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SRW-SEED_ビアンSEED氏_第05話

Last-modified: 2013-12-26 (木) 19:18:10

SRW-SEED_ビアンSEED氏_第05話
 第五話 オノゴロ島決着
 
「歪曲フィールド出力64パーセント、テスラ・ドライブ出力安定、グラビコン・システム誤差0・034パーセント、『クロスマッシャー』出力79パーセント、『メガ・グラビトンウェーブ』連続照射最大300秒、エネルギーの再充填には120秒かかるか……やはり机上のデータとは違うものが出るな」
 ヴァルシオンの中で、機体のコンディションに目を通し、ビアンが呟く。今ビアンの駆るヴァルシオンは、本来のスペックを完全に発揮する事が出来ない。
 新西暦の世界、アイドネウス島でのハガネ隊との決戦――怒涛の一斉攻撃に歪曲フィールドを破られ、最後は風の魔装機神サイバスターのアカシックバスターによって大破したヴァルシオンを、可能な限り『再現』『修復』したのがこのヴァルシオンであり、それは『改良』ではないのだ。かといって、デチューンというわけでもないが。
 装甲の大部分は、通電して相転移を行い、実体弾や熱に対する高い耐性をもつPS装甲と、熱を吸収拡散してビームに対する高い耐性を持つラミネート装甲、幾重にも重ねた複合合金の装甲で代用している。装甲自体は、改良と言ってよいかもしれない。
 ヴァルシオンの動力は、異星からもたらされた超技術・EOTから解析したものは可能限り修復したが、かろうじてビアンの意を満たす数値を出すにとどまる。補助としてCEの大容量バッテリーや、艦艇用の動力でカバーしている。
 なお、地球の技術で解析・応用できるようになったEOTは、元EOTという扱いを受ける。
 将来的には超闘士グルンガストに搭載されているプラズマ・リアクターや零式の宇宙航行艦用の核融合ジェネレーター、プラズマ・ジェネレーターなどへ順次交換し、本来のスペックを取り戻す予定……ではあるのだが、新西暦とCEとの技術的な格差から、その見通しは見通せぬ闇の中である。
 総合的に見て、現在のヴァルシオンVerCEの性能はフルスペックの75パーセントと言ったところか。
 デトネイター・オーガンが地球製オーガンに変わるよりはマシだが、それでも目下CEのあらゆるMSを上回る超絶の存在である事は変わらない。
 とりあえず、一週間で1パーセント取り戻す、をスローガンに、ビアンは夜なべしている。もちろん、それ以上に優先すべき事もあるが。
「戦況はおおむね優勢か。ミナめ、まさしく軍神の働きだな。連合のGも、ソキウス達が押さえ、海岸線から先に食い込んだMSはわずか、か。だが、やはり初陣とあっては上手く行かぬ者もいるか」
 元々要塞化されていたオノゴロ島には多数の砲台が設置され、更にビアンとヴァルシオンがもたらしたEOTを元としたステルス・シェードやNJをモノともせぬ大型レーダーが配備され、連合の動きをほとんど丸裸同然で把握し、適切に防衛戦力を動かし、連動させている。
 だがオーブ兵の多くは初陣であり、訓練ではあり得なかった出来事が次々と起こる実戦に、少なからず混乱を示す者もおり、沿岸防衛線のいくつかはくいこまれていた。
 防衛部隊が押されている個所を素早く把握したミナがミナシオーネの高機動性と、マガノイクタチとサイコブラスターの凶悪コンボで一気に覆す事を繰り返し、戦線を常にDC側が有利な状況にしている。
 また、一度は撃墜されたかの様に見えたエムリオンも、EFによる保護と、リオン部分のパージにより、M1として戦線に復帰している。撃墜したはずのMSが復活してくる様子に、オーブ同様MS対MSの実戦経験に乏しい連合側も手を焼いていた。
 ましてや空をスカイグラスパー以上に支配するエムリオンに対してストライクダガーは短時間の滑空とジャンプが限界なのだ。
 陸戦タイプであったパーソナルトルーパーの天敵がアーマードモジュールであったのと、同じ図式が当てはまっていた。
 といってもM1部分だけになると、リオンを追加装甲として装備しているため、本来装備するはずだったフライトユニットが無く、地上戦しかできなくなってしまう。
 従来のMSよりも装甲を犠牲にして軽量化し、運動性を高めたM1は、熟練のパイロットが乗ればこそその真価を発揮しただろうが、あいにくと旧オーブのパイロット達の錬度はいささかよろしくない。
 そもそも、OSの開発に手間取り、ろくにMSも動かせないようなパイロットが大多数だったというのに、敵の攻撃はかわせば装甲が薄かろうと問題ない、というコンセプトのM1は初心者パイロット向きではなかった。

 多少被弾しても、戦闘が続行でき、パイロットの生命を守れる機体の方が良い、という意見も元々あったのだ。
 そういう意味もあり、エムリオンには量産型MSとしては破格の防御能力が与えられている。その分、コストは割高だが。
 連合のストライクダガー達は、ごく一部を除いて沿岸上で進行を停滞させていた。下手に足を止めれば的となり、DCが展開しているリニアガン・タンクやミサイル車両からの砲撃に晒され、かといって足元に気をやれば、上空からエムリオンの砲火が襲い掛かる。
 ミナとギナ、サハク派の将校たち、加えてDCで培った経験からビアンが徹底的に軍部を締め上げたDC側は、幸い指揮系統の混乱や暴走も少なく、国防本部からの指示に従い、効果的に連合を迎撃していると言えるか。
 元々、MSの運用は別として長年中立国家として国是を貫いてきたオーブは、非常時に備えて軍の訓練や演習を重ね、MSという一面をのぞいた錬度は悪くはなかった。
 元々のオーブという国の底力と、ビアン・ゾルダークというイレギュラーの歯車が音を立てて噛みあった時、物量差を覆しうる質を有する事に、DCは成功したのだ。
 国防本部に連絡をいれ、ビアンは新たな指示を出す。
「トダカ一佐、キラーホエールを出せ。連合の艦隊を強襲させろ」
 オノゴロ島最深部の地下に移転された国防本部を経由し、灰色の髪をした、気骨のある軍人といった風体のトダカと呼ばれた男がヴァルシオンのモニターに映る。
 元はアスハ派の優秀な軍人であったが、オーブ防衛のために、あえてDCに所属している。
 故あれば、アスハ派に寝返る――いや、戻ってもおかしくはない男だが、民間人を守るという軍人の有り方とオーブへの思いは本物と感じ取ったビアンが、目を掛けて艦隊を預けている。
 あるいは、アスハ家がオーブに返り咲いた時は敵となるか。それはそれでビアンの意を満たす事だろう。トダカの部下には、同じくアスハ派の軍人ばかりが集められており、DC内部でもこれを危険視する者と、危険人物を一か所に集めて監視しているのだ、と見る意見に分かれている。ビアンの真意を知るものは、やはり、DCにも少ない。
 モニターの向こうでトダカは敬礼をし、即座に返答する。その様子には、DCやアスハといった派閥の差はなく、オーブを守るという一点に身を捧ぐ男の姿があるのみだった。
「了解、キラーホエール艦隊浮上。地球連合艦隊に仕掛けるぞ!」
 かつて新西暦においてDCの電撃戦のかなめとなった潜水母艦が、息を潜めていた海の底から急速に浮上し、オノゴロ島攻略に戦力を割いて手薄になった連合艦隊に襲い掛かる。
 もっとも、キラーホエールの名前こそついでいるものの、本来のキラーホエール級とは別物で、ステルス・シェードによる秘匿性、機動性や、機動兵器の格納・整備システムを可能な限りCEの既製品に手を加えて改良した、という程度のもので、MSの運用母艦としての一面が強い。
 キラーホエールの浮上と同時に、他のオーブの島々や近海に潜んでいたDC艦隊も動きを見せて、連合艦隊の横腹を突いてみせる。
 オノゴロ島の海上戦力の大多数を割いておいた伏せ札の一つだ。
 中には旧オーブ艦隊旗艦の大型空母タケミカズチと一世代前の空母タケミナカタの姿もあり、タケミカズチにはオノゴロ島防衛戦において艦隊の指揮を任されたトダカが乗船している。
「エムリオン、シーエムリオン隊出撃! 目標、地球連合艦隊」
 カタパルトデッキから、次々とエムリオンが飛び立ち、海中の三隻のキラーホエール級からも魚雷と、極めて感知されにくい電磁推進機関を搭載した12機のシーエムリオンと11機のエムリオンが出撃し、
アウルのシーエムリオン一機に手を焼いていた連合艦隊に更なる打撃を与えるべく襲い掛かった。
 量産型である水中用MSディープフォビドゥンやフォビドゥン・ブルーが配備されていればこのような事も無かっただろうが、あいにくと連合の艦隊には水中用のMSは配備されてはいなかった。

「馬鹿な、この距離まで何の反応も無く接近していたのか!?」
 虎の子であるストライクダガーは水中戦に対応しておらず、また、航空機も水中戦用の爆雷などの装備に換装する猶予を与えず、シーエムリオン隊はスーパーキャビテーティング魚雷――水中を音速で泳ぐ最新の魚雷を叩きこむ。
 揺れる艦内で、アズラエルは思い通りに行かぬ状況に苛立ちを募らせて歯を食いしばっていた。沸騰する感情を理性が抑えつけ、この戦いの利害を考え続ける。
 オーブの保有するマスドライバー『カグヤ』とモルゲンレーテの工廠、軍事技術、各種生産施設、カラミティ、レイダー、フォビドゥンと強化人間達のデータ、得られるもので目ぼしいのはこれだ。
 対して、現在の被害は――。
「第7小隊、第28小隊応答なし! 第09小隊、第12小隊、第4中隊から救援要請! 駆逐艦『アーロン』、『スペイカー』撃沈、MSの被撃墜数60機を超えています!?」
 オペレーターから次々と入る報告は、連合の各司令の顔から血の気を引かせていった。
 このMSの被撃墜数の内、半分近くはミナとミナシオーネによるものだ。
「ばかな。たかが一国の島国が、それもクーデター直後の軍隊で、これだけの数を相手に持ち堪えるどころか、互角以上に戦うなど」
「『ジスモンダ』『サマリア』航行不能、戦線から離脱します。ああっ!? 空母『レスリー・カーター』沈みます! 敵水中MSおよび飛行MSの迎撃、追いつきません!」
「有り得ん!」
対空砲火をモノともせずエムリオン隊は次々とレールガンやミサイル、オプション装備であるメガビームライフルやハイパービームキャノンの雨を連合艦隊に降り注がせ、火の球を金属の船体の全身に生ませては海の藻屑へと変えてゆく。
「結構、うちらって強いじゃん」
 一人、シーエムリオンのコクピットの中、アウルは味方の予想以上の奮戦に機嫌よく呟いた。とはいえ、数で劣る現実は厳しい。今この戦いを勝っても次、その次、そのまた次と攻め込まれれば、物量で劣るDCの敗北は色濃いものとなる。
 そのために望ましいのは、連合がDCに手を出すデメリットを重視し、彼らにとって本来倒すべき敵であるザフトに目を向けるよう仕向ける事だろう。
「ま、おれのやる事は変わんないけどね」
 海面から飛び出し、ジェットエンジンとテスラ・ドライブにより短時間での飛行が可能なシーエムリオンの特性を活かし、駆逐艦や戦艦の甲板に飛び乗って艦橋にレールガンを叩きこみ、一撃で戦闘能力を奪って行く。
「おやじもきつい道選ぶよなあ。付き合うおれらも変わんないバカだけどさ!」
 スクランブル発進しようとしていたスカイグラスパーにミサイルを一発撃ちこみ、次いで発進しようとしていた数機と船体を爆発の中にまきこみ、次の大物を狙ってアウルは幼いとさえいる顔に凶暴な笑みを浮かべた。
 と、アウルはモニターの片隅に、シーエムリオン以外のMSを見かけ興味を惹かれた。エムリオンの母体であるM1に酷似した機体に、水中用の装備を着けた機体だ。
「ああ、あれがブルーフレームか。M1の大元だってミナさんが言ってたっけ」
 それは、ヘリオポリスで極秘に開発されていた五機のオーブ製MSのうちの一機プロト02、ブルーフレームだった(五機製造されていたが、4号機と5号機はパーツ状態だったため、ヘリオポリス崩壊時に失われている)。
 たしか、今では今次大戦でも屈指の実力を持つ傭兵部隊サーペントテールのリーダー、叢雲劾というコーディネイターが乗っているはずだ。
 劾の駆るブルーフレームの流れるような動き、無駄の無い操縦にアウルは素直に感心した。
「へえ、おれでも勝てるか分んないな。ソキウス達の兄弟を倒したって話もあったっけ」
 この戦いが一時の決着を迎えたら声をかけてみよう、そんな風に考えながら、アウルは駆逐艦の船底に魚雷を撃ちこんだ。

 一方で、BFのパイロットである叢雲劾も、DC軍の保有するMSと、政権転覆直後であるというのに、むしろ旧オーブ軍以上の統制を見せるDCに内心舌を巻いていた。
 やや癖のかかった黒髪と常に外さぬ色の入ったメガネを賭けた端正ながらも逞しさ、強さを感じさせる顔に、わずかながら賞賛の色が浮かぶ。
「大したものだな。ディバイン・クルセイダーズ。これで国力と人員の数が伴っていたら、ザフト・連合を一度に相手出来たかも知れん」
 珍しく戦闘中にもかかわらず、余計な事を呟いた劾だったがそれも無理からん事だったろう。
 彼の周囲ではキラーホエールや各DC輸送艦から出撃したシーエムリオンが放火を集中させて次々と連合の艦艇を沈め、海上でもエムリオン隊が獅子奮迅の活躍を見せている。
 エムリオン隊によって対空火器や戦闘機を壊滅させられた連合の艦隊に、タケミカズチとタケミナカタから発進した爆撃機が500キロ、1トンクラスの爆弾をばらまき、痛打を浴びせている。
 それはまるで開戦初期のザフトと連合の戦いの様子を再現しているかの様だった。

「……頃合いか」
「ビアン? 前線に出るつもりか」
 ヴァルシオンに搭載されたテスラ・ドライブに火が灯り、再生された主動力の唸りがより低く大きなものへと変わる。
 それを察したのか、それとも戦況の報告を兼ねての連絡だったのか、ミナの美貌がウィンドウの中に現れる。
「うむ。兵ばかりに任せてはおけまい。それにこのヴァルシオンの調子も見ておきたいのでな」
「自ら先頭に立つ総大将か。古今例がないわけではないが、万に一つ、いや億兆に一つの可能性が無いとも限らぬ」
「その時はその時だ。私が倒れた時の事も、十分に考えただろう?」
 ビアンの問いに沈黙するミナは、小さく、しかし深い溜息を紙縒りの様に細く吐きだした。逆らえないと分っている溜息だった。
「ならば私も付き合おう。しかしヴァルシオンの力を見せつけてしまっては、切り札が一つなくなるのではないか?」
「いや、それを見た上での反応こそが我らが求めるものだろう。それに、確認の意味もある」
「確認?」
「この世界に私以外の異分子がいるかどうか、のな」
「……その可能性もやはりあるか」
「そうだ。このヴァルシオンの存在を知るもの、あるいは異分子であると分るもの。彼らがどのような反応を見せるか、世界にどう関わっているのか、それを確認する為でもある。……行くぞ」
 全重量550トン、MSの約十倍の重量が重力のくびきから解き放たれ、翼無き真紅の魔王が、今、美しき夜闇の女神を傍らに従え、そして目に見えぬ死神の群れを率いて連合艦隊へと襲い掛かった。
「あの巨大MSが動きました!」
「! データ収集を怠らないでください。あの機体、とんでも無い秘密がありそうですからねえ?」
 最初の頃の動揺を欠片も残さず払拭したアズラエルが、ついに動きを見せたヴァルシオンに目を輝かせて、モニター越しに粘着質の眼光を注ぐ。
 どうしても欲しいおもちゃを目の前にして、大人の狡猾さと無邪気さを同居させたおぞましささえ感じられる笑みが、その唇に浮かんでいた。
「MS隊を呼び戻せ! 各砲座、あの赤い機体に集中させろ!」
 次々と、たった一機の機動兵器を破壊するには過剰な火力がヴァルシオンに殺到し、それをビアンは巧みな操縦でかわして見せる。
 本来ヴァルシオンの機動性はあまり良いとはいえない。元々人型機動兵器としては重量のバランスが悪く、火力と装甲を追求したコンセプトのもとで開発された機体なのだ。
 だが、そのヴァルシオンでビアンは殺到する75ミリAP弾や、ミサイルを次々とかわし、あるいはディバインアームで切り裂くという離れ業さえやってのける。
 娘リューネに課した特殊訓練を自身にも課した成果と天賦の才能が、ビアンに常軌を逸した機動兵器の操縦テクニックと年齢からすれば考えられぬ能力を誇る強靭な肉体を与えていた。
 なお、リューネが受けた特殊訓練と同様のものがシンにも課せられ、そこにミナとギナのロンド姉弟も加わり、特訓という名のジュデッカな最終地獄が繰り広げられたのは、言うまでも無い。
 その訓練の内容は、リシュウ・トウゴウが、インスペクターに乗っ取られたテスラ・ライヒ研究所脱出の際に、弾丸を刀で弾いて、これくらいはリューネのお嬢ちゃんでも朝飯前〜〜と言っていた事実から類推していただきたい。
 そんな超人的な芸当ができるようになる特訓なのだ。

 甲板に出たストライクダガーの数機がビームライフルやバズーカをヴァルシオンめがけて殺到させ、あえてビアンはそれを受けた。
 コンソールパネルが明滅しヴァルシオンの展開している空間歪曲フィールドが作動している事を告げる。
 100パーセントのフル出力展開はできないが、MS程度の携帯火器になら十分な防壁となるようだ。
「無駄だ。だが、それを止める事は出来まい。恐怖故にな。恐怖を乗り越える勇気、信念、覚悟。ただ力だけではない。それらがなければ私は倒せん」
 輸送艦の甲板に向けてヴァルシオンを加速、激突する寸前で急制動を掛け、襲い掛かる殺人的なGに顔色一つ変えず、甲板上にいたストライクダガー達をデバィンアームの一薙ぎでまとめて二機の胴体を横一文字に両断する。
 切断面から火花を散らすストライクダガーを置き去りに、ヴァルシオンは飛ぶ。現在CEのMSはほぼバッテリー式であるため、撃墜されても推進剤などに引火しなければ爆発することは稀だ。
 ただ、ヴァルシオンに屠られたストライクダガーはその稀な例であったらしく、盛大に爆発し、輸送艦を巻き込んで大きな炎の花弁を開いていた。
「クロスマッシャー!!」
 死と同義の言葉がビアンの口から放たれる都度、赤と青の二重螺旋は連合の各艦艇に突き刺さり、艦橋や竜骨をぶち抜いて沈めてゆく。予備として温存されていたストライクダガーも、母艦の轟沈によって活躍の場を与えられる事無く骸を晒していた。
 背後を伏せられていたDC艦隊とMSに、正面からは馬鹿げた戦闘能力を誇る巨大MSに強襲される連合艦隊は、もはや混乱の坩堝と化していた。
 指揮系統は混乱・混雑の体現となり、上陸したMS隊もDCMS隊の前に苦戦を強いられるわ、後方からの支援は期待できない。
 まともかつ適切な指示は届かず小隊単位で独自に戦闘を行っていたが、DC製OSを搭載したエムリオンは性能ともども連合のMSよりも優れていたし、DC軍の中にはコーディネイターもそれなりの数がいた。
 コーディネイターと各エムリオンやガームリオン、バレルエムリオンらとの組み合わせは凶悪な威力を発揮してストライクダガーを撃墜していった。 
 DCはコーディネイターとナチュラルの共存をオーブと変わる事無く謳っていた為、オーブ国内のコーディネイター達にとっては、オーブの政権が変わっても母国を守るために兵器に乗る事を、躊躇う理由とはならなかったのだ。
「……これは、馬鹿にならない損害ですね。しかし、あいつらも存外役に立たない。結局一機も撃墜出来てないじゃないですか?」
 期待していたシャニやクロトらが、開発者は何を考えているんだと疑いたくなるような珍妙なMSを相手に完全に封じ込められ、おまけにバッテリーと薬物が切れて、ちょうど帰艦したところだった。
 強化人間達を相手に互角以上の戦いを繰り広げたのが、破棄されたはずのソキウス達であると知ったなら、アズラエルの不機嫌はさらに天井知らずに上がっただろう。
 アズラエルの視界の中で、また一隻の巡洋艦が黒い煙を挙げて沈んで行く。何百年かしたらきれいなサンゴ礁の苗床になるかもしれない、とアズラエルは現実逃避している自分に気付いた。
 商人としての自分が、目も当てられない現状に発狂しそうな事をアズラエルは認めるしかなかった。
 さらにここにきて、常軌を逸した光景が繰り広げられる事となった。
 テスラ・ドライブをフルドライブさせ、襲い掛かる殺人的なGを問題にせず真正面から連合艦隊に突撃したヴァルシオンが、周囲の友軍に下がるよう伝え、ミナのミナシオーネもある程度の距離を取った時――
「メガ・グラビトンウェーブ!!」
 天地震わせるが如きビアンの叫び声と共に、ヴァルシオンを中心に漆黒の風が荒れ狂う超重力の嵐が巻き起こり、あろうことか駆逐艦や巡洋艦、イージス艦が空中に巻き上げられたのだ。

「な!?」
「気象兵器、いや重力操作だと?」
 流石に平静をとりつくろっていたアズラエルも、ヴァルシオンの脅威の武装に目を見開いて凝視する。重力を用いての兵器など、CEには存在していないのだから。
 連合艦隊の艦橋で、ストライクダガーのコクピットの中で、オノゴロ島の戦いが中継されるモニターの向こうで、CEの常識を覆すヴァルシオンは高らかに己の存在を歌い上げた。圧倒的な破壊をもって。
 四方から吹き荒れる超重力の風に、ストライクダガーは四肢をもぎ取られ次々と爆発して四散し、巻き上げられた艦艇の中では乗員達が壁や床、機材と衝突して次々と落命し、耐えきれぬ船体が軋みを挙げてひしゃげ爆発し、海面に叩きつけられては次々と海の藻屑となっていく。
 超重力の、圧倒的なまでの暴力が過ぎ去ったあとには破壊しつくされたMSと、かろうじて原形をとどめる艦艇の屍が無残に海面に漂っていた。
 しばし、戦場の全てを静寂が支配したが、やがて連合艦隊旗艦から撤退を告げる信号弾が打ち上げられ、オノゴロ島に迫っていた各艦隊、MS、航空部隊は速やかに撤収していった。
「追撃はせずとも良いのか?」
 ヴァルシオンの傍らに寄り添ったミナシオーネからの通信に、ビアンは静かに答えた。
「良い。それよりもこちらの被害の確認と部隊の再編成を急がせねばなるまい。連合がこのまま退くかどうか……」
「分かった。それと、ギナ達も間もなくこちらに到着するそうだ。ヴィクトリア攻略作戦に表向きだけでも従事する理由も無くなったしな。それと土産があるそうだ」
「ほう?」
「さて、とりあえずは一段落、か。兵達に労いの言葉をかけてやるのも総帥の仕事だろう?」
「そうなるな」
 ビアンは夕暮れに染まる空と海を見つめながら、世界の行く末と失われた命を思い、しばし、黙想した。ミナも、ビアンの雰囲気を感じ取ったのか、何も言わず、ただ、彼の好きにさせた。

 オノゴロ島から離れたある島の孤児院で、マルキオ導師という元宗教家が面倒を見ている子供達が、遠くから聞こえる戦火に怯え、涙をためる子供達を宥めすかす一人の女性がいた。  
 切りそろえられた艶やかな黒い髪、眼尻がややつり上がった気の強そうな瞳、今は子供達を安心させるために笑みを浮かべる淡い桜色の唇――。
「怖いよう、お姉ちゃん」
 怖いよ、いつまでこうしていればいいの、せわしなく子供達が上げる声に、女性はあくまで穏やかな笑みで頭をなでたり、抱きしめて落ち着かせる。宗教画に描かれる聖母にも劣らぬ慈愛に満ちていた。
「大丈夫よ。ここにいれば怖いものはここには怖いわ。さあ、男の子でしょう? 涙をふきなさい。ほら、アンナなんかぐっすり眠ってる。ハンスはお兄ちゃんなんだから」
「うん、分かった。ぼく泣かないよ、オウカお姉ちゃん」
「いい子ね。ハンス」
 オウカと呼ばれた女性は、遠くオノゴロ島で繰り広げられる戦いを思う度、脳裏に走るノイズにかすかに柳眉を顰めた。MSに酷似した、しかしどこか違う鋼の巨人たちが戦う風景。覚えの無い少年少女たちの顔と声――。
「ラ……ト? ア、ラ、ド、ゼオ……ラ?」
 自分の名前しか覚えの無いオウカの脳裏に浮かぶ、三人の少年と少女。その度に胸に去来する暖かな感情と悲しみに、オウカはどうすれば良いのか分からない感情をもてあます。
 ただ、今は、弟や妹の様に愛しい子供達を少しでも安心させてあげたかった。