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SRW-SEED_11 ◆Qq8FjfPj1w氏_第19話

Last-modified: 2014-01-03 (金) 00:50:28

「明かされる真実」

 

「ん…ここは?」

 

とろけるように甘いと同時に舌が捻じ曲がるほど苦く、暖かいと同時にこごえるほど寒い感覚に呑みこまれて意識を失ったシンが目を覚ます。
見上げる天井にはどこか見覚えがあるような気がするが、答えが明確に出るわけではない。
ただ、口の中にある絶望の影がシンの心にとてつもなく大きい苦しみを思い出させる。

 

「災難だったな、シン・アスカ」
「え?」

 

聞き覚えのある声の方向にシンが目をやると二人の男が枕元に置かれたパイプ椅子に腰掛けている。
目覚めたところの脇にはキレイどころの方が欲しい気もするが、さすがにそんなことをいっていられる身分ではない。
二人のうちの1人は若さと込み出し始めた威厳を表情に同居させた青年、そしてもう1人は顔や背格好自体が歴戦の戦士であることを物語り、目には鋭く輝く光と暖かな包容力を宿している。

 

「ダイテツ艦長にテツヤ大尉?」
「事情は聞いている。アレを飲んだらしいな。まあ飲んでも毒ではないから安心しろ」
「ハハハ…」

 

あの味は毒だろ、常考…などと内心は思いつつ、苦笑いを浮かべるしかないシンであった。

 

「さっそくで悪いんだが、今からワシ達と来てもらう。皆がブリーフィングルームで待っているのでな」
「それってもしかして…」
「ああ、お前の話を聞かせるためにみんなに集まってもらっている。ワシも大体の話は聞いているが、なんぶん異星人よりも信じ難くてな」
「…もっともだと思います。俺も最初は信じられませんでしたから」
「だがな、シン。お前が心を開いて接すれば、きっとお前を受け入れると信じておる。きっと異世界から来たのだと言っても乗り越えられるはずだ。ワシの部下はそういった者が集まってくれておる」
「ハイ…ありがとうございます」

 

ダイテツの言葉に自分の胸のつかえがとれたように心が楽になっていくのがシンにははっきりとわかった。ミネルバ時代の艦長のタリア・グラディスに大きい不満があったわけではなかったが、
経験に裏打ちされた厳しさと優しさを持ち合わせたいかにも軍人だ、と思わせる人物だと思える。
乗船していた期間は長くはなかったが、ハガネは、いつの間にかそこにいるのが当たり前のような感覚を覚えてしまうような居心地のよさを持った艦であった。

 

シンはベッドから立ち上がると、ダイテツとテツヤの後に続き、少し歩きなれた通路を静かに歩き出した。徐々に、徐々にブリーフィングルームに近付いていく。
そして扉の入り口上部のセンサーが先頭を歩くダイテツの姿を捉えると、どこかに空気が抜けていくような音とともに扉が開いた。
それと同時に室内で繰り広げられていたであろう雑談が急速に収束していく。だが声が徐々に小さくなっていく一方で、声ならぬ声、
つまりダイテツとテツヤの後に続いて入室してきたシンに突き刺さる何十もの目から発せられる視線が、お前の正体は何なんだとシンに問い掛けている。やや思い沈黙が場を支配し始めた。

 

「急な話でスマンな。まあ大体の用件はわかっていると思う。早速で悪いがシン」

 

そんな場を切り上げるかのように間に入ったテツヤに促され、普段は作戦説明を行なうための簡易デスクの前にシンが立つ。

 

「…もう知ってる人もいるかもしれないけど…俺はこの世界の人間ではありません…おかしい話だと思うかもしれないけど…」

 

シンは普通の人間であればまずすることはありえないような話をし始める。自分がいた世界について、自分がどうしてここにいるのか、どのようにしてこの世界に来たのか等をわかっている範囲でではあったが…

 

「…以上が俺のわかる限りのことです」

 

どこかに魂が抜けていったかのような脱力した表情と胸のつっかえが取れてすっきりとしたような表情を同居させているシンが言葉を閉じた。
数秒してその話を聞いていたハガネ・ヒリュウ改の歴戦のパイロット、メカニック達が徐々にざわつき始める。各々が感想や疑問点などを口々にしており、ざわつきは大きくなっていった。
話を聞いていたダイテツやヴィレッタ、カイのようないわば年長組でさえも現在知覚した情報を記憶し、理解しようと必死になっている最中である。

 

「なあシン、1つ聞いていいか?」

 

各自の脳内の混沌状況が続く中、そこからいち早く抜け出してシンに疑問をぶつけたのは、「異世界」というものを経験した点において共通点を有する男、魔装機神サイバスターの操者、マサキ・アンドーであった。

 

「俺で分かる範囲なら…」
「今の話を聞いてて思ったんだけどよ、もしかしてアメリカで俺達に仕掛けてきたあのピンクの連中がお前のいた軍をぶっ潰した連中か?」
「ああ、ラクス・クラインに率いられたオーブ軍艦隊…その実質的な旗艦が、俺達がこの前出くわしたエターナルだ」
「そういやそのラクス・クラインって名前。さっきもお前が言ってたよな、要は前の戦争に殴り込んでドンパチを終わらせたっていう…」
「俺達ザフトの中にシンパがたくさんいるんだよ、平和の歌姫だなんて言ってる奴もいるし、あいつらを歌姫の騎士団だなんて呼ぶ奴までいたよ」
「オイオイ、ピンク色の頭した第3勢力って…それじゃあまるで…」
「お、リュウセイ。やっぱりお前も思ったか」

 

シンの回答を遮り、自分達の記憶している某ロボットアニメを連想させる集団について言及し始めたのはリュウセイとロバート・H・オオミヤ、通称ロブであった。

 

「あったりまえだぜ!率いてる奴がラクスって言うならマサキ達が遭遇したのはさしずめラクシズってところだな」
「おぉ、それは俺も同意見だな」
「言ってること間違っちゃいないのかもしんねーけど、やってることが騎士団っつーより死鬼団じゃね?」
「こらこら、そしたら下手したらラスボスになってしまうじゃないか」
「確かにそいつは違いねえ」

 

彼らのお気に入りのロボットアニメとゲームの話が混ざってきて周囲の人間が軽く引き始めると同時に冷静さを取り戻し始めた中、
苦労と経験がにじみ出てしまった結果として実年齢よりも年上に見られてしまうことが最近の専らな悩みであるカイ・キタムラが他のクルー達に先立って質問を再開させた。

 

「シン、お前は以前にスクールの話になったときに普段はあまり見かけない、険しい表情をしていたな?あれはもしかしてお前の…」
「…………はい。俺達の世界ではエクステンデットと呼ばれてましたけど、薬とか洗脳みたいので人間をマシンみたいにしていたところは同じだと思います」

 

その場にいたラトゥーニやアラドの表情が一気に険しくなり、リュウセイも鋼鉄の戦士達の世界から現実の世界へと戻ってきていた。

 

「ふとしたことからエクステンデットの女の子と知り合いになって…守るって約束したんですけど…俺はその子を守れませんでした…」
「おいシン!まさかそれも…」

 

再びマサキが話に入ってくる。

 

「ああ…その子もフリーダムに…」
「フリーダム?」
「さっき話した連中の中の1人が乗ってた機体です。アメリカで遭遇しました。…みんなの仇はマサキが討ってくれたんですけどね…」

 

事柄の性質上やむをえぬ重い沈黙が再びその場を支配し始める。
そんな空気を察したのであろうが、話題をやや変えるべく次に口を開いたのはシンがこの世界に来てからしばらくの間ともに戦ってきたブリットであった。

 

「そういえば、お前が喋っていたアルブレードモドキのパイロットもお前の世界から来た知り合いなのか?」

 

ブリットの質問は、シンがエキドナにより撃墜されてエルザムの元へと運ばれていくまでの間、ハガネでともに戦っていたハガネのクルー達の中にあった最大の疑問であった。
存在するはずもない機体に加え、その謎の機体のパイロットと知り合いのようにも思える言動をしていたシンを不思議に思うのはむしろ当然であろう。
その理由を聞きだす前に唐突にシンは、ギリアムによりハガネから連れ去られており、彼らとしても困惑していたところが大きかったのだ。

 

「あの機体に乗っていたのは俺の元上官だった奴だよ。名前はアスラン・ザラ。気に喰わない奴だったから悔しいけど、俺よりは腕が立つ」
「元…?」
「戦争の途中で俺達を裏切ったんだ…自分の友達だとかいう奴がやられて逆上して、いきなり脱走して…脱走に使っていた機体を落としたと思ったら今度はいきなり敵の側についてたよ」
「敵の側って、お前達の言うところの地球連合軍ってことか?」
「いや、そうじゃない」
「じゃあその……あの…ラクシズの側に回ったということか?」

 

正式な名称を持たない覇王の軍勢の呼び名に窮していたのはブリットだけではなかったのだが、結果として周囲の疑問をブリットは代弁することになっていた。
なお、リュウセイが半ば冗談交じりでつけたこの呼称は、「適切な」呼称が存在しない覇王の軍勢を指し示すものとして、呼びやすい呼称であった故にポロリとブリットの口からでたのであったが。
だが、たしかにアスラン・ザラは復帰したザフトからメイリン・ホークを連れてグフを強奪して脱走したことは事実であるものの、
所謂神の視点から見た客観的な事実としては、裏切ったのではなく、覇王の下僕の1人として忠実に、
シンの鬼気迫る戦いによってフリーダムが失われて、戦力が大きく下がってしまっていたときという最高のタイミングで覇王の軍勢に戻ってきただけなのだ。
つまり元々表で一時的に裏返っていた者が表返っただけなのであるが、それはシンやハガネ・ヒリュウ改の面々の知るところではない。

 

「死んだと思ったら新型の機体に乗って俺の前に出てきたときは正直信じられなかった」
「…すまないが俺も少々聞いていいか?」

 

少し緩んできた空気を察したのか、シンの回答から何かを理解したのか声を上げたのはエルザムの弟ライであった。

 

「今までの話が本当ならば、お前のいた世界の人間がノイエDCと手を組んだということになると思うのだが、今までにあがった面々以外でお前の世界から来たという者はいたのか?」
「いえ、今言った連中だけです」
「よくわかんねえけど、アメリカで俺達に喧嘩売ってきやがったときには、ピンクの奴らは連邦にもDCにも手は貸してないっぽかったぜ?」

 

マサキがふと横から助け舟を出した。
実際のところはこの告白がなされているちょうどこの頃、覇王の軍勢はアーチボルド指揮下の部隊との交戦を終え、接触をし始めていたのであったが。

 

「そうか…正直言って悪いのだが、俺にはお前のいた軍も、連合軍も、…その第3勢力もあまり信用ならない。ただ、お前が嘘を言っているとも思わない。
 だが、どうして異世界から来たお前は連邦軍に入れた?話が正しいならお前がこの世界に来てからそう長くは経っていないはずだが?」

 

心と体を徐々に蝕みつつあったリュウセイ病に抗い、なんとか覇王の軍勢を第3勢力と呼んだライであったが、
彼の思ったところは彼の兄、レーツェル・ファインシュメッカーことエルザム・V・ブランシュタインと全く同じであったところにシンは、やはりライディースはエルザムの兄弟なのだなと内心感じる。
やはりこの兄弟は切れ者なのだと再認識したシンであった。

 

「こっちの世界に飛ばされて宇宙で彷徨ってたらしい俺をエルザム少佐が救助してくれたんだ。あとは少佐が手を回してくれたらしい。
 今だから言えるけど、このハガネに乗ってこの世界を見て回るよう言われたんだ」
「正確にいえば、最終的に手を回したのはレイカーだがな。黙っていて悪いが、ワシとレイカー、それにギリアム少佐はシンについての話を聞いておった」

 

シンの説明にレイカーが補足をした。ちなみに今のタイミングでシンがエルザムだけでなく、一緒にいたゼンガーの名前を出し、
つい最近までともにいたことをここで話せば、ノイエDCの新型特機とおぼしき機体、スレードゲルミルのパイロットがゼンガーでないことがハガネのクルー達に判明するのであるが、
意図的にゼンガーの名前を出さなかったわけではない。単にエルザムと行動をともにすることが多かったからエルザムの名前を出しただけのことである。

 

そして、レイカーやギリアムの名前が出たところでシンの話の信憑性が一気に高まったのか、その後シンに寄せられる質問は一気に減っていったのだが、
誰も質問しなくなったのを見計らってか、最後に今まで沈黙を守っていたキョウスケが口を開いた。

 

「…お前の話はわかった。だがお前はこの世界でどうするつもりだ?少なくともお前が自分の世界に帰る術を持っていることはないようだが」
「キョウスケ中尉の言うとおり、俺にはもといた世界に帰る方法はわからないです…
 でも…だからこの世界の出来事が俺には他人事じゃないと思ってます。それに…DCみたいな連中や異星人を見過ごすなんて俺にはできません…」

 

シンの持つDCのイメージとしてはエクステンデットの開発・使用をしていた連合に近いものがある。
もちろんDCには、手を尽くしきった結果、自ら悪となり、戦争という劇薬を使用してまでこの地球を守りきろうとした悲劇の天才科学者ビアン・ゾルダークの興した組織という側面もあり、
実際のところDCの中にはいわばビアン派と反連邦派が混在していたと評しうる。現在のノイエDCを率いているのもビアン派の中枢の1人バン大佐なのだが、シンにとってはステラの一件があるため、
反連邦派に近い旧スクール関係者のイメージがどうしても強く残ってしまっていたため、このような言葉が出てきたのである。

 

「…俺はあまり異世界の話に興味はない。ただ共に戦う仲間としてあてにできるかどうか、だ」
「俺はハガネやヒリュウのみんなと一緒に戦っていきたいです…」
「それならばかまわん…これからもあてにさせてもらうぞ、シン」
「ハイ…よろしくお願いします」

 
 

こうしてハガネの中ではひとまずのところ一件落着といってもよさそうな状況になりつつあったのだが、
アーチボルドのキラーホエールとエターナルはインスペクターの襲撃を受けることなく無事にアースクレイドルが潜行している地点の近くまで到達していた。

 

そして、エターナルがアースクレイドルに入る前に、クレイドルから出撃してきた一隻のライノセラスから数名の人間がエターナルへとやってきていた。
自らの諜報機関ターミナルから得た情報などを基にして作り上げられた精神措置装置、ナチュラル達からはゆりかごとも呼ばれる装置による諸々の処置を終え、
医務室で目覚めの時までの眠りにつく「キラ・ヤマト」と彼の目覚めをその傍で待つアスラン・ザラを余所に、
アースクレイドルからの使者を迎えるべく、応接室の中にある一際高く、煌びやかな装飾の施された椅子に深く腰掛けて静かに瞳を閉じていた覇王の耳に、扉をノックする音が入ってきた。

 

「どうぞ、おはいり下さい」

 

覇王が入室を促すと、ダコスタに連れられてきた3名が入ってきて各々が空いている椅子に腰掛ける。
それを確認した覇王は自分の目の前にあるコーヒーカップを手に取り、一口だけ口に含み飲み込むと立ち上がって、部屋に入ってきた3人を見て口を開いた。

 

「わたくしはラクス・クラインです。このたびは私たちをお招き頂きありがとうございました」
「フェッフェッフェ、気にすることはない。アスランの奴から色々と聞かされておったのでな。そのついでじゃ。ワシはアギラ・セトメ。見ての通りの地味な婆さんじゃよ」
「私はアースクレイドルの管理代行をしているイーグレット・フェフだ。今回は管理代行者として来させてもらった」

 

2人のマッドサイエンティストが覇王の自己紹介に対して自分の情報を相手に伝え終えると、残った1人も覇王の方を向いて手を差し出した。
その体と同じようにスラリと伸びたその手は細長さと手の美しさとが相まってとても華奢に見受けられるのだが、
それとは対照的にその瞳は相応の「場」を経験してきた力強さと妖艶さを同居させた光を放っており、伸びた髪の色は覇王に近いピンク色をしている。
違いがあるとすれば、適切な部分に申し分のないサイズの凹凸を具備して周囲の男達を引き付ける体のラインと、
真っ直ぐに伸びる覇王の髪と異なり、くせっ毛かパーマネントで膨らみを備え、すれ違った男達に嗅がせる色香を滞留させている髪の毛であろうか。

 

「レモン・ブロウニングよ、よろしく」
「ラクス・クラインですわ。よろしくお願いします」

 

室内の光を唇のルージュが反射して艶めかしさを放つが、改めての自己の名前を述べつつ、差し伸べられた手を握り返す覇王の瞳は全く笑っていない。
大方、同じピンク色の髪同士でだからお互い気に食わなかったのだろう、というのは後日のイーグレットの談だ。
握手という儀式により、「顔見知り」の関係になったことになっている4人の中では言葉こそ紡がれないものの、互いがそれぞれ腹の中で思うことは存在していた。

 

「お前さんがラクス・クラインか。さっきも言ったがアスランから色いろと聞いておるぞ。非常に優秀な『指揮』を執るようじゃの」
「私達にも至らぬ点は数多くありますわ。あとはアスランたちの頑張りによるものです」
「そうか、そいつは悪かったの…じゃがお前さんの『説法』は実に見事なものじゃったの」

 

ニタリとした笑みを浮かべながらアギラは覇王を見つめ、まだかまだかと返事を待ち焦がれる。

 

「『説法』?どういうことでしょう。わたくしは、お味方してくださる方達にはその持てる力を出し尽くして頂けるようご奉仕させていただいているだけですわ」

 

キラ・ヤマトは言うまでもなく、覇王の軍勢ことラクシズでの行動がされる場合にアスラン・ザラが留まるのは、大天使の名前を冠しナチュラルが動かしているとは覇王にも考えられないほど
屈強な腕を持つクルー達の艦たるアークエンジェルではなく、ミーティアなどの追加武装やフリーダム・ジャスティス専用運用艦として製造されたエターナルである。
とすればジャスティスがエターナルにあるかぎり、措置を施す時間と場所に困ることはほとんどない。

 

「そうじゃったか。そいつはすまんかったの」
(フン、よくもまあぬけぬけと『ご奉仕』だなどということがいえたもんじゃの)

 

コーディネートされ完璧な歯並びをしている口から吐き出された、面白みの欠片もないような返事にテンションが下がっていくアギラであったが、
同時に覇王の返答とその目から、自分の前にいる者が完全に自分と同じアンダーグラウンドのメンタリティの持ち主であることを認識していた。

 

「ふふ、いきなりそんなことを言ったら失礼ですよ?怒らせちゃったらどうするんですか?」

 

アギラの間に立入り、その毒気を抜いたのはレモンであった。そしてレモンは続けて口を動かす。

 

「回りくどいことはあとで聞くから先に私達の用件だけ言うわね?」
「はい、何でしょうか?」
「あなた達がこことは別世界から来た異邦人であることは、アスラン君から聞いているわ。それであなた達が元の世界に帰る手段は見つかったのかしら?」
「いえ、まだですわ。ですがきっとわたくしの手助けをしてくださっている方々とともにその方法を見つけてみせます」

 

まだアメリカ大陸を彷徨っているときに見つけた「ブラックボックス」と彼女達が呼ぶ機体の存在については秘匿していた。
それは、そのブラックボックスが覇王達にとっての最後の手段に他ならず、機動させることによるリスクもかなり大きい。
とすれば、いくら天運に守護された覇王といえども、容易にそれを使うことはできなかったのである。

 

「そう…でも私達は、1つ確実に元の世界に戻れるカードを持ってるのよ」

 

そしてレモンが覇王の軍勢だけでなくシャドウミラーの幹部達にとって、とてつもなく重要な一言をさらりとこぼした。

 

「あなた達の世界でもこの世界とも違うけど、私達もまた別の世界からこの世界に飛ばされてきたの。そして、時空転移装置みたいなものがあってね。それがもうすぐ完成するのよ」

 

レモンの言葉に、今まではほとんど表情を変えなかった覇王の顔面に驚きと戸惑いの色が出始める。

 

「…それでわたくし達に何を要求したいのです?」
「そんなに焦らなくてもいいわよ。今うちのボスがちょっとおでかけしてるから、詳しくはそれが戻ってきてからになると思うけど、そんなに心配もしなくていいわよ。
 私達は肩書き上、ノイエDCの指揮下にいるけどあくまでそれは形だけのものですもの。それに、私達の目的もあなたと同じで、異星人をなんとかすることですもの」

 

レモンも自分でやや説明臭かったかと思いつつ、結局2回目の交渉は後日までに考えておくという形で、1回目の話し合いは終了したため、いくつかのお土産も渡して3名はエターナルから去っていった。
そして、3人が去った後、自室で覇王は、呈示された条件なども考慮に入れつつ、今後どうするかを1人で静かに考えていた。

 

覇王の軍勢が、形式上「シャドウミラー所属の部隊の1つ」という形でノイエDCの傘下に入り、活動を再開させ始めたのはそれから数日後のことであった。

 

「くっ!ようやく再びこの世界へと戻って来られたというのに!ここで反応が途切れている…まさか誰かに…」

 

黒・茶、そして極薄の茶色を基調とし、死霊達の力を我が物として平行世界を駆け回ることが出来る冥府の銃神を宿した機体、ディス・アストラナガンのコックピットで1人の少年が不安と焦りの表情を浮かべている。

 

「あれの力を誰かに利用させるわけにはいかない…!」

 

少年はそう自分に言い聞かせて再び自らの機体に乗り込んだ。
彼の名前はクォヴレー・ゴードン。ゴッツォの者に利用されつつあったオリジネイターを解き放ち、最後の審判者を屠るべくSRXに力を貸し、
そのオリジネイターとともにこの世界から去ろうとした矢先に、時空の歪みに巻き込まれ、魂だけとなったオリジネイターと離れ離れになってしまったある機体を探すため、因子を揃えて再びこの世界へとやってきた並行世界の番人である。
そしてクォヴレー・ゴードンとディス・アストラナガンが「この」新西暦の世界へとやってきたことに反応したのであろうか、
ラクシズ旗艦エターナルの格納庫奥深くに保管された黒い機体の残骸の瞳が赤く輝くと、低く重厚な声をあげはじめた。
その機体は、また異なる新西暦の世界においてかつてはAGX-15ブラック・エンジェル、漆黒の天使とも呼ばれ、異星人エアロゲイターの指揮官機の1機としてSRX達の前に立ち塞がり、
最後にはゴッツォの枷から解放されたある男の機体…
そして、こちらの世界のL5戦役の最後においてSRXを最後の審判者から救い出したその機体はこのように呼ばれていた。

 

アストランガン、と。

 
 

おまけ
覇王の軍勢ことラクシズ旗艦エターナルを連れてアースクレイドルに戻る最中のキラーホエールの中では少々騒ぎが起こっていた。とはいっても揉め事の類というわけではないのだが。
アーチボルドのエルアインスに抱えられながらも無事にキラーホエールへと帰還したユウキはクルー達からの思わぬ歓迎を受けていた。
何人もの部下を失った上、自分の上官に嵌められて殺されかけたユウキの気分はいいものではないが、カーラだけでなく自分の下に集まってくるクルー達の姿に、少し心が癒されるような感じがしていた。
とはいえ、シン・アスカ、そしてアスラン・ザラという、CE世界において最強クラスの腕を持つパイロット2人との死力を尽くした戦いを連続して行なったユウキの肉体に蓄積した疲労は計り知れない。

 

「みんなすまない、まだ報告が…」

 

自分の疲労を気取られまいとその場を離れようとしたとき、それまで継続していた緊張感が緩んだのか、目の前が徐々に暗くなってきて、そのままユウキは静かに倒れ込んだ。

 

「ちょっとユウ!しっかりしてよ!」
「しっかりしてください隊長!!」
「ユウキさん、大丈夫ですか!?」

 

自称相棒や部下達の声が遠い。だがまだ倒れるわけにはいかない。アーチボルドに真相を問い正さなければならない。そうでなければいきなり現れた赤と銀の機体にやられた仲間達が浮かばれないのだから。
他にも出撃報告書に損害報告書に加えて戦闘データの提出に、新型機であるラーズアングリフの性能レポート、そしてラーズアングリフの改造プラン提案書も書かなくてはならない。
他にも各所からの陳情を聞いて、あと天井からの水漏れするからどうにかしてくれと言っていた者もいたしこんなことで倒れているわけにはいかないのだ。…いかないのだが…意識はなおも闇に沈んでいく。
自分にかけよる仲間達の足音に、自分も中々慕われているな、と少々自惚れのような感想を持ったが、意識はやがて飛んだ。

 

アーチボルド隊は、ノイエDCの首魁バンの直轄部隊であるがゆえに、他の部隊のようにいくつもの部隊とともに作戦行動を取らないことも多い。
そして、アーチボルドが指揮に加えてAMの操縦も行なうため、AM部隊の隊長をしているユウキが実質的な副官となっている。
そのため、ユウキの下にはAM部隊の隊長としての雑務に加え、本来アーチボルドに宛てられるべき報告や陳情が寄せられてくる。
加えて、冷静で落ち着いているにもかかわらず、人付き合いはよかったりする性格がアーチボルド隊では災いして、部下や同僚から込み入った話を聞かされることもしばしばあったりしていた。
AMの補充要請に始まり恋愛相談、上司のセクハラが気になる、苦情隣の部屋からの音漏れが酷いという苦情、カーラにデザートのハーゲンダッツを食べられた、アラドの食べ過ぎをなんとか汁、というものまで寄せられたことがある。
加えて最近はガーリオンカスタム、ランドグリーズと自分の機体を連続してお釈迦にしてしまっているため、整備班の面々から向けられる視線が痛かった。

 

さらに、ユウキ自身が紅茶に対してうるさすぎる変人だとのレッテルを貼られている部分があるため、ユウキなら問題なく、
彼と同じく紅茶が好きな変人であるアーチボルドとも渡り合えるだろうという割と安易な予想がクルー達の中に少なからず存在していた。要は毒を以って毒を制すということである。
そういうわけで自然と陳情の類はユウキに集まっていくこととなってしまっていた。

 

ユウキの五体満足な帰還に喜ぶクルー達の中にはもちろんユウキの無事な生還を喜ぶ気持ちもあったが、
それと同時に、そして、ユウキのちょっとした自惚れとは裏腹に彼を亡くして陳情先がアーチボルドになってしまうという結果にならずに済んだ喜びの部分が割と大きかった。
そして、積もり積もっていくユウキの仕事。ラーズアングリフをかなり壊してしまい、また小言を言われることは確定しているユウキの、明日のティータイムを確保するための仕事との戦いはもう始まりつつあった。

 
 

総帥風経過報告
シンがぶっちゃけちゃいました
覇王の軍勢にラクシズという呼称がつきました
ラクシズがシャドウミラーと手を組みました
ラクシズがアストラナガン(ほぼ全壊)を入手していました
ラクシズがシャドウミラーからお土産をもらいました
キラ(4人目)がロールアウトしました
覇王とレモンにライバルフラグが立ちました(ヲイ
ユウキの仕事がまた増えました

 

補足
時間軸的にはシンのカミングアウトよりラクシズとクレイドルの愉快な科学者達の接触がかなり後です。ちょうど次回のヴィンちゃんが出てくるあたりの出来事です。
要は、ヴィンちゃんがツガイバーゲンの試し乗りに行ってる最中の出来事ってことです。

 

次回予告風なもの
明かされたシンの正体にハガネとヒリュウ改の面々が各々の反応を見せる中、シャドウミラーのエージェントW17ことラミアは、素性を明かすという行動に出た彼を不思議に思っていた。
そんな中、再び命じられた偵察命令を受け、シンがアラド、ラミアとともに偵察へ赴いたところにシャドウミラーが現れた。
アラドがそこに現れたビルトファルケンを鹵獲しゼオラを助け出さんとする一方で、シンの前に再び現れたのはあの機体であった。
そして留守をレモンに任せ、影がハガネの前に姿を現した。
次回スーパーロボット大戦ORIGINAL GENERATIONS DESTINY
第20話「現れた影」