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SRW-SEED_660氏_ディバインSEED DESTINY_第24話

Last-modified: 2009-12-26 (土) 14:57:48
 

ディバインSEED DESTINY
第二十四話 翼の無い天使

 

「W16で良かったのか?」

 

 部屋に入っていきなりの言葉に、椅子に腰かけていた女性は感情の薄い笑みを浮かべた。
 身に纏っているのは、およそ軍人とは思えぬ大胆に太ももの付け根までスリットが入り、豊かな乳房の上半分と谷間の覗く、扇情的な衣服である。
 軍関係者というよりも、世界中の男共を指先一つ、妖しい瞳の一瞥で操る魔性の女という方が彼女と初対面を果たした人間は納得がゆく事だろう。
 無色の霧の如く纏う退廃的でどこか憂鬱な雰囲気が女性の美貌とあいまって、どこか浮世離れした印象を見る者に与える。質問を投げかけた壮年の男にとっては見慣れたもので、さしたる感銘も受けぬようではあったが。
 薄い桃の色合いのウェーブしている髪を掻き上げる仕草と共に、女性――レモン・ブロウニングは椅子を回転させて、背後に立っていたヴィンデル・マウザーと向き合う。
 ヴィンデルは巨大な岸壁を風雪が長い時間をかけて削ったような威圧的な顔立ちに、常に襲い掛かる苦行に耐えている高潔な人物を思わせる表情を浮かべている。
 実際、ヴィンデルは常に自分達の血と死と破壊を伴侶とする理想の実現に向けて、思考を巡らしているから、あながち間違いとは言い切れないだろう。
 世俗の救済を望む僧と混沌の先の秩序を望むヴィンデルとでは、同列に扱う事はとてもではないが出来ないにせよ。
 レモンはヴィンデルがレモンの美貌を見慣れているのと同じように、ヴィンデルの雰囲気に馴染み、性格を知悉しているから余計な言葉ではぐらかす事はせずに、ヴィンデルに答えを返した。

 

「大丈夫よ。あの子もちゃんと潜入工作のエキスパートよ。ウチの中でも任務成功率はトップクラス、それは貴女も知っているでしょ?」
「だが、アクセルがいなくともW17の方がW16よりも任務達成率は高い筈だ。なぜ奴を選ばなかった?」
「試す様な物の言い方は貴方の悪い癖よ。理由ね、そうね、まずこのコズミック・イラという世界は、明らかにこの世界のものではない異物が無数に混入されているわ。私達の様に自力で来たかどうかは別にしてね。
 そして、異物は高度な技術レベルを持った存在である事、彼らの存在によってこの世界の技術レベルが劇的に上がっているのは知っているわよね。その中に私達が所有しているのと酷似したものもあるわ」
「DCのランドグリーズとエルアインス、それにオーブのゲシュペンストとベーオウルフ、ゲシュペンストMk−犬」
「ええ。ひょっとしたら私達と同じ世界の人間か、極めて似た世界の人間がいるかもしれないわね。だとすると私達の存在が知られている可能性も大いにあり得るわ。
そんな危険な所に潜入させられる能力があり、万が一失っても補填が効くとなると、W17よりもW16の方が適任と判断したからよ。もちろん、W16が上手くやってくれると確信しているけれどね」
「楽観的なものの見方は感心せんが」
「そこは私の技術を信じて欲しい所ね。それに、DCに居ると言うアクセルらしき人物との接触は絶対に行わないとならないでしょ? 必要とあればあの人も切り捨てるのが貴方だけど、頼りにしているのもホントの事ですものね」
「奴にしては行動が妙だがな。DCの懐に飛び込んでいながら何も行動を起こしていない。奴になにか問題があったと考えるべきだろう」
「道は遠く険しく、茨に覆われているみたいね」

 

 くすりと無責任だが魅惑的な笑みを一つ零し、レモンは陶磁器の様に滑らかな肌を露出している両肩を竦める。世の多くの男達を魅了する笑みではあったが、それが通じぬ対象の一人がヴィンデルであった。
 への字に固定した唇と吊り上がり気味の眉尻は不動のまま、ヴィンデルは岩と岩が軋る様な声で喋る。聞く者の背筋に鋼の芯を通す人の上に立つ者に相応しい声であった。

 

「それでも行くと決めた道だ。二度目の失敗を犯すつもりはない」
「頼もしいわね、司令官さん」
「ふん」

 

 顔面の筋肉の一筋もピクリとさえ動かぬヴィンデルに、レモンはからかって笑いかけるばかりだった。

 

 

 レモンとヴィンデルの話題に挙げられていたW16ことエキドナ・イーサッキは、自己紹介とDCの新型機動兵器のお披露目その他を終えた後、格納庫で解散となって散ってゆくメンバーの中の、赤毛の男を呼びとめた。
 周囲に人影が無い事を確認してはいるが、念の為か、声はひどく小さい。薄すぎず厚過ぎない肉の乗った唇の色艶と張り、それだけでもエキドナを創造したレモンは造詣の神に愛されていると分かる。

 

「アクセル隊長」
「おんや、早速お声掛けかい? でも残念、おれは隊長じゃないんだぜ、エキドナちゃん」

 

 鉄の硬さと氷の冷たさを纏う美仮面然とした無表情のエキドナに、アクセルは悪戯っぽくウィンクを一つしたが、宙を飛んできたハートが白い頬に当たっても、エキドナは人工筋線維の一筋を動かす事もしなかった。

 

「我々の他に人はおりませんが、そこまで徹底されるのは流石です。これを」
「ん? データディスクか。なんかお薦めのバラエティかミュージックでも入ってんのかい?」
「必ずソウルゲインの中で内容をお確かめ下さい。それでは」
「……」

 

 アクセルの質問には答えず踵を翻すエキドナの背を、アクセルはしばし見つめたが、右手の指先に摘まんだデータディスクへと視線は移された。エキドナの言動はどう考えても、アクセルの失われた素性を知った上でのもの。

 

――おれの無くした記憶を知っている、か。

 

 嘆息しつつアクセルは思考を巡らせる。エイプリルフールクライシス、ディバインウォーズと世界規模の混乱期が続いていたとはいえ、DCの最前線にこうも容易く侵入し、そうしてまで接触を求めてくるとなると。

 

「おれってば、意外に大物らしいな。しかも、相当にやばい組織の、な。参ったぜ、昔のおれはなにして暮らしていたんだか」

 

 未だ知らぬ過去の自分に対し、アクセルは自分自身の中に正体不明の厄介者を抱えた事を噛み締めて、我知らず頬肉を歪ませたが、その中に諦めの成分はわずかも混入していない。
 その事が、この一見軽薄そうな男の精神的なタフネスさをよく表していた。
 顎に手を添えたなかなか様になるポーズでディスクを見つめていたアクセルは、ふとある事を思い出して溜息を吐いた。

 

「ソウルゲインで再生しろとは言うが、確か壊れたまんま何なんだよなあ、メディア関係」

 

 機体のメイン駆動系や機関系に大きな損傷はなく、ソウルゲインの持つ自己修復機能によって、大部分の機能は完全な状態を取り戻してはいたが、まだ内部の機器に不具合が残っている。
 整備士に告げられたその事実を思い出し、まだ当面は内容の確認ができそうにないデータディスクに向けて、アクセルはこいつめ、どうしてくれようか、とやや八つ当たり気味の言葉をぶつけるのだった。

 

 

 大西洋連合を中心に若干名のユーラシア連邦、東アジア共和国からなる地球連合の第二次オーブ解放作戦従事艦隊に対する警戒の密度は、日々、いや一刻を重ねるごとに増している。
 南アメリカ共和国の《地獄の戦士》ローレンス・シュミットと、《切り裂きエド》ことエドワード・ハレルソン、《白鯨》ジェーン・ヒューストンらが直々に軍を動かし、北アメリカの国境沿いに部隊を展開している。
 その部隊への警戒を怠るわけにも行かず、大西洋連邦の北アメリカ大陸の軍が全て動いているわけではない。
 明るい情報と言ったらそれ位で、前回の作戦で大きな勝因となった重力アンカーも、二度目は通用しないだろうし、互いの運用する機体の性能差もグンと縮まっている。
 DC側の戦力の充実ぶりは前大戦時とは比べ物にはならないが、それ位は地球連合側も想定済みである。当然対応できるだけの戦力か特殊な兵器の一つ二つでも用意しているだろう。
 本土に敵群を近づければその時点で王手となるDC側の兵士達の緊迫感は、薄氷の上を行く不遇の旅人のそれよりも厳しいものであった。
 DC最精鋭の第一特殊任務部隊クライ・ウルブズの面子も新型機動兵器の受け取りとレクチャーと骨休めが終了次第、早速仕事に駆り出されていて、バラック・ジニン大尉を小隊長とする小隊が、偵察任務に着いていた。
 他にもデンゼル・ハマー大尉が率いる小隊が同任務に着き、アルベロ・エスト少佐は母艦タマハガネにて待機している。
 そして、ジニン率いる偵察小隊は、太陽が真上に登った時刻、海上を行く鋼の巨人の一団となっていた。
 先頭を行くのは、背部の改良型擬似太陽炉からオレンジ色のGN粒子を放出し、青い海面に異なる彩りを添えているジニンのアヘッドである。
 内部パーツの刷新とオーバーホールによって、総合的に十数パーセントほど性能が向上したアヘッドの腰部には、超長距離行動用のブースターと大容量GNコンデンサー、細長い円筒形のプロペラントタンクが装着されている。
 装備もGNビームライフルからGNオクスタンサブマシンガンに変えている。従来のオクスタン同様、実弾・ビーム弾を選択出来る装備で、さらに実弾にGN粒子をコーティングし攻撃力を増す事も出来る。
 解析が完了し、DC独自の改造すら施された擬似太陽炉の電力変換効率も増し、オレンジ色のGN粒子の生産量もまた右肩上がりで増えている。
 兵器開発部門が新たに機動兵器に導入したバイオコンピューターも装備し、機体のパイロットへの追従性も増して、新型リニアシートやアームレイカーという円球形操縦桿などの装備も頼もしく感じる。
 異世界とはいえDCの保有する数多の技術に、小隊長を務めるジニンは小さくない感嘆の念を抱いていた。
 ソレスタルビーイングの二個付きガンダムの性能は凄まじいものがあったが、いま搭乗しているカスタムアヘッドなら、そう容易く敗れる様な事はないだろう。
 機体性能を三倍化させるトランザムを使われたら、流石に埋めようのない性能差となるが、通常の状態でならパイロットの腕次第で互角以上に戦えるかもしれない。
 そこまで考えながら、ジニンは背後に映る小隊員の乗っている機体を愉快ならざる暗い感情を込めた瞳で見つめた。
 今回、ジニンが預かっているのは刹那・F・セイエイの乗るサキガケ・セブンソード、ロックオン・ストラトスの乗るアヘッドスナイパーカスタム・フルシールド、それにティエリア・アーデの乗るガンダムヴァーチェの三機である。
 そこはかとない悪意の霧が漂っている様な気がしたのも、無理はないだろう。
 民間協力者であるロックオンと刹那は、素性の不明瞭な点があって完全に信を置く事の出来ない相手であったし、ティエリアなど乗っている機体が、ソレスタルビーイングの使っていたガンダムそのままときている。
 ジニンが生まれ、育ち、そして死んだ元の世界で、世界を三分割していた三大国のみならず、あらゆる紛争へ武力介入を行い、理念の翼を広げて幾千、幾万もの人々に不幸の影を落とした忌むべきソレスタルビーイング。
 その実行部隊であったガンダムの一機が、ガンダムヴァーチェだ。ティエリアとその背後にある組織に対する不信と疑念は、ジニンのみならずDC側の首脳部にも存在しているのは間違いない。
 いずれ尻尾を出すまで懐の内で飼うつもりなのだろうが、それでもジニンとしては、かつての仲間を殺したガンダムと戦場を共にする事は、気持のよいものではなかった。
 ジニンの軍人としての部分はそれを割り切れと囁いていて、取りあえずの所、ジニンは自分の内側の声に従っている。
 定期報告時刻になり、タマハガネに連絡を入れようとしたジニンは、偵察装備の一つであるヘッドマウントディスプレイ型の高感度センサーが捉えた反応に気づき、望遠カメラの倍率を最大に上げて感知方向に向ける。
 MSや戦闘機というには大きな機影と反応だ。周囲にはジェットストライカーやノワールストライカーを装備したウィンダムが六機、護衛に着いている。黒塗りの巨大な機影は地球連合で採用されているMS輸送機だ。
 内部に横に寝かせたMSを二機まで搭載でき、無補給で地球を一周半できる航続距離を誇る。しかし、艦隊への補給や物資の輸送というには奇妙なタイミングであった。
 たった一機の輸送機で運べる物資の量はたかが知れているし、MSの一機や二機でどうにかできる規模の戦いではないだろう。

 

「いや、DCの例もあるか」

 

 たった一機、二機の機動兵器が戦局を大きく変える戦闘能力を有している例は、皮肉と言うべきか、ジニンが席を預けているDCにいくつか存在している。
 最悪、ジニンの想像通りのとてつもない性能の機体が運ばれているなら、動いていない今の内に破壊するなり鹵獲するなりした方が吉だろう。

 

「セイエイ、ストラトス、アーデ、あの輸送機を捕縛する。ストラトス、輸送機の足を止められるか?」
「加減が難しいが、善処するさ」

 

 言葉とは裏腹に自信に満ちたロックオンの返事だ。信用が置ききれないのは事実だが、その実力に関しては、精鋭部隊アロウズに所属していたジニンの厳しい目をしても、認めるに足るものである。
 輸送機の周囲を固めていたウィンダムの数機がこちらに気づき、機首を振り向かせる動きを見せ、即座にロックオンがオクスタンスナイパーライフルの照準を向ける。
 左右の肩に装備されているフルシールドと、狙撃中の機体制御及び回避運動を相棒のオレンジハロに任せ、ロックオンはコックピット上部から競り出してきた専用スコープの向うの輸送機へと、引き金を引き絞る。
 かつてはロックオンの大敵として戦った擬似太陽炉の生むエネルギーは、赤色の光の粒子ビームとなって、高速で逃げ出そうとしていた輸送機の左主翼を撃ち抜いた。
 光の速さの粒子を遮るものは大気と輸送機の装甲だけで、それでは到底圧縮されたGN粒子の光の槍は防ぎえない。
 青空に光条から零垂れた粒子が赤い飛沫となって輝いて散り、燃料を満載していた左主翼は大きく爆発を起こして真っ黒い煙を噴き上げる。

 

「って、おいおい、やりすぎちまったか?」

 

 ロックオンの予想を越える被害を与えてしまったが、幸いなことに輸送機の操縦士は最後まで諦めぬ精神力と、確かな操縦技術を持ち合わせていたらしい。
 ふらふらと左右に頼りなく揺れる輸送機は、果てしなく広がる青い海洋の中に、砂粒の用にぽつんと浮かんでいた小島に落着した。海辺に胴体着陸して分厚い装甲を歪ませる音をたてながらようやく止まる。

 

「ロックオン、ヤリスギ、ヤリスギ!」
「言うなよ。輸送機は無事なんだぜ。あれなら中身も大丈夫さ」

 

 眼にあたるLEDを点滅させながら抗議するハロに、ロックオンは左目でウィンクして言い訳をした。操縦士の方はどうか分からないが、輸送機の方は空こそ飛べなくなったものの、爆発を起こす様な様子は見られない。
 護衛対象をあっさりと撃墜されてしまった哀れなウィンダムの残りを始末してから、輸送機の中身を引きずり出す位の時間は十分にあるだろう。

 

「さて、次の相手を狙い撃つぞ、ハロ」

 

 ノワールストライカー翼部に内蔵されているリニアガンの発射光を、ロックオンの右眼窩に収められた義眼は左目よりも、精密に、そして確実に捉え、伝えられた情報に、ロックオンは操縦桿を素早く傾ける。
 超音速の雷光色の弾丸を、下に垂直に沈み込んで回避したアヘッドSCの構えたオクスタンスナイパーライフルから、連射モードのGN粒子ビームが連続して放たれる。
 最初の一発を機体前面に掲げたABC(アンチビームコーティング)シールドで防いだウィンダムだが、立て続けの着弾に盾を支える左腕が徐々に衝撃に揺さぶられだす。
 半径一メートル以内に集弾したビームの四射目によって左腕を大きく弾かれて、ガラ空きになった胴を、五射目のビームに貫かれたウィンダムは、がくんと力無くうなだれてから数秒の間を置いて爆散する。
 無数の破片と推進剤などが混じり合った混合ガスの花弁と変わったウィンダムを視界の端に映し、ロックオンは次の敵を探し求める。
 生身の左目も、人造の右目にも、どちらにも宿っていたのは、次なる獲物を求める冷徹な狙撃者の眼光であった。
 狙撃者が引き金を引けば確実に人が死ぬ。その事を骨身に刻み、罪悪の意識を確かに感じながら、引き金を引く事を躊躇わなくなってしまった人間の――殺人者の眼光。
 ジェットストライカーの生み出す莫大な推力とテスラ・ドライヴの慣性制御機能は、ジェットウィンダムに速さと、ジェットヘリよりも小さい旋回半径を与えている。
 早くも一機を失い、五機に減らされたウィンダム達は、ランダムな回避機動を取りながら距離を維持し、ロングレンジからの射撃戦に徹する動きを見せた。
 彼らの任務の目的が輸送機の護衛である以上、無理に前に出ようとしない選択肢は当然のものであったろう。
 輸送機を背後に守り、プラズマジェネレーターから供給されるエネルギーを矢に変えたビームが、次々と刹那達へと放たれる。
 刹那の乗るサキガケ7Sは、ロックオンの支援射撃と、派手な一撃で敵の目を奪う役割を負ったヴァーチェの大火力砲撃の合間を縫い、爆発的な推進力で一挙に敵機との距離を詰める。
 ヴァーチェが胸前面に構えたGNバズーカの砲口が上下にスライドし、収納されていた砲身が前方へと展開する。
 足を止めたヴァーチェへ緑色のビームが幾筋か放たれるが、同時に展開されているGNフィールドによって阻まれ、球形の表面に沿って無数の粒子へと散ってゆく。
 ヴァーチェを震わせる振動を感じながら、ティエリアは無駄な事を、と優位に立つ者の傲慢さを心中に滲ませながら、ウィンダムのパイロット達の行動を徒労と切りすてる。

 

「GNバズーカ、バーストモード」

 

 ティエリアの声は、断頭台の死刑囚に向ける執行者の声音に似て冷たく厳しい。GNバズーカの砲身に生じた小さな太陽を思わせる強烈な輝きは、そのままヴァーチェの五倍はある奔流となって溢れだした。
 ランチャーストライカーやガナーウィザードらの装備が慎ましく見える大火力は、グルンガストタイプのファイナルビームにも匹敵するか、あるいは凌駕しているかもしれない。
 当てる事を目的とした砲撃ではなかったから、ノワールウィンダムやジェットウィンダムに消滅させられた機体は出なかった。だが続く連続攻撃の牙の内に、彼らの数機は飛びこまざるを得なかった。

 

「消えてもらおう」

 

 氷と雪の国の女王が白い世界に相応しい心で鳴らした鈴の音――美しく凛と響くも、聞く者の心に霜を降ろして体を冷たさに震わせる。そんなティエリアの声であった。
 ヴァーチェの両肩に装備されているGNキャノンの、二門ずつ計四門の砲身が、それぞれ広い角度を取る様に瞬時に調整されて、上下左右に難を逃れたウィンダム達へと新たなGN粒子の死を放つ。
 一門の砲口から複数のビームが放たれて、一機のウィンダムの頭部、右腕部、そしてコックピットのある胸部をまとめて貫き、海面に叩きつけられるよりも早く空中で黒い煙を四方に撒きながら爆発する。
 ティエリアがちら、と目をやれば、ジニンはGNオクスタンSMGの猛射で二機のウィンダムを牽制しつつ、強化されたアヘッドの推進力でもって一気に懐に飛び込み、肩口からGNビームサーベルを抜きざま叩きつける。
 鋭い刃で敵の脳天を斬ると言うよりも、重い鉈で頭蓋を叩き割る動作に見えた。脳漿の代わりに、細かな電子機器の部品とひしゃげた装甲とバイザーの破片をまき散らすウィンダムを蹴り飛ばす。
 ビームサーベルを抜く反動を利用し、ジニンは背後から斬り掛かってきたノワールウィンダムの振り上げた実体剣フラガラッハを受け止める。
 実体剣とビームサーベルなら、膨大な熱量を持つビームサーベルの方が基本的に有利だ。ラミネート装甲やABC済みでもない限り、数秒と持たず実体剣の刀身が融解して折れるか焼き斬られるかするのだ。
 拮抗する両者の刃がじりじりと重なり合っている間に、右遠方からのロックオンの狙い澄ました一撃がノワールウィンダムの頭部を焼失させ、ふっとフラガラッハから力が抜けるのを逃さずに、ジニンはアヘッドを動かしていた。
 無防備にさらけ出されたノワールウィンダムの機体の、胸部にビームサーベルを突き込み、ノワールストライカーを貫いて背の先にビームサーベルの切っ先が出てくるのを視認してからサーベルをオフにする。
 ジニンは、オクスタンスナイパーライフルの銃口をおろしてこちらを見つめているロックオンのアヘッドSCを一瞥した。精密な狙撃を得意とする腕っこきの狙撃手が味方に居る事を頼もしく感じたのは事実だった。
 残りのウィンダムはどうなったか、とすぐさまモニターに映し出されている戦況データに素早く目を走らせると、五機目のウィンダムを刹那が両手で構えたGNドウタヌキの右袈裟斬りで、ウィンダムを両断する所だった。
 残る最後の六機のジェットウィンダムは砲撃戦用機と見てとったヴァーチェへ牽制のビームライフルを放ちながら、左手にビームサーベルを抜いていたが、彼我の距離が三百メートルまで迫った所であえなく散った。
 機体胸部前方に構えたGNバズーカと両肩のGNキャノンの集中砲火を浴びせられれば、原形を留めた残骸など残りもせず、ジェットウィンダムはパイロットの肉片一つ残す事も出来ずに爆発した。
 小隊としての連携はさほど優れたものではないが、個々の実力がその拙劣な面をカバーして余りあるだけのものはある。それには、使っている機体の性能に依る所が大きいのもまた事実の一つであった。
 タマハガネと付近の友軍に当てて今回の遭遇戦について連絡を入れつつ、ジニンが新たに指示を下す。

 

「ストラトス、セイエイ、輸送機の内部を確認してこい。アーデとおれが周囲の警戒に当たる」
「了ー解、それじゃ行こうか、刹那」
「了解」

 

 ゆっくりと海岸に落着している輸送機めがけて、刹那のサキガケ7SとロックオンのアヘッドSCが降下してゆく。
 DCの軍人ではない二人に輸送機のチェックを命じたのは、もし内部で銃撃戦などになっても、負傷するのは自軍の兵士ではないという考えが、ジニンの思考の片隅に存在していたからかもしれない。
 また、あの二人の性格からして虚偽の報告をするような人物ではない、とジニンが評価していたのも事実だ。完全に納得はしていないが、ビアンから刹那とロックオンの身元の確かさは保証されてもいた。
 ロックオン達が機体を降りて輸送機へと歩み寄るのを見てから、ジニンは偵察装備の高感度レーダーとEセンサーの効果範囲を最大に引き上げた。
 ティエリアはジニンの指示に何の応答も返しはしなかったが、了承していたようで、油断なくヴァーチェにGNバズーカを構えさせながら周囲を警戒する様子を見せている。
 一応、理不尽な命令であったり非効率的な指示でなければ、ティエリアはそれに従う姿勢を見せている。
 パイロットスーツのまま、銃とハロを抱えた二人が輸送機のハッチを開き、中へと足を踏み入れて行く。
 ロックオンがハロを持っていったのは、小型携帯端末としてのハロの優れた情報処理能力が役に立つと判断したからだろう。
 リファインモデルのM4カービンを両手に構えた刹那に続き、Cz75を右手に携えたロックオンが続く。
 曲がり角から顔を覗かせていた刹那が、こちらを振り向いて頷くのを確認し、ロックオンも頷き返して先へと進む。
 落着の衝撃を受けても内部の電源は無事だったようで、天井に設えられたライトは煌々と照っている。硬い床が音を立てぬよう慎重に歩を進める二人は、しばらくは輸送機の搭乗員と顔を合わせる事は無かった。
 運んでいたのがMSなら、メカニックかパイロットあたりが同乗しているかもしれないが、片翼を失った状態での胴体着陸の衝撃は相当なものであったろうから、中の人間が全員気を失うなりしてくれていると楽なのだが。
 壁際の端末にハロを接続して、輸送機の状態を確認させる。積荷はMSだ。異なる機種のものを二機。どちらもDCのデータバンクには登録されていない新型である。

 

「こりゃ大当たりかもしれないな」
「ロック解除、ロック解除」
「よおし、よくやった、ハロ」

 

 端末とハロを繋いでいたコードを戻し、ロックオンはハロのつるりとした表面を撫でて報う。数歩先に居た刹那がロックオンとハロを振り返る。

 

「ロックオン、どうする?」
「MSに乗り込まれて暴れられちゃかなわん。向こうさんも積み荷を渡すまいと動くだろうしな。まずは格納庫だ」
「ああ」

 

 眉一筋動かさず、首だけ縦に振って肯定し、刹那は再び歩を進めた。周囲に人の気配はなく、ハロの方でも特に感知した様子はない。
 自動で開いたドアの先に敵が待ち構えていないか慎重に確認し、さらに一歩を踏み出そうとした時、外の気配がにわかに騒がしくなった。

 

「なんだ?」
「敵機接近、敵機接近!!」

 

 ハロがぱたぱたとまん丸い体の上にあるこれまた丸い蓋を、ぱたぱたと動かして警戒の声を出す。輸送機と護衛部隊の危難を察知した地球連合の部隊であろう。
 ハロが敵の接近に気づくのに先んじて、アヘッドのEセンサーが高速で接近する機影群を捉えていた。速度と大きさからしてMSではなく戦闘機か、あるいは可変機だろう。
 数はさほどではない。ついさきほど撃墜したばかりのウィンダムと同じ六機編成、二個小隊ほどだ。輸送機の発した救難信号をキャッチして急行してきたのだろう。
 有視界距離に入った敵機の姿に、かすかにジニンの石の硬さの眉間に皺が刻まれる。
 人間を模したスタイリッシュな四肢のウィンダムとは違い、頼りない位にひょろりと長い手足、アンチビームコーティングによって黒く塗装された装甲、顔面をカバーするオレンジのマスク。
 今は戦闘機形態へと変形したその機体は、大西洋連邦の最新鋭主力量産機フラッグ。
 通常薄い紫紺色の塗装が成されるフラッグと異ならカラーリングは、それらの機体が精鋭部隊用に特別にチューンされたカスタムタイプの通称オーバーフラッグである事を証明している。
 フラッグは順調に配備が進んでいるが、上位機種のオーバーフラッグの数はまだ少ない筈だ。そのオーバーフラッグを任される精鋭が、よもや姿を見せるとは、ジニンの予想の範囲には入っていない事態である。

 

「セイエイ、ストラトス、機体に戻れ。新しい敵が来た」

 

 二人の返事を待たず、ジニンは戦闘のオーバーフラッグめがけてGNオクスタンSMGのトリガーを引く。特に狙いを着けずに撃った散弾的な射撃だ。接近までの時間をわずかでも稼ぐためのものである。
 毎分七〇〇発の連射能力を、トリガーを引きっぱなしにして最大限に活かしてジニンのアヘッドは足を止めずに赤色の雨をオーバーフラッグ隊へと叩きつける。
 一発二発は当たるかと思われた弾丸は、先頭のオーバーフラッグがひらりとかわすのに合わせて散開し、どのオーバーフラッグに命中する事もなかった。機体に相応しい力量の持ち主たちなのだろう。

 

「アーデ!」
「言われなくても」

 

 短縮したチャージでGNバズーカを即座に発射し、肩のGNキャノンの目標も各個べつべつに四機分捉えた。熟連のMSパイロットでもこうはいかぬ、神業的な補足速度である。
 イノベイターとして想像されたティエリアの人間の限界値か同等以上に設定された身体能力と、復活したデュナミスとのリンクが、彼に極めて高いパイロット能力を齎していた。
 空と海の一角を照らし出すピンク色の膨大なGN粒子の光の先にオーバーフラッグは、またも隊長の合図で五機が周囲に散り、直撃を避けて見せる。ひらりひらりと蝶のように華麗に舞う姿に、ティエリアは苛立ちを禁じ得ない。

 

「ただの人間がこうも動いて見せるのか」

 

 すぐさまGNバズーカの砲口を調整し、今度こそと必殺を狙うティエリア。同じようにジニンもまた軽快な動きを見せるオーバーフラッグに対応すべく、目まぐるしくレーダーとモニターに映るオーバーフラッグを視線で追う。
 輸送機からはまだ刹那とロックオンが戻ってきてはおらず、隣に鎮座しているアイドリング中のアヘッド二機に期待するわけにはいかない。
 オーバーフラッグ隊が連続して撃ちかけてくるビームライフルをかわし、かわし切れぬ分は左手のGNシールドで受けつつ、ジニンは自軍の救援が来るまで持つか、あくまで冷静にカウントしていた。
 一機のオーバーフラッグがMS形態へと変形しながら、肩からビームサーベルを抜き放ち、大上段に叩きつけてくる。ジニンは素晴らしい反射速度で左腕を掲げ、刃状のビームを真紅の光の盾で受ける。
 受けた一瞬の衝撃を利用して後方へと機体を大きく下げさせ、同時にGNオクスタンSMGの照準内に捉えるが、相手もさる者でジニンの指が引き金を引き斬るよりも早く動いて見せていた。
 オーバーフラッグが下方に滑らかに動くや、左腕のビームライフルで牽制の射撃を加えて来たのである。サーベルとシールドの衝突の反発を利用したのはジニンばかりではなかったということだ。
 オーバーフラッグとアヘッドの間を幾つもの大小長短さまざまなビームが繋ぐが、どちらの弾丸も互いの機体に触れる事は無かった。
 二十四世紀の世界でならば、アヘッドとオーバーフラッグとの間には埋めがたい性能差が存在するのだが、このコズミック・イラの世界ではそこまでの差は存在していない。
 卓越した技量を見せつけるオーバーフラッグのパイロットが指示したのか、他の機体からの横槍は今のところなく、ジニンは目の前の敵に集中できたが、それはティエリアに敵の攻撃が集中していると言う事だ。
 苦境に立たされたかと口内に苦汁を滲ませたジニンに対し、オーバーフラッグのパイロットは、互角の戦いを演じるジニンの力量にかすかに喜悦の笑みを浮かべていた。
 まだ二十代なかばほどであろう青年実業家の様な、癖のある金髪の青年である。いまにもらんと輝きだしそうな瞳は、高ぶった戦闘意欲の炎に揺れている。
 前大戦で大きくその武勇を馳せた大西洋連邦のエースパイロット、グラハム・エーカー大尉である。

 

「友軍の危機に駆けつけてみれば、これは思わぬ強敵。落ちた同胞の仇、このグラハム・エーカーが討たせてもらおう!」

 

 グラハムのオーバーフラッグの放った一撃が、ジニンのアヘッドの左肩装甲を抉り、アヘッドの放った銃弾の雨が、オーバーフラッグのディフェンスロッドを強かに打つ。
 経験、戦闘技術、士気、機体性能、それらを統合すれば両者の戦闘能力はほぼ互角といえた。気炎を吐くグラハムの猛攻に、ジニンはこめかみを伝う汗の冷たさを感じながら凌ぐ。
 ただ、“ほぼ”互角という事は、完全に互角という事ではない。ジニンよりもグラハムの方が上を行くようだった。

 

 

 ジニンとティエリアがグラハム率いるオーバーフラッグ隊と戦闘を繰り広げている頃、すでに刹那達は輸送機の格納庫へ到達していた。
 途中、落下の衝撃で崩れた荷物の下敷きになった整備士や、頭から血を流している輸送機のクルーの倒れ伏した姿があった。
 もともと搭乗員が少なかったうえに、落下の衝撃で大半が意識を失うか死亡してしまったようだ。死者へ憐憫の情が湧かないではないが、敵対者である以上は幸運というべきなのだろう。
 さしたる妨害もなく順調に格納庫に辿りつけた事は幸運だったが、外の敵に対応する為にアヘッドの下へ戻るのには時間がかかる距離まで来てしまってもいた。
 動かせるか保証のない大西洋連邦の新型を奪うよりも、自分達の機体の下へ戻るべきかと思考の迷路に入ろうとしたロックオンの目の前で、流れ弾か狙い澄ました一撃か、二人のアヘッドにビームが着弾してしまう。
 輸送機の壁際にある窓の向こうで、頭部や肩の辺りにオーバーフラッグのビームを受けたサキガケとアヘッドSCが融解した装甲の破片と、黒煙を噴きだしながら大きく傾いで浅瀬に倒れ伏す。

 

「くそ、あれじゃまともに戦えやしねえ」
「なら、この機体で戦うしかないだろう」
「ぶっつけ本番か。ハロ、起動コードの解析とシステムの掌握は任せるぞ。刹那、お前は大丈夫か?」
「手順は頭に叩き込んである。Dコンも持って来ている」

 

 そう言って刹那は左手に持った携帯端末をロックオンに見せてから、格納庫に横たわる機体の内、手前にあったものへと走り寄る。
 刹那の野良猫みたいに身軽な動きに感心しながら、ロックオンも奥の機体へと駆け寄って、コックピットの位置を適当に検討をつけてよじ登り始める。
 刹那が駆け寄った機体は胴や両肩を青に、四肢と頭部は白に塗装していて、ロックオンの方は青い箇所をモスグリーンに変えたカラーリングの機体であった。
 ロックオンはその機体を横から眺めていた時からもしや、とは思っていたが、胸部の上に立ち機体の頭部や全体をかろうじて見える位置までくると、一瞬、息をとめてから、はは、と小さな笑い声を挙げた。
 くしゃ、と音を立てて茶の髪に右手の指を差しこみ、そのまま数度頭を掻いた。

 

「ロックオン? ロックオン?」
「ああ、なんでもないさ。そうさ、なんでもねえよ」

 

 心配そうに見えるハロに、ロックオンは誤魔化す様な声で応え、その機体のコックピットハッチを開いて、その中へと体を躍らせた。
 パイロットの居住性を考慮して広くスペースの取られているDCのものとくらべて、狭小なコックピットであった。細かな違いはあったが、そこはロックオンにとって見慣れた場所だった。
 ただ、シートに座したロックオンから見て右前部にあった、ハロを収める為のスペースが無い。しかたなく膝の上にハロを置き、コンソールとハロをコードで繋ぎながら、機体の立ち上げ作業を進める。
 かつて、ザフトのクルーゼ隊が資源衛星ヘリオポリスから地球連合のGを強奪した時、今次大戦、アーモリーワンからザフトのセカンドステージのG三機が強奪された時よりも早く、ハロは機体の掌握を終えていた。
 パイロットの認証セキュリティのひとつであるバイオメトリクス(生体認証)がまだ未登録であった事は僥倖といえた。連合が本来予定していたパイロットに代わり、ロックオンがその機体の正規パイロットとして登録される。

 

「まったく、こっちでもお前さんに乗る事になるとはねえ。どこのだれが作ったんだかは分からないが、今度は壊さないようにうまく使って見せるからさ、よろしく頼むぜ、相棒」

 

 稼働し始めた擬似太陽炉がGN粒子を機体全体に供給し、ロックオンが懐かしげに声をかけるその機体――ガンダムデュナメスは、静寂の眠りから目を覚ました。
 ロックオンが運命の皮肉を感じさせるかつての愛機との再会に、苦笑未満の表情を浮かべている頃、やや遅れて刹那もまたコックピットに座して機体の掌握を終える所であった。
 シートの傾斜と位置を調整し、栄養不足で成長不良の小柄な体格に合わせる。刹那のヘルメットの奥の顔はいつもと変わらぬ無表情であったが、その体の中では熱い血潮が心臓から全身へと送り出されていた。
 身を預けている機体を見たとき、刹那は電撃に撃たれたように体を震わせた。この機体を目に映した時、刹那の脳裏に鮮明に描き出されたのは、かつて戦場で刹那を救ったMS――ガンダムだった。
 刹那がかつて目撃した0ガンダムと、いま身を預けている機体は似ても似つかぬものではあったが、信仰と憧憬とが混ざり合った想いを向ける0ガンダムを確かに想起した。
 この機体の何が刹那の心にそのような化学変化を起こさせたのかは分からない。だが、
 刹那は根拠のない直感で確信していた。神からの宣託を受けた預言者に似た心であったかもしれない。
 刹那の乗り込んだ機体のツインアイに光が灯り、緑の輝きが輸送機の天井をかすかに照らし出し、機体の背にある円錐状の物体から、夕陽色の粒子が溢れ始める。
 格納庫の中で乱舞する粒子は、二機のガンダムを煌々と照らしだし暖かな色合いに染め上げる。それはまるで、機体に血が通い出し、装甲という名の皮膚が色づき始めたかの様だ。
 素早くコンソールを操作し、操縦系統の確認と、機体の名称を確認する。マティアスに拾われた頃に、地球連合・ザフト・DCいずれの勢力の機体でも、問題なく扱えるよう訓練を受けていた。

 

「操縦に問題はない」

 

 フットペダルを踏み込み、操縦桿をゆっくりと動かして機体の動作の確認を取る。刹那は静かな興奮を胸中に抑え込みながら、心と口の両方で呟く。

 

――おれの、ガンダム
――おれがガンダムになる為に
――おれは、おれが!!

 

「エクシア、おれのガンダム。……おれの、ガンダム!!」

 

 ガンダムエクシア。それが、刹那が手にした運命の名前。

 

「刹那、ティエリア達が苦戦している。すぐに外に出て援護するぞ」
「分かった。エクシアで天井を切り開く」
「エクシア、か。やっぱりな」

 

 デュナメスと同じように、横に寝かされていた時のシルエットからもしやとは思っていたが、刹那の選んだ機体がエクシアとは。これでアレルヤとキュリオスがいたら、かつてのガンダムマイスターが勢揃いではないか。
 ロックオンが感傷に浸っている間に、刹那は仰向けのままのエクシアの右腕に装備されていたGNソードを展開し、GN粒子によってコーティングされ、切断力を増した銀刃を閃かせる。
 きん! と硬いものを切り裂く甲高い音とともに輸送機の天井に黒い線が走り、そこから外の光が差し込み始める。
 切り裂いた天井が落ちて来るよりも早く、デュナメスの肢がそれを蹴り飛ばし、外に溢れる陽光が雪崩のように格納庫を満たし、天使の名を冠した二機のガンダムを祝福する様に照らし出す。

 

「ガンダムエクシア、刹那・F・セイエイ、目標を駆逐する」

 

 それはこれからの長い戦いの中で、刹那が幾度となく口にする言葉であった。

 
 
 

ロックオン・ストラトスがガンダムデュナメスを手に入れました。
刹那・F・セイエイが嫁(ガンダムエクシア)を手に入れました。

 

――つづく。

 
 

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