Top > SRW-SEED_660氏_ディバインSEED DESTINY_第09話
HTML convert time to 0.010 sec.


SRW-SEED_660氏_ディバインSEED DESTINY_第09話

Last-modified: 2009-06-08 (月) 19:09:23
 

ディバインSEED DESTINY
第09話 閉ざされる地球 

 
 

 白亜の船体が青い水の星から伸びる重力の鎖を引きちぎり、大気の外へと飛び立っていた。ザ・データーベース及びデュミナスの記録データに手を加えて建造されたナデシコCだ。
 アルケーガンダムとGNディフェンサーが合体したスーパーアルケーガンダムを収容し、ユニウスセブン落下に備えて、地球圏から離脱した所だ。艦長席にはナデシコCの運用を一手に引き受けるホシノルリ型ディセイバーが座している。
 IFS(イメージ・フィードバック・システム)というナノマシンを介する事で対応機能を持った機械をほぼイメージ通りに操縦可能とする能力に特化した体質の、ホシノルリを参考に、特別に調整したディセイバーである。
 ディセイバーは、クリティックが所属していたザ・データーベースが戦闘用コーディネイターなどを参考に造り出した戦闘用の人造人間である。ディセイバーの製造技術は、イノベイターなどの製造にも活かされている。
 白い髪を頭の左右で括って垂らした髪型に、腕も首も腰も細い痩身だ。体にフィットしてボディラインがはっきりと浮かぶ白いボディスーツの上に、金で縁取った白いケープを羽織っている。
 幾億年も地球の夜を彩っていた満月の様に美しい金色の瞳は、天与の才を持つ職人が手がけた様に輝いていたが、人間の情動には乏しい。もともとディセイバー自体が感情を排された存在と言う事もあるだろう。
 艦長席の下方に、二人分の席が空いていたが、赤毛の戦争狂アリー・アルーサーシェスが姿を見せたのは、艦長席の後ろに在る自動扉からだった。これまで屠ってきた敵の血で染めた様な真紅のパイロットスーツ越しにも鍛え抜いた体つきが見て取れる。
 ヘルメットを脇に抱え右手にはハロの一機であるMISAEを持っている。艦長席に肘をついて、メインモニターに映し出されているユニウスセブン落下の模様を見はじめる。
 DC所属の精鋭部隊が、国籍にとらわれない部隊構成の敵と厳しい戦闘を繰り広げている。アリーの目から見てもユニウスセブンが落下するか否かは、どちらとも判じ難い。
 つまらなさげに鼻を一つ鳴らし、アリーはおもむろにディセイバーの細い頤を掴み、自らの方へとねじらせた。アリーの手の中で簡単に握り潰せそうなほど繊細に見える。実際、アリーの手にかかれば妖精の様に儚い少女は、瞬く間に蹂躙されてしまうだろう。
 最もアリーからすれば、肉付きが全体的に薄く、胸の隆起や尻肉の豊さには縁のない体をしているディセイバーはいま一つ情欲をそそらない。
アリーの子供でも通用するほど幼い少女の無垢な体を、野獣のように貪る事は背徳感を伴う欲望の熱を、アリーの胸に宿すが感情の色が見えぬ少女が相手ではつまらなさの方が先に立つ。
 従順に従う人形よりも、怯え震え、涙して助けを乞う相手を思う様踏み躙り、凌辱して啜り泣かせる方が雄のどす黒い欲望を満たすのだから。

 

「おい、お前はあの石ころが落ちると思うか?」
「落下阻止成功率予想47パーセント」
「はん、詰まらん答えだな。あんなもんが落ちれば地球の連中も黙っちゃいねえだろう。地球連合の内輪から揉め出す可能性もある。ユーラシアじゃカタロンと親DC派の連中が睨みあっているし、大西洋連邦に言い様に使われている現政権への不信も募っている。
 東アジア共和国じゃ、何があったかしらねえが、やたらと強気の外交策で大西洋連邦やユーラシアと開戦したいとばかりに煽ってやがるし、大洋州連合がザフトからDCに鞍替えするのも時間の問題だ。
 汎ムスリム会議やスカンジナビア、オーブがどう動くかにもよるだろうが、さて、今は一大スペクタクルを楽しむとするか。人形、映像は欠かさず撮っとけよ」
「わかった」

 

 名前の無い人造少女は淡々とアリーに答えた。機械音声の方がまだ温かみを感じられるような、そんな声だった。

 

   *   *   *

 

 地球の誰も知らず、どこにあると天地万物に問うても明瞭な答えを得られぬとある島の地下深くに、巨大な翼を持った女神像が鎮座し、その周りを鮫、豹、鷹を模したこれもまた巨大な像が守る様に三方を固めている。
 黒の深さがそのまま質量をもってのしかかってくるような暗闇を、澄んだ水底から見上げた太陽の光の様な、青い灯りだけがわずかに照らし出している。四方を囲む壁や床は大理石のように滑らかだが、似て非なる硬質の材質で建立された建物の内部らしい。
 白を基調とした巨像達の足もとに、豊かな金の髪を波打たせた妙齢の女性が、世界で最も美しい女神の彫像のように立っていた。
 血を抜けばかくも美しくなるのかと錯覚してしまう様な白い肌を遮るものはなく、毛先に行くにつれて淡い紫へと変わる幻想的な色合いの髪が、乙女の最も秘すべき場所や、豊な乳房の頂にあるものをかろうじて隠しているきりだ。
 美の女神の誕生を描いた絵画にも勝るとも劣らぬほどの美しさは、この美女の裸体を前にした者に欲情よりも荘厳で神秘的な雰囲気に、胸を打たれる感動を与える事だろう。閉じていた瞼を開き、胸の前で組んだ指はそのままに美女は背後を振り返った。
 現在世界最高の強念者であり、同時に地球の守護者の巫女たる女――イルイ・ガンエデンは、誰もが心奪われる美貌の中にあどけなさを残した笑みで、客人を迎えた。
 イルイとその背後に座するナシム・ガンエデンによって張り巡らされた空間転移も遮断する強念の結界をくぐって、この場に訪れる事が出来る者は宇宙広しといえども十指に満つまい。
 およそイルイの十倍強にも及ぶ大きな巨大な影であった。赤い骨を何か巨大な植物の蔦か触手の様なものが、筋肉や骨格の代わりに繋いでいる様な姿であった。肩には巨大な盾の様な鬼面が浮かんでおり、頭部にも鬼を連想させる角が生えている。
 胸代わりの赤い鎧にも見える部分の内側に青い球体があった。位置的に心臓の代わりと言えなくもない。イルイはそこに視線を向けていた。この赤鬼それ自体からもかすかな意思を感じるが、より明確な意思はその球体の中に見える人影から伝わってくる。
 そして、イルイはこの存在を送り込んできたのが何者であったか、すでに知っていた。

 

「ようこそ、古えからの使者よ」
「初めまして……人造神の巫女。私はアインスト・アルフィミィ。今後トモヨロシク、ですの」

 

 両者とも口からではなく思念による会話であった。会話が始まった事に呼応して球体の表面が透けはじめ、中に座る少女の姿を露わにする。
 十四、五と見える少女だ。空色よりもやや青味の強い髪を後頭部の高い所で結え、ノースリーブの黒いインナーの上に赤い宝石状の装飾が肩口に誂られた白い服を着ている。
 下半身は腰の辺りにふわりと広がったシースルー材質のオレンジ色がかった花弁の様な布を纏い、可愛らしいおへそを晒して小さな面積のハイレグを穿いているきりだ。
 大粒の瞳は覗きこめばそのまま魂を吸い取られてしまいそうなほど妖しい赤色。幾片も小さな花びらを重ねた様な唇は髪と同じ青色だ。今は友好的な笑みを小さくではあるが浮かべている。
 アインストと呼ばれる存在によって生み出された少女であった。生まれてまだ十年も経っていないであろう少女は、数奇な運命の果てに、このコズミック・イラの世界へと流れ着いていた。

 

「ご存じの様ですが、改めて自己紹介しましょう。私はガンエデンの巫女、イルイ・ガンエデン。それに、優しいカナフ、気丈なケレン、無邪気なザナヴ、そしてこのバラルの園の真の主ナシム・ガンエデン」

 

 イルイの声に応じてイルイとアルフィミィを見守っていたカナフ達が小さく喉を鳴らし、背後に居たナシムもまた、かすかに頤を下に向けてアルフィミィとペルゼリン・リヒカイトを見下ろした。

 

「賢そうな子たちですのね。そして我が主であるアインストの長に代わりまして、お会いできて光栄ですの。世界最古にして今なお世界最強のサイコドライバー、ナシム・ガンエデン」
「見定める者たるアインストが如何なる用で参られたのでしょう」
「答えを分かっていて質問するのは、ちょっと意地が悪いと思いますの」

 

 あまり感情を表現する事に慣れていないのか、拗ねた様子が分かりづらいアルフィミィに、イルイは童女のようにくすりと笑ってから答えた。

 

「そうでしたね。数十億年の歳月を越えて、氷に閉ざされた大地に封じた筈の門が開こうとしている。その事についてですね?」

 

「ビンゴ、ですの。アインストだけでも貴方達だけでも破滅の王を封じるのは叶わぬ事。仮に私達と貴女方とで手を携えても叶う可能性は五分と五分。そう、アインストの長は考えていますの。
 けれど、事は宇宙規模での破滅。可能性が五分と五分とではあまりにもリスクの大きな賭け。多少の無茶は承知の上だ、とはいきませんの。ですから、その可能性を少しでも高める方法を模索しておりまして、とりあえずはその事も含めてご挨拶に参りましたの」
「剣を見定めているのですね。今はまだ月に眠る彼らもかつての様に力を貸してくれるでしょう。傷つき疲れた数百万の民と共にこの星を訪れ、義を見て私達に力を貸してくれた誇り高き騎士達。
 はるか数十億年前の戦いで多くの命を失った彼らに今一度戦う事を求めるのは酷な事かも知れませんが」
「フューリー聖騎士団、アインストの記憶と記録にありました。かつて戦に敗れ故郷の星を追われた者達。時の王室を含む騎士団の主流が生き延びたとありましたが、この星に辿り着いていたんですのね」
「はい、そして、貴方達も気付いていると思いますが、事は破滅の王だけではすみません。かつて神を越えんとした者、絶対運命の超越を望む者。因果律の番人達もこの事態を収拾すべく動いていますが、この先の未来は絶望の闇に閉ざされたままです」
「この世界そのものが招いた異邦人――私もですけれど――が戦火を拡大したせいもありますの。人の意思は無限の未来を切り開く。だからこそ無限の中に含まれる絶望や恐怖の未来を人自身の意思で選んでしまう事もある。難しいものですのね」
「そうですね。今は私達はそれぞれよりよい未来を切り開く為の剣を見定めるべきでしょう。私は、聖十字軍を」
「アインストは、今は眠る人界の守護者たちを選んでおりますの。これから変わるかもしれないですけれど。では、またお会いいたしましょう。ナシム・ガンエデン、それに小さなイルイ」
「ええ。また会いましょうね、アルフィミィ」

 

 そして、二人の少女は別れた。初めて友達ができた子供の様な笑みを浮かべ、小さく手まで振っていた。外見の年齢は随分と違うが、精神年齢の方はかなり近い二人らしい。きっといい友達になる事だろう。

 

   *   *   *

 

 バラック・ジニン大尉が率いるクライ・ウルブズの小隊を筆頭に、ユニウスセブン落下に動く正体不明の部隊との戦闘は、戦端が開かれて数時間が経過してもなお継続していた。
 ユニウスセブンの内側に潜んでいた敵機やまたどこからともなく飛来する増援があり、メテオブレイカーの設置作業の進捗率は予定の七割ほど。このままではある程度は砕く事が出来ても、ユニウスセブンの破片による被害が少なからず地上を襲うだろう。
 背後に広がる白いベールが所々に掛かった青い水たまりの様な星が、徐々に近づいて来ているように思われて、地球を故郷とする者達はいっそう焦燥に胸を焦がされるのであった。
 ザフトからの派遣艦隊に所属するスラッシュザクファントムのパイロットのサトーは、前大戦初期からの古参兵だ。
 鼻筋に横一文字に伸びる傷や、肌から浸透して骨にまで沁みついた硝煙の臭いや砲撃の音を鼓膜が破れんばかりに聞き続けたものだけが纏う独特の雰囲気が、彼を並みならぬ戦暦の持ち主だと告げている。
 長柄物であるビームアックスを頭上で旋回させ、その勢いを借りて果断に振り下ろされた刃は、受けようとしたゲイツRのシールドごとモスグリーンの機体を縦に切り裂く。機体内部のメカニズムを露わにしたゲイツRはほどなく爆発し、一つの火の球へと変わる。
 同輩の駆る機体を敵が使う事に小さな訝しさは覚えたが、落ち行く墓標を止める事こそサトーにとっては最優先の出来事だ。
 サトーは親しい間柄にあった友人や愛娘を、地球連合軍内部に居たブルーコスモス強硬派が引き起こした血のバレンタインによって失い、その喪失感と悲しみ、絶望を憎悪と憤怒に変えて戦った男である。
 だが、その憎悪と悲しみを変える出来事がヤキン・ドゥーエ攻防戦――極一部の兵達の間ではこの世ならぬ神代の戦いと称される――で起きた。
 ジェネシスを乗っ取った反逆者エルデ・ミッテを斃した直後に出現した正体不明の生物兵器との戦いのさなか、DC総帥ビアン・ゾルダークの乗機が変異して姿を変えた二〇〇メートルを超す機体が光を放つや、戦場にそれまでの戦いで死した人々の姿が溢れたのだ。

 

 そしてサトーは見た。ユニウスセブンで死んだはずの我が子や友たちの姿を、その顔に浮かぶ安らぎに満ちた笑顔を。もう悲しまないでと、優しく告げて来た言葉を聞いたのだ。
 理屈も原理も、どうして、なぜという疑問も問題ではなかった。サトーのみならず、ザフトのみならず地球連合の諸兵達も、あの戦場に居た誰も彼もが、あの時死せる人々達が救われた事を感じていた。それは彼らを苦しめる憎しみからの救いでもあった。
 あの場に居なかった者には到底理解できぬ事だろう。目の前で輪舞する淡やかな光に包まれた人々の姿は、あまりにも非現実的で、あまりにも美しく、そして安らぎに満ちていた。
 その姿を見て、言葉を聞いた時、あそこにいた者達の胸から憎悪は消えていた。そして、今。もはや魂の抜けた抜けがらと成り果てた肉体だけが留まる墓標といえど、ユニウスセブンは新たな破壊と憎悪と死をもたらす存在として地球に落ちようとしている。
 愛した人達との記憶とその体が眠る大地が、だ。
 阿修羅の如き怒りの相を浮かべ、サトーと彼が率いるサトー隊の猛者達は一歩たりとも退かぬと、機体に不退転の気迫を陽炎の様に纏って戦っていた。

 

「我が娘の眠る墓標、みすみす落とさせはせんぞっ! 全機抜刀、突撃!!」

 

   *   *   *

 

「見えた!」

 

 ラビアンローズを発ち、使い捨てのロケットブースターなどを併用して驚くべき速度でユニウスセブンへと急行したタマハガネから出撃した飛鳥インパルスのコクピットで、シンは間に合ったか、という思いと共に口にしていた。
 一時的な措置としてクライ・ウルブズ本隊から離れていたレオナやタスク達が奮闘している様子も、聞かされていたから全員が無事らしいとレーダーの反応から分かり、かすかに安堵する。

 

「シン、突っ込むぜぇ!!」
「分かってる」

 

 飛鳥インパルスの傍らに並んだエムリオンRCからの声に応えて、シンとアウルを先頭にクライ・ウルブズ各機もユニウスセブンの周囲で繰り広げられる戦闘に参加する。
 ティエリアのヴァーチェ、ロックオンのアヘッドSC、デンゼルのバルゴラ一号機が遠距離からの支援を担当し、トビーのバルゴラ二号機、スティングのシラヌイアカツキが中距離を、残る機体が近接戦闘を担当するのが基本的なフォーメーションだ。
 圧縮したGN粒子を開放したヴァーチェのGNバズーカの一撃が、その巨大な柱の様な射線上に存在した敵や残骸をまとめて消し飛ばし、混沌とした戦場にわずかな空隙が穿たれる。
 砲撃を回避した機体へとロックオンの高精度な狙撃や、シラヌイアカツキから射出されたドラグーン、バルゴラ二号機のバーレイ・サイズなどが的確に撃ちこまれ、統制のとれていた敵部隊に徐々に乱れが生じはじめる。
 こうなれば、シンを筆頭にした近接戦担当の各機の独壇場だ。

 

「刹那・F・セイエイ、目標を駆逐する」

 

 新たに装備されたGNドウタヌキを右手に、左手に長刀身のGNモノホシザオを握らせ、サキガケ7Sの加速性能を最大限に生かし、立ちふさがったソード105ダガーのシュベルトゲベールと切り結ぶ。
 十五メートルにもなるシュベルトゲベールを、幅が広く分厚い刀身のGNドウタヌキで受け、真っ向から振り下ろされた刀身をサキガケ7Sの右側へと受け流し、空いた右胴をGNモノホシザオの切っ先が切り裂く。
 GN粒子を刀身に纏い、切断力を増した実体剣の威力に、刹那は確かな手ごたえを感じていた。対艦刀とも真っ向から斬り合えるだけの装備を、活かしきれるかどうかは刹那の技量次第だ。

 

「はああっ!」

 

 二連装ビームクローを展開し、サキガケ7Sの下方から襲いかかってきたゲイツの首を、はるかにリーチで勝るGNモノホシザオの切っ先が跳ね、エールダガーLが撃ったビームカービンの光の矢を、GNドウタヌキの刀身の腹を盾代わりにして受ける。
 シンの飛鳥インパルスの戦闘能力は刹那の目から見ても瞠目に値するが、意外にデスピニスのエレオスもかなりの活躍を見せている。
 全高二十二メートルほどの大型MSサイズだが、パワーは特機レベルでその特異な外見に相応しいトリッキーな戦い方で敵を翻弄している。
 ピラミッドを逆さにしたような変わった頭部から飛び立った三つの仮面が、縦横無尽に乱舞し、敵に隙が出来たと見るやすかさずエレオスが振り上げた杖で一撃の下にMSが、粘土の様に叩き潰されていく。

 

 十歳かそこらの外見としか見えないデスピニスがああも自在に機動兵器を操り、戦って見せる光景を見る度、刹那はかつて少年兵として洗脳され戦った自分を重ねて、暗いモノが胸の内で疼く。
 それはクライ・ウルブズの誰もが大なり小なり感じてはいるらしいが、当のデスピニス本人は、戦う事を命じた誰かに心酔しているらしく戦う事に躊躇っている様子はない。それがかえって痛ましくさえあった。
 アウルはまたエムリオン系列機を宛がわれた鬱憤を晴らすかの様にがむしゃらな、素人の様な戦い方をしていた。
 エムリオンタイプ特有の四本腕を利用し、リオンアームにはディバインブレードとビームサーベルを、M1部分の腕にはオクスタンライフル二丁を握らせて、単機で三機分近い働きをしている。
 先程から通信機にはどこか吹っ切れたようなアウルの叫び声が聞こえてきてうるさいので、刹那は音量をかなり絞らざるを得なかった。
 セツコのバルゴラ三号機のフォローをしながら、オクスタンライフルで牽制射撃を行っていたシンが、不意に敵機の構成が徐々にザフト機の比率が増し始めた事に気づいた。

 

「セツコさん、敵機の面子が変わってきていませんか?」
「え、そう言えば、……地球連合の機体が減って、ザフト系が増えている?」

 

 三号機が担当しているガナリー・カーバーのオプション、ジャック・カーバーの刀身でバスターダガーの胴を横一文字に切り裂いたセツコが、シンに声をかけられて周囲の敵の変化に気づいた。
 トロヤ・ステーションでの戦闘以来、短い間隔で連続する戦闘に慣れたのか、新兵によくある硬さは抜けているが、緊張故にいささか視界が狭くなっているようだ。通信機越しに聞こえる声が、すこし乱れている。

 

「何か狙いがあるのかしら?」
「……ユニウスセブン落下をザフトの所為にしたいのか?」
「シン君、新しい反応! ユニウスセブンの中からまた所属不明の敵よ」
「伏兵か!?」

 

 破壊されたユニウスセブン内部から、さらにザクウォーリアや上位機であるザクファントムを少数ながら含むザフト系列機がおよそ三十機近く姿を現していた。
 ミラージュコロイドを使用していたのか、メテオブレイカー設置部隊の付近にまで接近していた敵の奇襲に、相当数のメテオブレイカーと友軍機が破壊されてしまう。ユニウスセブンの破砕完遂を目前にしてのタイミングに、シンは舌打ちを隠さなかった。

 

「くそっ、こんなものが落ちたらどうなるか、分かっているのかよ!?」

 

 シンとセツコも周囲をゲイツとゲイツRの混成部隊に囲まれて、足止めを食らっていた。クライ・ウルブズの突破力でも状況の打開には今少し時間が必要だと認めざるを得ない。
 百の敵を突破する力と百の味方を守り抜く力は決して同じではない。数倍、数十倍の敵が敷いた防衛布陣を突破する事に掛けては右に出る者がいない力を持つクライ・ウルブズだが、その逆の守る戦いと言うのは不得手なのだ。
 だが、運命の女神と言う存在がいるとしたならば、まだユニウスセブンを落とす事には決めていないらしかった。敵の伏兵の出現に遅れて数分、この宙域に接近する二つの艦影をタマハガネが捉えていた。

 

「艦長、ザフト艦ミネルバと、正統オーブ宇宙軍のイズモ級です!」
「アスハの姫君が部隊を動かすのはまだ分かるが、ミネルバが間に合ったか。足の速さは大したものだな。イズモ級からはなにか?」
「ユニウスセブン破砕作業に協力すると」
「各員に通達せよ。オーブ宇宙軍イズモ級ならびにその艦載機は敵に非ず。こちらから攻撃を仕掛ける事を禁止する」

 

 話が分かるにもほどがあるエペソの即断に、オペレーターや操舵手たちが驚くが、エペソは蚊に刺されたほどにも気にしていない。面の皮の厚さは超合金Z、神経の太さはガンダム曼荼羅で吹き飛ばされたデビルガンダムの触手並みの太さなのだろう。
 エペソからの命令が行き渡り、イズモ級スサノオから出撃したムラサメの編隊にDCからの攻撃が加わる事はなかった。
 磨き抜いた鋼に似た船体色のスサノオから飛び立ったのは、三機のムラサメと指揮官・エース用のカスタム機であるマサムネ、そして赤い鋼の塊と純白の騎兵、継ぎ接ぎの亡霊であった。
 マサムネに搭乗するムウ・ラ・フラガ三佐が、指揮下のムラサメ各機に通信を繋ぎ、ザフト・DC部隊への援護へと向かう。

 

「各機、おれに続け。おれ達の位置からならDCやザフトの部隊と挟撃にできる。アレックス、キラ、アリエイル、お前さんがたに指示は要らんだろうが、高度には気を付けろよ。お前達の機体は大気圏に突入はできても宇宙に戻ってくるのは難しいんだからな」
「了解」
「ムウさんもお気をつけて」
「アスランさん、キラさん、目視可能距離に入ります。注意を」

 

 先行するムラサメ隊の後を、アレックス・ディノのアルトアイゼン、キラ・ヤマトのヴァイスリッター、アリエイル・オーグのフリッケライガイストが続く。アレックスことアスラン・ザラを小隊長としたオーブの切り札に等しい三人だ。
 戦闘機へと姿を変えたムラサメには及ばぬが、それぞれの機体も並みならぬ加速性や機動性、速度を持つ。瞬く間に巨大な岩塊の周囲を彩る戦火の中へと雪崩れ込んだ。
 ほとんど同時にミネルバから出撃したブラストインパルスやディアッカ、ニコルのザクウォーリアも戦列に加わる。ミネルバには他にも二機のゲイツRが配備されていたが、ガーティ・ルーとの戦闘で撃墜されていた。
 オーブからの七機、ミネルバの三機合わせて十機の援軍であったが、いずれも粒ぞろいの者達だ。高度な戦闘用人工知能を搭載された所属不明の部隊と互角以上の戦いをすぐに始める。

 

「正面のゲシュペンストは任せろ。アリエイル、右のシグーは任せるぞ!」

 

 アルトアイゼンの前に立ちふさがる見慣れた機影に、アスランは若干の躊躇いを覚えないではなかった。
 だが構わずアルトアイゼンの持つ爆発的な加速を生かし、メガビームライフルの光をかいくぐり、目まぐるしく変わる光景の中、的確に懐に飛び込んで胸部へと杭の切っ先を押しつけた。
 爆発的なアルトアイゼンの加速に対応できるだけの判断力と反射神経、反応速度を備えたパイロットはコーディネイターでも稀にしか存在しない。

 

「どういう理由で貴様らがその機体を使っているのか知らんが、こんな事の為に使うのを、許すわけには行かないんだ!」

 

 右手の親指がトリガーを押し込み、アルトアイゼンの右腕のリボルビングステーク輪胴内の炸薬が炸裂し、PS装甲製の杭が呆気なくゲシュペンストMk-兇料甲を撃ち貫く。爆発を起こす前に離れ、次の敵を捉える。
 シグーを任せたアリエイルも、鮮やかなまでの機動でフリッケライを駆り、シグーと更にジン一機を撃墜していた。オーブで調べた折に特異な遺伝子操作を施されたコーディネイタイーらしいとは聞いていたが、パイロットとしても一流と言える。
 キラのヴァイスリッターの正確無比な援護射撃が、さらに一機二機と迫る敵を牽制しダメージを与える。この世界最高のコーディネイターパイロットであるアスランとキラを阻める者は、敵の中にはおよそいなかった。
 今も時折オウカの声と間違うアリエイルの凛とした声が聞こえた。

 

「先行するフラガ三佐からです。メテオブレイカーは予定の半数が設置終了。残るメテオブレイカー設置作業の護衛に回るとの事です」
「了解した、キラ、掩護を頼むぞ」
「分かった。気をつけて、敵も多いけど味方でも敵でもない人も多い。流れ弾もね」
「……そうだな」

 

 特にDCと現在の正統オーブはアスハ派とそうでない者達とに分かれてできた様なものだ。こちらにもあちらにも、遣り辛いと感じる者はいるだろうし、また逆に闘争の意思を燃やす者とてもいるだろう。
 シンの場合は前者だった。シンくらいの年頃の少年少女がそうであるように、政治に無関心だったために、特にアスハ一族や五大氏族に不平不満があったわけではないし、元が同じ国民同士で戦う気力もない。
 それでも命令とあれば戦うのが兵士と言う人種であろうが、それが出来ないシンは兵士としてはあまりにも不完全な存在だったし、それを矯正しようとしなかったDCの軍部にも責任があるだろう。
 今回の場合は正統オーブとDCの戦闘が行われるような事態は免れた様だが、いずれはそうなる事も否定はできない。その時、アスランにはかつてジャスティスで挑み、シンのガームリオン・カスタム飛鳥に敗れた雪辱を晴らす機会もあるだろう。
 もっとも今はそんな考えはアスランの心の片隅にもありはしなかったが。アルトアイゼンの両肩に仕込まれている直径90センチのチタン鋼の特注弾が、雨霰の如く降り注いでシールドを掲げていたM1が粉微塵に砕かれ吹き飛ぶ。
 射程が短い割にやたらと射角が広く、使いどころの難しい武器だが、その分使いどころがはまれば威力は絶大だ。しかし、

 

「アルトアイゼンを設計した人は頭のネジの締め方が普通とは違うな」

 

 運動性に任せて装甲を徹底的に削ったヴァイスリッターもそうだが、とても主力量産機は狙えないような際物だ。自分もキラもとんだじゃじゃ馬のパイロットにされてしまったと思わずにはいられなかった。
 エネルギー消費系の武装が無く、継戦能力にいささか乏しいものを持つアルトアイゼンの使用上の注意にアスランは気を配らなければならない。使い慣れるまでなかなか辛いものがある。

 

   *   *   *

 

 メテオブレイカーのいくつかが地中深くへと閃光をはじめ、光や刃、ミサイルを交差させる者達の下で、強い震動が始まりそれはユニウスセブン全体に広がって、大きなひび割れが蜘蛛の巣のように広がっていく。
 戦闘の最中、誰もが息をのんで見守る中凍りついた岩塊の上をひび割れが縦横無尽に走り、その先にはやがて星空が広がり始める。

 

「グゥレイトォ! やったぜ」
「その声、ディアッカか!?」

 

 思わず拳を握りしめたい衝動に駆られたアスランの耳に、付近のガナーザクウォーリアから漏れ聞こえた聞き覚えのある声が届いた。

 

「ああ、アスランか。久しぶりだな!」
「あの新型艦のクルーになっていたのか。ニコルも一緒なのか?」
「あっちの背負い物している奴だよ。おいニコル!」
「どうしたんです、ディアッカ」
「よお、こっちの赤いのアスランが乗ってるぜ? とんだ所で再会だな」

 

 ディアッカとニコルは、前大戦の終結時に正統オーブには行かずにプラントに戻った少数組だ。二人とも家族がプラント本国に残っていたと言う事もあるし、特にニコルは両親に心配を何度もかけて来た事を気に掛けていた事もある。
 いがみ合って仲互いになって別れたわけではない分、三人の間に特に遺恨はない。むしろ徹頭徹尾ザフトの為に戦い続けたイザークが、戻ってきたニコルとディアッカ、戻ってこなかったアスランへの憤激を撒き散らしたくらいだ。

 

「元気そうでなによりです、アスラン」
「ああ、ニコルもな。それと、今はアレックス・ディノを名乗っている。今はいいが、別の機会で会った時はアレックスで頼むぞ」
「なんだ、面倒な事になっているんだな。あのお転婆姫の傍にいる為か?」
「ディアッカ、茶化している場合じゃありませんよ。国籍は別れてしまいましたけど、久しぶりにザラ隊の連携を見せましょう」
「イザークの奴が欠けているけどな」
「いたら、おれの事をさんざん怒鳴るだろうな」

 

 アスランの苦笑いと共に口にしたセリフに、ニコルとディアッカは心から同意した。いくらか角は取れたが、昔からの知り合いにイザークは容赦が無いのだ。
 気心の知れた者同士の会話で、余計な力の抜けた三人達に従ってアルトアイゼン、ガナーザクウォーリア、ブレイズザクウォーリアは肩を並べ直した。
 ニコルの言葉通りに、かつてのザラ隊の呼吸で群がる敵を掃討する時が今だった。

 

   *   *   *

 

 オーブ・ミネルバの増援が加わり戦況を測る天秤が落下阻止の側に傾き始めたころ、この戦闘の様子を遠巻きに見守る戦艦の影があった。アーモリーワンを襲撃し、新型MS三機を強奪した強化人間達の母艦ガーティ・ルーである。
 ナチュラルで揃えられた艦のクルー達は、落下阻止に動こうとしないネオ・ロアノーク大佐に時折訝しげな瞳を向けるが、ネオは依然として無機質な仮面の奥に表情を隠したままだ。
 私情を任務には決して挟まぬリーまでもが、問う様な視線を向けている事に気づき、ネオは苦笑したい衝動に駆られた。その所為で言い訳めいた答えになってしまったのは否めない。

 

「おれだって、流石にヤバイとは思うんだが、戦闘には加わらずに戦闘の映像を撮れって命令が来ちまったんだ。仕方が無いだろう?」
「大佐の心情はお察ししますが。……大佐、格納庫からです」
「ん。どうした?」
「それが、例の生体CPU達が出撃させろと騒いでいるそうです。ハッチを破壊してでも出撃すると」
「なんでまた? 君は前大戦の時、あの連中と組んでいたんだろう。あいつらの言い分は何だ?」
「それが、地球にはω特務艦隊の時の上司や同僚が地球にいるのですが……」
「へえ、あいつら、仲間ってものを大事にする気持ちが残っていたのか。気持ちは分からんでもないが、保安部員に確保させろ。麻酔位ならいくらでも使って構わん」
「わかりました」
「やれやれ。しかし、これはとんでもない画が撮れるな。使い道なんてひとつっきりだろうが、我々が戦争の発端となると思うと感慨深いものがあるねえ。影の連中はそれがお望みなんだろうがな」

 

 それにしても、先程から感じるこの不可解な感覚は何なのかと、ネオは浮かべた微笑の仮面の下に、正統オーブ軍が姿を見せてから続く頭痛に似た感覚に疑問を抱いていた。
 同じようにムウもまたネオと同じ感覚を味わいながら、メテオブレイカーの設置作業を行っているザフトのゲイツRを守りながら戦っていた。
 ムラサメの上位機種であるマサムネはムラサメと大きく仕様の変わる機体ではなく、武装もムラサメとおなじビームライフルやイーゲルシュテルン、ビームサーベルにミサイルと特に目を見張る様なものはない。
 それでもフラガ一族の持つ特殊な感覚と、ムウの持つ豊富な戦闘経験によって操られるマサムネは、極めて高い戦闘能力を発揮して既に四機のMSを撃墜していた。率いたムラサメ隊も、二機一組で危なげない戦い方をしている。
 いかんせんオーブの戦力は乏しく一機たりとも無駄にはできないし、パイロットはそれ以上に希少だ。地球存亡の事態とはいえ、ここで散ってもらうわけには行かない。訓練以上にたたか変えている部下達の様子に、ムウも安堵の息を禁じえない。

 

「にしても、なんださっきから? この感覚、まさかクルーゼがここにいると言うわけでもあるまいし……!」

 

 アクタイオンインダストリー社製の大型ビームランチャーを構えたダガーLに気づき、ムウはすぐさまビームライフルの連射でそのダガーLを撃墜する。
 画一的な性能のAIを用いた無人機だけに、その動きや行動パターンに共通するものを見つければ対処するのはムウほどのベテランならば難しい事ではない。
 背後にメテオブレイカーを守る以上、回避行動は下手にとれないし、ABCシールドでも受け切れるか難しい以上、撃たれる前に撃つ他ない。

 

「これで五つ、まったく後何機叩けばいいんだ?」

 

 アスランとキラのコンビネーションを傍目に、アリエイルは戦っている無人機にも等しい的確かつ冷静な操縦でフリッケライガイストを自在に操り、戦っていた。
 月の中立都市で開発していたアルトアイゼンの四肢をとある機体に移植したフリッケライガイストは、プラズマジェネレーター搭載機を上回る出力を持つ独自の機関とのマッチングの調整が難しく、いささかピーキーな仕上がりとなっている。
 それでもフリッケライを自らの半身の様に操るアリエイルの実力は、軍事力に悩みの種を抱えるオーブにとっては宝石にも等しい価値を持つ。
 三連装マシンキャノンでジンHM2型と撃ちあっていたアリエイルは彼方から放たれたビームが、そのジンHM2型を撃墜するのを目撃し、瞬時にそのビームの源へとカメラの画像を向ける。
 ビームと見えたのはかすかに向こう側が透けて見える漆黒の波だ。計器類の反応から通常のビームではない事を把握する。
 重力兵器となればそれを運用しているのはDCだけだ。アリエイルの推測を肯定する様に、グラビトンランチャーを構えたステラのエルアインスが佇んでいた。こちらへの攻撃の意思が無いと分かり、一応アリエイルは警戒の意思を薄いものにした。

 

「助かりました。お礼を言います」

 

 アリエイルの通信を聞いた所為か、エルアインスが戦闘中だと言うのに動きを一瞬止めた事に、アリエイルが驚かされた。ましてや、キラやアスランよりも年下だとはっきりと分かる少女の声がこう答えを返してくるとは。

 

「……オウカお姉ちゃん?」

 

 それは、月でアスランとキラに同行を申し出て正統オーブのコロニーに辿り着いた時、幾人かに言われた名前であった。

 

   *   *   *

 

『シン・アスカ』
「なんです!? 今、そんなに余裕ないんですけど」

 

 セツコのバルゴラ三号機と背中わせになって、こちらを包囲していたゲイツ・ゲイツR合わせて十機を撃墜し終えた所だ。
 これで、セツコの撃墜スコアも五機を数えていた。他所の勢力なら新兵としては上出来な成果を上げたが、それを喜んでいる状況ではない所に、エペソからの相変わらず高圧的な声での通信ときては、少々カチンとくるのもシンの精神の未熟さから言えば仕方のない。

 

『オノゴロのカグヤから例のものを射出したと報告があった。予測到達ポイントのデータを送る。そこで待機せよ。難しいタイミングだが、汝なら可能であろう』
「例のものって、分かりました。刹那、セツコさんのフォローを頼む!」
「分かった。オハラ少尉サポートに回る」
「は、はい。お願いします」
「すいません、セツコさん。すぐに退避できるように注意していてください」

 

 セツコへとかけられるシンの声に、心配以上のものが含まれている事にまだシンもセツコも気付いてはいなかった。タマハガネから送られてきた予測データに従って、シンは飛鳥インパルスを向かわせる。

 

 敵もそれを見逃すわけもなく、シンを足止めしようと数機のエール装備のダガータイプに気づき、シンは射出された例の物の到達予測時刻まで秒単位で急がなければならない。本気で集中してかかれば一分とかからず斃せる相手だろうが、その時間が惜しいのだ。
 シンの迷いがわずかに飛鳥インパルスの動きを乱しかけた時、追撃しようとするダガータイプを、破壊的な超高エネルギーを伴うケルベロスがまとめて吹き飛ばして見せた。
 極太のビームのみならず半径百五十メートルまでも薙ぎ払う超高密度のエネルギーは、戦艦どころかコロニーさえも一撃で破壊し尽すのではあるまいか。
 MSクラスとしては常軌を逸した一撃に、シンはつい最近目の当たりにした機体を思い出していた。
 他国から見ればプラズマジェネレーター四基を搭載して見せた驚愕の機体、しかし内情を知るものからすれば、パイロットの事を考えて作れと抗議したくなる問題児――ブラストシルエットを装備したザフトインパルスである。

 

「シン、無事? 遅くなっちゃってごめんなさいね」
「アクアさん、助かります。これからユニウスセブンを砕きます。それまで、敵を抑えてください」
「任せておきなさい。雑魚は全部引き受けるわ」

 

 と、かなり格好の良い事を言ってはいたが、アクアは次々とエラー表示の浮かび上がるザフトインパルスに悪戦苦闘していた。
 涼しげな顔で通信には応えていたのだが、実際には水面を優雅に泳ぐ白鳥が水面の下で必死に足を動かしているように、余裕など余の字もない状態である。
 一基だけ稼働させていたジェネレーターを咄嗟に三基起動させてケルベロスの砲身が耐えうる限界までエネルギーをつぎ込み、飛鳥インパルスへと迫った敵を薙ぎ払ったツケは極めて大きい。電装系にかなりのダメージが出ているし、OSの新たな不備も出ている。
 今の状態はデクの棒とまでは言わぬが、明らかに反応が鈍っている。何度も上伸しておいたプラズマジェネレーター未搭載のチェストとレッグが、早く配備されないものかとアクアは泣きたい気持ちで思う。
 かろうじて機体を立て直し、再びプラズマジェネレーターをコアスプレンダーに搭載してある小型低出力のものに切り替えた。こうでもしないとまともに動いてくれないのだ。

 

「とはいえ、四基稼働させた時なら、ミネルバだって一撃で落とせるのは確かにすごいのよね」

 

 最も運動性の落ちるブラストシルエット装備時でも、並のMSに引けは取らぬ程度の性能はあるし、プラズマジェネレーターを並列稼働させた時の出力は、特機だって一撃で落とすだけの数値を叩きだすのもまた事実であった。
 それをもっと安全に、確実に行える機体を作ってもらえていたなら、アクアは手放しでザフト製のインパルスを称賛していた事だろう。
 パイロットの操縦の意図を極めて繊細に、そして従順に反映している飛鳥インパルスを見ていると、うらやましくて仕方なるのも、仕方のない事だろう。

 

「それにしても、ユニウスセブンを砕くって、どうやって?」

 

   *   *   *

 

 オノゴロ島のマスドライバー・カグヤから急遽射出されたシン・アスカとその乗機飛鳥インパルスの為の装備が、大気の層を突き破りシンの下へと地上から天へと遡る流星となっていた。
 予定地点に辿り着いたシンは、打ち上げられた小型の貨物シャトルが、逆噴射を行いながら飛鳥インパルスの胸部から投射された誘導ビーコンに従って、軌道と相対速度を合わせる。
 二十メートルほどのシャトルに積まれた貨物が切り離され、ロックの弁を飛鳥インパルスの腕で直接回して開く。収納されていた物質を、シンは宗教的な恭しさを伴う面持ちで飛鳥インパルスの右腕に握らせた。
 ユニウスセブンはすでに稼働したメテオブレイカーによって大まかに砕かれ、キロメートル単位の破片は無くなっている。しかし、大気圏で燃え尽きぬ程度の大きさの破片が、嵐の夜の雨の様に無数に浮かんでいる。
 あれらをさらに細かく砕かぬ限りは、地上への被害はなくならぬだろう。
 シンは眦を険しいものに変え、体内で稼働するチャクラが濾過した思念エネルギーと血流と呼吸によって、細胞一つ一つにまで充溢させた気で鋭敏化した全知覚能力を駆使して、地球へと降り注ぐ破片の全てを捕えてみせた。
 あの破片一つとて、地上に落とすわけには行かない。今も尚あの大地に眠るユニウスセブンの死者とその遺族の事を思えば胸が痛むが、新たな死者と憎悪の連鎖を生む事と秤にかければ、砕く以外の選択肢はない。
 すうぅ、とかすかな音を立ててシンが息を吸う。それと同様に細い糸の様に息を吐く。飛鳥インパルスの右手に握られた長い柄に三つ又の矛に似た鍔に、刀身を持たぬ剣が後方へとその存在しない切っ先を向ける形で振りかぶられた。

 

 普段はセーブしてある飛鳥シルエットのプラズマリアクターのリミッターを解除し、この一撃の為に徹底的に耐久性に富んだ設計の機体フレームが耐えうる限界まで、エネルギーを絞り出す。

 

「伸びろ、斬艦刀ォオオ!!」

 

 シンの血を吐くような叫びと共に、斬艦刀の柄から見る間に巨大な稲光が伸び、瞬く間に、まさに光の速さで数キロメートルに及ぶ長大な刃と化す。漆黒の帳に閉ざされた天空で荒れ狂う竜の如き光刃。
 かつてコロニー・メンデルでの戦いで星屑を薙ぎ払って道を築き、ジェネシスを取り込んだAI1セカンドを両断して見せた神話の中の戦神が振るうが如き超絶の一刀。
 かつてその一刀を目の当たりにした者達、そして退避勧告を知らされて、たった一機のMSが振るおうとしている一撃の攻撃範囲の広さに目を見張る。刮目して見よ。天地鳴動し、世界が断末魔の悲鳴を上げるかの如き一撃を。その一撃の名は!

 

「星薙の、太刀ぃいいいいーーーーーー!!!!」

 

 破壊される前のユニウスセブンでさえも呆気なく両断して見せただろう壮絶なまでの一刀。己が守るべき者の為、守ると誓った者の為に文字通り命を掛けた男から受け継いだ技。
 その光を映した瞳を焼き潰すまでに苛烈な白い光の刀身に触れる度、ユニウスセブンの破片は圧倒的なエネルギーによって分子結合を崩壊させて塵へと変わってゆく。超高熱を加えられた事による崩壊現象だ。
 振りかぶられた星薙の光刃が振り抜かれた時、満天の星空にも似て地球の空を埋め尽くさんとしていたユニウスセブンの破片は、ただの一片たりとも存在してはいなかった、オーバーヒート寸前のプラズマリアクターの出力を切り、冷却を急がせる。
 グルンガスト飛鳥でならともかく、星薙の太刀の仕様も考慮した上で開発された飛鳥シルエットとDCインパルスを持ってしても、負担は大きい。連続しての星薙は事実上不可能だろう。
 だが、今、シン達をはじめDC、ザフトの面々のレーダーや望遠映像のどこにもユニウスセブンの破片は消え去っていた。
 そして、その時……

 

「よし、これで破片は……!?」

 

 氷雪の閉ざされた南極大陸のある場所で、門が、開かれた。
 シンの目の前で、ユニウスセブンの破片が消え去り、元の虚空へと帰った夜天から

 

「星が、消えている!? 月も、太陽も!!」

 

 幾億、幾兆、無限に輝く星も月も何もかもが消え去っていた。いやスペースコロニーや火星に住むマーシャン達、木星へと逃げた人々達から見れば、こう訂正しただろう。消えたのは宇宙ではなく、地球が消えたのだと。

 
 

 ―――つづく。