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SIN IN ONEPIECE 82氏_第14話

Last-modified: 2013-12-24 (火) 03:54:44

 犯罪者の心理というものを考えた事があるだろうか? 先に言っておくと、今から例に出す魚人海賊団……彼らに、人間を殺した事に対する罪など存在しない。あるとすれば、害虫を駆除した時に似た安堵感だけである。『海賊』という『悪』としての自覚はあっても、『道徳』における『悪』としての自覚は無い。彼らにとっては種族の優劣の名のもとに行われる、正義でしかないのだ。

 シンは無論のこと、そんな魚人達の思想など知る由も無い。そもそも、この世界に来た事自体つい最近なのだから、知っているはずも無い。

『シン……』

 それでも。
 彼には、魚人達のそんな『本性』が手に取るように分かるのだ。

『シン……守ってくれる?』

 かつて、彼が守ろうとしたあの少女の運命を蹂躙した、クソヤロウ共と同類なのだと。

(もう二度と、傷つけない)

 シンは、決意を固めながら己を嘲笑った。ゾロやルフィたちはあくまでナミのために戦うのだろうが、シンの動機は彼らのそれとは趣が異なる。ナミの為である事には間違いないが、幾分かの不純物が混ざっていた。

(もう二度と、ステラのような人間はださない!)

 他人のエゴのために全てを踏みにじられるような人間を、二度と出さないため。
 踏みにじる人間を、絶対に許さない為に。
 己が胸に掲げた信念の槍、そのために。
 彼は怒る(イカル)のだ。

「アーロン? アーロンってのは、俺の名だが?」

 居並ぶ魚人たちが身構える中、アーロンの態度はふてぶてしい事この上なかった。専用のチェアーに座ったまま、顔すら向けずに応える。問う側も、そんな細かいことなど気にする事もなく、会話は進む。

「俺は、ルフィ」
「……アスカ・シンだ」

 二人は、肩を並べてアーロンに向かって歩いていく。

「ほう? で、テメーらはなんだ?」
『 海 賊 ! 』

 二人の声が唱和し、居並ぶ魚人達の鼓膜を揺らす。

「その海賊が、何のようだ?」
「おいおい、何処行くんだ? オメー」
「アーロンさんに、話したきゃあ、まず俺たちに……」

 話を通せ、とでも言いたかったのだろう。
 二人の魚人が、ルフィの前に立ちはだかり、その進行を止めようと……『した』。
 未遂に終わった理由は、簡単だ。

「邪魔」

 ドガゴッ!!!!

『ぐぎぇぁっ!?』

 次の瞬間、二人の体は宙を舞っていたのだ。
 本当に、一瞬の事だった。二人の手がルフィに届く直前に、その体はなんの予兆もなしにぶっ飛ばされたのである。

『――ッ!』

 一瞬にして動いた事態についていけず、魚人達の大半はあっけにとられ。例外である幹部達は一様に息を呑む。
 幹部達には、『見えた』のだ。
 シンの手にした布包みが高速で振るわれ、二人の魚人を強かに打ち据えた、その光景が。
 あの速度で首筋をぶん殴られては、意識など残っていないだろう。

 東の海最悪の男は狼狽しなかった。ただ、『同朋』を傷つけられた怒りに目をむいて、迫る二人の姿を睨む。皮肉な事に、今アーロンが抱いた感情は、向かってくる二人が抱いている感情と、同質のものであった。
 すなわち、『仲間を傷つけられた怒り』

 ――吹き飛ばされた二人の体が落下し水面に着水した時には、二人とアーロンの距離はかなり近づいていた。
 この期に及んでも、アーロンはチェアーから立ち上がろうとしなかった。この男は自分が東の海でどう思われているか知っていたし、人間風情の攻撃で傷つかない事も知っているのだ。魚人の中でも重量級のアーロンに、ルフィのような小柄な人間が、素手で接近しても脅威でもなんでもない、そう考えたのである。
 そして、アーロンが二人の間合いに入った瞬間。
 ルフィは、こぶしを握り締め、
 シンは、手にした布包みを振り上げて、

 ど ご お っ ! ! ! !

 ふてぶてしい、魚人アーロンの顔面に、たたきつけた!

 ――正直、ここまではアーロンも予想していたのだ。
 敵意むき出しの相手に無防備な姿を攻撃させるのは、アーロンの戦術上の駆け引きの常套手段である。素手の相手には特にそう。相手の攻撃を受けることで、ことさら相手と魚人の力の差を見せ付けるのだ。時々歯ごたえのあるクソ人間がいるが、そんな奴の攻撃も同じように受け止めて見せた。

(人間風情に殴られようが、痛くも痒くもねえ)

 アーロンの偽らざる本心である。素手の人間相手に身構えるなど、彼のプライドが許さない。無防備な相手にダメージを与えられないという現実は、相手が使い手であればあるほど、己の技に対する自負が高いほどに闘争心とプライドにダメージを与えるのだ。
 後は、闘争心の揺らいだ相手をたっぷり嬲って料理するだけ……今回も、それで終わる『ハズ』だった。

 しかしだ。
 二人の放った一撃の威力は、アーロンの予測をはるかに超えていた!
 信じがたい事に、二人の攻撃はアーロンの巨体を揺るがし、チェアーから吹っ飛ばしたのである!

(何だと!?)

 どしゃぁぁっ! どがぁぁぁぁんっ!!!!

 予想外の衝撃の強さに、アーロンは受身を取ることすら忘れて吹っ飛ばされ――アーロンパークの、反対側外壁までたたきつけられた。アーロンの体を受け止めた外壁はその衝撃に耐え切れず、粉々に粉砕される。その吹き飛ばされる姿は、まるで子供が吹き飛ばされたかのように無防備で。

 信じがたい事だった。自分の身に起こった事が。
 長くこのアーロンパークを居城とし、何十人もの賞金稼ぎを返り討ちにしてきた……中には、クロオビたちを倒してアーロンの元に辿り着くほどの猛者も居た。が、一切の例外なく、アーロンの前に敗れてきたし、アーロンの戦術ロジック……攻撃を受けて無傷で済ますという戦術を崩せたものも居なかった。

 傷を負ったわけではない。ダメージはほぼ0といっていいだろう。
 それを差し引いても、魚人アーロンの体が吹っ飛ばされるなどという事態は『異常』だった。
 これでは、相手の闘争心は折れるどころか、煽られるだけだろう。それ以上に、目の前に居る男達は今までのどんな相手よりも厄介な手間ということになる……たかが人間風情が!

「てめぇら……一体……?」

 自分自身と相手に対する怒りで、アーロンの意識はギンギンに冷え切っていた。静かな、恐ろしいほど静かな問いを投げられた二人組はというと……思い出していた。

 改めて、『何故』自分達がアーロンに喧嘩を売ったのかを。

『ルフィ……助けて……』
『いやぁっ! 死ぬのは嫌ぁっ!』

 二人の脳裏に浮かぶのは、涙を浮かべる少女の姿。二人それぞれ思い浮かべる少女は全くの別人だったが、思いは一つ。

「 う ち の 航 海 士 を 泣 か す な よ ! 」
「 あ ん た に 引 導 渡 し に 来 た ん だ よ ! 」

 大切な仲間を、守るべき者を踏みにじった奴をぶっ飛ばす!!

「……っちゃー」

 一方。
 アーロンが殴り飛ばされるのを誰よりも近くで眺めていた男……ドニールはといえば。
 彼がシンと並んでる姿を見て、頭を抱えたくなった……よりにもよって、モームをぶっ飛ばした奴らの一人である。
 こそこそと四つんばいでルフィたちと距離をとり、一味のほうへと下がりながら、内心頭を抱えたくなった。一番痛かった事実は、シンが傷らしい傷も負っていないという事実である。モームは一味でも幹部級の主力であり、それを、三対一とはいえ無傷に近い状態で撃退したとなれば……少なくとも、モーム以上の戦闘力がなければお話にならないという事だ。

「こ、こいつら! アーロンさんに何をぉっ!」
「やっちまぇっ!」
「あ゛」

 止める暇もなにもあったもんじゃなかった。アーロンの周りで屯していた連中は勿論、海中に居た魚人たちまで地上に這い上がり、いっせいにルフィたちに向かって襲い掛かる。
 当たり前の話だが、彼らは幹部やモームと比べると一山いくら程度の連中でしかなく、

「鬱陶しいっ!!!!」

 どがががごごぎゃがごがっ!!!!

『ぎゃぁぁぁぁっ!?』
「ぎゃーす……」

 ……モームを無傷で倒すような奴相手に、敵うはずが無いのである。
 件の二人と同じようにぶっ飛ばされる大量の魚人の姿に、ドニールは今度こそ本当に頭を抱えた。こんな光景を見せられて、アーロンがどれ程怒り狂う事やら……出来る事なら止めたかったのだが。

「おーおー、勝手に突っ走ってくれちゃってまあ」
「げ」

 ルフィ達の後ろに見えた連中を見て、頭痛は更に酷くなった。モームの一件と、ここ最近アーロンパークで起きた騒ぎを全て知るドニールからすれば、とんでもない面子だったのである。
 黒い服のコックに、三刀流のロロノア・ゾロ。そして、死んだはずの長っ鼻。
 どいつもこいつも、ドニールにとっては頭の痛くなる奴らだった。

「あー! あいつだー!」
「あの長鼻、生きてやがったのか」

 いつもはのんきなハチがゾロを指差して叫び、チュウはウソップの生存を冷静に受け入れて、最後に、クロオビがこう締めくくった。

「あいつが生きていたという事は……やはり、ナミは裏切り者か! 俺の思ったとおりだ!」

(……な、ナミの立場が加速度的に悪くなっていく)

 一方、最後に残ったアーロン一味幹部のドニールは、地面に手を突いてうなだれていた。
 クロオビの言う事も当たり前で、ウソップはナミが殺したはずだし、そもそもその原因は、ゾロをナミが逃がした事によってかかった『裏切り者』の疑いを晴らすためなのである。
 いわば、ここに並んでいる雁首は、ナミがアーロン一味に対して明確な敵意を持っているという証拠も同然で。まあ、そんな事ははなから分かりきっているのだが、証拠があるとないとでは扱いの落差は明らかだ。
 アーロンがああいう手段に出て、ナミの一味残留が決まった以上、仲良くできるのが一番いいはずなのに……

「ナミ……成る程、そういう繋がりか。最初からナミが狙いだったわけか」
「やり辛い」
「……?」
「やり辛い、ああやり辛い。やり辛い」
「……俳句のつもりか?」

 575で纏めてあるが、季語もクソも無い妙な句だった。いいたい事はおおよそわかる。
 ドニールは重ねて嘆息し、シンを真正面から見据えた。

「やりづらいに決まってるだろ。一旦は和んだ相手、それもナミのお仲間だ……あいつが積極的にこの騒ぎに参加するとは思えないがな」
「……一方的にお喋りされた記憶しかないんだが」
「それでも和んだの! ……ナミって、怒りは発散するよりも溜め込むタイプだしな。クロオビが言うような裏切りもありえんし、大方、ナミの扱いに耐え切れないでやってきたとか、そういう話なんだろ?」
「なんだと? 何故そういいきれる」

 意外に的確に状況を判断しているドニールの言葉は、シンだけではなく他の魚人たちにも意外さを抱かせたらしい。マユを跳ね上げただけのシンとは正反対に、クロオビは発生した感想をそのまま言葉に代えて投げかける。

「ナミは頭のいい女だ。あいつが本当に裏切ってこいつらをここに呼んだんなら、もっとスマートに事態を進めるはずだろ。第一、人選が良くない……本気で裏切るんなら、ローグタウンに居るって言う海軍本部の『白猟』と『点炎』あたりを上手く誘導するんじゃないかなと。
 多分、こいつらはナミの獲物だったんだ。ナミが裏切ったのが信じられなくて、ここまで追ってきたのが真相なんじゃないか?」
「――随分と、ナミの事を理解してるみたいだな」
「まぁ、親しくしてるしね」

 ひょいと肩を竦めるドニール。にらみ合う二人を放置して、事態は進んでいく。

「馬鹿めぇっ! お前らなんか、アーロンさんが相手にするかぁっ! こいつで十分だぁ!」

 何故かえらそうに胸を張り、ハチは手を己の長い口に添えて……吹いた。

 ぱっぱらっぱぱっぱらっぱぱっぱぱらっぱっぱー!

 ハチの行為がモームを呼ぶ合図だと気付いたドニールは、慌ててそれを止めようとしたが、思いなおした。

(他の皆と連携すれば、一人ぐらいやれるかな?)

 驚いた事に、その口から漏れてきた音はまるでラッパの音色で。それを聞いたシンは、半眼で魚人たちを眺めて、

「どういう体の作りしてんだあいつ……」

 口吹くだけでラッパの音色なんて、普通の人間には出来ない。上級種族云々以前に、やりたくもない。呆れ眼のシンに対し、ドニールはため息をついて、

「あれはハチの特技みたいなもんさ……ほれ、人間にもいるだろ? 奇人変人って奴。あの類だよ」

 ざばぁぁぁぁぁぁぁっ!!

「モームだと!? ゴザの町をつぶした怪物か!」
「グランドラインの、海牛……!」

 告げる声とともに海が波立ち、海面が隆起していく。その有様にシンの後ろに居並んだココヤシ村の人々は、恐怖と恐慌を声にして発する。

「いくらモームに勝ったからって、今この場でも勝てると思わないことだな。今度はモーム一体じゃないし、魚人と人間じゃ悲しい事に体の仕組みって奴が違う」
「体の仕組みが変わってるねえ……うちにもいるぜ、そういう奴」
「?」

 ココヤシ村の人々と違い、シンは海獣モームの出現に、全くといっていいほど動じていなかった。

「宣言してやるよシュールストレミング野郎。
 あの海牛と魚人の雑魚共は、今から五分以内にうちの船長にぶっ飛ばされる」

 朗々と告げられたその予言よりも、死ぬほど臭い発酵食品扱いされた事に、ドニールは頬を引きつらせた。

 追記・シュールストレミングは、ニシンの発酵食品である。

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