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SEED-IF_CROSS POINT_第37話

Last-modified: 2010-11-30 (火) 00:42:52
 
 

戦いが始まって、どれだけの時間が経ったのだろう。

 
 

既に周りの人間達は戦闘を止め、2機の戦いを見つめていた。
先程までの人の領域を超えた戦いは影を潜め、傷ついた2機のMSは月面上で距離を置いて対峙している。
両者共に動きは無い。ただ、お互いの必殺の構えを維持したままで。
デスティニーはアロンダイトを持った右手をだらりと下げ、
フリーダムは全ての砲門をデスティニーに向けている。

 

互いに最後の攻防のきっかけを探しているのだと、見ている誰もが気付いていた。

 
 
 
 

『CROSS POINT』

 
 
 
 

「なあキラ、今なんとなく思ったんだけどさ。
 戦争がなかったら、俺たちどんな出会いしてたのかな」
『……正直、想像もつかないな。僕の家はヘリオポリスにあったから。
 もしかしたら一生、出会わなかったかもしれないよ?』
「そっか」

 

IF。もしもの話。何の意味も無い、すぐに終わるような話。
まるで茶飲み話でもするかのような口調で、シンはキラに向かって話しかけた。
こんな他愛の無い時間を大事なものだと気付いているくせに、
お互いそれをおくびにも出さずに話し続けている。
この場にいるのは2人だけ。ただ、殺し合いの決着をつけるために残っているというのに。
それなのに思いつくのはくだらないことばかりで。
今わの際に思うことなんてきっと、こんなもんなんだろう。

 

 ―――――いよいよ大詰めだな

 

まあな。とうとうこの時が来てしまった。……というか、さっき別れたばっかなのにもう来たのか親友。
こんなに早く来られてはかっこつけた俺の立場が無いのだが。

 

 ―――――お前は抜けているからな。少し気になっただけだ。
       それよりも後悔しているのか? こうなったことを

 

どうなんだろう。正直よくわからない。
この戦いの行方も、自分の心も、此処に到った理由すらも。

 

 ―――――心配するな。お前は、1人じゃない

 

確かに感じる。自分の背を支える沢山の存在を。
そこで一つ謎が解けた。自分がキラをも上回るとは到底思えないのに、心のどこかで自分は楽観視していた。
負ける筈はないと。そりゃそうだ。
こんだけ派手なメンツが後ろについていれば、相手が誰だろうと負ける理由がある方がおかしい。

 

「ああ、そうだな。皆が見ていてくれる。それに―――」

 

思い出せたんだ。
あの雪の日からずっといろんな物を背負い込んで、まともに空を見上げることなんかできなかったけど。
思い出せたんだ。
この世界には光が溢れているという事を。
光は今も俺の側で、俺を照らしてくれているという事を。

 

なら、行ける。
迷わずに行ける。
俺の道を、俺が望む道を、俺が信じた道を。

 

俺は、自分で斬り開いて行くことができる―――

 
 
 
 

向かい合う翼の生えた2機のMS。アスランは何も言葉を発さずにその光景を見ていた。
先ほどまでの戦いで感じていた高揚感は既に無い。
目の前にある、一つの物語の結末の前ではそんなものは意味を成さなかった。
その中に自分の席はもう無い。どうやっても止めることはできない。

 

だから見ていた。見ていることしかできなかった。

 

彼を終わらせるのは自分ではない。敗れたあの日から、もう自分のその資格は消失してしまった。
だがそれでも、自分は自分の役目を果たさなければならない。
最後まで見届ける事。終わりを受け入れる事。
それが今戦っている二人の親友に対しての、せめてものけじめだった。

 

「……止まれよ」

 

けれど。

 

「……止まってくれよ」

 

けれど。

 

「止まれって言ってるだろ」

 

そんな簡単な、自分に残された役目を。
メットの中に浮いている、数多の水珠が邪魔をする。

 

「くそっ!!」

 

ヘルメットを外して後ろに放り投げた。それでも溢れる雫の数は増える一方だ。
ちくしょう、止まれよくそったれ。
決着の瞬間は涙で見えませんでしたなんて洒落にもならないじゃないか。

 

視線の先の両者は動かない。彼らがいるその空間だけ、まるで時間が止まったように静かだ。
動き出すきっかけを探しているのは子供でも分かる。
だからそれは自分が作ってやることにした。
外にいる自分にはそれしかできないから、せめて……いや、その思考は欺瞞だ。それは己の本心ではない。
せめてそれぐらいは? 違う。
それでもいい? 違う。
それだけでもいい? 違う。

 

俺は、この役だけは死んでも譲れないんだ。

 

親友2人の最後に立ち会う。そこに介入するのは自分以外には誰にも許したくない。
子供じみた独占欲。しかし腹を決めた以上、自分の動きに迷いは無い。
己の傲慢な性格が今はありがたかった。

 

「……いくぞ、お前ら」

 

操縦桿に手を掛け、届く筈のない言葉を2人に送る。
気が付けば涙はとうに乾いていた。おそらくは、心も共に。

 

「――――」

 

脳が号令を出したその刹那。自分は今、何か言ったらしい。
しかし唇から零れ落ちることは無かった。
だから自分がその言葉が思い出すことは無いだろう。例えこの後の生涯全てをかけたとしても。
この後の喪失が、全てを塗りつぶすだろうから。

 
 

アスランは2人に向けてアムフォルタスを構え――――

 

その引き金を、引いた。

 
 
 
 

ゆらりと月面から足を放し、デスティニーが少しだけ宙に浮く。
そしてアロンダイトを勢い良く振り下ろしながら正眼に構えた。
リミッターでも解除したのか、深紅の翼がその身体よりも大きく広がる。
禍々しく、そして美しい。思わず溜息が漏れるほどに。
これがデスティニーの―――彼の―――本当の姿か。

 

「ああ……」

 

キラは喉から吐き出しそうだった言葉を飲み込み、意識をシンから外す。
キーボードを叩くとフリーダムのサーベルの片刃が消えた。同時に残された反対の刃が太くなる。
そしてモニターで武装を再チェック。大丈夫、ドラグーンは全て失ったが他の武装はまだ生きている。
宙に浮き長剣を構えるデスティニーに視線を戻し、先程こぼれなかった想いを静かに呟いた。

 

「撃ちたくない、なぁ……」

 

この感情を言葉で表すならば、未練と言うしかないだろう。
もうすぐ戦いに決着が付く。そして今の彼の姿を見た瞬間確信した。
殺らなきゃ殺られる、と。おそらくどちらかが死んでしまうだろうと。
無論自分はもう死ぬつもりなんてない。あの娘が待っているのだから。
ならば、これから自分は本当の親友を失うことになる。

 

そう。今のキラにとって、シン=アスカはまぎれもなく親友だった。

 
 

かつて自分は彼から全てを奪った。
守りたかったという少女。親友。上司。理解者。目指した世界。未確認だが彼の家族も。
だがそれでも彼は自分に力を貸してくれた。一緒に酒も飲んだ。
軍を辞めていたのに、介錯をするために戦場に戻ってくれた。

 

全部、自分のためにだ。

 

ありがとうと笑顔で言いたかった。ごめんなさいと泣きながら謝りたかった。
だけどそれはもうできない。僕らの行く道はもう、とっくの昔に離れていた。
途中で交わることはあったけれど、歩く道は違っていたのだ。

 

終戦からの1年にも満たない短い期間。そして僅かに心を通わせた夜の公園での数時間。
共にいたのは僅かにそれだけ。今の自分たちはただ交差しているだけだ。
そして今日を最後にもう交じり合うことは無い。
どちらかの記してきた線を上書きして断ち切り、離れていくだけ。

 

「ねえ、シン。前から思っていたことがあるんだ」
『まだあんのか。今さら』

 

会話を終わらせたくないくせに、自分の言葉にめんどくさそうな声で応じるシン。
終わらせたくないのは自分も同じだが、彼に打ち切る言葉を言わせたくなかった。
ただ自分がその言葉を聞きたくなかっただけかもしれない。
だから、自分から戦いへと誘う言葉を吐いた。

 

「君を倒せるのは、僕だけだって」

 

親友を手にかける、下り坂への一歩は踏み出した。後は奈落へと転がり落ちるだけ。
ここから先、自分に救いはほとんど無い。
娘との明日と言う僅かな光明を手に入れるために、今は自ら闇へと飛び込んでいくしか
道は残されていないのだ。

 

『………その言葉、そのまま返すよ』

 

覚悟を決めた自分の声。それに対する返答は静かで不敵な言葉だった。
ベルリンでは本心はともかく弱気な発言をしていたというのに、どんな心境の変化があったというのか。
おそらくきっと、彼も己にとっての大切なものに気付いたのだろう。
負けられない理由があるのは自分だけじゃないということか。

 

「返すんだ。僕に勝てると?」
『ああ。それに気付いたのは、ついさっきだけどな』

 

ついさっきとはまた、随分急な話だ。そこは敵である自分に明かすところじゃないだろうに。
正直な言葉を返すシンに、キラは思わず笑ってしまった。
それは嘲笑ではなく、苦笑ですらない。ただ大切な親友に向けるためだけの笑顔。

 

「そっか。―――――それ、きっと間違ってないよ」

 
 

張り詰める空気。耳を刺す静寂。
次の瞬間、紅い閃光が2機の中間位置を流れていった。

 

それを合図とするかのようにデスティニーが動き出した。
アロンダイトを右肩に担ぎ、フリーダム目掛けて飛び込んでいく。だが遠い。先手はこちらだ。
応えるフリーダムは全砲門を開いてのフルバースト。全てを薙ぎ払う炎の一撃。
自由の聖剣の代名詞たる、世界をも支配したビームの豪雨。
しかしデスティニーはそれを全て避けた。

 

「流石―――!!」

 

予想通り。これぐらい今のシンなら造作も無いだろう。本当に天才だ、彼は。
感嘆してる暇は無い。本命はその次。
デスティニー最強の、アロンダイトの一撃が来る。
まともに喰らえばフリーダムではひとたまりもない。

 

しかしデスティニーの手の内が知れた今、アロンダイトさえなくなればキラに負けは無い。
だからこの攻防で破壊する。仕込みは既に済ましている。武器壊しは自分の十八番だ。
狙うのは長剣の接続部分。これまでの打ち合いで攻撃をその1点に集中させてきた。
次の一撃で折れる筈だ。

 

飛び込んでくるデスティニー。流石に速い。
長剣は右肩に担いだまま。次に来るのは唐竹割りか、それとも横薙ぎか。
デスティニーの右肩が僅かに下がる。

 

―――横薙ぎ!!

 

一瞬で反応し、操縦桿を動かした。フリーダムが左手のサーベルを下から上へ跳ね上げる。
交差する二つの刃。
アロンダイトの接続部分に火花が生じ、長剣の半分から上が断ち切られる。
弾け跳ぶアロンダイトが自分の瞳にスローモーションで映った。そして残された下半分の光刃が消えていく。

 

――――――勝った!!!

 

狙い通りのその結果に歓喜するキラの全細胞。そしてそのまま追撃の一撃へと身体が移行する。

 

しかし次の瞬間、キラの目が驚愕で開かれた。

 
 

フリーダムのサーベルが光を放ち、アロンダイトの上半分が吹き飛んでいく。
それは自分の全てを込めた一撃が砕かれた瞬間だった。
目の前の敵が止めへと移る動きがひどくスローモーションに見える。
自分は負けたのか。もうここまでなのか。ここで終わってしまうのか――――

 

いや、まだだ。

 

しかしそんな終わりの声を否定する想いが心の奥底から湧き上がる。
シン=アスカという存在が、そんな現実を否定する。
まだだ。自分はまだ倒れることを許されていない。
否、俺自身が許さない。

 

大切なたからものの前で。大切な仲間の前で。見守ってくれている者たちの前で。
そして、死して尚俺を支えてくれる人たちの前で。
諦める。敗北を受け入れる。見据えるべき前方から目を逸らす。
そんな無様な姿を晒してなるものか。
依存と言いたきゃ言えばいい。他人に動かされるだけの人形だというなら蔑めばいい。
だけど、その人形が明日を掴めないという道理は無い。

 

「おおおおおおおお!!!!」

 

咆哮と共に前を向く。
その手で掴むべきは明日。その足で追いかけるべきは明日。
それは後ろにあるようなものじゃない。

 

前に向かって奔れ。
限界を越えて、その先まで。

 

 ―――――それでこそお前だ。

 

再び声が響く。沢山の手が自分の背中に触れているのを感じた。
それは生きている者だけじゃない。いなくなってしまった人。自分を支えてくれる人たちの、暖かい手。
この一歩を踏み出せと、臆病な自分の背中を力強く押している。

 

 ―――――そのまま行け、シン

 

わかってる。

 

 ―――――運命に打ち勝ち、君自身の道を歩め

 

わかってます。

 

 ―――――迷わずに行きなさい

 

了解です。

 

 ―――――派手に決めちまいな

 

オーケー。

 

―――――明日で、待ってるね

 

………ああ。待っててくれ。

 
 
 

「でやああああああッッッ!!!!!!!」

 
 

折られたのも構わずにアロンダイトをそのまま振り抜く。
ビームの刃は消えそうになっているが、完全に消えたわけではない。
僅かに残った光刃が消え去る瞬間にフリーダムの左脇腹の装甲を切り裂き、
その切れ目に実剣部分が食い込んだ。

 

『ぐうっ、かはぁっ……!?』

 

「まだ、まだぁぁぁ!!!!!」

 

食い込むアロンダイトをそのままに、右手だけ逆手に持ち変える。同時に翼がさらに大きく広がった。
リミッターは解除したまま。最大出力。
フリーダムに剣を食い込ませたまま前に飛ぶ。体当たりの様に身体で押しながら月面を駆ける。

 
 

月面を一筋の光が流れ。

 

そして、消えた。

 
 
 

勢いそのまま岩壁に突っ込み、壁にもたれた2つの機体。
フリーダムの脇腹に食い込んだ剣がその手から零れ落ちた。
蒼い翼の機体がずり落ちるように腰を落とす。
真紅の翼を持つMSが蒼いMSから離れ、数歩後ずさる。そして力尽きたかのように片膝を着いた。
次の瞬間、両機の全身を灰色が浸していき―――

 

そして、今度こそ本当に動かなくなった。

 

月面に腰を落としたまま岩壁に背中を預けるフリーダム。
片膝を着き、頭を垂れたまま動かないデスティニー。
荘厳な絵画のようなその光景。
その姿はまるで王の死を看取り、悲しむ騎士のよう。

 
 

ここに2つの線は交わり、そして離れた。

 
 
 
 

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