Top > SRW-SEED_660氏_ディバインSEED DESTINY_第05話
HTML convert time to 0.011 sec.


SRW-SEED_660氏_ディバインSEED DESTINY_第05話

Last-modified: 2009-05-30 (土) 22:43:33
 

ディバインSEED DESTINY
第5話 『奪われるモノ 奪う者』

 
 

 ザ・データベース――かつて『智の記録者』と呼ばれた者達の一人、クリティックが冥王星に築き上げた本拠地である都市型プラントの、一面に強化ガラスを張った展望室に二つ人影があった。
 床や壁は継ぎ目のない白い金属でおおわれ、家具や観葉植物らの類が一切配置されていない光景は、およそ人間の生活する場所とは思えない。あまりに寂しげな空間は、まともな精神の持ち主には一日とて居る事に耐えられぬ圧迫感を与えるだろう。
 MSのビームの直撃にも耐える特殊な処理を施したガラスの向こうは、格納庫なのか広大な空間が広がり、四脚の下半身を持った250m超の巨躯を持った白亜の巨神《スキエンティア》が鎮座している。
 右手に刀を帯び漆黒の衣装を纏い、左肩にはケープを羽織った壮年の男クリティックと、その背を見つめながらアリー・アル・サーシェスやティエリア・アーデをはじめとした各地のイノベイター達からの報告を伝えている端麗な美貌の少年リボンズ・アルマークが、その展望室に居た。
 この都市型プラント全域を含めても数えるほどしかいない生ある者たちの間には、互いの顔の下に研ぎ澄ました刃を隠しているような張り詰めた雰囲気が隠れていた。被造物と造物主でありながら両者の間には慈愛や友誼と言った好意的な感情が極めて乏しかった。

 

「アルケーの行動は予定通り、誤差の範囲内と言ったところでしょう、クリティック」
「デュミナスの予定通りか。だがDCで運用されているGNドライヴについては、なにか新しい報告はあったか?」
「いえ、ティエリアの報告以後デュミナスがセキュリティの突破を試みてはいますが、成功していないままです。既存の技術とは根本的に異なる概念が用いられているようで。おそらくは魔装機と同じ魔法技術の応用でしょう」
「デュミナスでも突破できんか。大西洋連邦、東アジア共和国、ユーラシア連邦、プラント、DCの状況も報告の通りか?」
「ええ、ユーラシア連邦でイナクトと同時に進行している魔装機計画、東アジア共和国でティエレンとは別に開発が進められているバルトール、大西洋連邦ではアードラー・コッホとアギラ・セトメによる新規プロジェクトと、接触を図っている勢力……」
「各国がそれぞれに来訪者を利用し始めたか。前大戦時にメンデルを離脱したイーグレット・イフと月軌道で確認できた次元震動については?」
「イーグレットの位置は確認しています。次元震動は現在巨大な質量の転移とまでは判明していますが、詳細な位置は不明です。DSSD所属のトロヤ・ステーションを襲撃したアンノウンとの関連性が考えられますが?」
「放っておいて構わん。いずれにせよ地球圏の戦乱が新たな開幕の時を迎えるのはまもない。他に報告事項は?」
「デュナメス、ケルディム、キュリオス、アリオス、エクシア、ガデッサ、ガラッゾ、順次ロールアウトの予定です。それぞれ地球圏に向けて輸送の手筈を進めています」
「了解した。下がれ」
「それでは」

 

 胡乱気な光を瞳に湛えたままクリティックの背を一瞥し、リボンズは踵を返した部屋を後にした。リボンズの退出を確認し、クリティックは目の前にホログラフを展開して、かつてこの都市プラントの再建中に手に入れた異物を見た。
 黄金の装甲を持ち、背には翼、胸部には青い六角形をなしたパーツがある。しかし、今クリティックの目に映る人型の全身は、大きな破壊痕を留めていた。かつて胸部に納めていた擬似GNドライヴは、今は研究・量産の為に外されてがらんどうだ。
 機体名をアルヴァアロン。その強化パーツである黄金の巨大なエイの様な外装も、一応回収している。アルヴァアロンから回収した疑似GNドライヴと様々なデータは色々と役に立った。
 しかし、DCでも擬似GNドライヴが使用されていると言う事は、同じモノを搭載した機体があちらでも回収されたか、あるいはかつて木星で取り逃がしたあの男の遺産があちらの手に渡ったか……。
 いくつかの推測を立てたが、いずれ実証される事と割り切り、クリティックはホログラフを閉じた。

 

「面白いな。私の予想を外れた未来が始まっている。だがその全て、知るのは私だけでよい」

 

 そう嘯くクリティックは知らない。自分達がいまだその影さえ踏むこと叶わぬ者達がこの宇宙で蠢いている事を。

 

   *   *   *

 

 DSSDへの救援に駆け付けたクライ・ウルブズがアメノミハシラに帰還した頃、同ステーションで彼らの帰りを待っていたビアン・ゾルダークは、アメノミハシラの司令室で副総帥ロンド・ギナ・サハクと共に定時報告を受け取っていた。

 

「ユーラシアを中心に、大西洋連邦領などでGNドライヴ搭載機による襲撃が相次いでいる、か。こちらのデータにない機体だな」

 

 面白そうに告げるギナに、ビアンは同じような笑みを浮かべて答えた。二人の手元にはイナクトやウィンダムと交戦しているアルケーの姿を捉えた遠望映像が映し出されていた。
 アルケーの姿はDC側でも実験中の疑似GNドライヴと他の動力機関との併用を、すでに実用段階まで持ち込んでいる組織が存在している事を証明している。
 エペソ・ジュデッカ・ゴッツォの報告にあった《ゾヴォーク共和連合》の出現とあいまって、人類同士の戦争のみに対する準備だけでは済まないだろう。

 

「ティエリア・アーデのガンダムヴァーチェも同様の代物だろう。ある程度はこちらへの情報の漏洩も承知の上で派遣したものに違いあるまい。不確定要素の強い我々を内部から調査する為の処置、か」
「ティエリアらを派遣してきたPMCはダミー会社だ。追跡調査をさせていたが、まるで尻尾が掴めん。となるとお互いの腹を探り合いながら使うしかないと言う事か。獅子身中の虫を飼う気分はどうだ? ビアン」
「さて、愉快な気分ではないが、いずれにせよ何時でも開戦できる様に準備を進めておけ。今度上がる狼煙は、前大戦の比ではないぞ」
「さればこそ、我らが世界の覇権を握る機会に恵まれよう。時勢を見誤まれば滅びるだろうが……」

 

 この戦いの先に聖十字の旗が炎に焼かれるか、地球圏にはためくかは、それはビアンにも分からぬ事であった。
 およそ考えうる限りの事態に備え無数の兵器や装備を開発し配備させてはいるが、それがどこまで通用するのか、また地球連合やプラント内でも異界の技術を取り込み始めている。
 前の大戦よりも個々の兵器の質の差は埋まっているだろうから、今度の戦いは苦しいものになるに違いない。あるいは地球圏の全勢力を一つにまとめなければ対処できない敵の出現とてあり得る。
 そのどちらにおいても最前線で戦うのは、ビアンの子供と言ってもいい年頃の少年少女たちだろう。感傷に浸った声で、ビアンはポツリと呟いた。

 

「また、シン達に頼る事になるな」
「そうなるな。あれらはもう戦士だ。無用な気づかいは過保護だぞ。それとも、お前の娘の代わりか?」
「そんなつもりはない、とは言い切れんがな」

 

 そしてビアンは、しばし、今生の別れとなった実娘リューネの事を想い、固く口を閉ざした。

 

   *   *   *

 

 アメノミハシラで補給と補修を終えたタマハガネは、ビアンとその護衛達を乗せてラグランジュ1に建設された工廠コロニー・アーモリー1を目指し出航していた。
 アーモリー1への船路の途中、例のDSSDを襲ったゲストの部隊が襲撃してこないとも限らないのだが、非公式の会見でもある為いらぬ警戒をザフトに抱かせぬ為には護衛を増やすわけにも行かず、結局単艦での船旅だ。
 ただでさえ目立つスペースノア級を運用しているのに、今さら隠そうとする行為に何の意味があるのかと言われれば、さて答えに困るが。
 それでもDC特製ステルスシェードやミラージュコロイドの実装でステルス能力に関しては完璧に近い。プラント側からの迎えの部隊と合流するまでは、ステルス機能を最大限に使用しているから滅多な事では襲撃は受けないだろう。
 その船内では、アウル・ニーダやスティング・オークレー、ステラ・ルーシェ、シン・アスカ、ロックオン・ストラトスらが展望室でのんびりとしていた。今はグローリー・スターの三人とアルベロ・エストが警戒態勢に入っている。

 

 レントン・サーストンのコンビニで買ったドリンクやホットスナックをお腹に納めつつ、これから向かうアーモリー1や会談の内容について話の花を咲かせていた。
 先に口を開いたのは、この世界の詳細な事情に疎いロックオンだった。
 マティアスの下で働いている間に表と裏の事情は知っていたが、DCとプラントとの間でどんな盟約が結ばれているかは知らないし、アーモリー1にシンの乗機インパルスが関連しているという噂も耳にしたからだ。

 

「ところで、アーモリー1がどういうところか聞かされているのか、シン。お前さんのインパルスとなにかしら関係があるんだろ」
「えっと、確かインパルスがDCとザフトで共同開発しているんだけど、ザフトが開発しているのがアーモリー1で、多分、その成果の報告会とか発表をするんじゃないかな。あわせてプラントでも新型MSの宣伝も行うって報道関係に連絡行っているし」
「へえ、力を誇示して戦争の抑制を、ってところかねぇ?」

 

 どこか物憂げにロックオンは言って、右手に持ったコーヒーを一口含んだ。ステラは二人の会話に興味が無いのか、もくもくとお菓子を口に運んでいた。セツコの買い物に付き合っているうちに買い食いする癖がついたのか、最近ではお菓子をよく持ち歩いている。
 パック入りのレモンティーを口に運んでいたスティングが口を開いた。口にするのが明るい話題ではない為か、あまり愉快な様子ではない

 

「プラントにもDCの技術が流れているからな。核動力機が当たり前になったし、ソフトもハードも格段に性能が向上している。前の時みたいに性能の差で押し切る事は出来ないだろうさ。もっともいまのところは味方だけどな」
「まあねえ、プラントも連合も前の時に作ったスーパーロボットは敵に回したら手強いぜ。ガルムレイドと、WRXだっけ? あとテンザン大尉のとおんなじヴァイクル。あれの数揃えられた面倒くせえや」

 

 アウルが口に出したのは、前大戦時すでに核融合ジェネレーターやプラズマジェネレーターを搭載していた機体で戦っていたシン達を相手に、同等以上に渡り合った相手だった。
 最新の技術で強化されたそれらの機体の配備が進めば、多量の出血を求められるのは間違いない。国力の増大に伴い、DCでもビアン主導の下数々の特機をはじめとした規格外機動兵器などの開発が行われているが、それでも不安は残る。

 

「確か、DCの勢力が増した影響で大洋州連合政権が親プラントからDCよりになってきている影響で、プラントとの関係も微妙なんだろ? 今ザフトが地上に持っている拠点はジブラルタルとカーペンタリアだけだ。
へたすりゃカーペンタリアを失いかねないし、食料や地上資源の輸入を頼っている大洋州連合との関係が悪化するとなれば、プラントもDCにいい顔は出来ないよな。最悪の場合になったら、これからアーモリー1でお披露目される新型とも戦うってわけだ」
「いやな事言うなよ、ロックオン。おれらさあ、前大戦の時にザフトの連中と共闘したから顔見知りだっているんだぜ? 実力もおれら並みの連中だったし、戦場で対面なんてまじ勘弁」
「はは、悪いな、アウル。だけどな、DCが世界統一を標榜している以上、いずれプラントとも事を構えるのは間違いないんだ。嫌なのは分かるが、最悪の事態位は想定しておかないとな。分かるだろ?」
「そりゃあ、ロックオンの言う事も分かるけどさぁ」

 

 苦い表情と声に変わるアウルを見て、それまでお菓子に夢中だったステラが隣のシンの顔を見上げた。なに? とシンはステラの瞳を見つめ返す。きらきらと光る瞳は、初めて会った時と変わらぬ愛らしさだった。

 

「ルナとも戦う事になるの? それは……いや」
「そう、だね。おれもルナやレイと戦うのは嫌だな。大丈夫だよ、ビアン総帥が上手くやってくれるさ」

 

 ロックオンの言う事は確かで、DCとプラント間で戦端が開かれる可能性は決して低くはない。前大戦時は肩を並べなければ地球連合に対抗するのが難しい状況であったが故に、現実性の低い話題だったが、今は違う。
 ステラの不安が我が事も同然に分かって、シンは本当にそうなってしまった時、自分が果たして戦う事が出来るかどうか分からなかった。
 DCに加わる前も後も正規の軍人教育というものにあまり縁の無かったシンには、もしルナマリアやレイと敵対して戦場で相対した時、戦えと命じられても戦う事が出来るかどうか、答えを出す事は極めて微妙な問題だった。
 仮に、二年ほど軍の教育を受けていたとしても、シンの生来の気性を鑑みれば、時に軍規よりも自分の感情に大きく流されて行動するのは間違いないだろう。
 だから、答えの出ないシンは困った時にいつも救いの手を差し伸べてくれたビアンの名前を出して、ステラの問いから逃げた。ビアンに対して父性を求め、絶対的な信頼を寄せるステラにとって、その名前は無条件で信じられるものだったからだ。
 シンは、その事を分かった上でビアンの名前を出した自分を、卑怯者だと恥じた。
 シンとステラのみならず、アウルやスティングまで揃って渋面を浮かべる様子に、ロックオンはくすりと小さな笑いを零した。思った以上に自分の言葉は彼らを困らせてしまったようだ。
 顔を知っている他人との戦いに躊躇する様子を、軍に所属しながらこうも表面に出すのは、シン達が若いからなのか、甘いからなのか、そのどちらのようにも思えた。

 

「あまり深く考えるなよ。まだ、プラントと戦うと決まったわけじゃないんだ」

 

 そうフォローをいれるものの、優しい奴は戦争には向いていないとロックオンは思う。たとえば、生前の世界で同じガンダムマイスターとして活動していたアレルヤ・ハプティズムがそうだ。
 ソレスタルビーイングの理念の下ガンダムを駆り、武力介入を行って数多の命を奪い続けても失われる命に悲しみを覚え続けた青年。かつてアレルヤが覚えた痛みを根絶する為に、心を切り裂く罪悪感や悲しみと共に戦い続けたアレルヤ。
 力さえなければ、痛みさえ知らなければ、あの青年はソレスタルビーイングになど協力しなっただろうと思う。
 多分、ステラやスティング達もおなじだ。シンを除いた三人は全て地球連合の人体実験の犠牲者たちだ。それをビアンに救われ、救われた命をビアンの為に、自分達の様な存在を生み出さない為に戦っている。
 一般の家庭に育ったシンとて、前大戦時はオーブに住む家族を守りたいからと自分の手を血で汚し、退役が許可されたにもかかわらず今もDCに軍籍を置いている。
 手を濡らす血に報いるためにはどうすればよいのか、まだ十六だと言うのに悩み続け、その答えが戦いの果てに在ると考えているのかもしれない。
 先のトロヤ・ステーションで戦闘では、目の前の少年少女らの高い戦闘能力を目の当たりにして驚いたが、今は彼らの冷徹になりきれない精神にやるせないものを覚えていた。
 戦争などなければ、MSの操縦桿を握る事も、より効率よく人を殺す術を教えこまされることなどなかったろうに。
 そう、ニール・ディランディは思う。そして武力介入による紛争根絶を是としたロックオン・ストラトスは、この世界での紛争根絶――少なくとも地球圏の統合にはDCに協力する事は妥当なものだと判断している。
 併合した各勢力との足並みを揃えるのにいささか苦労してはいるようだが、ナチュラル・コーディネイターを問わず人員を引きいれて国力の増大を狙い成功させ、これまでの常識を覆す数多の技術を有し、それらが反映された超高性能な兵器群の数々。
 大西洋連邦や東アジア共和国、ユーラシア連邦間での不協和音が大きくなり始めた地球連合や、国力が乏しいプラントらに比べれば、世界の覇権に手を掛ける位置にかなり近いといえた。
 もっとも、それは地球圏に潜む悪意の影を知らぬが故の判断ともいえた。コズミック・イラに生まれ育たざる無数の命が地球圏に息吹を潜めている事を知る者は、まだ少ないのだ。
 今考えてもしょうがないけどさ、とアウルが零しながら、廊下の向こうから姿を覗かせたティエリアとデスピニスに気づいて声をかけた。ティエリアはあまり自室を出ずクルーとの交流も少ない。
 というよりも誰かと連れだって出歩いている光景そのものが、珍しい事といえた。ティエリアは相変わらず感情が通っているとは思えぬ作り物の様な美貌を、ピクリとも動かさず、代わりに傍らのデスピニスが小さく頭を下げた。

 

「二人が一緒なんて珍しいな。デスピニスは何か飲むか食べる?」
「あの、結構です……。ありがとうございます」

 

 いつもより少し優しい声のシンに、デスピニスは遠慮がちに断った。ティエリアはそのまま立ち去りたい様子だったが、それを目ざとく見つけたロックオンが引き留めた。生前でもなかなか手を焼かせるぼうやだったが、こちらでは幾分壁が厚い様な気がする。

 

「ティエリアもすぐに部屋に戻ろうとしないで、すこし話でもどうだ? この間の戦闘での連携とかでも、なんでもいいぜ。なんなら、好きな女性のタイプとかでもな」
「必要性が認められない」
「そう固いこと言うなよ」

 

 眉間に深い皺を刻んで厳しい声を出すティエリアに、ロックオンはからかうように肩をすくめた。繰り出した軽いジャブは、予想以上に相手の癇に障ってしまったらしい。今度はもう少しティエリアが興味のありそうな話題に変えるとしよう。

 

「お前さん所の会社で、ザフトの新型MSについて何か情報は入っていないのかい? たとえば、シンのインパルスのザフトバージョンとか、さ」
「さあ? プラントの報道機関や一部のフリージャーナリストがすでに招待されているそうだ。彼らに聞いた方が早いのではないか」
「それじゃあ、現場に着くまでお預けも同然だな。まあ、アヘッドもエルアインスもいい機体だ。単純に性能で言ったら、滅多な事じゃ負けないだろうけどな。お前さん所の会社もこれからの状況に気をつけないと潰れちまうぞ」
「大きなお世話と言う言葉を知っているか? ロックオン・ストラトス」
「分かったよ」

 

 わずかにむすっとした声音で告げるティエリアにロックオンは苦笑する様に詫びる。かすかではあるが、感情の動きが顔や声音に出ている。他人との間に壁を造るティエリアだが、コミュニケーション経験が足りない所為で良くも悪くも自分の感情を偽る事が下手だ。
 ロックオンは、さして気にした素振りもなく肩を竦めたきりだった。これから長い付き合いになるのだろうから、気長にやるさ、とでも言った所か。

 

   *   *   *

 

 星明かり煌めく黒の帳に浮かぶ、白銀の砂時計が目視できる距離になり、やがてシン達にも呼び出しがかかった。警備の為にアーモリー1近海に出撃しているザフトの部隊を眺めながら、タマハガネはアーモリー1に接舷した。
 滑る様にピタリとドックに収まるまでの過程は、クルーの錬度の高さを匂わせる。タラップを踏んで降りたビアンの周囲に、木刀“阿修羅”を紫染めの竹刀袋に納めたシンとステラ他護衛の兵が着く。その他のメンバーは万が一に備えて船内で待機中だ。
 懐に銃器を忍ばせた護衛達と違い木刀のシンの姿はどうにも浮いていて、迎えのザフト兵やプラントの関係者からは奇妙な視線を集めていた。
 その様子をタマハガネの艦橋の艦長席に座ったまま眺めていたエペソは、くくっと小さく笑った。そんな視線にすっかり慣れたシンは動揺した様子はないが、それを迎えたザフト側の動揺がおかしいのだ。
 携帯サイズの高振動ブレードかヒートソードを隠していると勘ぐっているかもしれないが、中身が木刀だとわかったらさぞや呆れるだろう。まだ本調子とはいかなくともシンが振るえば、防弾ベスト位なら容易く貫通し斬り裂く木刀ではあるが。
 シン達は砂時計型のプラントの中央部へ向かう昇降用のエレベーターに乗り、案内係の者が眼下に広がるプラント内部の光景の説明を始めるのを耳にしていた。食糧事情に危機感を覚えている筈のプラントにしては、何と言うかのどかな“自然的”な光景だ。
 生産効率を重視した人工的な光景が広がっているわけでもなし、まあ、工廠コロニーなのだから当然と言われればそうだが、その割には施設ばかりと言うわけではなくそこらに森林や小さな湖さえある。
 効率重視の艦橋でないのは居住者の精神衛生に気を使ったものかとも思われたが、あるいは調整されたコーディネイターの遺伝子の中に、人類発祥の地である地球への拭いがたい憧憬の様なものが刻まれていて、それがこのような光景を造らせているのかもしれない。
 シンは、実はプラントって余裕あるのかなあと首を捻り、傍らのビアンの表情をのぞいてみた。はたして自軍の総帥はこの光景にどんな感慨を抱いているのだろう? と気になったのだが、表情を変えた様子はなかった。
 瑣末な事と考えもしていなのか、それとも心中に思う所はあるが表に出してはいないだけなのか。いずれにせよ、この光景を破壊する未来にならない事を切に祈った。そうならないとは言い切れぬ事への不安が、黒々と胸の中に生まれていた。
 やがて、ビアンとの会談の相手との面会になった。政界から身を引いたパトリック・ザラ前議長に変わり、新しくプラント最高評議会議長となったギルバート・デュランダルである。
 黒髪を長く伸ばし、三十代半ば頃と思える白い顔立ちは穏やかさに満ちている。クライン派よりと目される政策をとってきた人物だが、その笑みの下に何を隠しているのか、今はまだ知る術が無い。
 差し出された手をビアンが握り返し和やかな雰囲気で話を始めた。現在の友好的な関係が破綻しかねない要素こそあるが、表面上そのような事情を匂わせない二人を見て、シンはつくづく腹芸とか、政治の道には自分が向かないなと思う。
 ザフトの新型主力量産機であるザクウォーリアや、砲戦MSであるザウートの後継機ガズヴートが、旧世代の機体に混じって並ぶ軍事施設の中を揃って歩き出す。
 ザクとは違う新型MSと新造艦の進水式が執り行われる関係で、居並ぶMSに実弾は装填されていないだろう(ビーム関係の兵装はまた別かもしれないが)。
 緑色の装甲を持った単眼の巨人達の足の間を歩きながら、シンはつぶさに周囲を観察していた。ザフトの新型MSに注意を向けているのが三分、どこかに潜んでいるかもしれない暗殺者に対する警戒が七分。
 リハビリを終えた後に、勘を取り戻す為にゼオルート=ザン=ゼノサキスやもう一人の師匠とは別に、教えを乞うた戴天流剣法の成果もあって悪意に対する知覚能力は全盛期に近いレベルにまで戻っている。
 七百メートル先からの狙撃位になら辛うじて反応できる程度だ。音の壁を越えて飛んでくる弾丸をはたき落とすのは無理だが、弾道を察知して回避したり、ビアンの盾になる位はできる。
 ステラやそのほかの護衛達も、軍服の下に前大戦時のビアン暗殺未遂の際に使用したメカニック・ウェアを待機状態で着こんでいる。奥歯の上に被せたり爪の隙間に仕込んだスイッチを押せば百分の一秒で晒している頭部までカバーできる。
 メカニック・ウェアの機能をフルに活用すれば、アーモリー1内部に常駐しているザフト兵を皆殺しにする事も決して不可能ではないはずだ。
 シンやステラが周囲を警戒している間に、デュランダルとビアンは話題を共同開発したインパルスに変えていた。当のDC側のパイロットであるシンが同道していたからかもしれない。

 

「DCから供給された技術を応用してインパルスは革新的な機体となりました。ビアン総帥にお見せしても恥ずかしくない水準に達していると思います。開発スタッフの技術の結晶ですよ。さあ、これが我らのインパルスです」
「機体の外見そのものには手を加えらなかったようですな」

 

 やがて奥まった場所に在る倉庫の中へと入り、厳重なセキュリティの先にザフトで開発されたインパルスが待っていた。
 チェスト、レッグ、コアスプレンダーが既に合体してMSの形を成している状態だ、通す電圧によって色と強度が変化するVPS装甲は、今は灰色に染まり、搭載されたプラズマジェネレーターが停止状態である事が分かる。
 外見上の変化は見られないが、背部に装備されるシルエットの方が見当たらない。飛鳥シルエットのみがロールアウトしているDCと違って数種類が完成している筈だし、集めた記者団には既に披露している。
 実際にDC側にもその情報は入ってきている。プラントと招待されたジャーナリストの中に潜り込ませた諜報員からデータだけは得ている。ただしこれはあくまでビアンなどインパルスの開発に関わった者の目にだけしか触れていない。
 パイロットであるシンがまだ具体的な仕様を知らないのは、実物を前にするよりも早く詳細を知らせて、いたずらに先入観や対抗意識を抱かせないほうがいいと判断された為だ。
 ビアンがインパルスを眺め、技術スタッフに説明を受けている時、シンはインパルスの足もとに、ザフトの赤服姿がある事に気づいた。ザフトインパルスのパイロットであろう。
 蒼白いウェーブヘアの女性だ。大きな瞳にきりりと引き締まった小さな唇。大粒の真珠の様に美しい瞳はビアンとデュランダルを前にいささか緊張しているように見えた。タイトスカート姿のザフトレッドに、シンとステラは見覚えがあった。
 ビアンとデュランダルに敬礼するそのパイロットは、かつてサーベラスのパイロットとして活躍したアクア・ケントルムその人だった。あの恥ずかしいDFCスーツの犠牲者達の一人だった女性だ。
 タイトスカートからすらりと伸びたストッキングを履いた足や、抑えきれない乳房に押し上げられた軍服姿がひどく新鮮、あるいは見慣れないものでシンとステラは一瞬誰だろう? と判断に困ったくらいだ。
 後ろ姿はまだしも、体の前面は常にボンテージと水着を足して二で割ったようなDFCスーツであられもなく肌を晒していたから、露出が減って刺激のずいぶん薄らいだ姿のはずなのに却って美しさを際立たせていた。
 アクアもシン達に気づいた様で、ちらりと視線を向けて小さく微笑んだ。すぐにデュランダルがビアンにアクアを紹介する。

 

「彼女が、インパルスのパイロットを務めるアクア・ケントルムです。ヤキン・ドゥーエ戦役を戦い抜いた勇士で、実に優秀なパイロットですよ」
「すでに正式にパイロットに? 他の機体も決まっているのですかな?」
「いえ、現在はインパルスのみです。ただ、他の機体に関しても現在テストパイロットを務めている者達が正式にパイロットとして任命するとは思いますが。そういえばDCのパイロットは?」
「正式な紹介はまだでしたな。我々DCのインパルスのパイロットは、彼です」
「シン・アスカ少尉です」
「若いな。今のザフトの兵士も若いものが多いが、君はいくつになるのかな? コーディネイターかね?」
「は、コーディネイターです。年は十六であります」

 

 ちなみにアクアは二十五歳である。十歳近く離れている事実を突き付けられて、微妙に傷ついているのが、シンの視界の端に映っていた。相変わらず自分より年下のパイロットがいると地味に傷つくらしい。実に子供っぽい。
 自軍のパイロットに無意識に精神的ダメージを与えるきっかけを作ったとは知らず、デュランダルは柔和な笑顔のままシンに質問を重ねた。

 

「すでに実戦は経験しているのかね?」
「はい。前大戦の地球連合のオーブ侵攻戦が初陣です」
「ほう、それはすごいな。では十分にベテランと呼べるわけか。インパルスのパイロットに選ばれるだけの事はあると言ったところかな」
「ありがとうございます」

 

 口数少なく応答するシンの内心はひやひやものだった。どうにもこう言うお偉いさんとの会話に慣れていないのだ。ビアンとは近所の愉快なおじさんと言う初対面の印象がある為に、別に緊張する事もない。
 今にもボロが出るのではないかと、表には出さずにびくびくしているシンは、はやくデュランダルとの会話が終わらないかな、とこっそりと、しかし強く願った。

 

   *   *   *

 

 新造艦の進水式に招かれたプラントのセレブリティや軍関係者、報道機関の人間がごった返すアーモリー1の居住区を、だらだらと練り歩く四つの人影があった。
 周囲の賑わいになんの興味も見せずに歩き続ける彼らの向かう方向には、アーモリー1の軍事施設があった。その途中でアーモリー1に潜伏していた協力者と落ち合う予定だった。
 道の向こうから走ってきたザフトの軍用ジープが、彼らの傍らで止った。緑服の女性が運転席で、人影達を迎えた。艶やかなピンク色の髪を長く伸ばした女性だ。
 受精卵段階での遺伝子操作でいくらでも容姿を調整できる(完璧にではないが)コーディネイターでも、そうはいないくらい見事なスタイルの持ち主であった。
 片腕で抱きとめられそうな位の細腰なのに、ほっそりとした首との間に存在する双房は子供の頭くらいあるのではないかと言う位大きく、ロケットのように突き出ていた。
 ほっそりと長く美しい指が揃えられて敬礼の形を取って、猫科の動物を思わせる瞳がいたずらっぽくウィンクした。陽気な性分なのだろう。ウィンクされた方が思わず見惚れるほどに、陽気さと美貌との釣り合いが取れた仕草だった。
 手早く四人が乗り込んだのを確認して、ジープがゆっくりと走り出す。軍帽から零れた髪を、ゆるやかになびかせながら運転手の女性が口を開いた。気やすい声の調子は、敵地の潜入にも対して重圧を感じていないようだった。

 

「チーム・ジェノバのセレーナ・レシタールよ。短い付き合いになるでしょうけどよろしくね。ところで、貴方達ってファントムペイン? 青き清浄なる世界って奴なわけ?」
「け、好きでやっているわけじゃねえよ」

 

 四人の中で最年長と思しい金髪の青年が、苛立たしげに答えた。他の三人は沈黙を維持したままだ。貴族的な印象を見るものに抱かせる端麗な顔立ちだが、粗野な仕草の青年はセレーナの隣の助手席で足を組んで、今回の任務への不満を表情に出していた。
 元地球連合最精鋭部隊“ω特務艦隊”所属のオルガ・サブナックである。スウェン・カル・バヤンらと同様に、新しくブルーコスモス盟主となったロード・ジブリールに、前盟主ムルタ・アズラエルの息のかかった人材として厭われ、捨て駒として各地を転戦してきた。
 今回のアーモリー1潜入及び新型MS奪取にしても、失敗してもプラントの警備をかいくぐり一打を浴びせられればそれでよしと、オルガ達が生還しなくとも良しとされて命じられたのだ。
 そのことを理解しているだけに、オルガは不平不満を隠そうともしない。幸か不幸か、今では薬物の摂取を必要とする期間が長期化し、潜入任務をこなせるほどに判断能力が戻っていたが、それ故に自分達が生死を厭わず利用される現状が理解できてしまった。
 自分達だけでなく、レフィーナ・エンフィールド中佐やナタル・バジルール少佐、カイ・キタムラ少佐達も同様で、それぞれが本来属する国家に戻るか、戦略的に大した価値の無い場所に左遷されていると言う。
 かつての仲間達が冷遇されている実情も知っている事が、オルガの精神に常に不快感を抱かせているのだ。
 MSに乗って敵を思う様に蹂躙し、破壊する時に感じられる破壊の悦楽は相変わらずクソッタレた人生で数少ない楽しみではあり、これからそれを思う存分堪能できると知って居ても、不満の熾き火の方が暗く心中で燃えていた。

 

「おら、シャニ、クロト、いい加減ゲームと音楽を聴くのを止めやがれ。お膳立ての後に乗り込むだけだが、つまらねえミスはするんじゃねえぞ」
「うるせえ」
「……」

 

 オルガ同様に今回の任務に乗り気でないクロト・ブエルは携帯ゲーム機の電源を切ってポケットにしまうとすぐにそっぽを向いてしまう。シャニ・アンドラスは閉じていた瞼を開いてオルガを睨みつけてから、しぶしぶとした様子でイヤホンを外した。
 最近お気に入りの、ジャーマンメタル様式美をの流れをくみながら、メタルスラッシュの暴力性も兼ね備えた希代の技巧派グループ、TEPESの圧倒的で容赦のない音の暴力に身を委ねていたのに、つまらない現実に引き戻されてシャニもまた不満げだ。
 そんな三人の様子に、セレーネは本当にこいつらで大丈夫なのかとふと不安になった。特に気になるのが、この三人と同行していた四人目だ。後部座席でクロトとシャニに挟まれて窮屈そうにしている十歳かそこらの女の子だ。
 セレーナの髪よりも発色の明るいピンク色の髪を短く切りそろえて、愛らしいがそれ以上に体と心の奥から溢れんばかりの活力を輝かせた、溌剌とした印象を受ける女の子だ。独特な意匠の衣服を身につけて、どっかと椅子に座りこんでいる。
 不平不満を表す様に唇を突き出している仕草がいかにも年相応に見えて、セレーナは笑いをこらえなければならなかった。ただ、この女の子が感じている不平や不満と言うのは、シャニやオルガ達が捨て駒の自分という立場に対して抱いているのとは違う様だった。

 

「何か、気に入らない事でもあったかしら、お嬢ちゃん?」
「別に、何でもないわよ。後、あたいはお嬢ちゃんじゃなくて、ティスよ。ティ・ス!」
「はいはい、分かったわよ。お嬢ちゃん」
「ティスだって言ってんでしょ」
「あらごめんあそばせ。ティスちゃん」
「まったく!」

 

 単純なからかいに乗ってくるあたり、中身も外見とそう変わらないようだ。あるいはそう思わせる為の演技かもしれないが、いずれにせよ、こんな年端もいかない少女が危険な任務に同道しているのか、セレーナの理解の外だ。
 知ろうとした所で、セレーナが得られる回答など、知る必要はないかそれに似た言葉でしかないだろうけれど。
 セレーナの胸中は知らず、ティスは心の中でロード・ジブリールに対する愚痴を零していた。
 デュミナスの命に従って様々なデータを持参して彼のもとを訪れたティスであったが、ジブリールからはその外見の所為で初対面から今に至るまで侮られ続け、与えられた立場が、ジブリールに疎まれて廃棄される寸前だったオルガらの監督役だった。
 前盟主の匂いを徹底的になくしてしまおうとするジブリールが、臭いものに蓋を、とばかりに、あるいは都合の悪いものをまとめて監視しておくためにオルガ達とティスを一緒くたにしたのだ。
 言う事は聞かないわ、文句ばっかり言ってくるわ、その癖機動兵器の操縦技術の腕は確かなオルガらの上司という立場に、ティスは赴任初日から怒り心頭の日々を送り続けていた。
 あのジブ公め、あたいを何だと思っているのだ。デュミナス様に協力を命じられなかったら、あんな奴の言う事なんて聞かないで、キン○マ蹴り潰してやるのに。別行動中のリヴァイヴとヒリングがうらやましい……。
 ティスが歯ぎしりの音を立てかけた時、目の前にザフトの基地のゲートが映った。さあ、そろそろお仕事の時間だ。

 

   *   *   *

 

 ビアンとデュランダルが話をする傍ら、シンとステラは久方ぶりに再会したアクアと話しの花を咲かせていた。
 周囲を憚って小声ではあったが見知った顔と出会えたお陰で、デュランダルとの会話で肩が凝る思いをしたシンには、リラックスする丁度いい機会になった。シンは、アクアの軍服姿を見てからこう言った。

 

「アクアさん、あのスーツはもう着ないんですか?」
「よくぞ聞いてくれたわ。前の戦いの時に、エルデ・ミッテが暴走した関係で彼女が開発したターミナス・アブソーバーとかの研究・開発計画が凍結されてね、私はお役御免になったのよ。
 それから別の部隊でしばらくお世話になったんだけど、前大戦時での戦果を見込まれてインパルスのパイロットに抜擢されたってわけ」
「ターミナス・エナジーってたしかWRXでも使っていましたよね? レイやルナ達はどうしたんですか?」
「WRXチームは幸いと言うか、そのまま残っているわよ。時々メールで現況を報告とかしてくれるし、元気にやっているみたい。こことは違うどこかで新型の開発に従事しているそうよ。会えなくて、残念ね」
「はい」
「レイやルナに会えないの、さびしい」

 

 ステラは相変わらず可愛いわねえ、とアクアが目尻を優しげに下げた時である。唐突に耳をつんざく爆音がアーモリー1を内部から震わせ、けたたましいアラームと戸惑う人々の怒声が飛び交い始めた。
 シンは反射的にビアンの周囲へと駆けもどって竹刀袋から覗かせた阿修羅の柄を握る。ステラや他の護衛達もメカニック・ウェアのスイッチを何時でも押せる状態だ。
 ビアンがことさら鋭い瞳でデュランダルを見て事態を問いただした。

 

「デュランダル議長、これは?」
「おそらくは、敵襲です」

 

 初めて柔和な笑みを取り払い、デュランダルは険しい顔色を浮かべてそう告げた。また一つ、近くで大きな爆発の音がして、格納庫の中のスタッフが通信機で状況を問い合わせている。その会話の一部を、シンの耳は拾っていた。

 

「なに、ガイアとカオス、それにアビスが奪われた!? 馬鹿野郎、なんで実弾を装填している! あれらは今回見せるだけだろうがっ」

 

 アクアがパイロットを務めるザフトインパルス以外の新型機が三機、なにものかによって強奪されたのだと言う。デュランダルが側近たちと何事か言い交わしている間に、シンがビアンにその事を告げる。

 

「……そうか。おそらくは外にも敵が来ているな。デュランダル議長」
「なんでしょうか、ビアン総帥」
「港で待機している我々の部隊を動かしたいのですが、許可をいただけますかな?」
「それは……いえ、状況が状況です。仕方がありますまい。ですが、出来得る限りアーモリー1内での戦闘は控えていただけますか?」
「最大限善処しましょう」
「では、こちらへ。近くのシェルターで有害なガスが発生してしまった様で、いささか遠くはなりますが、安全な場所までお連れします」
「よろしくお願いする。シン、ステラ、頼りにするぞ」
「はい」
「うん」

 

 デュランダルの案内の下、シン達が移動を始めたころ、アーモリー1では起動した三機の“G”が好き勝手に暴れ回っていた。オルガ達を事前に制圧しておいたGの格納庫まで送り届け、任務を終えたセレーナは無秩序に暴れるGの様子に半ばあきれていた。

 

「まるで癇癪を起した子供みたいね
「セレーナさん、そんな事を言っている暇があるなら早く退避しないと。隊長達に合流しないと置いてけぼりにされますよ」
「分かっているわよ、エルマ。いちいちお小言を言っていると、舅みたいって言われるわよ」
「言わせているのはセレーナさんです」

 

 向きをターンさせて、事前に決めていたポイントへとセレーナはジープを走らせた。先ほどまでオルガが座っていた助手席には、ペットロボットか何かと思しい物体が鎮座していた。
 円錐状のボディの左右に涙滴の様な羽根が一枚ずつ。頭部は円盤に近い形をしており楕円のカメラアイと思しいパーツが二つあった。チーム・ジェノバに試験的に導入された最新の人工知能搭載のサポートメカのエルマだ。
 今回の任務にあたり、ザフト側のネットワークへのアタックを担当しセキュリティを欺く役を無事務め果たしていた。
先ほどまではジープの荷台でシートを被されていたのだが、オルガらが機体のコクピットまで辿り着き暴れ始めたので、晴れて助手席に映る事が出来たのだ。

 

「あとの事は私達の任務外。外で待っているファントムペインの連中が勝手にやるはずね。エルマ、しっかり掴まっていなさい。落ちたら拾ってあげる余裕はないわよ」
「あんまり乱暴な運転はしないでくださいね」

 

 一気にアクセルを踏み込まれて加速したジープの背後で、ひときわ巨大な爆炎の花がアーモリー1の人造の空を黒煙で染め上げていた。

 
 

 ―――つづく。