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SRW-SEED_ビアンSEED氏_第22話

Last-modified: 2013-12-26 (木) 20:59:35

 第二十二話 ザラ親子

 炎に包まれるマドラスの連合基地。
 沿岸部から上陸したザフト・DCの機動兵器達と、陸路から進軍していたバクゥ、ザウートといったザフト製MS隊も苛烈なまでに砲撃を加えていた。
 そこにはどうせもう、本格的な侵攻作戦を行うほどの余力が無いのだからありったけ撃ちこんでしまえ、という自棄も含まれていた。
 理性的に調整されていると言われるコーディネイターも、やはり人間である以上感情という鎖から逃れる事は叶わなかった。
 だが、地球連合の底力がいよいよ発揮されつつあった。
 獣の四肢を模したバクゥは、得意の高機動戦で連合のストライクダガーや戦車を翻弄していたが、マドラスの市街地や基地施設に入り込んでは障害物が多く長所を発揮する事はできない。
 おまけに数に任せた連合の戦車隊の砲撃は、左右に逃げても雨の如く降り注ぎ、どこに逃げようともバクゥやジン、ザウートに次々と着弾しボロ屑に変えて行ってしまう。
 どれだけ優れた能力を持ったコーディネイターとMSであっても、逃げる場所が無ければどうしようもない。
 砲弾の形作る澱の中に閉じ込められた哀れな生贄となってしまったのだ。
 戦況の変化を見て取ったクルーゼも、後方のボズゴロフ級潜水艦の艦橋から各隊単位で撤退の指示を出し、今回の作戦の引き際を模索していた。
 内外から嫌われる癖の強い人物であるが、ラウ・ル・クルーゼはザフトに残された数少ない有能な指揮官レベルの視点を持った人材であった。

「さて、あまり欲をかくとこちらも火傷を負ってしまうか……。DCのタマハガネに殿を務めるよう要請しろ。彼らなら喜んでやってくれるさ」

 DCを捨て駒扱いするクルーゼの命令に、艦長はじめ良識を持った兵達は懐疑的にクルーゼを見つめるが、仮面の男は冷たい笑みを浮かべたまま言った。

「せっかくの同盟だ。活躍の機会を与えてさし上げなくてはな。我々ザフトの兵の流す血は、少ない方がよかろう?」

 他者への悪意ばかりで塗り固められた悪意の笑みであった。だが、顔を隠す仮面と共に己以外の全てに対して嘲笑と憎悪を、その冷笑の下に隠して接しているクルーゼもただ一人だけこの戦場で気に掛かる存在がいた。

「無事に生き残れよ、レイ」

 手のかかる弟を案じる兄か、父の様な言葉だった。そこには紛れもない温かい情が込められている。この男のどこにと、彼を知る者が目を剥く言葉であった。

 
 遅滞戦闘を繰り返し、徐々に戦線を後退させるザフト・DC。そんな中、戦線から孤立した地点があった。“US”ゼンと“ヘル・ファイター”ローレンス・シュミットという生きた伝説の一騎打ちが行われている決戦場だ。
 そこが何か他の戦場と違うわけではない。弾丸が交差し誰も彼もが平等に死を見舞う場所だ。人型の鋼が戦い合う風景も既に珍しいものではなくなっている。
爆発が巻き起こり、互いの顔も名前も知らぬ多くの兵が殺し合い殺されて死に、鉄くずと原形を留めぬ肉塊が散らばる光景など、古今東西あらゆる戦場で描かれたありふれた地獄図だ。
 だが『ここ』は違う。決戦場は場によるものでは無く、そこで戦う者達が決めていた。一瞬で生死が分かたれる戦いに身を晒す者達のみが、そこを決戦の場とする事が出来る。
 シュミットの赤いガームリオン・カスタムが飛ぶ。宇宙の暗黒を裂く一筋の流星のように。
 ゼンのソード・ストライクが切り裂く。分厚い灰色の雲を貫き奈落の底に差し込む太陽の光の様に。
 射撃兵装を装備しながらゼロ距離に踏み込んだガームリオン・カスタムの手に握られた71式ビームライフル改が、核融合炉から供給される膨大なエネルギーを、メギドの火を矢としてつがえた弓の如く苛烈な熱を放つ。
 シュベルトゲベールはその長大さ故にとり回しが難しく、超接近戦では活かしきれないソード・ストライクは、懐に踏み込んできたガームリオン・カスタムに距離を詰められ、一撃必斬の刃を振るえずにいる。
 銃剣の様に突きだされたライフルの銃口から奔出した光は、ソード・ストライクの左肩のストライク・パーツを掠めるだけで融解させてしまう。
 核融合炉に出力で劣る核分裂炉を搭載したフリーダムのライフルでも、320mm超高インパルス砲“アグニ”に匹敵する威力を誇る。
 その事実から、核融合炉の生み出す破壊力は推して知るべしであろう。
 ビームがストライクの肩を掠めるのに遅れる事コンマ01秒、ストライクの左膝がガームリオン・カスタムの胴に叩き込まれ、それを同機の左掌が受けていた。
 わずかな時の停滞。力の拮抗は刹那の時で破れた。改良型とはいえバッテリー駆動であるストライクに対し、核動力であるガームリオン・カスタムの方が何倍もパワーでは上だ。
 左掌底の要領で機体を後方に突き飛ばされたストライクは、空中にある姿勢からバーニアを吹かし、着地は踏み込みと同時であった。

 シュベルトゲベールの長大なレーザー刃は青い光の軌跡を描いて、ガームリオン・カスタムの首を左下から薙ぐ。
 レーザー刃に裂かれた装甲から溶けた装甲が、あたかも血液の様に赤い雫になって飛び散る。だが赤い飛沫は機体上体を後方に逸らしたガームリオン・カスタムの裂かれた首の部分の装甲だ。
 シュベルトゲベールが過ぎ去ると同時に、ガームリオン・カスタムの背に増設されたバーニアが火を噴き、機体頭部に局所的に発生させたEフィールドごとストライクのPS装甲に頭突きを敢行した。
 両者を震わせる振動と衝撃、コクピットの中で訓練を受けた兵も昏倒するそれに、超人的な肉体を持つ両者は耐えきり、頭突きの姿勢から超至近距離での殴り合いに発展した。
 シュベルトゲベールを既に手放していたストライクは、自機とガームリオン・カスタムの機体に挟まれた右腕はそのままに、左五指を握りガームリオン・カスタムの胴に叩き込む。
 互いにPS装甲採用機、衝撃はほとんどそのまま機体に伝わるが、そう来る事を予想していたローレンスは更に機体を前面に押し出し、打撃面をずらして最良のインパクトの瞬間をずらして見せる。

「ぐっ」
「!」

 度重なる衝撃に、図らずも両者は距離を置く為に機体を後方に下げた。それでも精々30メートルか。
 右手にビームライフルを握り、左手をビームサーベルの柄に伸ばし、シュミットはストライクの中のゼンが見えているかの様に、じっと目の前の敵を見つめていた。
 シュベルトゲベールとマイダスメッサーを失ったソード・ストライクは、腰部に収納されたアーマーシュナイダーを両手にそれぞれ握り、PS装甲の継ぎ目を狙うべく集中力と言う名の刃を鋭く、より鋭く研ぎ澄ます。
 遠くの戦場で、近くの戦場で、今ここで、多くの死が産まれていた。それが人の定めだと言うように。
 ビームライフルの銃口が跳ね上がる。ビームサーベルが光の刃を形成する。
 ストライクが駆ける。人体の動きと変わらぬ流麗な動きに、シュミットが反応。ライフルとサーベルの光は地を駆けるストライクへ。

「撃たないのか?」
「命を投げ打って味方を助ける男を撃つ銃を、自分は持っていない」

 それはライフルの銃口をストライクに突きつけながらも、トリガーを引かぬシュミットへのゼンの問いかけだった。
 ゼンのストライクは、逃げ惑う連合兵の上に降り注ぐ瓦礫の盾となっていた。
 友軍からはぐれたのか、運悪くゼンとシュミットの繰り広げるMS戦に紛れ込んでしまったのだろう。
 ストライクは両手を地面につき、背で瓦礫を受けていた。その間に、ゼンに庇われた連合兵達は逃亡していた。
 ライフルを天に向け、シュミットが戦意を引く。それを機体越しにも感じたのか、ストライクを起こしたゼンの体からも闘争の意思は引いている。

「さて、ラウ・ル・クルーゼも後退の指示を出したか。決着は着かなかったが、ここで痛み分けと行かないかね、ゼン中尉?」
「文句を言える立場ではないさ、シュミット一佐」

 両手を挙げるストライクに、くるりと踵を返してシュミットのガームリオン・カスタムが飛び立った。
 背後から一撃が加えられる事など無いと、シュミットは確信していた。そしてそれは、間違いではなかった。
 互いに兵士として最高の評価を受けながらも、どこか軍人らしからぬ二人であった。
 コクピットの中、敬礼と共にシュミットを見送ったゼンはやがて、友軍を救助する為にストライクを動かした。
 その道の途中、コクピットの中にとあるメロディが響いた。ゼンの口笛だ。曲名は『ダニー・ボーイ』。

 損傷したルナマリアのジンを庇いながら、イザーク、レイ達と共に後方に下がるシンとステラ。
 じりじりと下がる自分達に勢いづいたのか、果敢に攻めてくるストライクダガーと戦車の群れに辟易しながら、
 シンはまた一機、ストライクダガーを袈裟斬りにし、刀身にこびり付いたオイルを払い落した。
 マドラス戦だけでも十機は撃墜している。今やもうどこに出しても恥ずかしくないエースだ。

「イザークさん、迎えの艦まで後どれ位ですか!?」
「後400だ。ちっ、アサルト・シュラウドはもうデッドウェイトか」

 ASに装備された火器を全弾撃ち尽くした事に気付き、イザークは装甲をパージして接近していたダガーにライフルを撃ちこみ牽制する。
 ルナマリアのジンにはレイのジンが傍で護衛についている。
 現在、シン達は機体の装備を考慮し、ステラがしんがりを務めている。
 すでにスクエア・クラスターを撃ち尽くしたステラはスプリットビームを主軸にした戦い方に切り替え、相手を撃破する事よりも、後方に下がる事を優先していた。

「うぇえええい!」

 ステラの咆哮に応じるかのように、アーマリオンのテスラ・ドライブは強く低く重く唸り、ロシュセイバーの閃光が二機のストライクダガーの頭部を内部の精密機械の集合体ごと突き刺し、これを無力化する。
 だが連合側の猛攻に、アーマリオンの分厚い装甲もあちこちに融解した跡や穴があき、これまでの激戦を物語っている。だが被弾した以上に苛烈な反撃によって、連合側も笑う事も出来無い被害が続出し、一時的に追撃の手が止まった。
 手を出さない方が賢い相手だと連合側で判断したのだろう。
 シシオウブレードの他に固定武装のマシンキャノンとイーゲルシュテルン、それとバーストレールガンを持ってきたシンも、時折斬撃の合間に牽制を兼ねて銃撃を加えていた。  
 その内に、カチカチとトリガーを引く音が重なり、予備のカートリッジを叩きこんで、ガチンという心地よい音が聞こえた気がした。
 シンはゆっくりと迫りくる津波の様に押し寄せながら、周囲を包囲しつつある連合の大部隊に、苛立ちを募らせていた。
 このままではいずれ、という思いと不安が徐々にシンの心に降り積もっている。
 そんな時だ、イザークの怒鳴り声が聞こえてきたのは。

「ザーフラクが沈んだだと!?」

 戻ろうとしていた母艦が、ディンやこちら側の航空戦力を突破した連合の爆撃機によって撃沈されてしまったのだ。
 あとわずかという所まで来ながらのこの展開に、初陣のルナマリアや、冷静なレイも顔色を青いものにしてしまった。
 イザークは、舌うちを零し、すぐさま近くの友軍艦を探しはじめるが……

「くそ、おれ達で最後か!」

 ジュール隊を残して、既にほかの潜水艦などは友軍を回収して後退を始めていて、イザーク達は孤立しつつあったのだ。
 シンやステラといった突出した戦力に、周囲の連合部隊が集中し、その後掌を返したようにわずかずつちょっかいを出す程度になるまでの間に、他の友軍は撤退を始めていたのだ。 

「隊長、このままじゃあ」

 ぎり、と音を立ててイザークが歯を軋ませる。ルナマリアの言おうとする事を、彼もまた考えていたからだ。
  いずれエネルギーが尽き、弾薬が尽き、いや、その前に心が折れてしまうだろうか。
 じりじりと周囲を十重二十重に囲む連合の物量に、流石にイザークだけでなくシンやステラも死を意識せざるを得ない。

「シン、ステラ、レイとルナマリアを抱えて可能な限り遠くへ脱出しろ。お前達の機体ならできるだろう。ここはおれが引き受ける」
「ジュール隊長!?」

 それは自分を犠牲にしてルナマリア達を生かそうと言う悲壮な決意だ。あまりにも単純明快な、それだけに覆す事は出来ないと分る決意だった。
 ルナマリアはすぐさまイザークの言葉に驚きの声を挙げるが、レイはそうしなければ助かる算段は無いと理解したのか押し黙っていた。
 いや、ここでイザークを犠牲にしても助かるかどうか。

 黙って聞いていたステラがぽつりと呟いた。

「だめ、イザーク、死んじゃ駄目」
「ふん、誰が死ぬものか。プラントが勝利するまでおれは死なん。ただ貴様らがいると少々気を遣わねばならんから、さっさと行けと言っているだけだ」

 前に出ようとするデュエルを、飛鳥が制した。イザークは沈黙するシンに、幼子に言い聞かせるように静かに語った。

「止めるな。シン、これは隊長であるおれが責任だ」
「格好着けすぎです、イザークさん。それに、助けが来てくれましたよ」
「何?」
「隊長、スペースノア級です!」
「タマハガネか!」 

 両舷の衝撃砲、対空レーザー機銃、艦首魚雷を全方向に無数に撃ち放ちながら群がる連合の軍勢を切り裂き、玉鋼と名付けられた戦艦が、救いの手を差し伸べるべく姿を見せた。

「全砲門一斉射、地上の友軍を回収せよ。クライ・ウルブズ各機は敵機を近づけるな!」

 艦橋で飛ばされるエペソの檄に応じるように、タマハガネから放たれる火線は苛烈さを増し、虚空に無数の火の玉が産まれ、そして堕ちてゆく。

「助かったの? 私達」
「そのようだな」

 呆然と呟くルナマリアに、レイがほんの少し安堵を交えて答えた。夫婦漫才じみた二人のやり取りのタイミングだった。
 アーマリオンと飛鳥、駆け付けたスティングのガームリオン・カスタムに運ばれてタマハガネに着艦し、無事イザーク達は戦場から生きたまま離れる事が出来た。
 格納庫に辿り着き、イザークはヘルメットを脱ぎ、しばしそのままコクピットに座り続け、やがて人知れず息を吐いた。
 格納庫には、他にもタマハガネに救われたらしいザフト兵や、傷ついたジン、バクゥなどのMSが置かれていた。
 衛生兵や看護兵が、コクピットから引きずり出された意識の無い兵達に迅速に処置を施している。
 苦痛の呻きと失血による幻覚・幻聴に苦しめられる兵士達の声と彼らの体からこぼれ出る血臭、機体から零れたオイルの匂いが充満していた。
 ほんの数時間の戦いで、老人になってしまった様に疲れを感じていた。
 初めての部下、圧倒的な敵の物量。これまでは自分の事を中心に考え、時折味方の援護をしてやれば済んでいた状況ではもはやない事を改めて認識させられた。
 イザークはもう、部下を持つ隊長なのだ。

「アスラン、今ならお前の苦労が分かるぞ。おれ達が部下では、さぞや苦労しただろうな」

 今はプラントに戻っているはずの戦友の苦労を想い、イザークは苦笑した。まさかその戦友が、最新鋭機を与えられたまま行方をくらましているとは露とも知らず。

 マドラスから撤退し、一路再合流地点を目指すタマハガネのブリッジで、エペソは再びクルーゼとモニター越しに対峙していた。
 収容したザフト兵の代表と言う事で赤服のイザークも同席している。

「では、我々が回収した貴軍の兵らは、このまま我々が預かれと?」
『単刀直入に言えばそうです。今回の作戦で連合の反攻作戦は大幅に遅れる事でしょう。今回の作戦で稼げた時間で、我々ザフトは後方の兵を宇宙に上げます。そしてオーブ、いえDCにはマスドライバー・カグヤがおありだ。
 そちらで一部の兵を宇宙へ上げていただきたい。カーペンタリアの方からもそちらへ輸送艦が向かっている手筈ですので』
「その話は余も総帥より聞かされている。だが、傷ついた汝らの仲間を引き取ろうとは思わぬのか?」
『貴方方DCを信頼すればこそです、エペソ一佐。さてそういう事だ、イザーク。すまないがそちらのザフト兵を纏めておいてくれたまえ。私もじきに宇宙へ上がる。
近くカオシュンからも宇宙へ順次部隊が撤退する。どうやらザラ議長は宇宙で檻を完成させて、地上から上がってくるモグラを叩く事に専念するつもりらしい』
「余を前にしてそのような話をしても良いのか? ラウ・ル・クルーゼ」
『もちろん、貴方方ディバイン・クルセイダーズは大切な我々の隣人であり、戦友ですからね』
(……こ奴、暗い炎を瞳に宿しているな。しかし、宇宙の封鎖を行った所でプラントの望む結果を容易に招くとは思えぬ。何か、決定的なモノを隠している?)

 わざと手の内を開いて見せるような、何か危ういものを含むクルーゼの言葉にエペソは脳裏で鳴る警戒の鐘の音を聞いていた。
 獅子身中の虫、この星の格言が相応しい男だと、エペソは思う。そしてそれを悟らせるような言動、自身の破滅さえも楽しんでいるのだろうか? 
 だとすればこの上なく厄介な相手だ。

「良かろう。エペソ・ジュデッカ・ゴッツォの名において汝らの仲間は一兵とて欠く事無く送り届けよう」
『それは頼もしいお言葉。では、よろしくお願いいたします』

 淡く笑むクルーゼの表情を仮面の様だと思いながら、エペソは通信を終えたモニターをしばし見つめていたが、おもむろに傍らのイザークに向かい、一つの質問をした。

「イザーク・ジュール。貴公はラウ・ル・クルーゼの下で戦っていたと聞く。汝はあの男をどのように思う?」

 それまで口を挟むに挟めず黙っていたイザークは、唐突な質問に、狼狽の相を浮かべたが、それをすぐに消してエペソの質問に答えた。

「クルーゼ隊長は……常に沈着冷静で、大局を見る目を持った方です。指揮官としてもMSパイロットしても優秀な、ザフト軍でもっとも優れた軍人の一人でしょう」
「それだけかね? それは彼の評価を聞くだけで余人が抱く印象を代弁しただけではないかな。余は彼を直接知る汝の意見を知りたい」
「……先程言った事に変わりはありません。クルーゼ隊長は優れたザフト軍人です。ただ……」
「ただ?」
「いえ……」

 言いよどむイザークの顔に浮かぶ感情を読み取り、エペソはそれに満足したか一度だけ目をつむり、手を振って質問の終わりを伝えた。

「よい、要らぬ質問をしてしまったな。貴公らには士官用の個室を用意しておいた。ゆっくりと休むと良い」

 何か言おうとし、自分でも何を口にしようとしたのか分からなくなったイザークは、エペソの配慮に短く礼を述べて艦橋を後にした。
 
 小破したルナマリアのジンや、アサルト・シュラウドを外したイザークのデュエル、レイのジンもメンテナンスベッドに固定され、忙しくメカニック達が自動化された整備機械と共に整備している。
 その様子を見届けてから、ルナマリアとレイはパイロットスーツを脱ぎ、自分達を助けてくれたDCのパイロットを探していた。
 声からして自分達と対して年が変わらないだろうと言う事も、好奇心を突き動かす一因だった。
 時々タマハガネのクルーとすれ違いながら、へー、ふーん、と興味深そうに艦内の内装を見て回りながら声を挙げるルナマリアに対して、レイは無感動な調子で後について言っている。
 年は変わらぬ筈だが、どこか保護者じみた少年である。
 しばらく見て回っていた二人の向かう反対側の通路から、DCの基準の制服と違い、やや凝ったデザインの軍服を着た少年少女が姿を見せた。
 瞳に掛かる位まで伸ばされた黒髪に血を凝縮したような真紅の瞳の、きかん気の強そうな少年と、純金の輝きをそのまま移した髪にスミレ色のつぶらな瞳に、どこかふわふわとした印象の少女だ。
 年齢からして、この二人かしら? とルナマリアは二人に声を掛けた。

「ねえ、君。ひょっとして貴方がシン・アスカ? 私ルナマリア・ホークよ。ほら、貴女に助けてもらったジンのパイロット」
「え? ああ、あの時の。良かった怪我とかなかったんですね」
「そんな他人行儀にしなくていいわよ。私達、そんなに年変わらないでしょ? ほら、レイも挨拶しなさいよ」

 肘で突かれて、隣のレイも一つ頷いてシンとステラを見つめて口を開いた。

「レイ・ザ・バレルだ。先程の戦闘では助かった」
「ああ、良いよ。当たり前のことをしただけだからさ」
「そうか」

 とレイは実に口数が少ない。シンは少し困ったようにルナマリアを見て、シンの視線にルナマリアは肩を竦めただけだった。
 士官学校自体からの付き合いになるが、レイのこの性格は良くも悪くも変わらなかった。

「ほら、ステラも」
「うん? ……ステラ・ルーシェ」

 口数の少なさではこちらも負けてはいなかった。
 ステラのコレは人見知りするからだが、慣れれば表情の微妙な変化やボディランゲージでこの少女の感情が豊かな事が分るし、懐かれれば可愛らしい笑みも見せてくれる。
 うちのレイと違った意味で個性的ね、ルナマリアはステラをそう評価した。

「改めて、ルナマリア・ホークよ。さっきはありがとうね、ステラ」

 差し出されたルナマリアの手に、ステラはきょとんとした顔で、手とルナマリアの笑顔の間で視線をしばらく行ったりきたりしていたが、傍らのシンに、ほらと優しく促されておずおずとルナマリアの手を握った。

「ん」
(……なんだか、子猫みたいね)

 きゅっと手を握ってきたステラのおどおどとした態度と、小さく柔らかな手の感触に思わず頬を緩めた。
 レイもここら辺の機微が分からない朴念仁では無く、続いてステラと短いが確かに握手をした。
 意外にも、ステラは冷たい印象がするレイに対して警戒するような素振りは見せず、むしろ何か感じるところがあったのか興味深そうに見つめていた。

「じゃあ、今度はシンね。オノゴロ島まで一緒に行くんだし、仲良くしましょう」
「ああ、よろしくな」

 屈託なく笑い手を差し出すルナマリアの手を握って、シンも笑みを浮かべて答えた。
 ステラの手とはまた違う温かさと柔らかいルナマリアの手の感触が、ひどく印象的だった。

 地上で多くの命がまた失われる戦いが行われた頃、大天使と神器の名を冠する戦艦を旗頭に据えるオーブ艦隊から一機のシャトルと核分裂動力機であるMS――フリーダムが、プラントへ向かい飛び立っていた。
 L4宙域にある廃棄コロニー・メンデルで徐々に戦力を整えながら日々を過ごす彼らであったが、宇宙で合流したアスラン・ザラが、プラント最高評議会議長である父パトリック・ザラの元へ向かう事を希望した為だった。
 合流する際に、決意を確認されたアスランだったが、今一度、息子である自分が父の考えを確認しなければならないと考え、キラを通じてマリュー達にシャトルの使用許可を得て、プラントに戻る準備はそれで終わりだ。
 いや、一つあった。
 今、アスランの目の前にはモニター越しではあるが、彼に大きな影響を与えた一人の少女――カガリ・ユラ・アスハがいた。
 クサナギから降り、キラやアスラン達と行動を別にして一人、
 旧オーブ関連の財界人や亡命した国民達の間を駆けずり回り、宇宙にてオーブの再建に奔走する日々を送っている。
 普段は化粧っけの無い彼女だが、今は疲れた顔色を隠す為に、やや厚めに化粧をしていた。
 それでも爛々と意志の光が輝いていそうな瞳は、じっとアスランを見つめている。
 開口一番、何でプラントに戻るんだ云々で怒りだすと思っていたアスランは、予想外の反応に困惑した。
 まっ直ぐすぎるカガリなら、白黒つけるべく糾弾してきそうだなと思っていたのだが?

『で?』
「え?」
『どう言うつもりでプラントに戻るのか、原稿用紙400字以内にまとめて今すぐ提出しろ』
「え、あ、ああ。……父とちゃんと話がしたいんだ。あの人にとっては不肖の息子かもしれないけれど、あの人と血のつながった息子はおれだけだから。だから、おれが父の、パトリック・ザラの真意を聞かなければならないんだ。
 父が憎しみに捉われていれば、これからの戦いはもっと悲惨なものになってしまう。それは、それだけは避けなければならない。
 そんな事をしても、母上は喜ばないと分って貰わければいけないんだ。そしてそれは、おれの役目だと、そう思うから」
『……普段は優柔不断の癖に、こうと決めたら梃子でも動かない所はキラに似ているな。私よりもお前の方がキラと兄弟だと言われた方が納得できるよ』
「あ、いやすまない。カガリも辛い時に……」

 困ったように笑いながら言うカガリの言葉に、アスランは今更ながらに彼女の陥った状況に思い至り、自分の至らなさに俯いた。
 育った国を追われ、父を囚われ、自分がウズミの実の子ではない事、またキラと双子の姉弟であると告げられ、今は導く者のいない状況で彼女なりに精いっぱい出来る事をやろうとし、その為に無茶も無理も重ねている事だろう。
 アスランは、今すぐにカガリの傍にいって何か助けになりたい衝動に襲われた。
 自分の中で、モニターを通じて向かいあう少女の存在が、こんなにも大きなものになっている事に気付いて、思わずアスランの胸はわずかに強く動悸した。
 まったく、無謀と自分でも思う事をこれからしようと言うのに……。そんな思いに駆られて、肩から余分な力が抜けるのを感じた。
 カガリはそんなアスランの心に気付いた様子はなく、明るい調子で言った。

『気にするな。お父様の事は仕方の無い事だ。命が助かった事は確認できているし、結果的に国は焼かれずに済んで多くの命が救われた。オーブの理念が犠牲を生まずに済んでよかったよ。
まあ、これからもそう上手く――上手くはないか――行くとは私も思っていないがな。
 正直、ビアン・ゾルダークに対しては憎らしくもあるが感謝もしている。きっと、いや私達ではオーブを守り切れなかった。守れない、国を焼かれると知りながら、理念を貫く為に戦っていた。
そうなっていたら、きっと二度と取り戻せない多くのモノを失っていたに違いないと、最近思えるようになったよ』
「カガリは、やっぱり強いな」
『そうか? MSに乗って闘う事も大変だが、笑顔を張りつけた腹黒のタヌキどもとやりあっているといろいろ考えさせられるよ。
自分がどれだけ政治に向いていないか嫌になるほど理解させられた。
 それと、いつも政治家に相応しいものがいるのではなく、相応しくなるんだと言う事もな。って、私がいいたいのはそういう事じゃなくて! 
 まあ、なんだ、その……アスラン。ジャスティスまで置いていったら、お前の立場悪くなるのは分かっているよな? なのに、行くのか?』
「……ああ。おれはアスラン・“ザラ”だから、な。カガリやキラ、皆がおれの無謀を気遣ってくれるのは正直に嬉しい。でも、おれは」
『分かっている、分かっているよ、アスラン。やっぱり、お前は大馬鹿だよ……馬鹿だ』
「そうだな」

 俯いたカガリがその顔を挙げた時、金色の瞳には大粒の涙が一杯に溜められていた。自分が泣かせてしまった――その事実に、アスランは胸の奥が締め付けられるような感覚に、かすかな痛みを覚えていた。どこか、甘い毒に似た痛みだった。

『アスラン、だったら一つだけ約束してくれ。絶対、生きて帰ってこいよ』
「……ああ、約束するよ、カガリ。必ず君の所におれは帰ってくる」

 アスランの確かな決意を込めた言葉が、不安に揺れるカガリの心に響いて、涙をこぼしながら、それでもカガリは微笑んだ。
 そして、キラの乗るフリーダムを護衛に、アスランを乗せたシャトルはアークエンジェルを離れた。

 プラントの最終防衛ラインの一つである要塞ヤキン・ドゥーエを通じて、アスランはプラントの首都に当たるアプリリウスに向かい、父と会うつもりだった。
 地球連合製のシャトルに乗って帰投したアスランは、その経緯を語らなかった事もあり、ほとんど連行に近い形でアプリリウス市へと向かった。アスランのジャスティスを伴わぬ帰還に、不審を抱いたパトリックがそうするよう即座に命じたせいだろう。
 図らずも、アスランにとっても望ましい展開と言えない事も無かった。
 国防委員会本部にある父の執務室に通されたのもあっという間だった。それだけ事は重大なのだ。執務室に通され、それまでアスランの左右を固めていた兵達は退室する。何かの案件に止めを通しているパトリックは、アスランに目を向ける事も無い。
 第一世代コーディネイターとして、プラント独立の為に苦渋の時代を生き、今またプラントの命運を支える男の顔には、心労が刻み込んだ皺が年齢よりも多くあり、以前にあった時よりもさらに疲れの影が濃くなっているようにアスランには思えた。
 だがそれでもパトリックの全身からは、陽炎の様に上り立つ活力がある。歴史浅く、個体としてはともかく種としては脆弱なコーディネイターを支える、英雄的な存在である事もまた事実なのだ。
 無言で立ち尽くすアスランに対し、モニターから目を離したパトリックは息子に向けるには冷たい視線で、問いかけた。

「ジャスティスは? フリーダムはどうした!?」

 低く深く重く、耳にするものが身を強張らせる迫力に満ちた声だった。だが、アスランはそれに答えない。

「父上は、この戦争の事……本当はどうお考えなのですか?」
「なに?」

 パトリックの眉が、不愉快そうに顰められる。
 望みどおりに動くはずの自分の息子が、突然、別人に変わり自分の考えというものを口にし始めた事に気付いた親なら、こうするだろう。

「おれ達は、一体いつまで、戦い続けなければならないのですか?」

 真剣に、一心に問うアスランに、パトリックはそれまでの不愉快の仮面を剥いで、何か思いにふけるような表情をした。
 それはアスランがひどく長い間見た事の無い『父親』の顔だったかもしれない。

「なぜ、それを今更問う? アスラン」
「アラスカ、パナマ、ビクトリア、これらの戦場でどれだけの血が流れ、また復讐に身を焦がす者達が新たに生まれ、憎悪の連鎖が続いてゆくのか、それに思い当たったからです。父上、おれ達が追っていたストライクのパイロットは、キラ・ヤマトでした。
覚えていらっしゃいませんか? コペルニクスの幼年学校で私と親しくしていた少年です」
「……たしか、オーブの子だったな。お前が作ったロボット、鳥型のモノを挙げたと言っていたか。キラ君がストライクのパイロットか……。ヘリオポリスか?」
「そうです。おれはあいつの友達を殺しました。ニコルが、キラに殺されたと思ったからです。そして、おれとキラも本気で互いを殺す為に戦いました。……かつての友と本気で殺し合ったのです! 戦争がそれをおれ達にさせました。
顔も名前も知らぬ者たちならば、それはさらに助長されるでしょう。このまま戦火が拡大し続けた先にあるのが両者の破滅でないと、言いきれるのですか!?」

 いつの間にか声を荒げて訴えかけるアスランの言葉を聞き、パトリックは一瞬目を閉じた。
 今、彼の息子が心から呈した問いへの答えを父もまた真摯に提示しなければならない。

「戦争の終わりか。それは我らコーディネイターの独立を勝ち取る日の事だ。ナチュラルを滅ぼす日の事ではない」
「!? では?」
「ふん、私が本気でそれを考えていると思っていた顔だな、アスラン? やはり親子といえど、腹を割って話さねば分かり合えぬものか。私はコーディネイターがナチュラルよりも優れた種族であるという考えを変えるつもりはない。
 だが、コーディネイターのみで世界を作れるほど我らが完成しているとも思っていない。
 今だ低下する出生率を留める手段は見つけられず、コーディネイターを生みだす母体であるナチュラルなしでは社会を構成する事さえ困難。その現実から目を話すほど私は妄執にとり憑かれてはいない。少しは安心したか、アスラン?」
「……はい」

 あからさまに安堵するアスランに、そこまで自分は危うく見えたのだろうかと、パトリックは自己を省みた。少し反省。

「だがな、アスラン。戦争は勝って終わらねば意味がない。負ければかつての屈辱の時代へ逆戻りだ。屈辱を知らずに、自由に生きるコーディネイターの新たな世代達が育つまで、私は闘う事を止めるつもりはない。
だがどんな形でも、どれだけの犠牲を出しても勝てば良いとは言わん。意味のある勝ち方、未来を残せる勝ち方でなければならんのだ」
「……」

 自分の考えは杞憂だったかと、アスランは心底安堵していた。少なくとも父に、ナチュラル殲滅の意思が無い事は、今の世界を憂う人間としても、息子としても、嬉しく思えた。

「だがな、アスラン。その為には今は力が必要だ。我らにとって禁忌の力であろうともだ。お前がジャスティスを何所に預け、フリーダムをどうしたのか……。
いずれにせよプラントの未来を担うあれらを、お前の一存で好きにさせるわけには行かん。アスラン、お前の罪が重い事は、分かっているな?」
「はい」

 アスランは、静かにパトリックの言葉を受け入れた。少なくともここに来た価値はあった。
 乗り手のいなくなったジャスティスの次のパイロットを、ディアッカは引き受けてくれるだろうか、そんな風に考えていた。
 父の思いが、最悪のものではないとはいえ、ジャスティスやフリーダムの所在について口を割るわけには行かない。
 きっと、オーブの意志を体現すべく奮闘するカガリ達や、 混沌とした今の世界の未来を憂慮するキラ達は、この世界にとって小さくとも強い希望の灯であるだろうから。
 カガリとの約束を、守れないかもしれない事が、アスランにとっては気がかりだった。
 パトリックが室外から呼び寄せた兵達に四方を固められて、おそらく司法局あたりの拘置所か、軍の監禁室にでも連れて行かれるのだろう、とアスランは考えていた。
 ホールへ横切って、出口に向かい連行される。
 建物を出た所に移送車が待機しているが、あれに乗れば逃げ出す機会は無くなる。
 今ここで逃げ出し、キラ達の所に戻るか、それとも大人しくジャスティスをザフトから失わせた罪を負うか。

 移送車の周囲を固める兵士達の一人の、目にも鮮やかな赤い髪が、不意にアスランの注意を引いたが、大人しくアスランは兵士達の指示に従って車の中に入った。しばらく車に揺られていたが、その内に、別の車に移されることになった。
兵士の一部が不審そうにしているが、アスランも同じ気持ちだった。わざわざ車を乗り継ぐ必要性があるとは思えない。なにか特別な事情でもあるのだろうか? まさか、父が何か手をまわしておいたのだろうかと、甘い考えに我ながら苦笑した。
先程の赤い髪の兵士がアスランを連れ出して、新たな移送車に連れて行き、そこからまた移送車は彼方の方向に走り出した。アスランと一緒に入ってきた赤い髪の兵は、アスランの手錠をおもむろに外した。
驚いて目を見張るアスランに、兵士は笑いかけた。

「君は?」
「いわゆる『クライン派』ってやつですよ。覚えていません? ラクス様と貴方があった劇場にもいたんですけどね」
「ああ、あの時の? じゃあ、おれを逃がすよう指示したのは」
「ええ、歌姫様ですよ。このままシャトルまで貴方をお連れしてそこから先でラクス様と合流します。今やラクス様は国家反逆者ですからね、いよいよ、プラントに潜伏しているのも厳しくなったんで、ちょっと外に出る事にしたんです」
「外に?」

 訝しむアスランに、ダコスタと名乗ったその兵は自分達の計画の内容を耳打ちした。その内容に、アスランはあのラクスが自分の想像の斜め上の、さらに上を行っていた事を改めて確認した。良くも悪くも自分はラクスの事を知らなかったのだ。
 しかし、なんとも大胆な事を考え付く。

「新造戦艦の強奪か。フリーダムの時といい、ラクスはそういうのが趣味なのか?」

 アスランは割と本気でそう思った。