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SRW-SEED_660氏_ディバインSEED DESTINY_第17話

Last-modified: 2009-08-06 (木) 21:34:37
 

ディバインSEED DESTINY
第十七話  共闘

 
 

 シンは自分の機体の後方で並列して飛ぶ二つの機影を見ていた。大洋州連合から派遣されたタック・ケプフォードとマリナ・カーソンが搭乗している「ガンアーク」という機体である。
 上半身が滑らかな曲線で構成されている人型で純白の機体がタック機、赤い機体がマリナ機だ。今、ガンアークは四肢を折り畳んだマニューバー・モードの形態をとっている。
 きな臭さが年中漂っているような地球圏の状況を考えれば、大洋州連合が他国に依らぬ独自の機動兵器開発に踏み切ったのも分かる話ではあったが、はたしてどれだけの性能を持っているのか、興味の尽きぬ所だ。
 大洋州独自の機動兵器開発と軍備増強はザフトひいてはプラントとの関係悪化も考えられるが、その上でなお実行に踏み切ったのだから、少なくともカーペンタリアのザフトの戦力を相手にできる程度の性能はあるのだろうと、シンは考えてから目を離した。
 アンノウンことルイーナの軍勢の戦闘が行われている地区へ派遣されたクライ・ウルブズの戦力は、ジニンが指揮をとる形でシン、ステラ、スティング、アウル、刹那、ロックオン、ティエリア、レオナ、アクセルの十人が選抜されている。
 インパルスは修復の終わった飛鳥シルエットと調整済みの斬艦刀を携え、スティングのアカツキはあまりにも費用のかかり過ぎるヤタノカガミの大部分を、アンチビームコーティング(ABC)を施した金色の別装甲に換装している。
 更にその上に増加装甲を装備し、スプリットビームキャノンや重力場を形成する打突用のグラビティバックラーなど、総合的な攻撃力の向上が図られている。
 レオナのガーリオンカスタムも、大気圏内用の試作装備であるイカロス・ユニットを装備している。肩や胴体、背部を大きく覆う航空能力を強化する為の装備だ。テスラ・ドライヴの普及で空戦能力を備えたMSが主流となった現状で優位を得る為の装備でもある。
 イカロス・ユニットはガーリオンのシルエットを準特機並みに厳つく大きなものに変えているが、その巨体に反してザフトのフォースインパルスと同等かそれ以上の機動性を得ている。
 シン個人としてはあのイグニスという男が駆る機体の強さと数の不利を考えると、クライ・ウルブズ全員で相手をしたい所だが、タマハガネを空にするわけにも行かないだろう。
 刹那との二人掛かりでも苦戦した相手の力量と負の思念を吸収して再生した機体の特性には脅威を感じるが、同時にイグニスらと戦っている者達の事も同様に気に掛かる。
 大洋州連合の部隊ではあるまいしザフトが独自開発した機体と、それを運用する部隊という可能性も薄い。
 今のザフトにとってはまさに生命線である大洋州連合領内で了承なしに部隊を動かして、関係悪化につながる様な事を自ら行うとは思い難いし、カーペンタリア基地には常時大洋州連合の監視が行われている。
 機動兵器の運用ともなればその目を晦ます事は簡単な事ではないだろう。
 隔たれた宇宙との連絡や行き来の正常化を第一に望んでいるのは、この地上でザフトを置いて他にはないだろうが、そのザフトの行動というにはあまりに軽率な行為だ。となれば――

 

「また、どこかの組織かよ」

 

 前大戦最終決戦で、ようやく戦争が終わると思った自分達の目の前に悪夢が現実と変わったかの如く姿を見せたAI1セカンドや、ルオゾールの事がシンの脳裏に過ぎった。あの時同様にザフト内部の裏切りか、まったく別の組織が動いている可能性もある。
 イグニスやその尖兵と戦った時に感じた違和感や見た事のない兵器の数々といい、未知の組織の可能性の方が当たりかもしれない。

 

「お、シンちゃんよ。大洋州の連中が言っていたのはあれでないの?」

 

 これはガーリオン・イカロスと飛鳥インパルスに両腕を掴まれて運ばれているソウルゲインの中のアクセルだ。
 本人の記憶喪失が本物である事が保証され、また行く宛てがないから、とアクセルがそのままクライ・ウルブズに残留を希望した為、少尉待遇で受け入れて戦力として扱っている。

 

「……“ちゃん”付けは止めてくれ」
「そいつはごめりんこ」
「良い年した大人が何言ってんだよ。精神年齢五ちゃいですか? 馬鹿ですか? アホですか? マヌケですか?」
「ちびしー、もとい厳しいな」
「アクセルさん見たいなタイプは初めてだよ。じゃあ、そろそろソウルゲイン落としますよ」
「初めて女の子のおっぱいを触った時みたいに優しく頼むぜ?」
「…………」

 

 初めての時は……優しく触れなかったなあ、と思いだしつつシンはレオナと息を合わせてソウルゲインを地上へ落した。地面に盛大に罅を入れつつ着地したソウルゲインは、特に関節に過剰な負荷がかかった様子もなく立ち上がった。
 シンが初めて女の子のおっぱいを触ったのは、あれは戦後の事であった。リハビリの最中、お見舞に来たステラと話をして居てベッドから起き上がる時に誤ってステラの大きく膨らんでいる乳房をこう、むにゅうっと掴んでしまったのである。
 何ぶん不可抗力による事態だったせいで手加減なんかできなかったから、こう力強く握ってしまった。ステラが母乳が噴き出る体だったら、たちまちぴゅっと白い軌跡が空中に描かれているに間違いない位に力強く。
 当のステラも初めて異性に力強く乳房を揉まれてしまった事への戸惑いや恐怖以上に、痛みが先行していた。
 痛みにきゅっと眉根を寄せるステラに気づく前に、シンは突然左手の中に生じた柔らかく暖かな感触に、理解が追い付くのが遅れてしばらく指をわきわきと開閉してしまい、途中でブラ越しにコリっとした感触にも触れたのを鮮明に覚えている。
 とりあえずそれは、ステラに遅れて入室してきたスティングとアウルが、目の前の光景を視認し反射的にシンの顔面に向けて飛び蹴りを食らわせるまで続いたのである。すんごい痛かったが、引き換えにするには十分なおっぱいだったと、シンは思う。いやマジで。
 破壊された大洋州連合の偵察部隊の機体や、アンゲルス、ベルグランデの残骸が徐々に大地に骸を晒しはじめ、レーダーにも戦闘によって発生する熱量をはじめとした反応が捉えられ始めている。
 望遠倍率を最大にした飛鳥インパルスのカメラが、あのイグニスの機体と剣を交える二機の機動兵器を映し出す。戦っている二機は見た事のないタイプだが、強いて言えばインペトゥスに近い意匠の様に見える。
 それに、シンの第六感には、戦っている二機の機動兵器から発せられる気配はまともな人間のそれとは違う様に感じられる。イグニスはともかく戦っている相手をどう判断するべきか、ジニンの判断を待った。判断は素早く下された。

 

「二機の内、白いのをスノー1、青黒い方をウィンド2と呼称する。こちらからは極力しかけるな。エペソ司令からの厳命だ。我々はイグニスと名乗った相手の機体群を交戦目標とする。ケプフォード中尉とカーソン少尉は自分に続け。各機散開」

 

 ジニンの言葉を合図に、シンは背の飛鳥シルエットにマウントされている斬艦刀の柄を飛鳥インパルスの手に取らせる。
 ズフィルード・クリスタル精製技術の応用で充填した改良型刀剣用マシンセルが柄の噴出口から漏れだして、瞬く間に巨大な刃を形作る。
 通常八十メートルを超す長大重厚な斬艦刀であるが、MSであるインパルス使用時には、形状はそのままに刃の長さを二十メートルほどに抑えてある。
 これだと斬艦刀とシシオウブレードを兼ねる獅子王斬艦刀とではあまり違いないが、こちらは再生機能を持つマシンセル製だから、多少の刃毀れなど即座に修復するし切れ味が鈍る事もない。
 前大戦からさらに剣戟戦闘に特化したシンにとっては、獲物の劣化を気にしないで済むから、扱いやすい武器だ。それに斬艦刀の刀剣としての機能性を別にしても、シンにとって斬艦刀以上に思い入れのある武器はない。
 ジャン・キャリーが開発し改良を加えた最新のパワーシリンダーを内蔵した飛鳥インパルスにとっては、MSサイズの実体剣は人間が小枝を振る程度の負荷に過ぎず、風の様に速く軽やかに、夢幻の様に変幻自在の太刀筋を操るシンの力量を十分に発揮できる。
 グルンガスト飛鳥よりもさらに操縦者との適応性や順応力が増すシステムを搭載しているDC製インパルスは、まさしくシンの肉体の延長線上と言っても過言ではないほどに柔軟・緩急極まった動きを見せる。
 この世界でのMS開発の歴史を考えれば、数十年単位の歴史を持つ他世界の技術を有するDCでなければ到達し得なかったであろうレベルだ。
 乱暴に落とされたソウルゲインからアクセルの言う文句が聞こえてきたが、とりあえずシンは無視した。アクセルの氏素性はさっぱり分からないままだが、実力が確かなのはシンも知っている。
 状況はイグニスと名乗った男の機体が敵対している二機と一進一退の戦いを繰り広げ、その周囲をアンゲルスやベルグランデが取り巻いて静観していた。包囲殲滅する為というよりも逃がさぬための配置であろう。
 あのイグニスとやらはスノー1ことファービュラリスを徹底的に追い回していて、新たに姿を見せたDC・大洋州連合の部隊に興味はないらしい。

 

「悪いけどあの二機にイグニスの相手をしてもらうかっ」

 

 飛鳥インパルスのテスラ・ドライヴが低い唸りから一瞬で透き通ったような高音へと変わる。蒼刃を右下段に構え飛鳥インパルスはポールハンマーを構えたベルグランデの群れへと突っ込んだ。
 正面から突っ込む姿勢から風に流された木の葉の様に機体を翻し、飛鳥インパルスの背後から途方もない大きさの光の柱が放たれ、まとめてベルグランデを破壊し尽くし、その一撃に慌てて機体を動かした他のルイーナの機体にビームが次々と突き刺さる。
 ティエリアのヴァーチェとロックオンのアヘッドスナイパーカスタムの直接火力支援だ。機械的なまでに精密な射撃精度に人間特有の有機的な呼吸や間が加わり、絶妙なタイミングで次々とベルグランデの数を減らす。
 後ろに目があるにも等しいシンの感覚からすると、ロックオンの方はまだ気配の呼吸や目標を狙い澄ました際の殺気を感知できるのだが、ティエリアの殺気や破壊の意思というのはなにか違うものを感じるから、視覚外からの援護だとつい背筋がひやりとする。
 人間の情動が生む感情の波と同じ――同じはずなのだが、なにかが違う。たとえば黒一色の中に黒に限りなく近い灰色が混じっている。そんな感覚。何か、言葉に言い表せない程度に何かが違う。
 それはティエリアを人間ではなくイノベイターという別種としてシンの感覚が捉えているからかもしれないし、あるいはティエリアの発する特殊な脳量子波をシンの超知覚がわずかなりとも感知しているからかもしれない。
 とはいえティエリアやロックンの技量と機体に使われている技術を考えれば、誤射の可能性はほとんど皆無に等しい。シンは後方の憂いを忘れて三百六十度映し出す全天モニターに投影された敵へと向けて、戦意を研ぎ澄ませる。
 光の剣を展開し振り上げたアンゲルスの懐へ、ひどく透明なアンゲルスのパイロットの破壊の意思と呼吸に合わせて飛び込み、横殴りの勢いで斬艦刀を胸部へ思い切り叩きつける。
 斬艦刀は鋭さで斬るシシオウブレードなどに比べ、ジンなどザフトMS初期の機体が使用していた重斬刀などと同様に、重さで叩き斬るか叩き潰すタイプだ。刀身を小型化していてもそれは変わらない。
 しかし斬艦刀を操るのが飛鳥インパルス、飛鳥インパルスのパイロットがシン・アスカとなると話はまるで違う。青い光の軌跡が一つ描かれれば、後に残るのは鏡の様に研ぎ澄まされた斬痕を晒す物体が二つ。
 斬った手応えで敵の撃破を確信し、シンは次の敵を視覚と第六感で捉えて機体とシルエットのスラスターを噴かす。放たれる敵からの殺意が見えざる針となってシンの神経を刺激し、次に襲い来る脅威を事前に理解する。
 四肢を振り乱して目まぐるしく重心を移動し回避行動を取った飛鳥インパルスに四方八方から放たれたビームは装甲に当たる事無く、ミサイルは画面に映る前に動いた斬艦刀の刃に斬り払われる。
 久方ぶりに主人を受け入れた事を喜んでいるかのように飛鳥インパルスは、獅子奮迅の活躍を見せはじめる。その周囲ではフルアーマーアカツキを駆るスティングが、追加武装の具合を試すように、極端な接近戦を行っていた。
 高性能炸薬を内蔵した炸裂ボルトを装備した右拳部と、局所的な超重力による暗紫色の半球形ドームを形成して対象を圧壊するグラビティバックラーを装備した左拳部が、交互にベルグランデの上位機種であるベルグランデSに叩きつけられている。
 右の拳がベルグランデSを叩くたびに小規模の、しかし高熱量と強力な爆発が生じて装甲を抉って吹き飛ばし、左の拳が叩きつけられれば過剰な重量負荷によって装甲が内部のメカニズムごと潰れて行く。
 機械とは思えぬアカツキの柔軟な間接がプロのボクサーの連打を完璧なレベルで再現し、一機のベルグランデの上半身が見るも無残な姿へと変わるのに、五秒とかからなかった。炸裂ボルトの炸薬が尽き、予備の弾倉を装填する。
 右手の甲に被された追加装甲上部に右腕部追加装甲内部から、予備の弾倉が嵌め込まれる音がした。コンピューターに記憶された動作だから、故障などの不具合が無い限りは生身の人間と違ってとり落とす様な事や失敗する様な事はない。
 弾倉交換のみならずビームサーベルの取り出しや収納なども同じで、こういった類の交換作業の正確さは人間と違ってMSなどの機械ならではの長所と言えるだろう。
 肘や肩関節、フレームに掛かった負荷の数値に目を走らせていたスティングは、とりあえず実用には耐えられると判断する。テストこそしてあるが、実戦で初めて使用する立場にされたのだから、それなりに不安があったのだ。
 DCにはなまじC.E.の常識では想像もつかない様な敵との交戦記録がある所為で、MSとの戦いには絶対に必要ないだろうと評されるような装備、兵器が開発されている。たいていそう言うのを実戦で試す羽目になるのが、クライ・ウルブズなのだ。
 その分給料は一般のMSパイロットに比べてかなり良いのだが、それでも時折割が合わないよな、とスティングは思う。
 まあ、そう言った兵器や機体でないと対応できないような相手とちょくちょく遭遇するのも確かで、そのような時には助かっているしこれはもう運命というかクライ・ウルブズについて回る宿縁みたいなものと一部の隊員は諦めている。
 ブーストハンマーを振り回し、次々と敵の頭ばかりを狙って鋼鉄のミンチを作っていたアウルが、気化した冷却材を金色の装甲の隙間から吹き出しているFAアカツキの傍らにエムリオンRCを横付けた。

 

「なんだよ、スティング、まるでボクサーじゃん。そっちに興味あったっけ?」
「ヒュッケバインMk−靴離プションの使い回しだってよ。ヒュッケの格闘戦オプションに似た様なモン使うらしいぜ」
「へえ、あれって一機で戦局を覆す性能ってのが目標なんだろ。おれがぜってえパイロットになってやる」
「お前はエムリオンマイスターになるんだろ?」
「っざけんな! そんなんなる位ならブリッツボールの選手になるっつーの!!」
「……あいつ本当に気にしてんだな」

 

 怒鳴り声の後にブツッと通信を切る音がしてモニターに映っていたアウルの顔が消える。消える寸前に見たアウルは、女の子みたいな顔に朱の色を昇らせていた。かなり本気で怒っている証拠だから、スティングは小さく嘆息する。
 ちなみにブリッツボールとは固形酸素剤を含んだ状態で球形状のプールコートに潜って、点を取り合うサッカーとドッヂボールを掛け合わせたようなスポーツだ。ここ最近オーブ諸島で流行のスポーツである。アウルはこれがプロ選手並みに上手い。

 

「はあああああ!!」

 

 数機のアンゲルスが射出したチェイサーミサイル十数発をサキガケ7S頭部のGNバルカンで迎撃した刹那が、鋭い呼気を吐きだして、侍が左腰に佩いた太刀を抜刀するがごとくGNドウタヌキを走らせる。
 サキガケ7Sの背部から溢れる赤いGN粒子の放出量が増し、加速した機体がビームソードを閃かせるアンゲルス達の間隙を縫う。重力の鎖にとらわれぬGNドライヴ駆動機特有の滑らかな動きだ。
 金属が金属に切り裂かれた音というにはあまりに短い一瞬の切断音がし、順ぐりにアンゲルス達の機体が斜めにずれ始めて行く。
 灼熱させた刀身やビームサーベルの切断痕は融解して赤く輝くが、実体剣による斬撃の後は歪な凹凸が生じ、半ば千切られた様になる。
 しかしGN粒子を刀身表面に付着させて切断力を増したサキガケのセブンソードに依る切断の後は、そうなるように時間をかけて磨かれたように滑らかな痕を残す。ずるりと滑った機体の切断面が灰色の空を映した次の瞬間、爆発が生じる。
 数珠繋がりに生じた毒々しい爆発の花を後方モニターで確かめた刹那に息つく暇を与えず、上から下から左から右からビームが襲い来る。
 ファービュラリスとストゥディウムをインペトゥス一機が抑えている為に、残るアンゲルス、ベルグランデまたそれぞれの上位機種達には、クライ・ウルブズと大洋州連合へと襲いかかる余裕があった。
 かわしきれぬビームの数条がサキガケ7SやFAアカツキ、エムリオンRCの装甲をしたたかに打ちつける。
 Eフィールド装備のエムリオンRCや、増加装甲に加えてABC済みの基本装甲を持つFAアカツキ、複合装甲内部にGN粒子を循環させて装甲性能を上げたサキガケ7Sといえど、着弾が連続すれば撃墜の可能性が高まる。
 MSレベルでは格段の防御能力と耐久性を持つDC製のMSにもやはり限界は存在し、着弾の数が増すごとに揺さぶられるコクピットの中で、刹那達は反撃の糸口を掴み取るべく歯を食い縛って耐えた。
 反撃すれば五倍近くになって帰ってくるビームの雨に苦しめられる刹那達を、その上空を抑えていたルイーナの、さらに上空を取ったヴァーチェとデュミナスが救った。

 

「やれやれ、おれ達の連携もまだまだ改良の余地ありって所か。とにかく今は狙い撃つ」
「GNバズーカ、バーストモード」

 

 GNキャノン、GNバズーカ、さらにGNオクスタンスナイパーライフルが次々とルイーナの機体をただの残骸へと変える。周囲からの射撃が四分の三に減った瞬間を見逃さず、刹那、スティング、アウルがほぼ同時に動く。
 サキガケ7Sの投じたGNコヅカ二振りはGN粒子を纏って車輪のように回転し、狙い過たずアンゲルスS二機の頭部を貫き、視界を潰す。アンゲルスSそれぞれが機体の動きを乱すのに半瞬遅れて、サキガケ7Sが疾駆する。
 右手のGNドウタヌキを突き込み刀身に抗う敵機の装甲を無視して、機体のパワーを頼りに串刺しにする。深く食い込んだ刀身と全面の装甲との接触点から漏電し、青白い電気が刀身にまとわりついて火花を上げる。
 GNドウタヌキに貫かれたままアンゲルスSがサキガケ7Sの右腕を抱え込み、離れられないようにする。有人機ながら自己の命を顧みぬミーレスがパイロットである為に、行動に躊躇はなかった。
 GNコヅカをメインカメラから生やしたまま、残ったアンゲルスSが砲口をサキガケ7Sへと向けて輝かせる。右腕を絡め取られ動きを制限されたサキガケ7Sに、動かぬ右腕を軸に逆上がりの要領で機体を回転させ、頭を地に足を天に向ける姿勢を取らせる。
 ゼロコンマ秒前までコクピットのあった虚空をアンゲルスSのビームが貫く。刹那自身の頭に血が上るのを感じつつ、天地逆転の姿勢のままサキガケ7Sの左腕に握られていたGNショートビームサーベルを投げた。
 射撃の方は不得手な刹那だが、実体剣やビームサーベルなどを投げると恐ろしく命中率が高い。血色の刃を光らせるGNショートビームサーベルがアンゲルスSの頭部へとさらに突き刺さる。
 GNショートビームサーベルに押される形でさらにGNコヅカが食い込み、首から更に胴部上端まで貫く。内部を純度の低い鮮血色のGN粒子に蹂躙されて、物理的にも機能的にも繊細な内部危機を破壊されたアンゲルスSが力を失って落下する。
 さらにそのままサキガケ7Sの爪先で右腕を封じ込めているアンゲルスSの頭部を蹴り潰し、そのまま潰した頭部を足掛かりにしてGNドウタヌキを引き抜く。
 サキガケ7Sを包囲しようとしていたベルグランデを、後方からステラのエルアインスが撃ったビームが貫く。

 

「刹那、機体は平気?」
「ステラ・ルーシェ……問題ない。敵指揮官機の様子はどうだ?」
「あの二機を追っている。私達は周りの敵を減らすのが先だ」

 

 普段のぽやぽやとした朗らかな調子のステラの声とは違い感情を排した機械的な声の違和感に刹那は眉根を寄せる。
 既に幾度か戦場で轡を並べ、ステラが交戦時には普段の様子からは信じられぬほど攻撃的になる事は目にしていたが、未だに目の当たりにすると小さな驚きを覚える。
 そのステラの豹変ぶりが、刹那自身がそうであったように兵士に仕立て上げられた人間であると認識させるからだ。ステラの場合は刹那以上に、兵器あるいはMSを動かす為の生体パーツという備品扱いの存在であったと知った事も大きいだろう。
 ステラ達三人がDCに強奪(連合側からすれば)されてからはほぼ健常な体に治療されたとはいえ、今もMSのコクピットや血と硝煙の匂いが香る戦場に立てば、精神の奥に埋蔵された攻撃性が表出する。
 刹那の記憶から神の兵士として洗脳された頃の事が消えないように、ステラ達も数年を経てなお兵器として変質させられた性質が残っているのだ。そしてMSのパイロットとしてその凶暴性を露わにしている。
 ステラ達に戦わせているDCに対する不信感こそ拭えぬが、刹那はステラの意見に異を唱える所はなく、改めて操縦桿を握る手に力を込めてレンジ内に捉えている敵機へと機体を動かした。

 

   *   *   *

 

 自分のアヘッドに追従するガンアーク二機の動きに、ジニンは機体の高い完成度とパイロットの錬度を内心で評価していた。もっともパイロット二人には機動兵器のパイロットとしては軽視できない欠点がある。
 タックは機械音痴で機体の操縦の大部分をフィーリングで行っているらしく、またマリナは長時間機動兵器の操縦をしていると乗り物酔いを起こしてしまうと事前にバルクホルツ博士から渡されたパーソナルデータにあった。
 それでもガンアークのパイロットを任されていると言う事は、欠点を上回る実力の持ち主だと言う事だろう。実際目にしている範囲ではその通りとジニンには見える。
 それにしても――

 

「この世界にはどれだけ敵対勢力が存在していると言うのだ。こんな事では世界の統一など、DCの軍事力を以ってしてもいつ叶うか分からんな」

 

 陰で”アヘッドマイスター”と呼ばれるほどアヘッドの操縦に長けたジニンによって、性能を百二十パーセント引き出されたアヘッドは、左右から挟撃を掛けてビームを撃ち掛けてきたアンゲルスを、GNビームライフルで牽制する。
 左右から斜めに交差する射線からアヘッドは浮き上がるように機体を上方に動かして躱す。ジニンの錬熟した手腕によってGNビームライフルはマシンガンさながらの連射速度で、アンゲルスの機体を紅色の輝きの中に飲み込む。
 すでにかなりの数のルイーナの機体を撃墜しているのだが、グラキエース達が破壊した地下基地のゲートの奥から新たな増援が姿を見せており、撃墜するペースと増援の出現するペースとがおおむね同じ状況だ。
 クライ・ウルブズ側が消耗を強いられていると考えればやや不利と見える。しかしインペトゥスを相手にしているウェントス達の決着如何で、この膠着寸前の天秤は傾くだろう。
 ボディラインをくっきりと浮かび上がらせるバルクホルツ考案のパイロットスーツに身を包んでいたマリナが、ガンアークの計器を見て上空から発した高エネルギーに気づき、一方でタックは計器類よりもうなじをちりちりとさせた直感で上空を見上げた。
 それぞれ気付いた過程は異なるが、同じ結論に辿り着いた二人が異なる口から同じ言葉を発した。

 

「ジニン大尉、上です!!」
「なんだ、黒い雷!?」

 

 マリナとタックからの警告によって上空を見上げようとしたジニンの瞳を、灰色の空と砂漠を繋いだ赤黒い雷が貫いた。機体の光量調節機能を壊しかねぬほど強力な閃光とエネルギーを持った雷が落ちた後に、機動兵器の影を認めてジニンが目を細める。
 短い二本脚で腕部は二本腕ではなく涙滴型の盾の様なパーツが肩から繋がっていた。インペトゥスが外見そのままに炎の様な重圧を放つのに対し、こちらは周囲の空気そのものを重く押さえつけるような重圧を発している。
 小豆色の装甲の奥からこちらを見下ろしているパイロットが放つ重圧であろう。こちらの世界に来る以前から長く戦場に身を置いてきたジニンでも、初めて感じるものであった。
 シン達古参のクライ・ウルブズの面々と違い、ヴォルクルスやAI1セカンドといった超常的な存在と相対していない分、ジニンの受けた衝撃は大きい。

 

「新たな敵という事か」

 

 新たなルイーナの機体「フォルティス・アーラ」を駆るのは赤銅色の肌を持ち、右目を眼帯で覆った巨漢である。地球人の遺伝子を基に創造された疑似生命メリオルエッセである証拠に、露わになっている左目は金の輝きを帯びている。
 眼には見えぬがまるで巨人に足蹴にされているかのような錯覚を覚えさせる威圧感を持つこの男は、アクイラという。

 

『苦戦しているようだな、イグニス』
『アクイラ!? 貴様がなぜここに』
『グラキエースとウェントスの廃棄だけでなく地球人達も相手にするのでは、貴様だけでは手が回るまい』
『ちっ……好きにしろ』
『貴様に言われるまでもない。……おれはルイーナのメリオルエッセ、アクイラ。地球人よ、お前達の嘆き、憎しみ、怒りを苦悶の闇の中で吐きだすがいい。このフォルティス・アーラがお前達の絶望そのものだ』
「何を言っているのだ、こいつらは!?」

 

 人間相手の戦争のみを体験してきたジニンにとっては、アクイラの言葉は気の触れた人間か、終末信仰にでも染まった狂信者の妄言にしか聞こえなかっただろう。
 アクイラの言葉は感情を削ぎ落した果ての様に機械的な冷たさを帯び、決してアクイラが錯乱しているのでも、狂気に陥っているわけでもない事は分かる。
 アクイラへ向けて問い詰めようと口を動かしたジニンを遮る様にして、フォルティス・アーラが動いた。盾のような両腕の地面を向いていた方の尖った先端をアヘッドへと向けるや、円筒型の砲身が覗き薄い紫色の太いビームが放たれる。
 フルティス・アーラの動きに応じてジニンがアヘッドを動かし、そのビーム攻撃――サギッタルーメンを回避する。
 一般的なMSの場合、指揮官機だからと言って極端に量産機と性能が異なるものではないが、このルイーナの軍勢の場合、指揮官機とそうでない機体の間にある性能の差はかなり大きいようだ。
 回避したサギッタルーメンのエネルギー量は、アンゲルスやベルグランデの用いる兵装を大きく上回る数値だ。GNフィールドを発生させるシールドをアヘッドは携行しているが、それで受けても腕の一本は持っていかれるほどの威力。

 

「くっ、ケプフォード中尉、カーソン少尉、こいつを叩くぞ」
「了解」

 

 一方でマリナとタックもまたジニン同様に、アクイラの放つ背筋に氷を当てられたように怖気を覚える雰囲気に、強いプレッシャーを感じていた。シミュレーターやザフトから払い下げられたMSでの戦闘の経験はあるが、その経験に該当する者が無い現象である。
 死の吐息が頬を嬲る戦場に身を置けば、時に敵の殺気という様なものや考えが分かる事、死人の声が聞こえてくると言った錯覚に陥る事はあるが、メインカメラ越しにこちらの神経を圧する生の威圧を感じると言うは初めての事だ。
 フォルティス・アーラが並みのMSをはるかに上回る巨躯を持ち、その巨躯の視覚的効果によって威圧感を覚えているのも事実だが、それとは違う生理的な部分でタックとマリナはアクイラに脅威を感じていた。
 二機のガンアークとアヘッドの張る弾幕を見かけの重厚さを裏切る運動性で、フォルティス・アーラは大きく右に弧を描きながら動いて躱す。
 腕は確かなジニン達三人の狙いからは、完全に逃れる事が出来ずに着弾もあるがフォルティス・アーラを揺るがしはしても、目に見えるダメージまでにはつながらない。やはり特機級の装甲と耐久性を持っていると言う事だろう。

 

「MSの武装ではそう簡単に落とせないな」

 

 臍を噛むジニンの目の前で、フォルティス・アーラが両肩や首回りの装甲を開いて内蔵していたミサイルの弾頭や光学兵器のレンズを薄暗い世界に露わにする。フォルティス・アーラはメリオルエッセの使う機体の中でも射撃戦に秀でた機体であった。

 

『爆ぜよ。苦痛と悔恨と共に』

 

 フォルティス・アーラの持つ全兵装を発射するカリドゥムサギッタだ。一機の機動兵器では展開不可能に思える圧倒的な弾幕が、ジニンとタック、マリナ達へと一挙に襲いかかる。
 コンピューターが合成した映像を映し出すモニターを埋め尽くすミサイルと尾を引く白煙。一度の攻撃で一個中隊程度なら壊滅させて余りある火力の嵐。

 

「ガンアークの運動性ならっ」

 

 タックとマリナはコンピューターがはじき出したミサイルの予測弾道から機体を外し、動いた先にも降り注ぐミサイルに対して、さらに新たな回避機動を取らなければならなかった。
 三人の前上方向からのカリドゥムサギッタは、津波の様に逃れる隙間なく襲いかかっくるが、その恐怖に飲まれて判断を誤る事こそ本当に命取りになる。
 タックとマリナはアークライフルとミサイル、補助武装も動員して撃墜できるものは片端から撃墜し、出来た空隙に機体を滑り込ませることを繰り返して被弾を最小限に抑えた。
 ジニンも同様の行動に出ていて、左腕のシールド上に発生させたGNフィールドも使いつつ、カリドゥムサギッタが途切れるまで耐えようとしている。

 

「大丈夫か、マリナ!」
「タックこそ」
「くそ、あいつ、フォルティス・アーラって機体はどれだけ弾薬を積んでるんだ。その癖あの重装甲、並大抵の武装じゃ抜けないぜ」
「けど、これだけ一度に弾薬を消費するなら連射はできないはずよ」
『お前達の力で破滅に抗う事が出来るかどうか、このおれに見せてみるがいい』
「なら、ご希望通りに、とくとごろうじろってな!」
『ぬう!?』
「この切っ先、触れれば斬れるぞ」

 

 砂漠に聳える岩山を足場に、上空数百メートルの位置にいたフォルティス・アーラ目掛けてソウルゲインが文字通り跳んでいた。
 飛行能力を有さぬ為に、全機種飛行可能なルイーナの軍勢相手に上手く攻勢に出られずにいたが、カリドゥムサギッタの発射直後のわずかな硬直の瞬間を見逃さず、アクセルがフォルティス・アーラの首を取りに動いた。
 眼前で交差させたソウルゲインの肘に生えた銀色のブレードがさらに鋭く長く伸び、その青い巨体が左右に大きくぶれた次の瞬間には、霞の如く消え去っている。ソウルゲインの超高速移動が、フォルティス・アーラの捕捉速度を上回ったのだ。
 フォルティス・アーラの左側面からの第一撃にアクイラは反応し、カオスラディウスで受ける。

 

『っ』
「受け止められたか。ならお次はどうだ!」

 

 ソウルゲインの肘ブレードが引き抜かれた、とフォルティス・アーラを揺らす衝撃からアクイラが判断した時、すでに反対の右側に回り込んでいたソウルゲインの次なる一撃が右肩口から入り、胸部まで斜め一文字の斬撃痕を刻む。
 フォルティス・アーラの装甲を裂いた肘ブレードの銀色の軌跡がアクイラの瞳に残っている間に、ソウルゲインが今度は上へと動いていた。アクイラの目にも止まらぬ軽妙神速の体捌き、いや、機体捌き。
 首きりの蛮刀の如く肘を振り上げてフォルティス・アーラの頭頂へと振り下ろすソウルゲイン。フォルティス・アーラは回避行動をとる暇もない!

 

「舞朱雀!」
『おれが――』

 

 アクセルの瞳に、再び装甲を開いてミサイルの弾頭を覗かせるフォルティス・アーラの姿が映る。自爆覚悟あるいは誘爆を恐れぬ所業である。この至近距離でのミサイル攻撃など!

 

『戦う価値はあるようだな、人間』
「ええい、南無三!!」

 

 振り下ろされる純銀の刃、放たれる無数のミサイル。そして、ソウルゲインとフォルティス・アーラの二機を飲み込む巨大な爆発。カリドゥムサギッタを凌ぎ切ったジニン、タック、マリナが爆炎の中から現われるのがどちらであるか、目を見張って見守る。
 爆炎の中に黒い影が浮かびあがる。ソウルゲインだ。青い装甲のそこここに破損の箇所を留めつつ、地面に着地する。大きな蜘蛛巣状の罅の中心で、流石にソウルゲインも軽視できないダメージを追ったようで、細かな動きの一つひとつに鈍さが目立つ。

 

「アルマー!!」
「大尉、まだ気を抜くな。やっこさん、おれよりもピンピンしていやがるぜ」
「なに」

 

 ソウルゲインが落下してきたのとは逆方向に向けて、フォルティス・アーラが爆炎の中から飛び出して姿を見せる。右の肩口や上空からの舞朱雀によって胴体に縦一文字に浅く斬痕が刻まれている。
 自爆に近い至近距離でのミサイルの爆発による回避の余波によって、機体各所の装甲が砕け内装の一部が覗いてはいるが、威風堂々とソウルゲインを見下ろす姿からは戦意がわずかなりとも衰えていない事が伝わってくる。
 機体から立ち上って風になびいている黒煙は爆炎の名残だけでなく、フォルティス・アーラの機体内部から生じている分もあるだろう。

 

「ち、機体もパイロットも頑丈にできていらあね」
「ソウルゲインは動けるか?」
「ぼちぼちってところかね。なに、やってやれないことはないさ」
「ケプフォード中尉、カーソン少尉も問題はないな。今度こそ仕留めるぞ!」

 

 ジニンの号令と同時に二機のガンアークとアヘッド、そしてソウルゲインが手負いのフォルティス・アーラへと挑みかかる。手傷こそ負わせたが、手負いの獣ほど怖いものはないとも言う。

 

『おれに敗北を味あわせる事が出来るかどうか、足掻くがいい』

 

 先程の爆発でフォルティス・アーラの首周りのミサイル発射機能に異常が生じたが、残りの箇所はまだ健在だ。アクイラは動じず揺るがず迫りくる四機の機動兵器へと狙いを定めて、カリドゥムサギッタのトリガーを引き絞った。

 

   *   *   *

 

「グラキエース、人間の人達、かなりやるね。アクイラも来ているみたいだけど、そろそろイグニスをどうにかした方がよさそうだ」
「そうだ、なっ!」

 

 ウィリテグラディウスで受けたインペトゥスの炎の剣を弾き、機体を後退させて距離を置いたグラキエースが、変わらず穏やかなウェントスの声に同意する。
 烈火の如く激しい攻撃を加えてくるインペトゥスと戦っていたファービュラリスとストゥディウムは、同格の機体で二対一と有利な状況ながら、それなりのダメージを負っていた。

 

『ふん、抵抗するだけ無駄だ。いずれ破滅の王に全ては滅ぼされる運命。ラキ、ウェントス、お前達がいかに抗おうと無駄な足掻きだ。せめて同じメリオルエッセであるおれの手で先に破滅の王へと還るがいい』
「イグニス、お前から強い怒りの波動を感じるぞ。なぜそんなに怒っているのか、自分で分かっているのか? お前と同じものだった筈の私が変わってしまった事に、怒りだけを感じているのか?」
『知った事か!』

 

 イグニスはグラキエースと言葉を交わす度に胸の内に生じる感覚に戸惑っていた。疑似生命であるメリオルエッセに、感情は不要なものとして備えられてはいないはずだ。であれば、今自分が感じているものは何なのかと、イグニスはより一層苛立ちを募らせる。
 突きだしたインペトゥスの両腕の先端から紅蓮の炎が吹き出し、オーストラリアの空を赤々と染める。氷雪の化身と見間違う美しいファービュラリスの巨躯が、その熱量に押されたかのように炎の舌に絡め取られる前に大きく左に動いて避けた。
 二十メートルほど右方を通り過ぎた数千度を越す熱量が、ファービュラリスの装甲表面の温度を瞬く間に上昇させる。先ほどからのインペトゥスの炎の攻撃の連続で、機体の外も中も相当温度が上昇している。
 機体内部に警告音が鳴り響く中、グラキエースはインペトゥスを照準内に捉えあくまで冷静にサギッタルーメンのトリガーを引く。攻撃一辺倒に傾倒するイグニスは回避行動をほとんど取らずに、サギッタルーメンを次々と受ける。
 エクスハラティオーの猛火を受けた盾が急速に灼熱し、ファービュラリスの左腕部に異常が生じるのにも構わず撃った一弾が、インペトゥスの姿勢を大きく崩し、そこへストゥディウムが突っ込んだ。
 人型からワイバーン形態へと変形したストゥディウムの巨大な爪が、擦れ違い様にインペトゥスの左肩を大きく抉る。ルイーナの機動兵器中最高速度を誇るストゥディウムのスピードを生かしての一撃離脱戦法だ。

 

『く、ウェントス、おれの邪魔を』
「するさ。君だけじゃない。ルイーナすべての邪魔をする」
『廃棄されるはずだった貴様如きに』

 

 左肩を抉られた衝撃から立ち直る前のインペトゥスへ、ファービュラリスの背から延びている六枚の翼から、無数の氷の破片が放たれる。それらは瞬く間に周囲の水分と熱量を操作して巨大な氷の塊を造り出す。
 ファービュラリス最大の攻撃コンゲラティオーだ。雪の代わりに鋭い氷の刃が吹きすさぶ吹雪さながらにインペトゥスへと吹きつけて、炎の色の装甲へと刃を突き立て抉ってゆく。

 

『ぐ、ぐぐ、ラキ、お前は、なぜ運命に抗う』
「そう教わったからだ。ジョシュアに、な」

 

 次々と刺さる氷刃に埋もれながらインペトゥスは機体の全身からこれまで以上に巨大な炎を発し、コンゲラティオーによって生じた氷刃を全て蒸発させる。摂氏数万あるいは数十万度にも届くであろう、イグニスの激情が変わったかのような炎だ。
 イグニスは自身が唯一執着するグラキエースが、自分の理解の届かぬモノに変わってしまった事を悟ったのか、グラキエースを道連れにする覚悟でインペトゥスに最大燃焼を命じていた。
 小さな太陽が生じた様な莫大な輝きがインペトゥスを中核にして溢れだし、周囲の気温が目まぐるしく上昇してゆく。
 パイロットスーツや防護服の類を身に着けずに外部に出たら、たちまちのうちに昏倒してしまい、ローストヒューマンになるのに時間はかからないだろう。

 

『ラキ、おれの手で塵芥に変われぇ!』

 

 インペトゥスの全身から噴き出ていた炎が両手へと集中し、触れるもの全て燃やし尽さずにはおかぬ超高熱の大火球が生まれる。一発は躱せても二発目は回避できない。
 炎の熱を昇らせた思考の中でその執着心故に、グラキエースを己れの手で滅すると決意したイグニスは、必殺のタイミングを逃さなかった。
 ファービュラリスの回避不可能を見て悟ったウェントスが、すぐさまストゥディウムを駆ってグラキエースを助けようと動くが、ストゥディウムの性能を誰よりも知るウェントスだからこそ、わずかに間に合わないことを理解する。

 

「グラキエース!」
「…………!」

 

 グラキエース自身も躱しきれないと悟りつつも、一発目の大火炎弾を回避してファービュラリスの盾を機体の前面に突き出してせめて直撃を避けようと足掻く。インペトゥスの可能な限りの火力を注いだ火炎弾だ。
 ファービュラリスの装甲がどこまで保つのか、グラキエースにも無理であるとは分かっていた。だが出来る事がそれしかない以上そうする他ない。二発目の火炎弾がファービュラリスごとグラキエースを飲み込むその寸前、ひとつの機影がその間に割り込んだ。

 

「チェエストオオオーーーーーー!!!」

 

 呼吸と練気で自在に血流や脳内物質の分泌をコントロールできるシンだからこそ耐えられる、パイロットに過剰負荷をかけて殺しかねぬ加速で突っ込んだ飛鳥インパルスである。
 腰の回転運動から発したねじりを最大限にいかし、肩に担ぐようにして振りかぶった斬艦刀の一閃で、大火炎弾を真っ二つに割りファービュラリスを背後に庇う。
 わずかに遅れてストゥディウムが人型へと変形してファービュラリスの右側に寄り添った。三人の戦いに割り込み、かつグラキエースを庇ったシンの真意を測りかねているのだろうか。
 シンは視線と飛鳥インパルスのメインカメラをインペトゥスに向けたまま、オープンチャンネルで背後に庇ったファービュラリスとストゥディウムへ呼びかける。

 

「そっちの白い機体、前の借りはこれで返したからな!」

 

 前の借り、とは刹那と二人でイグニスに挑んだ時にグラキエースが介入した事であろう。
 グラキエースが介入しなければ刹那とシンのどちらかが撃墜された、というような状況ではなかったが、グラキエースの意図が自分たちを助けるものだったと何とはなしに察したシンは、一応借りとしてカウントしていたようだ。
 シンは特に返事は期待していなかったが、二人から返事が返ってきた。シンにとっては意表を突かれた気分であった。

 

「分かった。これで貸し借りはなしだな」
「女の声?」
「私はグラキエース・ラドクリフ」
「ぼくはウェントス・リムスカヤ」
「人に名を訪ねる時はまず自分から名乗れとジョシュアとリムから教わったのでな。まずは名乗らせてもらった。お前の名は?」
「……ああ、シン・アスカだ」

 

 全くふざけた様子はなくあくまで真面目に自己紹介をするグラキエースとウェントスに、ステラとはまた違った意味でどこか世間ズレしているな、とシンは感じた。

 

「とりあえず、割り込んだが、アンタ達はあのイグニスとか言うのの敵で、おれ達にとっては味方って考えてもいいのか」
「イグニス達、ルイーナの敵である事は確かだよ。でも君達の味方というのも少し違うかな」
「少なくとも私達にお前達と敵対する意思はないし、関わるつもりもない。私達の目的はルイーナだ」
「他はどうでもいいってわけか。そのルイーナってのと戦う分には共闘できるって事でいいのか?」
「うん。そう受け取ってもらって構わないよ」

 

 苦労を知らずに育てられた大店の若旦那みたいに人の良さ気なウェントスの言葉を、シンはとりあえず信用する事にした。
 それにそろそろ敵が痺れを切らす頃合であった。グラキエース必殺を期して放った大火炎弾を防いだのが、前に一度自分の手を煩わせた相手である事を思い出したイグニスが、前に見えぬ気炎を纏っている。
 負の波動をエネルギー源とするルイーナの特性を反映してなのだろうか、パイロットであるメリオルエッセの発する負の感情、思惟、波動といったものが機体に力を与えているようだ。
 ディス・ヴァルシオンのコクピットの中で相対した真ナグツァートに近しいものの様に感じられる。流石に億単位の霊魂を吸収し、数万年を経た怨念を中心核とした真ナグツァートに比べればはるかに小規模ではあるが。

 

「グラキエースとウェントスはイグニスに隙を作ってくれ。おれが一撃で斬り伏せる。できるか? それとも、おれはまだ信用できないか?」
「いや、お前を信用してみよう。ウェントス、私が牽制する。ストゥディウムでイグニスの注意を引いてくれ」
「分かった。シン、うまくやってくれるかい?」
「任せとけ。前に一度イグニスの機体とは戦っているからな。大体斬るコツは掴んでるし斬艦刀もある。空母だって真っ二つにするさ」
「うん、頼もしいね」
「よし、仕掛けるぞ」

 

 氷の鈴が風に鳴らされれば、きっとこんな音色になるのだろうと、シンはふとグラキエースの声を耳にして思った。涼しげで美しい声だった。

 
 

――つづく