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SRW-SEED_ビアンSEED氏_第16話

Last-modified: 2013-12-26 (木) 20:53:25

SRW-SEED_ビアンSEED氏_第16話
 第十六話 漆黒の亡霊 対 月下の狂犬
 
 ビアンが未来を託す子達が一時の休息に、傷つきそして成長した心を癒していた時、虚空の戦場では今なお多くの命が光の中に消えていた。
 DC討伐艦隊に合わせて、旧オーブ軌道上の降下地点を確保すべく月から出撃した連合艦隊を、DC宇宙軍総司令マイヤー・V・ブランシュタイン率いるDC宇宙艦隊が迎え撃ち、砲火を交えていたのだ。
 DC宇宙軍の戦力はマイヤーと副官リリー・ユンカースの乗艦する旗艦アルバトロス・改級宇宙戦艦『マハト』と、同時にCEへ転移した旧コロニー統合軍ペレグリン級宇宙戦艦『カタール』『ゼファー』。イズモ級特装鑑一番艦イズモと四番艦ツクヨミ。
 ジャンク屋から購入・サルベージし、対MS用の防空火力を増強したネルソン級(250m級宇宙戦艦)が六隻、ローラシア級が四隻とナスカ級が一隻。加えてMS運用に特化した改修を行ったアガメムノン級空母が二隻とドレイク級駆逐艦が十一。
 武装商船などもあるがあまり戦力とはいえず、アメノミハシラに残してある。
 以上の艦艇をアメノミハシラの防衛と軌道上での迎撃に戦力を二分している。
 迎撃に出ているのはマハト、ツクヨミ、ゼファー、それにアガメムノン級にドレイク級四隻とローラシア級二隻の十隻だ。補給艦や輸送艦、工作艦なども随伴しているが現在は戦闘宙域から離れている。
 これらの艦艇に加えて、ユーリエ二佐の率いるクライウルブズに匹敵する最精鋭MS部隊『トロイエ隊』のMSが四機。他にもアメノミハシラで生産したのとモルゲンレーテから送られたコスモエムリオンが二個中隊(二十四機)。
 ジンやメビウスといった旧式化した兵器には先立って開発された戦闘用の人工知能が搭載され、希少な人材の消耗を抑えるべく多数が配備されている。内わけはジンとストライクダガーが十機ずつとメビウスが二十。
 まだ実戦での使用が初となる人工知能についてはあまり戦力とは考えられていないが、MSでの戦闘を始めたばかりの連合相手ならば有用だろうと、かなりの数を持ってきていた。
 DC製MSと各勢力のMS、MAの終結したいささか無節操な布陣は、休むことなく稼働しているアメノミハシラの生産工場と、マイヤーとビアン、旧オーブの五大氏族らが作り上げたジャンク屋ギルドを介しての生産能力が発揮された結果と言えるだろう。
 連合が送った降下部隊はMSが主軸となっており、一基に三機までのMSを搭載できる降下ポッドを幾つも腹に抱えた輸送船を護衛する艦隊と、先んじて降下ポイントを確保する艦隊とに分かれている。現在マイヤーが交戦しているのは降下ポイント制圧の部隊だ。
 幾筋ものビームとミサイルが両艦隊の間で交わされ、ぬばたまの闇を照らしだす戦いの光の中を、人が作り上げた鋼の巨人たちが駆け抜けている。
 連合はアガメムノン級が二隻、ネルソン級九隻、ドレイク級十三隻と智将ハルバートン提督の率いる第八艦隊の壊滅からようやく再建が軌道に乗った宇宙軍の艦隊をかなりの数動員していた。
 艦隊の数はDC十隻、連合二十三隻。個々の戦力を見れば、連合に対しマハトとツクヨミが飛び抜けた性能を持っている。また指揮官としてもマイヤーとリリーという新西暦でも有能な指揮官二人が率いるDC艦隊は、数で勝る連合に優勢にあった。
 MSが連合で本格的に配備される以前には、第八艦隊がたった三隻のザフト艦と搭載されたMSに壊滅させられた例もあるから、数の不利が決して勝敗を決めはしない。
 連合側は数の差を生かして長距離からの砲撃戦を仕掛けてきたが、これはマハトという存在によって大きな誤算を招く事となった。

「RBSフォーメーション展開、射線軸上の友軍機に警告」

 リリーの指示にしたがってマハトの母艦部分とドッキングしていた五隻の砲艦が分離し、ここに巨大な砲口の狙いをつける。アルバトロス級は五隻の砲艦とAMやPTの母艦からなる戦艦だ。
 噛み砕いて言えば一隻で砲艦五隻分の火力を有する事になる。それに加えて、この世界でのアルバトロス級は、どうせ艦艇の数は揃えられないのだから、徹底的に火力を強化するという方向性で改修が加えられている。
 対空防御強化の為にレーザー砲塔やミサイルランチャーの増設は言うに及ばず、最も力を入れられたのは五隻の砲艦すべてが、陽電子破城鎚『ローエングリン』を持つ事だろう。
 下手をしたら直撃しなくても戦艦や空母を一撃で沈める一撃必殺に近い代物を五つも装備していたのだ。
 威力に比例してエネルギーの消費も馬鹿にならないから連続しての発射は出来ないが、そこは五門という数がカバーしている。
 母艦から分離した五隻の砲艦が距離を開けて、エネルギーチャージを終えて陽電子砲の莫大なエネルギーが溢れ出した。
 虚空を貫く光の洪水は緊急回避した連合の艦艇の内ネルソン級を真正面から貫いて轟沈させ、ネルソン級の爆発は周囲の艦艇にも影響を及ぼした。
 他にもドレイク級二隻がローエングリンに持っていかれ、編隊が大きく乱れる。数で勝り、艦隊の火力で上回る筈が、たった一隻の艦艇の砲撃で目論見が崩れたのだ。

「MS隊発進。ビーム攪乱膜散布、艦首ミサイル一斉射撃! ゼファー、ツクヨミは前方ネルソン級を。ローエングリンの次射まで本艦はここに固定」

 矢継ぎ早に出されるリリーの指示に従い、艦隊の動きがにわかに慌ただしいものになる。
 連合艦隊からも輸送艦や、甲板上にワイヤーで括りつけられたストライクダガーやメビウスが発進し始め、編隊の乱れた艦隊をカバーすべく数で劣るDC艦隊とMS隊に襲い掛かる。
 対して対空火力を強化し、艦艇用の大出力エネルギーフィールドを搭載したドレイク級がレーザーと対MS用スプリットミサイルを惜しげもなくばらまき、アガメムノン級やマハト、ローラシア級からもDCのMS隊が出撃する。
 宙間仕様のコスモエムリオン十五機とAIを搭載したジン、ストライクダガー、メビウスが連合のMS隊を迎え撃つべく推進剤とテスラ・ドライブの光が尾を引いて宇宙の闇に描かれた。

 降下ポイント制圧の為の艦隊後方の、降下ポッドを抱えた艦隊にも少数のDCMS隊が襲い掛かっていた。
 女性パイロットで構成されたトロイエ隊を核とした十機のコスモエムリオンと、三機のコスモリオン、それにトロイエ隊隊長ユーリエの駆るガーリオンと大型の高速シャトルが一機。
 接近するDCのMS隊に気付いた降下部隊の護衛のストライクダガーがビームライフルを向けてくる。
 機体の遠方を過ぎ去ってゆくビームライフルの無駄弾を見て、ガーリオンのコクピットで小さくユーリエは罵る。

「動きが遅いな。MSの運用に慣れていないとはいえ、その距離からで当たるものか。各機散開、MSの撃墜よりも降下ポッドを優先しろ」

 トロイエ隊は現在ユーリエを含め十二名。内、新西暦で死に、CEでの生を得たものは四名。他の八人はこちらで募ったオーブやザフト、連合の脱走兵や傭兵である。
 大部分は訓練と防衛の為にアメノミハシラに残していて、今回迎撃に出ているのは旧トロイエ隊のメンバーで固められている。
 また、彼女らの乗る機体もMSというよりも、AM――アーマードモジュールというべきだった。
 ジュネーブ降下作戦に際しヒリュウ隊に撃破された乗機と共にこの世界に現れたため、旧トロイエ隊のメンバーは戦死した際の機体をこちら側でも使用している。
 撃沈したマハトやゼファー、カタールに残されていた新西暦技術純正のコスモリオンも六機ほど確保する事が出来た。
 CE技術による強化も加えられたガーリオンはプラズマ・ジェネレーターの生む核エンジン以上の出力が生み出す爆発的な加速で、すれ違いざまに二機のストライクダガーにバーストレールガンを叩き込み、滑稽なまでにあっさりと撃墜する。

「歯ごたえの無い」

 ガーリオンの左手に、腰にマウントしていたメガビームライフルを握らせ、ユーリエは視界に入ったドレイク級目掛けて機体を奔らせた。 
 連合艦隊も、装備こそは大艦巨砲主義の旧態依然としたままではあるが、火器を目いっぱい稼働させ、DCのMSを近づけまいと足掻く。
 迎撃に出た護衛艦隊のストライクダガーは七十機以上。ユーリエ達の四、五倍以上だが、それを機体とパイロットの質がなんとか拮抗以上に持ちこんでいる。
 トロイエ隊のコスモリオンが放ったミサイルが、次々とネルソン級に突き刺さって爆発を生み、対空砲火の弛んだ隙を突いて飛びこんだ一機が、レールガンを立て続けに撃ちこんで撃墜する。

「ええい、こちらのMS隊は何をやっている! 数ではこちらが上なんだぞ!」

 護衛艦隊の旗艦アガメムノン級空母『オルドレイク』艦橋で響いた罵声に応じる声は無い。各員が襲い来るDC部隊の迎撃で手いっぱいなのだ。

「密集して対空砲火を集中させろ。戦艦とMSの装甲の違いを教えてやれ!」

「高速シャトルが一隻こちらに向かってきます。識別はDC」

「その程度の事をいちいち報告するな。適当に撃ち落とせ。付近の宙域の友軍を呼びよせろ。砲撃手、シャトル位は落として見せろ!」

 艦長の気合いに乗せられて、というわけではなるまいが、ドレイク級二隻のビームとミサイルの集中砲火が、DC側の高速シャトルに殺到し、瞬く間に船体を吹き飛ばして行く。
 あっけなく火の海に呑まれるシャトルを尻目に、ユーリエは嘲りを含んで呟いた。

「自ら地獄の蓋をあけるとは、無知とは悲しいものだな」

 振り向きざまにビームサーベルで斬りかかってきたストライクダガーの胴体に、メガビームライフルの銃口をぴたりと当て、サーベルが降りきられるより早く一度だけ撃つ。
 これで六機目。あちらは放っておけば勝手に敵を減らしてくれるだろう。そろそろ降下ポッドの方を潰しておかねば。
 高速シャトルの撃墜を報告しようとした連合オペレーターは、すぐさまそれを否定しなければならなかった。撃墜されたはずのシャトルからの反応は

「シャトル内部から高エネルギー反応! これは、大型の機動兵器です!」

「なに!? 輸送の為のシャトルというわけか。だが、駆逐艦とはいえ戦艦の艦砲を受けて無事な兵器など……」

 そこまで言って、艦長が思い当った兵器に身を固くした。そう、あったのだ。DCには一機だけ、戦艦クラスのビーム砲の直撃にも耐え得る機種がたった一つ。
 火を噴くシャトルの中からぬっと突き出された大きな二つの鋼鉄の掌は、シャトルを落としたドレイク級に向けられていた。
 その手の平の中心には菱形をしたクリスタル状の物質が嵌め込まれていた。

「クロスマッシャー!」

 オーブ解放作戦において連合に多大な犠牲を強いた赤と青の二重螺旋が二筋、ドレイク級駆逐艦のどてっ腹に突き刺さり、瞬きをする間に爆発させてしまう。
 同時にシャトルは、積載されていた兵器も無事では済まないと分る規模で爆発した。だが、それはそこに悠然と佇んでいた。
 MSの三倍近い機体はくすんだクリーム色で、四肢は異様に太くがっしりとしている。機体後部から延びる大型のブースターや各所のバーニアスラスターが、この巨大な兵器の機動力のカギを握っているのだろう。
 まん丸い人体の眼球みたいなカメラアイが、戦場を見渡しコクピットに映像を送る。コクピットで一人、パイロットであるロレンツォは呟いた。

「このヴァルシオン改・CFの本領が発揮できる戦場だな。出会った不幸を呪え、連合の兵ども」

 DC宇宙軍所属ロレンツォ・ディ・モンテニャッコ一佐。慎重さと大胆さを併せ持った老獪な軍人だ。彼もまた新西暦の世界からの来訪者だった。
 DC戦争の後、少数ながらもDC残党をまとめあげて、今彼の乗るヴァルシオン改・タイプCFを宇宙に上げようとし、連邦のATXチームに敗れて一度死んだ身だ。
 彼もまたビアンと時期を同じくしてこの世界に現れ、かつての世界と同じくビアン・ゾルダークの元で持てる力を奮っているのだ。
 打ち上げ用のシャトルごと貫かれ大破させられたヴァルシオン改・CFは宙間仕様という事もあって、アメノミハシラで改修が進められていた。

 フレキシブルアームを排したバックパックには百連装ミサイルランチャーと大出力ブースター、テスラ・ドライブユニットが搭載されている。
 TGCジョイントや一部には人工筋肉が用いられていて、大型の機体かつあまり可動部があるとはいえない構造ながらも、それなりに柔軟な動きを可能としている。
 武装はバックパックのミサイルランチャー、両掌のクロスマッシャー、頭部の75mm対空自動バルカン砲塔システム『イーゲルシュテルン』六門、腹部の580mm複列位相エネルギー砲『スキュラ』、胸部の150mm対MSマシンキャノン四門と充実している。
 基本的なポテンシャルはヴァルシオンの先行量産型の更にデチューン機なのでビアンの乗るヴァルシオンVerCEにも劣るが、それでもヴァルシオンの名を持つ機体だ。
 連合やザフトからすれば化け物としか呼ぶ他ない悪夢であった。

「ユーリア二佐。MSと戦艦は私が引き受ける。降下ポッドを任せたい」

「了解。連合の残敵、かなりの数ですが?」

「引き際は心得ているよ」
 
 不敵に笑い、ロレンツォは残る連合の艦隊に目を向けた。ロレンツォの眼には怯えた獲物が、狩人にせめてもの抵抗をしようと息巻いているように映っていた。

「喰らえ、クロスマッシャー!」

 新たな二重螺旋がストライクダガーと射線上にいたドレイク級をまとめて貫いた。
 続いて群がるストライクダガーにバックパックのミサイルランチャーを全弾叩き込み、被弾を免れた数機を腹部のスキュラとクロスマッシャーでまとめて葬る。
 次に戦艦に目を付けた。推力を最大にして、対空砲火を気にせず突っ込む。
 ヴァルシオンと違い、歪曲フィールドとメガグラビトンウェーブは装備していないが、装甲の厚さでは勝るとも劣らない。
 PS装甲、ラミネート装甲、超抗力装甲を始めとした複合装甲は、殺到するビームやミサイル、砲弾を弾いて見せた。
 ネルソン級の側面に振りかぶった右拳を叩きつけると同時にロレンツォが叫ぶ。

「滅殺、ヴァルシオンパンチ!」

 クロスマッシャーを握った拳に纏わせた状態で叩きつけられたネルソン級は、紙か泥で作られた船のように呆気無く砕け散る。ロレンツォは止まらない。
 テスラ・ドライブのフル稼働が、ヴァルシオン改・CFに慣性の法則を無視した軌道をある程度可能にする。
 ゼロから急速に加速して前を向いたまま後退し、ストライクダガーの放つビームを受けながら反撃にスキュラを放ち、二、三機をまとめて落とす。
 加速したヴァルシオン改・CFは、今度はドレイク級駆逐艦の艦橋真上から突っ込んだ。ロレンツォの叫びはこうだ。

「超絶、ヴァルシオンキイィィック!!」

 まとめて二隻のドレイク級駆逐艦を真ん中から蹴り貫き、虚空の闇に大きな火の玉を生む。
 まさしく悪夢の権化そのものと化したヴァルシオン改・CFとロレンツォであった。

「ふむ。ビアン総帥の指示で叫んでみたものの……悪くないな」

 ビアンと近いノリのおっさんであるらしかった。その時、ロレンツォは機体がとらえた新たな反応を注視した。
 ヴァルシオン改・CFのNJの影響でお粗末なレーダーが捉えたのは、オーブ脱出以来息を潜めつづけていたアークエンジェル達だった。
 この動きはマハトに乗艦するマイヤーも当然知る所であった。

「総司令」

 緩やかに波打った金色の髪が艦橋の照明に照らされて純金の輝きを零しながら翻った。リリーの穏やかさと知性とが共存する瞳は傍らのマイヤーを映していた。
 マハト艦橋で、傍らに立つリリーの声にマイヤーは面白いといった顔をしていた。これはこれで望ましい展開なのかもしれなかった。

「国を追われても、その国を焼かれるのは嫌か。ふふ、青いというべきかな。カガリ姫? 友軍にあちらから手を出さぬ限り攻撃は控えるよう伝えよ」

「もし、攻撃を加えてきたら?」

「加減はいらん。ロレンツォやユーリエ達にも全力で潰してかまわんと伝えておけ。ふむ、アスハ派が持って行ったローラシア級にネルソン級。それに……」

 
「コペルニクス自治政府に秘匿させていたイズモ級三番艦スサノオ、ですね。ツクヨミはこちらに着きましたが、やはりアスハ派の兵や将校も少なくありません」

「それなりの艦隊を揃えているな。カガリ自身というよりは周囲に優秀な人材がそろっているのだろう」

 連合のDCへの再度の攻撃を、ジャンク屋ギルドを介して裏組織やコペルニクス、スカンジナビア政府から伝え聞いた――仮にオーブ艦隊とする――は、カガリの懇願によって連合とDCの艦隊戦に介入する事となった。
 オーブ艦隊はクサナギ、アークエンジェル、ネルソン級とローラシア級が一隻ずつ。加えてリリーが名を挙げたイズモ級の三番艦スサノオとドレイク級二隻を新たに加えていた。
 クサナギの艦橋で、カガリは焦燥に急かされた顔で、眼前で繰り広げられる艦隊戦を見つめていた。DC側の戦闘員はほぼ旧オーブの軍人で構成されている。
 たとえ国を追われたにせよ、ほんの数日前までは国民だった者達が戦火に身を晒しているのだ。他を顧みない、良くも悪くも愚直なカガリの正義感が、この戦いを見過ごせるわけも無かった。
 オーブ艦隊のエースであるキラにしても故国であるオーブが戦火に見舞われるのは看過出来なかったし、アークエンジェル艦長マリュー・ラミアスは情の深い性格というのもあるが、ウズミへの恩義などもあり、カガリの必死の頼みを断る事は選べず介入を許可している。
 元々アークエンジェル以外はオーブの親アスハ派の兵なのだから、マリューが反対してもどれほど効果があったかは疑わしい。
 一応、クサナギで艦長を務めるキサカなどはカガリを諌められるが、大抵の兵士や佐官クラスに至るまでがまっこうからカガリに反論する事は少ない。
 良くも悪くも国民に多大な影響を持つアスハ家に対するオーブ国民の反応の縮図といえた。

「キサカ、連合の艦隊の動きは?」

 艦長席の隣に敷設された席で身を乗り出したカガリが、険しい顔をしたキサカに詰問に近い勢いで問う。

「……降下部隊、護衛部隊、制圧部隊、どれもDC艦隊に抑え込まれている。正直な所、数で圧倒的に劣っているというのに、DC側が優勢だ」

 キサカの眉間に刻まれた皺が深くなる。連合、ザフトともに今のオーブ艦隊には手に負えない相手である。その両軍に比べればDCははるかに与しやすい相手だと考えていたが。

(ある意味もっとも底が知れないのがDCか)

 モニターの向こうで暴風の如く荒れ狂うヴァルシオン改・CFとユーリエのガーリオンの圧倒的な戦闘能力に、キサカは知らず唾を飲み込んでいた。
 まあヴァルシオンシリーズの派生機に核エンジンをはるかに上回る出力の、プラズマ・ジェネレーターを搭載したガーリオンだ。目を付けた相手が悪い。

『キサカ艦長、ラミアス艦長。手筈通り、我々はDC艦隊に手を出さん。これは変わらんな?』

 磨き抜いた鋼の様な、一風変わった色の船体色のスサノオから、オーブ艦隊の旗艦を務めるクサナギと、艦隊の中では最強の戦艦であるアークエンジェルに連絡が入る。
 戦力的にも象徴という意味でもこの二隻がオーブ艦隊の要だ。
 モニターの向こうで、雄々しく鬚を伸ばし、パイプを咥えた五十代半ばほどの男が映った。
 右斜め前に被られた軍帽の奥に光る鋭く険しい光を宿した瞳。引き締められた唇は確固たる強い意志を表していた。
 軍服の襟にオーブ軍一佐の階級章を付けたこの男こそ、オーブ軍所属の戦艦乗りの中でも最高の艦長の一人に数えられる名艦長ダイテツ・ミナセである。
 ウズミの正当な後継者であるカガリには目もくれず、あくまでキサカとマリューを相手に、ダイテツは話を進める。
 オーブ関係者にしては珍しくカガリを必要以上に持ち上げたり、敬う姿勢を必要以上に示さないタイプだった。

『ええ。ミナセ艦長、DC側はこちらに仕掛けてくるでしょうか?』

 豊かな胸の中に抱えた気掛かりな事を、マリューはあえて口に出した。今度の介入戦に参加するにあたっての最大の懸案事項の一つだった。

『うむ、相手も同じ事を考えているだろう。おそらくマイヤーの事だ。こちらから仕掛けるまでは手出しをせぬよう通達してあるだろう』

「つまり、DC艦隊からの攻撃がない限りはこちらから仕掛ける事はしないって事だろう?」

 キサカの隣で座っていたカガリだ。ダイテツは一瞥してから重々しく頷く。
 多少口を挟んでくるものの、オーブを追われてから少しは思う所があったのか、カガリも以前よりは的を得た事を言うようになっている。
 それに今度の介入もまったくメリットが無いわけではない。
 DCに残っている親アスハ派の軍人や閣僚にカガリの存在を広くアピールする切っ掛けにもなるし、国を追われてもなお国土と国民を守ろうとする姿勢は、それなりに点数稼ぎにもなる。
 連合の脱走艦であるアークエンジェルがいたり、ザフトの最高機密である核動力MSがいるのは、まあ、この際気にしない方向で考えた方がいいだろう。
 最悪、連合とザフトに目を付けられて追いかけまわされる位だ。もともとザフトにはフリーダムの件で遠くないうちに追われる事になっただろうし、要は早いか遅いかの違いと言っていい。
 そのように、ダイテツは自分に言い聞かせてきた。やはり、政治が絡む話は自分には向いていない。自分が職業軍人であると再確認するいい機会にはなったという事にしておこう。
 対DCにおいてカガリの考えは、やはり旧オーブ政権の債権に重点が置かれている。ただ、そこにかつてのオーブ同様の中立政策の占めるウェイトが変わりつつある事に本人も気づいていなかった。
 いかんせん、感情で突っ走る性分だから仕方がない面もある。それでもこの戦争でわずかずつ成長のきざはしを見せつつある。そうでなくては、味方に着いた甲斐もないというものだ。

(後は、政治面で彼女を導ける人材がいれば良いがな)

 だが今は目の前の戦場を生き抜く事が第一だ。命あっての物種、人類が宇宙に進出してもなお通じる格言であった。
 元々DC艦隊だけでも手に負いかねていた連合艦隊はオーブ艦隊の出現で敗色をよる濃厚なものに変えていた。駆け付けた味方の連合艦隊がオーブ艦隊との交戦で手一杯で、降下ポッドの護衛艦隊に回す戦力は無かったからだ。

「オーブを焼かせるわけには、あそこには友達が、家族がいるんだ!」

 キラの駆るフリーダムはストライクの四倍のパワーを最大限に発揮し、ストライクダガーの周囲を駆け抜けざまにビームサーベル二刀流で四肢を切り落とす。
 離れた敵にはバラエーナプラズマ集束ビーム砲やクスフィアスレールガンといった、MSとしては過剰なまでの火器がストライクダガーの四肢を貫き、頭部を砕き、武器を破壊して戦闘能力を奪う。

「連合のMS、もうこれだけの数が配備されているのか?」

 アスランのジャスティスは得意の近接戦闘で次々とストライクダガーを翻弄し撃破していた。ラケルタ・ビームサーベルを連結させてアンビデクストラス・ハルバート形態に変えて、一振りごとにストライクダガーの胴や手足が切り裂かれてゆく。
 両手を振るしぐさと同時に肩のバッセル・ビームブーメランを投擲し、NJの影響を受けない量子通信である程度軌道を操作し、バッセルをよけたストライクダガーをビームサーベルで、またジャスティスから離れたストライクダガーは戻ってきたバッセルに背後から切り裂かれる。
 核動力MSであるフリーダムとジャスティスが連携した時の戦闘能力はすさまじく、ジャスティスが接近戦を仕掛けて敵ストライクダガーや艦船の陣形を乱し、そこにフリーダムの砲撃が雨あられと降り注ぐ。
 正確無比なレールガンやプラズマ、ビームが、同時に最大十機の目標をロックオンし、五つの火器がストライクダガーを貫いて戦闘能力を奪ってゆく。
 フリーダムの性能とキラ・ヤマトの極めて高い反応速度、精密射撃の能力が繰り出す同時多目標への攻撃――ハイマット・フルバーストの五つの光が煌く度に、ストライクダガーは頭部や四肢、ビームライフルなどの武装を失ってゆく。
 そこにディアッカのバスターの砲撃も加わり、散らされた蜘蛛の子の様にストライクダガーはひるんで、フリーダムやジャスティスを遠巻きに囲もうとする。
 彼らにとっての不幸は敵がそれだけではなかったということだ。
 怯み隙を見せるストライクダガーに、ムウの駆るエールストライクが襲い掛かり、ジュリやアサギ、マユラらオーブ三人娘の駆るエムリオン隊を筆頭に残りのMS隊もストライクダガーへレールガンやミサイルの雨を降らし始める。

 旧オーブのMS隊も、DC製MSの操縦訓練はいやと言うほど積んでいる。
 元々機体の高性能と搭載されたオペレーション・システムの優秀さもあって、連合のパイロットよりはマシにMSを動かしていた。
 彼らにとっての初戦が、数の上で大差なく余裕をもって戦える相手であったことは幸運と呼ぶべきだろう。
 MS隊の後方で増援艦隊と砲火を交えるオーブ艦隊も、善戦する自軍の様子に安堵ほどではないにしろ、安心した雰囲気があった。

「いつも数で劣る戦いばかりでしたからね。今日みたいなのは珍しい」

 アークエンジェルの操舵手であるノイマンがブリッジに居る全員の心境を代弁した。
 確かにアークエンジェルはその始まりから本来の乗員を殆ど失い積載するはずだったGはストライクを残して全てザフトに奪われ敵となり、友軍に合流できたと思った矢先にその友軍は壊滅。
 なんとか地球に降下したはいいものの、そこはザフトの勢力下であり、敵軍の中でも名の知られた名将が敵。その後も次々と迫る追手相手に苦戦を繰り広げて辿り着いた友軍の本拠地では捨て駒にざれるわ、ある意味笑うしかない戦歴だ。
 これまでの戦いを振り返れば、確かに今の交戦状況は同ということが無いような気がしてしまう。
 艦長席に座るマリューとて本来は技術仕官なのだから、ここまで戦い抜くことが出来たのは僥倖か、小さな幸運が積み重なった結果なのかもしれない。
 形の良い唇で微笑を浮かべ、マリューは気の緩みを正すよう言う。

「そう思ってしまうのも無理は無いけど、油断は禁物よ。一発の流れ弾で命を落す兵は古今後を絶たないわ。偶然としか思えない攻撃で戦艦が沈む事だって無いわけじゃないわ」

「はい」

 やや恐縮した様子のノイマンの返事に頷いて答えて、マリューが新たに指示を飛ばす。

「前方敵MSにミサイルを、ゴッドフリートの照準はクサナギ、スサノオと連動させて。DC艦隊の動きは?」

 オペレーター席で、連合から離れても軍服は相変わらずのミリアリアは明瞭な調子で答える。オペレーターに見栄えの良い女性が多く配備されるのは、男パイロット連中のやる気が増すからである。冗談みたいだが、実際そうなのだから仕方がない。

「依然、連合艦隊と交戦状態にあります。こちらに仕掛けてくる様子はありません」

 降下ポッドを抱えた輸送艦は半数近くが既にユーリエを筆頭としたMSに落され、護衛のMSはほとんどヴァルシオン改・CFによって掃討されている。
 見ていて薄ら寒くなるほど一方的な戦闘であった。

「ビアン・ゾルダークのヴァルシオンという機体もそうだけど、あの大型の機体と指揮官機……。動力源だけじゃない、機体の完成度が高すぎる。まるで何年も人型の機動兵器を研究しているみたいだわ」

『ラミアス艦長。スサノオは前進し、敵の砲火をひきつける。その隙にローエングリンで連合の空母を狙ってくれんか?』

「スサノオ一隻でですか? ラミネート装甲で防御面を強化してあるとはいえいくらなんでも」

『なに、スサノオが沈むよりも早くそちらが空母を沈めてくれればすぐにでも下がる。フリーダムとジャスティスもおるし、存外リスクは少ない。
付近の連合の艦隊が集まるより早く決着をつけねばなるまい。DC艦隊はともかく、わしらには大規模な補給を受けるアテもない。これ以上の交戦は今後に響く』

 月面のオーブ所属の中立都市やウズミを慕う親アスハ派の在外オーブ人や、マルキオ導師経由で時折受けることの出来るジャンク屋ギルドからの補給はマメに行われているのだが、一つ一つは小規模なもので、戦艦クラスが撃沈する事となれば代わりが補充できるのは何時の事か分からない。
 それを考慮したダイテツの言葉に、逡巡の迷いの後、マリューは賛同した。

「分かりました。キラ君とアスラン君にスサノオの護衛に付くよう伝えて。ローエングリン発射シークエンススタンバイ。目標、敵アガメムノン級戦闘空母」

 月の中立都市コペルニクスに秘匿され建造が進められていたイズモ級三番艦スサノオと四番艦ツクヨミだけでなく、イズモ級には、それぞれラミネート装甲やエネルギー・フィールドの実装、対空砲火の強化、艦艇用大型プラズマ・ジェネレーターの搭載が行われ、大幅な戦闘能力の増強が施されている。
 単艦でもそうそう轟沈するようなことはないだろう。防御面で言ったらアークエンジェル以上の艦船へと改修されているほどだ。
 突出したスサノオに、終始劣勢に立たされていた連合艦隊は、餓狼の様に狙いを絞って砲火を集中させた。
 マリューからの指示でキラのフリーダムやアスランのジャスティスが群がるストライクダガーを一掃し、敵艦の砲塔やカタパルトデッキ、推進機関に狙いを付けて航行能力や戦闘能力を奪ってみせる。
 機体の性能もあるが、それ以上にパイロットの人間離れした技量に、ダイテツは感嘆していた。

「まったく、彼らが味方で助かったな」

「第八ブロックに被弾。イーゲルシュテルン二番、五番、沈黙。エネルギー・フィールド出力68パーセント。敵ミサイル群、来ます」

「取り舵、ピッチ角下げ三十。ゴッドフリートとイーゲルシュテルンでなぎ払え!」

 スサノオの船体上下に展開したゴッドフリートからの計四条の光が迫るミサイル群をなぎ払い、砲身の冷却もそこそこにネルソン級やドレイク級に狙いを付けて、立て続けにビームを放つ。

「ふん。こうもあっさり餌に食いつくとはな。連合の人材も不足しがちか。ハルバートンの第八艦隊の壊滅は、堪えているようだな」

「MSが接近。数は一!」

「対空防御なにをしておる! こちらのMSは?」

「突破されました。フリーダムとジャスティスも、敵機に囲まれています」

 残りの戦力を惜しみなく掃き出した連合艦隊の最後の抵抗だ。キラやアスランも半ば死を覚悟して迫るストライクダガーの群れに、動きを止めさせられ、スサノオがわずかに無防備になる。
 今スサノオに迫るのはガンバレルストライカーを装備した105ダガー。パイロットは、『月下の狂犬』の異名を持つユーラシア連邦のエース、モーガン・シュバリエ大尉だ。

「まったく、DCとオーブが争わずに共闘の姿勢を示すとはな。現場でそんなことを言っても何も始まらんか。だが、せっかくの機会だ。戦艦の一隻くらいは落とさせてもらう!」

 スサノオの対空砲火を振り切り、105ダガーが背負ったバックパックから有線制御のガンバレルが四基射出される。
 メビウス・ゼロに装備されていたものに比べビーム砲を搭載している分攻撃力は高いが、バッテリーの消耗が早い欠点を持っている。 
 後は有線故に戦闘中に線が切れてしまったときに制御不能になるのが欠点だが、操縦者の技量次第では三次元からあらゆる方向で襲い来るガンバレルが、有視界戦闘が常道となった今回の戦争で強力な装備であることはゆるぎない事実だ。
 105ダガーの持つビームライフルとガンバレルのビームがスサノオの装甲に降り注ぎ、磨きぬいた鋼に似た色の船体を輝かせる。

「ち、ラミネート装甲か。このダガーにも装備されているが、敵に回せば厄介だな。ゼロのガンバレルを装備してくればよかったか」

 有効打になりえる装備が無いことに、モーガンは苦い表情を浮かべるが、ならば直接艦橋を狙えばいいと、105ダガーを更にスサノオへ肉薄させる。
 だが、モーガンの優れた空間認識能力が、自身に迫る危機を直感に似た感覚で捉えた。コントロースティックを繰ったのはほとんど反射的な動作だった。
 コンマ一秒前までモーガンの105ダガーが存在していた空間を、赤いビームが貫き、わずかに105ダガーの装甲表面を焼く。

「ラミネート装甲の排熱が間にあわんだと? どれほどの高出力ビームだというのだ」

 105ダガーのレーダーとモニターが敵を捉えた。大型のビームライフルらしきものを持つ漆黒の機体。
 バイザーの奥で光るツイン・アイ。ブレードの上の、後方上部に延びた両側頭部のアンテナ。丸みを帯びて膨らんだ手足のパーツに、大きく可動部が確保されたショルダーアーマー。
 モーガンの知るザフト・連合と明らかに異なる意匠の機体。その名をゲシュペンスト・タイプSといった。

「オーブがDCから強奪した機体か?」

 ニュートロンビームを構えたゲシュペンストはモーガンの前に立ちふさがり、スサノオを守る盾となる。

「スサノ……オは、やら、せん」

 たどたどしい、どこか機械的な響きの混じった声がゲシュペンストのコクピットで紡がれる。
 パイロットもまたゲシュペンスト同様この世界では異端の姿をしていた。
 宇宙でありながらパイロットスーツは身につけておらず、体の殆どが銀色に光る機械で構成されている。生身はわずかに覗く口元くらいだ。
 著しく傷ついた肉体や損失した部位を機械で代用した、いわゆるサイボーグなのだろうが、ここまで肉体が機械化したサイボーグはコズミック・イラの時代でも珍しい、というよりは実現の難しい存在だ。 

『ラウ大佐、すまん。助けられたな』

「問題、ない。艦長、あの機体……はおれが引き受けた」

 感情は乏しいが、機械では再現しきれない人間の情動を交えた声でラウと呼ばれたパイロット――カーウァイ・ラウは頷いて応じ、眼前の105ダガーを睨み付けた。
 目前の正体不明のMS(パーソナルトルーパーという別の機動兵器なのだが)が只者ではないという直感と、初めて出会うタイプの敵機に対する警戒が、モーガンに緊張を強いる。

「つくづく厄日だな」

 心からの思いを吐露し、モーガンは精強な軍人の仮面を被った。
 同じに105ダガーの握るビームライフルとゲシュペンストのニュートロンビームの銃口が互いを狙う。
 銃口の虚を染め上げる緑と赤の光が放たれた時、すでに両者は動いていた。
 機体を左に動かしたモーガンは展開したガンバレルでゲシュペンストの四方を囲む。
 全天周囲モニターに映るガンバレルの一基にカーファイは狙いを定めてゲシュペンストを動かした。
 三方からのビームをかわす代わりに、真正面からのガンバレルのビームを機体ぎりぎりに掠めつつ回避し、モーガンが回避運動をさせるより早く、左手から伸びたプラズマ・カッターが切り裂き、星空に新たな炎の星が一瞬生まれて消えた。
 その場で機体をねじり105ダガーを照準内に捉えたカーウァイはニュートロンビームを三射ずつ二度撃つ。
 ラミネート装甲でも防御しきれぬ高出力のビームをモーガンは淀みない機動で回避し、一発をシールドで受け止める。
 機体が押され、シールド表面がじりじりと融解してゆく。

「馬鹿正直にはやりあえんな!」

 プラズマ・カッターで切りかかってきたゲシュペンストを残るガンバレルと105ダガーのビームライフルでけん制して距離をあけ、射撃戦へ入った。
 徐々にモーガンの顔に焦りが浮かび始める。漆黒の敵機の機動性といい、武装の強力さといいとてもバッテリー機とは思えない。
 加えてその性能を完全に引き出しているパイロットの技量。
 並みのベテランなど歯牙にもかけぬ、圧倒的な経験に裏打ちされた機動兵器の操縦者に違いない。
 だが、まだ精々一年かそこらしか戦争に用いられていないMSのパイロットがここまで見事な操縦が出来るものだろうか?
 二基、三基とガンバレルを撃墜され、たちまちガンバレルストライカーの意味が失われてゆく。舌打ちと共に母艦から無人のガンバレルストライカーを装備したメビウス・ゼロを呼び寄せるが、その動きをカーウァイは見逃さなかった。
 ゲシュペンストの胸部装甲が横に開かれ、プラズマ・ジェネレーターから供給される膨大なエネルギーが集約される。

「ブラスターキャノン」

 一機動兵器が有するにはあまりに苛烈なエネルギーの奔流がメビウス・ゼロを飲み込み、跡形もなく吹き飛ばしてしまう。

「MSサイズの陽電子砲か!?」

 あまりの威力に驚きの声を挙げるモーガン。無論陽電子砲ではないのだが、思い当たる武装がそれぐらいしかなかったのだ。
 既に護衛艦隊はヴァルシオン改・CFの前に壊滅寸前まで追い詰められて敗走し、モーガンと共に駆け付けた艦隊も、アークエンジェルの放ったローエングリンに旗艦アガメムノン級戦闘空母『アリオロス』が沈められてしまった。
 指揮系統の混乱と母艦を失い動揺するMS隊の隙を突かれ、アークエンジェルとクサナギの大火力を筆頭に一斉に放たれたオーブ艦隊の攻勢に、ほとんど戦意を喪失していた。

「ち、MS隊も残りは十四機か。降下ポッドも八割が撃墜。残りは投降するか鹵獲されてしまったようだな。これ以上は、いやかなり遅くなってしまったが、退くしかあるまい。ディバイン・クルセイダーズ――この敗北、忘れんぞ」