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SRW-SEED_ビアンSEED氏_第26話b

Last-modified: 2013-12-26 (木) 21:03:38

 オノゴロを出発したザフト・DC艦隊が、敗走する友軍と接触した時、既に伊豆基地から出撃していたゲヴェル・エスフェルの二隻のアークエンジェル級が戦場にいた。よりにもよっての邂逅というべきか、今回の作戦における両軍の最強戦力同士の激突であった。
 お互いにとってもうれしくはない邂逅であったが、もとより戦う以外に選択肢の無い状況、砲火を交えずに済ます事など許される筈もない。
「アークエンジェル級二隻か、敗残兵を追うには過ぎた戦力であるな。MS隊発進、敵機の迎撃は本艦で引き受ける。各砲座照準合わせ」
 今回の任務にさしたる価値を認めてはいないのか、常よりも淡々としてエペソが指示を出し、ボズゴロフ級より前に出て果敢に砲撃を開始した。アークエンジェル級と真正面から撃ち合える艦は、現状スペースノア級のみなのだ。

「敵戦艦照合、スペースノア級です!」
「何!? よりにもよってその艦か!」
 ユンの報告に、テツヤがゲヴェル名物となりつつある『何!?』を口走り、クルーの間に緊張が走る。これまで地球連合にさんざん煮え湯を飲ませて来たDCの代名詞の一つである戦艦が相手なのだ。
「エスフェルと連携してスペースノアを撃ちます! コリントス装填、ゴッドフリート一番、二番照準!」
「MS隊、敵機を近づけるな!」
 ザフトのグゥルを参考にしたゲタ――スカイ・フィッシュに乗って、カイやミューディー達を始めとしたMS隊も展開し、カオシュンからの撤退部隊であるザフトをさんざんに叩きまわっていた。
 修理もろくに受けていないザフトの機体は、鹵獲したストライクダガーの手足を着けたものなども見受けられ、既にカオシュンでの戦闘で修理用の部品も失ってしまっていたのが分かる。
仮にカオシュンとジブラルタルが今回の戦いで陥落していなくても、戦争が長期化すれば、いずれはこのように、物資の不足からその場しのぎの機体が多くを占めただろうが。 
 タマハガネから出撃したクライ・ウルブズの各機も、すぐさまザフトの部隊に群がる連合部隊に襲い掛かり、蜘蛛の子を散らすように蹴散らす――とはいかなかった。今回の相手は、GATナンバーを始めとした機体もパイロットも高い水準で固められた精鋭部隊だったのだ。
 ザフト側の救出部隊も、それぞれ散らばってカオシュンを脱出した友軍の元へと戦力を分散させており、現在タマハガネの他にはジュール隊を乗せたボズゴロフ級が一隻と輸送艇数隻が同行している。

 シンのガームリオン・カスタム飛鳥、ステラのアーマリオン、アルベロとスティング、ジャン・キャリーのガームリオン・カスタム三機、アウルのエムリオン、テンザンのバレルエムリオンV、それにイザーク、レイ、ルナマリアのデュエルAS、ディンが二機の合計十機のMS。
 対してレフィーナ率いるゲヴェル・エスフェルのMSは、カイのデュエル、スウェンのI.W.S.Pストライク、ミューディーのデュエルAS、シャムスのバスター、ダナのブリッツ、エミリオのイージス。
 それにオルガのカラミティ、クロトのレイダー、シャニのフォビドゥン、強化人間の乗ったエール105ダガーが三機。
 同行する輸送艦から発進したストライクダガーが八機で、二十機と、MS、戦艦ともに数で倍する戦力を保有している。
 如何にDC側の機体の性能が頭一つ飛び抜け、核融合炉で稼働しているとはいえ、厳しい戦力差であった。それに、ゲヴェルにはまだグランゾンがあるのだ。
 シンは、敵の中に因縁のあるフォビドゥンを見つけるや息を巻いて斬りかかり、ステラもクロトの乗るレイダーめがけてアーマリオンを飛ばしていた。アルベロはあえてその二人を制止せずに残る機体で襲い掛かる機体の迎撃に専念させた。
 敵アークエンジェル級の艦長はこちらをかなり高く評価してくれているようで、ザフトの敗残兵への攻撃は中止されている。それはそれで今回の作戦の目的が叶う形ではあるのだ。
「ち、どれもGばかりか。AI1、各機の状況をタマハガネとおれに常にリンクしておけ。スティング、アウル、おれと来い。前方のデュエル二機とストライク三機を抑えるぞ! キャリーはジュール隊とストライクダガーを頼む!」
 AI1のパネル上にアルベロの指示を了解する旨を表示し、倍の数の敵を相手にしている友軍の状況をめまぐるしく表示する。
 特に実弾の装備しか持たないディンに乗ったイザーク達はPS装甲を持つGATシリーズ相手に苦戦を強いられているようで、何とか連携して性能の差をカバーしているようだ。
「ぬ!?」
「むん!」
「こいつ、出来るな。指揮官機か」
「外したか、いや、避けられたな」
 肩の装甲を掠めて過ぎ去るビームの元を辿れば、カイのデュエルがライフルの銃口を向けていた。スウェンと強化人間の乗るストライク三機をスティングとアウルが相手取り、ミューディーとカイのデュエルの相手を、アルベロが務める形になっている。
「少佐、援護するわよ」
「ミューディー、敵はかなりの腕だ! 気を抜くな」
「ちい、連合にも腕の立つパイロットがいるか!」
 核融合炉の生むバッテリー機とは比べ物にならない出力を活かし、ソニックブレイカーを展開して両機に突っ込ませる。バッテリーを用いていた頃よりはるかに出力の増したブレイクフィールドは、ビームライフルの直撃にも耐え、慌てて機体を下げるミューディーに、アルベロはメガビームライフルを立て続けに撃ちこむ。
 直接ジェネレーターからドライブしたビームは、ミューディーが掲げたABシールドごとその機体を後方に押し込んでみせる。
「ちょっと、出力がダンチじゃないの!?」
「……せあああ!!」
「ちい」
 カイはアルベロがブレイクフィールドを解除するタイミングを見計らいビームサーベルで一気に斬りかかり、AI1の警告と同時に気付いていたアルベロは、ゲタ履きのデュエルより数段上を行く機動性で回避する。
「空戦可能な機体が相手では、いまいち相性が悪いな!」
「そうそう、やられてはやれんのでな! 落ちてもらおう」
 鬚親父二人の戦いの決着はまだ先の話になりそうだった。

 スウェンを始めとしたストライク三機を相手にするスティングも、決して楽な戦いでは無かった。肉体の健常化と引き換えに多少能力が低下した彼らとスウェンではややスウェンがパイロットとしては優れ、他二機のストライクのパイロット達も強化人間としてそれなりのレベルで完成されていたからだ。
 アウルが今回持ってきて置いたブーストハンマーを振り回し、目を着けたストライクに思い切り叩きつける。
「そーらああーー!! 落ちな!」
 シールドでそれを受けたストライクも、内蔵されたブースターが点火したブーストハンマーに吹き飛ばされ、海面に向かい落下し、そこにスティングがビームライフルを二射して右足とエールストライカーの一部を撃ち貫く。
「あの状態でかわしたか」
 だがスティングの口から出たのは苛立ちに近い。本来ならコックピットを撃ち、撃墜するはずだったのだ。海面に激突する寸前で機体を立て直したストライクに注意を向け続ける余裕は無かった。
 スウェンのストライクが対艦刀で斬りかかり、スティングのガームリオン・カスタムに肉薄していたのだ。

「ちい、こいつらぁ!」
「……任務遂行の為に、消えてもらう」
 共にブルーコスモスという可憐な名の下に毒の蜜を持った狂花に育てられながら、たもとを分かった二人の戦いが白熱するのに時間はいらなかった。

 タマハガネの所属のMS隊がそれぞれ連合と互角の戦いを繰り広げる中、イザーク達は機体の相性の悪さに辟易されながら何とか健闘していた。
「ああもう、なによあのPS装甲って! いくら撃ちこんでもちっとも効かないじゃない!」
「見た目はな。だが内部機器やパイロットには効果があるはずだ。頭部かコックピットを狙えばやりようはある」
 いくら銃弾を撃ち込んでもちっとも撃墜出来る様子の見えないGナンバーの機体にルナマリアが苛立ちを露にするが、それをレイがいつものように諌める。この二人もいいコンビになってきたようだ。
 実際問題、PS装甲を相手にしていては、ディンではいつになったら撃墜出来るのかという気もしてくる。数は連合側の方が多く、パイロットの質も高い。見方を変えればそのような状況にあって互角に渡り合うルナマリアとレイの実力も新兵のレベルを超えているのだ。
「これ以上、仲間をやらせんぞ!」
 イザークの駆るデェエルASがグゥルで一気にエール105ダガーの懐に飛び込み、肩の115mmレールガン“シヴァ”で牽制し、逃げた方向に合わせてビームサーベルを引き抜くや、光の刃が弧の軌跡を虚空に描くと同時にエール105ダガーの胴から上下に分かれた。
 二つに分かれたストライクの機体が爆発する様を見て、イザークはかつて足つきを追う過程で戦ったストライクの強さを改めて実感していた。たった一機でイザーク達四人を相手取ったあのストライクに比べればこの程度。
「隊長、すっごい……」
「おれ達も続くぞ、ルナマリア」
「! 分ったわ、私たちだって赤服なんだから」

 ボズゴロフ級が順調に兵士達を回収し、後は撤退のタイミングを見図るだけなのだが、相手がアークエンジェル級二隻とあっては、それも難しい。大気圏内で早々使用する事はないだろうが、陽電子破城鎚ローエングリンを撃たれればタマハガネとて一撃で沈む。
 エペソは冷徹なまでに落ち着いた表情のままそのタイミングを慎重に見計らっていた。場合によってはアークエンジェル級二隻とも落とせるかとも思ったが、なかなかどうして有能な艦長らしく、MSの数でも劣る分勝利は難しい。
「第四ブロック被弾、隣接区画で火災発生、消火班急げ!」
「連装衝撃砲、三番、五番照準固定、撃て!」
 アークエンジェルのラミネート装甲目掛けて迸る連装衝撃砲が、わずかにかすめて空を切り、反撃とばかりに撃ち返されたゴッドフリートがEフィールドと衝突しながら、タマハガネの船体を掠めて過ぎ去った。
 二隻のアークエンジェルを相手に互角に戦えているのは、ハイブリッド・ヒューマンとして生み出されたエペソの卓越した能力と、辺境銀河で戦い抜いた経験あればこそだろう。

 オウカに執着を見せるシャニのフォビドゥンと、シンの飛鳥の戦いはいまだ続いていた。
 それまで使っていたエムリオン以上に接近戦に特化した飛鳥のシシオウブレードの太刀は、幾度となくフォビドゥンの機体を捉えるが、今だTP装甲を破れずにいる。
「お前、いつも邪魔するうざいやつか!」
「おれの台詞だ! お前こそその機体で好きなように暴れやがって!」
「はん、知らないね。それよりお前、あのパイロットどうした? ここにいんの?」
「あのパイロット? ……オウカさんの事か! あの人が何だってんだ。あの人は戦争なんかしちゃいけない優しい人だ! 今も子供達と一緒に暮らしてる! なんでお前が拘る!」
「ふうん、何だここに居ないんだ」
 オウカは戦場にいない事を聞かされて、シャニは一気に戦闘意欲を失ったのか、飛鳥のシシオウブレードをニーズヘグの柄で受けていた姿勢から、飛鳥の胴を蹴り飛ばして離れる。シャニ自身、どうして自分があのオウカという敵のパイロットに拘るのか理解できていないのだ。
「待て、逃げるのか!」
「はあ? 数じゃこっちが上なんだ。お前の相手は適当に誰かするよ」
 機体を後方に下げるシャニに、何考えているんだこいつはと正直シンは首を捻る思いだったが、不意にタマハガネの方に不吉な感覚を感じ取った。

「何だ、この感じ? 悪意?」
 しばし逡巡したものの、まもなく飛鳥をタマハガネへと向けた。近づくにつれ、その感覚が強まり、その矛先がより明確になる。タマハガネの艦橋、そこになにかがいる!
「なんだ、何か分からないけど……タマハガネには当たるなよ!」
 シンは自分の感覚を信じ、タマハガネのカタパルト近くの空間に向けて、飛鳥の腰にマウントしてあるバーストレールガンを撃ちこんだ。傍から見れば無意味かつ意図の読めない無駄な行動であった。
 だが、敵と味方がシンの行動に不理解の念を覚えていた時、バーストレールガンの弾道の先で何かが蜃気楼のように揺らぎ、そこに漆黒の装甲に盾と武装が一体になったトリケロスと、左手にグレイプニールを装備したブリッツが現れた。
 ミラージュコロイドという、コロイド粒子を発生させて機体を隠ぺいする装備で姿を消しながらタマハガネに接近していたのだろう。シンが捉えた悪意の正体がこれなのだ。
「おいおい、なんで位置が分かるんだよ!?」
 ブリッツのパイロットであるダナも科学的根拠が一切無しでこちらの位置を当てて見せたシンに、わけが分からないと困惑している。懐に飛び込まれていた事を察知したエペソが素早く周囲のレーザー機銃の照準を集中させる。
 ミラージュコロイド展開状態ではPS装甲が使用できず、防御能力が著しく低下する。慌ててPS装甲を展開させ、タマハガネの甲板から飛び退るブリッツに、シンの飛鳥が肉薄していた。
「まじか!?」
「フルブースト!」
「くそお!」
 右蜻蛉の構えのまま両肩に増設されたブースターとテスラ・ドライブを全開にして、一直線にブリッツに迫る。機体内部のパイロットが持つとは思えぬほどのGに耐え、シンはシシオウブレードを振るった。
 虚空に描かれる縦一文字。銀に輝く月孤の先で、送電が途絶えて灰色に変わったブリッツ――の右腕。
「外した!?」
「エミリオか、悪い!」
「コーディネイターは殲滅する。その為の力は必要だ」
 MA形態に変形し、とっさにブリッツの機体を掴み取ったエミリオのイージスがダナにとっての救い主であり、シンにとってはすんでの所で邪魔をした相手だった。
 シンはそのままタマハガネの直衛につき、ダナとエミリオを前にシシオウブレードを構え直す。
 機体越しにも伝わるシンの気迫に、右腕を持っていかれた事もあるが、ダナは思わず生唾を飲み込んだ。傍らのエミリオも、強い洗脳によってコーディネイター殲滅以外には情緒の乏しいというのに、操縦桿を握る腕に力を込めていた。
 だが、シンの注意はすぐに二人から逸らされることになった。それはクロトを何とか説得しようとしていたステラも同様だった。
 二人の顔色は、抗えぬ死を前にして、それが自分の死である事を理解してしまった不幸を如実に表していた。
「なん、だこれ? 敵意でも、殺意でも無い……。なにか、とんでもないもの?」
「……くる。すごく、強いなにか」
 それはゲヴェル、タマハガネのレーダーにも捉えられた。
「レーダーに感。急速に接近する機影、数は一。は、はやい! 目視可能域に入りました。正面モニターに映します!」
 そこに映し出されたのは、無機物でありながら圧倒的な威厳を醸し出す青みを帯びた紫の装甲を持ったMSよりも一回り大きな機動兵器。おそらく、いや現在世界最強の一角を担う機動兵器グランゾンであった。
「艦長、ライブラリに照合、グランゾンです」
「シラカワ博士!? 急いで連絡を」
『その必要はありませんよ、レフィーナ艦長。遅くなって申し訳ありません。少々用事に手間取りましてね』
 正面モニターに、光沢のある紫髪を波打たせた涼やかなシュウの美貌が映る。どこか底知れない不敵な威圧感が、レフィーナに息を飲ませた。
「シラカワ博士、一体何を……!?」
『遅れた分の働きはしますよ。こちら側の機体を私の指定する範囲から下げてください』
「! ユン、エイタ、すぐに全機にシラカワ博士の指示を伝えてください、大至急!」
「は、はい!」
 シュウの言葉に本能的な危険を察知したレフィーナはほとんど反射的に指示を出し、ユンとエイタはその剣幕に押される形で展開している全ての友軍機に、シュウから伝達された指示を更に伝える。
 突然の指示に疑いを持つ者も多かったが、シュウのグランゾンを見ると同時になにか言いしれぬ悪寒を感じていたカイも、スウェンやタマハガネに迫っていたダナやエミリオに急いで離脱するよう指示を出して、自身も機体を下げた。
 味方のはずのグランゾンに、なぜか不信と疑惑を抱いていたのだ。
 それはグランゾンの姿を確認したエペソも、ラオデキヤ艦隊の残したデータからそのスペックを記憶の棚から引き出していた。

(バルマーのもたらしたEOTで造り上げたアーマード・モジュール“グランゾン”か。余の世界のモノとビアン・ゾルダークの世界のモノ。いずれにせよこの世界の技術では到底造りえぬ機体であるはず。ならばこの世界で造り上げられたという可能性は限り無く低い。 さてどちらか……。いずれにせよ、今回の作戦はここまでか)
 グランゾンの性能に対抗できる手札が現状ない事を即座に理解したエペソは、素早く全ての機体に後方へ下がるよう指示を出す。
 直接対峙したわけではないが、グランゾンの性能が規格外である事は事実であるだろうから。
「おや、動きが早い。グランゾンのスペックを知っているわけでもないでしょうが」
「御主人さま、さくっとやっちゃうんですか?」
「ええ。遅刻した分を手っ取り早く取り戻す為には、ね。少々手荒い真似で恐縮ですが……グラビトロンカノン、発射!」
 グランゾンの胸部が展開し、中央部にある球形のパーツから黒い雷の様な光が瞬く間に溢れ、それは不可視の重力場を作り出し効果範囲内に居たすべての機体を見えざる重圧で圧殺せんと襲い掛かる。
 姿の見えぬ巨人がはるか天上から踏みつけているかのようにシンの飛鳥や、スティングのガームリオン・カスタムやアウルのエムリオンも見る見るうちに海面に叩きつけられるように押し込まれ、機体内部でもパイロット達にとてつもない重圧に苦しめられていた。
「うああああ!?」
「これは、重力、操作!? ヴァルシオンと同系統の技術か!?」
 イザークやレイ達のディンも巻き込まれ、推力で覆しきれない重力に機体の各所が悲鳴をあげて黒煙を上げ始めんとしている。
「きゃあああ!? 機体が……」
「ぐうぅ、こちらのスラスターでは支えきれない」
「ルナマリア、レイ、くっそお! あんな機体を隠し持っていたのか、地球連合め」
「一撃では沈みませんか。では……ほう? 効果範囲を瞬時に見切り直撃を回避した方もいましたか」
「落ちてもらおう!」
 グランゾンの上空から襲いかかるアルベロ、ジャン・キャリー、テンザン。クライ・ウルブズのトップ3がそれぞれの機体の火器をありったけグランゾンに撃ちこみながら機体を加速させていた。
 一気に決着をつけなければ装甲の薄いルナマリアやレイのディンが機体ごと潰れてしまう。Eフィールドを標準しているDC製の機体でも、そう長くは保たないだろう。
 アルベロとジャンのガームリオンが立て続けにバーストレールガンとメガビームライフルをグランゾンへと正確無比な狙いで撃ちこむが、その全てがグランゾンに届く前に軌道を歪められ、無効化されてしまう。
 解析したAI1がすぐにその結果を表示した。該当するデータがあった為に答えが提示されるのもあっという間だ。
「空間歪曲、ヴァルシオンと同じか! ライフルでは破れんな、ジャン・キャリー、おれ達であれを破るぞ!」
「そういう事になるか。了解したアルベロ三佐。ナカジマ一尉、タイミングを誤るな」
「ホ! 良い所残してくれるじゃねえの。これで成功しなきゃゲームオーバーってか? いいざ、久々に楽しめそうだっての!」
「ソニックブレイカー、セット!」
 ジャンとアルベロのガームリオン・カスタム二機が共にブレイクフィールドを前方に展開し、二機揃ってソニックブレイカーを展開してグランゾンの空間歪曲フィールドと激突した。
「やりますね。ジブラルタルで戦ったザフトとは質が違いますか」
 二機のソニックブレイカーと歪曲フィールドの激突は周囲の空間を陽炎の様に歪めながら、拮抗を繰り広げる。
 ブラックホールエンジンの生み出す核融合炉さえ比較にならない莫大なエネルギーが発生させる歪曲フィールドは、そう簡単には破れてはくれない。
「おおおお! なんだか分からないけど、斬ってみせる!」
「シンか!」
「む、どこかで聞いたような調子の方ですね」
 グランゾンの上方から突撃するジャンとアルベロのソニックブレイカーとは違い、真正面からグラビトロンカノンの重力を最大推力で振り切った飛鳥が、虚空を切り裂いて歪曲された空間に獅子王の刃で斬りかかる。
「グラビトロンカノンを振り切りましたか、大したものですね」
「く、う……うおおおお!! 斬り裂けえ、飛鳥!」
「! この力は」
 シンの気迫が乗り移ったかのように、飛鳥のカメラアイが一際強く輝き、歪曲フィールドに獅子王の太刀が徐々に斬り込んで行く。その瞬間、シンの意識は無我の境地へと没我した。勝利を度外視した、示現流のモーションデータではない、シンの動きであった。
 歪曲した空間に、砕かれる硝子の様にひびが入った瞬間、斬り下げていた一刀を右突きの形に瞬時に切り替えた。これこそ理想の一刀――無意識が発露した奇跡の一撃。

 だがそれを、グランゾンが虚空から取り出した両刃の巨大な剣グランワームソードの腹が受けていた。
 シシオウブレードの切っ先は、その刀身を貫きグランゾンの装甲まであとわずかという所で止まっている。
「驚きました。精神が機体の性能を左右するシステムでも搭載しているのですか?」
「後少しだって言う所で!」
「シン、どけやあ!」
「テンザンたいちょ、じゃなくて一尉」
 テンザンの気合いの乗った声に反応し、シンはシシオウブレードをグランワームソードから引き抜き、とっさにその場を離れる。
 それを許すほどシュウは甘い男ではなかったが、解析不可能な力が、追撃を許さなかった、
 飛鳥のシシオウブレードを受けたグランワームソードを握る右手を中心に機体の一部の動きが鈍ったのだ。
「これは? 機体の損傷でもプログラムの異常でもない。……興味深いですね、超常的な力ですか」
「何感心しているんですか! ほら、あの両腕が大砲になってる機体、ばりばりこっち狙ってますよ!」
「チカ、あまり耳元で騒ぐのは歓迎できません」
「ご主人様のマイペースさん! ぎゃああ、撃ってきた!」
「落ちろってのおおおお!!!」
 本能的に途方もない強敵と悟ったテンザンが、バレルVの両腕のレールガンをありったけグランゾンへと叩きこんだ。
 歪曲フィールドの破壊と同時に後退したアルベロやジャンも、即座にマグナ・ビームライフルやメガビームライフルを、残弾を気にせずにトリガーを引き続ける。
 だがそれはグランゾンの装甲を穿つ事はできず、表面を焦がすに止まっている。
「な、化け物かよ!? あれだけの攻撃を受けて……」
「ちい、ラスボスよりもつええ、隠しボスの登場ってとこか!」
「さて、思ったよりはやるようですが、グランゾンを倒せるレベルではありませんか。そろそろ決着と行きましょう。ワームスマッシャー、発射!」
 グランゾンの胸部前方に突如出現した黒い穴は、空間歪曲か重力操作で繋げた別の空間への接合点なのだろう。
 シュウはその虚空に穿った奈落に、胸部中央から立て続けにエネルギー弾を撃ち込み続ける。
 そのエネルギー弾は、シンの飛鳥をはじめ、アルベロ達の機体の周囲に開かれた黒穴からタイムラグなしに出現して、次々と機体を穿って行く。
 あらゆる方向から出現する攻撃。
 ほとんど回避不可能としか思えぬ攻撃に、アルベロもジャンも、そしてシンも機体のダメージが積み重なり、装甲のあちこちが爆ぜてゆく。
「何発かはかわしたようですね。ですが、それも次で終わりです」
 今一度ワームスマッシャーの発射態勢に入るグランゾン。その動きに、シンは死を覚悟した。
 だが、そのシンの目と耳に、接近する熱源がある事を告げるアラームと光の明滅が移った。
「この反応は!」
「新手、ですか」
 シュウも新たな反応に気付き、展開していたグラビトロンカノンを解除し、グランワームソードを構えてその敵の出現を待つ。
 窮地に陥ったシン達の前に姿を見せたのは――
「ほう? あれが噂に名高いヴァルシオンですか。となれば乗っているのはディバイン・クルセイダーズ総帥ビアン・ゾルダーク」
「ええ、敵のトップじゃないですか!」
 そう、鈍重な外見に反し高機動タイプのMSも軽々と凌駕する高速でこの戦場に出現したのは、立ちはだかる敵の返り血で染め上げたような真紅の機体。
 グランゾンの倍近い巨躯を誇るヴァルシオンに間違いなかった。
「……グランゾン、か。ならばパイロットはシュウのはず。さて、何を考えている?」
 別のザフトの部隊を回収し、連合の部隊を壊滅させシン達の元へと駆け付けたビアンは、ヴァルシオンのコックピットの中、目の前に存在するグランゾンとそのパイロットであるシュウの意図がどこにあるか、思考を巡らしていた。