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SEED-IF_CROSS POINT_第39話

Last-modified: 2011-05-22 (日) 16:20:09
 

「………終わった」

 

目の前の画面に映るのは力尽きたフリーダムの姿。
カガリは溜息を吐き、顔の前で固く組まれていた両手をそっと解く。
今ではその両手で、誰のために、なんのために祈っていたのかすら思い出せない。

 

執務室の大きな机の上には、自分の両腕以外に置いているものは無かった。
オーブは既にアスハから離れた政治体制に移行することが決定している。
ただの飾りに過ぎない自分には最早、この国でするべきことなんてほとんど残ってはいない。
だからカガリは全てを見ていた。2人の戦いを最初から最後まで。
全てを聞いていた。2人の叫びを最初から最後まで。

 

そして全てを見届けた。
弟の親友が、弟を討ち果たした瞬間を。

 

「終わったんだな、全てが」
「……そのようです」
「カガリ様……」

 

一緒に見ていたソガとマーナ、彼らの声に応えることすらできなかった。
シンが戦場に戻ったと聞いたときから、こうなることはどこか予感はしていたけれど。
いざその時が来てみたらやはり重い。

 

「キラ様は……」
「シン=アスカが何処かへ持っていきましたね。ザフトも連合も追いかける者はいないようです。
 キラも自分も、もう休ませてくれないか。そう言ってましたし」

 

泣きそうな声を出すマーナとは対照的にソガがそっけない声で答える。
感情を乱さないよう敢えてそんな態度を取っているのだろう。組んだ腕には随分力が篭もっていた。

 

「そうか」

 

溜息を吐いて背もたれに身体を預ける。
シンはもう休みたいと言っていた。不謹慎かもしれないが自分も同感だ。
早くこの重い身体を休ませて、暖かいベッドで眠りにつきたかった。
今はまだ、この現実を事実だと受け止めきれない。だから自分は彼らの様に悲しむことができない。
ボロボロのストライクを見た後にアスランと大泣きしたあの日でさえこんな状態にはならなかったのに。
キラを止めようと頑張っていた数日前までの自分も、今では他人の事の様に思える。

 

ひどく、空虚だ。
なんだかずっと、長い夢を見ていたみたいに。

 

「そっかぁ……」

 

部屋の窓から空を眺める。
かつてラクスも含めた全員で見上げたあの時と同じく、広がるのは雲一つ無い青空。
過去を思い出しても胸に浮かび上がるものは無い。

 

自分が泣く時まで、時間が掛かりそうだな。
他人事の様に、カガリは思った。

 
 
 
 

第39話 『祭りの後』

 
 
 
 

戦いが終わったその時、プラント議長室には4人の人物がいた。
1人は当然部屋の主であるイザーク。そしてその前に立つのは秘書官を両隣に従えたシホ=ハーネンフース。
彼がキラの死を告げられたのは、執務の真っ最中のことだった。

 

「……ジュール議長」

 

シホの表情を目にしたイザークは全てを悟る。彼女はまだ何も話してはいない。
しかしこの状況、このタイミング、そして何より自分を気遣う彼女の目が全てを物語っている。
手にしていた書類を机に置いて彼女に向き直した。
片手間で聞く内容ではないということは分かっていたから。

 

「ミネルバのアーサー=トラインから連絡がありました」
「……聞こう」
「フリーダムはシン=アスカによって撃墜。ディーヴァ及び敵残存兵力は9割が降伏。
 アンドリュー=バルトフェルドなど戦場に出ていた首謀者は、全て捕らえました。
 残りは逃亡した模様ですが、此方の被害も大きいため追撃はせずに
 救助作業に掛かっているということです」
「………キラは?」
「死体はシン=アスカが連れ去ったとのことです。確認も取れています」

 

そうか、となんとかシホに言葉を返してイザークは椅子に背を預けた。

 

キラと初めて出会ったのは初陣での戦場。
ストライクを駆るキラと幾度か戦ううちに返り討ちにされ、顔に傷まで作る屈辱を受けた。
馬鹿にしていたものの奥底では心を許していたニコルを殺され、憎しみが頂点になった。
絶対に許さない、どれだけ苦しめて殺してやろうかと考えるまでに。
その感情が変わるのは連合の核からプラント守って貰ってからだった。
その後戦争が終わり初めて直接対面し、その人柄を知り。
2度目の戦争が終わった後には親友になっていた。
根性の無いキラの背中を叩いて喝を入れ。その仕返しとばかりに私生活ネタでからかわれ。
微笑むラクスと呆れるシホを気にせずに、笑いながら逃げるキラをむきになって追いかけた。
そんな光景がずっと続くと思っていた。
そんな事、ある筈が無いのに。

 

ラクス=クラインの葬儀。覇気の感じられない背中。
自分が彼の姿を直に目にしたのはあれが最後。

 

今の世界は、できの悪いゲームやアニメの様に甘い世界じゃない。
自分の前に出てくるのは選択問題の連続だ。
複雑で、残酷で、無慈悲で。そのくせ時間制限までついている。
例え答えを見出せたとしても救いなんて悲劇に塗りつぶされてほとんど見出せない。
全てを得る選択肢を求めても、神ならざる自分たちではそれに手が届かない。
その事を思い知ったあの日。自分たちは道を別った。

 

わかっていた。あいつは優し過ぎたのだ。
だから憎悪で暴走でもしなければ復讐に奔れなかった。
でもいつまでも憎悪を抱き、悲しみを撒き続けることができるほどあいつの優しさは甘くない。
憎悪と優しさ。相反する思いはいつか破綻を招く。そして破綻は終幕を呼ぶ。

 

そして今、来るべき時が来た。ただそれだけ。

 

もう2度と会えない。ぶん殴ってやることも、謝らせることもできない。
そう痛感したところでもう、全てが遅かった。

 

「詳しい情報の入手・整理がつき次第、それを関係各所に廻せ。
 戦いは終わったと市民に教えてやるんだ。ただし混乱も予想されるからコロニー内の警備は厳重にしろ。
 捕虜の尋問が済み次第クライン派の洗い出しに入る。
 その間に逃亡されないよう空港のゲートチェックのレベルを最大にまで上げるのも忘れるな。
 それと近く会談を行う必要があるから、連合とオーブにアポイトメントも取っておけ。
 あとはミネルバとボルテールにも通信を繋げてくれ。今すぐに―――」

 

この地位に就いている限り感情と行動は別けなければならない。
思考を切り替え今後の事について秘書官たちに指示を出す。
後始末や捕虜のこともある。討伐軍とは早めに連絡を取るべきだろうと思った。

 

「今すぐ……」

 

もう限界だった。昔のことなんて思い出すんじゃなかった。
震えそうな声を押し殺して、イザークは部下たちから目を逸らす。今連絡を取るのは駄目だ。
これまで命を懸けて必死で戦っていた軍人たちに、
自分がキラを討つ事に迷いがあったなんて思わせる訳にはいかない。
それは目の前の部下に対しても同じことだ。もう少しだけ、耐えろ。

 

「いや、1時間後だ。向こうにも後始末があるだろうからな。
 捕虜の処遇については以前から決められてある通りに行うように。暴行などは一切認めん」
「かしこまりました」

 

男性秘書官たちが一礼して下がる。後に残ったのは心配そうな表情を見せるシホのみ。
彼女は首席秘書官であり恋人でもある、自分の公私に亘るパートナーだ。ごまかしは効かない。
2人きりである以上ごまかすなんて気は毛頭無かったが。

 

「すまんシホ、30……いや20分で良い。20分あれば俺は、いつも通りに振舞うから。
 だからしばらく、俺を1人にしておいてくれ」
「はい」
「少し泣く」
「………はい」

 

扉を出て行く恋人の背中を見送って、ようやくイザークは顔を両手で覆った。
身体が震える。目の奥は熱い。叫びだしたいけど何を叫べば良いのかわからない。
考えてどうにかなる問題ではないのはわかりきっていた。だから今は身体の赴くままに任せる。
今から20分間だけは、もう何も耐えなくていいのだから。

 

「あの、ばかやろうが………」

 

誰もいない部屋の中で、1人の青年は涙を流し。
その身体を震わせたまま。

 
 

「〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!」

 
 

声にならない叫びを、上げた。

 
 
 

扉が閉まる瞬間に見たのは、肩を落とした最愛の人の姿。
シホは駆け寄り抱き締めたい感情を必死で抑えつつ、目線を前に向ける。

 

「……ハーネンフース秘書官」
「なんでしょう」

 

執務室の外では先に出た筈の秘書官たちが待っていた。
何か言いたいことがありそうな顔で自分の目をみつめてくる。
彼らとの付き合いは数ヶ月しか無いが、ラクスが死んでからの混乱を共に切り抜けてきたのだ。
シホとイザークの関係を知っている程度には、彼らとの距離は近い。

 

「差し出がましい口をたたくようですが、その……よろしいのですか? 傍にいなくて。
 いくら議長でも1人の人間です。我々もできる限りのフォローは致しますし、今ぐらいは」
「その認識は間違っています。今の状況は問題が片付いたわけじゃない。
 むしろここから、これからすべきことがたくさんあるんです。あの人が我々に指示を出したように。
 それなのに今倒れきってしまっては、再び立ちあがるのに時間が掛かってしまうでしょう?
 だから議長はまだ、倒れきるわけにはいかないんです」

 

イザークを慰めるようすすめる男たちの意見を否定し、今はその時ではない事を伝えるシホ。
それを聞いた秘書官たちは悲しそうな表情を見せながら頷いた。
慰めが必要な時というのは、傷の存在を受け入れもがいている時でもある。
そんな時間はそう簡単に終わるものではない。せめて一段落ついて寝る時まで待たないと。
今は僅かなインターバルだけ確保して、痛みを隠しながら戦いの構えを取る時間なのだ。
まして彼にとっての戦場とも言えるこの場所では尚更。

 

「……ですが」

 

とは言っても結果的に親友を死へと送った今のイザークへ、
与えられた時間が20分というのは流石に短すぎる。
自分が彼の力となるのは今をおいて他に無い。

 

「ジュール議長は、あと2時間は出て来れません。議長への用件は全て私に持ってくるように」
「かしこまりました」
「では我々は、先ほどの議長の指示をこなしておきます」
「よろしく」

 

目の前の2人も自分と同意見だったようだ。指示を聞くや否やすぐさま駆け出していった。
残されたシホは溜息を一つ吐くと、背後の扉に身体を預ける。
そしてそのままの姿勢で、己の目を閉じ耳を澄ました。
聞こえてくるのは恋人の慟哭。

 

「……だいじょうぶ」

 

聞こえることの無い言葉を呟く。いや、自分自身に言い聞かせる為に敢えて言葉に出したのだ。
きっと自分も彼も、今日眠りにつけるのは随分遅くなるだろう。
けれどそれが何時になっても良い。
どんなに身体が疲れていても、今夜だけは必ず彼の傍にいよう。
彼にとっての藁になり続けよう。いや、それは今夜だけの話ではない。
それはずっと前から心に決めていた、違える事の決して無い誓約の言葉。

 

「私はずっと、貴方の傍にいる」

 

荘厳な教会などではなく誰もいない殺風景な廊下で。
1人の女性は、そう永遠の愛を誓ったのだった。

 
 
 
 

全てが終わった。
もう自分がするべきことは、何も無い。

 

戦いが終わって1週間ほど経った頃。
ディアッカ=エルスマンはプラントの空港ロビーにいた。

 

「少し早いけど、もう行っとくか…?」

 

荷物を詰め込んだ大きめの鞄を脇に置き、シャトルの時間を確認する。
もう少しすれば乗り込める時間だった。乗り込むのは当然地球行きの便。
ジャーナリストを再開するのだ。地球でなら題材には事欠かない。

 

キラの死を喜ぶ式典なんかに参加したくなかったし、
あのままザフトに残って軍人を続ける気にもなれなかった。
友人を死に追いやった。かつて共に戦った者達を撃ち抜いた。
後悔はしていない。戦場にいる以上お互い覚悟の上だったのだから。
だが、戦いはもうごめんだった。その辺りはシンと同感だ。
一般人である自分には、己を捨てて世界なんてもんを背負い込む義理は無い。
今回の戦いだって自分のかつての仲間が絡んでいたから首を突っ込んだだけだし。

 

イザークから報酬はしっかり受け取っている。
それまで持ってた家の資産も含めれば当分は金に困らないだろう。
親に顔も少しだけ見せたし、後は自分の好きに生きればいい。

 

「やっぱ此処にいても仕方がないよな。乗り込むとしますか」

 

そう呟いて再び鞄を肩に抱える。そんな事をしてるうちにふと思った。
さっきから何で俺は独り言を呟いているんだろう。まあ思った瞬間に答えは出ていたのだが。
それにしても独りってのはこんなに寂しいもんだっけ。
いや、そもそもあの連中とミネルバにいた時が騒がしすぎただけだ。
まあ良い。今までだってそうだったし、皆とは会おうと思えばいつでも会える。
無理矢理そう結論付けて歩き出す。胸を占める寂しさについては考えないようにした。

 

「ん…?」

 

不意に、自分の目の前に立っている女性に目を奪われる。
俯いている彼女の姿には見覚えがあった。おそらくもう2度と会うことは無いだろうと思っていた女性だ。
しかし自分からは、何故彼女がここにという思いすら出てこなかった。
それが本当に彼女だと認識できなかったからかもしれない。
かつてあれほど強く美しく輝いていた瞳の光が、目の前の彼女には無い。

 

「お前……」

 

ミリアリア=ハウ。
かつての自分の恋人が、そこにいた。

 
 

「キラのところにいたんじゃないのか?」
「最後の戦いの前に追い出されちゃった。これからは自分の道を歩くべきだって……」
「……そりゃまあ、確かにあいつなら言いそうだな。その言葉」

 

ディアッカの質問に、ミリアリアは小さな声で言葉を返す。
自分の顔を見ても彼の顔に変化は無かった。
無理もない。危険な場所へ赴く自分を彼はいつも心配してくれていた。
そんな彼を自分は振った。それなのに、今また彼の優しさに縋ろうとしている。
身勝手な女だと自分でも思う。

 

でも、逢いたかった。
キラに言われたあの時、頭に浮かんだのは目の前の彼の事だったから。

 

「それで……その……」

 

何を話せば良いかわからない。それでも何とか言葉を搾り出そうとする。
思うがままに話せば良いのだろうが、それは全て自分勝手な言い訳にばかり思えてしまった。
この状況で自分を飾ることに意味は無いが、自己嫌悪に勝てるほどの綺麗さは今の自分には無い。

 

「もう行くとこ、なくてさ……」
「………」
「親には勘当されちゃったし、周りの人は態度が冷たくなっちゃったし。
 あんな事しちゃったから働き口はもう無いし」
「………」
「その……」
「………」

 

ディアッカは何も答えない。

 

空港内にアナウンスが響く。シャトルが乗客の乗り込みを開始したらしい。
彼がゆっくりとゲートに向かって歩き出す。そして、

 

何も言わずに、ミリアリアの横を通り過ぎた。

 

「……そうよね。自分勝手だよね、こんなの」
「……」
「今更だよね。別れを切り出したの、私の方からなのに」

 

ディアッカは何も答えない。
振り返ることは怖くてできなかった。もしかしたらもう、この場には居ないのかもしれない。
覚悟はしていた。これはただの自己満足のつもりだった。

 

「本当に、ゴメ……」
「おい」

 

彼の声が近くで聞こえる。まだ行ってなかったのか。
幻聴でない事を祈りながら振り返る。聞き間違いじゃない、彼はそこにいた。

 

「……?」
「何をボケっとしてんだよ、早くしろ。急がないと飛行機出ちまうぜ?」

 

あきれたような表情でこちらを見ているディアッカ。しかし彼の言葉が理解できない。
早くしろって、それじゃまるで私を連れて行ってくれると言ってるみたいじゃないか。

 

「え、なんで……?」
「ちょっと待てお前がそれを聞くのかよ。なんでも何も、行くとこ無いから俺のトコ来たんだろ?
 こっちも丁度アシスタントがいるかなって思ってたんでな。お前経験者だし。
 あ、でも先に言っとくけど、給料あんまり出せないからな?」

 

そこは覚悟しとけと言うディアッカの顔はかつての彼と同じく皮肉めいていたが、その目は優しかった。
けれど、彼のその優しさに甘えることが許されるのだろうか。

 

「……いいの? だって」
「なんだ。行きたくないのかよ、お前?」
「そんなことない、でも、私、あんたに…」
「しつこいっつのお前も。しょうがねーな……コレ、お前の荷物だろ?」

 

確認もそこそこに空いた左手で私の荷物をとり、そのまま再びゲートに向かって歩き出した。
自分がついて来ることを疑いもしない足取りで。

 

「ほらとっとと行くぞ、アシスタントさんよ?」
「………うん!!」

 

歩き出した彼を追いかけ、ミリアリアは心を決める。
その背中をもう見失うまいと。
差し出してくれたその手を、放してはならないのだと。

 
 

俺は甘いのかもしれない。いや、実際に甘いんだろう。
自分の隣で必死に嬉しそうな表情を押し殺そうとする彼女を見ながら、ディアッカは思った。

 

以前付き合ってた時、別れを切り出したのは彼女の方からだった。
危険な場所に取材に行く彼女を心配していたのだが、それがうっとおしくなったらしい。
戦争を起こさないための、武器を持たない戦いを自分はする。
その為には安全な場所から外だけ見るわけにはいかない。そんなものでは人の心には届くことはない。
だから私は行く、邪魔をしないでと怒鳴られて。
結局半年ももたずに、あっさりとフラれてしまった。

 

次に会ったのは、メサイア攻防戦が終わった後のアークエンジェルの中だった。
本来なら軍人としての職務を放棄してまで彼女の艦を守ったのだし、ヨリを戻すチャンスだったのだろう。
だがアークエンジェルに乗っていた彼女を見た時、何やら急激にムカついた。
お前は戦争の愚かさを世界や後世に伝えるために武器を持たない戦いをしていたんじゃなかったのかと。
そのお前が殺し合いの連鎖の中に入ってどうするんだとも。
そう言った自分への彼女の返答は、 「これは自分で選んだ道だ、あんたには関係ない」 で。
偶然通りかかったフラガのおっさんとラミアス艦長が止めるまで、2人で大喧嘩してた。
結局仲直りをする事無く、そのまま彼女はオーブへ、自分はプラントへ帰っていった。
そして今回。

 

いい加減愛想が尽きた筈だった。
だが目の前の泣きそうな姿見ると、切り捨てることはできなかった。
我ながら本当に甘い。

 

「まったく、これが惚れた弱みってやつかね」
「……ほんとに、ごめん」

 

聞こえないように呟いたつもりだったがしっかり聞いていたらしい。
バツの悪そうな顔をする。聞こえよがしに言ったと思ったのだろうか。
まいったな。そんなつもりは無かったんだが。

 

「すまん、別にもう責めるつもりはなかったんだ」
「本当に?」
「ああ。まあ信じて貰えないかもしれないけど」
「ううん、信じる。ねえ、これから何処に行くの?」
「何処に行く、か。そういや俺、地球としか決めてないんだよな……」

 

何処に行こう。
オーブに行って旧友に会うか。
ラクスが倒れた場所に行ってみようか。
ベルリンに行ってあの3人をからかうのも面白いかもしれない。
縛る物は何もなく、今の自分は何処にだって行ける。

 

もしかしたら。
俺は皆が望んでいた自由とやらに、1番近い所にいるのかもしれない。

 

「なあミリィ。頼むからもう、俺から離れるなよ」
「うん」

 

胸に残っていた寂しさはもう無い。
ならば自分は思うがまま、心底惚れた女と一緒に、世界の果てまで行ってみますか―――

 
 

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