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SRW-SEED_ビアンSEED氏_第18話b

Last-modified: 2013-12-26 (木) 20:54:40

第十八話 ダンスの後には紅茶を一杯 Bpart

「はっはあ! あのふざけたMSはいねえのかよ!」

 ストライクダガー同様下駄をはいたカラミティのコクピットで、オルガは強化薬がもたらす高揚に身を浸しながら叫び、カラミティの背から伸びる125ミリ2連装長射程ビーム砲シュラークを適当な照準で撃ちまくる。
 クロトの駆るレイダーは、背後から迫るシュラークの砲撃を慌てて回避して、オルガに文句を言った。

「こら、オルガてめえ、目ん玉腐ってんのか!」
「当てなきゃいんだろう」
「よけなきゃ当たってるだろぉが!」
「……お前らうるさい」

 一人シャニが、こいつらうざいと心と口の両方で呟いたが、自分達に向かってくる三機のMSに気付いた。
 ふと、この前雨の中で戦ったMSとパイロットの事を思い出した。

「あの女……。乗ってんのかな?」

 ぼんやりとした呟きではあったが、機体の操作にまでそれを反映させはしなかった。
 フォワードを務めるシンのエムリオンが放ったビームを、何時もの様にゲシュマイディッヒ・ハパンツァーで受け流す。

「おい、さっさと援護しろよ」
「シャニ、命令してんじゃねえぞ」
「へ、空を飛べないお前の機体の役割だろ!」

 下駄履きで機動力に劣るカラミティをおきざりにして、クロトとシャニが突出する。
 舌打ちを零しながら、オルガは現実を認めて、二人を援護すべく下駄の高度を上げて、337ミリプラズマ・サボットバズーカ“トーデス・ブロック”とシュラーク、ケーファー・ツヴァイを構えさせた。どれも一撃でMSを破壊しうる火器だ。
 シンとステラのエムリオンがそれぞれフォビドゥンとレイダーに向かい、スティングが状況に合わせて二機の援護に入る。
 アルベロはカラミティらと同時に出撃したデュエルダガーやレイダー制式仕様を一手に引き受けていた。
 倒しても倒しても現れる敵にいささか閉口するが、デビルガンダムの再生能力や増殖能力に比べればどうという事も無い。
 空に生むオレンジの火球はいくつも連なって生まれ、その中に散華する命がある事など、戦場に立つ誰も考えてはいなかった。迷えば、自分がそうなってしまうのだから。
 先日の戦いを覚えているシンは、射撃戦ではフォビドゥンを撃破出来ないと判断し、接近してパイロットか内部機構にダメージを与えると結論していた。
 ソキウスとジェーンの連合からの離反によって手に入ったフォビドゥン・ブルーのデータから、ゲシュマイディッヒ・パンツァーの理論などは解析できたが、あいにくと無効化するような装置の開発は行われていない。
 対艦刀シュベルトゲベールでさえも、レーザーを散らされて実体剣としてしか機能できないのだ。
 ゲシュマイディッヒ・パンツァーを装備したMSの数が少ないことが救いだろう。

「ステラはレイダーを、シンはフォビドゥンを! ソキウス達が乗ってたのより火力が高い! カラミティの砲撃にも気を配れよ」
「うん!」
「この間の決着を着けてやる!」

 レールガンとメガビームライフルが二機から何度も放たれ、レイダーは立体的な機動で回避し、肩から覗く砲口から機関砲で反撃してくる。
 シンとステラが左右に分かれて回避した所に、今度は鳥の爪の様なアームから短射程プラズマ砲アフラマズダを撃ってくる。
 MA形態の機動性で敵集団を攪乱し、敵機を各個に撃破するのが役目といった所か。

「うえええーーいい!!」
「激殺!!」

 瞬時にMS形態に変形したレイダーが、破砕球ミョルニルを振り回してステラのエムリオンに叩きつけてくる。
 強化人間としてランクは落ちるが、ステラもDCに来てからの猛訓練とTC−OSなどの補助を頼りに、レイダーと交差する。
 すれ違いざまにレールガンを叩きこむが、回避され、レイダーの左腕に装備された2連装52ミリ超高初速防盾砲から連続して弾丸が二筋の軌跡を描いて、エムリオンの後を追った。
 急旋回で回避し、ステラは脳を焼く戦闘衝動に半ば突き動かされてミサイルコンテナからHEAT弾頭を搭載したスプリットミサイルをばら撒く。
 一基の大型ミサイルの中に小型のミサイルを六基搭載したもので、“ゲシュペンスト”タイプに標準装備されている。
 おおざっぱな説明だが、HEAT弾は旧世紀に開発された特殊弾頭で、先端の凸状ライナー部から、数千〜数万度のジェットストリームを対象装甲内部にぶちまける弾頭だ。
 TP装甲やPS装甲相手では装甲表面に弾頭が留まって表面を焼くに留まるだけかもしれないが、AP弾よりは電力を食う、位の効果は見込んでいる。
 レイダーはあろうことかミョルニルを勢いよく旋回させてこれらのミサイルをすべて撃墜してしまう。
 デットウェイトとなったコンテナを切り離し、ステラはそれをレイダーめがけて蹴り飛ばした。

「はん、小細工だね!」

 クロトは嘲笑と共にミョルニルで真っ向からコンテナを吹き飛ばし、両者にとって死角となったコンテナ越しにレイダーの口部に装備された100ミリエネルギー砲ツォーンを発射した。
 一瞬でツォーンに貫かれたコンテナ。その先にエムリオンがいると判断したクロトは、失策を理解していた。ステラのエムリオンが、レイダーの左側に回り込み、メガビームライフルとマシンキャノンの弾幕を張りながら突っ込んできたのだ。

「こいつぅう、生意気だよ!」
「落ちろおおぉ!」

 防盾砲の52ミリ口径弾がエムリオン機体表面を穿つも、それはエネルギー・フィールドに弾かれてわずかにエムリオンを揺らすに留まる。
 エムリオンからの弾幕にレイダーに回避運動をさせねばならず、精密性を欠いた射撃となっていた。
 一気にレイダーの懐に飛び込んだステラは空いている左手に持たせたアサルトブレードでレイダーの左腕に斬りつけた。
 銀色の刃が防盾砲を半ばまで切り裂いた時に、クロトはミョルニルをメリケンサックよろしくレイダーの右手に握らせて、ステラのエムリオンを殴りつけた。
 ステラの食い縛った口からか細く悲鳴が零れたが、視線をレイダーから外す事はしない。
 戦闘の最中、小さな疑問の暗雲がステラの脳裏に生まれた。
 ――何だろう? あの動き、どこかで見た事がある。
 何時だったか、何処だったか、そうラボだ。ステラの記憶の大部分を占める悲しみと苦しみと、それを感じる事さえ封じられていた場所。
 オレンジ色の髪と、いつもステラやスティングを馬鹿にしていた口調が、なぜか浮かんだ。
 ステラ達より前の世代の強化人間。短い間だけど、同じ場所同じ時間を過ごした――

「クロト?」
「そらあああ、必殺!!」

 レイダーの放ったツォーンが、エムリオンの左腕を吹き飛ばした。

「っ!!」
「もらったあ!」
「ステラ!」

 バランスを崩したエムリオンに止めを刺すべくミョルニルを振り回すレイダーに、シンを援護し、カラミティを牽制していたスティングのガームリオンがツイン・マグナライフルを乱射して割って入る。
 エムリオンを背後に庇い、スティングは左手に握らせたM930マシンガンの弾丸をすべて打ち尽くすほどの連射でレイダーを牽制する。

「ステラ、無事か!?」
「うん、大丈夫。エムリオンもまだ戦える」
「どうした? 動きが一瞬鈍くなって……ちい!?」

 オルガがクロトの不利を悟ってシュラークによる援護砲撃をはじめ、スティングとステラは慌てて回避した。
 その間にもスキュラやトーデス・ブロックが並外れた精密さで放たれる。
 アードラー・コッホの人体改造の成果がオルガ達の戦闘能力を大幅に上昇させている。
 カラミティに二機揃って携帯火器を撃ちこんで砲撃を中止させて、機体の態勢を整え直す。

「スティング、あの黒いの、クロトが乗っているかもしれない!」
「なに? クロト……クロト・ブエルか?」
「うん」
「落ちろおお。絶殺!」

 ツォーンとミョルニルが上を取ったレイダーから放たれ、二人はこちらも慌てて回避する。少しおしゃべりに気を割き過ぎたようだ。
 ツォーンが両機のエネルギー・フィールドを削りながら、降り注ぎ、放たれたミョルニルはスティングがアサルトブレードで受けた。

「おい、レイダーのパイロット!」
「ああ、なんだあ?」
「お前、クロト・ブエルか!? おれはスティング・オークレーだ!」
「……スティング? 知らない……ああ? ラボの連中か。なんでお前らそっちにいんのさ」

 クロトは話をする気になったらしく、ミョルニルを引き戻してレイダーを滞空させた。
 クロトと別れてから随分と時間がたっているから、強化の影響で人間性を失っているかと思ったが、意外に人格崩壊は進んでいないらしい。
 その事実に、スティングはかすかに息を吐いた。

「おれだけじゃない。ステラやアウルもいる。アンタが他所に移されてからラボの研究員が反乱を起こしたんだ。その時にDCの連中がおれ達を拾ってくれた」
「ふーん、なんだ。結局、飼い主が変わっただけじゃないか」
「それは違うよ」

 スティングとクロトがモニターに互いの顔を映していた所に、ステラも混じった。クロトは少しだけステラの顔を見つめ、薬物の効果でネジの緩んだ記憶の棚を漁った。
 継戦時間の延長と判断能力の維持を命題に新たな強化へと切り替えられた事で、クロト達生体CPUも、以前に比べれば人間性を維持、ないしはわずかながら取り戻しつつある。クロトがステラの事を覚えていたのはその恩恵だろう。 

「あん? えーと、ステラだっけ?」
「うん。クロト、久しぶり」
「で、何が違うのさ? 連合の連中とDCの連中の何が?」
「ビアンおとうさんは、ステラ達を助けてくれた。戦いに出なくてもいいって言ってくれたもの」
「はあ? じゃあなんでお前らMSになんか乗ってんのさ?」

 分けが分んねえ、と少年の年を出ない顔をしかめるクロトを、ステラはまっすぐ見つめて真摯に語った。

「ステラ達がビアンおとうさんやミナお姉ちゃんの為に戦いたかったら。それが、ステラ達に出来る恩返しだから」
「じゃあ、何? 戦わされているんじゃなく自分達の意思で戦っているって?」
「うん。クロト達は違うでしょ? 薬が無いと苦しいから、無理やり闘わされてるんでしょ?」
「それに、DCに来れば治療の手立てもある。薬に頼らずに生きていく事だってきっと出来る。クロト、おれ達の所に来い」
「……ふーん。嘘はついてなさそうだけど。残念、答えはノーさ!」

 クロトが顔を凶暴なものに変えると同時に、レイダーはミョルニルを振り回し、ステラのエムリオンへ横殴りにして叩きつける。
 不意をつかれたが、なんとか反応したステラは咄嗟に機体を上昇させて回避し、困惑したままクロトの名を呼んだ。

「クロト!?」
「はん、戦わされるんだろうが、自分で戦うんだろうが、結局一緒じゃないか! それにお前ら、DCに行って弱くなっただろう! 馬鹿かお前ら、戦場に出るのに弱くなってどーすんだよ!? そんなんなら、このままこっちで強くなるさ、ボクは!」
「ちい、馬鹿野郎が!」

 スティングは罵りながら、ツイン・マグナライフルの照準をレイダーに向ける。

「スティング!?」
「仕方ないだろう、ステラ」
「でも」
「……ええい、分かったよ。なるべく殺さないようにはする。それでいいな! おれ達だって生き残るので精一杯なんだぞ!」
「……うん。ありがとう」

 ステラ達が思いがけない再会を果たしていた頃、シンとシャニの二度目の対決は白熱していた。めまぐるしく動く両者に、オルガも狙いが付けられず滅多に援護しない。
 以前の強化コンセプトのままだったらシャニに当たろうが構わず撃っていた所だが、今の彼には味方を撃たないという程度の分別が出来ていた。

「こいつ、今度は勝つ!」
「うらうらうらああああ!」

 射撃戦では負けなくても勝てないという事を悟ったシンは、一気に間合いを詰めて、一撃の隙が大きいニーズヘグを相手にアサルトブレードで果敢に攻め込んでいる。
 ニーズヘグの柄でアサルトブレードを受けた。パワーは互角。連合の新型G相手に、エムリオンはパイロット次第では互角に戦える性能を持っている。
 フォビドゥンとエムリオンの互いの頭部から75mm対空砲塔システム“イーゲルシュテルン”を撃ちあって、PS装甲とTP装甲の互いの頭部に火花が散る。
 カメラ・アイとアンテナがへし折れて、シンとシャニのコクピットが暗転し、その一瞬でシャニはエムリオンを蹴り飛ばして距離を離した。
 サブ・カメラに切り替わるのと時を置かずフレスベルグを、勘頼りの盲目撃ちで乱射する。
 全天周囲モニターが回復するよりも早く、警告音と戦場で培った経験、眼前の敵パイロットの癖から、追撃が来ると考えたシンは、考えるよりも早く肉体が動いて、エムリオンのエネルギー・フィールドの出力を機体前面に集中させた。

「が、ぐぐ。ど、どうだ、お前の考えなんかお見通しだ」

 直撃するフレスベルグを耐え抜き、サブ・カメラに切り替わるのと同時、ニーズヘグを振り上げるフォビドゥンが映る。
 咄嗟に体当たりをかましてフォビドゥンを吹き飛ばし、真っ二つの運命を回避する。全然お見通しではなかった事実に、シンは脂汗が滲むのを感じていた。

「く、くそ。まだ他の二機も残ってるのに」
「おい」
「な、なんだあ?」

 唐突に相手からの通信に、シンは戸惑った。目の前に薄い緑の髪に、色違いの瞳をした少年――シャニが映る。
 こいつが、おれと闘っている敵なのか。シンの心臓が、どくん、と跳ねた。

「お前、この前邪魔したパイロットだな?」
「だったらどうした!」
「お前が助けた機体の女どうなった?」

 何言ってんだ、こいつ? とシンは思わずにいられなかった。ジャン・キャリーの時も思ったが微妙に方向性が違う。
 シャニはシンの戸惑いなど気にせずに質問を重ねた。

「どうなった?」
 
 オウカの事だろうが、なんでまた固執しているのか。とにかく応える義理はあるまい。

「知っていてもお前に言う必要なんかあるもんか!」
「……じゃあ、死ね」

 戦闘の再開をシャニが短く告げた。リフターを被り、エクツァーンとフレスベルグがわずかな時間差で放たれる。
 エムリオン機体表面を焦がしながらプラズマが走り、微妙に軌道を偏向されたフレスベルグは、リオン・パーツ右腕部分とレールガンを吹き飛ばす。

「また整備の時に怒られちまうだろうが!」
「知るかよ」

 右袈裟に振られたアサルトブレードを、ニーズヘグで受けたフォビドゥンの胴体に、エムリオンのプラズマ・ステークが叩き込まれる。

「くそ、浅い!」
「てめええ!」

 強化に強化を重ねたシャニの反応は、プラズマ・ステークが撃ちこまれる刹那を上回った。
 機体表面にTP装甲さえ砕いた痕を残すも、それはわずかな範囲にとどまっていた。あれでは戦闘能力を奪うまでに至らない。

「シンもステラも苦戦してやがんな。もうちっと気合い入れねえと初心者レベルを越えられねえぜ?」

 カノン砲を構え、ほぼ百発百中に近い精度で狙いを着けて戦闘機・MS・艦艇を沈めていたテンザンが、可愛い部下達の苦戦にしょうがねえなあ、と漏らす。

「I.W.S.Pストライカーでも着けて援護に行ってやっか」

 ひょいとデッキ内に引っこんで、テンザンは整備兵連中にストライカーパックの換装を頼んだ。
 連合艦隊中枢に突撃した少数部隊は、クライウルブズが最大の強敵であるカラミティ・フォビドゥン・レイダーを抑えているから、五分以上に戦えている。
 強化兵の駆る高級機も、ギナやエド、ソキウス達が次々と撃墜していた。流石に数の差が凄まじく、タマハガネやストーク級もなかなか前進できずにいる。
 だが、彼らが敵機を引きつけている為に、主力艦隊の方に回される援軍の数は少なく、また、ビアンのヴァルシオンやミナシオーネ、フェアリオン三機の勢いを止められず、旗艦パウエルに到達するまであとわずかとなりつつあった。
 旗艦パウエルで、ダーレスは別動隊に希望を託すしかない事を悟りつつあった。
 頼みの生体CPU達は伏兵を撃破出来ずにいるし、艦艇と機動兵器の弾幕をモノともせずに迫るヴァルシオンの姿が、目視可能になるまでそう遠くない事は通信士からの報告で分かっている。
 予定では既に別動隊はオーブ本島――ヤラファス島に到着し、制圧しているはずだった。
 
「まだかっ。まだなのか!」

 祈りにも似て呟くダーレスの視界の端で、また一隻の艦艇が轟沈した。

 ダーレスに残された希望となった別動艦隊は、ヤラファス島海上沖で、残されていたDC防衛部隊と戦火を交えていた。
 そう、『交えていた』、だ。すでに戦力の大部分を壊滅させられ、残った部隊も白旗を上げて投降している。
 上空では赤に染められたガームリオン・カスタムと純白のガームリオン・カスタムに率いられたエムリオンが十数機いた。
 これだけの戦力で、ヤラファス島やオノゴロ島に迫っていた連合の別動隊を退けたというのか?
 赤いガームリオン・カスタムに乗ったシュミットが、純白のガームリオン・カスタムに乗るジャン・キャリーに声を掛けた。

「どうだね? その機体の調子は?」
「見事なものだ。だが、それ以上にこの機体の動力に驚かされたよ。核融合炉とは、な」

 捕虜となったはずのジャン・キャリーだった。シンとの戦いの後、収容施設に入れられ、その特異な経歴から個人的に興味を持ったシュミットと話をしていた所に、連合の別動隊が現れたのだ。
 出撃しようと走り出そうとしたシュミットにジャンが自分も戦うと告げたのは、如何なる心境の変化を経た結果なのか、シュミットにも分らない。
 ただ、シンの言葉がジャンの胸の奥深い所に今も残っていた。
 しばし沈黙したのち、ジャンは自分が乗った機体の秘密を口にした。

「MSサイズの核融合炉か。核分裂エンジンよりもよほど高出力だな。この機体を残しておいたのは、少数で防衛することを前提しての為か?」

 CE初の核融合エンジンを搭載したガームリオン・カスタムの戦闘能力は、ジャンの知るMSを軽く凌駕するものだった。

「ふ、戦いとは二手、三手先を常に読んで行うものさ。いかに連合とてヴァルシオンを真正面から相手すれば、多大な被害が出る事くらいは少し考えれば分かる。なら、もぬけの殻になった敵の本丸を攻める。常套手段だろう?」
「そういうものか。しかし、凄まじいものだな。二十機に届かないMSでこれだけの戦力差を覆すとは」

 ジャンの眼下では、撃墜されたストライクダガーの残骸がひしめいていた。
 ジャンは不殺を貫き、幾人かは無事なようで既にDC側から救護艇が出されて、連合の兵達を海の藻屑になる前に救出している。
 ジャンがパナマで見たのは、虫の息、投降した連合の兵を虐殺するザフト兵の姿だ。それを知る分、眼下でまともな対応を見ると、余計に安堵の感情が浮かぶ。

「自分の戦い、か」
「どうかしたかね?」
「いや、なんでもないさ。先に帰投させてもらって構わないかね?」
「ああ、構わんさ。戻ったら個室が用意されているはずだ。ある程度は自由にしてくれて構わんよ。私からの礼だ」
「手回しがいいな。そう言えば、この機体が白いのは、私がこうすると分っていたからかね?」
「ふふ、さてね。そうだな、私なりの勘が働いたとだけ言わせていただこう」
「喰えない人だな」

 帰投するジャンに、他の部下達も同行させ、シュミットはオノゴロ島イザナギ海岸に布陣している、ロールアウトしたばかりのMS小隊の所に向かい、着地した。
 赤い機体が一機と緑色の機体が三機。どれも似たようなシルエットで、直線で構成された無骨な、ゴツゴツとした機体だった。
 太く重心が安定し、無限軌道を装備した両脚部に、両腕をカバーする分厚いアームガード。
 頭部はほぼキャノピーが占めていて、コクピットでもある。バックパックに装備された長大な砲身や何基もの弾頭を収めたミサイルと、砲撃に特化した機体らしい。

「ラーズアングリフとランドグリーズの調子はどうだね? ジェグナン三尉、ボーグナイン軍曹」

シュミットの正面モニターに茶色い髪に緑色の瞳をした青年と、赤見を帯びた茶色の髪と青い瞳の少女が映る。共にDCのパイロットスーツを着こんでいる。

「良い機体です。砲撃戦ならばバレルにも負けません」
「でもやっぱり、動きが鈍いよ〜。ユウ」
「カーラ、シュミット一佐の前だぞ」
「ふ、構わんさ。ボーグナイン軍曹は戦時任官だしな。無理もない」
「しかし、それでは示しが付きません」
「ユウってば細かいんだから。シュミット一佐がいいって言ってるんだからいいの! ほらほら、補給に戻ろうよ」
「……はあ。シュミット一佐、ではモルゲンレーテ工廠に戻ります」
「ああ。……苦労人だな、ジェグナン二尉」

 忍び笑いを漏らしながら、シュミットはジェグナンとカーラの凸凹コンビが面白い事になりそうだと思った。
 ユウキ・ジェグナンは元々オーブ軍に属していた軍人で、DCの思想に共鳴して籍を置いている。
 対してリルカーラ・ボーグナインは、カリフォルニア南部のサンディエゴ出身で、エイプリルクライシスの際にオーブに亡命してきた民間人だ。
 その後も世界中に飛び火する戦火に、芸能界入りの夢を今も持ちながら、自分に出来る事をすると言う意志からオーブ軍に志願していた。
 地球連合のオーブへの侵攻を前に行われたDCの蜂起に戸惑ったものの、オーブ本島に住む両親を守るためにそのままDCに籍を置いている。
 そして、今こうしてラーズアングリフとランドグリーズで構成された試験部隊でテストパイロットを務めている。
 この両機はビアンが死んだ後の新西暦世界に現れた、いわば未来の機体なのだが、クエルボ・セロがCEに来る際に搭乗していた大破したラーズアングリフを元に改修し、そのデータを元に再設計・生産したものだ。
 ただ飛行可能でコストも安いバレルエムリオンがあったため、生産数は少ない。
 開発の順序も、ランドグリーズのカスタム機であるラーズアングリフが先にロールアウトする、と逆の経過を経ている。
 この二機も生産コストは安いし、砲撃戦で発揮される戦闘能力には目を見張るものがある。
 いかんせん、オーブという国家の性質上活躍の場が少ない事が、この機体の不幸だろう。
 だが、連合別動艦隊との戦闘において、このラーズアングリフ一機とランドグリーズ三機の活躍は目覚ましいものがあり、核融合炉を搭載したMS隊との連携により、あっという間に連合の戦力を沈黙させた事をここで述べておく。
 真っ赤に染めたガームリオン・カスタムに、DC艦隊と連合主力艦隊が激突している方角を向かせ、シュミットはじっとその方向を見つめた。
 残された隻眼に、戦いの様子が映るはずもないのに、ただじっと見つめ続けていた。
 やがて、ポツリと呟いた。

「生き残れよ、シン」