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SRW-SEED_ビアンSEED氏_第74話

Last-modified: 2013-12-26 (木) 22:32:16
 

ビアンSEED 第七十四話 妖婦蠢動

 
 

 無数の橙色の火の玉が煌めく暗黒の中を、白と黄色の人造の幻獣たちが幾度も交錯し、衝突し、激突し、反発し、戦い合っていた。
 彼らは出会う度にそうしてきた。おそらくはこれからもずっとそうなのだろう。どちらかの命が果てるまで争い合う運命なのかもしれない。
 リュウセイ・ダテの駆る白いヴァイクルと残る片方はテンザン・ナカジマの黄色のヴァイクルである。同じ出自を持つ機動兵器は、異なる陣営の二人を操者に選んだことで争う運命の渦中にあった。
 白と黄に染まった幻獣の周囲で乱れ交うは、翡翠色の光刃を煌めかすカナフ・スレイブの群れだ。テンザンとリュウセイの昂った戦闘の意思に従い、かつてないほど迅速に、そして苛烈に互いの装甲を抉らんと飛ぶ。
 通信を交わすまでもなく、ヴァイクルの機体に搭載されたシステムによって増幅された二人の思念が、目に見えぬ不可視の波となって二機の周囲で大きな唸りとなって荒れ狂っている。

 

「直撃だあ!!」
「当たるかよっ」

 

 野太いテンザンの声が、余裕はないが過度の焦りもない精神状態にあるリュウセイの声が、お互いの脳裏に直接届く。二人がお互いを強敵と認めるからこそ、仲間達に牙を剥かせるわけには行かぬと猛っていた。

 

「お前なんかに構っている暇はないんだよ! あんなもんを二度も撃たせてたまるか!!」

 

 ジェネシス――創世を意味する破滅の光の中に散った幾万もの同胞の命に、怒り、嘆き、憤るリュウセイ。

 

「ちっ、確かに気分のいいもんじゃねえが、てめえらの使った核とどれほどの違いがあるってのよ!!」

 

 ザフトの隠していた切り札に、ビアン総帥はどんな手を打つつもりだと、内心で疑惑を抱き、かすかに集中を欠くテンザン。
 機体性能では、エペソのデータ提供によってオリジナルとほぼ同等の水準を維持しているテンザン機の方がやや上。また純粋な操縦技術でもテンザンが上回る。
 しかし、戦意を迸らせ、急速に戦闘中に成長する潜在能力と爆発力を併せ持ったリュウセイが、徐々に二人の間にあった実力の差を埋め始めていた。

 

「この野郎、生意気だっての!」
「やらせねえ、これ以上おれの仲間達はやらせねえ!!」

 

 二人の怒涛の気迫を乗せて、白と黄の幻獣達は飽く事無く激突する。

 

   ▽   ▽   ▽

 

「おああああああああーーーーーー!!!」

 

 アズラエルの喉から、血をそのまま吐きかねぬ勢いで叫びが解き放たれる。背後に輝く地球を守る為、そして目の前に存在する忌わしい銀の砂時計を破壊する為に。
 百メートルを超すアズライガーの全身からは常に幾筋も破壊の光条が放たれ、それは例外なくいくつもの光球を伴っていた。
 アズライガーを筆頭にω特務艦隊と残る地球連合艦隊残存艦艇が、紡錘陣形を取って、厚く重ねられたザフト・DCの防衛網を一つ一つ、ゆっくりとではあるが確実に突き破っていた。
 彼らの前に立ちはだかるザフト・DC部隊もまたこの決戦に背後のプラント市民の命運、そして地上の旧オーブ領に住まう人々の命運が決まるとあって、怒涛の如く迫りくる暴力を前にしても退く様子はない。
 対するザフト・DCは、やはりというべきであろうか、数よりも突出した質を持ってω特務艦隊を筆頭とする連合部隊を迎え撃っていた。
 すなわち、クライ・ウルブズ、サイレント・ウルブズ、そしてザフトWRXチームである。
 特機をはじめ異世界の超技術を取り込み、CEのレベルに合わせてではあるが再現された機体群が激しく交差して銃火を交わし合い、なまなかな技量のパイロットたちではその渦中に踏み込むだけで誰彼を問わず粉砕されてしまう。
 ヤキン・ドゥーエに集った三勢力の最高戦力同士の激突は、もはや彼ら以下の力しか持たぬ者達に介入さえ許さぬ戦場を構築していた。
 その、CE史上最高峰の機動兵器戦闘が行われている宙域の後方、ジェネシス周辺ではジェネシス防衛部隊が、接近していたノバラノソノ艦隊と相対していた。
 プラントを核攻撃から守り、ザフトの援護を行ったノバラノソノ艦隊に対して、司令部からこちらから攻撃を仕掛けるような真似は慎むようにと厳命されており、肌がぴりぴりと痛むような緊張感が漂っている。
 旗艦の一つであるエターナルの艦橋で、艦長席の横に用意されたオブザーバー席に座るラクスが、バルトフェルドとダイテツ、マリューらに意見を述べていた。
 エルザムやクライン派を通じて、ラクスに届くようパトリックが意図的に流した情報を元に、艦隊の展開を行っている。

 

「おそらくジェネシスの第二射は月基地及び増援艦隊に向けて発射されるでしょう。そうなれば連合艦隊は降伏ないしは撤退を余儀なくされます」

 

 ラクスの言葉に、元は地球連合の軍人であり、祖国の同胞たちを守りたいという願いから軍人になったマリューは複雑な色を浮かべる。今こそこうして第三の道を選んでいるが、やはり地球とそこに住む人々への愛着は強い。
 また、それ以前にジェネシスと言う大量虐殺兵器に対する恐怖と嫌悪が強く心を絡め取っている。地球連合の使用した核と同等以上の脅威。ザフトと連合はお互いを滅ぼすに足る力を手にしてしまったのだ。

 

「ラクスさんの言う通りだけど、万が一ジェネシスが地球に向けられたら」
「おそらくは脅しであろうが、プラントに完全な自給自足を可能としていたら地球と言う環境は必要ないといえる。万が一が億が一の可能性であっても、ジェネシスは脅威だが……」
「マリューさんとダイテツさんが危惧されている事は重々理解しております。ですが、プラントは地球との助け合いが無ければその社会を維持できないのが実情。ザラ議長も本当に地球を撃つ事はないでしょう。残念ながら、撃たないと断言はできませんが」
「……連合もジェネシスを落とそうと動ける艦隊はすべて動かしているわね。もう決着はついているようなものなのに」
「アズライガーを始め旗艦と主力が残っておる事もあるが、やはりジェネシスが撃たれれば地球が終わるという事実に気づいたからじゃろう。それで、どうする? 
このままザフトを援護して地球艦隊を無力化するか。それともジェネシスを破壊し、連合の残った核攻撃部隊も殲滅し、この場を後にするか。後者は限りなく不可能に近いな」
「核攻撃部隊の撃破は確実に行わなければなりません。そして、もし万が一ザラ議長が地球を撃たんとした時の為に、わたくしたちも即座にジェネシスを破壊し得る手段を選びましょう」
「あれだけの巨大な構造体を? どうやって……そうか、スレードゲルミルを?」
「はい。彼の機神ならば、最悪の事態を防ぐ最後の刃としてうまくやってくれるはずです」

 

 ウォーダン・ユミルの半身とでもいうべき存在スレードゲルミルの究極奥儀“星薙ぎの太刀”。
 まさしくその名の通りに星を薙ぎ払うがごとき威力の凄まじさをかつて目の当たりにしたマリューが、確かにあの光雷の一刀ならば、ジェネシスさえも破壊するだろうと得心した。
 ジェネシス本体は無理でも、最悪ミラーブロックを破壊すれば時間は稼げる。地球を狙うとなれば、地球に本拠地を持つDCもザフトに対して容赦なく牙を剥くだろう。そう考えれば万が一にでもザフトが地球を本気で撃つ事に対する抑止要素は確かにあった。
 だが、人間とは時に正常な判断を失う。それが戦場の狂気の只中とあればそれは、珍しい出来事ではなくなる。パトリック・ザラがその例外でないと誰が言えよう。そしてまた、この場に居る自分たちもまた例外ではないと誰が言えよう。
 こうして行動している事の結果が出るまで、自分達のしている事が正しいかどうか確証を得る事は出来ぬ不安を、その胸の中に抱きながら、マリューはより一層戦火の激しくなった虚空を見つめた。

 

   ▽   ▽   ▽

 

「ブーストナックル!!」

 

 豪炎を噴いて射出されたグルンガスト飛鳥の左拳を、アズライガーはその巨大な手で生え出も払う様に叩き、頭部の火器を一斉に放ってきた。装甲越しにも皮膚を焼かれそうな光の奔流を避けて、シンが苦い舌打ちを口の中で響かせる。
 アズライガーを破壊し得る攻撃手段は、二つのウルブズが勢揃いした事で複数あった。
 強固なアズライガーの多重防御フィールドを突破可能とみなされているのは、サイバスターのアカシックバスター、イスマイルの最大出力のオメガブラスト、飛鳥の獅子王斬艦刀、ヒュッケバインのブラックホールキャノンなどだ。
 格納モジュールであるムゲンシンボから四連装Gインパクトキャノンを船首に備えたスペースノア級の主砲でも撃破は可能であろうが、いかんせんアズライガーの、その巨躯に対してあまりにも高い機動性が撃破の可能性を低く見積もらせている。
 またその周囲を固めるω特務艦隊の超エース達が、背水の陣を敷いて並みならぬ気迫で挑んできている。
 シン自身、連合の核攻撃の報復として姿を見せたジェネシスに対して、無慈悲なまでに敵を焼き尽くしたその光景に嫌悪感や恐怖、そして苛立ちを覚え完全に戦闘に集中しきれずにいる。
 射出した腕を再び再装着し、スティングやアウルに援護されながら、再びアズライガーめがけて突撃する。
 飛鳥もまたこのサイズの機動兵器としては破格の運動性、機動性、加速性能を併せ持つが、その姿を無数のビームが迎え撃ち、これまでと同じように道行き半ばで足を止められてしまう。
 スウェンのストライクノワールと、シャムスのヴェルデバスター、ミューディーのブルデュエルによる牽制だ。
 GAT−Xナンバー初期シリーズの発展期であるそれらを駆るスウェン達は、見事なチームワークで隙の無い光の弾幕を形成し、防御フィールドと堅牢な装甲を誇るグルンガスト飛鳥でも正面からの突撃を諦める他ない威力を発揮していた。
 飛鳥が加速を止め、機体前面のスラスターを逆噴射させて制動をかける姿を認め、スウェンが小さく呟いた。感情を表に出す方法を忘れた彼にしては珍しい行為であった。

 

「かかった」

 

 生来の獣じみた直感と、ゼオルート、そしてイザヨイの下で鍛え抜いた超直感とでもいうべき知覚能力が、飛鳥のセンサーよりも敵機の発見に気づくのが遅れたのは、やはりジェネシスの存在への動揺と、巧みなスウェン達の連携攻撃による。
 機体に走る衝撃に揺らされて、慌ててシンは飛鳥の後方の映像を手元の3Dウィンドウに表示させた。そこには、飛鳥の胴を背後から締め上げる漆黒の機体が、徐々に姿を現しつつあった。

 

「ミラージュコロイド!? くそ、熱源に反応が無いって事は、スラスターを使わずに動いたってことか」
「おとなしくしていてくれよ、てのは虫の良い話か。パワーがダンチだ。そんなに長く保たないな、こりゃ!」

 

 ミラージュコロイドを解除し、PS装甲を展開し終えたネロブリッツのコックピットで、パイロットであるダナが、MSとはケタ違いの馬力を誇る飛鳥を抑える心労に冷や汗を流していた。
少しでも操縦を誤り、飛鳥に自由を取り戻させたら、次の瞬間には死を覚悟していなければならない。それほどの緊張感が、ダナの血流の中を冷たく流れていた。

 

「エミリオ!」
「分かっている!」

 

 ダナの声に応え、ロッソイージスの可変を終えてスキュラの砲口を飛鳥に向けたエミリオが、トリガーに添えた指を引き絞る。命中の直前にダナが離脱する、などと言う話ではなく、飛鳥に直撃させてから離脱するという命がけの行為であった。
 特機の装甲ならばスキュラの直撃にも即座に破壊される事はないという推測を元に、確実に飛鳥に最大の火力をぶつける為に打ち出した苦肉の策であった。
 半ば成功しかけたそれがひっくり返されたのは、ひとえにシンが一人で戦っていたわけではなかったからだ。スウェン達がチームで戦っていたように、シンにもまた共に戦う仲間達が居る。
エミリオのロッソイージスにリープスラッシャーを見舞い、光のチャクラムによってその左足を奪ったのはステラのヒュッケバイン。

 

「シンは、やらせない!」

 

 三機が並び、ビームの雨を降らしていたスウェン達にはブレイクフィールドを展開したナイトガーリオンがその加速性とブレイクフィールドの防御能力を盾に突っ込み、散開させる。

 

「いったぜ、スティング!」

 

 アウルが見事に役目を果たし、散開させられた事に気づいたスウェンの視界の端で、黄金に輝く飛翔物体が映る。

 

「シャムス、ミューディー、動きを止めるな! 報告にあったDCのガンバレルだ」

 

 アカツキの背から飛び立ち縦横無尽に飛び回り、さらにエミリオとダナも攻撃範囲に収めて、スティングは機体と兵装ポッドの操作を同時にこなす。

 

「あれだけ撃って被弾無しかよ。流石に安い腕じゃねえな」

 

 熱を帯びる思考をクールダウンさせ、あくまでも冷徹に敵を見つめるスティング。アカツキの金色に輝く機体は今も眩く煌めき、被弾の無いヤタノカガミの装甲はいまだ健在を示していた。

 

「悪い、助かった!」
「いいってよ。おら、次が来たぜ!」

 

 ストライクノワールを筆頭に、再び五機のMSが、シン達に銃火を向けている。乾坤一擲の一撃となり、ザフト・DCの守備の壁を突き破らんとする彼らの士気はこれまでになく高い。
グルンガスト飛鳥、ヒュッケバインを擁するシン達四人でもやすやすと勝利は勝ち取れぬ強敵であった。
 シンのグルンガスト飛鳥には、あのアズライガーの相手をしてもらった方がいい――眼前の強敵の打倒よりも、地球連合の切り札と言っていいあの巨大機動兵器の破壊の方こそが重要だと悟っていた。
 そして、スティングはそれを許さぬかの様にこちらの手を煩わせるスウェン達に対して、苛立ちを募らせる。シン達抜きでアズライガーを撃破できるだけの戦力はないわけではないが……。

 

「ちっ、この腕、おれ達と同じで体を弄くられた御同輩かエースかは知らねえが、おれ達はDCの人間だ。手加減はしねえ!」

 

   ▽   ▽   ▽

 

 プラントの後方から回り込んできた地球連合艦隊の伏兵を掃討し終えたアスラン、キラ、ニコル、オウカ、ククルはシンやステラ達が地球連合艦隊と激戦を広げている宙域へと急行していた。
 戦力の大半を振り分け、エターナルと少数の護衛艦を覗く、ノバラノソノ艦隊の大多数の戦力だ。特にミーティアを装備したフリーダムとジャスティスの足は速く、この二機が突出している。
 瞬く度に近づく戦場の炎を瞳に映していたキラが、瞬間、背筋を走った悪寒に従って操縦桿を倒し、フットペダルを踏み込んで機体に回避行動を取らせた。
 わずかな空白の間をおいてフリーダムの前後左右から降り注いだビームは、確かにコンマ秒以前の時間、フリーダムが存在していた場所であった。宇宙空間を割いて肌を突き刺さってくる冷たい殺意に、キラは覚えがあった。

 

「アスラン、先に行って! あの人はぼくが止める!!」
「っ、分かった。クルーゼ隊長か! ザフトの他の部隊が仕掛けてくる様子はない。独断か?」

 

 キラの言葉にかすかに迷いを見せるも、アスランは再びミーティアに最大加速を命じてその場を離れた。アスランに先に行けと告げる間も、間断なくこちらの命を狙って襲い来るビームを回避し、キラもまた反撃に転じていた。
 七十門を越す対艦ミサイルが、発射管から一斉に飛びたち、レーダーが捉えた熱源をすっぽりと覆い尽くすように囲む。駆逐艦程度なら容易く轟沈せしめるその火力を、四方から交差して四角形を描くビームの檻が防ぐ。
 その中心に、憎悪と怨念の源が居た。ザフト製核動力ガンダムの一つ、プロヴィデンス。そして、それを駆るラウ・ル・クルーゼ。キラとムウの両者と、因果の鎖で結ばれた男であった。

 

「まったく、厄介な奴だよ、君は!」
「っ、貴方は! なんとも思わないんですか!? プラントが破壊されたらどれだけの人間の命が無くなると!」
「それで構わないさ。母国を焼かれた事実は、人々の心に消えぬ憎悪の炎を燃やし、それは敵対する者達全てにとって地獄の業火となって降り注ぐだろう。さすれば! 地球も、プラントも、互いを滅ぼし尽すまで止まらぬ戦いの口火を切る。
 いや、すでに切っているのさ。私は、ただそれをほんの少しだけ速めるように仕向けただけに過ぎない。そして、ようやくここまで来たのだ。今さら盤をひっくり返されるような真似は御免被る!」
「戦争を、人の命を、ゲームの駒にするつもりか! 何様だ!!」
「私の命さえも駒なのだよ、キラ君。さあ、愚かしくも必然の成り行きを迎えたこの戦争ゲーム!! その結末がどうなるか、互いの命を掛けて語り合おうじゃないか!!」
「戯言を!!」

 

 ミーティアとフリーダム、そしてプロヴィデンスの二機が持つ全火力が、両機の中間に存在するすべての物質を吹き飛ばし、蒸発させ、消滅しながら幾度も放たれる。
 自分の肉体の様に機体の四肢の隅々まで把握し、理解したキラとクルーゼは、エースの領域さえ超えた機動をお互いの愛機に与え百分の一秒のミスが死につながる戦いの幕を開いた。
 キラは因果律の番人によって与えられた異世界の記憶、そして多くの教師達の導きによって本来の歴史を大幅に上回る実力を発揮し、クルーゼは萌芽したニュータイプの能力を十二全に引き出していた。
 機動性と言う点では難儀なものを抱えるミーティアをパージしたキラは、ルプス・ビームライフルの二射でドラグーンを一基破壊する。
 狙いは二基を落とす事だったが、もう一機はキラの殺気を感じ取ったクルーゼの操縦が間に合い、ビームを軽やかに回避している。

 

「ラウ・ル・クルーゼ!」
「キラ・ヤマトォオ!!」

 

 互いの機体の頬をビームが掠めた。純然な殺意の糸が両者を繋ぐ。

 

   ▽   ▽   ▽

 

 アズライガーの猛攻は変わらなかったが、ザフト・DC側も十分とはいかぬまでもそれなりに対策は用意していたと見え、スーパースキュラをはじめとした超火力は、Eフィールド搭載の援護防御用の艦艇や、ジガンスクードの前に防がれる。
 アズライガーに続く地球連合の友軍艦隊も、マイヤーの指示で前線に出たトロイエ隊の量産型ヴァルシオーネが放つサイコブラスターの連続攻撃の前に、一機、また一機と数を減らしている。
 今やω特務艦隊とアズライガーのみが地球連合艦隊最後の頼みの綱となっていた。長引くに連れ悪化する戦況に、苛立ちを募らせていたムジカが、ゲイツ二機をビームカタールソードで切り裂いたイングラムに通信を繋げる。
 青い髪の冷徹な青年は、黙ってムジカの提案を聞いていた。

 

「イングラム少佐、今しかありません! アズライガーはまだ健在だけど、このままじゃ味方が壊滅するのは時間の問題です。お願いします!」
「確かに、友軍の消耗を考えればここで一手打つしかない、か。ジョージー、グレン、おれとギリアム少佐、アヤが援護する。パターンOOCを承認する」
「本当ですか!?」
「……了解です」

 

 驚く声をあげるグレンと、淡々と返事を返したジョージーも、ようやく許された切り札に心中では闘志の炎を燃やしていた事だろう。単機で戦局をも覆す。それだけの力を、彼らは与えられている筈であった。
 OOC――Only・One・Crush。成功確率の低さと失敗時に危険性からそう名付けられたコードが各機で入力され、プログラムに従い、R−1、R−2パワード、R−3パワードの順に激しく交差しながらフォーメーションを組む。
 イングラムからパターンOOCの解禁を求められたレフィーナは、現状を打破する一手として、一瞬の沈黙ののちに承認し、各機に可能な限りWRXチームの援護を行わせる。
 アンチビーム爆雷、スモークディスチャージャーをはじめとした目晦ましや砲撃支援が飛び交う中、Rシリーズ各機の変形が始まる。
 R−1は頭部および胸部へ、R−2パワードは両腕と胴部を、R−3パワードは腰と脚部へと変形し、パワードパーツの組み換えも同時に行われ、そこに巨大な人型が徐々に形作られてゆく。
 その光景にいち早く気づいたヴィレッタが、ついにその姿を見せる地球連合側のWRXの姿を、どこか懐かしそうに、そして寂しそうな複雑な眼差しで見つめていた。
 時間にすればわずか数秒にして、R−3パワードが展開していた合体時への攻撃に対する防御用Eフィールドの中から、全高五十メートルを超す巨大人型機動兵器が姿を見せた。
 トロニウムエンジンの代わりに複数のTEエンジンと核分裂炉を搭載し、T−LINKシステムは無く念動フィールドによる関節部の補強の代わりにEフィールドやPS装甲を用いて補ったCEのSRX――WRXの誕生の瞬間であった。
 めったに使われる事の無いR−1のシールドがゴーグル上の頭部となり、独特のシルエットを描くWRXのメインパイロットを務めるムジカが、即座に火器管制を行っているグレンとTEエンジンの出力調整を一手に引き受けるジョージーに声をかける。

 

「ジョージー、グレン、最初から全力で行くよ!」
「おうよ、おれ達の力を見せてやれ、ムジカ!」
「出力調整はお任せを。お望みのままに制御して見せます!」
「いっけえええーーーーーー!!!」

 

 計十門の両手指のハイTEランチャー、脚部に収納されているマイクロミサイル、頭部ゴーグルからのガウンジェノサイダー、脳波制御によるストライクシールドを始めとしたWRXの全火力が、アズライガーと共に一斉に宇宙の漆黒を七色に染め上げた。
 アズライガーにも匹敵しよう暴力的なエネルギーの塊が直線を描き、そこに数珠繋がりの光の球を幾つも結んだ。その圧倒的な火力、そして選び抜かれたパイロット達によって遺憾なく性能が発揮されれば、ただしく戦局を左右する超絶の兵器と化すであろう。
 幸いにしてウルブズの各機は巻き込まれなかったものの、これで最後と息を巻いていたザフト・DCの部隊がいくらか飲み込まれ、防衛布陣に綻びが生じてしまう。

 

「ローエングリン、一番二番……」
「撃てえーーーー!!」

 

 レフィーナのゲヴェルとナタルのドミニオン、さらにほかの艦隊に配置されていたアークエンジェル級からも一斉に陽電子破城槌の光が放たれるや、WRXが生んだのと同じだけの光球を伴って、防衛布陣に太い空隙が一文字引かれてしまう。

 

「いかん!」
「本艦を前に出せ。フィールド出力を最大にして展開、ジガンスクードを艦首に固定」
「タマハガネに続け、本艦と合わせて盾にするぞ」

 

 一気に加速し始めたアズライガー他連合の部隊に気づき、甚大な被害に動きを鈍らせるザフトやDCの中で、エペソとフェイルが即座に対応し、スペースノア級二隻を艦隊の空隙に滑り込ませた。
 タリア・グラディスが艦長を務めるブランシュタイン隊旗艦ウィクトリアの他にも、数隻の艦艇が、エペソ達に続き、その左右や後方に艦を動かして砲撃を加え始めた。
 乱れ交うビーム、ミサイル、設置された機雷群をことごとく跳ね返しアズライガーとWRX、ガルムレイドをはじめとした特機を戦闘に、連合の部隊が半ば特攻じみた勢いで進撃する。
 これまで無数の攻撃を跳ね返してきたジガンスクードも、度重なる攻撃の前についにフィールドを破られ、機体自体と両腕の分厚いシールドで攻撃を防ぐしか術がなくなる。

 

「やべえ、根性出せよ、ジガン! いまが、ここぞって時だろうが!!」
「タスクっ」

 

 アズライガーのスーパースキュラの一撃を受け、左腕のシールドを丸々破損したジガンを、レオナが脇から支え、そこに出来た隙を埋める様にしてカーラとユウが弾幕の雨を広げてカバーする。

 

「レオナ、ジガンを牽引して格納庫に戻れ。ユウキ、リルカーラ、ジャン、ゼオルート、補給のいる者はいるか」

 

 オクスタンライフルの連射でMA形態のレイダー一個小隊を撃墜したアルベロだ。シン達もこちらに合流しようとしているが、スウェン達に阻まれて思うように動けずにいるようだ。
 機体スペックでは上回る筈のシン達の足を止めている事実から、相手は相当の手練だろう。もっとも、手練でないパイロットなど、この場には一人もいないだろうが。

 

「マサキ、リカルド、テューディ、アズライガーに砲火を集中させろ! オールト、シカログ、アギーハ、ヴィガジはマサキ達の援護を。直衛はいらない、それよりもあの機体を止めろ!」

 

 デュラクシール・レイで出撃していれば、と歯を噛みしめて悔みながらフェイルが指示を飛ばし、エペソの同様の判断を下したか、ウルブズ所属のほぼ全機がWRXとアズライガーへと向かってゆく。

 

「邪魔を、する、なあああああああーーーー!!!!」

 

 アズラエル自身こそ半ば発狂したような状態にあるものの、機体制御を司るソキウス達とゲーザはあくまでも機械的な冷徹さでアズライガーを動かし、立ちはだかる敵に対して正確無比な狙いで攻撃を加え続けていた。
 サイバスター、イスマイル、ザムジードが果敢に攻撃を加えているが、周囲のカイやオルガ、ギリアム、アヤの連携の前にいま一つ調子がそろわず、アズライガーやWRXにわずかな傷を刻んでは、後退をするという行為を繰り返していた。
 DCの精鋭達の思わぬ苦戦を見ていたイザークは、すかさずヴィレッタに進言する。レイやルナマリア、シホ達も同じだろう。

 

「隊長、WRXを!」
「……」
「隊長、何を迷う事があるというんですか! 今、ここで、おれ達の力を使わずに、いつ使うというのです」
「隊長!」
「分かったわ。ヴァリアブル・フォーメーションを承認する。WRXチーム各機、フォーメーションを再構築、ここで一気に敵を叩く!!」

 

 R−GUNパワードのコックピットの中で、この日十数機目になる敵機を撃墜したイングラムが、独特の機動を始めたザフトWRXチームに気づき、かすかに目を細めた。その果てに姿を見せる者を見極めんとするような仕草であった。

 

「見せてみろ、ヴィレッタ。お前が作り上げたこの世界のSRXを」

 

 そう呟くイングラムの視界の中で、地球連合WRXチーム同様にザフトWRXチーム各機も変形を始める。相違点は、イザークの愛機R−1に装備されているデス・ホーラーがそのまま大口径レールガンに変形して右肩部に装着された事だろう。

 

「WRX――貴様の力をおれ達が引き出してやる!」

 

 吠えるイザークのバイザーに、アズライガーと地球連合WRXをロックしたマーキングが映る。さらに続き、その後方に居る数を減らした連合部隊も捉えていた。

 

「ルナマリア!」
「敵機ロック、オッケー! あとは撃つだけです!」
「よし、落ちろおおおお!!」

 

 躊躇なく引かれるイザークのトリガー。それは、ほとんど先程の地球連合WRXが開いた撃墜劇の再現であった。残りわずかになっていた量産型ガルムレイドも、105ダガーやダガーLも、一挙に撃墜される。
 残っていたドレイク級、ネルソン級も、同様だ。紙でできた船の様に呆気なく大火力によって、船体を真っ二つにされ、爆散されてゆく。この一撃で、突入してきた連合残存艦隊の戦力は、実に二分の一ほどにまで減っていた。
 左舷部に被弾し、船体を大きく揺らされたドミニオン内部で、ナタルが状況報告を受けきつく結んでいた唇の端から、赤い筋を零した。もはや絶望の二文字のみであった。
 残った核ミサイル部隊も、わずかに一個中隊、二十四機ほど。それでは残るザフト・DCの部隊を突破する事は出来まい。
 しかし、それでも後退は許されなかった。旗艦シンマニフェルからは再三に渡ってジェネシスを破壊せよという指令のみが通達され、また、地球破滅の可能性がある以上ジェネシスを破壊せずに済ますわけにもゆかない。
 このまま、ただ邁進し続けて誰も彼もが討ち死にするしかないのかもしれない。月の増援艦隊がついた頃にはこちらは全滅しているだろう。今からでも降服してジェネシスの使用が必要の無い状況にすれば、最悪のシナリオは防げる。

 

『バジルール少佐、リー少佐、よろしいですか?』
「エンフィールド中佐……」

 

 レフィーナも同じ考えに至ったのか、こちらに繋がれた画面の向こうでナタルと同じくザフトへの降伏も已む無しという考えを告げてきた。
 ブルーコスモス派と目されるイアンの反応が気になったが、重々しく息を吐き出すや、止むを得んでしょう、の一言共に了承の意を伝えてきた。
 コーディネイター憎しの思想は変わらぬが、地球を撃たれるような事態とでは背に腹は代えられないと考えたのだろう。
 となるとそれを認めさせなければならぬのはシンマニフェルのサザーランド大佐と、アズライガーのコックピットで半狂乱になっているアズラエルだろう。
 その二人をどうやって止めるか、それはある意味現状からジェネシスを破壊するのと同じくらいに困難な事だろう。事実、三人が顔を突きつけ合っている間にも、アズライガーは立ち込めた爆煙と変わらず降り注ぐ攻撃の中を、暴虐の嵐となって駆け抜けていた。
 もし、アズライガーの同型機がもう二、三機もあったならこの現状にも希望の光が指していた事だろう。アズライガーの指に光が灯る度に最大十機に及ぶMSが撃墜され、両膝と両肩の超巨大回転衝角の前には砕けぬモノはなかった。
 しかし、孤軍奮闘では覆せぬ状況が、今のこの戦場であった。アズライガーと肩を並べる超性能を誇るWRXは、同型機同士の戦いとなり、それを援護する友軍機との連携が決着を左右する状況に陥っていた。
 高級コーディネイトを施されたイザークと、ニュータイプの片鱗を開花させたムジカらの能力差がほぼなく、機体性能も同等という関係から生じた状態であった。
 数える事に苦痛を感じるほどに繰り返されたスーパースキュラの輝きが、鎖から解き放たられるのを待つ獣のように凶悪に輝いたその瞬間、無数のミサイルと大口径ビームがその胸部へと突き刺さり、その攻撃によって胸部の三連の砲口を潰された。

 

「誰だDAあああAA!!」

 

 彼方より飛来する真紅の機体は、アスラン・ザラの駆るミーティア装備のジャスティスだ。更にエルザムの漆黒のジャスティス・トロンベとライディースのフリーダムだ。
 これまでの激戦で機体もパイロットも消耗していたが、勝負所を見間違える兄弟ではない。ノバラノソノに属しザフトに反旗を翻したとされるアスランの機体に気づいたが、あえて無視した。

 

「アスラン、ライディース、一気に畳みかけるぞ」
「エルザム隊長……すみません」
「足手纏いにはなるなよ!」

 

 三機の核動力機がそれぞれアズライガーの各所へと光刃と光矢を放った。対空レーザー機銃の五月雨を、パージしたミーティアを盾にして回避し、その煙を割いて姿を見せたアスランのジャスティスが両手に握ったビームサーベルを縦横に動かした。
 光の刃の軌跡は十文字の斬痕をアズライガーの左肘に刻み、斬り落としていた。

 

「があああ、生意気なんダヨ!!」

 

 傍らを駆け抜けたアスランのジャスティスの背へと向けられるターミナスキャノンを、ライのフリーダムからのフルマット・ハイバーストが吹き飛ばし、堅牢な重装甲に幾筋ものビームとレールガンの弾丸、プラズマが突き刺さって抉る。
 ようやくその動きを鈍らせたアズライガーめがけてボアズで苦杯を舐めたサイバスターとイスマイルが、とどめの一撃を加えんと機体から立ち上るプラーナの不可視の光が激しく揺れる。

 

「行くぜ、アカシック……バスター!!」
「地獄の番卒どもの顔を見てくるがいい、オメガブラスト!!」

 

 神鳥へと姿を変じて緋炎を纏って虚空を飛翔するサイバードと、それを守護する様に左右を流れるオメガブラストの破壊の光流。ゲーザとソキウスの超反応が、破滅必死の二連続攻撃をかわさんと機体を動かす。
 人間的限界を超えた機動を見せるアズライガーの両脚部をオメガブラストが飲み込み、上方に逃れたアズライガーを、獄炎の断罪者と化したサイバードが追っていた。
 メインモニターを埋め尽くす炎の神鳥の神々しさと雄々しさを前に、アズラエルの喉から零れる凶声は、犯した罪の裁きを前にした罪人の様に許しを乞うものに変わっていた。

 

「な、ああああ、ぼくが、ぼく、が、が、ああああ、こんな処でぇええぇえぇえええ!?!?!?!?!」
「テメェは灰にする! いっけええええ」

 

 暗い闇の中に嘴を突き立てるサイバード。拒絶を告げるように固く在り続けるPS装甲とラズナニウムの複合装甲との戦いは、しかし、瞬時に決着がついた。

 

「おおおおおおお!!!」

 

 昂ったマサキのプラーナに比例しその炎の熱量と輝きを増すサイバードの嘴がついにアズライガーの内部に潜り込み、炎の羽根を散らしながら翼が羽ばたくや、一挙にその機体の胴体を真ん中から貫いた!

 

「そ、ん、な……バカナアアアア!!」
『畜生、チクショ……おれは、おれはまだゲーム……オーバー、するわけにゃ、まだ、楽し、むん、だ』

 

 アズライガーの背から抜けたサイバードが、纏っていた断罪の焔を払い、銀に輝く麗騎士サイバスターへと変形し、背後に生まれたひときわ巨大な爆発の光を浴びて輝いていた。

 

   ▽   ▽   ▽

 

「っ、なんだ? どこかで聞いた声のような……」
「ああ? なんだ、おれの声かぁ?」

 

 アズライガーの撃墜と同時に、ヴァイクル同士の死闘を継続していた二人の脳裏に、断末魔の瞬間に再び自我を取り戻したゲーザの声が届いていた。
 テンザン・ナカジマとして、ゲーザ・ハガナーとして、そしてアズライガーの制御中枢として三度目の死を迎えた哀れな男の死を知る者は、誰もいなかった。
 そしてアズライガーの撃墜は大きく地球連合残存艦隊の士気を著しく低下させるには十分だった。アズライガーの奮闘を最後の縁にしていた兵士達は呆然と最後の希望であった破壊王の消滅に、我を失う。
 ようやく姿を見せる事の叶ったWRXに乗っていたムジカも、カイやスウェン、ヒューゴ、アヤらももはや逆転の眼が無い事を悟り、重く口を閉ざしていた。
 スウェンらと交戦を続け、ミューディーのブルデュエルの左足を斬りおとし、ネロブリッツの右腕を撃ち抜いたグルンガスト飛鳥のコックピットの中で、シンもアズライガーの撃墜を確認し、眉間に刻んでいた皺を幾筋か解した。
 戦闘の最中ながらわずかに緊張を弛緩させた所為か、ぬるりと首筋を濡らす冷たい感触に今さらながらに気付く。念能力の暴走による全細胞への過剰負荷による出血と細胞の壊死が、今もシンの体のあちこちに潜んでいる。
 無理に戦闘に出たせいで、徐々にシンの体の中で外で、死の歩いてくる音が響き始めていた。戦闘の集中に耐えられるのは、もって一時間か二時間だろうか。

 

「でも、アズライガーを落としたんなら、いくらなんでも」

 

 地球連合も諦めるだろう、そう安堵したシンの赤い瞳に、再びあの創世の光が流れた。ジェネシス、その二射である。

 

「そんな、もう決着は着いたも同然なのにまだ撃つのか!? 目標は!」

 

 まさか地球が、と焦るシンが射線を解析するとジェネシスの射線が狙ったものが月からの増援艦隊と、月基地プトレマイオス・クレーターであると判明した。
 地球連合は月の裏側にも大規模な基地を持っているが、それでもプトレマイオス・クレーターと増援艦隊を壊滅させた事で失った人的・物理的な損失を補う事は、如何に地球連合といえど容易ではないどころか大難事の筈だ。
 数カ月単位で大規模な戦闘が起きる事もないだろう。そう安堵するシン。だが、前線でそのように決着を確信して安堵する兵士達とは裏腹に、ヤキン・ドゥーエと軍司令衛星に詰めていたザフトの上層部とパトリック・ザラは混乱の極みにあった。
 ジェネシスの第二射は、彼らの命じたものではなかったのだ。目標こそ設定どおりであったが、その命令を実行したのは彼らではなかった。
 突如自分達の手を離れた切り札に動揺を露わにする司令部の中で、パトリックだけが平静を保ち、怒号を持って慌てふためくオペレーターや司令達を落ち着かせた。

 

「落ち着いて状況を報告しろ。なぜジェネシスがこちらのコントロールを受け付けないのか。その原因の解明と分析を急げ」
「ぎ、議長!? モニターを」
「むぅっ」

 

 さしものパトリックを唸らせたものは、ヤキン・ドゥーエの司令室の全モニターを埋め尽くす『All In One』の文字であった。
 そして、急速に、それまで潜めていた息を大きく吐きだし、吸いこむように、ジェネシスの表面が、ぼこりと蠢いた。