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SRW-SEED_660氏_ディバインSEED DESTINY_第06話

Last-modified: 2009-05-30 (土) 19:38:58
 

ディバインSEED DESTINY
第06話 “運命”の開幕

 
 

 OSを立ち上げ、強奪したザフトの新型MSが今すぐにでも戦闘可能な状態である事を確認し、オルガ・サブナックはかすかに口の端を吊り上げた。

 

「量子触媒反応スタート、パワーフロー良好。全兵装アクティブ、オールウェポンズフリー……システム、戦闘ステータスで起動。面倒臭えな、立ちあげたらちゃちゃっと動きやがれよ、グズが」

 

 アーモリーワンに潜入していたチーム・ジェノバをはじめとした特殊部隊の面々によって、格納庫に待機していた整備士やパイロット達のほとんどは絶命し、かすかに息のある者も迅速な処置が行われなければ、すぐにもの言わぬ死体と変わるだろう。
 コクピットに乗り込むまでの間に肺に流れ込んだ血と硝煙の匂いに、背筋が震えるほどの興奮を覚えていた。オルガだけでなくシャニやクロトも同じだろう。
 ブーステッドマンとしての性能維持に必要なγ―グリフェプタンを摂取しても得られぬ快楽が、頭頂からつま先まで妖しい疼きとなって駆け巡っていた。
 前大戦時から受けた処置によって戦闘能力を維持し、判断能力の回復、禁断症状の緩和と劇的に性能を上げていたオルガ達だったが、戦闘に身を置くことで得られる快楽だけは変わらなかった。
 《ω特務艦隊》に所属し戦っていた時も、これだけは変わらなかった。引き金を引くたびにモニターの向こうの敵が吹き飛ぶ光景は、いつ見ても、記憶の中の光景を思い描くだけでも胸のすくような気持ちになる。
 果敢に撃ちかけてきた敵のビームや銃弾、ミサイルをかわし、回避の間にあわぬ敵のコクピットめがけて大出力のビームを撃ちこんで、敵パイロットを蒸発させた手ごたえを感じた時には、喉の奥から笑い声が溢れそうになる。
 勝てないと悟って怯えながら逃げ惑う敵を、背後から撃ち抜き、生への執着を嘲笑うように撃墜してゆくあの時間は例え様もない悦楽の時だ。
 そして、これからはその楽しくて楽しくて仕方が無い時間の始まりなのだ。
 クローラーを震わせ機体各所のロックが外れ、電源ケーブルが外れる。起動シークエンスを終えて、鉄灰色に染まっていた装甲が機体の起動と同時に鮮やかに変色し、オルガが乗り込んだMSガイアに漆黒の装いを与えていた。
 最新鋭機に相応しく動力にはプラズマジェネレーター、他にもテスラ・ドライヴを搭載している。オルガのパーソナルデータをたっぷりと記録したデータディスクを挿入し、TC−OSの一部書き換えが終了する。
 これでオルガの癖を把握したOSが――インスタントではあるが――完成だ。格納庫の屋根を突き破って立ち上がったガイアの首をめぐらせれば、それぞれ機体の強奪と起動を終えた他の二機が見えた。
 モスグリーンの装甲を持ち、背部にドラム状の装備を二つ背負ったカオスにはクロト・ブエル。ネイビーブルーの機体色と両肩に曲線を描くバインダーを持ち、右手に長大な槍を握ったアビスにはシャニ・アンドラス。
 全員が無事機体強奪を成功させたのを確認し、オルガは手近な施設の破壊を行おうとビームライフルの照準を定めようとして、ガイアの足もとで騒ぐ少女の声に気づいた。
 現在オルガらが所属する第81独立機動群ファントムペインの主ロード・ジブリールが押し付けてきた、小さくもやかましい上司ティスだ。周囲に転がるザフト兵の死体に動じぬあたり、見た目通りの十歳に届くかどうかと言う少女ではない事が伺える。

 

 『こら、ちゃんと足元見なさいよ! あたいを踏み潰すつもり!?』

 

 うぜえ、とシャニの口癖を心の中で呟きつつも、オルガは相手にしなかったらもっと面倒臭いと言う事を思い出して、鬱陶しげに外部スピーカーをオンにした。

 

『わりーわりー、あんまりちいせえんでアリンコかと思ったんだよ』
「だーれがアリンコだ! いーい、あんたらはしばらくザフトのMSを相手にしてからアーモリーワンを脱出すんのよ、あたいはちょっと用事があるからこっからは別行動するからね!」
『ああ? 聞いてねえぞ』
「あんたらは下っ端だからいーの。大佐には言ってあるから、あんたらは迎えの船と合流したらしばらく大佐の言う事聞いてな。じゃあ、うまくやんのよ!!」

 

 そう言うや否や、風を切る軽やかな身のこなしで瓦解しつつある格納庫から去りゆくティスは、あっという間に小さくなっていった。

 

「スカートめくれてっぞ! ……ちっ、色気の無えもん見せやがって。おい、シャニ、クロト、適当に暴れてずらかるぞ」
『ていうかもう暴れているし。指示出すのが遅いよ、バーカ』
『うぅらあああ』
「けっ、だったらおれもそうさせてもらうぜ」

 

 ティスと会話している間にも、カオスとアビスは搭乗者の容赦のない破壊衝動に従順に従って、周囲を地獄絵図に変えていた。
 水中戦闘を主眼に置きながら、過剰なまでの重火力を誇るアビスが、両肩のバインダーを開けば色鮮やかな光線が放たれて、事態に気づいたザフトのMSや基地施設を次々と貫いてゆく。
 強襲用MSだというカオスは、特に施設破壊にはうってつけで、背のポッドから無数のファイヤーフライ誘導ミサイルを射出して、瞬く間に瓦礫の山と炎の海を造り出していた。
 たちまちのうちに戦場の様相を呈した周囲には、有毒ガスの漏出や二次災害が頻発して、犠牲者の数を加速度的に増やしている。
 モニターに溢れかえる爆発や炎を、濁った瞳に映してオルガは上空に現れたディンやジンへとガイアのビームライフルを向けて、喜びと共に引き金を引き続ける。
 前大戦時に使用していたカラミティも当時では最上位機種のひとつだったが、奪ったばかりのガイアは、技術の進歩を感じさせる機体だった。
 まるでオルガの意思を汲み取っているかのように機体が滑らかに駆動し、パイロットであるオルガを喜ばせるかの様に、次々と現れる敵を葬る。プラント守護の為、ザフトの旗の下で作り出された兄弟ともいえる機体が戦い合っていた。

 

「はっはあ、全部ぶっ壊してやる!!」

 

   *   *   *

 

 オルガらが暴れはじめた頃、会談に赴いたシン・アスカ達DCの面々はギルバート・デュランダルの誘導で艦船ドックへと向かい始めようとしていた。腰に差した木刀“阿修羅”の柄に手を添えていたシンに、ビアン・ゾルダークが声をかけた。

 

「シン」
「はい」
「お前は船に戻ってインパルスに乗れ。ザフトの対応が間に合っていないようだ。ずいぶんと入念に計画されていたようだな。根深い所に内通者がいるか……」
「でも、総帥の護衛は」
「ステラ達で間に合うだろう。それなりの装備も持たせているからな。これから議長に我々の部隊を動かす許可を取る。奪われた新型をここで取り押さえねば厄介な事になるかもしれんな」 

 

 ビアンの言わんとしている事が分かり、シンの顔が強張る。先のDSSD襲撃事件だけでなく、各国で増強の一途をたどる軍事関係と言い、キナ臭さが匂いたち始めた世界だ。どんな事が、いったん幕を下ろした戦争劇の再開を告げる鐘となるか分からない。
 またひとつ、鼓膜を震わせる爆音と共に黒い煙が立ち上り、上空を飛んでいたディン二機が、カオスのビームライフルによって瞬く間にコクピットを貫かれて爆散した。炎を纏った破片が巨大な弾丸の如く降り注ぎ、逃げ惑っていたザフト兵の幾人かを押しつぶす。
 ごう、と燃え盛った豪火にシンの影が長く人造の大地に投げかけられた時、シンは眦を険しく引き締めて決断していた。

 

「ステラ、総帥の事を頼む。おれもすぐに戻るから」
「……うん。シンの分も守るから、はやく戻ってきてね」
「ああ。絶対に!」

 

 短く力強く告げるシンに、ステラ・ルーシェは淡く微笑み返した。ステラが好きなシンの顔の一つだった。この顔を見る度に胸の奥が熱くなって、シンの傍にいたい気持ちと傍にいられる事の嬉しさが強くなる。
 そっとステラの頬を撫でてから、シンはもう一度ビアンの方へと振り返って互いに頷きあってから、踵をかえしてタマハガネが係留されている港口へと駆けだした。
 途中タマハガネに連絡を入れて迎えを寄越させるが、それまでザフトの部隊が保つかどうかが問題だが、そればかりはシンにもどうしようもない。一刻一分一秒でも早く、シンはそれだけを念じてひたすら走り続けた。
 シンの背が徐々に小さくなってゆくのを見届けてから、ビアンとステラは自分達を誘導するザフト兵へと向き直り、DCから選抜した護衛の者達に周囲を固まらせて移動を始める。

 

   *   *   *

 

 アクア・ケントルムはビアンとシンが会話している間にデュランダルにインパルスの発進許可を取り付けていて、パイロットスーツを身につける手間を惜しんで既にコクピットに乗りこんでいた。
 シルエットを装備する為に母艦へ戻る余裕はないから、アンチビームコーティング処理を施したシールドとビームライフルだけを急いで調達し、OSを立ち上げる。
 インパルスの特徴である分離合体システムの要因たるシルエットなしでの初実戦を迎えると言う事実は、かすかにアクアの胸に不安の種を植え付けていたが、それでもこのインパルスと他のカオス、ガイア、アビスは、一線を画す機体だ。
 パイロットであるアクアの技量が圧倒的に劣っていない限りは少なくとも撃墜される見込みは低い。現在ザフトを構成する兵の多くが新兵である事実を考慮しても、前大戦の最終決戦を実力で生き抜いたアクアの技量は、ザフトのトップエース級だ。
 その実力とインパルスの性能なら三対一でも戦い様はあるはず。ベルトを締めて体を固定したアクアは、ビアンやデュランダルが既に移動を開始したのを確認し、周囲のメカニック達に注意を呼びかけた。

 

「インパルスを動かすわ。危ないから下がっていて」

 

 数歩歩かせて格納庫を飛び出し、有毒成分の混じった煙と爆発の炎で溢れかえる外へと飛び出ると同時に、破壊活動に勤しむガイア、アビス、カオスをモニターに捉える。捕縛しようと動くガズウートやシグーなどの旧世代機は、射的の的の様に落とされて行く。
 核動力搭載型の新世代主力量産機ニューミレニアムシリーズのザクウォーリアでもなければ相手にもならないようだ。

 

「性能だけじゃないわね、やっぱり腕利きが乗っている」

 

 前大戦時の主力機であったゲイツのマイナーチェンジ機のゲイツRが、胴を真っ二つにされる光景を目の当たりにし、美しい形の眉を顰めてアクアはビームライフルの照準をガイアに合わせる。
 ビームライフルの銃口から迸った大出力のビームに、ガイアは良く反応しABC処理済みのシールドで受けるも、あまりの出力に機体の姿勢が崩れる。
 DCの飛鳥インパルスが機体の動力をコアスプレンダーと飛鳥シルエットに搭載したプラズマリアクター二基に頼るのに対し、ザフトで開発されたインパルスはコアスプレンダー、チェスト、レッグ、シルエットそれぞれにプラズマジェネレーターを装備する。
 シルエットを装備していないが、計三基のプラズマジェネレーターが生み出す膨大なエネルギーは、ガイアをはじめとした他の三機の新型を凌駕する能力をインパルスに与えていた。
 姿勢を崩したガイアめがけて、さらに追撃のビームらを見舞おうとして、アクアはトリガーに添えた指を止めた。そもそもビーム兵器は流れ弾での施設破壊の可能性が極めて高く、防衛側の立場にあるアクアがおいそれと連射して良い武器ではない。
 演習レベルの低出力にすぐさまエネルギーを下げながら、新たな敵の姿に気づいたカオスとアビスが、インパルスへ連続してミサイルとビーム、レールガンの砲口を向け絶えることなく破壊の雨を降り注がせる。
 ついでに施設の破壊も行えて、強奪者からすれば何ら躊躇う必要が無い事は分かるが、腹の底から湧きたつ苛立たしさは変わるわけもなく、アクアはかわし切れぬ攻撃をシールドで受け流し、CIWSと低出力に抑えたビームで足元を狙って反撃を試みる。
 互いにテスラ・ドライヴ搭載機とあってその運動性や機動性は前大戦時からMSパイロットを務めていたアクアやオルガらからすれば、信じられないほど優れている。
 ほんの数十秒ほどの攻防で、アクアは敵の技量が自分に勝るとも劣らないレベルである事を悟っていた。いや、むしろ同等以上と評すべきか。なまじ自分自身が優れたパイロットであるだけに、良く理解できた。
 せめてもの救いは三機の連携が拙いレベルである事だろう。カイ・キタムラの鉄拳教育によって人並みの連携意識を痛みと引き換えに学習したオルガ、シャニ、クロトであったが、カイの元から離れるやその成果も薄らいでいた。

 

「おら、オルガ、かわせよ!」
「てめっ、もっと早く言えよ」
「おらぁああ!!」
「シャニィイ!?」

 

 オルガがガイアのビームサーベルで斬り掛かり、インパルスがシールドで受けた時を狙い、クロトはカオスのビームライフルとポッドに内蔵されていたファイヤービーミサイルをまとめてはなっていた。
 本当にぎりぎりのタイミングでオルガに退避を告げるクロトに明確な殺意を覚えつつ、オルガはかろうじてガイアにバックステップを踏ませて回避に成功する。
 アクアの視界から、ガイアの影に隠れていたカオスの行動に、ガイアの回避行動から察知したアクアは咄嗟にフットペダルを踏みこみ、タイムラグなしにアクアの操縦に反応したインパルスは大きく跳躍し、足元の空間に生まれた爆発に飲み込まれるのを回避した。
 バックステップを踏んだガイアを踏みつけて、アビスがランスの穂先をインパルスへと向けて突進してきたのだ。踏み台にされたオルガは、歯を剥いて怒りをあらわにしながらガイアを無事に着陸させる。
 砲弾よろしく襲い来るアビスの構えた穂先を、克明にアクアの網膜を写し取り、機体各所のスラスターの繊細な操作と、機体の四肢を用いた重心移動による回避機動で角度を合わせたシールドで受けてランスを捌く。
 数十トンを超す質量の衝突に空中で大きくバランスを崩されて、数瞬空中でインパルスが無様に手足を泳がせた。

 

「やってくれるじゃないっ!」

 

 デュランダルやビアンらが既にこの場から避難してはいるらしい事が、せめてもの救いだろう。はやく頼りになる味方が来てほしいと、ガイアの一撃で頭部を撃ち抜かれたゲイツRが轟音と共に倒れ伏すのを見ながら、アクアは痛切に願った。

 

   *   *   *

 

『C.E.7×年。10/24――
 コズミック・イラ73年に勃発した地球圏統一戦争から数年、プラント及び地球連合との戦争を戦い抜き、ついに地球圏の覇権を握ったDCが誇る第十三特殊任務部隊“ハウリング・ウルブズ”所属エリック・パーフィガーがここに記す。
 我が愛すべき鋼の戦友、ガーリオンとの苦しくも懐かしき戦いの日々に誓い、私、エリック・パーフィガーはこれから記す事が事実であると前もって記述しておく。
 その日、私は世界規模の大戦からの復興が進み、友好国であるガリア王国に駐屯しているハウリング・ウルブズの母艦スペースノア級万能戦闘母艦第十三番艦《アオガネ》の甲板で、眼下に広がる鈴蘭の平原を愛でていた。
 夏が過ぎて、秋が頬に心地よい涼しい風を運び、高度一〇〇〇メートルの位置にある私の所まで鈴蘭の香りが届いているようだ。薫風が私の切り揃えたプラチナブロンドの髪をそよがせてゆく。
 ヘルメットを膝の上に置き、私は同僚のリオンファイター達が着艦してゆく光景を見つめていた。翡翠の粒子をまき散らしながらかすかな音と主に着艦してゆく彼らの手際は見事と言う他ない。
 兵隊崩れの盗賊もどきとなった地球連合の残党たちや、脱走兵達も多くは更生ないしは掃討が進んでいた。このユーラシア地域に残る敵対勢力ももはや我々の力がいるほどの者達は皆無と言っていい。
 すでに外宇宙へと旅立った他のスペースノア級で構成された調査船団の方がよほど波乱に満ちた時間を過ごしているに違いない。つい数年前の動乱を経験したものからすれば、贅沢とも取れる退屈な時間と言うものを、私が意識した時であった。
 アオガネの前方の空間に白く発光する球状の何かが突如出現したのである。それは待機状態の、アオガネの艦首モジュール、超弩級エーテル光刃“ゴルンノヴァ”に接触し、私がコクピットのハッチを占める間もなくアオガネを吸いこんでしまったのだ。
 唐突に光の嵐に翻弄されながら飲み込まれたが、幸いにも私を含むアオガネの搭乗員達は気を失う事もなく眼前に広がる光景を、認識していた。
 網膜を焼き潰そう様な光に耐えかねて閉じた瞼を開いた私を出迎えたのは、千切れ雲の浮かぶ青空であった。心なしか、ガリアの空よりも清澄な大気のように感じられた。思い切り息を吸えば、肺腑を満たす空気の清々しさを満喫できるだろう。
 しかし問題は、空を行く我々の眼下に広がっていた地形が一変していた事だろう。ユーラシア大陸旧ドイツ国領に位置するガリア王国の空にあったはずの我々は今、四方を青い波に占められた大海の上を飛んでいるのである。
 ほどなく艦長からの呼び出しが、私を待っていた。
 さて、私の文を読んでいる方々には申し訳ないが、私は艦長や艦の主だった面々との会合の場面よりもこの数日後に私が出くわした運命について先んじて筆を進ませたいと思う。
 今こうして書く間も、瞼に浮かぶあの出会いは私にとってあまりにも衝撃的であったからし、また、勝手ながら艦長達とのやり取りはほんの一、二行に要約しても問題が無いと私が判断したためだ。
 こうして誰かに読まれる事を考慮して書きものに手を出しながら、私情を優先する私を、賢明なる読者諸氏に許して欲しいとは言わないが、謝罪の言葉だけは受け止めてくれるだろう。
 さて、謎の現象に見舞われた我々ハウリング・ウルブズは、そうそうに現在位置する場所が地球上ではない事を確認した。
 簡潔に主だった理由を記そう。今も地球をむしばむニュートロンジャマーが全く機能していなかったと言う事。夜間、我々に姿を見せた星達の配置が、地球の夜空に広がるそれらとはまったく異なっていた事。
 他にも色々とあるのだが、それらはまた後に述べる機会があるので、ここでは割愛する。
 艦長達と意見を交わし合い、我々が別世界に迷い込んでしまったと言う認め難い事実(なんとファンタジックな事であろう!)は、各部門の責任者や佐官以上の者達にのみ通達され、時期を見てクルー達に伝えると言う事に落ち着いた。
 もっとも、現在我々が置かれている状況に不審を覚えている者達は多いだろうし、いずれクルー全員に事の仔細を伝えなければならない日は、すぐにやってくるだろうと言う予感が私にはあった。
 行く宛てはないが、いつまでも洋上に留まるわけにも行かなかった我々は、偵察用装備を備えたリオンやガーリオンを、四方の偵察へと出撃させた。艦の直衛にはエルアインスを筆頭に、機動兵器部隊の半数十二機が残る。
 不幸中の幸いと言うべきであろう、我々の位置から南南東300キロの位置に陸地が発見され、ひとまずアオガネは海面に降下し、その浜辺を目指す事となった。
 沖合いに停泊したアオガネから、設営用の資材を満載した揚陸艇やホバークラフトに乗り込んだ上陸部隊が発進するのを私は上空に待機させたガーリオンの中から見守っていた。
 無論、周囲への警戒は怠ってはいなかった。ガーリオンの右手に握らせたメガビームライフルを使用する機会が訪れない事を願う。施設を組み上げていく手際に感心しながら、私はその時、未知の世界に来た興奮に心躍らせていた事をここに告白しよう。
 さて、周辺の警戒の担当時刻を過ぎて、アオガネに戻り宛がわれている士官用個室のベッドにもぐりこんでも興奮冷めやらぬ私は、眠れぬ一夜を過ごしてから充血した眼をそのままに内陸地への偵察の許可を求めに足を動かしていた。
 艦内のクルー達の顔には隠してもわずかに滲む不安の色があったが、なに、私はそれ以上にこの世界への好奇心に充ち溢れていた。
 おもえば幼少のみぎりから祖父母の膝の上で語られる幻想的な世界の物語に浸っていた事が、かような精神状態へと私を誘ったのであろうか。
 私が具申した偵察行動はすぐに許可が下り、私は十日分の食料を詰め込んだ非常用のサバイバルパック片手に、長らく戦線を共に渡り歩いた純白のガーリオンのコクピットに座った。
 DC系機動兵器の特徴である広いコクピットの空きスペースには、私の愛読しているジョスリン・ゴドウィン著“北極の神秘主義”、グスタフ・マイリンクの“西の窓の天使”“緑の顔”、英国の儀式魔術師S・L・メイザースの翻訳した“アブラ=メリン”“アルデマール”。
 他にもケネス・グラントの“魔術の復活”、ルチオ・ダミアーニの“クシャの幻影”、H・P・プラヴァツキーの“シークレット・ドクトリン”、朝松某の“邪神帝国”、菊地某の“妖神グルメ”などが並ぶ。
 私のオカルト趣味が昂じて収集した旧世紀の書物だ。データ化して保存したものも多いが、同時に私と親しくなる人間が少ない理由の一つだ。時に行きすぎてこの手の書物の収集に、血道をあげる私を気味悪がる人々を責めるつもりはない。
 ガーリオンに高度三千メートルを時速300キロほどで飛行させていた時である。私はこの時の出会いを、棺の閉じる音を聞く時も忘れる事はないだろう。
 燦々と降り注ぐ陽光に我がガーリオンがさぞや美しく映えている事だろうと悦に浸っていると、ガーリオンが生体反応を捉えた。かなり大きい。十メートル、いや十五メートルはあるだろうか?
 気になった私はガーリオンの機首を生体反応のあった方へと向ける。メガビームライフルを使用するような事にならなければいいのだが……。
 反応を捉えて二分、生体反応の主が私の眼に映った。ああ、何と言う事だろうか。翼長十五メートルに及ぶ蝙蝠に似た翼を生やした、巨大な爬虫類が飛翔しているではないか。一昨年友好条約を締結した恐竜帝国の兵士だろうか?
 空飛ぶ青黒い鱗の連なりを持った爬虫類は幻想世界の王者“竜”に酷似していた。短い四肢の指先には人間の体など容易く引裂けそうな太く鋭い鉤爪が生えそろっている。
 だがそれ以上に私の意識を奪ったのは、ガーリオンの左側を飛ぶドラゴン(正確には飛竜であると後に知る。ワイバーンは前足が無いから別種とすべきだろう)の長い首の付け根に人間の姿があった事だ。
 ドラゴンのサイズと体形に合わせた手綱を握っているのは、青いスケイルアーマーに身を包んだ十二、三歳ほどの少女であった。短く切った赤い髪が兜の隙間からかすかに零れていた。
 所謂ドラゴンライダー(あるいはナイト?)と言う奴だろうか。ガーリオンの姿に気づいたドラゴンが警戒の嘶きを上げ、ライダーもまた我が戦友の姿に気づき驚いている様子が明らかだ。
 これが、我々ハウリング・ウルブズと異世界の住人との初めての……』

 

 

「レントン!!」
「のわぁ、な、何エウレカ?」

 

 コンビニのレジの奥にある控室に備え付けのPCで、『DCがファンタジー世界に召喚されますた 1スレ目』を読んでいたレントン・サーストンは、レジにいる筈のエウレカが慌てた様子で控室の扉を開いたのに驚きの声を上げた。

 

「聞こえてなかったの? 第一級警戒態勢よ、早くコンビニを閉めるのを手伝って」
「ええっ!? あ、ほ、本当だ。何だ、戦闘なの?」
「分からない。でもアーモリーワンの内部でなにか問題が発生したみたいね」
「確かシンとステラも中に行ったんだよね。大丈夫かな」
「それも、分からないわ。今は私達にできる事をしましょう」
「そうだね、よし!」

 

 PCの電源を切る暇も惜しみ、レントンはエウレカと一緒にコンビニ商品の片付けに動きだした。

 

   *   *   *

 

 アーモリーワン近海、ミラージュコロイドによるステルス効果の恩恵を受けた戦艦が、静かに息を潜めていた。特務艦ガーティ・ルーの艦橋で、時計を確認していた男がひどく軽い調子で号令した。

 

「よぉーし、行こう。ただし、慎ましく、な」

 

 おどけるように付け足した言葉に、くすりと小さく笑う声が少しだけ艦橋に零れた。ただしその男の傍らに控えた二人は一切反応を見せていない。男からの指令によって艦橋はにわかに活気づき、動き始める。

 

「ゴッドフリート一番二番、起動! ミサイル発射管一番から八番、コリントス装填……」

 

 地球連合軍の軍服に身を包んだクルー達が、流れる様に各々の仕事を進めてゆく姿を、最初に号令を出した男が一目し、艦長席の隣に座してモニターを見つめていた。異様な風体の男であった。
 顔の上半分を無機質の黒い金属のマスクで隠し、感情を表す瞳はガラスの向こうに隠れて見る事は叶わない。豊かな金髪が黒い軍服の上に流れ、顔の下半分の造作はこの男がそれなりのハンサムである事を伺わせた。
 アーモリーワン内部で暴れ回っているオルガらを含めた部隊を率いる立場にある、ネオ・ロアノークという男だ。階級は大佐。軍内にその存在こそ知られているが、決して歓迎される事のない日陰の部隊の歯車の一つである。
 ミラージュコロイドによって光学的に、またレーダーなどを用いた電子機器の捜索の眼からも、その巨体をくらましたガーティ・ルーは、すでに主砲の射程圏内にザフトのナスカ級や、港湾施設に繋留されているローラシア級などを捉えていた。
 《ヤキン・ドゥーエ戦役》終結後に締結された《ユニウス条約》で禁止されたミラージュコロイドを用いている以上、その所属を明らかにされてはならない部隊である事は自明の理だろう。
 ガーティ・ルーの存在する空間にいかなる艦影も見て取れず反応しない、ザフトの艦隊を憐憫さえ込めて見つめ、ネオは新たな命令を下す。

 

「主砲照準、左舷ナスカ級。主砲発射と同時にミラージュコロイドを解除、機関最大。さて、これでようやく面白くなるぞ、艦長」

 

 艦長席に座る元ω特務艦隊所属のイアン・リーが、謹厳そうな顔にかすかな笑みを浮かべた。アークエンジェル級の艦長席と比べて、このガーティ・ルーの椅子の座り心地も悪くないようだ。

 

「ゴッドフリート、てーー!」

 

 225センチという大口径の連装ビームが、何もないはずの空間から放たれて標的とされたナスカ級は、何が起きたか理解するよりも早く機関部に直撃を受けて、一瞬の後に内部からの爆発によって虚空に四散する。
 ガーティ・ルーのエンジンが低く唸りを上げ、虚空にスチール・ブルーの船体が浮かびあがる。その存在を表に晒せぬ、存在しない部隊である第81独立機動群“ファントムペイン”を、ゲシュペンスト・イェーガー――幽霊部隊と揶揄する者もいる。
 ミラージュコロイドの解除によって露わになったガーティ・ルーは、主砲とミサイルを乱射しながらアーモリーワンの軍港目指して突進を始める。
 可視光線をゆがめ、レーダー波を吸収するミラージュコロイドの解除と共に姿を現したガーティ・ルーに哨戒行動中のザフト艦やアーモリーワンの管制側が完全に虚を突かれたのは間違いない。
 ガーティ・ルーのハッチから出撃したダガーLが、迎撃に現れたジン、シグー、ゲイツRを相手に戦火を交えはじめる。しかし先制を取った有利が、ガーティ・ルーの部隊に働き、現われたザフトのMSが撃墜される数の方が多い。
 アーモリーワンの司令ブースでは、この近距離まで敵の接近に気付けなかった理由が、ユニウス条約で禁止されているミラージュコロイドである、と判断を下し騒然としていた。 
 ただでさえ自国のトップであるギルバート・デュランダル、さらにはDC総帥ビアン・ゾルダークまでがアーモリーワンにいるのだ。この二人に何かあったらプラントとDCの関係悪化どころかプラント存亡の危機にまで発展する可能性がある。
 そうなる事で最も利益を得る存在を思い描き、司令が苛立ちまみれの声でオペレーターに矛先を向けた。

 

「地球軍か!?」
「熱紋ライブラリ照合――該当艦ありません」

 

 データに存在しない未知の艦であると言う事だ。使用しているMSが連合系の者であるからと言って必ずしも、地球連合の部隊とは限らないが。船籍の推測すら不可能と言う事実に、新たな苛立ちを覚えながら新たに命令を下す。

 

「迎撃、船を出せ! MSもだ!!」

 

 司令からの指示を受けて繋留されていたローラシア級艦が動きだし、ゆっくりとした動きで軍港内の司令ブースの前を横切ってゆく。先頭の艦が港口に差し掛かろうとした時、その目の前に二機のMSが現れた。
 地球連合のダークダガーLだ。前大戦時終盤から戦線に投入されていた主力機である。その座をウィンダムに譲りつつあるとはいえ、まだ相当数が連合内の各部隊に配備されている。
 ダガーLに漆黒の塗装を施したダークダガーLが、それぞれ手に持ったバズーカの砲口をローラシア級へと向ける。気付いた時には既に遅い。そんなタイミングであった。
 狙いをつけられたローラシア級の艦長が、これまでかと諦めを噛み締める横を後方から放たれた数本のビームが走りぬけ、ダークダガーLのバズーカを握る腕の肩と頭部を貫いていた。
 後に問題になりかねぬと理解しながらも、タマハガネ艦長エペソ・ジュデッカ・ゴッツォが出撃を命じたロックオン・ストラトスのアヘッド・スナイパーカスタム(SC)からの狙撃である。アヘッドSCの横を抜けて飛び出た刹那・F・セイエイのサキガケが、両手で握った大型のGNビームサーベルをダークダガーLへと閃かせる。
 それぞれの胴を蹴り飛ばして港口から遠ざけ、姿勢を立て直す前に一機の胴を横に薙ぎ、残る一機の胸部を一息に貫く。バッテリー駆動の旧式MSであるダガータイプは、推進剤などに引火しない限りは爆発する事もない。
 湾口近くでのMSの爆発を避けるために、サキガケのGNビームサーベルは精妙な剣の冴えを見せて、ダークダガーLの装甲を薄紙のように切り裂いていた。

 

「サキガケ、目標の駆逐を終了。これよりアンノウン機動兵器群との戦闘に移行する」
『許可する。ロックオン、ティエリア、刹那のバックアップを行え。アルベロ、グローリースターは本艦の直衛に』
「了解、ロックオン・ストラトス、目標を狙い撃つ」

 

 ビアンの要請を受け、デュランダルがタマハガネの戦闘行為の許可を下ろしたのを受け、手早く部隊の展開の指示を行ったエペソである。あらかじめ待機させておいたクライ・ウルブズ各機に順次出撃を命じてゆく。
 驚くべき速さで艦に戻ってきたシンに、スティング・オークレーとアウル・ニーダを同行させてアーモリーワンに向かわせ、残る部隊で外部の敵との戦闘を始める。タマハガネ自体は港口の最奥に位置しているから、出撃は遅れている。
 デュミナスとリンクし、現在アーモリーワンを襲撃しているのがブルーコスモスの私兵であるファントムペインであると確認して、ティエリア・アーデはヴァーチェの持つGNバズーカの照準補正を自らずらした。
 アーモリーワン内部に潜入したティスの回収は、ガーティ・ルーとは別の部隊が行うとはいえ、せっかくプラントから強奪した機体を奪い返されるのは上手くないし、ここでガーティ・ルーを轟沈させるわけにもゆかない。

 

「とはいえ、まったく無傷で帰すわけにも行かない。ある程度は覚悟してもらおう」

 

 完全に不意を突かれた衝撃から立ち直り切れずにいるザフトの部隊に変わり、前面に出るDCの部隊の援護も併せて行いながら、ティエリアは突出している刹那のサキガケの方へとヴァーチェを向ける。

 

   *   *   *

 

 MA形態へと変形したガイアの、背に在るグリフォン2ビームブレイドの一撃をシールドで受けたものの、インパルスのバランスを崩された所をカオスの兵装ポッドから放たれたファイヤーフライ誘導ミサイルの直撃を受け、大地に仰向けに叩きつけられる。
 VPS装甲の恩恵故に機体への損傷は微細なものだったが、思い切り叩き付けられた衝撃を受け、アクアは大きく視界を揺さぶられて肺の中の空気を吐きだした。それでも閉ざさなかった瞳に、アビスがビームランスの穂先を向けて突き刺そうと迫る姿が映る。

 

「!!」

 

 下唇を噛み、喉の奥の悲鳴を噛み殺して機体を操作してその穂先をかわす。大きく抉られる大地を視界の端に映し、側転して立て起こした機体を後方へと下がらせる。
 同時に腰部にあるフォールディングレイザー対装甲ナイフを左手逆握りで抜き放ち、ガイアのビームブレイドを受けた。フォールディングレイザーが赤熱し、溶解しながら切り裂かれる瞬間に放り捨てて、ガイアの横腹を蹴り飛ばした。

 

「くっ、このままじゃ」

 

 そう遠くないうちに押し切られると戦っているアクア自身が痛感していた。フォールディングレイザーを投げ捨てたアクアが、肩のバインダーを開いてこちらに向けるアビスに気付いた。
 MA−X223E三連装ビーム砲だ。左右合わせて六門のビームが襲いかかり、とっさにシールドの影に隠したインパルスの周囲をかすめて地上を焼いた。これまで奪われた三機を取り押さえるべく出撃した友軍機は、すでに十五機近くが撃墜されている。
 インパルスとて、パイロットがアクアでなかったならば五分と保たずに撃墜されていた事だろう。防戦一方のまま、一方的に押し込まれるインパルスに対し、更なる波状攻撃を繰り出そうとしていたガイアらに目掛けて、アクアの左方からビームが走った。
 サブモニターの一つに映しだされたのは、黒と緑のザクウォーリアだ。ジン系統のデザインを残し、モノアイや鎧武者めいたシルエットはアクアにとって見慣れたものだった。
 インパルスのシルエットシステム同様にウィザードと呼ばれる数種類のバックパックの換装によって機体性能を拡張させる機体だ。基本性能も、前大戦時にザフトの決戦兵器であったフリーダムやジャスティスを上回る。

 

「ディアッカ、ニコル!」
『待たせて悪いね、こっから反撃と行こうじゃない』

 

 ディアッカ・エルスマンは軽い調子で呟きながら、機動性を飛躍的に向上させるブレイズウィザードを装備したザクウォーリアに正確な狙いを与えて、ビーム突撃銃をカオスめがけて連射する。
 やや斜め上方から下方へ向けて放たれるため、かわされたビームは次々とアーモリーワンの大地に穴を穿って行く。
 六つの銃身を束ねたハイドラビーム砲二門と、大型のビームアックスを装備したスラッシュザクウォーリアを操るニコル・アマルフィは、近似した白兵装備を持つアビスへとビームアックスで斬り掛かる。

 

『すいません、アクアさん。遅れた分は働いてお返しします』

 

 二人とも前大戦でラクス・クライン、カガリ・ユラ・アスハ、マリュー・ラミアスらが中心となった勢力に与したザフトの裏切り者であった。
 しかし議長に就任したデュランダルと前議長であったパトリック・ザラの計らいによって一般のザフト兵として席を置く事が許されていた。これには両名共に最高評議会評議員の子息である為に、政治的配慮があったとも言われる。
 そればかりか、その豊富な経験と卓越した操縦技能を買われて新造艦ミネルバ所属のMS部隊の一員に選ばれていた。
 今回のアーモリーワン襲撃が、まるで二年前にクルーゼ隊が行ったヘリオポリス襲撃事件の再現の様で、当時クルーゼ隊に所属し地球連合の開発していたMSを強奪したパイロットであったディアッカとニコルはそろって苦虫を潰した表情を浮かべていた。

 

『まったく嫌の事を思い出させるぜ。だけどな、だからこそみすみすそれを奪われるわけには行かないのさ。ニコル、こいつらに後れを取るなよ!』
『ディアッカこそ。ヘリオポリスの様な事にはさせませんよ』
「二人ともなんだか気合入っているわね。私もへこたれている場合じゃないわね!」

 

 息を吹き返したアクアも合わせ、これまでの鬱憤を晴らすかの如く積極的な反撃に転じるインパルスらに、オルガ達が気迫で押されはじめる。
 同時にアーモリーワン自体を震わせる振動と、タイムリミットに気づき、オルガは苛立ちを煮詰めた様な舌打ちを撃った。外では既にお迎えの連中が来ているようだ。自分達もさっさと引き上げないとまずい。

 

「おら、シャニ、クロト、引き上げるぞ。時間切れだ!」
『はあ!? うるせえ、こいつらぐずぐずにぶっ壊すまで下がれるかよ。逃げたきゃ、お前だけ逃げてろ』
『ぶっ殺す』
「口答えすんな、失敗したら後で何されるか分かってんだろうが。アードラーのくそ爺の顔を見てえのかよ! 言う事聞きやがれ」
『っくそ!』
『……ちっ』

 

 若干のタイミングのずれはあるものの、三機が一斉に火器を発射し、踏み込めぬビームやミサイルの弾幕を形成して、プラントの外壁へと向かい動き出す。シャニのアビスが胸部のカリドゥス複相ビーム砲や、バインダーの三連装ビーム砲を放つ。
 プラントの外壁を構成する自己修復ガラスは、容易くは穿つ事を許さぬ防護さを備えてはいたが、最新のプラズマジェネレーターから供給されるエネルギーを容赦なく浴びせられ続け、熱量に耐えかねて融け始めている。
 三機の後を追ったアクア達を、ガイアとカオスが牽制する。単純な性能ならばザクウォーリアよりもガイアやカオスの方が上ではあったが、この場でのオルガらの目的は敵の殲滅ではなく機体の奪取だ。
 無理にこの場に留まってせっかくの機体に傷をつけるわけにも行かない。
 味方ごと敵を撃つ事に躊躇わなかったころと違い、自分達に課せられた役割と言うものを多少なりとも理解する能力を取り戻したオルガとクロトは、堅実な動きでディアッカ達からの攻撃を受け続けていた。

 

「やべえ、オルガ、新手だ。金ピカがいる」
「なに? あいつらか、あの手強い連中!」

 

 アクア達も同時に気づいた。タマハガネから出撃したシンの飛鳥インパルスと、スティングのオオワシアカツキ、アウルのエルアインスの三機である。
 スティングの搭乗しているアカツキは前大戦で最も目立ったMSの一つであり、その暁の所属していた部隊との苦戦の記憶が呼び起こされて、オルガとクロトは忌々しげに眉を寄せた。
 最後の最後、あのわけのわからぬ人智を超えた化け物との戦いでは共闘した相手ではあったが、今の自分達の立場では矛を交える以外の選択肢が存在しない敵だ。しかも、とびきり厄介な戦闘能力を持った。
 先頭を飛ぶ飛鳥インパルスが、左腰腰部に設えられたアタッチメントに取り付けたシシオウブレードの瀟洒な細工の施された鞘から白刃を抜き放つ。爆発的な推進力を生む飛鳥インパルスに続き、機動性を向上させるオオワシパックを装備したアカツキが続く。

 

『アクアさん、援護します!』
「シン、連中はプラントの外壁を破って外に逃げる気よ」
『今、プラントの外部に船籍不明の艦が奇襲を仕掛けてきています。たぶん、それがあいつらの迎えの船です』
「だったらなおさら外には逃がせないわね!」

 

 アウルのエルアインスが、Gレールガンとオクスタンライフルをそれぞれの手に持ち、掩護の為に照準もそこそこに引き金を引く。三対三から、三対六へと一気に状況が悪化した事に、オルガとクロトは歯が軋むほど苦々しい表情を浮かべた。
 新手が並みの連中であったらな、十機来ようが二十機来ようが敵ではないのだが、圧倒的な戦闘能力を誇ったあの連中となれば話は別だ。DCの最精鋭部隊が相手では、今の状況は非常に芳しくない。
 ω特務艦隊で生死を共にしたかつての仲間達の顔がちらりと脳裏に浮かび、オルガは自分が弱くなったと強く意識した。

 

   *   *   *

 

 ガーティ・ルーのハッチから新たに飛び出した赤紫色のモビルアーマー“エグザス”のコクピットに、軍服姿のままで乗り込んでいたネオ・ロノークは、奇襲から立ち直り猛烈な反撃をしてくるザフトの部隊に手を焼かされていた。
 前大戦で連合がまだMSを持たぬ頃、唯一互角の戦いができたメビウス・ゼロというMAの発展機だ。鮫を思わせる尖った機首から後部まで流線系のラインを描く胴に接続されていた四基のポッドは、ビーム砲とビーム刃を備えた特殊兵装だ。
 全方位からの同時攻撃を可能とする機動兵装ポッドは、核動力を搭載した新しい主力MS相手でも高い有効性を発揮していたが、アーモリーワンの軍港からDCのMS部隊が姿を見せた途端に、一方的に押し込んでいたこちらのMS部隊が次々と撃墜されだしていた。

 

「おいおい、DCがなんでアーモリーワンにいるんだい? しかもあれは特殊部隊じゃないか。一番手強い相手と出くわすとは、とんだイレギュラーだっ!」

 

 全方位から襲い来る機動兵装ポッドにてこずる様子こそ見せるが、一発の被弾もないクライ・ウルブズ各機に、ネオは口にした通り予想外の敵戦力にこちらの算段が大きく乱された事を認めざるを得なかった。

 
 

 ――つづく。