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SRW-SEED_ビアンSEED氏_第21話b

Last-modified: 2013-12-26 (木) 20:59:07

 海底基地ラガシュ。大気圏外から降下したボズゴロフ級をも上回る巨大潜水艦六隻とドーム状の部位からなるザフトの極秘基地であり、カーペンタリアとジブラルタルを結ぶ中継基地でもある。
 海中を潜航するタマハガネとキラーホエールはここでカーペンタリアから出撃したザフトの艦隊と合流する事になる。
 DCから派遣されたのはわずかに三隻の艦船とそれに搭載された三十機に満たないMSに過ぎなかった。
 ただ地上戦力における精鋭が集められた『質』に特化した部隊だ。
 間もなく正面モニターに映ったボズゴロフ級を始めとするザフトの部隊を確認し、タマハガネ艦橋でエペソが足並みをそろえるべく船速を調整させる。

「宇宙では役に立たん潜水艦や水中用MSを大量に投入したか」

 ディンやゾノ、グーン、ザウート、バクゥと言った機体は宇宙では運用できない。
 宇宙への戦力の引き上げを決定しているザフトとしては地上でしか運用できない戦力の一斉放出めいた意図でもあるのだろう。
 
「艦長、ザフト艦より通信が入っています」
「正面モニターに回せ」 

 エペソの目の前に映し出されたのは今回のマドラス強襲作戦の指揮を執るラウ・ル・クルーゼであった。

『今回の作戦の指揮を執るラル・ル・クルーゼです。エペソ・ジュデッカ・ゴッツォ一佐。作戦中においては貴艦には我々の指揮下に入っていただくが、よろしいか?』
「構わぬ、その旨はビアン総帥からも通達されている。貴殿の指揮官としての力量がどれほどのものか、拝見させていただく」
『これは無様な所は見せられませんな。では、健闘を祈ります』
「ザフトとDCに武運のあらんことを」

 互いに通信を終えた後、両者は言葉こそ違えども意味する事は同じ言葉を吐いた。

「あの眼、気に食わんな。あれは破滅に身を浸す者の目」
 
 エペソは銀河規模で戦った経験から世界も自分さえも破滅させる事を望んだ者たちを想起し

「あの男、ビアン・ゾルダークと同等か、それ以上に厄介だな」

 クルーゼは類希な洞察力から自身の本質に触れたエペソへ警戒を露わにしていた。

「ディバイン・クルセイダーズ、やはり早々に退場して頂かなくてはならないかな?」

 妖しく呟くクルーゼの台詞には狂気に塗れた本性があった。人によって歪められ捻じ曲げられた心が纏った狂気が。

 DCとの同盟により東方の防衛の為の壁を手に入れたザフトとしては、連合側に組み込まれた赤道連合への警戒を強めたいところだった。
 具体的に言えばニューギニア基地への攻撃が望ましかったのだ。 
 といっても占領地域の維持さえ難しい現状では基地施設や人員、物資の壊滅を行う程度が限界で占領に割く戦力・人員の余裕はすでにアラスカとパナマで失われていた。
 もはや地上にある基地の全てが前線も同然であり、人員の再編成や新兵の訓練を行える後方は無いと言っていい。
 さて、そんなザフトが今回の作戦の標的を東アジア共和国所属の旧インドにあるマドラス基地に狙いを定めたのには無論理由がある。
 もともと中立を謳っていた赤道連合は、オーブ解放作戦と時期を前後して、地球連合に武力を背景として無理やり組み込まれた経緯がある。
 同じく地球連合に武力侵攻されたオーブが、DCという形に変わったとはいえ連合の暴虐を退けた事で国民感情から官僚に至るまで反連合の機運が高まっており、DCとカオシュン、カーペンタリアのザフト軍との連携により地球連合からの脱却を狙う動きがある。
 現在DCでもセイラン家やグロード家を中心に交渉の真っ最中であり、連合側が赤道連合対大洋州連合の図面を敷く前に、赤道連合にザフトとDCの力をアピールする機会を欲した為だ。
 どちらにせよ、ベテランや最新鋭の装備を宇宙に引き上げつつザフトとしては最低でも時間稼ぎが出来るのだから、文句は無かった。
 最悪、カオシュンのマスドライバーを破壊しカーペンタリアへ撤退するための退路を確保するためにも、赤道連合の地球連合からの脱却は望ましかった。
 DCとザフト、互いにとって妥協できる作戦が今回のマドラス強襲だった。
 残された地上戦力から搔き集められたボズゴロフ級や洋上艦、ディンや戦闘機が群れ成す中に、ぽつんと異物であるDC艦隊を加えたザフト・DC艦隊は、ラガシュを出港し、ついに標的であるマドラスへと襲い掛かった。

 マドラスにはアフリカ北部、ヨーロッパ東部から侵攻しジブラルタル攻略の為の物資と、カーペンタリア攻略の為に膨大な物資が集められていた。
 それをみればDC、ザフト両軍が唾を垂らして羨ましがるほどの物量だ。
 ここら辺の実力差ばかりは技術が優れていてもどうしようもない。
 貧しさは人類永遠の敵だが、兎にも角にも戦わねばならぬ敵は、今の所貧困では無く地球連合だった。

 戦端はボズゴロフ級やキラーホエールから発射された無数のミサイルだった。
 マドラス基地の大型レーダーサイトが迫るミサイルを捉え、基地からも無数の迎撃ミサイルが打ち上げられてこちらのミサイルを撃ち落として見せる。
 すぐさま戦闘機やMSが発進体勢に入り、そこに第二波、第三波のミサイル群が降り注いだ。
 これらのミサイルはかろうじて出撃の間に合った戦闘機やMSによって大多数が迎撃されたが、撃ち漏らしたミサイルが着弾し基地沿岸のミサイルランチャーや高射砲を破壊して見せた。
 クルーゼは水陸両用のMS隊に出撃を命じ、沿岸部の対空砲や迎撃施設の破壊を行わせる。地上からも上陸させておいたバクゥやザウート、ジンからなる部隊がマドラス基地へ向けて進軍している。
 水陸両用MS隊が役目をそれなりに果たした頃、グゥルに乗ったMS隊がボズゴロフ級や輸送艦から次々と出撃してマドラス基地へと襲い掛かる。
 その中にはイザークの駆るデュエルAS(アサルト・シュラウド)の姿もあった。今回、イザークには本国から配属された新兵が数名部下として与えられていた。

「ルナマリア、レイ、単機で突出するな。必ず二機ないしは三機一組で行動しろ。ナチュラルといえども決して油断するな! 戦功を挙げるよりも生き残る事を考えろよ!」
「はい、ジュール隊長」
「了解です」

 それぞれグゥルに乗ったジンのパイロット達だ。
 現在既にビーム兵器を搭載した最新鋭量産機ゲイツが配備され始めていたが、既に運用法も確定し扱いやすいジンが新兵に配備されている。
 赤い髪に真ん中あたりでぴょんと一房の髪が跳ね、溌剌とした印象を与える少女がルナマリア・ホーク、長い金髪に落ち着いたというよりは老成した印象を与える少年がレイ・ザ・バレルだ。
 どちらも15歳になったばかりの新兵――というか訓練兵だが、ザフトレッドを着るエリートである。
 だが、イザークはたとえエリートであろうとも実戦をろくに経験していない新兵がどれほど当てにならないか知っている。
 かつては自分もそうだったのだから。

「ジュール隊長、DCの人達とはどうお付き合いします?」

 初の実戦で相当緊張しているだろうに、それを表に出さずルナマリアが軽い調子で聞いた。
 彼女なりに緊張をほぐしているつもりなのだろう。

「命令があればそれに従う。それだけだ」

 と答えたのはイザークでは無くレイだ。ルナマリアとは対照的に淡々としており、イザークはどこかクルーゼに似ていると思っていた。 最もどこかうすら寒い所のあるクルーゼに比べれば人間味のある少年だ。

「ふん、レイの言う通りだ。いいかお前ら、生き残る事も大事だが、DCの連中に無様な所は見せるなよ! ジュール隊、出るぞ!」
「了解。ルナマリア・ホーク、ジン、出るわよ!」
「レイ・ザ・バレル、ジン 出る!」

 ボズゴロフ級の垂直式デッキからグゥルに乗った三機のMSが、砲火絶えぬマドラスへと飛び立った。

「ラウの作戦だ。失敗などさせるものか!」

 ゾノやグーンらの活躍で空いた防衛線に、ジン、シグー、バクゥと言ったMSが雪崩れ込み、上空ではスカイグラスパー相手にディンやザフトの航空機が死闘を繰り広げている。
 本格的に量産が始まったスカイグラスパーは、ディンを相手に互角近い戦いを繰り広げている。
 ほとんど実戦が初めてと言うダガー隊もなんとか混乱から立ち直ろうと四苦八苦していた。
 モビルスーツ戦と言う意味ではザフトの兵も経験のある者は少ないが、
 流石にモビルスーツの運用には一日の長があり、パナマでの苦戦の教訓もあって数で勝る連合を相手に互角に渡り合っている。
 115mmレールガン“シヴァ”でストライクダガーの胴体に大穴をあけたイザークはストライクダガーの動きの鈍さに拍子抜けしていた。
 パナマでもそうだったが、ストライクやジャンの乗るロングダガーと死闘を繰り広げた彼からすれば、ほとんど素人としか思えない動きだった。
 ルナマリアも危なっかしい動きながらなんとかストライクダガーを一機撃墜している。
 レイは訓練生とは思えぬほど落ち着いた様子で76mm重突撃銃の弾丸を叩きこむ、戦車とストライクダガーを撃破していた。
 思ったよりも使い物になりそうだと、イザークはかすかに安堵した。

「ジュール隊長、タマハガネです!」
「来たか、どれほどのものか、見させてもらうぞ。ディバイン・クルセイダーズ!」

 次々と飛ばされるエペソの指示に、流石に慣れてきたブリッジ・クルー達が全力で対応している。
 上空での戦力図がタマハガネの突入で傾き、この厄介な巨体を沈めるべく連合の火力が集中する。

「両舷ミサイルランチャー、発射! 連装衝撃砲1番3番、連装副砲4番、地上の友軍を援護する。二十秒間隔で斉射、ザフトにも警告を忘れるな。
 取り舵三〇、右の航空部隊を牽制し、右舷の火砲で港湾施設を潰せ! 艦艇が出てくる前に沈めよ!」

 タマハガネから出撃したクライ・ウルブズ各機も新たな力と共に猛威をふるっていた。飛行能力を持たぬラーズアングリフとランドグリーズはタマハガネ甲板上から、カラミティやバスターにも匹敵するその火力を存分に発揮していた。
 アームガード内側に装備したマトリクスミサイルや、肩に装備したFソリッドカノン、リニアカノンが地上の基地施設、上空から迫る航空戦力を撃ち落としている。

「ラーズの砲撃から逃れられると思うなよ!」
「ユウ、すごい数だよ」
「その為のラーズとグリーズの装備だ。慌てずに照準をつけろ。ジャマーとタマハガネのEフィールドがある。そう簡単に落ちはしない! 落ちつくんだ、カーラ」
「うん、ごめん! ちょっと緊張していたみたい! 私らしくないよね、ユウ」
「ふ、それでいい」

 ラーズの手に握らせたリニアランチャーから無数の小型弾頭がばら撒かれ、スカイグラスパーが一機直撃を受けて落ちる。
 カーラのランドグリーズもリニアガンを次々と地上の物資をため込んだ格納庫やコンテナに撃ちこみ続ける。
 核融合炉へ動力を換装したクライ・ウルブズ各機も凄まじい勢いで近づく連合の機体を骸に変えていた。
 一対多の状況にすっかり慣れ切った面々は、連合の物量に飲まれる事無く戦う事が出来ている。

 テンザンなどビーサーベルを振る距離までわざわざ近づいてからレールガンを叩きこむという完全に遊びの戦い方までしている。

「ひゃははは。おらおら、砲撃用の機体でここまで近づいてんだぜえ? ちっとは根性見せろやあ!」

 胴と頭部にレールガンを立て続けに打ち込まれたストライクダガーが次々と破壊されてゆく。
 とまあ、こんな具合にである。
 アルベロやスティングも、敵機の撃墜より基地施設の破壊を主な目的と理解しているから、機体に持たせた装備もマシンガンなどの点の威力は低くても面を制する事の出来る装備を持たせていた。
 変わらずエムリオンを使う事に不満を垂れていたアウルもいざ実戦となれば、核動力のおかげでぐんと出力の上がった機体に満足したのか、嬉々として闘っていた。
 だが、やはり誰よりも凄まじいのはシンとステラの二人だった。

「一刀両断、フルブースト!!」

 両肩や腰部のテスラ・ドライブ、スラスターを全開にしたシンの飛鳥が駆け抜けた時、その軌跡に触れていたストライクダガーの胴体が両断され、ゆっくりと倒れた。
 飛鳥の右手には、目に捉える事さえ困難な速度で抜き放たれた獅子王の太刀があった。
 刀身に刃毀れの一つなく、こびり付いたオイルを振り払い、シンは新たな敵を見据えた。

「行ける、コイツ、すごい強い!」

 新たな戦友の力にシンの心は高揚していた。良くも悪くも少年の純粋さが、新たな力に喜びを抱いていた。
 遠距離からビームライフルを撃ちこんでくる三機のストライクダガーに気付き、今一度飛鳥に神速の踏み込みをさせた。
 薩摩示現流の右蜻蛉、そこから放たれる斬撃からまぬがれる術を、連合の兵達は持っていなかった。
 TC−OSに登録されリシュウ・トウゴウ、ゼンガー・ゾンボルトのモーションデータの助けもあるが、シン自身が行っている剣術の修行も、まだまだ未熟とはいえほんのわずか役に立っていた。
 シンが飛鳥と共に駆け抜けた時、ストライクダガー達は一続きの銀の軌跡に、装甲を真っ二つにされていた。

「うえええい!!」
「な、なんだ、角!?」

 ステラの駆るアーマリオンが振り上げた頭部のハードヒートホーンという、あまりに奇抜な装備に驚いたストライクダガーのパイロットは、頭部と首を縦に割られ、機能不全に陥った機体を捨てて脱出する羽目になった。
 ステラはそのまま地上すれすれに滞空し、アーマリオンに砲弾を集中させる戦車部隊に向かい、両肩のスクエア・クラスターを展開させた。
 縦に長いボックス状の両肩が上下に分かれ、その中に納められた無数のチタン刃を射出する。
 多数の敵を想定したスクエア・クラスターは戦車部隊に容赦なく降り注ぎ基地施設にも膨大な被害をもたらす。
 連合側も、威力がありすぎるビームライフルを使うわけにいかず、ストライクダガーはジンに対するアドバンテージを活かせずにいた。 それが無くてもMSとしては異常なまでの防御力を持つアーマリオンに、連合のMSは有効な攻撃法を持っていなかった。
 ステラは両手に装備された拡散型ビーム砲“スプリットビーム”を次々撃ちまくり、スクエア・クラスター以上にマドラス基地や物資が溜めこまれているであろう倉庫ブロックを破壊していた。
 ABシールドでスプリットビームを防ぎながら、アーマリオンに接近していたストライクダガーも、スプリットビームの砲口から展開したロシュセイバーで見る間に十文字に切り裂かれ、推進剤に引火したのか爆散してアーマリオンを赤に照らした。

 イザーク率いるたった三人のジュール隊も、数少ないベテランとなったイザークがよくレイとルナマリオをカバーし闘っていた。
 とはいえ、数で勝る連合のストライクダガーに、訓練兵であるルナマリアとレイを庇いながらでは流石のイザークも消耗せずにはいられなかった。
 AS装備の一つ、左肩のミサイルポッドで戦車隊を蹴散らし、パイロットの技量がモノを言う接近戦に持ち込み、シールドでストライクダガーの右腕を跳ね上げ、あいた胴をサーベルで両断する。

「ちい、落としても落としてもキリがない! これからはこんな戦いばかりか!」
「きゃあ、隊長!」
「ルナマリア!?」
「ルナマリア、ええい、邪魔だあ!!」

 三機目のストライクダガーを撃墜したものの、引き換えに左腕をジョイントから破壊されたルナマリアのジンに、ストライクダガーがビームサーベルを抜き放ち切りかかっていた。
 ルナマリアも残った右腕に重斬刀を握らせていたが、イーゲルシュテルンを撃ち込みながら迫るストライクダガーに右腕の五指を破壊されてしまい無防備になる。レイのジンも戦車部隊に足止めされ、イザークのデュエルも強化兵の乗るロングダガーを相手に苦戦していた。

「くそおおお! どけえ!」
「ルナマリア!」

 焦燥を募らせる二人の声が聞き届けられる事は無く、ルナマリアのジンに向かいビームサーベルが突き立てられた。
 いや、ストライクダガーの胴を薙いだ銀の光の流れの方が速かった。
 思わず呆けるルナマリアの視界に、横倒れになるストライクダガーの向こうでシシオウブレードを抜き放ったモーションの飛鳥が映る。

「大丈夫か!?」

 飛鳥から繋げられた少年の声に、ルナマリアは思わず反射的に返事をしていた。

「え? あ、うん」

 ロングダガーを下したイザークとレイも間もなく駆けつけ、見慣れぬDCの機体に警戒を交えつつ近づく。

「そこのパイロット、部下を助けてもらい、感謝する」
「その声、イザークさん?」
「な、シンか!?」

 デュエルのモニターに映し出されたシンの顔に、イザークは正直に驚いた。
 イザークの目をもってしても捉え難い速度で接近し、ストライクダガーを両断した技量に内心感嘆していたが、まさかそれがあのシンだったとは。

「はい。結局、戦場でまた会いましたね。あ、そのジンのパイロット、大丈夫ですか?」
「ええ、助かったわ。ありがとう、ルナマリア・ホークよ」
「おれは、シン・アスカ」
「隊長、早くルナマリアを下げなければ。敵機が近づいています」

 両腕が使い物にならなくなったルナマリアのジンを助け起こしたレイが、お粗末なレーダーに映る反応に気付いて冷静な判断を下す。新たに出現したストライクダガーが三機程こちらに向かってくる。
 ビームライフルの代わりにマシンガンやバズーカを装備している。
 イザークがルナマリアを庇うようにデュエルを前に出すが、それをシンが制した。

「大丈夫です、味方が片づけてくれます」
「な……に?」

 イザークが答えるよりも早く上空から降り注いだスクエア・クラスターが容赦なくストライクダガーを貫き、回転してながらブレイクフィールドを展開した突撃してきたアーマリオンのソニックブーストキックに一気に頭から潰されて、ストライクダガー一個小隊が壊滅した。

「す、すごい……」
「……DCは化け物か」

 その光景に、レイやルナマリアだけでなくイザークも言葉を失くしていた。
 アーマリオンからの通信でステラの可愛らしい顔が映った時、イザークはさらに言葉を失くした。
 あの迷子になっていた天然が、あのとんでもない機体のパイロットだというのか。

「シン大丈夫? あ、イザークだ」
「ステラか……。お前もDCのパイロットだったのか」
「うん。イザークは大丈夫?」
「おれはな。だが、ルナマリアのジンが戦えん。後方の艦まで下がる。済まんが援護してくれ」
「分かった」

 アルベロにすぐさま許可を取り、シンとステラはルナマリアを後方に下げるまで付近一帯のザフトの援護をする事になった。

 純白に染められたジャン・キャリーのガームリオン・カスタムも、パイロットの技量とあいまって次々と武装や四肢、頭部を貫いて戦闘能力を奪い、山積みの物資にバーストレールガンを撃ちこんで炎上させる。
 憎悪の連鎖を止める手段の一つとして不殺を選んだジャン・キャリーとしては、こうして連合の侵攻の為に蓄えられた物資を破壊する事は、軍事行動の遅延に繋がり、一見彼の信条に反さぬ行為に見えるが、結局は戦局の延長に繋がる行為でもあり、彼を悩ませていた。

「ふう、周囲の敵機はとりあえず抑えられたか。さて、次は」

 ジャンの視界が捉えたわずかな動き――崩れかけていた施設ががらっと音を立てて崩れた、それにジャンの直感が警戒を告げた。崩れる施設の瓦礫を縫って一発のグレネードランチャーが、ジャンのガームリオン・カスタムが一瞬前までいた空間に着弾し、爆発する。

「崩れる瓦礫の隙間を狙って撃った? 連合にそれほどのパイロットが? 残る著名なエースは乱れ桜か」

 施設の影から飛び出してきたソードストライカーを装備したストライクに、ジャンは反撃のバーストレールガンを三発叩き込む。
 ストライクダガーのライフルを投げ捨てたストライクは、あろうことか抜き放ったシュベルトゲベールで一発を切り落とし、残る二発を回避し、距離を詰めてきた。

「Xナンバーか。少数が生産されているという話だったが、となればやはり腕利きが乗っているな!」

 シュベルトゲベールではアサルトブレードやビームサーベルでは受けきれない。
 ソニックブレイカーを放つまでの一瞬のタイム・ラグで、目の前のストライクはこちらを一刀のもとに両断しているだろう。
 走りながら同時に投げられたマイダスメッサーを胸部のマシンキャノンで撃ち落とし、迫るソードストライクの脚部目掛けてバーストレールガンを撃ちこむ。ソードストライクは、それを右に飛んでよけた。
 ジャンはそれを見逃さず、左腰にマウントしていたビーム・リボルバーを撃ちこむが、それを小型のシールドでもあるロケットアンカー“パンツァーアイゼン”で受けてみせる。

「コーディネイター? いやそれ以上の反応速度だな」

 空中でバーニアを吹かし加速したソードストライクの予備動作の極めて少ない一振りを、流石にジャン・キャリーは、装甲表面を掠めるに止めて回避する。
 接近戦での不利を悟りつつも距離を取らせぬ相手の力量に、まさかとジャン・キャリーは敵パイロットの正体に険しい表情を浮かべる。

『そのカラーリングと技量、ジャン・キャリーか?』
「やはり、な。ゼン中尉、貴方か」

 耳にするだけで安心だと思うような、頼れるという言葉を実感できる声だった。ジャン・キャリーの前に、三十代間近の男の顔が映し出される。短く刈りこんだ黒髪に、精悍な顔をしている。美男と言うわけではないが、誰もが信頼を置く事の出来る男の顔だ。

『DCとの戦闘で捕虜になったと聞いていたが、そうか。DCに身を寄せる事にしたのか』

 寝返ったとは言わない。むしろジャンがDC側に着いた事を喜ぶ響きさえあった。
 連合に居る事がジャンにとって決して良い結果を生むことではないと知悉しているからだろうか。

「できれば貴方とは戦いたくなかった。強敵すぎる。それに、心情的にも貴方は、な。私を対等の仲間と見てくれた数少ない人だ」

 ゼンは微笑したようだった。

『今でもそう思っているさ。ただ、おれは大西洋連邦の軍人だからな』
「貴方ならそう言うと思った」

 互いに理解しあいながらその立場故に、理解するが故に敵となった両者は、対峙する。
 機体の性能で言えば核融合炉を搭載したジャンのガームリオン・カスタムの方があらゆる面で上回る。
 だが、それでも勝利が危うい事をジャン・キャリーは知っていた。
 ゼン――大西洋連邦SAM(Spetial Attack Miritary)所属の軍人。
 同時に

「地球連合最高の兵士。故に送られた称号US。即ちアルティメット・ソルジャー、究極の兵士。こんな所で会えるとはな」
「シュミット一佐」

 赤に染められたガームリオン・カスタムが、ジャンの傍らに降り立つ。DC屈指のエース、ヘルファイター、ローレンス・シュミットであった。
 隻眼の、深い海の底の青には、強敵を前に静かに燃える闘志が秘められていた。

「彼はわたしが引き受ける」
「しかし一佐、ここで貴方を失う様な事態は避けるべきだ。並みの相手ならともかく彼が相手では」
「若さゆえの過ちとはならぬよう全力は尽くすさ」
「貴方は思っていたよりも血気盛んだな」
「そういう事だよ。さあ彼をいつまでも待たせては申し訳ない。行ってくれたまえ」

 ここでローレンスがゼンに敗れる事になればDCの損失は計り知れない。だが、ジャンはローレンスの心を汲むことにした。
 機体を翻し

「武運を祈る」

とだけ言い残して去った。その言葉に笑みを浮かべて、待っていてくれたゼンを注視する。

「さてお待たせした。USゼン、こうして直に会えて光栄だ」
「おれこそヘルファイターの伝説は知っているさ。世界中のあらゆる軍が欲しがった南米最高のコーディネイター。敵にはしたくなかったな」
「君は誰も敵にしたいとは思っていなさそうだ。究極の兵士と言われながら、軍人には向いていないのかもな」
 どこか和やかささえ漂う二人だが、その間にも互いの隙を探り合う不可視の戦いが行われていた。
 ささいな切っ掛けが死闘の幕を開く強者の戦いであった。