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SIN IN ONEPIECE 82氏_第07話

Last-modified: 2013-12-24 (火) 03:37:30

とりあえず、バラティエ偏のラストです。幹部との戦闘はいろいろ考えて省略しました。


 広い海のど真ん中に、珍奇といっても差し支えの無い形の船が、波にゆられていた。
 魚を模した船体に、異様に低い船縁。マストはあるものの、『船』というより『海上施設』というほうがしっくり来そうなつくりだ。船体の両側に展開した、半円形の物体は、さながらひれのようである。
 海上レストラン・バラティエだ。

 その船べり……ヒレが砕かれ、破壊の爪あとも生々しい側に、包帯まみれの男が一人、表情をゆがめながら佇んでいた。
 体を少し動かすたびに、全身が過剰反応を起こしてギシギシと悲鳴を上げ、体に受ける潮風すら傷口に染みるようなむず痒さをもたらしている。
 両足が自分の体重を支えているという当たり前の事実すら感動的という、矛盾な喜びを感じるほどに、シンの体はボロボロなのだ。

 当たり前といえば当たり前である。ドン・クリークの振り回したモーニングスターからゼフをかばって、代わりに直撃を受けたのだから。骨という骨は砕けていたし、戦闘終了直後はパティやカルネの手を借りなければ歩く事もままならないほどだったのだ。
 ……それが、僅か数日でここまで回復してやがるし。

「……あれが肉食ってりゃ直るんだから、凄いよなー。こっちの物理法則」

 自分の化け物ぶりをこの世界の物理法則のせいにして現実から目をそらすシン。言っちゃ悪いが、今の時点で君は十分人間やめてるぞ。
 ……まあ、遠い目をして、わざわざこんな場所で黄昏ながらのたまうあたり、自覚症状はあるのかもしれないが。そこは突っ込まないのが武士の情けである。

「おいウェイター」
「……もうウェイターじゃないんだけど」

 店のドアが開くと同時にかけられた声に、シンは眉をひそめながら振り向いた。扉から顔を出したのは、シンと親しくしていたコックの一人である。

「オーナーがお前に話があるそうだ」
「オーナーが?」

 それこそ、ウェイターを辞めたのならオーナーと呼ぶ必要も無いのだが、シンは反射的にそう呼んでしまった……それに気付いて、シンは表所をゆがめ、嘆息した。
 シンはゼフが苦手である……元々威圧感を感じるというのもあったが、以前に赤服関連の事でからかわれてからというもの、その傾向はいっそう強くなった。

(……一体何の用だ?)

 これといって呼び出される理由が無いはずのシンは、首をひねるしかない。とにかく、託どおりにオーナーの自室に向かうため、店内に入る。
 潮風が支配する外界と違い、店内を支配している音は海のコック達の荒っぽい怒号と罵声であった。戦いの余波で故障した部分を修理する音も、それに追従していた。今この店で働いていないのは、まだ眠っているルフィと、戦いの功労者のシンの二人だけだ。サンジですら厨房の火元のチェックに借り出されているのだ。

 一度しか行ったことの無いゼフの部屋だったが、案内は必要なかった。一週間以上働いた店だというのもあるが、ゼフの部屋には特徴的過ぎる目印があった……ルフィいわく、『正当防衛の流れ弾』でぶちあけられた、巨大な事この上ない穴である。

「……おう。来たか」

 ノックをして、本人の意思を確認するという通過儀礼を経て、シンは室内に侵入する。
 バラティエに着てから二度目の、そして最後の訪問になるはずであったが……それでも、シンは室内に入った瞬間に、眉をひそめざるを得なかった。

 誰もが眉をひそめるような光景があっただけではなく、原因はシンの持つ記憶に由来したものだった……ベッドの上に腰掛けるオーナーの手に握られた、白く細長い包みに、強いデジャヴュを感じたのである。
 ……それが、自分の昔の相棒を持ち運ぶときの包みにそっくりなのだと気付くのに、一瞬の時間が必要だった。

「なにぼけっと突っ立ってる。とっとときやがれボケナス」
「あ、はい」

 シンはゼフと向き合う形で勧められた椅子に座ると、改めてゼフと目線を合わせた。

「テメーを呼んだのは他でもねえ……頼みがあったからさ」
「頼み?」

 実に簡潔かつ率直に話題を切り出すゼフに、シンは眉をひそめる。正直、目の前の老兵が自分に対して頼みごとをするような懸案が思い当たらない。

「何、ちょいとした昔話に付き合ってくれりゃあいいのさ」
「……ラスティ、って奴の事ですか」
「……ああ」
「そういえば、詳しく聞いてませんでしたね」

 つぶやいてシンを見返すゼフの瞳は、完全にここではない場所……過去の情景を映し出し、見つめていた。

「何、酔っちゃあテメーの故郷の話を高々とのたま大馬鹿野郎だよ。
 本人が言うには、『ヘリオポリス』とかいうコロニーを攻撃してる最中に死んだらしいがな」
「ヘリオポリスぅッ!?」

 思わぬところで飛び出した単語に、シンは素っ頓狂な声を上げてしまった。ヘリオポリス攻略といえば、アスラン・ザラがクルーゼ隊にいたころに行った作戦であり、『あの』アークエンジェルやストライクの伝説的活躍が始まった場所なのだ。
 シンにとって、なじみはまったく無くとも、記憶容量を占める割合は大きい重要な事件である。

「なんだ。知ってんのか」
「知ってるも何も……こっちじゃあ有名な事件ですよ。そんな重要な作戦に参加してるなんて」

 自分とアスランは親しかったわけではなく、むしろ敵視し反発していたと言っていいが、それでもこんな状況になるといろいろと思い出されてしまう。反発した事とか反発した事とか反発した事とか……かつての自分の餓鬼臭さぶりに、穴があったら埋まりたい気分なるシンであった。

(う、うっわー。あ、アスラン御免。本ッ当に御免)

 世界の壁を突き抜けろとばかりにシンはかつての上官に誤ったが、ゼフはそんなシンの内心など露知らず話を続けた。

「……俺が知りたいのは、そこなんだ」
「え?」
「俺は、ラスティの馬鹿から大方の事は聞かされてる。『いでんしぎじゅつ』とかはちんぷんかんぷんだが、お前らの世界の大方の情勢は知っているつもりだ。
 だからな……ラスティが命を懸けて成し遂げようとした作戦が、どんな結果を生んだのか。その後の情勢はどうなったのか……
 覚えてる限りでいい。詳しく教えちゃあくれねえか」
「……は?」
「あの馬鹿はな、吟遊詩人なんぞやってやがってなぁ」

 馬鹿、馬鹿、馬鹿……次から次へと飛び出す同じ種類の愚弄の言葉。本来ならばつかみ掛かってでもやめさせるべきそれらを、シンは止めようとは思えなかった。
 その単語を口にするときのゼフがいかにも陽気で楽しそうで、陰に篭ったものが無かったからだろう。

「いつも町で拾った愚に持つかねえ怪談や御伽噺を、いかにも面白おかしく語るんだ……
『退屈な航海で皆が楽しめるように』。それが、あいつの信念みたいなもんだった」
「…………」
「そんな信念からなのか。他の馬鹿共がまるっきりあいつの過去話を信じねえからなのか。
あいつは特に、コズミックイラの話をよくしたよ。
 この話し方がまた上手くてなあ。ジョージ・グレンの演説のくだりなんざ、馬鹿共全員がこぞって聞きたがった。
 かつての同僚の話も大人気だった。物事を深く考えすぎて将来の禿げが心配になっちまうアスラン・ザラ。ピアノがうまくてよく男色の兵隊に襲われて泣き付いてきたニコル・アマルフィ。プライドが高すぎてアスランに噛み付いちゃあ騒ぎを起こすイザーク・ジュール。皮肉屋で真剣みっつーもんが全く無いくせにそつのないディアッカ・エルスマン。
歌がうまくて隊内でも評判だったミゲル・アイマン。いつも仮面をつけてて何を考えてるか分からないラウ・ル・クルーゼ。そんな隊長を無言でさせたアデス艦長……くだらねえ知り合いの日常話も、あいつにかかりゃあ人気の物語よ」

 ゼフの脳裏に浮かぶのは、実に愉しそうに故郷の話をするラスティの姿。ゼフの部下達は誰一人としてラスティの故郷の話を信じようとせず、彼が作ったフィクション話の類だと思っていたが……決して、ラスティを差別しようとはしなかった。文字通り『気のいい馬鹿共』であり、ラスティはその馬鹿たちの中に溶け込んで、いつも愉しそうに笑っていた。

「俺も、そんな聴衆の一人だった。それでつい、気になっちまったのさ。
 あいつが話した、嘘みたいな世界の話の続きがな」
「そんなに、話すのうまかったんですか?」
「ああ。どこぞの酒場に住み着きゃ、それだけで酒場を潤わせるだろうよ」

 笑うゼフの表情はどこまでも誇らしげだった。いや、彼は本当に誇っているのだろう……
『赫足のゼフ』にそこまで言わせるほどの男だったのだ。ラスティという男は。

「……ろくでもない世界の話ですよ?」

 自分では、とてもじゃあないがその人のようには話せないだろう。そんな思いがこもった言葉だったが、ゼフは笑って答えた。

「ああ。知ってる。
 ラスティの野郎があんなに『物語』に執着したのも、それに関わってんだろう」
「現実逃避ですか」
「いいや。あいつは、あの世界でこそ語りたかったんだよ」
「?」
「いつか、あの馬鹿が酔った拍子にこんな事を話してくれた事があった。
 『俺がいつかもとの時代に変えることが出来たなら、その時に艦長達の事を話しにしてもいいですか? あんな世界だからこそ、俺は俺の話で皆を楽しませたいんです』
 元の世界で嘘見てえなこの世界の話を伝えて、戦争を終わらせ人々の笑顔を取り戻す。
それが、あいつの『野望』だったのさ。大それた野望じゃねえか。種族間での憎しみあいから始まった戦争を、話一つで終わらせちまおうってんだからな」
「ナチュラルとかコーディネーターとか……その人の中には垣根がなかったんですね」
「それは、俺も気になって聞いてみたのさ。
 なんでも、最初はあったらしいがな」
「?」
「全員ナチュラルのはずなのにコーディネーターを余裕でぶっちぎるこの世界の連中を見てるうちに、そんな事にこだわるのが馬鹿らしくなったんだとよ」
「ぶっ!?」

 ゼフの発現は、シンの笑いのツボをジャストミートし、その口から唾液交じりの息を噴出させる。ゼフもその時のラスティの話しぶりを思い出したのか、笑いをかみ殺す羽目になった。
 眩いほどの青空が見える、大穴の開いた室内で。
 男が二人、笑いの衝動と必死に戦っていた。

 それから、シンは今までの人生……オーブで運命が変わってから最も長く、声帯と唇を動かした。つたない表現と知識をフルに使い、己の住んでいた世界の話を伝えた。
 殺し合いと憎しみあいの続くろくでもない世界の話。気がめいってくるようなネガティブな話。
 ゼフが褒め称えるような男には到底及ばないだろうが、シンはそれでも必死で己の生きてきた世界の姿を必死に表現した。
 極力表現が偏らないよう、アスハやブルーコスモスについても平等に表現した。ついには関係ないはずの自分のみの上話まで始める始末。
 コックが達が部屋に持ってきた食事をぱくつきながら、悲鳴を上げる体をなだめながら、ぶっ通しで話を続け……話が大方終わる頃には、シンはぐだぐだに疲れ果てていた。

「……っは〜」
「やれやれ。ろくでもねえ世界だな」

 分かっていた事だがよ、と付け加えて、ゼフは嘆息した。シンはがらがらになった喉を水で潤すのに夢中で、そんな評価など聞いていなかったが。

「……ウェイター」
「なんですか?」

 喉も潤い、ひと段落したとばかりにリラックスするシン。そんな彼に投げかけられたゼフの問いは不意打ちだった事もあって彼の耳に必要以上に重く響いた。

「手前の『 野 望 』はなんだ?」
「…………」

 ぱ り ん っ !

 荒っぽいコック達がいくら暴れても壊れないように、頑丈に作られたはずのガラスのコップが、シンの手の中で砕けた。砕けたガラスが手のひらの皮を突き破り、血が流れ床板に小さな池を作ったが、流した側も流させた側もその赤い命のエキスを一切気にすることはなかった。
 流す側は猛る。

「今度こそ。俺の大切な人を守りぬく。
 この海のどこかにいる、ステラとマユの二人だ。俺を受け入れてくれた、ルフィ達だ」
「妹達のほうは……いねえかもしれねぞ」
「いるかもしれない。そして、今この瞬間も泣いているかもしれない」

 流させる側の正論を封じ、流す側はそれでも猛る。
 おのが心につきたてられた一本の槍が示す『野望』のため。

「たとえ二人がどんな場所にいようとも。この海にいるのなら、俺は探し出してみせる。
 そして、今度こそ二人を守り抜く。
 もう二度と、俺の大切な人達を傷つけさせはしない…… 絶 対 に だ !」
「それが、テメーの信念か?」
「ああ! 麦わらのジョリーロジャーに誓ってもいい!」
「海賊船の船員が海賊旗に誓うって事は、『命を誓う』って事だぜ」
「 当 た り 前 だ !」

 命を懸ける。その事にためらいは無く、むしろ望むところである。
 昔の自分ならばしり込みするであろう誓いに、シンは一切抵抗を感じていない……何故か?
 簡単だ。同じ事を平然とやってのける、 最 高 の 馬 鹿 野 郎 を知っているからだ。自分達の時代では考えられないその生き方に憧れたからだ。
 その憧れたルフィ達とかなり近い場所に自分が立っていると、シンは気付いているのだろうか?

 ゼフは、シンの話を聞き、その言葉に見え隠れする感情とその身の上を総合し、昔のシンを『餓鬼』の一言で簡潔に評価したのだが。その相貌は、間違っても『餓鬼』のものではない、一人の海賊の顔だった。
 憧れが、こうも人を強くするものなのか……値踏みするようにシンを眺めていたゼフは、その言葉に深い笑みを浮かべ、

「俺がすぐにてめえとラスティをつなげられたのは、戦闘スタイルが似てたせいもあってな。お前と同じ、速度重視の槍使いだった」

 シンの眼前に、ようやく登場したのは白く細長い包みだった。彼にデジャヴを与えた元凶ともいえるそれは、よくよく見るとかなり古びていた。

「さて、こっからが本題だ……」

 シンが見つめるその前で、色あせた布包みがゆっくりと開かれて……あらわにされたその中身を見て、シンは息を呑んだ。

「こ、これって……!?」

 そこに現れたのは、一本の槍。
 青い柄に赤い柄飾り、白銀の刃を持つ、鋼作りの槍だった。よくよく見れば柄や飾りには細かい傷が目立ち年季を感じさせるが、白銀の刀身は新品の如き輝きを放っている。

「ラスティがグランドラインで暴れてた時に、ザフトが接触してきてな。こいつは、その時に連中がよこしたもんだ……時期的に見て、ラスティを私兵集団に加えたかったんだろう。間に合わずに壊滅しちまったが」
「……まるでガンダムだな。このカラーリング」
「持ってみろ」

 いわれて、シンは反射的にその槍をつかみ……その表情を、さらに驚愕でゆがめることになる。

「!? か、軽い!」
「ザフトの研究過程でできた極軽量の金属で出来てるそうだ。強度はそこまで高くねえが、軽さは折り紙付よ……これをてめーにくれてやる」
「な!? 何言ってんだあんた!」

 あれほど誇らしげにしていた仲間の形見ともいえるものを譲る……信じがたい、理解しがたいその言葉に、シンは思わずタメ口になってゼフを問い詰めた。

「勿論ただじゃねえ」

 貫禄が違うというべきか、シンの詰問に対してゼフは冷静に対処する。

「こいつは、ラスティの魂とも言うべき代物だ。グランドラインの長い航海を、俺や仲間と渡り歩いてきた『信念』の槍だ」

 ゼフは言わなかったが、彼が信念の強さを『槍』にたとえたのは、この槍の存在があったからこそだった。誰にでももてるほど軽く、しかし振るうものによっては凄まじい力へと変貌するこの槍は、ゼフの中では信念の象徴だった。

「俺の故郷にはこんな言い伝えがある。
 『海で散った命は、海を流れて生まれた島へと必ず帰り着く』
 他の船員達はこの世界に故郷がある。だが、あいつはこの海のどこを探しても、故郷がねえんだ。
 あいつの魂は、今もこの槍に宿ってる。俺はそう信じてる」
「…………」
「故郷に返そうとは思わねえが、今の俺じゃあこいつの魂に満足な物語の材料を提供する事が出来ねえ」
「…………」
「壊れてもいい。欠片でもいい……そいつを、お前達の『物語』に連れて行くことが条件だ」

 海賊王になる男。
 その仲間の傍にいてみる事の出来る『物語』。
 いかにもラスティが喜びそうな事だとゼフは思う。

「わかった」

 答えは、簡潔。
 シンはそれ以上は何も言わずにラスティの槍を手にし、立ち上がった。

 そして……

 ひゅっ!

 槍の軽さを確かめるかのように、それを振るう。

「オーナー。こいつの銘は?」
「『ネバーエンディング』……ラスティの奴は、そう呼んでいた」

 何気ないゼフの返答は、シンに運命を感じさせずにはいられない。
 言い方を変えれば『エターナル』。こじつけかもしれないが、フリーダムと縁のある名前に思わず笑みを浮かべて、言った。

「悪いがオーナー。銘を変えさせてもらうよ……こいつは今日から、
 『 イ ン パ ル ス 』だ」

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