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SRW-SEED_ビアンSEED氏_第36話

Last-modified: 2013-12-26 (木) 21:23:31

第三十六話 刃折れて 中編3

 施設の中は、いかにも研究所らしい施設に足を踏み入れ、エントランスホールで一度足を止める。おそらくクルーゼとムウ以外には人影はないはずだ。
 素人の生兵法に近いが、一応レクチャーを受けた訓練通りに四方に目をやり、ホールに歩み出た。
 吹き抜けになった天井から、光が入りこみ、照明がなくても周囲の様子を見てとれる。ここにはラクスやマリュー達も足を踏み入れていない筈だ。
 荒れるままになっていた施設の中には、中央に太いシャフトの様なもの円柱がそびえ、柱の周囲を螺旋型にモチーフが巡っている。
 遺伝子の二重螺旋、だろうか? その時、と奥で叫びあう男たちの声が聞こえた。ムウと敵兵だろう。キラは急いでシャフトに飛び込み、階段を駆け上がる。
 モニュメントの影にムウを見つけた。

「ムウさん!」
「キラ!?」

 驚きの声を上げるムウの声に続き、ムウの追っていたザフト兵の声も聞こえてきた。

「キラ? キラ・ヤマトか! アスランに聞いた時はまさかと思ったが、ははは!! これは嬉しい限りだ。ムウだけでなく君までここに来てくれるとはね。
いろいろな事に片が着く、我ながら言い得て妙だったな。そうか、君がフリーダムのパイロットか、なんとも面白い事になったものだな! ははははっははははは」

 キラの存在に対し愉快そうに弾むザフト兵士の声に、キラは名状しがたい悪寒を覚えたが、周囲を伺ってからムウの元へと走った。

「なんで来たんだ!」
「あのまま外で待っているなんてできませんよ! ムウさんに何かあった時、マリューさんになんて言えばいいんですか!」
「生意気なんだよ、こいつ」

 ムウが肘でキラを突いて来た。だが、軽口を着きながらも額に脂汗を滲ませ、呼吸の荒いムウの姿に異変を感じたキラはわき腹に滲む血に気付いた。止血は済ませているようだが。

「なんでもない。それより、何かあった時ってのはお前もだぞ」
「え?」
「お前の姉貴だって言うカガリに、ピンクの歌姫様、マリュー、ミリアリア、それにフレイ。お前に何かあったら泣く女だけでもこんなにいる。男が女を泣かせていいのは嬉し泣きだけなんだぜ?」

 フレイ、その名前にキラの心臓が跳ね上がった。フレイ・アルスター。あの子は、今どうしているだろうか?
 アラスカでアークエンジェルを降りた後の事は結局わからぬままだ。クルーゼの挑発の声が続いた。

「さあ、遠慮せず来たまえ! 始まりの場所へ!!」

 やはり目的があってこの施設に逃げ込んだようだが、その意図が分りかねる。
 キラもムウも、クルーゼがここに来た意味を理解していたなら、また違った反応をしていただろう。

「キラ君、君にとってもここは生まれ故郷だろう!!」
「奴の戯言だ。耳なんか貸すな! あいつのやり口だ。意味の分からない言葉で相手を混乱させる!」
「――ヤツ?」
「あいつがラウ・ル・クルーゼだ」

 キラは息を呑んだ。ヘリポオポリスから低軌道会戦まで自分達を追いかけていた敵が、今ここに居ると言うのだろうか。
 クルーゼのものらしい足音が遠ざかり、ムウに続いてキラも走り出した。そのままいくつかの部屋を通り過ぎ、施設の奥を目指して行く。
 吹き抜けの手前のドアに入り込むクルーゼの姿が見え、ブリッジを渡った二人は、ドアの脇で息を潜めて様子を窺った。ドア脇のプレートが目に入る。
 ――BL4 HUMANGENE MANPULATION LAB
 響いた銃声に頭を下げると、壁に跳弾の火花が散った。すでに奥の部屋には人影はないが、その部屋の中の異様さに、ムウとキラは息を呑んだ。

「なんだ。ここは……?」

 床には何か青い液体を湛えた、冷却装置らしいものの中に、直径百五十センチほどの竈の様な装置が一ダースほど浸かっている。
 装置の上にはモニターがずらりと並び、常にモニタリングしているようだ。
 電力が生きていた事で、今に至るまでその目的を果たし続けているようで、モニターの数値はめまぐるしく変動している。
 キラ達には理解できない数値や記号が羅列し、なにか、胎児らしい映像が浮かんでいる。
 巨大な冷却層の上には十字路が通され、さらに奥の部屋へと続いていた。
 部屋の中には棚がいくつも並び、標本が大量に保管されている、有るもはひび割れ、ある者は床で砕けている。
 キラはそれがヒトの胎児である事に気付き、嫌悪感を催した。この胎児達は、母親の腹か生まれる事さえ許されなかったのだ。

「キラっ!」
 ムウの鋭い言葉に、咄嗟に身をかがめると銃弾が上空を薙いだ。研ぎ澄まされたキラの神経が銃弾が風を切り裂く音を捉えていた。
 すかさずムウが闇の向こうへと撃ち返し、キラのCz75も吼えた。
「懐かしいかね、キラくん? 君はここを知っているはずだ――」
 知っている? いいや、そんなはずはない。第一、自分はL4に来た事さえないのだ。
 それなのに、キラはこのコロニーをよく知っているらしいクルーゼの言葉に、不思議な胸騒ぎを覚えていた。
 知らない? いや、本当にそうなのか? 覚えていないだけで、本当は……。
 半分開かれたドアから身を乗り出し、中の様子を伺うムウめがけて銃声が響いたが、身をかがめたムウはそれを避ける事に成功した。この暗がりではそうそう狙っても当てられるものではない。
 右手に置かれたソファの向こうへと銃を撃ちながらムウは走り、キラも慌ててそれを追う。おそらくラウがいるのはその反対側だろう。 キラもCz75を撃ちながら部屋の中に踊りこんだ。
「安心したまえ。すぐに殺すような真似はしないさ。運命なのだろうね。こうして君達と私が一堂に会するとは。しかもこのメンデルで。さあ、絶望の真実をすべて知りたまえ。その上で――死ぬがいいさ」
 含み笑い、暗い愉悦に突き動かされるクルーゼの声が耳障りだった。反撃しようと身を乗り出したムウの右肩を銃弾が掠め、赤い飛沫が新たに散る。
「ムウさん」
「大丈夫だ!」
 何かが床を滑り、硬い音を立ててソファに当たって止まる。クルーゼが投げてよこした物か――写真立て?
 そこに収められていた一葉の写真に、キラの目は吸い込まれた。その写真は、ウズミがカガリに手渡したあの写真だった。 二人の赤ん坊を抱き、慈しみの目で見ている若い女性。キラとカガリの実の母親。
 キラの驚愕を訝しみ、ムウがその写真に目をやろうとした時、新たにクルーゼが投げつけたらしいファイルが落ち、中に収められていた写真が数枚床に滑り出る。
 今度はムウがキラと等しい驚愕を浮かべた。
 ムウの視線の先には男の写真があった。端正な顔立ちの面影を残した男が、金髪の幼児を肩車している写真だ。
「親父!?」
「え?」
「君も知りたいだろう?」
 物理的な闇と言うよりも、なにか人の狂気の様なものが凝り固まったような闇の奥から、白い仮面が浮かび上がり、舞台役者の様に両手を拡げて悠々とこちらに歩み寄ってくる。その姿には撃たれる事など無いと確信しているようにも、あるいはそれを忘れているようにも見える。
 耳からそっと忍び入り、そのまま脳に掬ってしまいそうなねっとりとした声でクルーゼは言葉を続ける。
「ヒトの飽くなき欲望の果て――進歩の名の下に、狂気の夢を追った愚か者たちの話を……。君もまたその息子なのだから」
 息子――その言葉にキラの体が強張る。
「神を気取った、愚か者たちの夢の跡。きみは知っているのかな? 今のご両親がきみの本当の親ではないという事を?」
「なっ!?」
 先程までの常軌を逸した言動から一転し、自分の出生に関わる事を告げるクルーゼの言葉にキラは愕然とする。
 キラ自身、自分が今の両親の実の子でないと知ったのはほんの数か月前の事だと言うのに。
 クルーゼは無防備だ。今なら訓練を受けたキラの腕なら眉間と心臓に一発ずつ鉛弾をくれてやるのは造作もない。だが、引き金を引く指は凍てついていた。 明確に言葉にはできない何かが、キラの指を動かさずにいた。
「――だろうな。知っていれば、そんな風に育つわけがない」
 クルーゼの言葉に含まれた感情に、ムウが眉を潜めた。羨望? まるで、自分もそうでありたかったと告げるようなクルーゼの口調。
 このとき、初めてムウは、クルーゼと言う男に敵対以外の感情を抱いた。
「なんの陰もない……。そんな普通の子供に」
 キラの脳裏に浮かぶのは温厚な父としっかり者の母だった。もう何か月も話していないが、それでもキラにとって両親と言えば、あの二人が浮かぶ。
「まったく。君はてっきり死んだものだとばかり思っていたよ。アスランから聞いた時も信じられなかった。なにしろ生みの親であるユーレン博士同様、君達双子は当時のブルーコスモスの最大の標的だったのだからな」
「貴方は、何を知っているというんですか!?」
 クルーゼに向けるキラの銃口は震えていた。
「だが、君は生き延び、成長し、戦火に身を投じながらも存在し続けている。なぜかな? コーディネイターだから? MSの性能が良かったから? 君が戦っていた相手こそがコーディネイターだ。そしていかにGだろうとパイロットが君でなければとっくに撃墜されていたさ
 ――それでは私の様なものでも、つい信じたくなってしまうじゃないか。彼らの見た狂気の夢を!!」
「ぼくがっ、ぼくが何だって言うんだ! ぼくはただの人間だ! 貴方が何を言おうと、ぼくはぼくでしかない! 貴方が、何を知っているというんですか!」
「君は――人類の夢。最高のコーディネイター。そんな願いの元に開発された、ヒビキ博士の人工子宮――それによって生み出された、彼の息子。失敗に終わった兄弟たち。数多の犠牲の果てに造り上げられた、唯一の成功体……」
 最高のコーディネイター、その言葉を飾るポジティブさとは裏腹に、クルーゼの言葉は冷たく、嘲りを含み、口元には残忍な笑みが浮かんでさえいる。 キラの狼狽する様子が楽しくて仕方ないのだろう。
「それが君だ。君も見ただろう? ここに来るまでにあった、冷却装置を、君を育んだ人工の母を? ガラス瓶に納められた兄弟たちを?」
 気持ち悪い――クルーゼの言葉は毒を持ってキラの思考に染み入り、見た光景を思い返させる。得体のしれない液体を湛えた冷却装置、あれが自分を生みだした? 棚に並んだ標本達――あれが自分の兄弟? 成功体である自分を生みだすまでに犠牲になった命?
 失敗していたなら、今ここに居る自分もああやって、モノの様に並べられ、うち捨てられて、生まれる事さえ許されなかった? 
 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い……吐き気がする。
「キラ!」
 呆けるキラをムウが押し倒し、クルーゼが引き金を引いた銃声が木霊する。すぐさま身を起こしたムウが反撃の銃声を轟かせる。
 無反応なキラの腕をとり、奥にあった階段を駆け降りる。
「しっかりしろ、バカ! ヤツの与太話に飲まれてどうする!?」
 だが、そんなムウの言葉にも、キラは自失した様子で反応を見せない。狂気の夢、人類の夢、その成功体――それが自分。なんども頭の中でその言葉が渦を巻いている。
「――『ぼくは、ぼくの秘密を明かそう』」
 カツン、カツンと一段一段階段を降りる音を反響させながら、クルーゼは芝居がかった口調で言葉を続ける。愉快そうに、心から愉快そうに。何がこの男を突き動かすのか。
「『ぼくは、人の自然そのままに、この世界に生まれたものではない』」
 CEの世界では、誰もが一度は耳にした言葉。ファーストコーディネイター、ジョージ・グレンの、あまりに有名な言葉だ。彼の出生の秘密を世界に明かした言葉。
「受精卵の段階で人為的な遺伝子操作を受けて生まれたもの――人類最初のコーディネイター、ジョージ・グレン……。ふふふ、ヤツのもたらした混乱は、その後どこまで人の闇を広げたと思う? 
ただでさえ、人間は同族同士でありとあらゆる差別を生み、妬み、羨やみ、殺し合うというのに」
 クルーゼはフロアのスイッチを一つずつ入れ、それにつれてライトが着き、室内を明るく照らして行く。それに反比例して、クルーゼの言葉は暗い情熱に突き動かされてゆく。
「あれから、人は、一体何を始めてしまったのか、知っているかね? あらゆる容姿、あらゆる才能がすべて金次第で自分のモノになる。まるで……アクセサリの様に。正確を期するなら、自分の子供の――言うべきかな? ――しかし、上手くいくものばかりでは無かったのだ」
 母体の影響による欠陥、母体との不適合による早産、流産。それらは遺伝子操作ではいかんともしがいたエラーであったが、人はそうは考えない。折角理想の子供が手に入るのだ。この機会を逃してなるものかと。
 だから、ある男は考えた。生きている母体こそ最大の不確定要素、胎児にとって不安定な環境にある。ならば、人為的に乗じ安定した環境を作ってしまえばいいのだ。
 クルーゼの言葉は劇的に高まった。それに込められる感情も、熱を帯びてゆく。
「だから挑むのか!? それが夢と望まれて叶える為に?」
 男の名はユーレン・ヒビキ。あらゆる意味においてキラを生みだした父親だ。
 数限りない実験を繰り返し、無数の犠牲の果てに、遂には自分と妻の受精卵を用いて最後の試みに出た。自分の子を最高のコーディネイターにしようとしたのだ。
「人は何を手に入れたのだ!? その手に、その夢の果てに!? 知りたがり、欲しがり、やがてそれがなんのためであったかも忘れ……命を大事と言いながら弄び――殺し合う!」
 クルーゼが謳う。それこそ人の矛盾だと。幾年年月を経ようとも変わらぬ愚かしさであると。
 キラは思う。父は自分に何を望んだのか? 全てにおいて完璧である事か? それだけの素養を与えたのは何のためだ? なにもかもを完璧にこなせばそれは幸せにつながるのか。
 温かい母の体からではなく、止むをぬ事情があったわけでもなく命を持たぬ冷たい機械から産み落とされて、子供が自分を幸せと感じるのか? 屍の山の頂に産み落とされた命は、足元で山を築く屍と同等以上の価値があるのか? それとも、ただできるからそうしたのか? 自分は最高のコーディネイターを作る事が出来る。それを証明するために?
「ほざくなっ」
 ムウが物陰から飛び出し、クルーゼと互いに銃口を向けあって撃ち合う。いくつも薬瓶や棚の陳列物、実験機器、モニターを破壊してゆく。
「何を知ったとて、何を手にしたとても変わらない。最高だな、ヒトは……。そしていつの時代も、妬み、憎み、殺し合おうのさ! それこそがヒトの本質! いくら言葉で取り繕うとも、いくら悲劇を経験しようとも変わらぬ、変えられぬヒトの、業!!
――ならば、存分に殺し合えばいい! それが望みなら、飽くなき欲求のままに身をゆだね、この宇宙も地球も、すべて屍で埋め尽くすがいいさ!!」
「何を、貴様が如きが、偉そうに!」
 叫びと共に引いた引き金によって撃ちだされた弾丸が、クルーゼの髪を掠める。クルーゼは銃口を上に向け、天井からつりさげられていた巨大な照明を撃ち落とした。 落下した照明は凄まじい音とともに砕け散る。
 自らの存在に、絶望を感じていたキラは、その音でようやく我に返る。
「私にはあるのだよ! この宇宙でただ一人、すべての人類を裁く権利が!! ムウ・・・・・覚えてはいないかね? 私と君は幼い時に一度だけ会った事がある。フラガの屋敷でね」
「何?」 
「私は! 己の死さえも金で買えると思いあがった愚か者――貴様の父、アル・ダ・フラガの出来損いのクローンなのだからな!」
 今度は、ムウがクルーゼの言葉に凍り付く番だった。

 一時的に連合側の艦隊が退き、体勢を整える為に港湾施設に戻り、損傷を受けた箇所への補修が急ピッチで進められていた。
 輸送艦であるシルバラードを除き三隻の艦隊を相手取っていたアークエンジェル、スサノオ、クサナギにナチュラルとコーディネイターの整備士たちが船体に取りつき、互いに意見を交わし合いながら作業をこなして行く。
 偵察に出ていたマユラ・ラバッツのエムリオンが帰還し、港の反対側にザフトの艦艇とDCの艦がいる事を告げた。
 ナスカ級四隻、更に現戦役中最強の戦艦と噂されるスペースノア級、ペレグリン級と六隻に及ぶ艦隊の存在に、通信回線をリンクさせていた各艦の艦長達は険しい顔になった。
 コロニー内部に行ったきり戻ってこないムウやキラの事も気になる。なにより連合側の戦力もこちらの予想を上回る精強さだ。核動力機を投入してくるかもしれないザフトの事を考えれば、戦力の出し惜しみは自滅に等しい。
 数の上で劣り、また地球連合の艦隊も忘れてはならない。誰もがラクスを見た。ラクスの剣ならばこの状況を覆せると期待していた。
 その期待に応える様に、星をも薙ぐ剣が姿を見せる。言葉はない。ただ一言を待っている。それさえあれば、今すぐにも戦場へと向かうのだと、巌の様な顔が告げている。
「ラクス、どうやら切り札の切り時のようじゃないかね?」
「バルトフェルド艦長――そうですわね。……ウォーダン」
「……」
「貴方と言う剣を抜きます。貴方の思うままに戦ってください」
「承知!」
 ウォーダンは言葉短かに応じた。だが、ただその一言にどれだけの力が秘められている事か。それまで険しい表情を浮かべていた皆が、頼もしげにウォーダンを見つめていた。
「距離120にナスカ級四隻、スペースノア級タマハガネ一隻、ライブラリに照合しない艦一隻です」
 メンデルの反対側のデブリに、隠れるように潜んでいたザフトの戦力に、ナタルとレフィーナは内心で溜息をついた。
 今回の艦隊の指揮官と言う責務がレフィーナの肩にはのしかかっているが、厄介なオブザーバーの存在がある分、ナタルの方が心労は上かもしれない。
 MS隊の方は、カイやスウェン、オルガら、WRXチームに損失はないが、ストライクダガーが三分の一にまで減らされている。
 恐ろしく錬度の高いパイロットが揃っているようで。連合最強とも呼ばれるゲヴェルの戦力が無かったら、ドミニオンはとっくに沈んでいただろう。
「この状況では先に動いた方が不利です。理事の仰った援軍ですが……どの程度の規模なのですか?」
「んー、アークエンジェルだけなら何とかなったかもしれないですが、ザフトもいるとなると正直心もとないかもしれませんネエ。
 一応特機が二機に、MSが十七機くらいでしたかね? アガメムノン級一隻と、ネルソン級を四隻ほど都合つけておきました。特機の方は対DC用の切り札を切っておいたんですが」

「特機? というとあのヴァルシオンのような機動兵器ですか?」
「ええ、まあ一応は。ミタール・ザパト博士の開発したTEアブソーバー・ガルムレイドとアードラー博士とアギラ博士が調整したヴァイクルという機体でね。
どちらも並のMSじゃ歯も立ちませんヨ? ま、もう直ぐ到着の予定ですから、ぼくらはそれを待って動いては如何です?」
「……」
 思ったよりは物分かりがよいのか、自分の駒が活躍する姿がみたいのか――ムルタ・アズラエル。厄介な客人を乗せてしまったものだ。モニターの向こうのレフィーナも、ナタルに同情の視線を向けている。
 何歳か年下の彼女の方が、よほど付き合いやすい人物だと、ナタルは一人ごちた。
 
 一方、エターナルらと反対側の港で待機していたザフト艦隊にも動きがあった。クルーゼがコロニー内部に潜入してから音沙汰がない。
 流石に、胸中にもしや、という思い位は沸き起こる。
 通信回線をリンクさせていた各艦に、ウィクトリアのエルザムが一つの提案をした。現状のまま待機するよりも、こちらも出撃すべきではないかと。
「いや、しかしエルザム隊長」
『このまま手を拱いているわけにも行かぬだろう。アデス艦長? クルーゼの事だ。殺しても死なぬ男、そう心配する事はないだろうが、ただ待っているだけでは、あの男に皮肉の一つも言われてしまう』
「クルーゼ隊長は待機しているようにと」
『ふっ、時には彼の命令に背いてみるのも良い経験かも知れんぞ? アデス艦長』
「無理を仰らないでください。ただでさえ、クルーゼ隊長は私の手に負いかねる方なのですから」
 どうしてこうも自分の上司には無理を通そうとする人物が多いのだろうかと、常識人のアデスは溜息をつきたくなった。
 しかし、エルザムの言う通り、クルーゼの帰りがいささか遅いのは確かだ。誰か迎えを寄越すべきだろうか?
 その時、コロニーの方角から、メディウス・ロクスの機影がこちらに向かってくるのをレーダーと望遠モニターが捉えた。
 何とか動いてはいるようだが、メディウス・ロクスの姿は惨状と呼ぶにふさわしかった。
 頭部、右足を撃ち抜かれ、ディバデッド・ライフルを失っている。
 まさか、あのラウ・ル・クルーゼがMS戦で一敗地にまみれた? アデスは珍しく動揺を露わにしてメディウス・ロクスに通信を繋げる。
「隊長! ご無事ですか!?」
『アデスか、ヴェサリウスを発進させろ! ヘルダーリン、ホイジンガー、ドルギラン、それにDCの艦隊もだ! 私のゲイツを用意しておけ。着艦し次第、私も出る!!』
「ですが」
『もたもたするな! フリーダムとジャスティス、どちらも地球連合の手に渡すわけには行かん! ユニウスの悲劇がまた引き起こされないと、断言できるのか!? すぐに艦橋に上がる』
「な、隊ちょ……」
 そこまで言い切り、クルーゼは一方的に通信を切った。今まで聞いた事の無い感情的なクルーゼの声と、その言葉にアデスは面食らっていた。
 だが、ユニウスの悲劇、この言葉は彼だけでなくブリッジクルー全員に焦燥感を与えた。
 そうだ。ニュートロンジャマーキャンセラーが連合の手に渡ったら、また、あの核の引き起こした悲劇が繰り返されるかもしれないではないか。
 それだけはなんとしても防がねばならない。
「ヴェサリウス発進準備、各艦に打電、これより地球連合軍艦アークエンジェル級及び反逆者ラクス・クラインに攻撃を仕掛ける! MS隊発進準備」
 ヴェサリウスからの連絡に従い、ウィクトリア、カタール、タマハガネの各MS隊も出撃準備を整え、デブリの影から戦場へと向かいエンジンに火が灯る。
「グラディス艦長、指揮はお任せする。私はジャスティスで出る」
「ええ! エルザム隊長ご自身がですか!?」
「よろしいので?」
「ふっ、この目で確かめたい事があるのでね」
 ウィクトリアの艦橋に背を向けて、エルザムはハンガーへと向かった。その背を見送ってから、タリアとアーサーは正面を向き直り、ウィクトリアの指揮に集中すべく神経を切り替えた。
 この戦いは、ウィクトリアの初陣なのだ。できうるなら、完全な勝利と言えるだけの戦果をあげたいものだ。自分自身の為にも、クルーの為にも、プラントに居る我が子の為にも。
「アーサー、ミーティアは?」
「現在、最終調整中です。また周囲にデブリが多く、仮に使用できても満足のゆく戦闘はできないかと」
「そう。ではミーティアは艦首に備えたままね。コンディションレッド発令。MSパイロットは搭乗機にて待機!」