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SRW-SEED_ビアンSEED氏_第33話a

Last-modified: 2013-12-26 (木) 21:14:47

第33話 もう一つのWRX 前編

『自由』の名を与えられた鋼の巨人が放った五色の光は、その進む先にあるモノを全て砕き、穿ち、ラピエサージュを光の中に捉えたかと思われた。

「この程度ならば!」
「あれを回避するのか」
 
 機体の四肢の重心移動と何十分の一秒の世界の機体コントロールで、降り注ぐ光の合間を搔い潜り、機体背部にウィングに内蔵したプラズマ集束砲、O.Oランチャーで即

座に反撃する。
 シールドで受けても防御しきれぬ事を、エネルギー量から察知したライディースは、即座に機体に動きを反映させる。
 ほんの一瞬前までフリーダムが存在していた空間を、膨大なエネルギーが駆け抜けた。
 ライディースのフリーダムは、キラが奪取した試作機的な機体よりも、マルチ・ロックオン・システムの精度や、機体の信頼性が増していて、総合的な性能において若干上

回る。
 他方でオウカの駆るラピエサージュも、イーゲルシュテルンや腰部のレールガンの他、ウィングスラスター内部にプラズマ集束砲の内臓など、折を見て改修が進められてい

る。
 機体性能ではオウカ、パイロットとしての技量ではほぼ同格と見てよいだろう。
 ただ、オーブ艦隊に合流して以降、オウカの精神状態は決して良いものではない。元々記憶喪失の身でありながら、機動兵器の扱いに長けた自分への不安と恐怖がある。
 既に何度か実戦に身を晒しても、その暗い思いはオウカの胸により深く暗く蟠っていた。

「フリーダムのテストが、こんな事になるとはな。あの機体、可能ならば捕らえたいがそう上手くはいかないか!」

 ライディースの言葉など知るわけもなく、オウカはラピエサージュ手首内側に収納されているメガ・プラズマカッターを抜き放ち、爆発的な推進力を活かし、スラスターの

光が描く軌跡はフリーダムへと続く。
 CE世界のビームサーベルは技術的な問題から切り結ぶ事が出来ない。ラピエサージュの抜き放った光の刃はその名の通りプラズマだが、そんな事を知らぬライディースか

らすれば、同じくサーベルを抜き放って切り結ぶわけにもいかない。
 第一フリーダムは砲撃戦に特化した機体なのであって、接近戦は兄弟機であるジャスティスの得意とする間合いだ。
 必然的に、フリーダムはラピエサージュを近づかせまいと全身に搭載された火器を連続して撃ち、ラピエサージュはそれをかいくぐらなければならなくなる。
 ラピエサージュの傍らを過ぎ去ってゆく砲撃の一つ一つが、背筋が寒くなるほど正確なフリーダムのパイロットに舌を巻きながらも、オウカも強化された肉体と培った操縦

技術を十二分に発揮して、並のパイロットでは即座に星屑に変わってゆくしかない砲撃の雨をかわし続ける。
 フリーダムとの遭遇からおおよそこの形が続いている。キラとのシミュレーションや訓練で、フリーダムが接近戦を苦手としている事をあらかじめ知っていて、ドッグファ

イトに持ち込もうとするオウカ。
 自らの機体の弱点を知っているために、それをさせじとするライディース。互いに決め手を欠いたままの状態が続いている。
 だが、やはりオウカの方が不利と言えるだろう。いくらフリーダムが核動力機であるとはいえ、近くに母艦が存在しているはずだ。
 ラピエサージュとの遭遇の報が入り、ザフトの友軍が出撃しているかもしれない。

「接近する熱源? 時間をかけ過ぎてしまったようね」
「ウィクトリアか」

 一進一退の攻防を繰り広げる二人が、それぞれ接近する熱源に気付いた。NJCがある分、フリーダムの方がレーダーの精度が良い。
 エターナル級二番艦ウィクトリア。勝利の女神ニケーのローマ名を与えられたエターナル級は、一番艦の淡い紅色とは違い、星の無い夜空の様な青みを帯びた漆黒に染めら

れている。
 ところどころに赤や金の色が混じってはいるが、その船体の大部分は黒である。
 既にウィクトリアが搭載したMSの発進体勢に入っている事を見て取ったオウカは、即座に黒色ガスを封入したスモークグレネードとDC謹製のジャマーを起動させて宙域

からの離脱を図る。
 ここで一戦交えてしまった以上、メンデルに潜伏している事はすぐに知られるだろう。
 ただ、エターナルの脱出の際にフリーダムが援護に駆け付けた事から、ザフト側でもフリーダム及びオーブ艦隊とエターナルが内通していた、という可能性も検討している

分、戦力を再編成するだろうから、その分の時間は残されている。
 いずれにせよ、オウカは一刻も早く情報を伝えてメンデルを離れる用意をさせるべきだろう。

「問題は、それを許してくれる相手かどうか!」
「離脱する気か、そうは……」
『待て、ライディース。深追いはしなくていい。ウィクトリアに着艦せよ』 

 
 背を向け黒色ガスの中に消えるラピエサージュを追おうとするライディースを、落ち着きはらった男性の声がとどめた。
 激する所など無いのではと思えるほどに静さは雲の無い星空に、さんさんと輝く月の静けさに似た響きであった。

「兄さ……エルザム隊長、しかし」
『命令だ。ライディース』
「……了解、フリーダムこれより着艦します」

 渋々といった調子は隠せないが、ライディースは兄さんと呼びかけた相手の言葉に従い、もう見えなくなったラピエサージュとそのパイロットの姿を求めるようにガスの向

こうを見つめてから、ウィクトリアの格納庫へと、フリーダムを動かした。
 ハンガーにフリーダムを預け、パイロットスーツから軍服に着替えたライディースは、そのまま隊長であり、同時に実の兄でもあるエルザム=V=ブランシュタインの部屋

へと足を運んだ。
 今回のテストと思わぬ戦闘で得られたデータに関してのレポートを、パイロット側からも提出しなければならないが、とりあえずは後回しだ。
 ドアの前で姓名を告げ、エルザムの許可の声と共に入室する。部屋の中には、エルザムの他ウィクトリア艦長のタリア・グラディス、副長のアーサー・トラインがいた。
 エルザムは、隊長格の証明でもある白服を身につけ、ゆるく波打った金色の髪を長く伸ばした二十代後半か、三十前後の青年だ。
 古代ギリシア彫刻の達人が手ずから彫りあげたような、絶妙なバランスの上に成り立つ眼鼻顔立ちに、どんなに気性の荒い者も思わず身が締まる思いをしそうな威厳を併せ

持っている。
 おとぎの国の王子がそのまま飛び出て来たような美貌と万の兵を率いる将軍の威厳を併せ持っている。
 すらりと伸びた足に、コロッセオで闘士として戦いの場に立っても違和感の無い過度に肉の付いていない体つき。穏やかながらも自信と誇りに満ちた輝きを収めた瞳といい

、その場に佇んでいるだけで絵になってしまう。
 弟であるライディースも負けず劣らず典雅さを湛えた顔立ちだ。十歳ほど年の離れた兄弟だが、冷静な雰囲気という点では共通するものの年の差もあってかライディースの

方が若干感情を表に出す。
 それでも他者から見れば、一見ライディースは冷たく感じるほどに沈着冷静だ。
 兄エルザムとは違い、ストレートの金髪を肩に掛かる少し手前ほどで切り、名人の筆が描いたような柳眉と、高く伸びた鼻筋に今はきつく引き締められた口もとの組み合わ

せは、生涯女性との関わりから離れる事は出来そうにない事を暗示している。
 同席しているタリアとアーサーは共に黒服を身に着けている。タリアがエルザムとほぼ同年代の女性軍人で、茶褐色の髪の両側が前方に向かって纏まって突き出ているとい

うやや変わった髪形をしている。はっきりとした瞳に母性を残しつつ厳しさを湛えた顔立ちだ。
 副長を務めるアーサー・トラインは、灰に近い色の髪でどこか人の良さそうな雰囲気の青年だ。良くも悪くも軍人に向いているとは見えないが、どこまでも善人そうで、大

抵の人間に好感を持たれるだろう。

「さて、まずはフリーダムのテスト御苦労だった。ライディース」
「いえ……」
「先ほど交戦していたMSだが、あれはDCの蜂起の際オーブを脱出したアスハ派の艦隊が所有しているモノと同一である可能性が高いという報告が上がった。連合との戦闘

でその姿が確認されていたようだ」
「オーブの機体となれば、DC製かしら?」

 タリアの言葉は疑問を口にするというよりは確認作業の様なものだった。現状、連合やザフトでも製造できそうにないテクノロジーを用いられた兵器はDC製ではないかと

考えるのが通例になりつつある。
 エルザムはタリアの言葉を首肯しながら言葉を続ける。

「グラディス艦長の言葉通りだろう。すでにエターナルがアスハ派のオーブ艦隊と行動を共にしている姿は確認されている。もっとも、我々ザフトにとって有益な行動をして

いる姿だが」
「ですが、エターナルとフリーダム、ジャスティスの一号機強奪を考えれば、彼らは」
「ふっ、分かっている。トライン副長。ラクス・クライン嬢の事も考えればそうそう口に出来る話題でもない事は分っているがな」
「とりあえず、一度本国に指示を仰ぐべきでしょう。エルザム隊長、ウィクトリアの進路の予定を変更し、一度基地へ戻るのが良いかと思いますけれど?」
「グラディス艦長の判断に任せる。持ち場に戻ってくれたまえ。ライディースは少し話があるので、しばらくここに残りたまえ」

 ライディースを残し、タリアとアーサーはブリッジに戻る為、エルザムの部屋を出た。
タリアとアーサーは、エターナル級二番艦の就航に際し、量産に入ったフリーダム、ジャスティスを配備されたパトリック・ザラ直下の特務隊に、それぞれ艦長、副長として

の任を命じられた。
 互いにそれまでは顔を合わせた事も無かったが、お互いの責務を果たす上でも、助けあう事が重要だと考える程度には関係を築いていた。意志の強いタリアに、若干優柔不

断なアーサーが振り回される、というパターンが大半だが。

「艦長、このままだと自分達がエターナル討伐の任に着くのでしょうか?」
「少なくともこちらにはエターナルと共に運用する予定だったフリーダム、ジャスティスと同等以上の戦力はあるわね。核動力機には核動力機と考えてもおかしくはないけれ

ど、個人的には少しもったいない使い方という気もするわ」
「でで、ですが、相手はあのラクス・クラインとストライクを討ったアスラン・ザラですよ!? それに、あのスレードゲルミルとかいう機体も」
「もし戦わなければならないというのなら、確かにぞっとしない相手だけれど。スーパーロボットなら、こっちにも戦えそうな味方がいるでしょう? いずれ戦う相手かもし

れないけれどね」

 どこか含むようなタリアの物言いに、しばらくアーサーは何を言っているのか見当がつかず、首を捻っていたが、ようやく何を言いたいのか思い至り、あっと声を上げる。
 ここら辺のリアクションの大きさは、アークエンジェル級三番艦ゲヴェルの副長テツヤ・オノデラと似ている。

「ああ、ひょっとして、DCですか!? 確かに協力してくれれば!」
「ええ、あそこにも似たようなのがいるでしょう? ヴァルシオンていう怖いのがね。アレ以外にもいろいろと造っていそうでしょ?」
「た、確かに。いや〜手を貸してくれるといいんですけどねえ」
「まだ、私達に任務が下ったわけでもないんだし、考えても仕方の無い事よ?」
「はあ」

 いささか頼りない副長の返答と能天気さに、タリアは内心溜息をつきたくなったが堪えた。この男はこれでスイッチが入ると別人のように有能さを発揮する事は、既に知っ

ていたからだ。
 それにしても 

「エルザム隊長と言い、能力はあるけど一癖も二癖もあるのがそろっているわよね、この部隊。エルザム隊長も、アレがなければね」

 艦橋に戻ったタリアの指示に従って、ウィクトリアは進路を変えて星の海を進んだ。エターナル級二番艦ウィクトリア、だが、知る者はこう呼ぶ。隊長であるエルザムの着

けた愛称に従いトロンベと。
 エルザム=V=ブランシュタインを隊長とするこの隊は通常ならブランシュタイン隊と呼ばれるべきなのだが、誰もその名では呼ばなかった。母艦と隊長であるエルザムの

趣味嗜好に合わせ、トロンベ隊と呼ばれているのだ。
 なんとかならないかしら、とタリアにそんな事を思われているとは流石に分かるわけもなく、エルザムとライディースは兄弟水入らずで椅子に腰かけて向きあっていた。
 エルザム手ずから淹れた紅茶(パックに詰め、ストローで飲む)には手を着けず、ライディースは兄の顔を真正面から見つめていた。
 この二人、ブランシュタインの名から察せるようにDC宇宙軍総司令マイヤーの子息である。ただし、新西暦以外の世界の死人も集うこの世界、必ずしも本当に関係のある

三人とは言えない。
 たとえば、エペソとビアンのそれぞれの世界には共通する事項も多いが、この二人は同じ世界の存在ではないように、エルザムとライディース、マイヤーが親子である事は

同じでも、同じ世界の三人とは限らないからだ。
 エルザム、ライディースは共に新西暦世界のコロニー統合軍のエースパイロットであり、軍人の名門ブランシュタイン家の子息として、血統・実力の両方から名の知られた

人物だ。
 しかし彼らの生きていた世界において、密閉された建造物であるコロニーに毒ガスを散布するという残虐極まるテロ行為によって死亡してしまった。
その際にブランシュタインの血族――マイヤー、エルザム、エルザムの妻カトライア、ライディースもまた命を奪われたのだ。
 だが毒ガスのもたらす苦痛が不意に消えた事に気付き、目を見開いた彼らがいたのは新西暦のコロニーでは無く、CE世界だったのである。

 その時に、なぜか父マイヤーの姿だけが無く、エルザムらは事態の収拾を図り情報を集めるうちに自分達が生まれ育ち、そして死んだ世界に存在していない事を知った。
 軍人の家系に生まれた彼らはそれ以外にも遺伝子調整を受けているという出自もあり、プラントに難民という形で庇護を求めて、今はこうしてパイロットとして籍を置いて

いる。 エルザムとカトライアは、料理人として生きてゆく事も十分に可能だったが。
 コロニー統合軍のトップエース・エルザムと天才と称されたライディースの二人はメキメキと頭角を現し、高潔で公正な人格、機動兵器の操縦以外の軍事面でも才覚を見せ

、今はこうしてエターナル級と核動力機を預けられるまでになっている。

「エルザム隊長」
「ふっ、二人の時は兄さんで構わん。聞きたい事は、なぜあの機体を見逃したのか、か?」
「……」
「オーブ艦隊と合流したエターナルの戦力が未知数であり、下手に深追いしていたずらに戦力を消耗する愚を避けるためだ。それに、すでにヤキンドゥーエの方で航路を解析

し、彼らがメンデルに潜伏している可能性が高いという報告があったからだ」
「無理をする必要などないと?」
「そういう事だ。あまり睨むな、ライ。お前のフリーダムも細かい調整が今少し必要だ」
「分かったよ、兄さん。……所で、DCの事だが」

 それまで手に持っていたパックを置き、エルザムは微笑を湛えていた顔を引き締める。

「うむ。ビアン博士が我々の知る人物と全く同じ人物かは確認のしようがないが、宇宙軍の総司令がマイヤー=V=ブランシュタインであることは分かった」
「父さん、か。やはりあの時の事故で死んだという事なのだろうか? だが、それならなぜおれや兄さん、義姉上とは別々に」
「あるいは、我々とは関係の無い父上か、それともこの世界の父上か。どちらにせよ直接会いでもしない限りは、そうそう分かる事ではないな。
だが、私達の知るマイヤー=V=ブランシュタインならば、大義なき戦いに身を投じるような人物ではない。私利私欲で戦うような人間でもない」
「ああ、父さんがDCに力を貸すのは地球圏の統一ばかりが理由ではないと思う。おれ達の父は、そういう人だ」
「だが、今はこうしてザフトに身を置いている以上我々はプラントの為に戦う。たとえ父上やビアン博士の掲げる大義と正義こそが正しく思えても、一度銃を預けた軍を裏切

るような真似はそうそう許されるものではない」
「そう、だな。それにしてもプラントの独立を求める運動はコロニーの独立運動にも似ていたが、コーディネイターにナチュラルの問題は根が深すぎる。おれや兄さんも遺伝

子調整は受けているが、この世界の争いは、新西暦ではとても考えられないほど酷いものだな」

 それはエルザムにとっても不安材料の様なものだった。CEだけでなく新西暦でもコロニー居住者を始めとして遺伝子調整を受けた者はいるが、CE世界の様なナチュラル

とコーディネイターと人類を区別するほどにひどい争いは起きていないし、差別もない。
 新西暦の世界において、コロニーの壁の外は、放射線を始めとする人体に有害な物質が渦巻き、極低温と大気の無い空間が広がるコロニー居住者は、その過酷な生活環境に

適応するようある程度遺伝子調整を受けている。
 それは生活環境を考えればごく当然の事として多くの人々には受け止められているから、そうそう遺伝子調整を問題視される事はない。かといって過度な遺伝子調整に対す

る論理的な忌避感や差別が全くないわけではない。
 ただ、このCE世界の様に子供の容姿や能力、適正までも遺伝子調整によってすべて親が決める事が出来てしまい、またそうしてしまう親が多くを占めるこの世界の遺伝子

調整は、二人には受け入れ難いものに思えた。
 いわば宇宙での生活に適する最低限の遺伝子調整のみを施されたエルザムやライディースからすれば、人間を構成する肉体的な要素の多くを人為的に操作する事を禁忌とし

ない社会に違和感を覚えるのも無理はない事だった。
 ましてやコーディネイターとナチュラルの互いの蔑視と劣等感、優越性、憎悪、不理解で起きたこの世界の争いは、核ミサイルとニュートロンジャマーという互いにひいて

はいけない引き金を引いた事で、どちらにも大義を見出すのは難しい。
 この世界はどちらも過ちを犯し過ぎているのだ。

「今ここで言っても栓なきことではあるが、な。とにかく、今は次の戦いまで体を休めておくといい」
「そうするよ。そういえば義姉上にはちゃんと連絡を取っているのか、兄さん?」
「ふっ、問題ない」
「なら良いが」

 複雑な感情が渦巻く表情で少し俯きながら、ライディースはエルザムの部屋を後にした。一人残されたエルザムは、プラントの首都アプリリウスでエルザムとライディース

の帰りを待っている愛しい妻の顔を思い浮かべた。

「こちらでも元の世界でもカトライアには済まない事をしているとは分かってはいるのだがな」

 ブランシュタインの長子として、新西暦で任務に忙殺され、この世界でも軍人として戦場を飛び回る生活をし、家で待つカトライアに寂しい思いをさせてしまっている事は

、確かにエルザムにとって胸に痛みを覚える事だった。

  

 振り上げたストライクダガーのビームサーベルをジンの重斬刀が受け止め、焼き切られるわずかな時間を活かして、握った拳をストライクダガーのコックピットへと叩きつ

ける。
 瞬間の判断でジンの拳が描く軌道からほんの一歩だけストライクダガーが下がり、空振りに終わった拳をねじり上げ、ストライクダガーはジンの左腕の関節の破壊を狙う。
 MSの操縦をわずかなりとも齧った者ならば、信じ難い思いをするに違いないストライクダガーのパイロットの反応速度と操縦の早業だ。
 構造上、捩られた左腕の動きに従い機体が宙を浮き、地面に叩きつけられる寸前にスラスターが火を噴きジンの機体が浮き上がる。
 並のパイロットではGの負荷に耐えきれず失神する無理な軌道で機体を回転させ、捩られた腕を戻し、反撃とばかりにもう一度拳を握った。
 頭部へ向かい放たれるそれを防ぐべくストライクダガーが左腕を掲げる。
 その寸前、わずかな隙間を置いてジンの拳はピタリと止まる。拳を繰り出すと同時に放たれていたジンの左足がストライクダガーの頭部を襲い、完璧と思われたその蹴りを

ストライクダガーの残る右腕がガードしていた。

「相変わらずの、反応だ。だが……素直すぎるな」
「!?」

 ガードされた左足のスラスターが点火し、ガードした腕ごと蹴り飛ばされたストライクダガーの機体が傾ぎ、その反対側から叩きつけられたジンの右拳に頭部を完全に叩き

潰された。

「……はあ、また負けた」

 シミュレーターの中で、キラは大きく溜息を吐いた。あまりにも速いキラの反応速度は超人のレベルだが、反応の仕方が素直すぎて、熟練のパイロット達にとっては慣れれ

ば予測のしやすい相手だった。
 もっとも並のエースクラスならば十分に余裕を持って戦える戦闘能力をキラは有しており、単純なパラメーターでキラを上回るパイロットなどCE世界ではまずいない。

「そう、落ち込む事はない。見違えるほどに腕を、上げた。何か……あったか? たった一晩で随分と、変わったが?」

 たどたどしい、機械の補正が加えられたカーウァイの声に、キラは俯いていた顔をあげて、その顔のほとんどが冷たい金属で覆われたカーウァイの顔を見上げた。
 素性についてはまったく謎の人物だが、寡黙ながら面倒見がよく的確な指導から、最近ではパイロット連中からの信頼は厚い。
 カーウァイの言葉に、少しの間キラは何かを考えるように細い顎に指を添えた。

「僕にも理由は分りません。……でも」
「でも?」
「なにか、夢を見たような気がします。とても、とても大切な夢。どんな夢だったかは忘れてしまったけど、夢を見たことだけは決して忘れない。そんな不思議な夢です。何

でか分かんないけど、哀しい夢でした」
「夢、か。なにかの予兆、かも、しれんな。そう言えば……ラクスやアスランも似たような事を言っていたな」
「アスラン達も……」
 
 何故か、不思議に感じる気持ちはなかった。アスラン達も同じ夢を見たと言われ、それを素直に信じる事が出来る自分に、キラは気付いていた。

(とても、とても大切な事を僕は忘れている。どうしてなんだろう? こんな気持ちになるのは……。懐かしい、なのに哀しいのは)

 キラとカーウァイが日課となったシミュレーターでの特訓に一息を着いている頃、あちこちのコロニーを飛びまわっているはずのカガリが、アスランの私室に居た。
 徐々にオーブ政権の発足に目処がつき、余裕を見ては時折こうしてメンデルに直接足を運んでいる。
 今回は旧アスハ派の兵士と駆けずり回って用意した補給を届けるついででもあった。
 疲れが浮かんでいるのが普通の状態になりつつあるカガリは、ほとんどする事の無かった化粧で顔色を誤魔化していたが、今はそれを拭って素の顔を晒していた。
 自己主張の強い、まっすぐな光を宿した瞳は、政治の世界の洗礼を受けてもまだその輝きを維持していた。
 軍から離れはしたが、プラントを守るという決意は変わらぬことを示す為か、モルゲンレーテの服では無く赤服を纏ったアスランは直接カガリを目の前にした喜びに、少し

目元の筋肉を緩めていた。

「なんだ、その、ここでの暮らしはもう慣れたか?」

 ベッドに腰掛けたアスランに勧められ、カガリはいつもと同じ椅子に座った。そうしてから、何を言っていいのかいつも迷うカガリにアスランは微笑を浮かべて返した。

「もともと宇宙の育ちだからな。地球育ちのカガリや、オーブの人達よりはずっとましだよ」
「そうか、そりゃまあ、そうだろうけど。えっと、ちゃんと食べているか? 碌に補給もできずに悪いと思っているんだが」
「大丈夫だ。アークエンジェルとクサナギに積んだ荷物はかなりの量だし、ラクスの仲間が補給をつけてくれているから。カガリこそ、随分と疲れているな。前よりも忙しく

なっているんじゃないのか?」
「弱音は言ってられないさ。私が望んでいる事は分不相応な事なんだから、それを実現するためには無理もしなくちゃならない!
「だからといって、あまり根を詰めるなよ。カガリはまっ直ぐすぎるからな。見ていて危なっかしい」
「それは私の台詞だ。お前を救助した時にもそう言ったぞ!」
「そうだったか?」
「そうだ!」

 からかうアスランの調子に気付かず、カガリは素直すぎる反応でずいと詰め寄る。
 思った通りの反応に、アスランは口元を淡く綻ばせた。ここまでまっすぐな感性の持ち主を、アスランは他に知らない。

「そう言えば、お父さんとは話せたんだよな?」
「……ああ。取り敢えず最悪の予想は外れていたよ。親子ならと肉親の情を当て込んだのは、甘い見通しだったかもしれないが、それでも話はしてくれた」
「そっか。でも、それならここに戻ってこなくてもあのままザフトに行けば……」
「いいんだ。いいんだよ、カガリ」

 どこか悟ったように、アスランはゆるゆると首を振り、子供を諭すようにカガリに話しかけた。カガリも、そんなアスランの様子を察してか開きかけていた唇を閉ざした。

「父上には父上の道がある。同じようにおれにはおれの、カガリにはカガリの、キラにはキラの道がある。歩む道が違っても、その道を歩む意志が同じだという事は分ったん

だ。目指している結末は少し違うが、今はまだそれでいい。
そして、いつか歩み寄れない道を歩いていたら、その時はまた話し合うよ。たとえ分りあえなくても、何度も、何度でも。分りあえないからと引き金を引いたのでは、同じ過

ちの繰り返しだからな」
「そうか。やっぱり、お前はプラントに戻ってよかったみたいだな。前より少し頼もしくなった」
「そうか? だといいが、それだと前は少し頼りなかったっていう事にならないか?」
「ああ」
「……即断しすぎだろう? これでも赤服なんだけどな」
「実力と頼りになりそうかなりそうにないか、ってのは別さ。お前はなんだかんだで優柔不断だからな。他人の意見に流されないようにしろよ。世の中、とんでもない狸がい

るものだぞ?」
「おれは軍人だから詳しい事は解らないが、やはり政治の道は大変なんだな」
「まあ、それなりにな。最近までは教師無しでやっていたが、ラクスにちょっとしたコツを教わっているよ」
「ラクスに?」

 意外な名前にアスランは驚きを隠さなかった。確かにラクスはシーゲルに、平和の歌姫と言うプロパガンダとして担がれている節はあったが、彼女自身が政治の道に通じて

いるとはいささか信じ難い。
 とはいえ、ラクスが今こうして新型戦艦やザフト軍の兵士達を率いて行動を起こす事も信じられなかったのが自分だ。婚約者と言う肩書はあっても、結局肩書以上の関係に

は踏み込めずにいたのだから、驚く資格はあまりないかもしれない。

「ああ。どんなに血管がブチ切れそうになっても笑顔を浮かべ続けるコツとか、右から左に聞き流した話を一秒で思い出すコツとか、笑顔を浮かべたまま眠る方法とか、十分

の睡眠で八時間分の効果を上げる自律神経の操作方法とか、
プラント創世期から伝わる宇宙呪いのかけ方とかな」
「……ラクスは何を教えているんだ」

 ラクスの事が理解できないと、心の底から思ったアスランだった。