Top > SRW-SEED_ビアンSEED氏_第02話
HTML convert time to 0.006 sec.


SRW-SEED_ビアンSEED氏_第02話

Last-modified: 2013-12-26 (木) 19:17:25

SRW-SEED_ビアンSEED氏_第02話
 第二話 DCの戦士達

「いただきい!」

「こら、てめえ、オルガア、抜け駆けするんじゃねえ!」

 射程内にヴァルシオーネを収めたオルガが、カラミティに胸部のスキュラを発射させようとした時、それが現れた。

「ああん!?」

「なにあれ?」

 超音速で迫るそれは鋼の妖精と呼ぶべきであったか。突如レーダーに映り、瞬く間に距離を詰めた三機のMSが放ったミサイル群を回避する為に、カラミティの射線はずれ、ミナの前方、海面にスキュラの光を放つにとどまった。
 超高熱の火線に焙られ蒸発した海水が、陽光にきらめく白の霧となってヴァルシーネ・ミナ=ミナシオーネに、霧の衣となって漂う。
 海の底から白霧を纏って現れた美しき海魔の如きミナシオーネを守るようにして、ソレらは三機の悪意のまえに立ちはだかった。

「なんだあれ? ふざけてんのか!?」

 それは、ヴァルシオーネほどではないにしろ、デザイン的に見て明らかに女体のシルエット、それも年端もいかぬ少女のものを再現した機体であった。
 華奢な四肢にスカートの様な腰の装甲、後頭部には縦ロールの巻紙の様な用途不明のものがある。
 それが、カラミティ・レイダー・フォビドゥンと同じく三機。
 ある日突然、眠りについていたビアンの脳裏に閃いた機体全高15.4メートル、重量28.3トンのMSの常識を覆す軽量機体『DCMBF−007フェアリオン』である。
 ――その夢の中で、なぜか彼の部下だったフィリオという青年と、中年の有能な科学者は、二人揃ってアイドルソングを熱唱し、かるくビアンがめまいを起こすほどにノリノリで踊っていた。
 その翌朝、ビアンは、よく知っているつもりでも人間には理解し難い趣味があるものだと、改めて痛感した。
 超音速の妖精――開発者たちの間でそう呼ばれている特殊な趣味の機体フェアリオンはそれぞれ、黒、白、灰に染められている。
 黒には機白には后灰には召離淵鵐弌爾振られている。

「御無事ですか、ミナ様?」

「大事ない。機体の調子はどうだ。ワン、ファイブ、トゥエルブ」

 ミナの労う声に、ソキウスと呼ばれたフェアリオンのパイロット達は首を縦に振って肯定した。
 床についた病人の白い肌と、色素の薄い水色の髪、どこか感情と意志が欠如した瞳。まだ少年としか呼べぬ年頃の、若者たちであった。
 三人が三人とも同じ顔。三つ子、だろうか? 
 しかし、全員が全員とも、レースとフリルとリボンの神に祝福されたかの様なドレスとヘッドドレスを身に着けた女装姿なのだが、誰もそれを気にしていない。
 フェアリオンに乗る時の絶対装備だと、ミナに言われたのを忠実に守っているのである。
 そんな彼らはかつて連合が求めたナチュラルに絶対服従の戦闘用コーディネイター『ソキウス』シリーズの三人である。
 ソキウス達は、ナチュラルでもコーディネイターに対抗できる強化人間すなわち、今、オーブを襲う三機のMSのパイロット達だ――の完成により、廃棄が決定されたソキウス達を独自のルートで、ミナ達は手に入れていた。
 今はここにいないミナの半身ギナの元にも、三人のソキウス達が戦力として連合から与えられているだろう。
 違うのは、今ミナとビアンの前にいるソキウス達は自らの意思でDCに所属するソキウスである事だ。
 薬物によって精神を破壊される予定だった彼ら三人のソキウスを、連合とのパイプをまだ維持していたミナが、ビアンの頼みでいくらかの代償を払って彼らを傘下に収めたのだ。
 ナチュラルの為だけに生きる事を徹底的に、それこそ遺伝子操作のレベルで命じられたソキウス達は、ナチュラルの為に戦えない事を嘆き、また、ナチュラルであるビアンに救われた事を感謝していた。
 連合に捨てられ、ナチュラルの為に働けなくなったソキウス達は代償行為としてか、ビアンに無償の協力を惜しまぬ事を告げた。
 だが、ビアンの答えは――『人形は要らぬ』。この一言のみ。その場にいたミナとギナは、ビアンはあくまでソキウス達に人間である事を求めたのだと理解し、ビアンの言葉に困惑するソキウス達に、
 ビアンの意を汲んで答えを与えず、彼らが自分達で考え、自分達の望みを正しく理解し、それを叶える為の意志を持つ事を待った。
 彼らソキウスは、そして『人間』となったのだ。
 今この場に立つだけでも、ソキウス達には苦痛の様なものを感じているかもしれない。彼らが敵対しようとしているのは紛れもなく、彼らの存在意義であり、奉仕すべき存在『ナチュラル』達なのだから。

「無理はするな、トゥエルブ。ナチュラルの相手はお前達にとってはつらいものに違いあるまい」

「いいえ、ミナ様。今ここに立つ事も僕たちの意思です」

「たとえナチュラルの敵になる事になっても、それはナチュラルの社会に貢献し、後の幸福につながることならば、必要な事だと僕たちは結論しました」

「ですから、例え遺伝子が僕たちの行為を拒絶しても、僕たちはソキウスの名を誇りに、ナチュラルの為に生きます。ソキウスという名を与えられ、それを誇る『人間』として」

「良い答えだ」

 モニターに映る三人のソキウス達の意思と言葉に、ミナは優しく笑みを浮かべ頷いた。
 ミナの言う通り、ナチュラルへの全存在を持っての奉仕を刻印されたソキウス達は、ナチュラルへの負の感情や敵意、マイナス的な思考をするだけで悪寒が体を駆け巡り、それ以上の思考を許さぬ苦痛が襲い掛かる。
 調整された遺伝子が、ソキウス達を作り上げたナチュラルの予想を超えた効果を発揮し、ソキウス達を苦しめるのだ。
 だが、それに屈服せず、痛みを恐れず、遺伝子が命じるからでは無く、己れの意志でソキウス達は今この戦場に立っているのだ。その姿は、美しく、雄々しい。誰が彼らの意志を笑う事が出来ようか。

「彼らの相手は僕たちが。ミナ様は上陸する連合の相手を」

「よかろう。任せるぞ、お前達。ビアン総帥、全軍に出撃命令を」

「うむ。ビアン・ゾルダークとディバイン・クルセイダーズの名の下に集いし勇者よ! 鬨の声を挙げよ! これより我ら修羅に入る! 仏と会えば仏を斬り、神と会えば神を斬る!
 一刀必殺、一射撃滅、乾坤の一擲を振え! 信念を弾丸に込めよ、覚悟を持って引き金を引け、全霊の一撃を撃ち放て! 全軍、出撃!!」

 ビアンの号令一下、オノゴロ島の各所で待機していたそれらの心臓に火が灯され、鋼の四肢に雷の血液が行き渡る。
 Gと呼ばれる連合のMSと同じツインアイの機体。機体背部に、ビアン・ゾルダークがもたらした超技術の一つ、重力制御・慣性質量分離機能を有した高効率反動推進装置「テスラ・ドライブ」を超小型化したものを搭載し、また従来の大型ジェットエンジンを搭載したモジュールユニットが組み込まれ、ザフトのディン、連合のスカイグラスパーを凌駕する機動性、運動性、加速性能……総合的にも頭一つ飛び抜けた空戦能力を持つDCMBF−004 M−LION(エムリオン)だ。
 元々開発されていたオーブ独自のMS“M1”にビアンのアイディアが加えられ再設計されたリファインMSである。テスラ・ドライブというそれまでの常識を凌駕する推進機関がもたらす規格外の加速エネルギーは、エムリオンを彗星の如く飛び立たせる。
 ディバイン・クルセイダーズの戦の狼煙が、上げられたのだ。
 同時に、ソキウス達と対峙していたカラミティ、フォビドゥン、レイダー達も動きを見せる。
 彼らの場合、単に状況の停滞に我慢がならなかっただけだろう。自制が利かぬほどに高められた戦闘への意欲と破壊衝動が、彼らを突き動かしてやまぬ。

「邪魔するんならぶっ壊す!」

「そらそらそらあ、滅殺!」

「ああああああ!!」

 協力する気は欠片も無い三人の、奇妙な事にタイミングは同じ攻撃に、三機のフェアリオンは散開し、後頭部に四つ存在する高出力ビームキャノン『ロールキャノン』の照準をカラミティ達に向ける。

「ぐっ」

 例え強化人間とはいえ、相手はナチュラル。その事実が、ソキウス達の体内に悲鳴を上げさせる。どうしようもないほどの嘔吐感、震えるほどの苦痛、早鐘の様に脳に鳴り響くヤメロという声。
 この戦いの前、ビアンの言葉の真意を求めるソキウス達は、三人で語り合った。

「……結論が出た。今現在、もっともナチュラルを脅かし、その社会に深刻な脅威を与えているのは」

 彼らに与えられた抑制機能が、それ以上の言葉を紡ぐ事を許さぬと、憤怒の叫びをあげている。どくんと心臓が跳ね上がり、食道の奥、胃の腑から込み上げるものがある。
ワン・ソキウスはそれをこらえ、同胞たるファイブとトゥエルブに告げた。答えを出してはならぬ答えを、出してしまった苦行者の様だった。それは、彼らの同胞、イレブン・ソキウスとセブン・ソキウスも辿る道。

「……ナチュラルを導く、ナチュラルの指導者たち」

「そう、その通りだ。ファイブ、トゥエルブ、君達といる事で、僕は僕の考えをより客観的に理解し、整理出来た。……僕たちに与えられた命題『ナチュラルの為に生きる事』。  誰かの為に生きる事――僕たちの場合はナチュラルという人類種全体だけれど――、それ自体は客観的に見て悪徳では無い筈だ」
「ああ、その通りだ。それは普遍的に善性として扱われてきた」
「では、ナチュラルではない人類、コーディネイターについてだ。現在コーディネイターの住むプラントと民間軍事組織ザフトとナチュラルはおおよそ全体的に戦争状態にある。では、ナチュラルに危害を加えない、また、ナチュラルの社会に貢献する仕事についているコーディネイターはどうだろうか? 彼らは排除すべき対象だろうか?」
「いいや、ナチュラルの為に生きる事は、彼らを害するものを排除する事に繋がるが、コーディネイターという人類すべてがナチュラルにとって害悪なわけではない。彼らの技術や発見がナチュラルの社会にもたらした貢献も、無視できるものではない」
「ならば、ナチュラルの為に役立つコーディネイターは存在すべきだ」
「そうだね。それなら、僕らの存在も許される筈だ」

 心なしか、感情を写す動きを忘れたようなソキウス達の顔に、喜び、あるいは安堵の色が浮かんだ。人形と作られたにせよ、存在を許されるという事は、誰しも喜びに繋がる。
 過去への回想は、唐突に晴れた。ロールキャノンのトリガーを引く事を躊躇うワン・ソキウスのフェアリオンを、レイダーの破砕球『ミョルニル』が襲い、とっさにワン・ソキウスはフェアリオンに回避行動を取らせる。

「ちい、はずれか! 次は当てる! 必っっ殺あああつ!!」

 レイダーの、人間でいう口の部位に、青い光が灯り、高出力のビーム『ツォーン』が放たれる。コントロールスティックをワン・ソキウスが操作するのが間に合ったのは、それよりも間二髪ほど。
 ファイブ・ソキウス、トゥエルブ・ソキウスそれぞれから通信が入り、彼らは互いに、自ずから口を開く。

「やはり、ナチュラルに抗う事は途方も無く苦しく、そして辛いことだ」
「ああ。その通りだ。たとえ彼らが僕らを捨て、忌み嫌い、今また破壊しようとしていても、僕らはナチュラルが、人間に、逆らえない」
「そうだろうか? 僕らは逆らえないから、ナチュラルの為に尽くすのだろうか?」
「……いいや、違う。僕たちソキウスは、ナチュラルに逆らえないから従うのではない。僕らは」
「人間を愛するが故に、ナチュラルの為に尽くす」
「そうだ。僕らはナチュラルを愛している。ひいては、コーディネイターを含めた、人類を。ナチュラルよ、たとえあなた達に捨てられ、忌み嫌われ、忘れられても、僕たちソキウスはあなた達の為に生きる。
僕達も人間であるが為に、いつまでもあなた達の良き隣人でありたいから。僕らも、あなた達の仲間でありたいから」
「ならば、ワン、ファイブ。今僕たちが感じている痛みは愛する者の為の痛みだ」
「肯定だ、トゥエルブ。愛ゆえの痛みならば、僕たちはいくらでも耐えよう。それは僕達にとって存在の証明であり、また喜びでもあるのだから」
「だから、ナチュラルよ。今僕たちは、貴方達の為に、貴方達に銃を向ける」
 
 三機のフェアリオンの雰囲気の変化、というのもおかしいが、対峙するシャニ達は明確な場の空気の変化を悟った。

「トリガーを引くたびに僕らは祈る」
「ナチュラルに、いいや、人類に」
「幸多からん事を」

反撃を開始したソキウス達の様子に、ミナは安堵の息をついた。

「どうやら、彼らも自分達のアストレイ――王道では無い道――を見つけたようだな。ならば、私は私の役目を果たそう」

 ミナシオーネのテスラ・ドライブの推力を前方に向け、今新たに上陸しようとするストライクダガーの編隊へと、ミナは恐れる事無く挑みかかった。
 ザフトとの決戦を予感し、簡易生産型としてロールアウトしたストライクダガーとはいえ、携帯ビーム兵器を持つストライクダガーの総合性能はザフトのジンを上回る。
 旧オーブのM1ならばストライクダガーも数が同等なら互角以上に戦えるだけの性能を持っていたし、その改良発展型であるエムリオンならば多少の数の不利は補える。
 だが、それでも数の不利は否めない。ビアンの駆るヴァルシオンならば単機でもこの戦場のパワーバランスをいとも容易くひっくり返すだろうが、この戦場だけを勝っても意味がない。その次の戦いを見据えた上で戦わねばなるまい。
 元々国力の低いオーブを母体とするDCだ。あらゆる手は打ってあるが、つまるところ生産能力はザフトにさえ劣る。質は他の追随を許さぬが、物量においては、とくに連合と比した場合巨人と蟻ほどの差がある。
 それを覆す為の隠し札として、ヴァルシオンは申し分ないだろう。あの、CEの常識を覆すとてつもない性能。それが完全に発揮されればたったの一機。そう、ヴァルシオン単体でこの戦争の戦局が変化する。
 今、この戦いは全世界に中継されDCの存在を誇示している。可能ならば、ヴァルシオンという札は伏せたままでおきたい。

「第二曲の相手はお前たちか?」

 妖しくコクピットで笑むミナと等しい笑みを浮かべたミナシオーネは、ストライクダガー達の浴びせる光の雨を一陣の矢と化して駆け抜け、その背のウィング内部に収納されていた凶器を晒す。

「心行くまで堪能するがよい。吸精の刃、マガノイクタチを」

 鋼の翼に埋もれていた黒光りする金属の湾曲した刃がせりだし、ミナシオーネを中心に黒い光の渦が生まれる。それはサイコブラスターとは逆に、周囲からミナシオーネへ向かって逆に渦巻いてゆく。
 マガノイクタチ――効果範囲内の対象から強制的にエネルギーを放出させ、それを我がものとする。本来ならギナとミナの専用機ゴールドフレーム天に搭載されているオーブ驚異のテクノロジーの粋だ。

「バッテリー機では所詮、この程度か」

 究極的な不殺兵器もあるマガノイクタチが吸収したエネルギーのゲージを見て、ミナは淡白な感想をあでやかな唇に乗せる。 
ばくん、と音を立ててマガノイクタチを収納し、ミナは倒れ伏したストライクダガーに目もくれず、新たな敵の群れへと駆けた。オーブを守護する女神は我であると、その姿が語っている。
 サイコブラスターの発射、その後マガノイクタチで残る敵からエネルギーを補充、そしてまたサイコブラスターの発射。条件付きではあるが、マガノイクタチとサイコブラスターを搭載したミナシオーネならではの最大の武器、無限サイコブラスターコンボであった。
 今はまだ未完成のマガノイクタチと、消費の大きいサイコブラスターでは釣り合いが取れていないが、将来的には決して不可能ではない。

「ふっ。やはり、私の相手が務まるのは、ギナとビアンだけだな」

 幸運にもエムリオン達の迎撃をくぐり抜け、不幸にもヴァルシオンに近づいた三機のストライクダガーは、目の前の敵総大将の駆る異形の巨大MSに、
 心理的な圧迫感を覚えながら、紛れもない手柄を前にして、恐怖心を乗り越えた。いや、乗り越えてしまった。

「怯むな、敵は一機だ!」

 小隊長の掛け声と共に、ヴァルシオンに集中するバズーカや、ビームライフルの光条。それは弾が切れるまで、エネルギーが切れるまで飽きる事無く続いた。
 それの途切れる時、それは自分達の死が訪れる時間なのだと、おのずと彼らの生物としての本能が悟っていた。
 ああ、火器のすべて撃ち尽くし、立ち込める爆煙の向こう、そこには、やはり、無傷の真紅の魔王がいた。

「どうした、それで終わりか? それでは」

 ずん、と世界を揺るがせる巨人の様にヴァルシオンの足が大地を踏みしめる。
 おのずと、煙が自らの意思で究極のスーパーロボットへの畏怖を表すかの様に割れてゆく。

「このヴァルシオンに傷一つつける事も、この私を倒し、我らDCの理想を打ち破る事も出来ん」

 その声に怯えたのか、その姿に怯えたのか、一機のストライクダガーがバズーカを捨てて背のビームサーベルを抜き放ち、無謀にもヴァルシオンに斬りかかる。

「無謀は勇気では無い。蛮勇でさえない」

 スラスターを全開にして迫るストライクダガーの胴を、神速で振われたヴァルシオンのディバインアームが切り裂いた。熱したナイフでバターを裂く、いや、鉄骨を斬鉄剣で斬ったかの如き滑らかな断面を晒し、
切り離された上半身が彼方で音を立てて転び、わずかな間をおいて爆発。ヴァルシオンを黒煙とオレンジの炎で彩る。

「言った筈だ、一切の容赦をせん、とな」

 ヴァルシオンに搭載されたテスラ・ドライブがフルドライブ状態へ一瞬で加速し、残るストライクダガーの片割れの眼前に立つ。

(でかい、MSの倍、いや三倍はある!?)

「さらばだ」

 振り下ろされたディバインアームの銀の刃は、ストライクダガーを、きれいに正中線をなぞって両断する。呆気に捕らわれる最後のストライクダガーのパイロットは、此方に向けて上げられるヴァルシオンの左手に気付いた。

「ひっ!?」

「クロスマッシャー、発射!」

 ヴァルシオンの左手を覆う装甲の中にある砲口から、あのミサイル群を吹き飛ばした赤と青が螺旋を描く光を放ち、対ビームコーティングが施されたシールドをモノともせずストライクダガーを消滅させた。
 その胸に去来する思いは何なのか、ビアンは、今一度ヴァルシオンに眼前の戦争へと目を向けさせた。
 また一つ、また一つと生まれては消えゆく爆発の光を見つめながら、ビアンがコクピット内の通信機を操作し、とある待機中の小隊につなげる。

「皆の様子はどうだ。テンザン」
 やや小太りで、眼付の悪い男が、ビアンの目の前に映し出される。DCの最精鋭部隊『ラストバタリオン』きってのトップエース、テンザン・ナカジマ一尉だ。
「ホ、こりゃビアン総帥。大丈夫ですよ、全員肝が据わってますからね。ま、一人はしょうがないっすけど。なんなら、挨拶の一つでもしときますか?」
 DC総帥にしてオーブ政権転覆の立役者であるビアンを相手に、尊大とも言える態度のテンザンだが、その実力はだれもが認めるし、あれでそれなりの人格者なのだ。
 あちらのテンザンとは中身が別人だと、ビアンのみが思う。テンザンがコンソールを操作すると、新たに四つのウィンドウがヴァルシオンのモニターに映し出される。
 薄緑の髪を逆立てた、落ち着いた雰囲気の少年
「スティング、どうだ? 機体は申し分ないか?」
「ええ、こいつはおれとの相性も抜群です。任せてください、ビアン総帥」
 青い髪に、子供っぽい光を宿した眼の少年。
「アウル、あまり、油断をするな。お前は少し視界が狭くなる癖がある」
「なんだよ、テンザン隊長だけじゃなくて、おやじまで説教かよ! やる気削いでどーすんのさ」
 金色の髪に、どこか危うい雰囲気と儚さが滲む少女。
「ステラ、テンザンやスティングの言う事をちゃんと守るのだぞ?」
「うん。ステラ、隊長とスティングの言う事聞く。ステラ、良い子? お父さん」
「うむ。あまり危険な事はするな」
「うん」
 ステラと呼ばれた少女は、ビアンの浮かべた淡い笑みに、花の蕾も綻ぶ可憐な笑みを浮かべて答えた。
 この三人は、先のシャニやオルガ、クロトの次の世代の強化人間達だ。ソキウスに関連し、連合が影で行っていた人体実験の数々を調査したDC諜報部が、その存在と、研究員と実験対象達の反乱計画を知る事となった。
 それを影から、闇の中の影から、というべき暗闘で援護し、エクステンデッドと呼ばれた実験体と研究員たちを、DCは受け入れていた。
 冷徹な現実主義者と純真といさ言えるロマンティストという両面を併せ持つビアンは、彼らの研究成果を活かす、という選択肢は放棄し、いまはエクステンデッドの被検体とされた少年、少女達の治療をさせている。
 これには、彼の脳細胞に刻まれていた旧DC副総帥アードラー・コッホの非人道的な実験という名の悪魔の所業のデータがあった事も幸いした。
 順調に快方に向かって行くエクステンデッド達の中で、とくにビアンに懐いたのがステラだった。
 折にふれて、様子を見に来ては、話し相手になっていたビアンに対して、父性への渇望か、いつからともなくお父さんと呼び、それに便乗してアウルもまたビアンをおやじと呼んでいる。
 スティングは遠慮してか、総帥と呼んでいるが、本心は果たしてどうなのか。
 そんな、狂的な知的探究心と欲望の被害者たる彼らを戦場に立たせる事は、ビアンのみならずDC内部の良識ある者たちや、軍人たちから反対の声が挙がった。
 それを制したのはロンド・ミナ・サハクだった。それまで己れの意志というものを尊重される事も、表出する自由も無かったステラ達が自分達の意思で願った事、それを大事にすべきではないか、と。
 そしてまた、ステラ達が強力な戦力となるのもまた事実であった。なにより、ステラ達が自らビアンの役に立ちたいと願うほどに、ステラ達とビアンの間には、ビアンが思う以上に強い絆が結ばれていたのだ。
「ステラ、大丈夫。みんな守る。お父さんも、隊長も、スティングもアウルも、ミナお姉ちゃんも、シンも」
「え!?」
 シンと名前を呼ばれて、驚いた声を挙げた最後の一人、黒い髪に赤い瞳の少年だ。年はアウルやステラとそう変わらない。まだ十代、それも半ばほどだ。
「へへ、守るだってよ、シン。良かったなあ」
 と皮肉っぽく笑うテンザンに、シンはいかにも素直な少年といった表情で、照れながら怒った。なかなか器用だ。
「そ、そんな事無いですよ! ステラに守られるんじゃなくて、おれがステラを守って見せますよ!」
「ホ、ムキになっちゃってまあ。良かったなあ、ステラ、シンが守ってくれるってよ」
「あ、いや、その今のは」
「シン」
「ええ、なな、何!?」

「ありがとう」

 ビアンに向けたのとそう遜色の無い無邪気さに好意を乗せた可愛らしい笑みで、本心からステラはシンにありがとう、と告げる。
 その笑顔があまりに可愛くて、思わずモニター越しと分っていてもギュッと抱きしめたくて、シンは顔を真っ赤にして俯いた。

「シン?」

「ぎゃははは、青春だねえ。若いってのはいいですねえ総帥」

「お前とてまだ21だろう」

「藪蛇か。おっと、そろそろ出撃のようですな。それじゃ、総帥、おれ以外のやつらの武運でも祈っててくださいや」

「うむ。シン」

「は、はい!」

「今は生き残る事だけを考えろ。それが、お前の家族を、お前がいなくなるという悲しみから守る事が出来る」

「……はい!」

「よっしゃ、それじゃあ、ナカジマ小隊、準備はいいかあ! テンザン・ナカジマ、DCMBF−005 バレルエムリオン。暴れてくるぜえ!」

「スティング・オークレー、DCMBF−006 ガームリオン出るぞ!」

「アウル・ニーダ、DCMBF−004C シーエムリオン、 行くぜ!」

「ステラ・ルーシェ、 DCMBF−004L ランドリオン、行ってきます」

 ぐっと力強くコントロールスティックを握りしめ、刹那の時だけ、少年は目を瞑る。
 これから、目の当たりにする、戦争というなの人類の業を前にして、緊張するなと言う方が、無理であろう。
 つぶった瞼の裏に、ステラの微笑みが浮かんだ。ビアンの言葉がリフレインした。

「シン・アスカ、DCMBF−004F エムリオン、行きます!」

 シン・アスカ14歳。戦場に立つにはあまりに早く、死を知るにもまた早い少年は、戦場へと向かい、飛んだ。