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SRW-SEED_シャドウミラー氏_第02話

Last-modified: 2014-01-03 (金) 00:22:57

 アラスカ基地、地球連合軍最高司令部が存在するこの基地の一室に最重要人物のみが使用するVIPルームと呼ばれる場所がある。その
存在を知っている者は極少数であり、そこに入るにはある一つの“資格”を持っていなければならない。
 部屋の中には豪奢に部屋を照らすシャンデリア、財の限りを尽くした絵画と美術品、これを人々が見れば本当に軍施設なのかと首を傾げ
るところだが、その部屋に居るのは数人の軍服を纏った連合軍人であり全員が司令部に籍を置く者ばかり。
 互いに向かい合ったソファーに座って話し合っているが、彼等の話題は一つの事柄に集約されている。話題に上るのは彼等にとっての共
通の悩みの種であるコーディネイターと呼ばれる存在だ。
「しかし奴らには困ったものだな。ユニウスセブンを破壊してもまだ息巻いているぞ」
「仕方ありませんよ、奴らにとっては重要な場所だったみたいですからな」
「なに、我らに非はない。然るべき処置をすると伝えておいたのに無視をした奴らが悪いのだ」
「所詮は化け物。どれほど力を増そうとも精神が未熟ではな」
 口々と上るのは侮蔑と嘲笑。彼等にとってコーディネイターと呼ばれる存在は害悪でしかなく存在することすら許されない遺伝子細工の
化け物でしかない。
 次第に熱を帯びていく彼等の会話は止める術もなく、そこにあるのは常軌を逸した憎悪だけだ。そして会話が最高潮に達そうとした時に
扉を開けて二人の男が入ってきた。彼等は先に入ってきた手前の灰色のスーツを着た男を見るとすぐさま立ち上がり敬礼をする。スーツの
男は気にした様子もなく手を上げて応えると、もう一人の男を連れて誰も座っていない上座のソファーに腰をかけた。
「ああ、皆さんも座ってください。まずは青き清浄なる世界のために祝いましょう」
 スーツの男が嘲りを混ぜて笑うと軍人達は手を胸に当てて口々に『青き清浄なる世界のために』と呟く。それが終わると彼等はまたソフ
ァーへと腰を掛けた。
「それで状況はどうですか? 聞いたところによると『世界樹』に配備している艦隊の出撃が遅れてるそうじゃないですか」
 スーツの男は先程の表情とは一転して手前の軍人に厳しい視線を送った。睨まれた軍人は二回りも歳の離れた若い彼の言葉に萎縮しなが
らもたどたどしい口調で答える。
「申し訳ありません、アズラエル理事。なにぶん南アメリカ合衆国がプラントの勧告に支持する様子で……」
 アズラエル、そう呼ばれた男は大きく手を振って溜め息を吐く。
「はあ、今、重要なのはプラントでしょう? ナチュラルが一致団結して宇宙の化け物を駆除をするというのが理想的なストーリー。それ
がなんです、これからという時に路傍の小石に躓いてる場合じゃあないでしょ」
「で、ですが、南アメリカにはパナマが」
「その為に貴方がたに兵器を渡してるんですよ? 従わないなら力ずくで従えさせればいいだけの話しじゃない」
 アズラエルの言葉に全員に動揺が走る。それも当然だ。パナマ宇宙港には数少ないマスドライバー施設があり、地球連合軍にとっても連
合宇宙基地への生命線でもある。
 それを攻める、という事は一番問題なのがマスドライバーへの被害だ。もし南アメリカ合衆国がやけになってマスドライバーの破壊とい
う選択肢を取ってしまえば地球連合軍にとっては大打撃を与え、更にはプラントがその隙を突いてくる可能性もある。だからこそこの件に
ついては慎重に為らざる得ないのだ。それが容易いものでもないのはアズラエルとて理解している筈だが、それでも彼は手に入れろと言う。
 当然のように部屋は静かになる。だがそれを破ったのは連合軍人達ではなくアズラエルの後ろで今まで沈黙を保っていた男だった。

「理事、南アメリカ合衆国侵攻の件は私に任せてもらえるか?」
 それに驚いたのはアズラエルではなかった。周りに居た軍人達はアズラエルの付き添いだと思っていたのだがその言葉でそれが間違いだ
と気付いた。いや、本来ならば此処に居ることをアズラエルに許された時点でそれに気付かなければならなかった。
 アズラエルは顎に手を当てて少し考える素振りを見せるとすぐに決断した。
「……そうですね。貴方達には技術を提供してもらった恩がありますし……それにこの目でそちらの『力』を見たいですしね。お願いでき
ますか?」
「ああ、連合の準備が整えばいつでも出撃は可能だ」
 トントン拍子に進んでいく会話に流石の軍人達も困惑の表情を見せた。それに気付いたアズラエルは男と視線を交わして男が頷くのを見
ると、軍人達に向き直して嬉しげに笑顔を見せる。
「彼が我々にASRSの提供をしてくれたヴィンデル・マウザー、僕たちにとっての福音ですよ」
 おお、と軍人達の感嘆の息が漏れる。先程までの疑惑の視線とは打って変わって軍人達は自分達に勝利をもたらした男の存在に一切疑問
を持たなくなった。彼等にとって重要なのは頭上に浮かぶ忌々しい砂時計であり、ヴィンデルという男の正体ではない。例え疑いを持った
としても確かめる事が出来るわけがないのをアズラエルとヴィンデルの二人は知っているのだから。
「それでは明後日までには大西洋連合は南アメリカ合衆国に侵攻するようにお願いしますよ。その後は予定通りにパナマとあの国を併合さ
せた後はうるさい大洋州連合の奴らを黙らせておいてください」
「了解です」
 そうして話はアズラエルの下に締め括られて終わりを迎えた。アズラエルがゆっくりと立ち上がると軍人達は最初と同じように立ち上が
って手を胸に当てて謳うようにこう呟いた。
「「「青き清浄なる世界の為に」」」

 アラスカでの会議から数時間経った後、ヴィンデルはアズラエルより一足早くに乗ってきた輸送機へと戻っていた。
 そして客室には戻らずにそのまま通信室へと足を運ぶと電気も付けずにコンソロールを弄った。暫くすると備え付けられた大きなモニタ
ーに淡く光を放った後に女性の顔を映した。
「レモンか。こちらの準備は無事に完了した」
 ヴィンデルは通信が繋がったのを確認すると早々に結果だけを端的に告げる。レモンもヴィンデルのそういう所を理解している為にわざ
わざ会議の内容を聞くつもりはなかった。後はそれに合わせるだけなのだがレモンは僅かに表情を曇らせた。
『それはご苦労様。でもこっちは少し難航してるわね』
 それほど重要なのか声にはいつもの軽さが見られなかった。何か問題でも起きたかとヴィンデルは此処に来る前までの出来事を思い出す
が見当がつかない。何故なら“この世界”に来た時点で問題は多すぎたのだ。今更何が起ころうとも不思議ではない。そう結論すると彼は
モニターへと向き直した。
「何か問題でも起きたか?」
『この件に関しては問題ないわよ? 連合軍に合わせていつでも出撃が可能よ』
「では問題は」
『そ、問題はこっちの問題。ASRSに関してはアズラエルのお坊ちゃんが用意してくれた施設と資材のお陰で少ないけれどなんとかなっ
たし、材質に関しては似たようなものがあるからそれで大丈夫ね。問題は量産ラインの進捗状況』
 最後の言葉を聞いてヴィンデルは眉を顰めて唇を引き締めた。これは彼等にとって最重要の問題でもある。これが遅れればせっかく準備
をした意味がない。

「どれくらいかかる?」
『遅くて五年はかかるわね』
「遅い。半年……いや、一年でなんとかしろ」
 ヴィンデルの焦りにレモンは淡々に返すがこのまま彼女のペースに付き合うわけにはいかない。状況は既に動いており彼も今更止めるつ
もりもない。当然の効率を上げるようヴィンデルは要求した。だが、レモンはヴィンデルの焦りを諌めるようゆっくりとした口調で諭す。
『ちょっと待ちなさいな。遅くても、って言ったでしょ? 少し性能は劣るけれどここの技術とこっちの技術を合わせれば問題ないわよ』
「ではそれを行なえ」
『バカね、連合には人型機動兵器のデータ自体ないじゃない。いくら私たちが持っていてもPTや特機、Type30や34そのものを量
産するには足りないものがあるし時間も掛かる』
 勿体付けるように言うレモンの言葉にヴィンデルはさっさと言えと憤慨しそうになったが、ふと、ある事に思い至った。ヴィンデルの表
情にその美しい顔をに微笑みを混ぜて彼女は頷く。
『ええ、あるでしょう? 宇宙に浮かぶ砂時計に住んでる人たちが開発しているものが』
「モビルスーツか……」
『そういう事。こっちの技術を完全に再現させるよりはオリジナリティがあって良いとは思うけど?』
 レモンの言葉は正しい。少なくとも彼等が目指す理想の過程で生まれたものには相応しい。
 数で勝る地球連合軍は自分達の勝ちは揺るがないと思っているだろうがそれは間違いだ。その為に地球連合に敵対する者は戦う術を持っ
ている。それがこの戦争を容易くは終わらない事を示しているのだから。だがそれは彼等が望むシナリオでもある。
「出来るのか?」
『潜入している部下が情報を送ってくれてるし、抜けているところはこっちで補えれば一年以内で出来るわよ』
「ではそれで行なえ。無論、同時に此方の量産も抜かりなくな」
 レモンはええ、と頷いて二人の会話も用件が済んだので終わろうとした時、レモンが寂しさが篭った声で呟いた。
『アクセルの事だけど……』
 その名前を聞くとヴィンデルは目を細めた。それは此処に来てヴィンデルが目的以外に見せた感情。レモンが続きを言わずの押し黙ると
代わりにヴィンデルが口を開く。
「仕方あるまい。そもそも此処に来たことがイレギュラーなのだ。奴が“この世界”に来ていないのならば我々とは別の場所に飛ばされた
か」
『次元の狭間に飲まれて消えたかのどちらか、ね』
 続けたレモンの声に力はない。彼女にとってその名前は大切なものであると言うように。しかし、ヴィンデルは彼女の感傷に構わずに冷
徹に告げる。
「我々が望んだことだ。それは奴とて覚悟はしていた筈だ」
 覚悟、それがどれほどのものかレモンも口にしたヴィンデルも理解している。自身が望み、そして肯定したものを今更否定するつもりも
彼女にもない。奪い奪われは世界の真理だ。
『そうね……でも慣れないものよ』
 だが、それでも彼女は痛みだけは慣れないと思う。同時に都合がいいわね、と自分を自嘲した。
「それを乗り越えてこそ人という種が進化し続ける。話しは終わりだ、切るぞ」
『ええ、じゃあまたね』
 話しはそれで終わり。すぐに軍人としての顔を取り戻した二人は惜しむことなく簡単に通信を切った。

 そして、モニターの光がなくなり暗くなる部屋の天井をヴィンデルは見上げる。
 二つの眼光は天井ではなくこれから起きる事の未来を見るかのように遠い場所を見つめていた。

 

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