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SRW-SEED_11 ◆Qq8FjfPj1w氏_第37話

Last-modified: 2014-01-03 (金) 01:01:37
 

スーパーロボット大戦 OG's DESTINY
第37話『妹という存在』

 
 

 シロガネの転移に遅れること数分、戦場へと到達したハガネとヒリュウ改とシン・アスカ、ラミア・ラヴレス、そしてギリアム・イェーガー、ゼンガー・ゾンボルト、レーツェル・ファインシュメッカーら旧教導隊3人は合流した。
 そしてラミア、ギリアムの口から真相の一部が語られることとなり、彼らの素性・正体を知りシンを含めてクルーの多くが驚き、戸惑いを覚えはしたものの、ダイテツ・ミナセの寛大な措置、同じくする目的、これまでにも旧DCにいたメンバーを受け入れてきた適応能力の高さと一部の人間のノリの良さが幸いして、ラミアとギリアムはともに受け入れられた。
 また、ここでは以前にも別世界から転移してきたのだということを明らかにしたシンという前例があったことも、ラミアとギリアムの話が受け入れられやすくなった素地となっていたのであろう。
 他方で、そのシンも異世界から飛ばされてきたなどという素っ頓狂なことを言う自分をなぜギリアムが早い段階で信用してくれたのかを理解していた。
 ギリアム自身が他の世界から飛ばされてきたのであれば、なるほど合点がいく。
 そして、常に敵との激しい戦闘に晒されていながらも温かく居心地のいい雰囲気に、アスラン・ザラとキラ・ヤマトに強制的に拉致されて以降、久しぶりに接してシンはようやく心に落ち着きが生まれつつあった。
 そんな矢先のことであった。

 

   *   *   *

 

「シン、ちょっといいかしら?」

 

 女性にしてはやや低めな声に名前を呼ばれてシンが振り向く。そこにいた女性は頬擦りしたくなるような艶やかな肩とむしゃぶりつきたくなるような豊かさでありながらも、かといって大き過ぎることのない絶妙なバランスを保っている胸元を惜しむことなく大胆に露出し、タイトなミニスカートを履いて膝上の瑞々しい腿肉を慈悲深く晒している。
 彼女の名前はアヤ・コバヤシ。リュウセイ・ダテやライディース・F・ブランシュタインの属するSRXチームの一員としてL5戦役を戦い抜いたパイロットであったが、シンとしては拉致される以前にリュウセイに簡単に紹介されただけであまり会話をしたことがない相手であった……とはいえ以前リュウセイから、彼女が新西暦の世界でひょんなことから俗にいうイケメン俳優(藁)の真似事をしていたレイ・ザ・バレルの熱烈なファンであることを聞かされており、そういえばレイのサインを貰っておくよう頼まれていたことを今の今になって思い出していた。

 

「あ…すいません大尉、レイのサインですよね。後でもらってきますからちょっと待ってくれませんか?」

 

 自分で言っておきながら、そんなことを言っている自分がシンにとっては奇妙な気がしていた。
 ミネルバにいた頃には上官といえば艦長のタリア・グラディス、副長のアーサー・トライン、それにラクシズ……いや、そこにいるキラ・ヤマトに忠義を尽くすアスラン・ザラくらいのものであり、彼らからそんなことを頼まれることなどほとんどなく、あるとすればアカデミーの同期であるヨウラン・ケントやヴィーノ・デュプレから公然には放送できないような映像ディスクなどの貸し借りを頼まれていたくらいであった。
 上官からの「頼まれごと」やそれに対応している自分、というのはどことなくくすぐったいと同時に何の根拠もないが、そんなやりとりをする自分が人の間でほんの少し大人になったのだろうか、とシンは脈絡もなく考えてしまう。

 

「それなら大丈夫よ。でもそれよりもあなたに知らせなければいけないことがあるの。私と一緒に来てくれるかしら?」
「は、はぁ…」

 

 そう言われてシンはアヤの後に続いてある部屋、否、部屋があったとおぼしき場所に案内された。部屋があったとおぼしき、とはどういうことかというと、部屋の扉は失われて入り口がありあわせの資材で塞がれており、
その向こうは装甲材で補修がされてはいるものの、「部屋」というものは存在しないことは、ハガネ同様、戦場の最前線に居続けて敵の攻撃に晒され続けてきたミネルバとともに戦ってきたシンには容易に理解できた。

 

「!まさか…」

 

 そして、すぐにその部屋が、レイがいた部屋であったということにシンは気付く。続けて、まさか自分のいない間の戦闘でハガネが被弾してそこにいたレイが…そんな最悪の想像がシンの頭の中を駆け巡る。

 

「ちょっと待って、シン! たぶんあなたが考えているようなことじゃないのよ!?」
「え?」
「でもね……あの………実はその…………」

 

 よほど心配そうな蒼い顔を浮かべていたのであろう。シンの想像を無理矢理中断するかのような強い口調で、アヤはシンの意識を現実世界へと引き戻した。
 とはいえ、レイが今現在ハガネにいないことに変わりはない。真相が言い出しがたく困ってしまい、うつむいて首を小さく左右に振りながらアヤはゆっくりとレイがハガネにいない理由――アスラン・ザラらによって拉致されそうになったシンを助けるべく自ら『アカオニ』と呼ばれる機動兵器を呼び出してハガネから飛び出していき、捕獲されたシンを追って戦場から姿を消したことをアヤは告げた。
 異世界に飛ばされるなどというあり得ない事態に遭いながらも、さらにC.E.世界ではラクシズ傘下の情報機関からは『C.E.の聖剣伝説』などと宣伝されるほどの強さを誇るキラ・ヤマトやその忠実なる走狗アスラン・ザラと戦い、そして敗れながらも辛うじて生き延びて、せっかく再会できた戦友が姿を消した、という事実がシンに与える心理的ショックは小さからぬものがある。
 しかも、異世界から来た人間でありながらもこの世界の中では実質的に連邦軍という大きな勢力の下で運良く保護されているシンとは違い、今のレイはそのような保護はない。
 事情を知っているギリアムらが何かしら手を打って探してくれているのではないだろうか、という淡い期待がないわけではないが、それでも安否が心配されることは否定できない。
 だがそのような心配とは矛盾するような安心材料もないわけではない。今現在、レイの持っている力――アインストと呼ばれる正体不明の勢力との関係が疑われはするものの、その指揮官機であるオリジナルのペルゼイン・リヒカイト、C.E.世界からの宿敵アスランとその愛機インフィニットジャスティス、シャドウミラーのアクセル・アルマーとその近接戦専用特機ソウルゲインらと互角以上の戦いを繰り広げてきた、アカオニと呼ばれる謎の機体を駆るレイがそうやすやすとやられるなどとは考え難い、そんな期待もあった。
 本当であれば自分も飛び出して探しに行きたいという気持ちもある。それは言うまでもない。
 だが他方、現在の地球はインスペクターの侵攻を受けている真っ最中であると同時に、連邦軍とノイエDCによるオペレーション・プランタジネットが開始される直前でもある。
 レイの安否は気になるものの、今は異星人との決戦に意識を集中しなければならないのだとシンは必死に自分に言い聞かせようとしていた。
 そんなとき、シンの背後から小さい足音が徐々にこちらへと近付いてくる音が聞こえてきた。音の大きさからして小柄な者だろうとシンは思ったが、実際に振り向いてみると足音の正体はある意味想像以上のものだった。

 

「…………君…どうしてこんなところにいるの?」

 

 そこにいたのはシンより頭1個分ほど低い背丈と薄紅色の髪が特徴といえば特徴の、まさに少女というべき幼さの女の子であった。
 年のころでいえば亡き妹のマユほどかせいぜい少し上くらいであろうか。だがそこでシンはあることを思い出す。言うまでもなくシン達がいる場所はハガネ、つまり軍艦のど真ん中である。
 そのような場所に亡き妹と同年代の女の子がいる光景、というのはあまりにも通常性を欠いているのではないだろうか。
 そのため、シンはまず言葉が出てくるまでに10秒ほど目をパチパチと瞬きさせてから口を開いたのであった。
 よくよく考えてみればラトゥーニ・スゥポータという例外はいるが、シンの目には少なくとも目の前にいる少女はラトゥーニよりもよくいえば若い、思った通りにいえば幼いと映る。
 他方、いきなりそんなことを言われた少女はビクッと体が動くとすぐにアヤの後ろに回りこみ、その影から警戒心を露わにしながらシンの頭の上から足の先までをゆっくりと見渡し、アヤの顔を見上げた。

 

「そういえばシンは会うの初めてだったわよね。この子は私の妹で、R−GUNのパイロットをしてるマイよ。よろしくね」

 

 アインストの集団が伊豆基地を襲撃したときにはシンは別働隊やレイとともにアルフィミィのペルゼイン・リヒカイトと戦っていたし、その直後にシャドウミラーの襲撃を受けたせいで、シンはまだマイ・コバヤシとの顔合わせを終えていなかったのである。

 

「へえ、大尉の妹でR−GUNの……パイロットお!? パイロットって、えぇ!?どうしてこんな子が…!?」
「この子には私やリュウみたいな特別な力があるの。本当ならこんな小さな子を戦わせるべきじゃないのはわかってるんだけど……」

 

 一瞬、ほんの一瞬ではあったがシンの頭の中には、CE世界で見た、あの忘れもしないエクステンデットの研究所跡の光景が蘇っていた。
 この世界でも『スクール』という機関が連合と似たような非人道的研究を行っていたことは聞かされていたというのもある。このマイという少女も、もしかしたら……そんな想像がシンの頭の中を駆け巡り、あの瞬間が、守ると約束した相手であったステラ・ルーシェが自らの腕の中で永遠の眠りについたときの映像がフラッシュバックする。
 そして、シンのトラウマになっていると言っても過言ではないステラの最期がシンの中のリミッターを瞬間的に吹き飛ばした。
 ましてや、小さな妹を戦場に立たせるなどということは、同じく妹がいた人間としてはシンの理解の範疇を大きく超えている。
 シンが自分で気付いた時には時既に遅く、全身の毛が奮い立つような感覚を覚えながら、一気に目を大きく開いてアヤを腹の底からひねり出した大声で怒鳴りつけていた。

 

「じゃあなんでこんな小さな子を……自分の妹をPTなんかに乗せてるんだよ!?アンタ、正気か!?」
「!?……それは……でも、今の私達にはそんな奇麗事を言っていられるような余裕は……」

 

 アヤの言った1つの単語、「奇麗事」。これが一瞬で最大にまで達したシンの怒りを皮肉にも静める結果となった。追撃の言葉を紡ごうとしていたシンの口は硬直し、心拍数こそ高いままであるものの、思考が急速に冷静さを取り戻し始めて両の目がゆっくりと空を泳ぎ始める。

 
 

 奇麗事。

 
 

 ミネルバがアーモリー1から出航してすぐの頃、艦内でギルバート・デュランダルに噛み付いていたカガリ・ユラ・アスハに対して怒りを爆発させたシンが言った言葉こそが「さすが奇麗事はアスハのお家芸だな!」というものであった。
 もちろん色々と状況・事情ともに大きく違いがあるため、同じように考えることは妥当とはいえないだろうが、今現在この世界の地球がインスペクターという異星人の侵攻を受けていること、リュウセイと同じ力、つまり念動力という戦闘において大いに役に立つ特殊な能力を持っているのであろうことが、シンをアヤの言うことにも幾分かやむを得ない部分があるのではないかと考えさせ始めてもいる。

 

「だからって……おかしいだろ…こんな子供を…」

 

 カガリやアスランなどとは異なり、責めきれきれない事情がある相手への言葉が、紡がれるほど鈍くなっていく。
 実際に異星人の幹部クラスの機体とも戦闘をしたことは、インスペクターの脅威の大きさをシンに対して、線の言葉よりも強く、激しく感じさせていたことも、シンにこれ以上の追及をさせることを妨げていた。
 さらにはスレードゲルミルやソウルゲインを擁するシャドウミラーや未だ正体が不明なアインストの侵略を受けつつある今の地球には念動力のような力を持つ人間は1人でも多く欲しいところであろう。
 断じて小さな妹を戦わせるということがいいわけではない、大手を振って許せるというわけでもない。だがそれを一方的に断罪することは、今のシンにはできなかった。
 そんな中、今までアヤの陰に隠れるようにしてシンの様子をうかがっていたマイが静かに話し始めた。

 

「いいんだ、私は自分の意思でアヤ達と一緒にいる。それに今は私の力が必要なこともわかってる…」

 

 ある意味血塗られたといってもいい過去の記憶を失い、「姉」に寄り添うように生きているともいうべきこの少女は、アラド・バランガやラトゥーニらと徐々に打ち解けつつあるとはいえ、まだ人見知りをするところがある。
 だが目の前にいる男が、自分が戦場に出ていることについて案じ、真剣に考えて姉と話をしていることは彼女にもわかることであり、少しは信用できると考えたシンに口を開いたのである。
 一方、思いがけず話し始めた少女の言葉を聞いてシンは、彼女の意思が尊重されていることに幾分か安堵しつつも、戦いに身を置く子供がいるという現実に自身の無力さを感じていた。
 そして、姉に寄り添うマイの姿を見て、自らも妹を持つ身であったシンはアヤとマイの姉妹が互いに互いを大事に思っているのだということも感じ取れていた。
 するとシンは膝を曲げて視線をマイと同じところまで下げ、彼女の頭部に優しく掌を乗せる。

 

「…お姉ちゃんを大事にするんだぞ」
「うん」
「俺はシン・アスカ。よろしくな」

 

 そう言って頭部に乗せていた手をマイに差し出すと、彼女も少し照れながら自らの手を差し出す。
 だが、端から見れば異星人や謎の勢力の侵攻のせいで意図せず戦場に出ることになった悲劇の姉妹のようにも思える彼女らの、暗く、辛く、そして間もなく明かされることとなる衝撃的な過去をシンはまだ知らなかった。

 

   *   *   *

 

 一方、場所は変わって覇王ラクス・クラインの居城エターナルでは、アスランよりも一足早くシロガネから帰還したラピエサージュとそのパイロットのキラが覇王とともに、ある客人を迎えようとしていた。
 そして、エターナル内のブリーフィングルームで、他の椅子とは明らかに異なり軍艦内の備品とは思えぬ格調高さを帯びた椅子に腰を下ろして客人を待つ覇王と、傍らで静かに立っているキラは、自動扉の開く空気音がするとすぐに扉の方へと目をやって客人に視線を向ける。
 入ってきたのは、鼻が多少高い老婆と、瑞々しい麗しの果実を胸部に2つ実らせた2人の若い女。そして老婆は言葉を発することなく覇王の正面に座り、2人の女は老婆の両脇を固める。
 老婆の右隣で、銀色の髪を女性にしては短く切りそろえながら、そんな控えめな髪の量とは裏腹に暴力的ともいうべきほどに強く上着の布地を内側から圧迫しつつも、形を崩さない母なる果実を実らせているのはブロンゾ27―かつてはゼオラ・シュヴァイツァーと呼ばれ、今はハガネにいるアラドのパートナーであった女である。
 左隣にいるのはゼオラとは対照的に艶のある黒髪を腰の辺りまで伸ばして淑女の香りを漂わせつつ、ゼオラほどではないものの、布地から乳肉上部を迫り出して自己主張をする果実を実らせた、スクールの長姉であり、そして本来であればキラが乗っているラピエサージュを駆るはずであったオウカ・ナギサ。
 そして、老婆の正体は言うまでもなく、今より遥か遠き過去の時代、若かりし頃は…であったアースクレイドルのマッドサイエンティスト三人衆の一角であるアギラ・セトメである。
 顔面皺だらけの老婆を挟んでいるとはいえ、1メートルほどしか離れていないところで実っているオレンジとグレープフルーツを目の前にして、その圧巻ともいうべき光景はほぼ完全な調整状況下にあり自我持たぬ存在に近いため周囲に事象に興味をほとんど示さないキラの視線すらも奪っていた。

 

 他方、来客が来ること自体にはさほど興味を示していなかった覇王であったが、天然育ちでありながらも見ているだけで濃厚な甘みを与える果実を目の当たりにして、一瞬だがわずかに目元が引きつる。
 そして内心では調整されて生み出された存在である己への辛辣な皮肉なのかと感じ、無言を保ちつつも、おぞましき豊潤な果実に対して、全てを焼き尽くす地獄の業火の如き激しい憎しみをたぎらせていた。
 とはいえ、覇王がそのような呪怨の言葉を口に出すことはない。覇王に付き従うコーディネーター達は、『平和の歌姫』という虚像を疑うことなく盲信し、信仰している。
 原理こそ正確に把握されていないところではあるが、覇王の声が、歌が多くのコーディネーターを遺伝子のレベルで服従させる力を持ち、鋼の魂を持たぬ者は次々と徐々にその軍勢へと加わっていった。
 自分達を優秀な新人類と信じるコーディネーター達でもなすことが困難なことをその抜群の行動力で成し遂げ、『平和の歌姫』という衣で人々の心を集め、揺り動かし、その声で率い、従わせる。
 これこそ、20歳にも満たぬ、1人の人間がとある世界においては絶対的な力を以て、世界の征服を成し遂げさせた原動力ともいうべき、覇王の能力であった。
 それ故、監視ビデオなども含め他の人間の目があるここでは覇王は内心を表出させることはしなかった。だが当然のことながらそのようなことはアギラ・セトメの知ったところではない。

 

「久しぶりじゃの、ラクス・クライン」
「ええ、お久しぶりです、アギラ・セトメ博士。ところで今日はどのようなご用件でこちらまで?」
「随分なご挨拶じゃないか。せっかく補給物資もろもろを持参してきたというのに」

 

 そう言ったアギラは首を左右に動かして周囲を一通り見回して、その場所には覇王とキラ以外にエターナルの人員がいないことを確認する。

 

「おや、アスラン・ザラはどうしたのじゃ? もしかして『調整』中かの?」
「ええ、アスランは現在シロガネで機体の修復を待っている最中ですわ。プランタジネットまでにはこちらに合流することになっているはずです」

 

 そう答える覇王の口元にはほのかな笑みが浮かんでこそいたが、その目には愛想笑いの1つも浮かんでいなかった。だが直後にまるでアギラを嘲笑うかのようにニヤリと笑みを浮かべる。
 覇王にとってのアスランは力こそ強大なパイロットでありながらも心が弱く、口先で御すことはそう難しいことではないため、外部的に何らかの措置を施すまでもない。
 自分が直接いうだけでなく、彼の『無二の親友』たるキラを通すことで容易く心を揺らがせて迷いを生じさせることができるし、そうした時にほんの少しだけ言葉をかけるだけで後は覇王の思う通りに動くし、そのためであれば軍すらも容易く裏切るため、覇王にとってはキラに対して行う「調整」措置などをアスランに対して施す必要はないのである。
 それに、他の人間の目がある可能性のある状況下で、何らかの疑問を生じさせかねないため、アギラとは異なり聖女のイメージによる権威付けを行っている覇王にとってアギラの言葉は不愉快を通り越して危険なものですらあったと考えられたために、気分を害していた。
 だがアギラの真の意図に気付くと、それが無駄に終わったのであろうことを知り、笑ったのである。

 

 他方、これもまた当然のことながら、アギラが聞いたのは機体についてのことではない。アスラン・ザラという生身の人間について、彼女がオウカやゼオラにしているようなことを指してのことである。
 新西暦の世界においてアスランと最初に接触したアギラは、持ち前の技術を活かしてアスランを調べた結果、彼にもスクールの人間と似たような繰り糸があることを知った。
 そしてアギラは治療と称して軽い精神制御を施していたのだが、覇王の軍勢との合流後に覇王らの情報を知らせるように指示しておいたにもかかわらず、報告が上がってこないことから、それを直接調べるために直々にエターナルへと乗り込んできた、というのが今回の真の狙いなのである。しかし、覇王の受け答えと表情を見ると、どうやら自分の意図はある程度見抜かれているのであることを察した。
 なるほど、そうやすやすと思い通りにはいかないらしい、そう考えたアギラは軽くフンッと鼻で笑って体内に酸素を送り込む。
 アギラの笑みの理由、それはやはり目の前にいる小娘が、小娘ながらアギラの好奇心をくすぐるに足る人物であったから、具体的にいえば、アギラ自身と似たような臭いを嗅ぎ取ったからである。
 アギラの主な研究分野は、スクール時代から一貫して、薬物や精神制御をして心理的なトラウマまでをも利用して人間の心を弄繰り回し、戦争の道具となる兵士を作ることにある。
 このような行動が一般人の倫理観や正義の観念からは離れていることはアギラ自身も理屈として理解はしている。だがアギラはその歩みをやめない。
 己の研究を極みへと到達させるべく研究を重ね、そのためであれば一般人の考えるような倫理や規範などというものなどはアギラの中では大きく劣後するのである。
 そして、そんな自分と同じような臭いをアギラは覇王から嗅ぎ取っていた。

 
 

 まず決める、そしてやり通す。

 
 

 そのためであれば、世界のために、という目的のためにあらゆる手段が覇王の中においては正当化される。手段が法に触れたとしてもそれは覇王にとっては取るに足らない小事に過ぎない。
 なぜなら、覇王にとっては己が世界のものであると同時に世界は己のものであり、先人と呼ばれる者どもが定めた法規範などは過去に遺物であり、覇王にとっては法ではなく、むしろ覇王自身が法だからである。
 目的のために決めたことをやり通すべく、過去の人間が定めたような「一線」を超えることなどはなんということはなく、その過程で他者の命が失われようとも覇王にとっては些細なことなのである。
 当然、周囲には幾分か心を痛めているかのような素振りを見せるものの、歩みを止めるようなことはない。覇王自身の中では仕方がない、の一言でカタがつく。
 フリーダムやジャスティスのミーティアが巨大なビームサーベルで切り裂かれた戦艦が宇宙で輝く星の1つとなって、数多くの乗組員が宇宙の藻屑となったとしても、それは変わらない。
 重要なのは周囲の人間に対して、いかなるポーズをして自らの権威や影響力を維持・強化していくかということなのである。
 これらのことをアギラが知っているわけではないが、少なくともスクールのチルドレンやマシンナリーチルドレン以上にゲイムシステムに容易に適合したキラ・ヤマトを見ていれば、アスランから聞きだすことができた情報と総合して覇王が自分に近いメンタリティを持っていると認識できた。
 彼女らは、己以外の命に対する執着が極めて弱く、奪い弄ぶことによって痛む、一般的には「良心」などと呼ばれることもある脆弱な心などは持ちあわせてはいないのである。
 アギラにとっては、覇王は将来が「楽しみ」な逸材であるだけでなく、今の時点でも非常に面白い存在であるという認識があった。

 

 無言のまま腹の探り合いを続ける覇王とアギラであったが、30秒ほどの沈黙の後、ブリーフィングルームにブリッジからの通信が入った。

 

「ラクス様、こちらに接近してくる機体があります」

 

 現在日本で情報収集活動のためのコーヒーショップ経営に勤しんでいるバルトフェルドに代わってエターナルの艦長をしているダコスタが報告を行う。

 

「連邦軍ですか?」
「はい。周囲に展開している連邦軍艦隊はないことから、先日シャドウミラーのシロガネと交戦したハガネとヒリュウ改だと思われます」
「数は?」
「1機ですが、本体が来る前に増援が来る可能性があります」

 

 そう言われて覇王は瞳を閉じて考え込む。手元の戦力はキラがいるとはいえ、アスランとインフィニットジャスティスを欠いており、ハガネ、ヒリュウ改という連邦軍内でも最強クラスの部隊である。
 今の距離であればこのまま交戦を避けることは十分可能である。だが、それでは予定されているシロガネとの合流予定に支障が生じる可能性がある。
 そうだとすると、このまま戦闘を開始すべきか。今接近中の1機と先行する増援部隊だけであれば、足の速い機体が幾つか程度であろうから、敵の数としてはそう多くはないであろう。
 改修が完了したミーティアとラピエサージュがあることを考えれば、上手く立ち回ることで先遣隊と本体の合流前に敵機を奪えるチャンスすらあるかもしれない。そんなことを考えていると正面にいたアギラが口を開く。

 

「ハガネにはわしらも縁がある。アウルム1、ブロンゾ27、お前達の出番じゃ」

 

 視線がアウルム1、ブロンゾ27――つまりオウカとゼオラに向けられる。

 

「わかりました、母様」
「任務はわかっておるな?」
「はい……! ハガネにいるアラド・バランガを倒し、ラトを取り戻します」

 

 ブロンゾ28と呼ばれていたアラドが戦闘中行方不明になったことをきっかけに受けたシングルとしての調整が完了したゼオラは何のためらいもなくアギラの命令に承服する。
 既に彼女の中では、本来のパートナーであるアラドが、スクールの仲間であるラトゥーニを奪い、戦いを強制する憎むべき相手ということになっていたのである。

 

「助かりますわ、セトメ博士。ではキラもお願いします。可能であれば敵機の鹵獲も」
「うん、わかったよ。じゃあ行ってくる」
「ええ、無事の帰還を待っていますわ」

 

 内に隠された悪鬼羅刹の素顔を覆い隠す偽りの仮面に、コーディネーター達を惑わし従わせる魅惑の笑みを浮かべて覇王はキラを送り出す。
 そんな覇王の笑顔を見てキラは心に強い支えを得て強く頷くと格納庫に向かって力強く駆け出して行った。

 
 

 やがて自分に訪れる悲劇など全く知らずに……

 

   *   *   *

 

 さて、時は少し遡りハガネの格納庫の一角では先日、念願の特機を手に入れたシンが少し悩ましげな表情を浮かべてヴァイサーガをその足元から見上げていた。

 

「あらん、シン君。思春期の青少年が悩み事かしらん? ドロドロな話からグチャグチャな話までお姉さんが相談に乗ってあげるわよん」
「ちょっと少尉!それじゃほとんど同じじゃないですか!?」
「それにシンがそんなに進んだ展開にまで進める訳ないじゃないっスか」

 

 後ろから聞こえてきた声の方向へシンが目を向けると、ブルックリン・ラックフィールドとエクセレン・ブロウニング、それに加えてハガネに整備の応援に来ていたタスク・シングウジがシンとヴァイサーガの元へ歩いてきていた。

 

「ええ、ヴァイサーガの飛び道具に列火刃ってクナイがあるんですけど、それが残り少なくて、換えをどうしようか考えてたんですよ」

 

 レモン・ブロウニングの手引きとラミアによる救出劇によってヴァイサーガを手に入れたシンであったが、機体データはレモンとラミア経由で手に入れることができ、整備に問題は生じなかったのだが、消耗品でありながらも「向こう」の世界の機体の武装である列火刃の補充をハガネですることはできない。手に入れたデータから製造することができたとしても今すぐには手に入らない。
 そのため、どうしたものであるかとシンは考え込んでいた。まさかジ○ン脅威の技術力が如くすぐさま換えの列火刃が使えることにはならないのであるから。

 

「そうねえ、水龍双爪にビーム発生器をつけて巨大なビームの爪が出るようにするってのはどうかしらん?いざというときはそれがビームの剣になるとかしたら相手も驚きだわ。
 ついでに機体も黒と赤っぽくしちゃうとシン君の女運が急上昇するかもしれないわよん」
「ちょっと!そんな危ないネタはいらないですよ!」
「いや、ブリットが言うとどういうわけかはわからねえが説得力が全くねえな」
「っていうか、どうしてかわからないけど色んな意味で身の危険を感じるんですけど…」
「いいアイディアだと思ったのにぃ。武装の名前は水流爪牙・改って感じにして」
「だからそういう危ないネタはやめてくださいって!」

 

 そんないつも通りのボケとツッコミが繰り広げられている中で、時折自分もツッコミを入れているとき、シンの視界に格納庫を走っていく人影が映った。
 亡き妹のマユとさほど変わらないように見える歳格好と紅色の短い髪が一瞬であったが確認できたため、それが先日話をしたマイであることはすぐにわかる。
 そして、その表情は先日アヤとともに話をしたときの表情とは大きく異なり極めて厳しく、まるで別人のようであった。
 そんなマイが、かなり急いで走っていく様子であったため、シンには何が起こったか若干の疑問が生まれた。そして、そのすぐ後に格納庫に振動と大きな物音が走る。
 振動と音の正体はハンガーに固定されていた予備機の量産型ヒュッケバインMK−兇起動したというものであったが、
 そのヒュッケバインが置いてあったのは先ほどマイが走っていった方向である。

 

「マイ!?エクセレン少尉、あの機体って偵察任務の機体じゃないですよね?!」
「え、マイちゃんなの!?………もしかしたら何かあったのかもしれないわ。
 シン君、艦長には私が報告するから、マイちゃんをヴァイサーガで追って」
「で、でも艦長の出撃許可を取らないと…」
「だからそれは私が取るから急いで!何かがあってからじゃ遅いのよ!」
「りょ、了解!」
「それからブリット君、タスク君、リュウセイ君たちにマイちゃんのことを!」
「わかりました!」
「合点!」

 

 エクセレンには漠然としたものではあったが不安に思うところがあった。
 以前自分が気付かぬうちにヒリュウ改から出撃していたことがあった。
 そのとき意識を取り戻したときはアインストの襲撃を受けたエクセレンとしては、今のマイの不可解な動きを知って、何らの根拠もなかったがどこか嫌な予感がしていたのである。
 一方、ヴァイサーガのコックピットで機体を起動させようとしていたシンの下に通信が入ってきた。

 

『シン! マイが出撃したって本当か!?』
「ああ、間違いない!」
『わかった、俺もR−1で追うぜ』
「なあリュウセイ、マイに何かあったのか? マイの表情、普通じゃなかったぞ」
『……ちょっとあってな』
「ちょっとって……」
『シンさん、マイが出撃したってホントッスか!? じゃあ俺も行きます!』
『私も行く……!』
「アラド、それにラトゥーニも!」

 

 シンは知らないのであるが、マイがハガネと合流してすぐに彼女と最初に親しくなったのが、歳も近いアラド、ラトゥーニらだったため、彼らとしてもまだハガネに来て日が浅いマイのことを気にかけていたのである。

 

「リュウセイ、どうする?」
『ビルガーとフェアリオンなら大丈夫だろ。………シン、こっちの準備は終わったぜ』
「わかった。じゃあアラド、ラトゥーニ俺達は先に行くけど、マイが敵に遭遇してるかもしれないから、なるべく早く来てくれ」

 

 そう言ってシンのヴァイサーガとリュウセイのR−1がハガネから出撃していった。
 これから始まる激戦と予想することもなく……

 
 

 ―――つづく。