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SIN IN ONEPIECE 82氏_第17話

Last-modified: 2013-12-24 (火) 03:57:38

 ザパァーン……!

 文字にしてみればたったそれだけで終わってしまう、水の音。人間が海に向かって飛び込むときに発生する音であり、海賊団の中で海中での銛付き漁を担当しているシンにとっては、誰よりも近くで聞きなれている類の音である。
 取るに足らないはずのその音に、シンの心の水面は激しく揺れていた。
 当たり前である。今海に向かって放り投げられたのは、カナヅチで泳げないルフィであり、足にはコンクリートの錘付きなのだ。

「ルフィ!?」
「っちゃー、えぐい事しなさる」
「シャーハハハハハハハハッ!!」

 シンの上げた悲鳴とドニールの嘆息をよそに、加害者の哄笑が天高く鳴り響く。悪魔の実の能力者の上に足にあんな錘をつけられては、溺死は確実だった。

「今助けに……」
「よせサンジ!」
「馬鹿待て! 海に飛び込んだらこいつらの思う壺だ!」

 思わず海に飛び込みそうになるサンジを、ゾロとシンが制止した。海中でその能力が何倍も上がる魚人を相手に、呼吸すら出来ない人間が挑むのは無謀でしかないのだから。ルフィを助けようとすれば、陸で魚人達を瞬殺するしかないのだ。
 船長の命を懸けた、時間制限付の死のゲーム……時間内に倒せなければ負けというのがアーロンの言うゲーム。
 人間の命などクソとも思っていない吐き気のするゲームだった。

「時間がない! 速攻で終わらせろシン! そのデカブツに居られちゃあ、どうにもならねえ!」
「おう!」

 ゾロの声に応え、槍を構えたものの……シンは自分の言葉を実現するプランが、全く見えずに居た。
 当たり前である。敵はただでさえ厄介極まりない巨大海獣に、老獪極まる司令官がオプションに付いた難敵。助けに行くべき船長は今目の前に浮いている怪獣の足の下に沈んでいるのだから、排除しなければ始まらない……言い方を変えれば、シンがこいつを排除できるかどうかで、ルフィの運命が変わる。

「し、シンの兄貴……大丈夫か!? あんな攻撃、一発当たったら終わっちまうぞ!」
「馬鹿野郎! シンの兄貴があんな攻撃に当たるかよ! 全部避けきってくれるはずだ!」

(さてさてどうするか)

 ヨサクとジョニーのわめく声をバックミュージックに、ドニールは内心嘆息する。
 好悪の感情はともかくとして、ドニールにとってアーロンの『ゲーム』は面倒な事この上ない。
 確かに、いい面もあるにはある。敵に時間制限を与えて、『焦り』を与えたのは大きい。
焦りは判断力を鈍らせ、より敵の思考を短絡化させる。そうすれば、相手の思考や行動は、ずっと把握しやすくなるのだ。
 にもかかわらず、厄介だと表現した理由は……

(間合い離して時間稼ぎするのもいいんだけどなー)

 シン達の攻撃が届かない位置でブロームをぷこぷこ浮かせる。それだけで、ルフィの命は実にあっさりと海に解けて消えるだろう。あるいは、海中で待ち伏せて飛び込んで助けようとする相手をぶっ飛ばせば、合理的で楽な事この上ないのだが。

(クロオビがうるさそうだな)

 人間相手に姑息な策を弄するなど、魚人の風上にも置けん!
 正々堂々とした武士道騎士道ではなく、人間への差別意識から怒鳴り散らす姿が、容易に想像できてしまう。人間は踏みにじって当然という実に短絡的な思考である。
 そもそも、船長であるアーロンが『ゲーム』と宣言してしまったからには、それに従うしかないだろう。逆らってしまっては、大恩のあるアーロンの顔に泥を塗る事になる。
 最適の方法があるのに、諸事情で実行できない……合理主義者のドニールからすれば、舌の上に髪の毛が絡みついたような、むず痒い事この上ない事態だった。
 クロオビたちに分からないように、ドニールはアーロンをジト目で睨みつけ、アーロンはそんな部下の態度に笑った。

「シャハハハハッ! そう睨むなよドニール。
 愉しくゲームといこうじゃねえか」

 アーロンの本音を言ってしまえば、彼が一味の中で最も信頼しているのは、このドニールなのだ。彼の部下達の間では、『人間相手に策を立てるなど臆病者のすること』だとするような風潮があり、クロオビなどはその筆頭だ。
 ドニールの他の部下達にはない老獪な思考回路と常に合理的に物事を捉える視点を、アーロンはこの上なく高く評価していた。クロオビたちの手前決して口に出しては言わないが、ドニールこそがアーロンパークのNO2だと思っている節がある。総合的な戦闘力でも、頭脳でも、ドニールに勝てるものは一味にはいないだろう。

「……はぁ、なんか、後味悪い事になりそうだな」
「元々後味悪いだろ、腐れ魚共」
「シュール扱いはやめてくれたのかい?」

 構えたままつぶやくシンに、シュール扱いさえされなければいいらしく、ドニールはうれしそうに問い返した……が、返答はこの上なくドギツイ。

「シュールストレミングやホンオ・フェは発酵食品だけど、あんた等たんに骨の髄まで腐ってるだけだろ。一緒にするだけ失礼だ」

(え? 発酵食品じゃなくて腐敗物扱い??)

 さり気にランクダウンしていた。
 ドニールは目を白黒させるも、シンはそんな事はお構いなしだし、かまう必要もなかった。コーディネーターでもしないような、他人の命をチップにしたお遊びに、彼の意識は怒りに染まっていたのだ。

 こんっ!

「とっとと……」

 シンは、ブロームと同じ色の瞳を光らせながら、足元の小石……ブロームに砕かれた足場の欠片を蹴り上げた。色も同じならば、こめられる感情も同じであり――発せられる意思も全くの同一。
 すなわち、『相手をぶっ飛ばす』という敵意!

「 終 わ ら せ て や る よ っ ! 」

 蹴り上げられた石がシンの眼前を通り過ぎた瞬間、シンの全身が躍動した。
 全身のバネ、関節を総動員し、最短の動きで槍を回転させ、石突を前に持ち替えて……小石に向かって突きを放つ!

 が ん っ ! !

 驚異的な運動エネルギーを加えられた小石は、弾丸の如き加速を持って敵に向かって牙をむいた。
 牙の飛ぶ先に居るのは……ドニール!

「うどろわぁっ!!?」

 間一髪、情けない悲鳴を上げながらのけぞり、飛来した小石を回避する。後先を考えない無茶な回避でバランスが崩れ、落ちそうになるのを突起を掴む事で何とか防ぐものの……はっきりいって、ドニールのその姿は格好悪い事この上なかった。

(あ、危、アブ!?)

 心臓を伝わる冷たい汗の感触と、背筋をツララが貫く感触。双方錯覚だと分かってはいるのだが、余りに強烈なそれらの感触に、ドニールは風邪ひかないか!? と場違いで的外れな感想を抱いてしまう。
 相棒ではなく、自分が攻撃目標とされたことに対し、彼は一ミクロンの意外さも抱いては居なかった。むしろ納得さえしている。
 先ほどシンを追い込んだ策を初めとして、ブロームに『戦法』や『戦術』を与え、そのパワーと防御力を最大限に引き出しているのは、ドニールだ。少し頭の回る奴なら気づける事だし、そこから突っ込んで考えられる奴なら、戦闘能力の低い自分から排除するだろう。
 対応策もきちんと合ったのだ。ブロームの肩の上に載っているドニールを倒そうと思えば、銃などの遠距離攻撃しかない。この銃という武器、圧倒的な力を持っているように見えるが、案外弱点が多いのである。構造上の欠陥など上げていけば切りないほどなのでこの場では割愛する。問題となるのは、攻撃に移るまでのアクションの多さだった。
 剣やナイフが振るというワンアクションで攻撃可能なのに対して、銃は狙いを付ける、引き金を引くの2アクション。たった1の差が、この場合は致命的なのである。
 ドニールがブロームに対し、拳銃で狙われた時の対策として授けた策とは……至極単純、『相手が拳銃を構えたら、自分の体を手のひらでかばえ』という指示だけだったりする。
 鈍重そうな概観に似合わぬ動体視力と反射神経をもつブロームには、コレで十分なのだが……生憎、シンの挙動を不意打ちのあれを遠距離攻撃だと判断するだけの賢さは期待できなかったようだ。それがなくとも、石を打ち込む時の行動の速さは尋常ではなかった。

「一発で、終わるかよ!」

『ぶろぉっ!?』

 ようやく事態を理解しうめくブロームに向かい、シンは連続で足元の小石を蹴り上げ、槍を旋回させる。
 回転による遠心力をそのまま次の動作に上乗せする、ヴァジュラの進化発展系。斬撃ではなく刺突で、ビリヤードのごとく弾丸を放つ技……

「 C I W S ( シ ー ウ ス ) ! ! ! ! 」

 ひ ゅ が が が が が が が が っ !

 近接火器防御機構の名を冠したその技は、由来になった武装を再現するかの如く、蹴り上げられた小石を次々と弾き飛ばす! はじき出された弾丸のうち、8割近くがブロームとドニールの二人に襲い掛かった。
 残りの二割は的を外れている。ブロームとドニールという標的の大きさを考えると、戦闘に使うには余りに論外な命中精度といわざるを得ないが……
 甲羅にはじかれ、明後日の方向に飛んでいく石つぶての行く末を見据え、シンは悔しさに歯噛みした。

 『これ』が時間稼ぎにしかならず、相手がその気になればそれすらあやしいという脆弱な技だという事は、シンも百も承知だった。脆弱な技を使用せざるをえなかった理由が、実に情けない代物だっただけに、悔しさもひとしおである。
 シンが持つ技の中で、間合いの外に届く『攻撃』がコレひとつしかなかったのである。

(くそっ! なんとかしてあのデカブツをこっちへ引き寄せないと)

 攻撃が届かなければ相手を倒すなど不可能であり、それには敵の立ち位置を動かさなければならない。とはいえ単純に飛び掛っていけば蝿叩きよろしく叩き落とされる事は想像に難くない。空中を駆け回るような手段があれば話は違ってくるのだろうが……

(ふーむ)

 一方のドニール側は、シンの内心や悔しさには届かないものの、シンの攻撃が苦し紛れにしかならない事を把握していた。この状況で時間を稼ぐなど百害あって一利無し、ルフィの命が海の底に沈み、手の届かない場所に沈みつつあるにも関わらず、こんな手段に出ているという事は。

(それだけ追い詰まってるって事だよな)

 間合いの外への強力な攻撃手段をもつ戦士など、一流と呼ばれる人間の中にもそうそう居るものではない。シンも例外に漏れず、間合いから離れてしまえば脆弱な存在に早代わりというわけだ。
 シンの攻撃の脆弱さは、ドニールからすれば手に取るように分かる。少し目をつぶって耳を済ませるだけで、彼にはシンの攻撃の威力が分かってしまうのだ。
 耳にタコが出来るほど聞いてきたブロームの装甲に対する攻撃の音と、その攻撃を受ける装甲の反響音。五感の優れたドニールにはそれだけで十分な情報であり、音の重さや反響具合で、相手の攻撃の威力を把握する事が可能。ブロームの巨体を外れ、海面に落ちていく石の音さえ、聞き分ける事が出来た。

(そもそも、たいした威力じゃないし、命中率も悪いらしい)

 このような状況におかれた場合、一流の戦士は速やかに距離をつめ、敵を無理やり間合いの内側に引き込むのだが……ブローム相手にそれは不可能である。

(このまま受け続けてもいいんだけれどなあ)

 ふと脳裏をよぎった合理的な解決法を、ドニールは即座に却下した。それではゲームが成り立たない。
 非常に不本意ながら、恩人がゲームと宣言してしまった以上、ドニールはその意思に従うほかないのだ。

(とっとと終わらせるか)

 決断した理由は二つ。
 ひとつは、恩人であるアーロンの意思に対して、己の合理的思考が産み落とした妥協の産物。速攻で終わらせれば、アーロンも文句は言わないはずであり、これ以上ストレスを感じずにすむ。
 二つ目は……シンに対する敬意から発生した、侮辱ゆえの理由だった。
 こんな無様な姿を晒させ続けるのは、哀れすぎるという、傲慢極まる見下ろした発想。
 ブロームの装甲に背中合わせの形で張り付きながら、彼は右腕を上げて振り下ろす。

「ブローム、ハンマー……叩き潰せ」

 実にあっさり決意して、ドニールは隠れたまま号令を発した。あまりにもあっさりしたその言葉は、シンに対する死刑宣告で。

『 ぶ ろ ぉ ぉ ぉ ぉ ぉ ぉ ぉ ぉ ぉ っ ! ! ! ! 』

 ブロームは咆哮するとともに右腕を振り上げ、CIWSを放ち続けるシンをにらみつけた。

(ま、マズイ!)

 あまりに大きな予備動作。避けて下さいといわんばかりの、攻撃直前での間。通常ならば鼻で笑うことすらせず対応するはずの攻撃に対し、シンは青くなることしか出来なかった。
 状況が違うのだ。避けようにも避ける場所がなく、攻撃でけん制しようにもけん制にすらならない……! カウンター気味に間合いを詰めて攻撃するという選択肢は、しっかりとでこぴんの形のままでホールドされている左手を見て、却下せざるを得なかった。

 ぐ お っ ! ! ! !

「くっ!」

 圧倒的な破壊力を秘めて振り下ろされる真紅の大質量を前に、シンは歯噛みして……賭けに出た。
 地続きになる足場はなくとも、プールを挟んだ足場や瓦礫の塊なら無数にある。そこに着地できれば……

(でこピンの対空にも、限界はあるはず!)

 確信など一欠けらもない可能性……それに、シンは全てを賭けた。
 構えた両足に力をこめて、左……ブロームから見て右側、振り下ろした腕の外側、そのむこうにある瓦礫にむかって跳躍した。

 ご し ゃ ぁ っ ! ! ! !

 シンの立っていた唯一の足場が粉砕され、破片が宙へと舞い上がる。シンの体重ほどの重さがあろうかという大きさの石の塊が眼前に浮き上がり、シンの心胆を凍りつかせた。

「よっしゃぁっ! よけたぁっ!」
「やったぜシンの兄貴!」

 傍から見たら華麗に回避したように見えるシンの姿に、ヨサクとジョニーは歓声を上げる。
 追い詰められ、叩き潰されるしかないという攻撃に対してあの反応……ゾロは重症の身であり、サンジはクロオビ相手に攻めあぐねるという風向きの良くない状況で、シンのこの華麗な回避は、唯一の光明といっていいだろう。

「兄貴―! やっちまえー!!」

 ヨサクが叫び、ジョニーがこぶしを握り、ギャラリーに回ったココヤシ村の面々の胸には忘れられた感情がよぎる。
 もしかしたら、勝てるかもしれない。
 もしかしたら、アーロンの支配が終わるかもしれない。
 とうの昔に凍り付いてしまった、『希望』という感情が、彼らの胸郭の内側から滲み出してくる。

 しかし、

「ブローム、バックスイング」

 ど が ぁ っ ! ! ! !

 全ては、一瞬の事だった。
 足場に向けてたたきつけられたブロームの右腕が右側になぎ払われ……『何か』がそこにぶち当たる音ともに、シンの姿がヨサクたちの視界から消えた。

「……は!?」

 ざっぱぁぁぁんっ

 いきなりの事に反応できないヨサクの聴覚に遠い音が聞こえ、視界の片隅、はるかに広がる遠い海原に、小さな水柱が上がる。
 そこは、ブロームが腕を振り払った方向。
 振り回された腕に物が当たったら吹っ飛ばされるであろう方向。

「し、シンの兄貴……!?」

 まさか。もしや。
 限りなく真実に近いであろう発想が頭の中に浮かびつつも、それを否定するためにジョニーは声を振り絞った。

 返事はなく、シンの姿は彼らの視界に現れる事はない。

「くっ……」
「ゾロの兄貴!?」
「てめえ! やっぱり鷹の目から受けた傷が!」

 ど が ぁ っ ! ! !

「余所見はするなと言った筈だ。俺は魚人空手40段!」

 ついで、血を流しすぎたゾロがひざを突き、気をとられたサンジの体がクロオビの拳で吹き飛ばされて。

「コックの兄貴ぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!」

 ――終わった。

 ヨサクの絶叫を聞き流しながら、ココヤシ村の住人達は嘆息する。
 彼らは絶望はしていなかった。ただ、希望を抱く変わりに諦めてしまっただけである。

 ――俺達は、死ぬ。

 そこに絶望はなく、生きる事に対する諦めと魚人たちに対する敵愾心、そして怒りを原動力にした意地があるのみだった。
 元々勝ち目のある戦いでもなかったのだ。生きる事などとうに捨てている。
 奇妙な光景だった。ココヤシ村の住民達は、諦めに似た表情で武器を取り、奥に居座るアーロンを睨みすえる。

「ニュー!? にゅ?」
「誰をぶっ飛ばすんだハチ……」
「もう終わりか、つまらねえ連中だ」

 にらまれていることにすら気付いていないあの男に。
 自分達やナミから何もかも奪っていくあの外道に思い知らせてやろう。
 住民達は心の中で叫ぶ。
 貴様らに分かるか?
 ひざを付いている幼子に手を差し伸べる事すら出来ない人間の気持ちが。
 わからないだろう。
 自分達のために体を張っている少女に、演技とはいえ冷たく当たらねばならなかったもの達の気持ちなど!

(悪いなゲンゾウ、ノジコ。先にいかせてもらうぞ)

 ルフィを助けに行った二人に声をかけ、住民達は一歩踏み出そうとして。

「あいや待った一寸待った!」

 意外な男が発した上方からの声で、止められてしまった。
 この場に居るもの達の誰よりも高い場所に居る男……ドニールの声によって。

「止めてくれるなドニール!」
「これは、わしらの意地じゃ!」

 自分達を見下ろし、自分達をフォローしてくれるであろう男の声に、住民達はあえて逆らった。ここで命を請えば何もかもが無駄になってしまう、そんな強迫観念にとらわれて、彼らは吼える。
 そんな人間達の内心の葛藤など存在しないかのように、アーロンは声の主を一瞥し、口を開いた。

「どうしたドニール」
「…………」

 返事は、なかった。
 ドニールはアーロンの言葉にも住民達の奉公にも答えず、ブロームの背中にぶら下がったまま、双眸を閉じていた。

(おかしい)

 自分の言葉で住民の暴発が防げた事に満足しながらも、何かが、彼の五感に引っかかった。
 何かが、おかしい。
 ドニールが聞いた、ブロームによる一連の破壊活動の音に、言い知れぬ違和感を抱き、彼は思い出す。

(ええっと、まずブロームが腕を振り下ろして、奴がそれを右に避けた。たたきつけられた腕で足場の意思が砕けて、破片が……34個。宙を舞う。中でも一番大きな破片は奴の正面をよぎって、それが着水する前に俺の指示によって吹っ飛ばされた。
 破片が腕の装甲を叩く音と共に、重い衝撃音が一つ。これで破片のデカイのが割れて……音からして、三つほどか。そして、兄ちゃんと一緒に遠くに向かって弾き飛ばされた。
着水音は約三つ。からして、まず間違いなく、吹っ飛ばされたのはあの兄ちゃん……一寸待ておい)

 ここまで考えいたって。
 ドニールはようやく、違和感の正体に気が付いた。

(着水音が三つ!? 『三つに割れた破片』と人間一人で四つじゃねえのか!? 計算があわねえ! だとしたら……!)

 慌ててブロームの肩によじ登り、辺りを見回すドニール……そして、彼は発見する。
 ブロームの装甲と同じ、紅い、紅い男の姿を。最も見つけたくない場所で!

「……勝手に終わらせてくれるなよ腐れ魚」

『ぶ、ぶろぉっ!?』

 不意打ち……そう、シンが発した言葉ブロームにとってまさしく不意打ちだった。声の大きさではなく、声の発生する場所が、ブロームの想像の範囲をはるかに超えた場所だった。
 慌てて、声の発生源……自分の拳を注視するブロームとドニール。

「色々言いたい事はあるが、なにはともあれ……」

 がすっ!

 ブロームの拳の中央に仁王立ちしながら、シンは石突で足場であるブロームの拳を叩いた。
 奇跡に近い回避方法だった。ブロームの拳が己の体を強かに打ち据える瞬間、眼前の破片を蹴って上方に逃げ、追撃を避けるために腕の突起を掴み、振りぬかれた腕にしがみついたのだ。破片がなければ全身の骨を砕かれていたであろうし、突起をつかめなければでこピンの追撃でやはり粉々だっただろう。
 問題なのは経緯ではなく、結果だ。彼は今こうして生きており……勝算も、見えた。

「詰めたぜ。間合いだ……!」

 破片で傷つけたのだろう。額から一筋の血を流しながらシンは不適に笑う。笑いたくもなる。
 あんなに遠かった敵の体が、こんなに近くにある。
 重要なのはその一点のみ。ドニールが作った老獪な檻はここに崩れたのだ。

「コレだけは言っとくぞタコ助……!」
「なーんだ」

「俺は会わなきゃならない男が居るんだ……そいつにもう一度会うまでは、
 俺 の 命 は 死 神 で も 取 れ ね え ぞ !」
「あいつのパンチが40段なら、いつも喰らってたクソジジイの蹴りは400段だな……」

 ゾロは勝ち誇るはちに対して吼え、サンジは血を流しつつも不敵に立ち上がり。

 三人から感じる余りの気迫の大きさに息を呑みつつ、ココヤシ村の人々は思い知らされた。
 まだ何も、終わってなど居なかったのだと。
 魚人達に対する人間の反撃は、これからなのだと……!

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