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SRW-SEED_ビアンSEED氏_第35話

Last-modified: 2013-12-26 (木) 21:20:13

第三十五話 刃折れて 中編

「さてと――どうしたものかな……」

 メンデルで連合艦隊とアークエンジェルを筆頭にメンデルに駐留していたオーブ艦隊が交戦に入った時、反対側の港付近にはヴェサリウスを始めとするナスカ級三隻で構成されるクルーゼ隊。
 エターナル級二番艦ウィクトリアを擁するトロンベ隊ことブランシュタイン隊。
 ヴィレッタ・バディムのWRXチームの母艦であるナスカ級ドルギラン。
 さらにDC側からの援軍としてスペースノア級万能戦闘母艦一番艦タマハガネと随行するペレグリン級戦艦カタールの艦影があった。
 今回のエターナル討伐に関しての指揮権はクルーゼに与えられており、WRXチームとクライ・ウルブズはあくまでその援護が下された任務。
 トロンベ隊にしても、偶然にもフリーダムのテスト中に出くわした事を理由にして同行しているに過ぎない。
 タマハガネの艦長であるエペソもクルーゼの意見に従う旨は既に伝えており、クルーゼの手並みを見物する気で艦長席に座している。
 クルーゼはさして困った様子でもなく呟いた。

「――既に幕が上がっているとはね」

 この位置からではモニターを拡大しても細部までは分からないが、戦艦同士で砲撃を交わし合い、その周囲では双方合わせて数十機のモビルスーツが戦闘に入っている。
 メンデルの港湾施設内にエターナルらしき熱源は探知でき、エターナル側として闘っている戦艦も、足付き――アークエンジェルである事は分っている。
 では残りは、彼らが行動を共にしているというアスハ派の艦隊だろうか。
 ザフト側でも地球連合の部隊を襲撃する旧オーブのアスハ派の艦隊の姿は確認されている。だが、それが何故エターナルと行動を共にしているのか。
 明確に答えを出せるほどの物的証拠はあまりない。 
 アークエンジェルにしても、アラスカを最後にどの様な経緯を経てオーブに力を貸しているのか。あるいは既に乗組員はおらず、艦だけをオーブ艦隊が手に入れたのか? と分からない事が多い。
 ヤキン・ドゥーエの防空部隊との戦闘で、フリーダムがおそまきながら援護に駆け付けたという情報から、フリーダムが参加していたオーブ艦隊と関係があったと推察する事は出来る。
 では、フリーダムを強奪し、またエターナルを奪ったラクス・クラインはなぜ地球連合に降るでもなく、ザフトと敵対するわけでもなくああして地球連合の艦隊と敵対しているのだろう。

「ともあれ、こうも状況が分からぬのでは手の打ちようがない」

 クルーゼはディスプレイに背を向けて傍らに控えていたヴェサリウスの艦長アデスを振り返った。黒服を着た、恰幅の良い男性だ。如何にも軍人と言った面構えで、派手さはないが堅実な仕事をして部下からも上司からも信用を得ている。

「私がコロニー内部に潜入し、情報収集に当たる」
「隊長ご自身がですか? しかもお一人で?」

 単独の、しかも隊長自らの偵察任務に、アデスは驚くが生憎と彼の上司はそんな事を気に留めるような繊細な神経を持ってはいなかった。
 クルーゼはタマハガネ、ドルギラン、ウィクトリアに通信を入れて、各隊長格に指示を出す。
 エメラルドの色を写し取った長髪のエペソ、サファイアをそのまま加工したように美しい髪を短く切ったヴィレッタ、純金の輝きを封じ込めた長髪のエルザムの顔がメインディスプレイに映される。
 いずれも並ならぬ美貌の主達だけに、その美の共演は場所が戦艦の艦橋でなかったなら、恍惚の溜息がいくつも零れ落ちただろう。

「これから私がメンデルに潜入し、情報収集に当たる。君らにはそれまで待機していてもらいたい」
『分かったわ』
『我らもそれには従おう』
『しかし、一人で危険ではないのか? クルーゼ』
「ふっ、要らぬ心配だよ。エルザム。ただ場合によってはあの戦場に我らも加わらねばなるまい。君こそトロンベを落とされぬ様にしたまえよ? そんな目にあってはザフトのトリプルエースの名が泣くのでね」
『言われるまでもない』
「では、よろしく頼む。ヴェサリウス、ホイジンガー、ヘルダーリンもここを動くなよ。――コロニー・メンデル、うまく立ち回れば色々な事に方が着く」

 一人ごちるようにクルーゼは呟き、艦橋を後にする。本当に――うまく立ち回ればいろいろな事に方が着くのだ。この場所は。忌まわしい、人類の夢を実現するための聖域だったこのコロニーは。
 クルーゼの口元に浮かんだソレを、果たして人は何と呼ぶか。悪魔の笑みか、道化の泣き笑いか。凝り固まった憎悪の仮面が、絶望を伴侶に選び、クルーゼの心の奥底の棚から覗いていたのかもしれない。
 人間が浮かべてはいけない、また浮かべるような目にあってはならない。そんな笑みだった。

 エアロゲイター=ゼ・バルマリィ帝国の技術によって極限まで改造され、史上最強のゲシュペンストとも評される初代ゲシュペンスト・タイプSを駆るカーウァイは、三機のGAT−Xナンバーを相手に、互角以上に渡り合っていた。
 肩に緑に塗った追加装甲と、機動性と加速力、運動性を高める為のスラスターやバーニア、推進剤を詰め込んだ高機動戦闘用フォルテストラを纏い、フィスト・カバーを装備したカイ・キタムラのデュエル。
 火力強化と防御能力の増加、各所に搭載したスラスターによって強引に機動性を向上させた通常のフォルテストラを、PS装甲に改良したモノを装備したミューディーのデュエル。
 バックパックに、小型改良した125mm二連装高エネルギー長射程ビーム砲シュラークを装備し、機体各所に追加のバッテリーを積み込み。各種のセンサーモジュールを搭載して一回り大きくなった頭部が特徴的なシャムスのバスターだ。 
 いずれも地球の戦場を駆けまわっていた頃よりも若干性能が向上し、PS装甲からTP装甲への換装の他に、パイロットの特性に合わせて短所に目をつぶって長所を伸ばす方向で改良が加えられていた。
 シャムスのバスターの援護射撃を背に、ミューディーとカイのデュエルが互いをフォローし合いながら漆黒のゲシュペンストに何度も攻撃を仕掛けている。
 シュラークと収束火線ライフルの光を回避するゲシュペンストにデュエルのビームライフルとレールガンが襲い掛かるが、カーウァイはそれをゲシュペンストの装甲を掠める程度に済ませてしまう。
 そしてゼ・バルマリイ帝国の技術によってある程度の自己修復能力を付加されたゲシュペンストの装甲はその程度のダメージならたちまちに修復して見せる。モニター越しの与えたダメージが再生している事に気付いたミューディーとシャムスは揃って有り得ないと叫んでいた。

「ちょ、ちょっと装甲が勝手に治っているわよ!? あの機体」
「冗談だろ! PS装甲よりもよっぽど反則だぞ」
「落ちつけ! シャムス、ミューディー! ならば再生する暇を与えなければいいだけの話だ。フォーメーションを崩すな。数の上ではこちらが上だ」
「……了解」
「ちい、オーブの連中かザフトの悪魔共か知らないが、余計なもん造りやがって」

 自分自身少なからず驚いてはいたが、隊長としての立場を自覚するカイはそれを表には出さなかった。自分が動揺すればたちまちそれは部下達に伝染する事をよく理解していた。
 だが、カイの感じる驚きはゲシュペンストの自己修復する装甲に向けたモノだけでは無かった。

(なぜだ? あの機体を知っているような気がするのは……。それに、あのMSの動き、どこかで?)
 
 ゲシュペンストを駆るカーウァイも、三機の連携の取れた戦闘に早々に決着を着ける事は難しいと判断していた。
 もともとゲシュペンスト一号機の装備だったニュートロンビームは既になく、現在はM1の使うビームライフルを改良したものをゲシュペンストに持たせている。
 改造されたゲシュペンスト・タイプSの桁はずれの出力を誇るジェネレーターからドライブされたエネルギーは、当初ビームライフルの銃身を融解させてしまうほどだった。対ビームコーティング済みのシールドでも一発耐えられるかどうかと言う代物だ。
 オールラウンダーとしてすべてのパイロット適性および能力値が高い次元で纏まったカーウァイは、間合いを自在に変えながら三機を相手にしていたが、その内の緑の装甲を持ったデュエルの動きに注意を向けていた。
 あの操縦の癖、射撃戦もこなすが何より接近戦、それも拳を交えるほどの超接近戦での拳撃戦を得意とするスタイルは――

「カイ……か。お前も死んでしまった……のか? それとも……ウォーダンの様に……別人なのか?」

 ゲシュペンストに反応を見せる素振りがない以上自分の知るカイではないのだろうか? そんな疑問にとらわれながらも、カーウァイのゲシュペンストは圧倒的な性能と操縦技術でカイ達を徐々に追い詰め始めていた。

 一方、カイによってスウェンの指示に従うよう固く命じられていたシャニ、オルガ、クロト達は四人がかりでキラのフリーダムを抑え込んでいた。 投薬の量が減った事、理性的な判断が出来るようにとアードラー・コッホと、アズラエルが招いた“呪われた医師”と畏怖される今世紀最高の頭脳の一人ダグラス・マクルーア博士によって再度の生体強化手術を受けたオルガら生体CPUは、意外にスウェンの指示に従っていた。

「生け捕れ、たってさあ」
「かたっぽでもいいの?」
「ああ。どちらか片方で良い。おれとアンドラス少尉、ブエル少尉で抑える。サブナック少尉は援護を頼む」
「ああ? ……ちっ、キタムラ少佐の命令だからな。てめえに従ってやるよ」
「感謝する」

 カイの鉄拳と説教もそれなりに効果を挙げているらしいと、スウェンはしみじみ思った。
 彼のメンタル面での変化もそれなりに起こっている事に、本人は気付いていないようだったが。
 スウェンのストライクも、ミューディー達同様使用されているパーツ類を最新のものへと変え、PS装甲からTP装甲への変更と、I.W.S.Pストライカーを改良した新型のストライカーパックを装備している。
 TP(トランスフェイズ)装甲は、常時展開しているPS装甲と違い、装甲に負荷が加わると同時に相転移して攻撃に対する耐性を与える装甲で、電力消費量がPS装甲に比べて格段に少ない。
 もっとも、確かにTP装甲はPS装甲よりも電力消費は少ないものの、常時展開されているPS装甲に比べれば着弾に際してのみ相転移するTP装甲は、誤動作の危険があり、それを嫌う声も開発陣やテストパイロット達の中にはあった。
 機体本体のエネルギー消費を極力抑える為に、ビーム系の兵器を極力装備していない点は同じだ。
 とり回しの難しいビームライフルの代わりに拳銃型の試作ビームライフル・ショーティー二丁には、ユーラシア連邦の採用したパワーセルを使用しており、予備のマガジン四本を撃ち尽くした後に本体の電力を使用する機構になっている。
 115mmレールガンも多数の敵機を相手取る場合を想定し、バスターに装備されていた対装甲散弾砲と42mm4銃身ビームガトリングガンが採用されている。ストライカーパック内部に搭載されていたバッテリーも新型に変わり、継戦能力も大幅に増している。
 接近戦に関しては9.1メートル対艦刀に改良を加えてソードカラミティ同様にレーザー砲としても使用可能にしたほか、腰アーマーに収納していたアーマーシュナイダーを手首内側や脚部の装甲の隙間部分に仕込むなど隠し武器として装備数を増やした。
 A.I.W.S.P(Advanced Integrated Weapons Striker Pack)・ストライカー。なお、30mm6銃身ガトリングを装備していたコンバインシールドはとり回しが悪く重心が傾くと言う事からオミットされ、通常のシールドを携行している。
 アークエンジェルやイズモ級、未知の艦を無視して、スウェン達はまずキラのフリーダムに襲い掛かった。オルガがカラミティの火器の照準全てをフリーダムに合わせて斉射する。MSの五機や六機程度ならまとめて粉砕してお釣りの来る破壊の奔流。
 真正面からの素直すぎる攻撃を、流石にキラはやすやすと回避し、フリーダムに迫る三機を視界の内に捉えた。初めて交戦する新型のGと、

「ストライク! やっぱり量産されているって言う話は本当だったのか」

 今はムウ・ラ・フラガが乗るかつての愛機。キラが戦場に立つ事になった理由の一つ。ストライクの装備している見慣れないストライカーパックと、レイダー、カラミティの道の性能を警戒する気持ちが、キラの胸に沸き起こる。
 それを、自分自身がなぜか否定した。
 鉄球を持った機体はレイダー。MA形態への変形機構を持つ。ビーム系の兵装は少ないが、鉤爪に仕込んである短射程プラズマ砲や口部分の100mmエネルギー砲ツォーン、破砕球ミョルニルは侮れない。
 リフターを傘の様に被った機体はフォビドゥン。エネルギー兵器の軌道を逸らすゲシュマイディッヒ・パンツァーと、それを応用した誘導プラズマ砲フレスベルグは軌道が読みづらく初見での回避は極めて困難。実体弾でシールドを破ってからビーム系の装備で攻撃を加える。
 これだけの情報が瞬時にキラの脳裏にフラッシュバックし、見た事もないロボットと一緒に、あの三機と戦うフリーダムと自分の姿が瞼の裏に描かれる。
 かつて夢の中で銀髪の少年に与えられた、終焉の銀河における自分ではないキラ・ヤマトの戦いの記憶が、わずかに影響を与えたのだろう。

「ほらほらほら、落ちろよ! 滅殺!!」
「落としちゃだめじゃん」
「るっせえ、気分だよ、気・分!」
「二人とも、お喋りはそこまでにしろ」

 レイダーがミョルニルを勢いよく振り回し、フォビドゥンもゲシュマイディッヒ・パンツァーとTP装甲の防御能力を頼みにフリーダムに向かって一直線に突っ込んで行く。スウェンは二人のバックアップと、後方のオルガとの連携に徹する姿勢を取っている。
 
「来るのか!」
 
 迫りくる三機に、迎撃態勢を取ったキラは、すぐさま核分裂炉からドライブしたエネルギーが、フリーダムのルプス・ビームライフルの洗礼を三機に浴びせる。
 レイダー、ストライクは持ち前の機動性でそれを回避し、フォビドゥンはビームを偏向させてそのままニーズヘグを振り上げてフリーダムに迫る。

「とりあえず、その首刎ねちゃうよ?」
「そう簡単に!」

 ニーズヘグの刃が描く軌道の内側に飛び込み、フリーダムはその鋼鉄の膝をフォビドゥンの胴体にめり込ませる。弾かれた様に下がるフォビドゥンの全面をカバーするシールドに、クスフィアス・レールガンを連続して撃ちこむ。
 音速をはるかに超える速度でレールガンの弾丸がシールドにめり込み、フォビドゥンの機体を弾いてみせる。ここまでジャスト一秒。
 レーダーの警告よりも早く、後ろ斜め上方から叩きつけられたミョルニルに反応し、機体を捻って回避、続けてスウェンのストライクがばら撒いたビームガトリングガンの、緑色の光の雨をシールドで受けながら、めまぐるしく機体を捌いて、その雨の中から抜け出した。
 機体の姿勢をリカバリーしたシャニと、後方のオルガが、フレスベルグ・シュラークの順に発砲する。緩やかな弧をえがいて迫るフレスベルグは、初見であったならキラといえども回避は困難だった。
 だが、今のキラにとってはなんども戦った敵の攻撃だ。どのように曲がるのか、実際に見たわけでもないのに知っていた。
 数メートル先を過ぎゆくフレスベルグの光には目もくれず、フリーダムの動きを一瞬たりとも止めてはならないと、キラは回避運動を取りながらバラエーナ集束ビーム砲で遠方のカラミティとフォビドゥンを牽制する。
 フリーダムの肩をまたいだ砲身から伸びたプラズマは、束の間宇宙の暗黒を切り裂いたが、カラミティとフォビドゥンを貫く事は叶わなかった。
 
「砲撃を読まれた? まだワンパターンの癖が抜けてないのか」

 小さく毒づきながらも、キラはフリーダムを操作する動きを止めない。足を止めた瞬間に、四機の集中砲火を浴びてフリーダムは鉄屑になってしまうと悟っていた。
 キラの神経と思考に休む間など無く、続いてレイダーのツォーンとストライクの105mm単装砲二門とビームライフル・ショーティーの照準がフリーダムを捉える。

「こいつ、さっさと落ちろよ! お前を持って帰んなきゃいけないんだからさあ!!」
「捉えた」
「! く、この程度で」

 精度の低いマルチロックオンシステムはこんな状況では役に立ちもしない。トリガーを引く度にインサイトするターゲットを変えながら、キラは神経を張り詰め続ける。
 わずかに砲撃の時間をずらし、ビームの檻を作る様にフリーダムを包囲してゆく四機の連携攻撃に、徐々に回避する余裕がなくなってきている。

「このままじゃ……」
「――キラ!」
「させません」

 アガメムノン級とシルバラードから出撃していたストライクダガーを相手にしていたアスランが、友の危機に気付き、バッセルビームブーメランで二機を瞬く間に屠り、フリーダムの元へとジャスティスを向かわせる。
 キラの危機に気付いたオウカも、弟の様に感じているキラの窮地を救うべくO.Oランチャーの出力を全開にして、フリーダムに迫っていたフォビドゥンを狙い撃った。
 抜き放った9.1m対艦刀をフリーダムに振りかぶっていたスウェンのストライクは猛烈な勢いで迫るジャスティスに気付き、背のファトゥム―OOから伸びたフォルティスビーム砲をシールドで受けた。
 反応がコンマ単位で遅れていればそのまま撃墜されていただろう。

「もう一機のターゲットか」

 一方、シャニのフォビドゥンもかろうじてO.Oランチャーの膨大なエネルギーをゲシュマイディッヒ・パンツァーで受けたが、あまりの出力に偏向しきれず咄嗟に機体を射線上から外して撃墜の危機を免れた。

「くそ、あの野郎!!」
「熱くなるな。アンドラス少尉。しかし、あの出力はターゲットよりもはるかに上だが……」
「こいつら、まとめて落とすのかよ? 結構手強いぜ」
「弱気な事言ってんじゃねえぞ。クロト。下手れな事言っているとてめえもカラミティで落としちまうぞ」
「んだと、オルガ!? そっちこそ後ろでチマチマ撃っている隙を突かれて落とされるんじゃねえぞ!」
「お前らウザい」
「「ああ!?」」
「(……クロトとオルガがヒートアップすれば、シャニは落ち着くのか)。三人ともそこまでだ。そんなざまではキタムラ少佐にどんな鉄拳と説教を喰らわされるか、考えろ」
「……うええ」
「……イタイ」
「ちっ、さっさとあいつら捕まえりゃそれでいいんだろ!?」
「そういう事だ」

 こいつらに言う事を利かせているキタムラ少佐は大したものだと、スウェンは敬意を抱いた。

 スウェン達のそんなやり取りなど知らぬアスランは、ジャスティスを、フリーダムを庇うように前に出し、窮地に陥っていた友を気遣う。モニターの向こうで、わずかにキラは微笑んだようだった。

「大丈夫か、キラ!」
「うん、僕は大丈夫。でも、あの四機はかなり手強いよ。オウカさんやカーウァイ大佐ならともかく、他の人には任せられない」
「そうみたいだな」

 キラとアスランは機体の肩を並ばせ、今一度襲い掛かってくるストライク、フォビドゥン、レイダー、カラミティを迎え撃った。
 M1部隊やジン、シグーの部隊なら、この四機だけで全滅させられると、よく理解していた為に、自分達で彼らを斃さねばならないと悟っていた。

 咄嗟にフリーダムを援護したオウカだったが、すぐさま別の強敵を迎え撃たねばならなかった。レーダーに映る敵影4つ。

「ライブラリに照合? というよりは類似の機体――Rシリーズ」

 シルバラードから出撃した地球連合のWRXチームだ。機体性能と実戦経験の差から、オーブ艦隊に一歩譲る友軍の援護に駆けずり回っていたが、オーブ側の中でも特に強力な機体を抑えない事には被害が収まらないと判断したレフィーナの指示で、オウカを抑えに回ってきたのだろう。
 連合・ザフト両軍のRシリーズの中で唯一プラスパーツを装備するR−GUNパワードを駆るイングラムが手早く指示を出す。

「おれとグレンがフォワード、ムジカはバックアップを。ジョージーはそのまま味方への援護を続けろ」
「了解!」
「行くぜ!」

 機動性を強化されたグレンの紫のR−3が、手に持ったビームライフルを二射、三射とラピエサージュに浴びせる。軽やかに身を捻るだけで回避して見せたラピエサージュに、ムジカのR−1が仕掛ける。
 両腰にマウントしてあるビームライフル・ショーティーを流れる動作で抜き放る。ショーティのビーム弾一発一発の威力は低いが、数がそれをカバーする。
 ウィングを展開し、テスラ・ドライブの最大出力で二機のRシリーズの照準を振り切ったオウカは、二機を一直線上に捉えてO.OランチャーのセレクターをEモードに合わせる。

「受けなさい、このO.Oランチャーを!」
「そうはさせん」
「!? 指揮官機」

 ビームカタールソード二振りを連結させるT−Linkブーメランが、ラピエサージュの頭部を掠める。信じ難い反応速度でそれを察知したオウカは機体を逸らし、T−linkブーメランの描く弧から外れる。
 回避を安堵する余裕はないとオウカは、失った記憶の中で培った実戦経験で理解していた。ラピエサージュの回避軌道を予測したイングラムが、続けてツイン・マグナライフルの狙いをつけている。

「ツイン・マグナライフル。ダブルファイア!」

 マズルフラッシュと同時に、ツイン・マグナライフルから実弾とエネルギーの両弾が射出される。オクスタンタイプの銃火器と同じ撃ち分けを可能とする装備なのだ。
 オウカはデブリを盾にしてイングラムの攻撃を凌ぎ、続いてムジカとグレンの連続攻撃を回避する。エールストライクをも上回るR−3の機動性を活かし、手に持たせた57mmビームライフルの弾幕が、ラピエサージュの後を追う。
 初期に開発されたストライクなどに比べれば、速射性、連射速度、エネルギー変換効率などが向上している。だが、それでもラピエサージュの装甲は貫けなかったろうが、それ以前に、オウカの回避能力が、グレンの射撃能力を上回っていた。

「その程度の腕私に挑もうなどと」
「ち、相手のが上手か。だけどな、おれらはチームだぜ!」
「上?」
「行っけえー!」

 R−1の手が握るビームライフル・ショーティーは振らす光の雨が、数発ラピエサージュの装甲に降り注いだが、ラピエサージュに搭載されているアンチビームフィールドがその全てを弾いてみせる。

「おい、ビームが効いてないぞ!」
「アンチビームフィールドだ。フォビドゥンのゲシュマイディッヒ・パンツァーを相手にするつもりで戦え」
「そんな事言っても、Rシリーズはビーム兵器が主体ですよ。イングラム少佐」
「アンチビームといえども零距離などの接近戦では発動しない。お前の得意な白兵戦に持ち込め、グレン」

 オウカは反撃とばかりに左腕の四連装マシンキャノンの弾幕でグレンのR−3を迎え撃ち、同時にO.Oランチャーの照準はイングラムを捉える。トリガーは軽かった。
 左右の腕から機体へフィードバックされる衝撃を感じると同時に、ラピエサージュの機体を別方向からの攻撃が揺らした。オウカはすぐさま何が起きたのかを確認する。

「これは……遠隔操作兵器?」
「行って! ストライクシールド!」
 
 ラピエサージュを囲むように7、8メートルほどの長方形の装甲板がその先端を向けている。
 これがイングラムの着目したムジカが持つ、特殊な素養を応用した遠隔誘導兵器“ストライクシールド”だ。
 ムジカの発する脳は増幅し、無線による操作を可能とする。高い空間認識能力を要するのはガンバレルと同じだが、こちらは無線での操作が可能である事とマニュアルによる操作では無く思考・イメージによって操作できる点が大きな相違点だ。
 計六つを装備したストライクシールドを展開し、ムジカは眼前の強敵に挑む。
 連合の開発した有線式ガンバレルの改良型だろうか、そんな思考を巡らすオウカ目掛けて、ムジカはストライクシールドに虚空を奔らせた。
 オウカは類希なパイロットとしての素質、スクールで行われていた強化処置、数多の戦闘経験をフルに活用して、四方八方から迫るストライクシールドを回避し続ける。
 それでも6つの装甲板に加えてムジカのR−1の射撃、加えて先程のラピエサージュの攻撃を凌いだグレンとイングラムの反撃もあり、回避で精一杯の状況に追い込まれていく。

「な、なんで当たんないの!」
「くう、このままでは反撃も!」

 シミュレーションやこれまでの実戦では必ず敵を倒してきたストライクシールドの包囲を相手にして、今だに健在のラピエサージュに、ムジカは驚きの声を上げるが、オウカの方は既に余裕はない状況だった。
 ビーム兵器こそアンチビームフォールドで防げるが、それも機体のエネルギーが持つ間の話だし、このままでは反撃の機会もなかなか見いだせずにいる。何より味方の状況も気になる。
 オウカの集中がわずかにそれた瞬間、ストライクシールドの一基が、ラピエサージュの胴体に直撃した。激しく揺さぶられるコックピットの中で、それでもオウカは瞳をしっかりと開き、黒メノウをはめ込んだような瞳の中にR−1の姿をとらえる。
 O.Oランチャーの砲口から放たれた光を、ムジカは背筋に走った悪寒に従って前面に構えたシールドで受けたが、それも間もなく融解し始める。

「ムジカ、シールドを捨てろ!」
「わっ!」

 咄嗟のグレンの言葉に、ほとんど反射的にムジカは従い、かろうじてシールド一枚の被害で済む。

「あ、ありがとう。グレン」
「それよりも、あいつ、まだやる気だぞ!」
「グレン、ムジカ、フォーメーションを組み直すぞ」

 立ちはだかるRシリーズを前に、ラピエサージュは先程のストライクシールドの一撃にさしたるダメージを受けていない様子でO.Oランチャーを構え直していた。

 全体の戦況としては、アークエンジェルらメンデル側に部隊の方が優勢にあった。クライン派の兵士達は皆コーディネイターとしても優秀な能力を持っていたし、とくにニコルやディアッカ、ヒルダと言ったエース級の存在は大きく、
ストライクダガーを上回る性能を持つゲイツや、ゲイツ火器運用試験型、バスターの活躍は目覚ましい。
 元々は装備は一流、パイロットは二流だったアスハ派の兵も、DC謹製TC−OS、エムリオンの高性能、度重なる戦闘によってすっかりベテランと言っても過言では無くなっており、一対一ならまず連合側のストライクダガーに負ける事はない。
 ただし、メンデルに居座った後から合流したアスハ派の兵士達はこの例から漏れる。幸いなのは、連合側もパイロットの質と言う意味ではさして変わらない事だろう。
 地上においてMSを本格的に運用し始めた連合だが、軍全体に行き渡ってはいない。配備された部隊も実際に戦闘を経ている者はまだ少ない。
 ゲヴェル・ドミニオンのブーステッドマンやパイロット達はその例外であると同時に、連合内のトップエース達だったが、アガメムノン級のストライクダガーのパイロット達はそうもいかない。
 それでも十分に訓練は積んでいる分、まだマシではあった。互いのエース級がぶつかり合う事で、その他のパイロット達の質が徐々に戦局を傾かせていった。
 
 アークエンジェルの直衛に着き、ヒルダらを始めとしたクライン派のコーディネイター達、また度重なる戦闘ですっかりベテランになったアスハ派の機体を援護していたムウは、脳裏に走る感覚を感じ取り、驚きと共に周囲を見回した。
 だが、それだけにとどまらない。言葉でははっきりとい表せない感覚は、ムウとクルーゼ、さらにレイならばこそ共有する感覚だった。だが、今この戦場には彼ら以外にその感覚を共有しうる特異な力の持ちがいた。
 クルーゼとムウとレイとの三人が一か所に集まった事で感覚が強まったのか、それとも別の要因か。この戦場に居る勢力の中に、その感覚を理解する者がいたのである。

「うっ、何、この感覚」
「どうした、ムジカ。動きを止めるな」
「イングラム教官、うまく言えないけどここには誰かいる! とても暗くて冷たい感覚と、それに近い感覚が二つ。他にも、なんだか違う何かが、一、二……四つ」
(……ムジカが何かを感じ取った? 高い空間認識能力の持ち主は時に距離を超越して知覚し合うと言うが、ムジカの力は別のもの。精神感応に近い。……ならば?)

 そこまで考え、イングラムはゲヴェルとドミニオンに連絡を告げた。予想が外れてくれていればいいが、事前に交わしたあの会話の事が頭にあった。

『どうしました? イングラム少佐』
「エンフィールド艦長。この宙域に我々以外の何かが潜んでいる可能性が高いと思われます。警戒を」
『え? 何を根拠に』
「ザフトもまたここの情報を知っているはず。この状況を利用しようと息を潜めている可能性があります。先程ムジカ・ファーエデンが我々以外の存在を確認しました。責任は自分がとります」
『イングラム少佐の話には賛同しかねますが、カラミティ、レイダー、フォビドゥンのパワーも危険域にあります。中佐、撤退も視野に入れておくべきかと』

 ドミニオンのナタルだ。明確な証拠を提示できないイングラムの言葉をさほど信じているわけではないが、ムウ・ラ・フラガという感覚で敵の接近を察知する前例を知っているから、多少は信憑性を感じてもいる。

『分かりました。状況に変化があり次第、撤退も止むを得ないと判断します。MS隊各機に艦から離れないよう注意を呼び掛けて』

 思案する時間は短く、レフィーナはイングラムとナタルの意見を聞きいれて指示を出した。一方で、ナタルの横の席でアズラエルが不満の声を上げる。アギラはどうでも良いらしくモニターに映る戦闘の様子を見つめていた。

「せっかくここまで戦っているのに!?」
「追い詰めてはいませんし、戦力的に見て余裕がありません。これ以上は不利になる可能性が高いのです」

 カイの率いるMS隊やWRXチームはよく戦っていたが、ストライクダガー部隊はアークエンジェル側のMSに押されている。パイロットの質もあるが、ストライクダガーではエムリオンには対抗できないのだ。
 アズラエルはきっぱりと言い切るナタルを見上げて、頬の皮と肉を引き攣らせた様な、不気味な笑みを浮かべていた。

「次は勝てるとお思いで? 一度こっきりのチャンスかもしれませんよ? 艦長ォサン」
「理事は取引の条件を間違っておいでです」
「ほぉ?」
「撤退か敗北か、ではなく――撤退か死か、です」
「なるほど。じゃ、仕方ありませんか。それに僕の頼んでおいた援軍も、もう少しで到着しますからネ」
「援軍、ですか? 私達は何も」
「ええ。まあ、僕が私的に援助している所の戦力でね。いわゆる私兵と言う奴ですか」

 この男! どこまでも道化の様にこちらを煙に巻くアズラエルの態度に、内心でナタルは拳を握る思いだったが、それを表に出さない程度には理性を保っていた。
 そして間もなく、ゲヴェルから撤退を告げる信号弾が打ち上げられた。