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SRW-SEED_660氏_シン×セツコSS_06

Last-modified: 2014-01-03 (金) 00:19:13
 

シンとセツコと愉快な変態達  その5『復讐鬼』

 
 

 雨が降っている。なだらかな丘の上に立つ焼け崩れた建物の後を前に立ち尽くした少年の頭に、肩に、ぱらぱらと雨粒が降り注いでいた。
 かつては小さな教会が建ち、宗教への信仰が薄れた昨今でも新たな人生の門出を祝福する人達とされる人達の笑顔で充ち溢れ、不幸の二文字など欠片も存在していなかった場所。 
 しかし、今ここにかつての輝くような幸福の光景を見出す事は出来ない。半ばから崩れおち骨組みが露わになり、近くに落ちたビームの焼いた大地や爆発で生じたクレーターがぽっかりと穴を開けている。
 その光景を前に、右手に花束を下げた少年が目前と立ち尽くしていた。裾のほつれが目立つ黒コートに、ぼさぼさに伸びきった髪。履き古したブーツはここに来るまでの間に纏わりついた埃で灰色に汚れていた。
 その日一日を陰鬱な気持ちにさせられるような雨の中で、そんな世界の住人だとでも言うように、少年が雨に打たれ続けていた。
 ぱらぱらと雨は降り続ける。まるで少年を責め続ける様に。少年はシン・アスカといった。

 

   ▽   ▽   ▽

 

 コズミック・イラ7X年。
 元大西洋連邦准将エーデル・ベルナルが、直属の部隊であったカイメラを率いて南北アメリカ大陸にて現オーブ政権およびラクス・クラインが最高評議会議長を務めるプラントに対し宣戦を布告。
 同時に南米及びカリフォルニアからニューヨークに至るまでの北米を勢力下に置き、ユーラシアや東アジア共和国、赤道連合、大洋州連合内部の反オーブ、反プラント勢力がカイメラに同調の意を表し武力による決起を行う。
 これに対しオーブ代表カガリ・ユラ・アスハはただちに直属のアスラン・ザラ准将と、ムウ・ラ・フラガ大将及びマリュー・ラミアス一佐が率いるアークエンジェル級を旗艦とした特務部隊によるテロ組織であるカイメラの壊滅を表明。
 カイメラに同調する各国や勢力対しても断固としてテロに屈しない姿勢を表明する。
 今やオーブとプラントによって統治され、旧地球連合構成国が名前のみを残して形骸した傀儡国家となった世界情勢を見れば、地球は全てオーブの領土と等しい事は暗黙の内に認められていた。
 故に自国に対する『理不尽』な侵略行為に対し、オーブ国民の反感感情は高く世界各国へと防衛のために派遣されるオーブ軍は国民から、義憤に駆られた勇気あるものと湛えられてオーブを後にした。
 もはや徹底的なまでに中立を貫いたかつてのオーブの姿勢を見つける子は出来なかった。
 オーブのカイメラに対する決して怯まない断固たる姿勢は世論から喝さいを浴び、盟友たるプラントもまたオーブの姿勢を支持。クライン議長直属の最精鋭部隊ピースキーパーと部隊長であるキラ・ヤマトの派遣を決定する。
 常に気高く、正しく、美しく、なによりも平和を求めるラクス・クラインが、武力を行使する事への葛藤と悲しみを押し殺して下したとされるこの決断に、全プラント住民は惜しみない賞賛の声と拍手を挙げたという。

 
 

 黙ったまま雨に打たれるシンの頭上に横から傘が差し出され、冷たい雨の責めから一時だけシンを守る。シンの顔が横を向いた。
 病的なまでの白さへと変わり果てた肌。刃で殺ぎ落とした様に扱けた頬。何よりもその瞳に、傘を差し出した男――ランド・トラビスは息を呑んだ。
 これが、あのシン・アスカなのかと。かつての少年らしい生意気さと活力と、そして何より愛しいものといる事への喜びに満ちていた面影などどこに残っていない。
 無理もない、あれだけ惚れ抜いていたセツコが、あんな目に遭っては。
 アレから一年。たったの一年か、それともまだ一年か、あるいはもう一年というべきか。どの言葉を用いるにせよ目の前の少年にとっては無意味な日々だったろう。彼女が、セツコがいないという事は、シンにとってそう言う事だと、ランドは知っている。
 なんと声をかければ良いのか分からず、結局口から出たのはありきたりな言葉だった。

 

「体、冷えちまうぜ」
「お久しぶりです。ランドさん。お変わりないようで、安心しましたよ」
「お、おう」

 

 慇懃な口調よりも、親しげに言葉を吐きながら何の感情も宿っていないその声に、そしてそんな声を親しいものに向ける笑みさえ浮かべて吐いてみせるシンに、ランドは知らぬうちに手に汗を握っていた。

 

 ――なんだ? なんであんな声を出せる。この、セツコがこの世からいなくなっちまった場所で、どうしてそんな声が出せるんだ? そんな、なんにもないがらんどうの声を。シン、お前、今までどうしてた? いや、なにになっちまったんだ――

 

 喉まで出かかった言葉は、しかし喉にへばりついて決して形になろうとはしなかった。何か口にする事で目の前のシンの形をした別の存在の逆鱗に触れる事を恐れているのだと、ランドは気付いていない。
 かつてのランドの馬鹿話に良く笑い、メールの冷やかしに顔を赤くした少年は、今や姿形のみならずその精神を別の異形へと変えていた。シンはこんな奴ではなかった。少なくとも、隣にいたらこいつに殺されるんじゃないかと、訳もなく怖くなるような奴では。
 再び、お前に何があったと問いたい衝動に駆られ、死を恐れる生存本能が厳重にその質問を封じた。

 
 

 ピースキーパー隊ジブラルタル基地所属のザフトレッド、ヘンリー・マーキンスが自宅で何者かに惨殺された死体となって発見される。ヘンリーは白兵戦に置いてアカデミー時代から並ぶものと謳われ、戦えばあのアスラン・ザラとも互角と言われていた。
 ヘンリーは自宅にて、深夜訪れてきた何者かに襲撃されたものと思われる。死体発見時、ヘンリーは得意のナイフで犯人と交戦するも力及ばず一方的に殺害された者と思われる。 
 死体発見時、赤いペンキをぶちまけられた様な一室には、実に百を超すパーツへと解体されたヘンリーの亡骸がちら散らばっており、現場を目撃した者の多くはその場で嘔吐するか、長く悪夢に魘される事になる。

 
 

「その花束、彼女へか」

 

 なぜか、セツコと呼んではいけない気がした。そう呼んでいいのは目の前の少年だけだろう。もう二度とセツコが答える事はないが故に。
 ランドの質問に応じる様にシンは右手に持っていた花束を胸元まで持ち上げた。今の時代品種改良の所為かによってあらゆる四季に咲かぬ花はない。
 竜胆やカスミ草、薔薇、百合、ガーベラをはじめ雨に攫われていなければランドの花を強く刺激するほど濃厚な香りが立ち込めているほど、無数の花が束ねられていた。
 シンの口元が苦笑の形に歪んだ。変わった、ではない。歪んだのだ。ランドの流していた冷や汗が止まった。目の前の人の形をした人ではない何かによって流す事を強制された冷や汗が、同じ異形によって強制的に止められた。

 

「ああ、これですか。あの人の好きな花束を持ってこようと思ったんですけど、何の花が好きか知らなくって。はは、おかしな話ですよね。あの人の事は何でも知っているつもりだったのに、好きな花の一つも知らないなんで」

 
 

 同じくピースキーパー隊所属のヒラリー・ブルックスが自宅にて首を落とされた状態で発見される。室内は一切荒らされた様子はなく、ブルックスは犯人の侵入に気付く事無く殺害されたものと思われる。
 ブルックスはかつてザフトの暗殺部隊にも在籍し、両手の指に余る要人暗殺とその技能を生かした暗殺対策のスペシャリストであり、サイレント・キリング――無音の達人であったという。
 胴体が横たわっているベッドのサイドテーブルに載せられたブルックスの生首は凝固し始めた鮮血でテーブルを真っ赤に染めながらも、熟睡しているかのように安らかなものだったという。
 最後の瞬間が訪れても尚、ブルックスは自分に振り下ろされ死神の鎌に気付く事はなかったのだ。

 
 

 ――やめろやめろやめろ。もう喋るな、もう笑うな。シンの形をしていてもお前はもうシンじゃない。あの日、あの時、この場所でお前も死んでいたのか、シン。彼女と一緒に死んじまったのか。
 今のお前は抜け殻になったシン・アスカの体をたった一つの想いが動かす人形だ。人間じゃない。生物でさえない。ただ一つの目的の為だけになんでもする機械になっちまった。
 ああ、ちくしょう、でもお前ならそうなっちまうだろう。お前と彼女ならそうなるしかないだろう。お前と彼女と、どちらかがあんな形で互いを失ってしまったらそうなるしかないくらいに、お前達は一緒だったんだ。
 ああ、シン、お前はもう――

 

「シン、あれは、お前の頼み通り用意した。……おれには、もうそれしかできないんだな」
「はい」
「止められねえのか? 止まらないのか?」
「はい。おれもおれが死ねばいいと何万回も思いましたけど、これだけは、何が何でもやり遂げます。邪魔する奴は誰であろうとも許さない」
「……そうかい。シン、お前」
「ありがとうございました。ランドさん。恩は一生忘れません。ビーターサービスで過ごした日々はおれにとって何物にも代えがたい宝でした」

 

 それが、ランドとシンの交わした最後の言葉だった。あるいはそれが、残っていたシンの人間性が最後に残した言葉であったかもしれない。
 あの日この場所で、シン・アスカは半身を失った。もはや彼の瞳は未来を見ず、今を見ず、一年前のあの日で何もかもを凍りつかせたままだ。
 花束を教会の入り口だった男にそっと置き、シンはランドに頼んでいた品が乗っているトレーラーへと向かって歩き出した。雨雲を通して降り注ぐ陽光が薄く地に落とした影には絶望のみが充ち溢れていた。

 
 

 花の都パリのシャンゼリゼ通りにある高級マンションの一室にて潜伏中の国際指名手配犯であるテロリストグループ全員が四肢を切断され、腹を�惜っ捌かれて臓腑を引きずり出された状態で発見された。
 昨夜行われたとされる犯行は、テログループの全七名が手にしたマシンガンや拳銃を撃つ間もなく嵐の如く襲いかかり、全員を平等に殺害したものとみられる。
 また死体の状況から七人全員が四肢の機能を奪われてから一人一人ゆっくりと時間をかけて、体内の臓物を生きたまま引きずり出されたものと思われる。
 臓腑を引きずり出されて尚死ねなかった者が犯人から逃げる様に、両手両足を失い腹から臓腑を零したまま這いずり回った跡が高価なペルシャ絨毯に血の跡を幾筋も描いていた。
 目の前で行われる地獄の光景に、七人の内二名はみずから舌を噛んで自殺を図ったようだが、犯人はそれを許さず、彼らが死にきる前に治療を施し薬物で一時的に延命させて後同様の目にあわせたものとみられる。
 七人全員の浮かべた死相に、最初の発見者であるボーイは精神に異常をきたし、半年にわたる精神病院での生活を余儀なくされた。
 これらの被害者達に共通するものとして、一年前のとある郊外にて行われた反体制組織とプラントから派遣されたピースキーパー隊の戦いが挙げられた。殺害されたのはいずれもその時の戦いの直接参加した者達であった。

 
 

 シンの瞳に怒りがともる事はなく、その口元が喜びの笑みを浮かべる事はなく、その耳から聞こえる音はノイズでさえなく、その心が波打つ感情は二つだけに堕ち果てて、シンは歩いた。
 どこまでも絶望の暗闇だけに満ちた足元さえ見えない冥府を行く罪人の如く。
 去りゆくシンの背を見つめ、ランドは手に持っていた傘を思い切り地面に叩きつけた。

 

「何がザ・ヒートだ! 何がザ・クラッシャーだ!! おれには、もうあいつの凍っちまった心を溶かしてやる事も、あいつの絶望をぶっ壊す事も出来やしねえ!! 畜生、ちくしょおおおおおっ!!!!」

 

 シンは最後までセツコの名を呼ばなかった。傍らにいないあの人の名前を呼んだ所で、心の中の虚無が領地を広げるだけだと知っていたからだ。
 いや、違う。もうすでに虚無で一杯になり、心に残った二つの感情を残して何もかもが無くなってしまった事を理解しているからだろう。

 

   ▽   ▽   ▽

 

 当初圧倒的な戦力とこれまでの実績から瞬く間にカイメラを、平和と正義の名の下に殲滅し尽すと思われたピースキーパー及びオーブ軍であったが、カイメラのジエー・ベイベル博士の開発したMSとは異なる機動兵器の前に思わぬ苦戦を強いられる事になる。
 予想に反するカイメラの精強ぶりにオーブ・ピースキーパー連合が手間取る間にも反プラント・反オーブ勢力は力を増し、反クライン派狩りを免れた旧ザラ派、旧デュランダル派、地球諸国の勢力を取り込み、エーデル・ベルナルの元でカイメラは強大化してゆく。
 そしてある時期を境にカイメラのレーベン率いる一番隊、シュラン率いる二番隊、ツィーネ率いる三番隊とは別に、たった一機のみでありながら番隊クラスの戦力を持つとして四番隊として認められたモノがいた。
 ジエー博士の考案したVWFS(ブイ・ウィング・フライト・システム)にヴォワチュール・リュミエールを応用した光の翼を組み込み、破格の追従性に規格外の運動性能と機動性を獲得。
 全領域対応汎用兵装であるガナリー・カーバーにアロンダイト、高エネルギー長射程砲、フラッシュエッジ2を組み込み、あらゆるレンジに置いて最強足り得る可能性を手にした、紺碧色のMS。
 かつてロゴスの支配下にあった大西洋連邦において実験部隊がテストしていたというバルゴラというMS。
 どこからか入手したそれに、かつて月面で行われたデュランダル派と、ラクス派、オーブ、地球連合残党による決戦で大破したMSデスティニーのパーツを組み込んだキメラMSは、圧倒的な戦闘能力で次々とピースキーパー及びオーブの部隊を壊滅させた。

 
 

 ――貴女は、きっと今のおれを見たら悲しむんだろうな。止めてとも言うだろう。でも、貴女は死んでしまった。だから、おれを止める声も、悲しむ声も聞こえない。何だっていい。おれを怒る声でも、憎む声でもいい。貴女の声が聞きたい。
 笑顔じゃなくたっていい。なんだっていい。貴女を感じたい。貴女が生きているという事実を感じたい。でももう、それはできないんだよ。
 思い出の中にしかいなくなってしまった貴女を、おれの隣にいない貴女を、おれが隣にいてあげられなくなってしまった貴女の名前を呼ぶ事はもうないだろう。
 もしあなたの名前をもう一度呼ぶ事が出来るのだとしたら、それはおれが貴女の所に行って、貴女の存在を感じる事が出来た時だけだ。だからおれは、早く死にたい。少なくともここよりは貴女の居る所に近いだろうから。
 ああ、一刻も早く貴女の隣に行きたい。もし待っていてくれるのならもう少しだけ待っていてくれるだろうか。おれが何の意味もなくなってしまった生にしがみついているたった一つの理由を終わらせるまで――

 
 

 バルゴラ・デスティニーのコックピットの中、シンは閉じていた瞼を開いた。敵機の接近をレーダーが告げている。味方はいない。カイメラに力を貸す時に出した条件の一つだった。
 自分以外のすべてが斃すべき敵。そんな状況の方が気が楽だ。いちいち殺す相手と殺してはいけない相手を区別する事を、シンは嫌った。何もかも目の前にある存在全てが復讐の相手だったらどんなに楽な事か。
 黒々と胸の中で渦を巻く憎悪の感情に身を委ねている間は、魂も肉体も侵す喪失感と倦怠感を忘れていられるのに。
 シンは、どこか気だるげにバルゴラ・デスティニーの操縦桿を握りしめた。
 戦いは一方的だった。グフ・イグナイテッドやドム・トルーパーで構成された四十機余りのMS部隊は、ものの五分で壊滅し、物言わぬ残骸と朽ち果てて黄塵に打たれている。
 その残骸の真ん中で、ぽつんと立ちつくしていたバルゴラ・デスティニーのレーダーが新たな敵を確認した。ソレが何かを確認したシンの瞳が、あの一年前から始めて大きく揺らいだ。
 シンの唇が歪む、歪む、歪む。悪魔さえも恐れ戦く形に歪み上がる。それは、それは、人の心を捨て去った人ならぬ者の浮かべる歓喜の相。ともすれば心持たぬ筈の機械でさえ恐怖を感じるではと、錯覚してしまうほどの異形の笑み。
 拡大されるモニターの画面には、かつてデュランダル派との戦いを終わらせた英雄アスラン・ザラの駆る無限正義の姿が映し出されていた。その途端、シンが壊れたレコーダーの様に喋り始める。

 

「見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた………………ミツケタ」

 

 まっすぐこちらへ向かってくる敵機に気づき、アスランは連れてきた部下達を散開させ、迎え撃つ。長方形の箱型の武器から実弾を連発してきた敵の攻撃をかわしながら得意の近接戦闘へと持ち込む。
 アスランの意図を察したのか、誘うようにバルゴラ・デスティニーも持っていたガナリ・ーカーバーをくるりと回転させ、収納されていたアロンダイトを展開し、インフィニットジャスティスと切り結ぶ。
 何度も交錯を交わし、アスランは抱いていた疑念が確信へ変わるのを感じた。

 

「お前、シンだな!? どうしてお前こんな事をしている」
「………………るさいな」
「あの時、おれの役目は終わったって笑顔でザフトを去っていたのは嘘だったのか!? おれやキラなら大丈夫だとそう言っていてお前が、どうしてこんな事をする!? おれ達が不甲斐ないからと再び剣を取ったのなら別のやり方が……」
「うるさいなあ」
「!?」
「少し黙ってくださいよ」
「シン、お前……」

 

 モニターに映し出されたシンの顔を見て、アスランは息を呑んだ。

 

 ――誰だ、コイツは!? いや、“何”なんだコレは!?――

 

 記憶の中にあるのと変わらぬ赤い瞳がしかし記憶の中の元一致せぬ違和感が、不快感を伴ってアスランの脳髄を駆け上がった。
 色ばかりは変わらぬ瞳の中にはあるべき人の感情が全くなかった。黒々と、星の光を取り除いた宇宙の様な虚無が延々と広がり、その中に小さな蝋燭の様な火だけが灯っている。
 だが、その火は、それの名前は憎悪と絶望という名だった。

 

「ねえ、アスラン。あんたってさ、今まで殺した人たちの事覚えてます?」
「なにを!?」
「ああ、別に覚えてない事を責めているわけじゃないんですよ。おれだって殺した人の事覚えてないし。でもねえ、一年前にあんた達が教えてくれたんですよ。殺された側の人間は決して忘れないって事をね」
「お前、おれ達がお前の大切な人を殺したというのか!?」
「ええまあ、そう言うわけです。
もうね、あの人は笑わないんですよ怒らないんですよ悲しまないんですよ喜ばないんですよ憎まないんですよ悲しまないんですよ喋らないんですよ話を聞いてくれないんですよ話しかけてくれないんですよ触れる事が出来ないんですよ触れてくれないんですよ。
抱きしめる事が出来ないんですよキスする事も出来ないんですよあの人が感じられないんですよ。ええ、なにしろ死んじゃいましたから」
「シン、お前……は……」
「だからさぁ、おれが死んであの人の所に行く為にはさあ、あんたらを全員皆殺しにしなくちゃいけないんだよ。おれからあの人を奪ったお前らを、一人残らず皆殺しにしてからじゃないとおれ死ねないんですよ。だから、さっさと」

 

 切り結んだビームサーベルを跳ね上げられ、インフィニットジャスティスのコックピット目掛けて突き出される、バルゴラ・デスティニーの左手。そこに宿る輝きに、アスランは目を奪われた。

 
 

「死ねよ」

 
 

 

 机を前にしてう〜むと唸っているアサキムの背中に、三本ラインの入ったジャージを着たツィーネが声をかけた。

 

「どうしたのアサキム?」
「いや、今度出す本を書いていたんだが、流石にこれはどうかと悩んでいてね」
「どれどれ。…………これは、流石にシンもセツコも怒るんじゃない? セツコ死亡が前提だし。場合によってはランドも怒るんじゃないの?」
「君もそう思うかい? 仕方ない、ここはベターにシンセツもので行くとしよう」

 

 そういってアサキムはそれまで書いていた『復讐のシン○アスカ』という伏せ字の意味が全くない原稿を、屑かごに丸めて捨てた。

 
 

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