」
『………!!』

 

一刻も早くデスティニーに止めを刺す。SEEDを発動させるまでもないが、手加減するつもりもない。
悪いのは、この局面で自分の邪魔をする彼女だ。

 

「―――邪魔するなら、容赦はしない」

 
 
 

『―――邪魔するなら、容赦はしない』

 

キラがそう言い放つと同時に、目の前のフリーダムの纏う空気が変わった。
この心臓を鷲掴みされたような感覚はどうだ。正直逃げたくて堪らない。
だが震える唇を強く噛み締めた後、ルナマリアは不敵に微笑んだ。

 

「上等。このルナマリア=ホーク、ただでやられるとは思わないことね!!」

 

フリーダムは1本だけサーベルを抜き、僅かに月面から機体を浮かせた。いつでも飛びかかれる態勢だ。
ザクは残った右手でビームアックスを構える。ガトリング砲が回転を始めた。
ぶっちゃけ勝算は皆無。それどころか時間稼ぎもままならないだろう。
だが逃げる気は全くない。
自分はシンのパートナー。彼の背中を守る存在なのだ。
命どうこうはともかく、彼を撃とうとしている者を見過ごせるわけがない。
例えそれが自分の命を刈りに来る、世界で最強の戦士だったとしても。

 

「起きなさいよ、シン。今から、私の見せ場が始まるんだから」

 

周囲を気にする必要は無い。フリーダムの一挙手一投足を見逃すな。
持てる力の全てを込めて、大好きなアイツを守れ。

 

『シン!! シン!! ―――目を覚ませ、このバカ!!
 今起きないとルナマリアが……お前の女がやられちゃうじゃないか!! 守るんじゃないのかよ!?』

 

泣きながらデスティニーに話しかけるコニール。しかも自分の別れてない発言をまだ覚えていたらしい。
やっぱりあの娘は良い娘だ。もし生きて帰れたら思い切り抱き締めてやろう。
シンの次だけど。

 

『お別れは済んだ?』

 

映像は無く、音声のみが届く。
味方の時は気にならなかったが、いつもと変わらないその甘い声。
今は、とても怖い。

 

「必要ないわ。それよりあんた、調子に乗りすぎよ!!」

 

返事の代わりにガトリングを放つ。フリーダムはシールドでそれを防ぎながら飛び込んできた。
ビームサーベルの光が視界に入る。ここだ。相打ち狙いで右手の斧を振り下ろし―――
弾け飛ぶビームアックス。相手の姿は無い。消えた? いや後ろだ。
振り返ると目の前にはフリーダム。躊躇も無くサーベルを振り下ろす。
これで終わり。なんてあっけない。さっきまでの決意は一体なんだったのか。
無情にも迫り来るビームの刃。ルナマリアはそれをぼんやりと見つめながら思い出していた。
シンと2人でプラントに住んでいた頃の記憶ではなく、
コニールを加えた3人で暮らしていたベルリンの光景。
予期せぬ光景に思わず笑ってしまった。
コニールめ、最期くらい2人きりにしてくれても良いものを。
まあいいか。どうやら自分はあの子も大好きらしいし、他の女に取られるよりマシだろう。
せいぜい仲良くやればいい――――自分のいない世界で。

 

ルナマリアの目から涙が零れる。
同時に、ザクの脇を黄色い閃光が奔った。

 

「え……?」

 

どこからか飛んできた一発の光弾を、フリーダムが再びビームシールドで受け止める。
だが予期せぬ攻撃だったために姿勢を崩し、フリーダムはザクを撃とうとする動きを止めた。

 
 

『確かに、アンタは調子に乗りすぎだな』
『目を覚ましたんだね……』

 

悲しそうにキラが呟く。ゆっくりと後ろに跳んで、ザクから距離を取るフリーダム。
いや、距離を取ったのはザクからではない。その背後の―――

 

『ちょっと眠っちまったのは悪かったけどさ。他の相手に乗り換えるなんてひどくないかキラ?
 お前の相手は、この俺の筈だろ』

 

聞き覚えのある声に、ルナマリアは思わず背後に振り返る。
同時に紅い光が自分の隣を通り抜け、ザクとフリーダムの間に割って入った。
通信機からコニールの安堵の溜息が聞こえる。
だがルナマリアは、その機体から目が離せなかった。

 

右手に長剣を持ったその機体。深紅の翼を広げている。
長い四肢を持つ流麗なボディ。
血涙を流しているようなGタイプの顔。

 
 

『そろそろフィナーレと行こうか、キラ』
「――――シン!!」

 
 

その機体は、デスティニーと呼ばれていた。

 
 
 

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