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SEED-IF_CROSS POINT_第7話

Last-modified: 2010-01-26 (火) 01:29:55
 

「すげぇ……」

 
 

英雄と謳われた機体同士の壮絶な戦い。
アークエンジェルの守備に就きながら、ムラサメのパイロットは呆然と見つめた。

 

火花を散らしてぶつかり合うジャスティスとフリーダム。
射出されたファトゥムを、フリーダムは紙一重で避けた。
そしてスラスターを失ったジャスティスに腹部のカリドゥスを放つ。
紅いビームの奔流を、黄金に輝いたアカツキが割り込み弾き返す。
その背後からジャスティスがライフルを連射した。
ビームシールドでそれを受けるフリーダム。そこに先程避けたファトゥムが背後から迫る。
フリーダムは横に跳び辛くも避けた。距離を取るためにライフルを2機に向かって連射しながら後退する。
何発か掠ったが、気にせずに詰めるジャスティス。ビームサーベルが再びぶつかり合った。

 
 

『あー惜しい!! もう少しで直撃だったのに!!』
「お前はしゃぎすぎだ。見せ物じゃないんだぞ。ここは戦場だってのに」
『あ、すんません』

 

はしゃいでいる新人の後輩に注意する。
彼はオーブ軍の学校を卒業したばかりで、実戦を経験したことがない。
そんな彼にとってはこの死闘も、只のアトラクションに過ぎないのだろう。

 

『まあそう言ってやるなよ。俺もヤツの気持ちは分かるしな。
 フリーダムとジャスティス、CE最強の2機の本気の戦いだぞ?
 金取ったらいくらでもプレミアが付くこの最前席に、俺達いるんだから』
「……そりゃ、そうだけどさ」

 

新人をフォローする同僚。言わんとすることは分からないでもないが、やはり気を抜きすぎだろう。
理由は分かっている。
どうせアスラン=ザラが、つまり自分達オーブ軍が勝つと思っているからだ。
キラ=ヤマトもザラ少将も前大戦の英雄であり、実力は互角と言われている。
つまりパイロットに差は無い。
ジャスティスは接近戦ならフリーダムを上回るということは周知の事実だし、
アカツキに乗っているフラガ一佐との連携も問題ない。
実際、さっきから押しているのはジャスティスだ。

 

「すごいよなあの動き。よくあそこまで動かせるよ、ザラ少将は」
『あの人も人間じゃないっすよ、既に』
『二大怪獣頂上決戦……』

 

確かに2人とも人間の範疇を超えている。
ザラ少将の猛攻は言うに及ばず、それを捌くキラ=ヤマトも普通じゃない。
危うい場面はあるものの、恐ろしいほどの防御技術でダメージを与えさせない。
実際傷だらけのジャスティスに対して、フリーダムは無傷のままだ。

 

「無傷……?」

 

少し違和感を感じる。仲間にもう一度話しかけた。

 

「なあ。ザラ少将、勝てるんだよな?」
『見りゃ分かるだろ。思いっきり押してるじゃねえか。それにフラガ一佐もいるんだぜ?』
「そっか。そうだよな。…だけどさ」
『何だよ?』

 

確かに押している。ジャスティスの猛攻にフリーダムはさっきから防戦一方で。
もう少しで致命的な一撃が決まる、というシーンもいくつかあった。
だけど。

 

「さっきからダメージ受けてるの、ジャスティスばっかりなんだけど……」

 
 

第7話 『ジャスティスは何も答えてくれない』

 
 

ジャスティスのコックピットの中で、アスランは臍(ほぞ)を噛んだ。

 

自分の攻撃は惜しいようで、結局全部避けられている。
フラガ一佐の援護も片手間で防いでいるようだ。援護の後に飛び込んでも隙がない。
分があると思っていた接近戦もどうにか互角といった状況だ。
正直、ここまで差があるとは思っていなかった。
どうやら先日のオーブ軍との戦いではかなり手を抜いていたらしい。
あれが本気ではないというのは予測していたが、隠していた実力に差がありすぎた。
2人がかりなら何とかなるだろうという考えは甘かったようだ。

 

せめて此処にシンがいれば。
いや、やめよう。
その思考は無駄だし、彼も自分の戦いをしているのだ。
この戦いは自分がケリをつけるとあの時誓ったではないか。

 

「泣き言を言っている暇はないか…」

 

ライフルの連射を避けながら呟く。少しずつだが、フリーダムの圧力が増してきた。
このままじゃジリ貧だ。ならば賭けに出るしかない。

 

「ムウさん!!」
『なんだ!?』
「キラの意識を引き付けてもらえますか!? 一瞬で良い、隙が欲しいんです!!」
『―――わかった!! だが、キラ相手じゃそんなに耐えられんぞ……』
「解ってます!!」

 

大きく距離をとるジャスティス。それを追おうとするフリーダムに、アカツキが襲い掛かる。

 

『させるかよ!!』

 

ライフルを連射した後、高エネルギービーム砲を放つ。だが当たらない。
飛び込んでくるフリーダムの斬撃をシールドで抑えた。
至近距離で頭部のバルカンを連射。だがその場所にはもうフリーダムはいない。
反応した時にはもう遅く、フリーダムの蹴りによって地面に叩き落された。
かろうじて地上に着地したアカツキ。だがその隙をキラが逃す筈もなく。

 

『これで……!!』
『ちぃっ!!』

 

後方に跳ぶアカツキにフリーダムがクスィフィアスの照準を合わせるその瞬間―――

 

「ここだ!!」

 

ジャスティスがファトゥム−01を射出。フリーダムに向かって猛スピードで迫る。
虚を突いたこの攻撃に、フリーダムも咄嗟に反応ができない。

 

そう、この瞬間を待っていた。敵に止めを刺す瞬間こそ最大の好機がやってくる時でもある。
だがキラ相手にはまだ足りない。
ファトゥムのスラスターに向けて頭部のバルカンを放った。

 

『くっ、こんなもの…!!』

 

フリーダムが銃口を向けたその瞬間、ファトゥムが爆発する。
爆発の煙が広がり、機体の前方の視界が塞がれた。
次はない。今しかない。
ファトゥムを捨てた以上、ここでしくじれば敗北は必至。
おそらくキラも自分の考えを読んでいるだろう。だから、おもいきり機体を沈めて飛び込んだ。
爆炎を抜ける。

 

『低い―――!?』

 

地を這うように飛び込むジャスティスに向かって、咄嗟に銃口を下げるフリーダム。
左手を振るうジャスティス。ライフルをグラップルスティンガーで弾き飛ばした。
フリーダムは後ろに跳ぼうとしているが、このタイミングで逃げられるわけがない。

 

これで止め。残された右手のビームサーベルを振り上げ―――

 
 

『―――やめてよ、アスラン』

 
 

その瞬間、思考が凍りついた。MSを操縦する手が僅かに止まる。
俺は今、何をしようとしていた?
殺す? 俺が?
キラを?

 

そんな事、できるわけが

 

「―――しまった!!」

 

それは一瞬にも満たなかったのかもしれない。
だが、キラ=ヤマトとフリーダムにとっては十分すぎる時間だった。
振り下ろすサーベルを後ろに下がってかわし、距離をとりつつクスィフィアスを連発で放つフリーダム。
ジャスティスはその攻撃を機体を左右に振って回避。だが動きが格段に落ちている。
ファトゥムを失った代償は大きかった。

 

『アスラン。君は今』

 

コックピットにキラの声が響く。
それは嘲笑ではない。見下してもいない。

 

ただ、失望したような声。

 

『―――迷ったね?』
「黙れ!!」

 

上空のフリーダムに向かって飛び込む。右手のサーベルを、今度は突いた。
フリーダムは逆に距離を詰め、ジャスティスの顔面を蹴り飛ばす。

 

「ぐっ…!!」

 

コックピットに衝撃が奔る。必死に機体を制御しようとするアスラン。
しかしフリーダムの攻撃は終わらない。
そのままジャスティスの頭部を掴み、地面に向かって加速していき―――

 

『でやあああああああああ!!!』

 

そして、地面にそのまま叩きつけられた。

 

「がぁっ!!!」

 

機体ではなくパイロットを狙ったキラの攻撃。音と共にコックピットに衝撃が奔る。
同時に、アスランの意識が急激に遠くなっていった。視界を闇が少しずつ覆っていく。

 

高く舞い上がって距離を取った後、再び飛び込んでくるフリーダム。
このまま止めを刺すつもりなのか。
それはダメだ。自分はまだ、何もできていない。

 

「キ…ラ……」

 

頼む、俺の身体よ。もう少しだけ保ってくれ。
俺はキラを止めなくちゃいけないんだ。
あいつの親友だったから。いや、今でも親友だから。
だから、キラは俺が止めてやらないと。
なのに。
なのに。
何故俺の言葉は届かない。何故さっき俺の剣は止まってしまった。
何故俺の目は光を失っていく。
ダメだ。もう、闇が―――

 

「ち…く……しょう…」

 

動かないジャスティスの胴体に、空から降りてきたフリーダムの膝が突き刺さり―――
アスラン=ザラは、そのまま意識を失った。

 
 

大の字で地面に食い込んだまま動かないジャスティス。パイロットが気絶したのか動く気配がない。
やはりアスランではダメだったか。僕を止めるのは。
物思いにふけるキラの上空にて黄金の光が舞う。視線も向けぬまま、フリーダムはサーベルを軽く振った。
そういえばあの人もいたっけ。戦いはまだ継続中だ。

 

尤も、すぐに終わるが。

 

『キラ!! お前はぁ!!』
「―――やめてくださいよ」

 

怒りの声と共に、サーベルを抜いて斬りかかるアカツキ。だが

 

「ムウさんが僕に勝てるわけないじゃないですか」

 

交差した一瞬で、両足と右腕を切り落とす。バランスを崩して派手に地面に倒れこむアカツキ。
速度といい正確さといい、それは神業と言っていいほどの所業だった。
本体と切り落とされたパーツ共に誘爆すら起こしていない。
だがそれに何の感慨も持たず、キラはサーベルを仕舞いアカツキにクスィフィアスを向ける。
動きはない。彼も気絶したのか、それとも死んだか。おそらく生きているだろうとは思うが。
どちらにせよ戦いは終わりだ。

 

武装を解除しアークエンジェルに通信を開く。艦長のアマギは顔見知りだ。
単刀直入に用件を伝える。

 

「まだやりますか? そちらにはまだ、戦力も残ってるみたいですし」

 

その言葉に、守備に就いていたムラサメ達が後ずさる。
無理もない。オーブ軍のレベルは低くないが、それでも自分と戦うレベルでないことは分かるだろう。
実際自分はムラサメの5、6機くらいなら、15秒もあれば全機を達磨にできる。

 

『いや、もういい……我々は退く。だがその前に、2人の救出を許可して欲しい』
「いいでしょう、但しパイロットのみです。機体はこちらが頂きます」
『それは……』
「この状況でそちらに断る権利があるとでも?」
『……わかった。好きにしてくれ。ムラサメをそちらに向かわせる』
「どうぞ。手は出しません」

 

ムラサメが2機、アカツキとジャスティスの近くに降り立つ。
そしてパイロットたちが2人をコックピットまで抱え、アークエンジェルに戻っていった。

 

『キラ=ヤマト……いやキラ様。お願いです、もうこのような事は』
「用が済んだら早く行ってください。貴方と話すことは何もないですから」
『……』

 

通信が切れ、アークエンジェルが去って行く。キラはそれをぼんやりと見送った。

 
 

「また、死に損なっちゃったな」

 

今回も結局、自分の望みが叶うことはなかった。失望感だけが後に残る。
彼女のいないこの世界に未練は無いというのに。
ただ託されたから彼女の真似をしているだけなのに。
何故自分を世界は生かすのか。
自分の死ぬときはまだ来ていないということなのか。
自分が休めるのはさらに遠い先であると、何かが告げているのだろうか。

 

「やめてよ、か……」

 

戦闘中に呟いた言葉。あれで勝負は決まった。

 

本当はあんな、彼の優しさに付け込むような卑怯なことはしたくなかった。
だが彼を相手にした場合、あれが最善の手だという事も解っていた。だから使った。
勝ち方を知っていてそれを使わずに敗れるのは、自殺と変わらないとキラは思う。
それではダメなのだ。
見栄も外聞もなく最後まで足掻いて、それでも敵わず死んで行く。
そこまでやらないと、自分はあの世でラクスに言い訳できない。
僕はここまで頑張ったのだと。君との約束を守り続けようとしたと。
やり方を間違えていても、彼女ならきっと頑張った自分を許してくれるだろう。

 

だが結局ダメだった。また自分は死に損ねた。
生き延びてしまった以上、自分は進まねばならない。まだ、生き続けなければならない。
それはつまり、今夜も彼女が殺されたあの時の夢を見るということで。

 

「笑えないな、それは」

 

自分は、あとどれくらい。
死を望む心と生きて約束を守るという相反する2つの想いに、あとどれくらい苦しめば良いのか。
溜息を吐き、目線を傍の紅い機体に向ける。
ジャスティスは何も答えてくれない。

 
 

「アスラン。君は、あのまま。
 ―――僕を、殺してくれれば良かったんだ」

 
 

届かなかった刃。泥に塗れた正義。
主を失った機体は、そのまま空を見上げている。

 
 
 

「お疲れさまでした、キラ様」
「……そちらこそ、待機ご苦労様です。
 僕は少し休みますので、ディーヴァへの連絡を任せても良いですか?」
「了解致しました」

 

深海で待機していたエターナルに帰還する。
ジャスティスとアカツキの残骸は回収させたし、もう地球で行うことはほとんどない。
地球でもう少し力を見せるか、それとも宇宙に戻ってザフトの次の一手に備えるか。迷うところだ。
だがその決定も今すぐという話でもないし、身体を休める必要もある。
だから艦長であるダコスタと2、3打ち合わせをした後、エターナルの自室に戻った。
待っている者は誰もいない。彼女と同じ名を持つ少女もここにはいない。
静かな部屋に1人でいるのは久しぶりだった。

 

椅子に座る。机の上には高級そうなチェス盤。
くれた人によると、デュランダル元議長がメサイアで所持していたものらしい。
白のキングを手の中で回しながら、キラはこれからのことを考える。
自分に残された敵。………自分を殺してくれる敵。
まだそんな人物が存在するのだろうか。盤上に視線を落とす。あと残っているのは―――

 

「アスランは倒した。」

 

手にした白のキングで、黒のナイトを弾き落とす。

 

「ムウさん。キサカさんも」

 

同じように残されたナイトと、右端のルークを弾く。

 

「カガリに世界をまとめる力は無いし、ブルーコスモスは既に壊滅している」

 

続けて2つのビショップも。

 

「サーペントテールはマルキオ導師が抑えていて」

 

残った左端のルークを放り投げ―――

 

「ロンド=ミナ=サハクはこちらと戦う意思が無い」

 

クイーンを盤の外に置いた。

 

これでほぼ全滅。残ったのはキングのみ。
ポーンが残っているが、有象無象に自分が倒されるとは思えない。

 

「まさか、イザークに戦線復帰してもらうわけにもいかないし」

 

プラントの議長が一兵士に復帰、なんて周囲が認めないだろう。
そういう意味でも、彼はキングっぽい。王とは名ばかりの不自由で、周囲1マスぶんしか動けないしアレ。
それに大抵、キングとは戦いで倒されて終わるのではなく、追い詰められたときに降参して終わるものだ。
彼には期待しちゃいけない。

 

「で、残ったのはポーンだけか……」

 

再びポーンに視線を落とす。前に進むだけで、相手の攻撃を避けることもできないただの兵士。
はっきり言って取るに足らない存在だ。
……いや、待て。
臆する事無く前に進み、敵を討つ。
そんなポーンの様な存在に、かつて自分は苦杯を舐めさせられた事がなかったか。
記憶を探る。思い出すのは紅い瞳。

 

「そうだ。まだ彼がいたんだ」

 

まだ彼がいた、ではなくもう彼しかいない、と言うべきかもしれない。

 

シン=アスカ。

 

自分を貫いてくれる可能性を秘めた、最後の剣。
彼ならばアスランの様に、自分に情けを掛けたりはしないだろう。
今は退役しているが、彼の本質は戦士だ。いずれ必ず自分の前に現れる。
ただ、それがいつになるのかが分からない。
そして自分はその 『いつか』 を待ってられるほど、精神に余裕は持っていなかった。

 
 
 
 
 

「そっか。止められなかったのか、アンタは」

 

磔にされたジャスティスとアカツキ。響き渡るキラの声。シンはぼんやりとそれを眺める。
処刑の映像が終わり、ニュース番組では解説者がしたり顔でキラを語っていた。
だが誰もそれを聞いていない。
皆、呆然と立ち尽くしたままだ。

 

「―――帰ろう」

 

ルナとコニールに話しかける。反応はない。
仕方が無いので呆然としたままの2人の手を取り、引っ張りながら車まで歩く。
強い雨が降っていたので自分が車を持ってくるまで待たせても良かったのだが、
今は離れちゃいけないような気がした。
紙袋は歩道の脇の長椅子に置いたまま。周囲の人間は皆、今の放送で頭が一杯だ。
数分くらいなら盗まれたりしまい。
車に乗って荷物を無事に回収しても誰も口を利く事はない。
だがシンの部屋に着く頃には少しだけ落ち着いてきたようだ。
その事に少し安堵の溜息を吐いた後、電話の受話器を取る。
メイリンに連絡を取ろうとしたが、繋がらなかった。ディアッカも同様だ。
彼らも今、あの放送を見て驚いているのだろうか。

 

「ごめんね、シン。食事…そう、食事の準備しなきゃ」
「いい。今日は俺が作るよ。ルナはそのまま座ってていいから」
「……ごめん」

 

ソファに座る2人の前に緑茶を置いた。オーブでよく飲まれるものだが、2人とも気に入ってくれている。
これでも飲んで落ち着いてくれればいいのだが。

 

「なあ、シン」
「なんだ?」

 

湯飲み茶碗を手にしたまま、コニールが話しかけてくる。
故郷であるガルナハンが昔ひどい目に遭っていたせいか、彼女は知人が傷つくことに敏感だ。
言葉は慎重に選ぶ必要がある。

 

「アスラン、死んじゃったのかな?」
「生きてるだろう。簡単にくたばるようなやつじゃないし、キラにも殺す気は無かっただろうから」
「本当に?」
「ああ」

 

言っていることに嘘はない。
処刑前の機体があそこまで形を残しているし、コックピット周りも損傷した様子は無かった。
アスランは運は無いが悪運だけは強い所があるので、おそらく無事だろう。
ただ、心の方までは分からないが。

 

「でもさ」
「ん?」
「アスランが負けちゃっただろ? もしかして今度はシンが戦わされるんじゃ…」
「……それは、無いんじゃないかな」
「どうしてさ?」
「ネオ…じゃなくてムウ=ラ=フラガとアスランでもダメだったんだ。
 も う俺が1人で勝てると普通思わないだろ。
 しかも単機でヘブンズベース破壊するようなやつだから、人海戦術も却下。
 多分ジェネシスや核ミサイルみたいな遠距離攻撃か、サイクロプスみたいな罠。
 それか、キラを直接狙う暗殺。
 どれにしても、俺は必要ないな」

 

嘘だ。暗殺はまず行わないだろう。
それを行えばザフトはブルーコスモスと同じ目で見られるだろうし、
連合は 「またナチュラルが優れたコーディネーターを暗殺しやがった」 という事になる。
そしてジェネシスやサイクロプスだと、自分は発動までの時間稼ぎとして戦わされる可能性もある。
そうなると最悪の場合自分ごと焼かれるかもしれない。
自分みたいな民間人が死んでも世界に影響は無いからだ。
だが、彼女にそれを言うわけにはいかなかった。

 

「信じて、いいのか?」
「多分な」

 

これ以上話すと感付かれそうだったので、離れることにする。
椅子に引っかかっていたエプロンを腰に巻きつつ台所へ歩いた。
ジャガイモの皮を剥きながら溜息を吐く。暗い雰囲気は継続中。

 

その日の夕食は、いつもより静かだった。

 
 
 

その日の深夜にようやくメイリンと連絡が取れてアスランの無事を確認できたので、
次の日はいつもと変わらずに復興作業へ向かう。
彼の怪我はアバラにヒビが入ったくらいで本当に大したことは無いらしく、
別に心配しなくていいという妻の言葉に従う形になった。
そして他所で何が起こっていようとベルリンの人間には関係ない。
ルナとコニールは何か考えているようだったが、特に変わったことも起こらずその日の仕事は終わった。

 

そしていつものように3人で食事。
しばらく雑談をした後、早めに寝ることにして2人を部屋に返す。
ベッドに入ったが眠れない。舌打ちと共に、机の上にある使い古された医学書の一つを手にした。

 

不意に携帯が鳴り響く。見知らぬ番号。
夜遅くだというのに、この間のスカウトがまた掛けてきたのだろうか。
一応電話に出てみる。

 

「もしもし」

 
 

『やあ、シン。キラだけど。元気してる?』

 
 
 

「―――何だと?」

 

今、コイツ何て言った?

 

『だから僕だよ。キラ、キラ=ヤマト。
 ……もしかして、僕の事忘れちゃったって事はないよね?』

 

忘れるわけが無い。しかし完全に不意を突かれた。
ザフトからならまだしも、まさかこのタイミングでキラの方からコンタクトを取ってくるとは思わなかった。

 

「いやそんなわけないけど…アンタは何やってんだ? じゃなくて何考えてんだ?
 つか俺に何の用…」
『落ちついてよ、シン』
「落ちつけるわけないだろ!! アンタ、どうして」
『まあ聞いてよ。僕、今ベルリンにいるんだ』
「ベルリンに…?」

 

ワケがわからない。
コイツは何を考えているんだ。

 
 

『君と話がしたいんだ。―――今から、会えないかな?』

 
 

聞こえる声は笑っているようで。
その声は昔と何一つ変わっていなかった。

 
 

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