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SRW-SEED_660氏_ディバインSEED DESTINY_第22話

Last-modified: 2009-10-28 (水) 22:35:57
 

ディバインSEED DESTINY
第二十二話 宇宙の戦火

 
 

 万の光を黄金に染めて跳ね返す無数の黄金の筒が、虚空に一筋の線となって放出された。大口径拳銃二丁が、さながら機関銃の如き高速連続射撃を行っている為に、空薬莢が絶えずエジェクトされてそう見えるのだ。
 頭部、胸部、腹部と三点射を受けたウィンダムが、着弾の衝撃と炸裂した弾頭内部の炸薬の爆圧と熱量によって瞬く間に火球へと変わる。
 無数の破片とわずかな爆煙を伴う爆発は、イザーク・ジュールの駆るR−1デス・ホーラーを中心として、球形状に広がっていた。
 重力のくびきと足場となる大地が無い代わりに、銃撃の反動と機体各所の推進機関を利用して、イザークは変幻自在の動きで二丁の大型自動拳銃の銃口の先に、新たな獲物をとらえ続ける。
 プラントという人工の大地こそあるが、無重力である宇宙に生まれて育ったプラントのコーディネイター達にとっては、宇宙での戦闘こそホームグラウンドであり、より能力を発揮する事が出来る。
 それはイザークに限らず他のコーディネイター達にも言える事で、ウィンダムとザクの性能はほぼ互角ながら、ザフトが戦闘を優勢に進められていることがそれを証明している。
 ぼきゃ、と装甲を貫いた弾丸にフレームが撃ち砕かれて、ウィンダムの右腕が根元から歪んで千切れる。大きく機体バランスを崩したところに、徹甲弾が正確な狙いでコックピットを穿った。
 周囲に漂う黄金の空薬莢の中心で、イザークはレフトヘッド、ライトヘッドの銃身下部の弾倉を取り外し、新たな弾倉を装填する。
 前大戦時、核分裂炉を搭載し、フリーダム・ジャスティスと同等以上の性能を誇っていたが、新たにプラズマ・ジェネレーターなどをはじめとした新機軸の装備を投入している。
 純粋なMSとしても、ザフトの威信をかけたザフトインパルスにも基本性能では劣らぬモノがあり、ザフト屈指のエースにまで成長したイザークがパイロットという事もあって、獅子奮迅の活躍を見せている。
 レーダーがさらに新たな反応を見せる。初戦の艦艇砲撃ではこちらに多少なり被弾が出たというのに、地球連合側の艦隊の被害は少ない。
 ドレイク級、ネルソン級、アガメムノン級各艦のうち大部分が、船首に光波防御帯応用のビームシールドを展開しており、ローラシア級、ナスカ級の砲撃のことごとくが無力化されている。
 無傷で残った艦から次々とMSが出撃しており、MAを相手にしていた頃のキルレシオを失っているザフト側は、絶えず出血を強要されていた。
 ランチャーストライカーを装備したランチャーウィンダムが浴びせ掛けてきたアグニの連射を、機体を半身にずらして躱し、イザークは背のデス・ホーラーを肩に担ぎあげ、鋼鉄の棺桶の中から覗いた砲口を向ける。

 

「いい加減しつこいんだよ、貴様らはっ!!」

 

 プラント謹製高性能炸薬満載の砲弾が射出され、ネルソン級戦艦を一撃で沈める火力がランチャーウィンダムと、その背後から姿を見せていたエールウィンダム二機をまとめて火焔の中に飲み込む。
 高熱に融解した装甲が、続いて襲い来た爆風によって飴細工のように簡単に破壊されて散華する。
 落としても落としても姿を見せる連合のMSに、イザークは弱気な姿こそ見せないが、さすがに苛立ちは隠せぬようで、声を大いに荒げる。
 散弾状にTEをばらまいて多くの敵を吹き飛ばしていたルナマリア、その護衛を行っているシホ、周辺の警戒と他の部隊との連絡の取次と戦闘を並行しているレイも、通信機越しに聞こえてきたイザークの怒声に、含み笑いを零す。
 ようやく普段のイザークらしい態度に変わったからだ。それだけ戦闘時の取りすました態度が似合わないと、全員が常々思っていたのである。

 

「きりがない! 前の時もそうだが、よくもこれだけ数を用意してくる」
「それだけ我々の事を評価しているのでしょう」
「ふん、高く評価された所為で一人残さず殺そうとしてくるとあっては、面白くもない」
「そうですか」

 

 淡々としたレイの台詞にも慣れたもので、クルーゼ隊在籍時なら戦闘中でも噛みついていただろうイザークは、レイとの会話で適度に緊張を緩和しているようで、さらに二、三言交わす間も二丁拳銃の銃火は絶えない。
 艦隊の砲撃戦は濃密に展開されたアンチビーム爆雷によって大きく主砲が減衰され、遠距離からの主砲の撃ち合いでは致命打が出にくくなっている。
 ザフト側は地球連合MS部隊の重厚な布陣をいまだ突破する部隊がなく、連合側も決死の覚悟で立ち塞がるザフトの防衛陣を前に足を留めている。
 内部機関をはじめとした装備を一新したフリーダム・ジャスティスの内、ミーティアを装備した機体の火力は、小規模な艦隊と同等かそれ以上と活躍ぶりが凄まじい。
 地球連合側のMS部隊もそれらのミーティア付きや、ドラグーンによって一度に無数の機体を撃破しているプロヴィデンスに照準を合わせて群がっている。
 ガナーザクウォーリアの小隊が一斉に放ったM1500オルトロス高エネルギー長射程ビーム砲が、ウィンダムの掲げるABCシールドを砕いてその奥の機体を貫けば、報復のビームが嵐となって降り注ぐ。
 地球連合MSの隊列に空いた穴は、すぐさま周囲の部隊が埋めて部隊統制を取り戻し、かならずペアないしは小隊を組んで技量で勝るザフトに戦いを挑んでいる。
 前大戦の経験を経て、MSを用いての戦闘に習熟したベテラン達が相当数戦線に顔を並べているのだろう。新兵が少なくないザフトにとっては数倍する数のみならず熟練兵の存在も、頭痛の種だ。
 防衛部隊の指揮を任されていたレイ・ユウキの指示を受けたヴィレッタが、別の隊に現宙域を任せて部隊を後退させる。
 一時的に後方に下がったWRXチームに、コートニーとラルフのプロヴィデンス二機、リーカ・シェダーのミーティアフリーダムをはじめミーティア付きのフリーダムが二機と護衛のサトー隊など複数の部隊が集まる。
 コートニーは元は民間の技術者だった男で、前大戦から優れた技術力と客観的な視野でMS開発に大きく活躍してきた青年だ。高いパイロット能力に加えて空間認識能力も併せ持ち、数少ないドラグーン操者の素養を持つ。
 ラルフ・クオルドはラウ・ル・クルーゼやエルザム・V・ブランシュタインと並びザフトのトリプルエースと称されるウルトラエースだ。
 前大戦では隊を率いてアズライガーの前に立ちふさがり、ほとんどの隊員を失いながらも痛打を浴びせた猛者である。
 彼もまた高度な空間に指揮能力とニュータイプ的な感性を持っており、連合のムジカ同様の優れた戦闘能力で、今回の戦闘で大きな戦果を上げている。
 リーカ・シェダーは、オルガ・サブナックらに強奪されたカオス・ガイア・アビス三機のGのテストパイロットを務めた女傑だ。コーディネイターには珍しく生まれつき全盲で、それを電子機器で矯正している。
 そのような身体的ハンディキャップを持ちながら、赤服を纏いテストパイロットを務める優れた能力を持ち、生来の前向きで明るい社交的な性格もあいまって、周囲からの評価は高い。
 プラント前面に多重に横列陣形で展開していた地球連合艦隊の他に、プラント前面に展開していたザフト艦隊の横腹を突く形で、さらに艦隊が姿を見せて包囲網を形成されてしまう。
 三方から囲い込まれて集中砲火を浴びる事を嫌ったユウキの要請により、前面に展開する連合艦隊にザフト側の精鋭を当てて、一気に大打撃を当てる事になった。
 この時プラント攻撃に合わせて、別の地球連合艦隊がアメノミハシラを包囲しており、DCからの援軍は見込めていない。
 もしユニウスセブンが落下していれば、地球連合側もこれほど迅速に大部隊を展開する事は出来なかったろうが、一時的な混乱こそ発生したものの、地上への被害は皆無であったから、このような大規模作戦も可能だった。
 このまま物量で押し切られる前に、戦闘早期の内に連合側の指揮を挫く打撃を与えたい。となればザフト最強の機動兵器WRXに機体が掛かるのも無理からん事。
 ヴィレッタも戦況が窮状に陥る前に自分達が戦果を上げる事の必要性はよく理解でき、チームのメンバーに司令内容を通達する声は、イザーク達にはいつもよりわずかに熱がある様に聞こえた。

 

「こちらの最大火力で一気に敵艦隊に切り込むわ。サトー、コートニー、リーカ、ラルフ、背中と横は任せます」

 

 それぞれから短い返事が返ってきたのを確認し、ヴィレッタはすぐさま高機動戦闘中のヴァリアブル・フォーメーションを展開し、正面地球連合艦隊へ向かって部隊を進めながらWRXへの合体を始めた。

 

 * * *

 

 地球連合VSザフトの大規模戦闘が行われている宙域から、遠く離れた場所に一隻の船があった。船首に行くにつれて細く狭まる曲線のみで描かれたシルエットで、船体後部には、翡翠色の水晶の様に美しい多節の突起が伸びている。
 全長が実に四キロメートルにも達する超規格外の巨大戦艦である。ゼ・バルマリィ帝国の主力艦フーレ級の一隻だ。
 DCのスペースノア級でさえ及ばぬであろう高い戦闘能力とワープ機構、自己修復素材で造られた船体を併せ持ち、単独でも現地球圏の艦艇では太刀打ちできないだろう。
 その異世界の船の艦橋に、傍目にも不機嫌な事が明らかな男の姿があった。正面幌ディスプレイに映し出されたWRXの姿に、眉間に刻まれている皺の深さが増す。
 鋭い角度で曲がる灰銀の髪に、大きく剃刀で削いだような頬の若い男――ハザル・ゴッツォその人である。
 ムジカ・ファーエデンがメインパイロットを務める地球連合WRXを打倒し、その直後イングラム・プリスケンの召喚したR−GUNリヴァーレと戦闘に入ったはずだが、無事に生還したようだ。

 

「ヴァイクランさえ本調子なら、このおれの手であいつらをまとめて葬ってやるものを!」

 

 実はこの時、フーレに格納されているハザルの愛機ヴァイクランは、イングラムとの戦闘によって大きなダメージを受けており、自己修復機能を以ってしても数日は動けなかった。
 今は、地球に送りこんだゴラー・ゴレム隊を招集してイングラムの追跡に当たらせてはいるが、結果が出るのはまだしばらく先の事だろう。
 ゴッツォの枷が無い状態のイングラムは恐るべき強敵だ。何を押しても第一に抹殺を考えるべき、と指令を受けている。しかし、ハザルはあくまでWRXとヴァイクル――特にリュウセイ・ダテの搭乗する――の破壊に固執していた。
 このハザルもまたこの世界に転移してきた死人であるが、前の世界で破壊された精神を修復する際に記憶操作も受けている。それでもリュウセイに対する執念は消えずに残り、強い敵愾心が唸り声をあげているのだ。
 そしてハザルは、超高出力のハイパー・ターミナス・エナジー・ソード『エヌマ・エリシュ』を初撃に放ち、一直線に地球連合艦隊を貫いて撃破したWRXを忌々しげに見つめながら、イングラムとの戦いを思い出していた。

 

 * * *

 

 チームTDおよび地球連合WRXとの戦闘で、ラアム・ガン・スレイヴを数基落とされはしたが、戦闘能力をほぼ完璧な状態で残していたヴァイクランのコックピットの中で、この時ハザルはほくそ笑んでいた。
 イングラムが召喚したリヴァーレのデータは手元にはないが、所詮はR−GUNパワードの代わりに呼び出した機体と、侮ったのである。
 強念者としてのハザルの鋭敏な感性は、眼前の機体を脅威とみなしてはいたが自分自身と、敬愛する父から託されたヴァイクランへの絶対の自信がハザルの心を満たしていた。

 

「バルシェムのオリジナルか、肉片の一つでも持ち帰れば父上のお役に立つかもしれん。跡形位は残してやろう」
「ふっ」

 

 父の威光と自身の能力に後押しされた絶対の自信で告げるハザルを、イングラムは嘲侮の響きを隠さずに鼻で笑う。それを聞き取った瞬間に、ハザルの脳は怒りの熱で沸騰した。  
 紫の翼を広げ魔界の侯爵の様に悠然と佇むリヴァーレめがけ、残るラアム・ガン・スレイヴが飛翔する。

 

「命乞いの文句でも考えるがいい」
「直情径行なのはリュウセイと同じか。いや、リュウセイよりも単純かもしれんな」
「リュウセイと言ったか、貴様ぁ!!」
「それがどうした? 余計なお喋りはここまでだ。行け、ガン・スレイヴ」

 

 ヴァイクランのラアム・ガン・スレイヴに呼応するようにリヴァーレの背中からも三基のガン・スレイヴが射出され、操者の思念を受けて近距離で交差し、離れ合い、光弾を撃ち合い始める。
 地球外技術によって作られた両機の武装たるガン・スレイヴは、近似兵装であるドラグーンが一撃ではMSを破壊し得ない出力なのに対して、大口径ビームライフルにも匹敵する破壊力を誇る。
 深い色合いの無限の闇の中に、星以外の輝きが光の速さで互いの間を行き交い、まるで小さな流星群の流れの中に身を任せている様な、幻想的な光景が広がる。
 しかし、現実にもそうであるように流星群のひとつにでも触れれば砕かれるのは自分の機体であり、ひいては自分の命である。
 流星群の中を縫う様にしてヴァイクランとリヴァーレは高速で飛びまわる。時に上下左右、背後からも放たれる光弾を軽やかにかわしているのは、後ろに目があるかどこから攻撃が来るか予め知っているかのようだ。
 リヴァーレの手首から白みがかった黄金の光が溢れだして地を這う蛇のように伸びて、先端には鋭い光の剣が顕現する。手持ちの近接武器とは異なる独特の軌道を取るリヴァーレの近接用武器ロシュ・ブレードだ。
 鞭のように大きくしなって袈裟斬りに襲い来るロシュ・ブレードに、ハザルは着斬箇所に念動フィールドを集中させて防ぐ。
 精神的攻撃性を持つ広範囲武装オウル・アッシャーで反撃を試みるが、その寸前に跳ね返したロシュ・ブレードがラアム・ガン・スレイヴの一基を斬り落とすのを見て、ハザルは

 

「ちい、狙いはヴァイクラン本体ではないのかっ」
「小うるさい蠅を狙っただけの事。いちいち騒ぐ必要はあるまい?」
「このおれを見下した物言いを」
「ふっ」
「!!」

 

 更に数を減らしたヴァイクランのガン・スレイヴは、自在機動からヴァイクラン周辺に集まり、防御重視の布陣に変わる。イングラムは表情を変える事もなく、ガン・スレイヴとロシュ・ブレードの変幻の組み合わせで間断なく攻め立てる。
 近接武器の無いヴァイクランではロシュ・ブレードの光刃を受ける事は出来ず、防御をガン・スレイヴの砲弾と合わせて、念動フィールドとズフィルード・クリスタル製の装甲の強度と再生力を頼りにするほかない。
 立て続けに機体を揺らす衝撃に、ハザルは奥歯を砕けんばかりに噛み締めて耐えて、逆に戦意を強く燃やした。感情に釣られて高まる念の力を受けた念動フィールドは、爆発的に強度を増す。
 斬り込んだロシュ・ブレード二刃とガン・スレイヴの砲弾が全て弾かれ、冷静に虚空越しのヴァイクランを見つめていたイングラムの冬の湖の様な蒼い瞳に、警戒の色がうっすらと浮かび上がる。

 

「貴様如き人形が、思い上がるなぁ!」

 

 ヴァイクランの機体から強い光を放つエメラルドグリーンの光が溢れだし、カルケリア・パルス・ケルディムが増幅する思念を受けて、強化されたオウル・アッシャーが、リヴァーレを守る空間歪曲フィールドを破る。
 四十メートル以上あるリヴァーレの装甲表面を強打し、厚い装甲を透過して搭乗者の精神にも作用する攻撃に、イングラムの眉根が寄る。
 苦痛ではなく虚脱の感覚に近い衝撃であった。ふっと精神が肉体の檻から引きずり出されて、イングラムの意思を無視して精神と肉体の繋がりを引き剥がされる。

 

「このおれを、舐めるなよ!!」
「なるほど、多少は評価を修正する必要があるか」

 

 ハザルの怒声に鼓膜を揺さぶられながら、イングラムは遠のく意識を強い意志力で引き戻し、ロシュ・ブレードの光鞭を幾重にもくねらせてヴァイクランへと振り下ろす。
 一方はヴァイクランから見て斜め上前方から天空から大地に落ちる流星の様に迫り、残るもう片方はヴァイクランの右側に大きく弧を描いて背後から串刺しにしようと動く。
 準サイコドライバークラスの強念者であるハザルは時間差で襲い来るどちらも、ヴァイクランを春風の中を飛ぶ蝶を思わせる軽やかな動きで操り回避する。
 有視界戦闘での見本にしたい位に鮮やかな動きであった。
 ロシュ・ブレードを操った姿勢でわずかに硬直していたリヴァーレの隙を的確に見抜き、ヴァイクランの周囲に侍らせていたガン・スレイヴを動かし、軌跡の光の尾が虚空に残っている間に、高速の連射をリヴァーレに叩きこんだ。
 胴体を中心に正確に命中する雷光の弾丸が空間歪曲を打ち破り、リヴァーレの装甲を抉り、大小の穴がそここそに出来上がる。自己修復機能を持つリヴァーレは、すぐさまに修復にかかるがそれは相手も同じであった。
 リヴァーレの連続攻撃が与えたダメージも、イングラムの瞳の中で徐々に塞がり出している。互いに優れたバリアと自己修復能力を有する為に、戦いの決着は長引くかと思われた。
 しかし、ハザルはそれを是とするような性格ではなかった。
 大いなる自己への自信と過大な自尊心、勲功を上げる事で父に認められたいという願いが、ハザルにたかがバルシェムのオリジナル如きに手古摺っている事態を許容しない。
 それまで一瞬たりとも足を止めずに無重力の世界を飛んでいたヴァイクランが動きを止め、機体周辺に一際強固な念動フィールドを展開するや、虚空に足を広げて踏ん張る様な姿勢を取る。
 もはや気力の限界にまで到達したハザルが展開した念動フィールドは、生半可な攻撃をすべて鉄壁となって遮断して見せるだろう。
 リヴァーレの三つの兵装の中でも、ヴァイクランの念動フィールドを突破できるものとなると、最大火力を誇るアキシオン・バスターを置いて他にない。
 互いの最大火力の同時射撃となれば、どのような被害が双方に発生するか分からない危険な行為だ。
 ハザルがそれを理解した上で、自分の機体に自信があるから選択したのか、後先を考えず感情の濁流に任せて選択したのか。どちらにせよ、こちらもまた最大の一撃で応えるしかあるまい。
 頭に血が昇りきってはいない証拠に、ハザルは残っていたガン・スレイヴをリヴァーレの周囲に展開しており、回避行動を見せればすかさずに砲弾を叩き込んで動きを止める配置をしている。
 ガン・スレイヴにガン・スレイヴで応じる時間があれば、ベリア・レディファーの発射は間に合うだろう。ヴァイクランのベリア・レディファーの効果範囲は広く、大きく回避行動を取らねば逃れる事が出来ない。
 防御を固めて直撃を防いでも少なくないダメージをリヴァーレは負う事になるだろう。
 パイロットの性格に難はあるが、ヴァイクランはゼ・バルマリィ帝国の宰相であると同時にディス・レヴを開発した天才科学者シヴァー・ゴッツォが、突出した地球の軍事技術を盛り込んで作り上げた強力な機体だ。
 単純な性能を見るならばリヴァーレをもってしても油断の二文字はあり得ない。ここまでの思考を一瞬で終えたイングラムは、周囲を忠実な下僕の様に飛んでいたガン・スレイヴをリヴァーレの至近位置に集めた。
 リヴァーレの胸部の禍々しい魔花の蕾の様なパーツが花開くように三方に展開され、中に秘していた砲身が現れる。
 リヴァーレから見て逆三角形の位置に配されたガン・スレイヴが、それぞれ真紅の光線を胸部の砲身目掛けて放射し、リヴァーレの胸部に圧倒的なエネルギーが集中する。
 カルケリア・パルス・ティルゲムが増幅した思念を研ぎ澄まし、放出していたハザルはリヴァーレの機体に集中する膨大なエネルギーに気づくが、億さず怯まず構わずヴァイクランの最大攻撃を放つ!

 

「くらえぃっ!!」
「アキシオン・バスター…………」
「ベリア・レディファー!!!!」
「デッド・エンドシュート!!」

 

 両者の喉から発せられた叫びの残響が宇宙に木霊する中、両機の中心位置に太陽の誕生を思わせる強烈な光が、極彩色に彩られて発生した。
 空間歪曲作用を有する両兵装の衝突によってごく短時間に発生した超エネルギーと、空間とエーテルを揺るがせる次元振動は地球圏に伝播し、いくつかの勢力によって観測され、超兵器同士の戦闘が確認される事となった。

 

 * * *

 

 全身全霊を込めたベリア・レディファーを放った後の記憶がぷっつりと絶えたハザルが目を覚ました時には、いま建っているフーレ級の医務室に運びこまれて、医療用のカプセルに全裸で寝かされていた。
 戦いの決着を確認すべく、医療用バルシェムの制止を振りほどき格納庫に到着したハザルが見たのは、四肢の欠損こそないものの機体全体に大きな損傷を負った愛機ヴァイクランの姿であった。
 凶悪な獣を思わせる顔面にも少なからず罅が走り、滑らかな装甲の多くが破れ、凹み、削られている。
 父シヴァーに託されたという思い入れがあり、格別の愛着を抱くヴァイクランの無惨な姿に、ハザルはしばしその場に呆然と立ち尽くすほかなかった。
 強く噛みしめすぎて口の端から血を滴らせたハザルは、地球連合とザフトの大規模戦闘の報を受け、心中の葛藤の噴出をかろうじて抑え込みこうして艦橋に立って、こうして遠距離から戦闘を傍観しているのだ。
 モニター越しとはいえ目の前で勇猛に戦っているWRXの姿に、ハザルは抑えきれぬ苛立ちに足で何度も床を叩いている。艦橋にハザルの他にはバルシェムばかりかと思われたが、他にも小柄な影が一つある。
 頭がハザルの胸に届くかどうかという位に小さくて、とても戦艦の船に居るにふさわしい人物とは思えない。
 黒い生地のボディラインをはっきりと浮かび上がらせるスーツが首元から爪先、指の先までを覆い隠し、小さな乳房の下半分や下腹部、肘から先はオレンジ色の光沢をもっている
 また首元や肩には緑色の宝玉の様なものが埋め込まれており、一風変わった衣装であった。
 少女は金銀妖瞳のやや吊り上がり気味な瞳、額に刺青の様に描かれている緑色の刻印、まだ十代前半としか見えない幼貌に不釣り合いに艶めかしい朱の唇といい、男を狂わせる背徳的な雰囲気を纏っている。
 短く切り揃えられたピンクに近い赤い髪の少女である。仮面で顔を隠したバルシェムらとは明らかに違う衣服に、わずかに感情の色が見える顔と、この少女が別の存在である事は明らかだ。

 

「ハザル様、まだ起きてはなりません。見た目に大きな怪我はありませんが、いまはお体をお休みになられませ。カルケリア・パルス・ティルゲムの負担も軽くはありません」
「レビか。貴様如きがおれに命令するつもりか!?」

 

 これまで表面上は抑えていた鬱憤を晴らすかの様に、舌鋒激しくハザルが背後の少女――レビ・トーラーを振り返り睨みつける。ゴッツォの思念に縛られたレビの念動力は、ハザルと同等かあるいは上回るほど強力だ。
 その事が分かるのか、ハザルは普段からレビに対して格別冷たく、バルシェム達に対するのと同じような態度を取っている。
 レビが下賜されたジュデッカの性能が、レビとハザルの実力関係同様、ヴァイクランと同等である事も、ハザルが厳しい態度を取る一因を買っている。
 それに対してレビは自分に向けられる軽蔑の感情など、気に留める様子もなく機械仕掛けの美しい少女人形のように、従順に従っていた。

 

「畏れ多い事でございます。私にそのようなつもりは。ただ、ハザル様はバルシェムとは違い代わりの利かぬ御身体です。御身を大事になされませ」
「くどくどと説教をする。このおれの事はおれ自身が一番理解している。おれが構わぬと言えばそれに従え!」
「……はっ」

 

 これ以上抗弁しても怒りを買うだけ、下手をすれば頬を張られる位はすると分かったのか、レビはそれ以上ハザルに何を言う事はなく、奮闘するWRXをその色違いの左右の瞳に映した。
 ザフトWRXと二機のヴァイクルの破壊を達せぬ限り、ハザルは誰の言葉にも耳をかす事はないだろう。

 

 * * *

 

「ぬおおおおおお!! くらえぇええ、EFナッッコォオオーーーーー!!!!!!

 

 喉よ破れろ、とばかりに叫ぶイザークの気迫が籠ったWRXの右拳が、前方アガメムノン級船首に展開された陽電子リフレクターを容易くぶち抜き、三百メートルある船体のど真ん中を、貫いた。
 斬艦刀や獅子王斬艦刀、ミーティアの大型ビームサーベルでもなければできない様な事を、EFを纏った拳でやって見せるとは、見事というべきか流石というべきか。

 

「まとめて落とす、シホ!!」
「はい、HTEキャノン、エネルギー充填率98……99……100パーセント、ルナマリア、照準を!」
「了解、右前方ネルソン級ロック、イザーク副隊長トリガーを預けます」
「よぉし! プラントを狙った事を存分に後悔させてやる。いっけえええええ!!」

 

 WRXの左手に構えられたR−GUNパワードの砲口から溢れた莫大なターミナス・エナジーは、ザフト最強に相応しくセンターマークに捉えたネルソン級の胴体を横に貫き、さらにその先に展開していた艦艇と護衛のMS群を飲み込んで行く。
 発射体勢を維持するWRXを狙う連合の機体は、ことごくリーカやコートニーらがシャットダウンし、直衛のMSを減らされて隙の出来た艦艇にはラルフの駆るプロヴィデンスのドラグーンが群がって、一分とかけずに沈める。
 少数精鋭で持って敵本陣に切り込み、驚くほどの戦果を上げる彼らであったが、反面被害も大きく、サトー隊の隊員の多くとミーティア付きのフリーダムが二機とも撃墜されている。
 WRXも若干の被弾が出ており、イザークの操縦に若干遅れを見せ始めている。連合艦隊は、旗艦を沈められ多くの将校・佐官の乗る艦艇を沈めた事で指揮系統に混乱が見えてはいる。
 それでも左右から現われた別動艦隊はザフトの横腹に猛烈に食い込んでおり、ザフト側の必死の反撃と拮抗状態が続いている。
 イザーク達の活躍によって三方からの完全包囲という事態だけは避けられそうだが、以前数で押されるザフト側の旗色の方が悪いのは否めない。

 

「く、隊長、このまま連合の艦を片っ端から沈めましょう! 母艦を沈めればMSの展開も迅速には行えなくなる」
「その前に私達が落とされるわ。一度、後退しないと……。っ!」
「隊長?」
「まずい、図られたわ」
「なにがあったんです!?」

 

 常に冷静沈着なヴィレッタの声に隠しきれない焦燥の響きを聞き取り、イザークの詰問の声は激しさを増す。

 

「さらに別の艦隊が姿を見せたのよ。前の時と同じ核弾頭装備のウィンダムがね!」
「なんだとお!?」

 

 やや遅れてヴィレッタの言葉の意味をイザークが理解した時、ヴィレッタに対する言葉遣いも忘れて驚愕の声が口から突いて出た。
 ザフト側気付いた時、クルセイダーズと名付けられた核弾頭運用艦隊は、ガラ空きのプラント本国目掛けて悠々と帆を進めていた。
 プラントの極軌道から姿を見せた数隻の戦艦から出撃した数十機編成の、核装備ウィンダムは、核弾頭の目標を銀色の砂時計へと無慈悲に向けている。
 艦隊を構成しているアガメムノン級の一隻ネタニヤフの艦橋で、熱烈なコーディネイター殲滅思想者である艦長は、これから自分の決断によって起きる一大スペクタクルに、胸を躍らせていた。

 

 NJキャンセラーを搭載した核ミサイルはすでに射程圏内に忌々しい砂時計を捉えている。今さら気付いて部隊を急行させた所で間に合うものか。
 前大戦でムルタ・アズラエルが成しえなかった偉業を、この自分が成すのだ。神が今も下さぬ天罰に代わり、コーディネイターに殺された無辜の人民の無念を晴らす人罰を下すのだ、今、ここで、自分達が!

 

 舞台に上がった劇役者のように胸中で弁を振るう艦長に、オペレーターが水を差した。潜めていたのか三隻のナスカ級が、プラント本国を守る様にして姿を現したのである。
 しかし、たかが三隻で何ができると、艦長は鼻で笑った。
 あの三隻の抱えたMSがどれだけ高性能であろうとも、数十機に及ぶ核装備のウィンダムを迎撃しきれるものではない。もしミーティアかWRXクラスであれば別だが。
 沸き起こった不安は黒い霧となって艦長の踊っていた心を覆ったが、英雄願望に取りつかれた艦長は、すぐにその霧を晴らした。神か悪魔であろうとも、今さらこの状況を覆せるものか。
 そう考える艦長の目に、三隻のナスカ級の内中央の艦に、見た事のない装備が映る。薄い円盤を何枚も貫いた錐の様なそれは、艦長だけでなくクルセイダーズの誰にも用途は想定できなかった。
 かりにそのナスカ級の装備が何を巻き起こすものか察知できたとしても、彼らになすすべは無かっただろう。核ミサイルの射程圏にプラントを捉えた様に、その装備の射程圏に彼らは捉われていたのだから。
 そして、ゆっくりと振動を始めたその装備から放たれた白い光が、核装備ウィンダムとクルセイダーズ各艦艇を飲み込んだ次の瞬間、圧倒的な熱量によって艦長は骨の一片も残す事無く蒸発していた。
 発射された核ミサイル、発射前のランチャー内部の核ミサイル、そして艦艇の中に収納されていた核ミサイルもすべてが強制的に起爆させられて、内側からウィンダムを、艦艇を焼き尽くす。
 核ミサイルを強制的に起爆させた装備をNスタンピーダーという。プラントの対核攻撃を想定した防衛の切り札である。外部から任意に核兵器を起爆させるこの兵器がある限り、連合側の核兵器は無力化される。
 迂闊に核を持ってプラントに近づけば、この兵器によって逆に我が身を核の炎に焼かれるのだから。これは核兵器を切り札として運用する連合側にとっては最大級の脅威に違いない。
 しかし、射程距離には限りがあり使用に必要とされる資源は大変希少なもので、完成品も一度照射すればそれだけで機能を停止してしまう。
 実用を知っているプラント側からすれば、多用する事の出来ない代物であり、その効果と存在で連合の核兵器という手札を封じられればよし、とする意見もある。
 ただ、核を強制的に起爆するこの装備は地球上で復興しはじめた原子力施設への脅威ともなり、地球連合側にさらにプラント脅威とみなし態度を硬化させてしまう危険性もある。
 プラント側に都合のよい面ばかりを持った兵器でない事は事実であった。
 とはいえ、プラント壊滅の最大の切り札であり要であった核兵器が全て無力化され、旗艦の多くを沈められた連合艦隊の混迷の度は深まり、攻撃の手が目に見えて勢いを失う。
 核のない以上、DCという強大な敵を残した現況でこれ以上戦力を失う事を嫌ったのか、指揮系統繋ぎ直した連合艦隊は、鮮やかに船首を翻しプラントに背を向け始める。
 本国を責められた事で激昂したパイロットの幾人かは追撃を行おうとしたのだが、ベテランパイロットや、司令部が強くこれを押し留めた。ザフト側もここまでの防衛戦で多くの血を流した事を理解していたのだから。
 こうして、互いに百機以上のMSと多数の艦艇を失いながら、ザフトと連合艦隊による戦闘は、取りあえずの終結を迎えたのである。

 

 * * *

 

 そして、プラント本国同様に連合艦隊に包囲されていたアメノミハシラでも、マイヤー・V・ブランシュタイン宇宙軍総司令率いるDC宇宙軍との間で、苛烈な戦闘が繰り広げられていた。
 ブロック交換によって砲戦にも空母にもなるペレグリン級と、五門ものローエングリンをもつアルバトロス級の効果的かつ迅速な運用によって、艦隊戦ではDC側が優位に戦闘を進めていた。
 機動兵器同士での戦闘も、兵器の性能差を前大戦よりも埋められたとはいえ、現行の主力量産機では最も優れているエルアインスと、ヴァルシオン改タイプCFの部隊が津波の様に襲い来る敵をよく押し返していた。
 特に要所で活躍しているのが、宇宙軍親衛隊トロイエ隊の運用する量産型ヴァルシオーネだ。
 ヴァルシオーネに装備された敵味方識別機能を備える広域先制攻撃兵器であるサイコブラスターは、他の勢力で再現出来ていない技術の一つで、これは低威力ながら一度に多数の機体がダメージを受ける脅威であった。
 高い錬度とマイヤーへの篤い忠誠心に支えられたトロイエ隊の連携によって、連続して放たれるサイコブラスターによって、一度に二十機近くが撃墜される局面も見られたのである。
 宙間戦闘にチューンしたヴァルシオン改タイプCFが大量に配備されていた事もあり、連合側のMSは時を重ねる事に、撃墜数が右肩上がりになってゆく。
 DCの足を止める事が主目的であり、アメノミハシラの陥落までは命じられていなかった連合艦隊に、撤退の意思を固めさせたのは、上記の機動兵器の活躍もさることながら、マイヤーの新たな旗艦の馬鹿げた戦闘能力も大きかった。
 アルバトロス級ナハトから乗り換えた新たな戦艦の艦橋で、マイヤーの威厳に満ちた低い声が雷鳴の如く轟く。

 

「トランスフォーム!! ジェネラルガンダム!!!」

 

 艦長席アームレストに設置されたレバーをマイヤーが引き、同時に戦艦ジェネラルの艦橋が船体本体との接続が解かれて上昇する。
 船体本体が九十度起き上がってメインスタビライザーが左右に割れ、キャタピラを備えていた部分が移動して足に変わる。主砲を備えていた個所は手首が伸びて明らかに腕部の形を成す。
 変形に備えてジェネラルのスタッフが衝撃と船体各所の移動に、マニュアルにそって各所に動きまわる。艦橋でもマイヤーの副官リリーが、艦長席を揺れる体を支えていた。
 そして――戦場に居る誰もが度肝を抜かれるものが姿を見せた。よもや戦艦が全高442メートル、重量5230トンもの桁違いの数字を持つMS(?)に変形すると、一体誰に想像がつくだろう。しかも、二頭身である。
 メインスタビライザーの下の船体部分が、そのままデュアルアイとブレードアンテナが特徴的なGタイプの頭部だったのである。
 C.E.ではガンダムという言葉は特定のMSの種別には使われぬが、仮にU.C.世界の住人がいたら、百人が百人ともガンダムというだろう。どちらかといえばデコレーションMSの類ではあるだろうが。

 

「変形完了! ジェネラルガンダム!!」

 

 マイヤーの獅子を思わせる二度目の咆哮が響き渡る中、艦橋もまた変形をはじめ、二連の砲口が覗き、銃把が左右に伸びる。
 銃把をジェネラルガンダムが掴み取り、機体各所の姿勢制御スラスターが機体のバランスを整える。肩のコスモナバロン砲、プロミネンスキャノンが旋回して砲口の先を前方に向ける。
 大口径砲に変形した艦橋のオペレーター達が忙しなく報告を上げ始める。

 

「粒子極性転換フィールド展開」
「総員対ショック対閃光防御!」
「全砲門開け!」
「目標、前方地球連合艦隊に向けコスモナバロン砲転回!!」

 

 一斉にジェネラルガンダム前方に展開していたDC側の機動兵器部隊が上下左右に分かれ、射線軸に連合艦隊とMS部隊のみを残す。DC側の動きに気づいた連合側も部隊を退避させる。
 それでも多くの地球連合部隊が射線軸上にあった。ジェネラルガンダムの砲撃の射角がずば抜けて広大であった為だ。

 

「一斉砲撃、ギャラクシーギガクロス、ファイヤー!!!

 

 銀河に輝く星の光が全てそこに集約されたような光であった。ジェネラルガンダムの持つ最大火砲二つの内の一つは、進行方向上にあるすべての物体をその超エネルギーで粉砕し消滅させてゆく。
 展開されていたビームシールドも、重厚な戦艦や空母の装甲もまるで意味を成さない。
 冥府に流れる死の河がこの世に溢れだしたかの如き一撃。
 二頭身の機動兵器というおもちゃじみた外見ながらのこの攻撃力。
 何をするかわからない、何を持ちだしてくるかわからないという恐怖が、影のように付き纏うDCとの戦闘とはいえ、これは、あまりにも現実離れし過ぎている。
 強烈すぎる外見の巨大MSの攻撃によるインパクトに、地球連合側諸兵が雷に打たれたように呆然自失する中、絶叫にも等しい咆哮を挙げたマイヤーは、あくまで悠然と艦長席に身を沈めていた。

 

「これで、今回は詰みか」
「追撃の艦隊はジェジャン中佐とロレンツォ大佐に指揮を任せられては?」
「あまり深追いせぬよう通達しておけ。地球連合側も今回はさほど気を入れてはいなかったようだ。下手に手負いの獣の気を荒立てても仕方あるまい」
「分かりました。追撃艦隊の編成と艦隊の被害をすぐにまとめさせます」

 

 頬杖を突き、こめかみのあたりを人差し指で叩いていたマイヤーが、ぽつりと呟いた。

 

「今頃はザフト、そしてオーブ諸島も囲まれているだろう。ビアンがいれば問題あるまいが、どうなるかな?」

 

 マイヤーの言葉通り、宇宙での戦闘に遅れて数日後、DCと地上ザフトの部隊は地球連合の部隊と砲火を交える事となるのだった。

 
 

――つづく。

 
 

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