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SRW-SEED_ビアンSEED氏_第28話

Last-modified: 2013-12-26 (木) 21:04:52

28話 宇宙へ

 グランゾンとヴァルシオンの戦いが始まる前、ステラはクロトの乗るレイダーを発見し、今度こそ説得しようと試みていた。
 この前戦った時と違い、クロトが他の機体と拙いながらも連携を持ったため、かなりの難事ではあったが、新しい機体であるアーマリオンは、ステラの願いによく答えた。
 レイダーの放つ容赦ない攻撃を回避し、迫りくるミョルニルをロシュセイバーで弾き、何とかレイダーに取りつこうとするが、クロトはそれを嫌い、レイダーをMA形態に変形させるや距離を取って牽制にアフラマズダやツォーンを撃ちこんでくる。
 アーマリオンの強固な装甲とEフィールドでも連続して受ければ危険だ。
「ええい、しつっこいなあ、お前! いい加減諦めろ!!」
 大気の壁を圧して迫るミョルニルを何度目になるかロシュセイバーで弾く。クロトの苛立った声に、ステラは必死に追いすがる。
「クロトが戦うのをやめてくれたら、追いかけない!」
「アホか!? 戦うのがなにより楽しいってのに、止められないね!」
「でも、それは戦う事しか知らないから、他の事を知ったら、戦う事以外の事をもっと、もっと知らないとダメ!」
「はん! じゃあ、今こうして僕と闘っているお前は何なんだよ! 説得力がないんだよ。おら、落ちろおぉぉ!」
「っ!」
 横殴りに叩きつけられたミョルニルにアーマリオンの左腕を半ばまで潰されながらも、機体の姿勢を立て直したステラは、それでもクロトへの言葉を止めない。
 かつてラボでは寝食を共にした者同士での殺し合いさえあった。能力が求められる基準に満たない者は処分され、廃棄されていった。
 その時の事は、幸か不幸かステラも覚えている。
 だからだろう。その時命を落としてしまった者達の分も生きて欲しいのだ。人間らしく、当り前の幸せを知る人生を。
「クロト、お願いだから戦うのをやめて! そっちにいたら、何時か殺されちゃう! クロト達の事を使い捨ての道具としか思ってないもの。ステラ達だってそうだった」
「……ちっ、べらべらやかましい奴になったな! 何を考えているのか分からないボケッとした奴だったけど、DCに行ったせいかよ。お前の言う事ももっともだけどな、悪いけどこっちにもまともなおっさんと艦長がいるんでね! 前よりはマシなのさ」
 それは、偽らざるクロトの本音であった。なんやかんやと拳を振り上げる鬼隊長に、人間らしい扱いをしてくれる艦長や副長を始めとしたゲヴェルのクルー達。
 付き合いは短いが、人間性を取り戻しつつあるクロト達の人格に良い影響を与えていたのは間違いない。
 この場合、今いる自分の居場所に対する執着となり、クロトを説得したいステラにとっては立ちはだかる壁となってしまった。
「〜〜〜〜クロトの分からず屋!!」
「こっちの台詞だ。バーカ、バーカ!」
「バカって言った方がバカ!」
 とどこか兄妹喧嘩じみたやり取りをしながらも、レイダーから加えられる攻撃は激しさを増し、反撃しないステラのアーマリオンは徐々に追い詰められてゆく。
 性能で言えば核融合ジェネレーターを搭載し、強力な武装と高い機動性、防御能力を併せ持ったアーマリオンの方が上なのだが、ステラにクロトを倒す意志がない以上そもそも勝負が成り立たない。
 そうして、イタチごっこじみた二人の戦いは、グランゾンの放ったグラビトロンカノンによってステラのアーマリオンが中破し、戦線を離脱した事で一区切りが着く事となったのだ。

「で、気がついたら腰蓑履いた男の子と、犬と、エプロン着けた男の人に助けられた?」
「うん。パプワくんと、チャッピーと、リキッド。他にもイトウくんとタンノくんとヨッパライダーに……」
「あー、はいはい。楽しい夢が見れて良かったな、このおバカ。こっちはお前探すのに苦労したってのに。お前の夢にこれ以上付き合ってらん無いよ。もう寝るからな!」
「夢じゃないよ、本当だよ」
「知るかよ」
 必死になって探してみたらのんきに寝ていたステラに怒り心頭らしく、アウルは素気ない口調でさっさと自分の部屋に戻って行ってしまった。
 タマハガネに戻り、ステラのアーマリオンを回収した後、リラクゼーションルームでの一コマである。
 スティングも、ふだんのステラの様子からして、夢でも見たのだろうと判断したらしくアウルに続いて部屋を出て行った。
 まあ、ひょっとしたら現地の人々と仲良くやっていたのかもしれないが、しかし
「いくらなんでも、足が生えたオカマの魚と人間並みにでかいカタツムリってのはなあ」
 妹分の妄想に、早急に性格か感性を修正する必要があると、密やかに思ったのは内緒だ。
 ぽつんと取り残されたステラは、きゅっと小さな手でシンの服の袖を握った。残った最後の味方、といった所か。
 うるんだ瞳で見つめられ、シンはいろんな意味でドギマギした。雨の降る日に、捨てられた子犬と目を合わせてしまった気分に近い。
 まあ、憎からず思っている女の子に熱っぽい視線で見つめられればそんなものだろう。
 シンは信じてくれるよね? と無言で訴えてくるステラのスミレ色の瞳から目を離せず、シンの体温は急上昇していた。
「ええっと、そ、そうだね。ステラがそんだけ気にしているんなら、きっといい奴らだったんだね!」
「うん、皆優しかった。でも……」
「うん?」
「喧嘩するより友達になる方が簡単ってパプワくんは言ってたの。でも、ステラはそうだねって言えなかった。本当に友達になる方が簡単だったらいいのに」
「……そうだね。友達になる方が簡単、か」
 その言葉に、ひどく、胸が痛むのをシンは悲しく感じていた。

 いかなる地図・記録にも載っていないパプワ島についてのステラの発言は、幸か不幸かそれ以上追及される事無く、無事タマハガネはオロゴノ島へと戻る事が出来た。
 グランゾンの放ったグラビトロンカノンの一撃でほぼすべての機体にダメージが積もり、早急にメンテナンスを必要とする事態に陥り、施設内の格納庫は慌ただしい。
 特に機体のほぼ全箇所ダメージを負ったアーマリオンの修復には時間がかかるだろう。
 タマハガネの隣では、イザーク達の乗船していたボズゴロフ級も係留されていてフレームの段階から歪みが生じてしまったディンの廃棄作業やカオシュンから脱出した兵士達を病院に搬送する作業なども行われている。
 一応、タマハガネでメディカルチェックを済ませたステラも、大事をとりクエルボ立ち会いの下で病院へ検査入院する事になっていた。
 病院へ行くのをいやがるステラを、スティングや駆け付けたクエルボが宥めていると、ボズゴロフ級から降りたルナマリア達が近づいていた。
「ステラ、もう、あんたって子は! どれだけ心配させるのよ!」
「ん、ごめん」
 ルナマリアは駆け寄ってきた勢いのままに、ステラをぎゅっと抱きしめた。
 ルナマリアの胸に顔をうずめながら、ステラは少しだけ息苦しそうにしながら、心配してくれるルナマリアの心がうれしいのだろう、素直に謝った。

 いつもと変わらず浮かべる表情が少ないレイと、イザークの姿もあった。
「ステラが無事なようでよかったな。シン」
「ああ。レイ達は大丈夫だったか?」
「ディンは使い物にならなくなったがな。作戦当初の予想より犠牲は少ない。お前達のお陰だ」
「いいよ。ビアン総帥が来てくれたお陰だったし。レイ達は今度こそ宇宙に上がるんだろう? ひょっとしたらおれ達も行くかも知れないから、また会えるかな?」
 短い付き合いだが、いつも必要最低限度の事しか言わないレイの答えは短いだろうと思いながら聞いたシンは、良くも悪くも裏切られる事になった。
「ああ、そうだな。会えるさ。おれも、またお前達に会いたいからな」
「……そうか。そうだな」
 ほんのわずか、唇の端を吊り上げ、かすか笑みさえ浮かべるレイの横顔を、ついついシンは見つめてしまった。
 信じられない、とまではいかないが、確かに予想外ではあったからだ。
 ただ、そのレイの笑みにシンは、胸に湧き上がる暖かいものを感じていた。

 今回のカオシュン基地奪還に際し、地上の勢力図は今一度塗り替えられ、アジア・ヨーロッパ・南アフリカ・アメリカ大陸を地球連合が抑え、ソロモン諸島周辺をDC、オーストラリア大陸、ジブラルタル基地をザフト。
 実質DCの傘下にあるアフリカ共同体の事もあるが、事実上、地球での戦闘の趨勢は連合の優勢に傾いた事になる。
 しかし、先だってDCとの戦いで投入した海洋戦力の喪失、“切り裂きエド”ことエドワード・ハレルソン、“白鯨”ジェーン・ヒューストン、“地獄の戦士”ローレンス・シュミットらが水面下で進める旧南アメリカ合衆国独立運動。
 ジブラルタルから脱出したザフト兵や反連合勢力、DCの増援部隊をまとめあげたバン・バ・チュン率いる北アフリカ共同体と、連合にとっても油断のできる情勢にはいまだ至ってはいない。
 日本の伊豆基地に戻ったレフィーナ・エンフィールド中佐とイアン・リー少佐のアークエンジェル級二隻も、補給作業の後カオシュンのマスドライバーから宇宙へと上がるよう指示を受け、その為の作業に勤しんでいた。
 オルガら生体CPU達の調整や、カイやスウェンらエースパイロットの無茶な機動で消耗の激しい機体の整備などは、手間も部品も多く必要になる。これからの激戦を戦い抜く為にも、今はわずかな休息が、彼らには与えられていた。
 終わりへと向かう戦いの舞台は――宇宙へ。

 現在、DCの宇宙における拠点は実質、造りかけの軌道エレベーター・アメノミハシラのみになる。
 とはいえ、モルゲンレーテ本社にも匹敵するファクトリーを備え、配備された戦力もヤラファス島やオノゴロ島のものと比べても遜色ない。
 オーブ宇宙軍屈指の名将として知られ、ビアンに呼応して宇宙軍を掌握したマイヤー・V・ブランシュタインを総司令に、DC副総帥ロンド・ギナ・サハクがアメノミハシラのン主となっている。
 新西暦世界において建造されたアルバトロス級、ペレグリン級を改装した戦艦に、アガメムノン級やナスカ級などザフト、連合で使用されているものが無節操に係留されている光景はDCに、独自に新型の戦艦を建造する能力がない事を表しているともとれる。
 ユーリア・ハインケルを隊長に置くトロイエ隊を筆頭に、新西暦純正のAMガーリオン、コスモリオンの他、宙間仕様のコスモエムリオン、ガームリオンを主戦力として配備し、今に至るまで連合の侵攻を許さぬ不敗の城でもあった。
 マスドライバー・カグヤによって宇宙へと飛びあがったタマハガネが、今そのアメノミハシラへと向かい入れられた。他にも補給物資を積み込んだ輸送船や、ザフトの艦も数隻ある。
 カオシュンのザフト軍救出作戦からさして間を置かず、宇宙へと上がったシン達である。タマハガネの船側の窓から、初めて見るアメノミハシラの光景に、シンは感心したように見入っていた。となりではステラも同じ表情を浮かべている。
「これがアメノミハシラか。ギナさん、元気かな?」
「あの人の事だからな。高笑いしながら、攻撃を仕掛けてくる連合の連中を蹴散らしてたんじゃないのか?」
 スティングの言葉通りの様な気がして、シンは小さく笑った。ステラ達とは違い、備え付けの小型モニターでアメノミハシラを見ていたアウルが、お、と声を上げた。
 モニターには、直線で構成されたような随分とごつごつとした、四肢が短く太い人型らしい物体があった。

 アメノミハシラで開発されている新型機動兵器ジガンシリーズの一号機ジガンスクードである。70.3メートル、481.9トンの巨体の胸部に逆三角形のピラミッドの形状をしたギガ・ワイドブラスターを備え、両腕には先端が尖った巨大なシーズシールドをそれぞれ備えている。
 その巨躯と分厚い装甲、両腕のシーズシールド、搭載された高出力のEフィールドによる絶対的な防御力を持ち、開発者達には“地球圏最硬の盾”ないしは“地球圏最強の盾”とも呼ばれている。
 既に完成段階に入り、今は細かな調整を行っている段階なのだろう。アルベロが以前に、アウルに手配しておくと言ったのを覚えていたようで、自分の新しい機体なのだと目を輝かせているのだ。
「ようやくおれにも春が来たか!」
 パックのコーヒーを啜っていたスティングが、アウルの台詞に軽く咳きこんだ。
「いや、春って。使い方間違っているぞ」
「いいんだよ! シンとステラは新型手に入れてるし、アルベロ隊長やスティングはガームリオン・カスタムだし、おれだけエムリオンのままじゃやってらんないからな」
「エムリオンだって良い機体だぞ? 核動力になってるし、性能で言えばザフト・連合のほぼすべてのMSに勝っているんだからな」
「でもさ、この前のグランゾンみたいなのが出てきたら勝てないぜ。少しでも勝ち目を増やすにはさ、おれらだけじゃなくて機体もどんどん強いのにしねえと」
「グランゾン、か。ビアン総帥のヴァルシオンと互角かそれ以上って話だったな。あそこでビアン総帥が来なかったら、今頃……」
「シンが少しだけ反撃したけどさ、おれらは結局何もできなったろ? もう、あんなのは勘弁だ」
「確かに、な」
 アルベロやテンザン、ジャン・キャリーらといった面々こそ反撃らしい反撃はしていたが、アウルやスティング達はなすすべも無かったのが現実だ。あの時の無力感や悔しさは、スティングの胸にも苦く残っている。
 そして、少年達の思いを乗せて、タマハガネはアメノミハシラと入港した。

 ユーリアとロレンツォはアメノミハシラに入港したタマハガネに搬出されるジガンスクードを眺めていた。
 ここ数日は連合側の攻撃も無く、不気味なまでに静寂であったが、地上での戦闘も、連合のマスドライバーの数が確保された事である意味一段落が付き、主戦場が宇宙に移るのは自明の理だ。
 コロニー出身のユーリアは、ジガンスクードの業を知るが故に、それの開発をあまり歓迎はしていないようで、ややきつめの美貌は不機嫌さをわずかに滲ませている。
「やはり、ジガンスクードは許せないか?」
「……こちらでは関係の無い業ではあるでしょうが、やはり」
「うむ。だがビアン総帥もマイヤー総司令もそれを知りながら、あの機体の開発を行った。その真意を、我々も汲み取らねばなるまい。ホープ事件を引き起こしたあの機体を、あえて開発された、な」
「敵を貫く矛ではなく守るべきものを守る盾として生まれ変わったジガン、その意味を?」
「そういう事だ。さて、そろそろエペソがマイヤー総司令の所に着く頃だろう。我々も行こうか」
「はっ!」
 新西暦世界からコズミック・イラの世界に迷い込んだものにしかわからぬ言葉を交わして、二人は肩を並べて足を踏み出した。

「ジャン・キャリー? 何しているんですか?」
 アメノミハシラのファクトリーを見学していたシンは、技術者となにやら話し込んでいるジャンの姿に気付き、軽く床を蹴って近づいた。
 ジャンはDCの軍服ではなく私服を着こんでいた。
「もともと私は工学博士だからね。DCの技術を参考に私なりに色々と図面を引いていたモノがあったのさ。それをいくつかここで造る事になってね。その打ち合わせだよ。君こそ、ステラ達とは別行動かね?」
「ええ。みんなここが珍しいからあちこち見てるんです。おれも宇宙に上がるの初めてだし、たまには一人でぷらぷらするのもいいかなって」
「そうか。そういえば、宇宙に上がる前ハレルソンと何か話していたが、南米の話でも聞いていたのかい」
「あの時は、エドに接近戦での戦い方を教えてもらってたんです。おれの飛鳥は剣戟戦闘に特化しているし、エドは切り裂きエドなんて異名がある位だから、参考になると思って」
「そう言えばそうだな。コックピットハッチの隙間を狙ってシュベルトゲベールを突き立てる、という芸当をやってのけるからな、彼は。しかし、個人的な見解を述べさせてもらえば、君は接近戦よりの万能型のパイロットだと思うがね」
「オールラウンダー? おれが?」
「ああ。ここぞ、という時では接近戦にシフトする傾向があるが、中・遠距離戦での成績も上々だ。まあ、シミュレーターや普段の戦闘を見れば君自身は自分を接近戦のエキスパートにしたいのかもしれないけれどね」
「う〜ん、なんていうか、突っ込んでがちゃがちゃの接近戦に持ち込めば、操縦技術の差は誤魔化せるかなあ、なんて思ってるからかな?」
 腕を組み、真剣に考え込んだ末のシンの言葉を、ジャンは鷹揚に頷いて聞いていた。シンの倍以上の年月を生きた大人の態度だ。ちなみにビアンの三歳年下である。
「確かに機体が直接触れ合うほどの距離ならそうかもしれないが、実際は接近戦の方が如実に技術の差が表れるのがMS戦だ。君はもう十分にエース級だから、並大抵の相手には負ける事はないと思う」
「そ、そうですか?」
「ああ。この間の戦いでは相手が全てエース級だったこともあって実感がわきにくいかもしれないが、ザフトと連合にはまだMS戦の経験がない者も多いはずだ。君の敵になり得るパイロットはむしろ少ない位だ」
 この戦争でまず間違いなくトップクラスの戦闘経験を持つエースの言葉に、シンは多少の照れと喜びを感じながら、鼻の頭を掻いていた。

 地球連合の主な宇宙での拠点である月のプトレマイオス・クレーターには、アークエンジェル級一番艦アークエンジェルの姉妹艦である二番艦ドミニオンが出港の時を待っていた。
 既に地球で多大な戦果をあげている三番艦ゲヴェル、四番艦エスフェル、五番艦シンマニフェルとは違い、大規模な戦闘が沈黙して久しい宇宙ではいまだに戦闘を経験していない、唯一のアークエンジェル級でもある。
 そのドミニオンの艦長を務める事になったのが、元アークエンジェルの副長ナタル・バジルール少佐であった。紺に近い紫色の髪をショートカットにした、落ち着いたというよりは事務的な表情を浮かべる事の多い女性だ。
 軍人として勤めて私情や干渉を挟まぬように心がけているからだろう。
 アラスカ攻防戦でアークエンジェルから降り、連合上層部からまだ使えると判断され生き残った女性でもある。
 軍事の名門であるバジルール家の子息であり、その能力とアークエンジェル級で戦い抜いた経験を買われ、階級特進の上、虎の子のアークエンジェル級艦長への異例の抜擢を受けた。
 民間人、それも学生さえいたアークエンジェルに比べ正規の訓練を受けたクルー達のドミニオンならば、ナタル自身の能力を遺憾無く発揮し、これほどの能力を持つ戦艦の采配を握る事への喜びもある。
 それだけなら良かったのだが、ナタルの胸に去来しているのは、かつてのアークエンジェルを懐かしむ思いであった。
 アラスカの戦いでサイクロプスの爆発に巻き込まれて撃沈したと思われていたアークエンジェルが、どういうわけでか旧オーブ軌道上で、オーブ艦隊と共にDCに協力して連合の艦隊と闘う姿を確認した時には、軍人としてはあるまじきことだが
――仲間が生きていた事に安堵をおぼえた。
 どういう経緯でDCが支配するオーブ本国から脱出したオーブ艦隊と行動を共にしているのか、など疑問はいくらでも湧いてきたが、それらを越えて仲間が生きていた事実に喜ぶ気持ちの方が大きかった。
 だが時がたち、ナタルの理性はその気持ちを押し殺すように働きかけていた。
 アークエンジェルがオーブ艦隊と行動を共にし、連合に弓引いた事実を考えれば、いつか自分があの艦と砲火を交えるかもしれないと、遅まきながら気付いたからだ。

 月艦隊司令部への出頭命令が下り、ナタルはシミュレーションを終えてから、時刻きっかりに訪れた。
 司令室に入り、何気なく部屋を見渡すと上司である将校の他、ナタルよりも若い中佐の階級章を着けた女性士官とデザインはシンプルだが使われている素材は最高級の者であると一目で分かるスーツを着た金髪の男が椅子に座っていた。
 どちらにも面識がなく、ナタルは内心で首を捻る思いだったが、とりあえずは将校に敬礼をする事にした。
「忙しい所をすまんな。バジルール少佐。まあ、楽にしたまえ」
「いえ」
 補給があると聞いていたが、おそらくあの女性が合流すると聞かされたアークエンジェル級三番艦ゲヴェルの艦長レフィーナ・エンフィールド中佐なのだろう。
 ナイトメーヘン士官学校を首席で卒業し、ユーラシア連邦史上最年少で中佐になった才媛中の才媛だ。その評判に劣らぬだけの戦果をあげている事も、すでにナタルは耳にしていた。
 アークエンジェルでの戦績を考慮しても、自分よりも6つも年下の、穏やかそうなこの女性の方が艦長としては有能だろうと、ナタルは内心で評価した。
 同じ地球連合でも、大西洋連邦に属するナタルと、ユーラシア連邦のレフィーナとでは厳密な意味では完全に味方とは言えないが、少なくともレフィーナ自体にはそう言ったやましさを感じる事は出来なかった。
 となると、レフィーナはともかく、もう一人の金髪の男は誰だろう?
「紹介しよう。アークエンジェル級三番艦ゲヴェルの艦長レフィーナ・エンフィールド中佐と、こちらは国防産業連合理事のムルタ・アズラエル氏だ。お名前くらいは聞いた事があるだろう?」
「あ、はあ……」
 ブルーコスモスの盟主、その当人が、なぜ? 
 どうやらレフィーナも同じ気持ちらしく、当惑した様子で椅子に悠然と腰掛けているアズラエルを見つめていた。
 ナタルが来るまでの間に話くらいはしただろうが、素性までは聞かされていなかったということか。 
 アズラエルはおもむろに立ち上がり、無遠慮にナタルとレフィーナへ視線を向けた。
「よろしく、艦長さん達」
「はあ」
「……」
 軍需産業を営み、地球連合上層部への発言力が強いこの男の事だから、新型艦に興味を抱き、その見学ツアーの案内や句に自分達が選ばれたのだろうかと、ナタルとレフィーナが同じ事を思い浮かべた時、将校は二人の予想を外れた答えを提示してくれた。
「アズラエル氏は、ドミニオンに配備される最新鋭MSのオブザーバーとしてともに乗艦される。よろしく頼むぞ」
「え……?」
 面食らうナタルの様子がおかしいのか、アズラエルは薄く笑みを浮かべてナタルの顔をしげしげと覗きこんだ。
「しかし、僕らの乗る戦艦の艦長さんが、こんなに若くて美人な人たちってのは、イキな計らいってやつですか?」
 人並には好色らしい、いやな声音でいうアズラエルに将校は胸を張って答えた。思想はともかくセクハラをするようなタイプではないのだろう。
「御心配なく。バジルール少佐も、エンフィールド中佐も優秀ですよ。すでにエンフィールド中佐はゲヴェルで十分な戦果をあげ、バジルール少佐もあのアークエンジェルで副長の任についていた」
「おや! では勝手知ったる、というやつですか。なるほど、適材適所というわけですね?」
「そうなりますかな」
 どこかざらつくような不快感に苛まれながら、ナタルは、この不遜なオブザーバーのお守りも任務の内と割り切ろうとした。
 レフィーナの方はまだ納得がいっていない様子で、むしろそんな初々しい所が、かつて補佐していた艦長を想わせて、好ましくまたやるせなかった。
 だが、そんなナタルの感傷は、アズラエルの一言に凍てつかされ、そして打ちのめされた。
「期待してますよぉ? なにしろ、ぼくらはこれからそのアークエンジェルを討ちに行くんですから」
 ナタルは、アークエンジェルの事を割りきれていない自分を、いやがおうにも突き付けられた。
 息苦しい。かつての仲間を討つ――その任務は、ナタルにとってあまりにも過酷な初陣になりそうだった。

 シン達やレフィーナらも宇宙に上がったように、イザーク、ルナマリア、レイ達もまた宇宙へと上がり、アメノミハシラに駐留していたザフト艦隊と合流し、本国に戻った。
 イザークらには短くはあるが休暇も与えられた。
 ちなみに、ラクスからフリーダムを託されたキラがアラスカに到着するまでに三日を要している。その間の食事や生理現象をどうしたかは、キラしか知らない。
 閑話休題。
 本国に戻ったイザークは、先に戻っていたクルーゼ隊に再配属されるものかと思っていたが、下された司令は似て非なるものだった。
 イザークは、そのままルナマリアやレイらとともに、別の隊への転属が命じられたのである。
 ただし、しばらくはクルーゼ隊と共に行動を同じくするらしい、という曖昧なものだった。
 ルナマリアとレイをひきつれて、軍事工廠として建造されたアーモリー・ワンの生産施設を訪れたイザーク達は、そこで新たに配属される同僚と、隊長と会う手筈になっていた。
 なんでも、イザーク達には次期主力機であるゲイツとは別に開発された新型が配備されるらしく、その手続きも兼ねての本国招集のようだった。
 ルナマリアは、新型に乗れると素直に喜び、レイはそれが命令であるならばと、年齢の割にはひどく落ち着いた何時もの様子であった。
 連合から奪ったものとはいえ、既に半年以上乗用していたデュエルに、複雑な愛着を抱いていたイザークは、多少難しい顔色を浮かべていた。
 当時の最新鋭の技術をありったけつぎ込んだスペシャル仕様のデュエルとはいえ半年の月日が流れれば、性能的にロートル化した部分が無いわけではない。
 基本的な性能では、量産機であるゲイツと大差もあるまい。
 慣れ親しんだ機体であり、今はいなくなってしまった戦友達と共に戦場を駆け抜けた機体だけに、イザーク自身の愛着もある。
 だが、圧倒的だった連合の物量が質を伴った事で、イザークはデュエルの限界を感じてもいた。
 もっとより多くの敵を相手に出来る高性能機の存在を、戦場での経験から培ったMSパイロットしての理性が欲しているのだ。
 案内を務めていた兵士が、やがて二人の人物を連れてきた。イザークより一つか二つほど年下らしい少女と、二十代前半か、前後の女性だ。 
 少女は黒髪をきれいに切りそろえ、首の後ろで一纏めにしている。
 もともと端正な顔立ちになるよう調整されているコーディネイターの水準より上の、可愛いというよりは理知的な顔をしている。
 女性の方は、少女と同じように理知的というのは同じだが、よりクールな、涼やかさにぞくりとする冷たさを併せ持った、切れ長の瞳の美女だ。光沢の美しい青い髪をショーカットにしている。
 二人とも赤服で、ルナマリアとは違い、ミニスカートではなく、少女がズボン、女性がタイトスカートだった。
 ま、そんな事を気にする甲斐性と根性は、イザークとレイの二人には良くも悪くも無縁に近い。
 イザーク達が敬礼すると、二人もそれに返礼する。
「活躍は耳にしているわ。イザーク・ジュール、ルナマリア・ホーク、レイ・ザ・バレル。私はヴィレッタ・バディム、こっちはシホ・ハーネンフース。これから貴方達とチームを組む事になるから、よくしてあげて」
「シホ・ハーネンフースです。噂はかねがね耳にしていました」
 差し出されたシホの手を握り返し、イザークは目の前の新しい上司を正面から見つめた。
 今までザフト屈指の名将クルーゼや、短い期間ではあったがアンドリュー・バルトフェルドなど人格に一癖二癖はあるものの、有能な者達の下に居た分イザークの評価基準は自然、厳しいものになる。
 ヴィレッタは、イザークの視線を正面から受けて、悪戯っぽく、小さくではあるが微笑んだ。思わぬ反応に、イザークは少しばかり困惑して表情に出してしまった。心情を隠しきれるほど出来た人間ではない。
「さっそくだけれど、貴方達を招聘したわけをこれから説明するわ。着いてきて」
 踵を返すヴィレッタの後を、イザーク達は追いかけ、エレベーターを乗り継ぎ、厳重に警戒された先にある地下の格納庫に辿り着いた。イザークには預かりしらぬ事だが、ともすればフリーダムやジャスティス以上に厳重な警備が敷かれている場所であった。
 厚さ数メートル近い特殊鋼の扉に備え付けられたパネルにパスコードを打ち、ゆっくりと左右、上下に開かれてゆく五重の扉の奥へとヴィレッタは足を進める。当然、後に続くイザーク達も同じだ。
 広い格納庫らしい空間は暗闇に閉ざされていたが、それもヴィレッタが明りを着けるほんのわずかな間の事だった。
 闇のカーテンに塞がれたみたいに真っ暗な空間を、天井や床、壁に埋め込まれた照明の放つ自然光よりもはるかに強烈で無慈悲な白色の光が照らしだし、イザーク達の眼にそれらを映しだした。

 満ちていた闇色を割いて姿を露わにしたのは、五機の人型兵器――ザフトの生み出したMSであった。
 ザフトの仕様とは異なる、どちらかといえば連合のGに近い機体であった。見上げるイザークらを一瞥してから、ヴィレッタもその機体達を見上げた。
 トリコロールカラーの機体を示して、ヴィレッタがそれらの説明を始める。
「これはRealRobotType−1。通称R−1、近接・格闘用の機体で、高い運動性と機動力を併せ持っているわ。武装はMMI−GAU2ピクウス76ミリ近接防御機関砲2門、ビームカービン、Gリボルバー、ビームサーベル。 オプションでブーステッドライフルと300mmビームキャノンを装備。特徴は戦闘機形態Rウィングへの可変機構を備えている事。パイロットはイザーク、貴方よ」
「こいつがおれの新しい機体か」
「ヴィレッタ隊長、じゃあ、のこりの機体のうちどれが私とレイの機体になるんですか!」
 興奮した様子のルナマリアを、好ましげに見つめてヴィレッタは説明を続ける。R−1の傍らに立つ四角形が集まって人型を構成したような、青色を主とした機体だ。約19メートルのR−1よりも5メートル近く大きい。
「こっちがR−2。ビーム兵器を主体とした砲撃戦闘に特化した重モビルスーツになるわ。火力が高く、装甲も厚いけれど若干運動性は落ちる。その代り対ビームコーティングや耐衝撃、防弾、対刃などの特殊処理はいくつも施してある。 制圧射撃や、味方への砲撃支援が主な役割よ。ルナマリア、貴女の機体ね」
「はい! ちょっとごついけど、その分頼もしいって事にしておきましょ」
「次に、その赤い機体がR−3。指揮管制・遠距離戦闘仕様で、パイロットはレイ。兵装が特殊で、高度な空間認識能力の持ち主でないと真価を発揮できない機体に仕上がっているわ。 ザフトでもこの機体を扱えるのは、コートニー・ヒエロニムスやラウ・ル・クルーゼを始め、貴方を含めて極めて少数よ。量子通信による遠隔操作兵器ドラグーンと敵捕捉能力、情報収集能力の高さが特徴ね」
「了解です。では残りの機体にシホが? それとも隊長が?」
 R−3の奥に立つ、灰色と白を基調とした機体と漆黒の、よりGに酷似した機体の事だ。
「このR−GUNにはシホが搭乗するわ。この機体は単体としてのスペックならばRシリーズでも最高だけれど、その真価を発揮するのはもっと違った運用の時ね」
「MSとしての役割以外に何かあると?」
 淡々としたレイの物言いに、ヴィレッタも等しく無感情的な言葉で答えた。似た者同士というほどではないか。
「ええ。それにR−GUNの開発にはシホも関わっているから機体特性をよく把握しているのも理由の一つよ。それと、このRシリーズはまた別の意味でも今までのザフトのMSとは一線を画すものになっている。 R−2とR−GUNにはTE(ターミナス・エナジー)エンジンと呼ばれる新型の動力機関が組み込まれているわ。詳しい説明は後でシホからするから、ルナマリア、よく聞きなさい」
「は、はい」
 このとき、なぜかシホが憐れむような目でルナマリアを見ていたのだが、気付く者は誰もいなかった。それよりも次に出てきた言葉に、イザーク達が驚かされた事も大きい。
「それと、R−1とR−3は核動力で動いている。この意味が分かる?」
「! まさか、ニュートロンジャマー・キャンセラー搭載機?」
「その通りよ。奪われたフリーダム、行方が知れなくなったジャスティス、そしてテスト段階のプロヴィデンスと同じNJC搭載機。間違っても連合に鹵獲されるような真似は出来ない機体という事を、念頭に入れておいて」
「しかし、プラントは核を放棄したはず! ユニウスセブンの悲劇を、忘れられるはずがない!」
 声を荒げる自分を、まっすぐに見据えるヴィレッタの青い瞳に、イザークは湧き上がった激情が萎んで行くのを感じた。
 いや、感情の立てる荒波はそのままだが、それを表に出す気にはなれなくなったというべきか。
「戦争に勝つため、言葉にするならそれだけで済むわ。戦争に負ければどうなるかを考えれば、放棄したはずの核の力を手にせずにはいれなかったという事でしょう」
「……」
「事情は分りました。一兵士である自分達が口出しできる問題ではないでしょう。ヴィレッタ隊長、話を続けてください」

 イザークや多少は動揺したルナマリアと違い、どこまでも変わらぬ表情と声音のレイに促されてヴィレッタも説明を続けた。
「貴方達に任せるRシリーズはこの四機だけ。私は奥の機体に乗るわ」
 奥にあるRシリーズとは別の黒い機体だ。ツインアイにブレード状の通信アンテナと、Gタイプによく似た外見をしている。サイズはR−1とおおよそ同じで二〇メートルに届くか届かないか程度だろう。
 右手に、分厚いシールドの様なディバイデット・ライフルとビームサーベル二本と極めてシンプルな武装で纏められている。
「ゲイツと同時期に開発されたエース用の機体でメディウス・ロクスというわ。まだ十数機ほどしか配備されていないモノよ。フリーダムやジャスティスも量産体制に入ったから、あまり数は造られないでしょうけれど、これはこれで優れたポテンシャルを持っている。
 ……貴方達には休暇を終えた後、ただちにRシリーズでのテストを行ってもらうわ。これから私達は、WRXチームと呼称される事になるかわそれも併せて覚えておいて」
「WRX(ダブル・アール・エックス)? 何の略称なんですか」
 通常ザフトでならバディム隊と呼ばれる所だが、変則的な呼称に、ルナマリアが素直に疑問の声を上げた。
「“Reai Robot X−type”。……心配しなくてもそのうち分かるわ」