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SRW-SEED_660氏_ディバインSEED DESTINY_第10話

Last-modified: 2009-06-08 (月) 19:14:46
 

ディバインSEED DESTINY
第10話 堕ちてきた男

 
 

 地球連合の事実上の盟主として君臨する大西洋連邦軍が、北アメリカ大陸西海岸線沿いに保有するとある軍事基地。軍や政治の上層部、それも特殊な地位にあるものしか知らぬ基地である。
 地下に設立された基地のドックに今一隻の巨大な戦艦が停泊していた。グリーンの船体の、古代に生息していた三葉虫に似た形だ。DCを含めあらゆる勢力で採用されている戦艦のどれとも似ても似つかない。
 大西洋連邦で建造が進められているトライロバイト級万能戦闘母艦の、その艦長室に人影がいくつかあった。およそ軍人らしからぬ白と紫のケープ姿だ。あえて照明を落としているのか室内は薄暗く、二人の顔は暗闇にまぎれている。

 

「今回の事態、分析は進んでいるか」
「芳しくはないわ。まさしく次元の壁とでも言うべきものね。宇宙の部隊との連絡が一切とれないし、ちょっと困った事になっているんじゃないの?」
「予測にない事態だが、今はまだ許容範囲内だ。ジブリールが音頭を取って開戦自体は行われる」
「あら、こんな状況下でよくそんな意見を通せたわね。ユニウスセブンを落とせなかったせいで地上に被害はなかったけど、世界は戦争どころではなくなっているのではなくて?」
「だからだ。民衆は不安に震え怯え、それらを放出する先を求めている。ジブリールはそれに明確な相手を与えるだけだ。扇動家としては一流と言えるかもしれんな」
「そう、となると目下の相手はカーペンタリアとジブラルタルのザフト? その次の予定も経っているのかしら?」

 

 他人事のように囁く女の声は何処か気だるく、吸いこんだ吐息が肺腑をゆっくりと腐敗させるような甘さがあった。甘美さの中に緩慢な廃滅の毒を孕んだ声は、その美しさゆえに、聞く者の耳から離れる事はないだろう。
 先ほどからこの女と会話をしている男は逆に、骨格の代わりに鋼鉄の芯を通しているかのように揺るぎなく、強い理性と厳しさを伺わせる。声だけでその人となりが分かる様な、錆びた声音だ。

 

「大洋州連合、スカンジナビア王国、汎ムスリム会議、DC。それになにより、地球連合内部の不和もある。闘争には事欠かん。……ところで、奴は見つかったか?」
「いいえ。八方手を尽くしてはいるけど、成果はなしよ。迂闊に動くと『一族』に感づかれる危険性があるわ。せっかく私達と手を携えてくれる相手ですもの、下手な弱みは見せられないでしょう」
「ふん、居るに越したことはないが、奴とて我らの理想の礎となるなら犠牲となるを厭わぬ男ではあるまい。奴が戻らぬままでも事は進めるぞ」
「貴方ならそう言うでしょうけどね。とりあえず分かっている限りで一番厄介そうなDCへの潜入任務は、彼の代わりにこの娘を使う事にしたわ。了承していただけるかしら?」

 

 女が手招くと、それまで部屋の調度品の様に隅で立っていた人影が動いた。薄暗がりを照らす照明に映し出された横顔は、女神の彫像が突如現れたのかと錯覚するほどに美しい。
 まるで、人間とは思えぬほどに。

 

「好きにしろ」

 

 男からの了承の返事は、すぐにあった。

 

   *   *   *

 

 太陽の消えた空は奇妙な違和感をシンの胸に植え付けていた。雲一つない空だと言うのに、在る筈のものが無いという現実が、シンの中にある常識と齟齬を生じているせいだろう。
 ユニウスセブンの破片を星薙ぎの太刀によって完全に消滅させた直後、星と太陽とが消失する瞬間を目の当たりにしながら地球へと降下し、太平洋の旧オーブ領海近海に着水したタマハガネの甲板の上である。
 船内の全区画に浸水は認められずダメージコントロール要員や各部署からも、特に被害はないと報告がブリッジに届いていた。現在状況を確認の為に錨を下ろし、出撃していたパイロット達には交替で休憩が申し渡されている。
 甲板の手摺にもたれながら、ぼうっと見上げていた空から視線を下ろし、タマハガネの右方四〇〇メートルほどの位置にあるミネルバを見つめた。
 あちらも遠目には目立った損害はなく出撃していた機体も無事に収容できている。だが、アフリカ部族の戦士並みの視力を獲得しているシンの目には、ボギーワン追撃の際に負った損傷で、凹凸の激しい一部の装甲が映っている。

 

 ユニウスセブン破砕に従事していた部隊の内、地球へ降下したのはDCのクライ・ウルブズとザフトのミネルバ隊のみだ。ミネルバに乗艦していたギルバート・デュランダル議長は、事前にプラント本国へと戻っていて、地球へ降りる羽目に陥らずに済んでいる。
 DC総帥ビアン・ゾルダークは、ラビアンローズでタマハガネから降りてからアメノミハシラ経由で地球に戻る予定だったが、その前に今回の事態が勃発して地球には降りていない筈だ。
 今は地球と宇宙での往来に、支障が生じているのかどうか確認していないが、通信ができない状態からして行き来も出来ない可能性が高い。となると地上に本拠地を置くDCとしては総帥の不在はいささか面白くない。
 副総帥であるロンド・ミナ・サハクがヤラファス島に残っていた事がせめてもの救いだろう。
 ミネルバがこれまでの戦闘での損傷も激しかった事や、現在位置がオノゴロ島に近い事もあり、タマハガネはミネルバを伴ってDC本土に帰還する予定が立てられている。
 もともとタマハガネに配備されたインパルス、アカツキ、エルアインス二機、ビルトシュバイン、エレオス、サキガケ7S、アヘッドSCフルシールド、バルゴラ三機にジニンのアヘッド、タスクのジガンスクード、レオナのガーリオン・フライルーが追加されている。
 一部のメカニックの間では、タマハガネの底が抜けるのでは? と危惧する声が上がっている光景が、格納庫では広がっている。
 ヒュッケバインやグルンガスト飛鳥を失ったとはいえ、前大戦時全盛期のクライ・ウルブズと同等以上の戦力が集中していると言っていい。
 シンの心情をいくらかましなものにしている事といえば、ユニウスセブンの破片落下を阻止できたことで、家族達に危機が及ぶ事態も防げたと言う事くらいだった。
 こうして異変に見舞われた空を見ていても事態が好転するわけもないと、シンは気持ちを切り替えて船内へと戻るべく足を向けた。

 

   *   *   *

 

 タマハガネの格納庫ではバラック・ジニン大尉が、佇立する機動兵器群の中のガンダムヴァーチェを険しい瞳で睨みつけていた。ジニンの経歴や人生を真に知る者ならば、ジニンの瞳に憎悪に近いものが混じっている事を察するだろう。
 生前、ジニンの本来の世界に新たな争いの種をまいた存在、“ソレスタルビーイングのガンダム”。七機存在したガンダムの内、デカブツなどと称されていた砲戦型のガンダムとヴァーチェは全く同一の姿をしている。
 ジニンの記憶の中のものとの違いは、搭載しているGNドライヴが、DC預かりになっている機体では擬似GNドライヴになっている事くらいだろう。この世界でもこのガンダムを前の辺りにする事になるとは、なんとも皮肉なものだ。
 だがジニンのように二十四世紀の世界で死んだソレスタルビーイングのガンダムのパイロットが機体ごとこちらに来たのかもしれないし、あるいは関係者が、とも考えられる。
 このヴァーチェと言う機体のパイロット、ティエリア・アーデに対し、この時ジニンの胸に強い疑いの念が生まれていた。

 

「ヴァーチェになにか? バラック・ジニン大尉」
「ティエリア・アーデ、民間軍事会社からの出向者だったな」

 

 険しい視線を向けるジニンの様子が気がかりになったのか、ピンクのカーディガンを羽織った私服姿のティエリアが刺す様な瞳でジニンを見つめ、歩み寄っていた。ティエリアからしても擬似GNドライヴ搭載機のパイロットに対しては自然と態度が厳しくなる。
 ジニンはある程度カマを掛けてみる事にした。獅子身中の虫であるかどうかは早めに判断しておきたいという心の動きもある。

 

「GNドライヴは、プラントを含め地球圏で実用化しているのはDCだけの筈だ。それを、PMCで実用化されているとはいささか信じ難くてな。ましてやおれの乗っている機体もGNドライヴ搭載型だ。興味位は抱く」
「そうですか。ですが、ヴァーチェに関して詮索は不要です。整備などに関しても社の方から派遣されたスタッフが行う契約になっています。DCの方々であっても伝える事の出来ない事は多い」
「そうか。ところで、この機体以外にもGNドライヴ搭載機は存在しているのだろう? 変形機構を持った機体、接近戦に特化した機体、遠距離射撃戦に特化した機体の三機とか、な」
「さあ、それは社の考える事です」
「そうか、邪魔をしたな」

 

 踵を返すジニンの背を、ことさらに険しい視線でティエリアは見送った。デュナミスの指示でDCに潜入し、特に厳重に秘匿されている情報の入手に手間取っている事からも分かっていたつもりだが、やはりこのDCは尋常な組織ではない。

 

 その事が、ティエリアのジニンに対する態度を頑ななものにした要因の一つではあったが、それ以上にティエリアの心はかつてない不安に触れていたのだ。

 

「天体が消失してから、脳量子波でのコンタクトが取れない。デュナミス、私はどうすれば……」

 

 ティエリアのみならず、地球に派遣されたイノベイター達は一人の例外もなく宇宙のデュナミスや同胞たちと、脳量子波を用いての連絡が取れなくなっていたのだ。
ティエリアにとって絶対の存在にも等しいデュナミスとのつながりを断たれた事は、ティエリアにかつてない精神的なストレスや、不安を与えていた。かろうじて表に出す事だけは防いでいたが、それもいつまで持つかどうか。時間の問題に過ぎない。
周りに人影がいない為に、白皙の顔に不安の色を浮かべているティエリアを、キャットウォークの上で見守る長身の人影があった。

 

「こっちのティエリアも、強情というか意固持と言うか。手間がかかる分だけ可愛いってね」

 

 道に迷った弟を見つけた兄の様な顔で、そう呟くのはロックオン・ストラトスだった。

 

   *   *   *

 

「ミネルバはオノゴロ島にて可能な限りの補修と物資の補給が受けられるよう手筈を整えておく故、そこまでは任されよ」
『分かりました。エペソ艦長、申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします』

 

 モニターの向こうでミネルバ艦長タリア・グラディスの生真面目な顔が消えるのを見守り、エペソはかるく左人差し指でこめかみを揉んだ。エペソが記憶に留めている限りの知識の中にも、このような事態に該当するものはない。
 ミネルバとしては地球上に二つしか残っていない大規模基地であるカーペンタリアに一刻も早く向かいたい所だ。もっともそれを行おうにもミネルバの損傷は軽視出来るものではないだろうから、DCの申し出は渡りに船だったろう。
 ユニウスセブンの破片落下阻止で地球への被害は抑えられたが、空に発生した有史史上未曽有の天変地異による混乱は、確実に広がっている。
 DCの宇宙における一大軍事拠点アメノミハシラも、軌道エレベーターの低軌道ステーション部分のみであったから、被害は免れたが仮に軌道エレベーターが完成していたらどうなっていたかと想像するとぞっと背筋を這うものがある。
 ともかく、クルーの誰もが精神的にも肉体的にも疲れている。本土に戻って少しでも早く休みを取らせるべきだとエペソは判断していた。
 そしてまた、ミネルバの艦橋でエペソとの会話を終えたタリアもまた自身を含めたミネルバのクルーに休息を取らせるべきだと、鉛が体の中に溶け込んだ様な疲れを感じるが故に思っていた。
 アームレストに肘をついて、抑えきれなかった溜息を零したタリアにおずおずと傍らのアーサーが声をかける。副長というポジションだからと言うわけではあるまいが、さほど疲れた様子ではないアーサーが、タリアにいささかうらやましい。
 けっして若さのせいではないと思いたかった。

 

「艦長、差し出がましいようですが、艦の補給はともかく修理に関してはカーペンタリアで行うべきでは? 友好国とはいえDCに艦を触らせるわけには……」

 

 技術力の高さでは地球圏随一のDCだ。任せればミネルバを満足の行く状況に仕上げてくれるのは間違いない。しかし、その技術力の高さゆえに最新の軍事機密の塊に触れられるのは少し所か大いに拙いのではとアーサーは危惧しているのだろう。
 副長の当然の判断に、煩わしさを覚えないではなかったが、アーサーの優しさゆえに出て来た言葉に噛みつく気にはならない。

 

「貴方の言う事も分かるけど、実際ミネルバにもクルーの皆にもずいぶん無茶をさせてしまったし、直せる時に直しておかないとこれから先の戦闘が不安でしょう? 自分の乗る船は常に万全にしておきたいのよ」
「そのお気持ちは、自分も同じつもりではありますが、今は連絡もつきませんが後で軍司令部から問題視されるのでは……」
「まあ、仕方ないじゃない。エペソ大佐もわざわざロンド・ミナ・サハク副総帥に許可まで取ってくれるんだし。なんなら日誌に残してもいいのよ?」

 

 副長が艦長の決定に不賛成の時、その旨を日誌に残しておくよう要求する事ができる。艦長の判断を上層部が問題視した場合に、そうしておけば副長が責任を問われたり、経歴に傷がつく様な事はない。
 しかし、アーサーは飛びあがらんばかりに慌てた声でその旨を辞退した。

 

「い、いえ、そんな!」

 

 このやや気弱だが善良な副長が、自分に逆らう根性が無い事を分かっていたのだろう。タリアは不敵に笑い、そのまま悠々と立ち去って行った。アーサーは、この先ミネルバ以上に自分が使い潰されるような気がして、がっくりと肩を落とした。
 ミネルバとタマハガネの破損部分などの応急処置を終えて、二隻の船が波を切り裂いて動き始めたのはそれから三時間後の事だった。

 

   *   *   *

 

「太陽や星が観測できなくなったって、ま、マジなんですか!?」
「まじまじ、大マジ」

 

 と、レジ越しに喰いかからんばかりの勢いで問い詰めて来たレントンの口から飛ぶ唾を、手で防ぎながら、アウルは投げやりに答える。
久しぶりに乗ったエムリオンタイプと、あまりに馴染む自分に、おれってまじでエムリオンマイスターじゃね? と自覚して少し凹んでいるらしい。最新技術でリファインされたエムリオンRCはかなりの高性能機なのだが。

 

「なんでそうなったのかさっぱり分からないけどよ、艦長も結構動揺しているんじゃねえか。あんま顔色が変わらないから分かり辛えけど」
「でも、一大事じゃないっすか! まままさか地球滅亡の前触れとか!?」
「レントン、落ちついて。話が飛躍しすぎ」
「エウレカ見ならって落ち着けよ、レントン。ユニウスセブンの事だって地球滅亡の危機って奴だったんだぜ? そう何度も地球滅亡の危機が立て続けに起きられちゃ困るっつの」

 

 レントンが極端に動揺している所為かエウレカはすっかり落ち着き払っている。アウルが平静とも取れる態度なのは、エムリオンの事で精神的に落ち込んでいるせいだろう。
 自動扉を開いて、シンとステラ、セツコが入ってくる。トビーとデンゼルは、今回の様な事が無かったか、エペソに問いただされているためグローリースターは一時的に別行動になっている。

 

「よ、レントン、エウレカ、お疲れ様」
「お、シンさんにステラ、セツコさん、ユニウスセブンの破片落下阻止お疲れ様っス。大活躍したって聞きましたよ。凄いじゃないっすか!」
「ああ、うん、そうなんだけど。こんな事になっちゃったら素直に喜べないだろ?」
「あー。そうっすよね、こんな事なっちゃったら、そりゃそうですよね」

 

 棚から缶ジュースを取り出しながら、シンは苦虫を百匹も噛み潰したような顔と声でレントンに答える。軽々しい言葉を若干後悔しつつ、レントンは俯いた。現在進行形で動揺している所為か、情緒の変動が激しい。
 ぽんぽんと肩を叩いてレントンを慰めるエウレカの姿に微笑ましいものを覚えながら、セツコは、今度はシンに驚かれない程度に商品を選んでカゴにいれている。あれ以来ボン・マルチェの中での買い物も、人の目を気にするようになっていた。
 トウモロコシなどを主材料にして、二百種以上の味を付けた『まいうー棒』という数百年以上の歴史を誇るスナック菓子百本入りを、シンから受け取ったエウレカがレジに通しながら口を開いた。

 

「皆不安みたいで、ここにきて買い物していっているよ。少しは不安が紛れるからかな?」
「かもなあ。そう言う意味じゃ精神衛生面を考慮して、ていう戦艦内部にコンビニ設置って名目も意味があったんだな」
「私達は不謹慎だけど、ちゃんと役に立てているって実感があるかな?」
「はは、まあ売り上げはかなり良かったわけか」
「うん。結構商品の在庫もなくなっているんだよ。特にセツコさんが頑張ってくれたからかな。お菓子とかアイスの売れ行きがね、絶好調。オノゴロに戻ったらたくさん補充しないとね」
「あー」

 

 と、シンは背後を振り返って、真剣な眼差しでアイスバーやらアイスクリームなどを手に取って選んでいるセツコを目撃した。ちら、と目を向けたセツコの左手に下げた買い物かごは、すでに商品で埋まっている。

 

 相変わらず甘いの好きだなあ、とシンは和やかな気持ちになった。セツコの隣であれが食べたいこれが食べたい、これにしようか、あっちがいいかな? とステラが指さしたり、商品を手に取っている光景は戦艦の中とは思えぬほどほのぼのしていた。
 しかし、二人とも歩いているだけで中のモノが見えてしまいそうな超ミニ丈のフレアスカートだ。ちょうどシンから見れば二人の背中がこちらを向いている。時折左右に揺れるお尻は、思春期の少年にはあまりに魅力的過ぎた。
 この光景だけで、シンとレントンにえっちぃメディアは一週間は必要ないだろう
 実にけしからん、そう思いつつ鼻の下を伸ばしていたシンは、同じようにステラとセツコのスカートからすらりと伸びる足と尻のあたりに目線を集中させていたレントンと目があった。

 

「…………」
「…………シンさん、鼻の下、伸びてるっすよ」
「レントンもだよ。……みっともねえな、お互い」
「……そっすね」

 

 お互いに他人から見たらどんなにだらしなく情けない顔をしていたかを思い知らされ、しょぼんと肩を落とした。レントンの隣のエウレカは、こういう事に疎いようで急に落ち込んだ二人を不思議そうに見ている。

 

「オープンスケベか、お前ら?」
「悪かったな」

 

 けけけけ、と意地の悪い笑みを浮かべるアウルにむっつりとした顔でシンは言い返す。アウル自身は特に買い物はしていないようで、カウンターに肘をついてレントンとシンのだらしのない顔を笑っているきりだ。
 商品選びが終わったセツコが、シンの後ろに並んだのでシンは横にどいてセツコの買い物の内容にちょっと笑う。以前セツコの大買い物を目撃して以来、セツコが自粛しているのは知っていたが、今回はそうはいかなかったらしい。
 ユニウスセブン落下戦やら天変地異の勃発と言う事態に対して、セツコもまた相当ストレスを感じていたのだろうから、その鬱憤を晴らす為の買い物だと考えれば、ま、許容範囲だろう。
 微妙に生暖かい視線で自分を見つめるシンに気づき、セツコは結局いつもどおりの量を買い込んでいる自分に気づいた。ぴ、ぴ、と音を立てて商品の会計を進めてゆくエウレカもおかしく感じているようで微妙に口元が笑いをこらえている。

 

「あ、あのこれはね、違うの、シンくん。ステラちゃんとデスピニスちゃんと一緒に食べようって思ったから。あの、私だけで食べるわけじゃないの」
「そうですか、ステラとデスピニスと一緒にねぇ」
「シンくん、信じてないでしょぅ?」

 

 小さく手を左右に振りながら、ほっぺをリンゴみたいに赤らめて、ちょっと顎を引いて見上げる様な上目遣いをセツコはするが、実際には一人で食べるつもりで手に取った商品ばかりだから、声に力が無くて語尾が“う”ではなくか細い“ぅ”になっている。
 シンより三つも年上なのに、自分よりはるかに積み重ねられた戦歴と圧倒的な技量を誇るシンに対して、劣等感から強気に出られないというのもあるが、単に年下にも丁重な性格と言う事も大きい。
 シンから見ればそんなセツコの性格はひどく可愛らしく思える。なまじスタイル抜群の美人なものだから、時折ぐっと幼く見えるセツコの言動はいっそう愛らしさを増してしまうのだ。

 

   *   *   *

 

 ミネルバ及びタマハガネの二隻が、DCの軍総司令部に連絡し、共に連れだって大海原を進み始める先に、誰も住んでいない小さな無人島が群を成す海域がある。
 二十世紀末から始まった海面上昇に伴い、この数世紀の間に没した小島が済んだ水面の下で揺らめいている。
 南洋の島々のみならず、水の都ヴェネツィアもまた雄大な水の下に封じられて久しい。故国を失う危機に襲われた人々の悲痛な叫びや、古い歴史と共にあった街を守ろうという人々の声は間に合わなかった。
 上昇し続ける海面に、いくつもの島々や古都が飲み込まれてからようやく功を奏し始めた温暖化対策や、化石燃料の枯渇という要因が重なりここ百年は海面の上昇といった事態は防がれていたが、海底に没した島々の悲鳴は今も聞こえてくるようだ。
 かつて海水でも育つ事から大量に植林されたマングローブの生い茂る全長一キロメートルほどの小島に、突如巨大な影が降ってわいた。
 天空からの隕石の雨から逃れた空をたゆたうウミネコ達が驚いて飛び去り、白い砂浜に翳がその足首までをめり込ませて落着する。着地の震動は海面を大きく震わせて波を起こし、密集しているマングローブの葉が雨の様に舞散る。

 

 片膝を突き懺悔しているかのような姿勢のまま、巨大な人影は動きを止める。胸部や肘に翡翠色の宝玉状のパーツが埋め込まれ、青い装甲は鍛え抜いた人体のように盛り上がり古代闘技場で血肉を削り合った剣闘士の様な逞しさだ。
 一見ガンダムタイプと見間違いそうな頭部の、頬の辺りにまるで髭の様な鋭角の白いブレードが伸びている。機体のあちこちに多くの損傷が見受けられたが、四肢を損なうような重大な損傷は見当たらない。
 四十メートルを越すサイズや、特異な外見からスーパーロボットの類であろうことは想像に容易い。そのコクピットの中のパイロットは、二十歳をほんの数年超えた程度の若者だった。
 ゆるくウェーブのかかった赤い髪の下に、やや垂れ気味の瞳を持っている。意識がもうろうとしているのか、半眼に開かれた瞳は霞がかかった様に朦朧としている。軽く手を額に当て、目を瞬かせる。
 意識をはっきりとさせて黙っていれば、そこそこの雑誌のモデル位は務まりそうな顔立ちをしている。

 

「……うう……レモ……ン……」

 

 青年がコクピットの中で膝をついた姿勢から立ち上がるのに合わせて、髭を生やした特機もゆっくりと膝立ちの姿勢から身を起こした。パイロットと機体の動きが連動するシステムを搭載しているのだろう。
 青年はコクピット内に映し出された周囲の光景に目をやり、状況が飲み込めないのか頭を振って頭の中の靄を振り払う。

 

「なんだ……ここは? おれ……は。おれは、誰だ? 誰、誰だと? おれはおれが分からない? くそ、まさか、記憶喪失とか言う奴か? 記憶喪失とかいう言葉は分かるくせに、なぜおれの事を思い出せん」

 

 立ち上がった機体の首が周囲を巡り、今ここに居るのが赤道の付近らしいと、メインカメラが映し出した光景や、外部の大気のデータなどからも判断できた。記憶はないがまったく知識が無いわけではないようだと、青年は皮肉なものを感じる。

 

「とにかく、人のいる所に……。レーダーに反応?」

 

 青年と機体を目指し、急速に接近してくる機影をレーダーが捉え、青年がそちらの方角の望遠映像を映し出させる。無意識のうちに両手両足の五指がそれぞれ独自に動き、青年の意識に追従してこられるかを確認していた。
 知らず知らず、青年の肉体は無意識下で戦闘態勢が整えられている。呼吸をするように戦ってきた男なのであろう。

 

「機体の操作方法は忘れていない、か。燃料は結構消費しているな。損傷は軽微、と。さて鬼が出るか蛇が出るか」

 

 自然と腰を落として重心を下げて前後左右あらゆる方向に瞬時に動けるよう構える。骨身に刻んだ闘争の構えだと、納得できた。モニターに映し出されたのは人型の機動兵器で、棘の生えたポールハンマーを構えた機体だ。ざっとレーダーに映る範囲でも二十機以上。

 

「二十対一、普通なら諦める所なんだろうけど、なんとかなりそうな気が済んだよね。これが」

 

 明確な敵意を持った敵に囲まれ、自身も口にした通り絶望的な状況でありながら、青年はこの状況を楽しむかの様に目を細め、コクピットの中で右手を顎先まで持ち上げ左手を腰の辺りに垂らして軽く拳を握り込む。
 ボクシングのヒットマン・スタイルに似ているが、おそらくは青年独自の戦闘技法に基づく構えだろう。見る者が達人の技量を持っていれば、隙が見つけられぬ構えに固唾を呑むのは確実だ。
 頭の中でいつゴングを鳴らすかと考えていた青年がそこではたと気が付いた。
 この機体→空飛べない。
 敵→空飛べる。

 

「これって結構なハンデだったりするのか、ひょっとして? まぁ、攻撃手段があるだけましってね」

 

 やれやれ、ま、仕方ないさ、といやにさばさばとした調子で、青年は割り切った。刹那主義的とも取れるが、生と死にさして頓着していないのだろう。
 あえて青年の心情を言葉にするならば出たサイコロの目を恨んでも仕方が無い。出た目で何とかするのが大人ってものさ、と言った所か。

 

「どこの誰だか知らんが、かかってくるなら早くしな。でないと、おれから行くぜ。こいつがな!」

 

 赤毛の青年の言葉が聞こえたわけでもあるまいが、高度百メートルほどで周囲を取り囲んだ謎の機動兵器“ベルグランデ”は、ショルダーミサイルを放ち青年とその乗機“ソウルゲイン”を、たちまちのうちに爆炎と煙の中に閉じ込めた。
 渦巻いて、四十メートル超のソウルゲインを呑みこむ煙を裂き、青い光が堰を破壊した鉄砲水の様に溢れて二機のベルグランデの鶏冠の様な角を生やした頭部を貫き、粉砕する。

 

「青竜鱗。殴る蹴るだけがこいつの武器じゃないようでな。侮ると死ぬぜ、おたくら。はあっ!」

 

 今なお青竜鱗の高エネルギーの残滓がソウルゲインの両掌に残り、青く炎が燃えているかのようだ。青年の喉から短くも鋭い気合いが一つ放たれるや、ソウルゲインは頭上高く飛びあがり、上空で取り囲んでいた敵群をはるか追い抜いて太陽を背にした。

 

「玄武剛弾! でぇえええい!!」

 

 肘から握り拳までが急速に回転して、渦を巻き耳を劈く音を奏でる。殴りつける動作と共に、肘から煙が噴出してソウルゲインの両腕が竜巻のように回転しながらポールハンマーを構えていたベルグランデ二機のどてっぱらにそれぞれ命中する。
 みしりとベルグランデの外装が音を立てるや盛大に罅が走り、内部のメカニズムごと抉られ、貫かれる。重力の鎖に捕まって、落下しはじめるソウルゲインを狙って、残るベルグランデがショルダーミサイルやアームショットの狙いをつけていた。
 驚くほど柔軟な動きを示し特機タイプかつ足場のない空中でありながら、降り注ぐビームやミサイルをかわすソウルゲインの機動は、超一流のパイロットでなければ実現できないだろう。
 とはいえ、十数機以上残るベルグランデからの攻撃は到底かわしきれるものではなく、ソウルゲインの機体にいくつか被弾が生じる。

 

「ちぃ、流石にかわし切れんか。自己修復装甲? 便利なもので出きているな、至れり尽くせりってやつだが、こりゃこの機体……あー、ソウルゲイン? ソウルゲインを作った奴は尽す女だな、こいつは」

 

 旋回しソウルゲインに再接続された両腕の感触を確かめる為、かるく拳を開閉する。問題はない。しかし人型機動兵器の両腕を飛ばして敵にぶつけるとはなんとも大胆な攻撃手段を思いついたものだ。

 

「おれの動き通りに機体が動くってのはやりやすいが、ちと疲れやすい。長期戦になる前に片づけるに限らあね」

 

 ソウルゲインを叩き潰すべく左右から振り下ろされたポールハンマーの柄を握り締めて、受け止める。コクピットの青年の両腕にフィードバックされた衝撃がかすかに伝わる。
 パイロットの動きをダイレクトに機体に反映するダイレクト・アクション・リンク・システムとはいえ、実際には機体の状況などに合わせてOSが挙動を微調整しているし、またパイロットへ過負荷が伝わらぬように制限もしている。
 そう言った意味では完全な人機一体とは言い難いかもしれない。もっとも、機体の損傷にパイロットの肉体を同調させるようなシステムは危険と言う他ないが。
 ベルグランデ二機分のパワーを抑えるソウルゲインの前後へ他のベルグランデが距離を置いて降下し、肩内部に収納しているミサイルの頭を覗かせる。ソウルゲインは機動性や運動性、追従性の方を重視されたタイプだから、特機としては比較的重装甲ではない。
 自己修復機能を持つとはいえ、これだけの一斉砲火を浴びれば戦闘を続行するのには重大な支障をきたすダメージを負うのは間違いない。

 

「ふん!」

 

 ソウルゲインの両腕内部の人工筋肉が瞬間的に膨れ上がり、それまで掴み止めていたポールハンマーを、ベルグランデごと左右に振り回す。盾代わりにしたベルグランデが爆発を起してソウルゲインの青い巨躯を黒い煙の中に隠した。
 その煙を、ソウルゲインが投じたポールハンマーが突き破り、また別のベルグランデの頭や肩へと衝突して破壊する。
 ポールハンマーに遅れてコンマ五秒、銃口から放たれた弾丸の如く疾走するソウルゲインが、地表すれすれまで降下していたベルグランデの群れの中へと踊り込んだ。傍から見れば青い風が駆け抜けたかの様な速さだ。
 低く腰を落としたソウルゲインの両腕が霞んで見えるほどの高速で奔り、目に捉えきれぬほどの連打がベルグランデへと襲いかかる。ソウルゲインの拳を食らう度に装甲が砕け、内部の危機が臓物の如く零れ出す。

 

「白虎咬っ! お客さんはあと十四機か、ホストは辛いねえ」

 

 そう軽口を突きながら、ソウルゲインの風に踊る様な軽妙足さばきは休む事を知らない。時に踊る様に、軽やかに地を蹴ってベルグランデ達の間を縫うように動き回る度、ベルグランデの機体に大なり小なりの損傷が生まれてゆく。
 もんどりうって海面に倒れ込むベルグランデの頭を踏み潰し、ソウルゲインが波飛沫を浴びながら残る敵を見上げる。すでにソウルゲインと同じ地表に降下している敵機はいない。地を駆け、跳ね回るしかないソウルゲインと同じ土俵で戦う気はないという事か。
 空ばかり飛んでいられると、さてやり辛いが、玄武剛弾と青龍鱗で落としながら、高度を下げた敵を逃さず叩き潰していくか?

 

 そこまで考えていた時、ソウルゲインのレーダーが新たな反応を捉えた。南方から高速で接近する機影がある。数は三機。ソウルゲインのデータバンクには照合しない相手だ。

 

「ありゃりゃ、敵か味方か。さてどっちだ?」

 

 ソウルゲインの見つめる方向から飛来したのは、アウルのエムリオンRC、刹那のサキガケ7S、スティングのオオワシアカツキだ。ソウルゲインとベルグランデとの戦闘を察知したエペソが向かわせた偵察部隊である。
 他の隊員たちは艦の護衛や機体の整備の為に出撃できず待機している。
 シラヌイパックから大気圏内戦闘用のオオワシパックに換装したアカツキのコクピットで、隊長役をアルベロから任されたスティングが、オープンチャンネルでベルグランデとソウルゲインへ通達しようとした時、それまで動かずにいたベルグランデが一斉に動いた。
 オオワシアカツキやサキガケ7Sへ向けて、ショルダーミサイル、アームショットの砲火を煌めかせてきたのだ。
 被弾する様な間抜けはいなかったが、逆に戦意を爆発させかねない短気なのは居た。アウルである。

 

「の野郎、撃ってきやがったぜ、スティング。全員返り討ちにしてやろうぜ。艦長からも先に手え出されたら叩き潰してい言って言われてっだろ」

 

 ここら辺の軍事的・政治的常識に掛け離れた好戦的な決断は、DCならではだろう。そのうち大問題を起こすかもしれない。

 

「待て、一応勧告をしてから……」
「そりゃするだけ無駄だと思うぜ」

 

 こちらの回線に入り込んできたのが、包囲されていた特機からのものだと分かり、こちらは話す気があるかとスティングは考え

 

「刹那、アウル、あの特機のパイロットと話す。話が終わるまで手を出すなよ」
「石頭」
「分かった。だが、早めに決断は下してくれ」
「ああ。特機のパイロット、おれはスティング・オークレーだ。貴官の所属と姓名、及びこの海域での戦闘目的は?」
「こいつはソウルゲイン。戦闘目的はむこうから襲いかかってきたんで不明だ。おれには戦闘の意思はないからな。で、おれは……アクセル、アクセル・アルマーだ」
「分かった、アクセル。所属は?」
「それが、分からんのよ。記憶喪失なんだな、これが」
「ふざけているのかそれとも本当の話か?」
「ホントホント、わけも分からず困っていたおれを、あの連中が急に襲って来て、そこにおたくらが来たってわけなんだな。こいつらの事はさっぱりわからん。友好的な相手ではないと思うがね」
「……ちっ、面倒な役を任された。しかし、数の多い連中、生命反応はあるにはあるが、妙だな。アウル、刹那、迎え撃つぞ!」
「オッケー、結局こうなるんなら最初からそうすりゃ良いって話だぜ!」
「サキガケ、目標を迎撃する」
「アクセル・アルマー、敵対行動は取らないと見ていいな?」
「あいよ。おたくらの方が話が分かりそうだし、ここはひとまず共闘と行きますかね」

 

 そして、クライ・ウルブズの三機とソウルゲインが残るベルグランデを壊滅させたのは、それから十分後の事だった。
 ベルグランデの残骸が散らばる砂浜の上に、ソウルゲインを囲んでアカツキらが降下していた。
 地球の主要国家で採用されているウィンダムやザクウォーリアタイプとそれほど遜色のない性能を持っているようだが、動かしているパイロットがそれほどでもないのか、パターンが予測できればさほど脅威ではなかった。

 

「アクセル・アルマー、二十分後におれ達の母艦が来る。文句があるかもしれんが、連行させてもらうぞ」
「ん〜〜。まあ仕方ない。おれとしても自分の記憶を取り戻す手掛かりがあるかもしれんし。あ、飲み物はコーヒーよりもよく練ったココアで。砂糖とミルクありありでよろしく」
「……呆れた奴だぜ」

 

 図太いというか楽天的と言うか、あっけらかんとしたアクセルの物言いに毒気を抜かれて、スティングは通信を一時切った。通信が切られている事を確認してから、アクセルは一人呟く。

 

「ディバイン・クルセイダーズ、か。どこかで、聞いた覚えがある様な……」

 

   *   *   *

 

 おそらくは膨大な質量に閉じ込められた空間なのだろう。暗闇の一片も許さぬ照明に照らし出されながら、どこか肩にのしかかってくるような目に見えぬ重さが、その場に満ちている場所だった。
 MSが百機近く並び立っても十分に余裕のある空間だが、今は四つの機影と両手の指で事足りるほどの人影しかない。
 四機の人型機動兵器の足もとにそれぞれ一人ずつ立っており、彼らと向かい合う様にしてまた一人立っている。
 この向かい合う一人がこの場で最も高位の地位にあるもののようで、身にまとった中世欧州の貴族風の衣服の装飾が煌びやかだ。艶のある緑の髪を後頭部で束ねて垂らし、鋭い目つきをしているが、放っておく男の方が少ないだろう美女だ。
 他の四人もそうだが、眼もとの辺りなどにある赤い模様は民族的な風習によるものだろうか。がらんとして静寂の満ちる場所に、女のややハスキーな声が尾を引いて反響する。

 

「すでにシャナ=ミア・エテルナ・フューリー皇女殿下、総代騎士グ=ランドン・ゴーツ閣下の御名において発令された今回の危機的事態については知っているでしょう」
「はっ」

 

 四人の先頭に立つまだ少年らしい人影が短く答える。若い生気に満ちた溌剌とした声だ。

 

「貴方達はまだ経験も浅く技量にも未熟な所がありますが、これからのフューリーの未来を担う大切な役割を担ってもいます。それ故に、特別に貴方達に任が下ります。後ほど紹介しますが、ある地球人達と協力して地球圏の情勢を探ってもらいます。
 実際に命が下るまで鍛錬を怠らぬよう肝に銘じなさい。それまでの間、貴方達にはこれらの機体に慣れてもらいます。混沌とした情勢ですから、実戦の機会にも多く恵まれるでしょう。ふふ、うらやましいこと」

 

 傷に膝を伏した獲物を前にした肉食獣か、狩るべき獲物を前にした狩人の浮かべる高揚の笑みに近いものを、美女は浮かべていた。知的で怜悧そうな外見をしているが、中身の方はとんだ戦闘者だ。舌なめずりを堪えているのかもしれない。

 

「では、トーヤ=セルダ・シューン、来るべき時まで心身ともに鍛え抜く事です。父君の名に恥じぬように。……こう言う言われ方は嫌だったかしら?」
「いえ、父エ=セルダ・シューンの名に誓って。フューリーの騎士として恥じぬ功績を上げて御覧に入れます。フー=ルー・ムールー様」
「それは頼もしい事、ではさっそく私直々に手解きをしてあげましょう。ラフトクランズと準騎士機では性能に差があるけれど、四対一なら良い勝負になるでしょう」

 

 好戦的な本性を隠さぬフー=ルーの言葉に、トーヤの後ろの三人のうち二人がげ、という顔をしたが、フー=ルーとトーヤは気付かなかったようだ。

 
 

 ―――つづく。