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SRW-SEED_660氏_ディバインSEED DESTINY_第26話

Last-modified: 2009-12-26 (土) 13:37:56
 

ディバインSEED DESTINY
第二十六話 妖眼の戦鬼

 
 

 サキガケとアヘッドスナイパーカスタムを失い、その代償としてガンダムエクシアとガンダムデュナメスを手に入れた刹那達を待っていたのは、交戦の跡がむざむざと残るタマハガネの姿であった。
 グローリースターとジニン小隊が哨戒・偵察行動に出ていた間に、偶発的に遭遇した敵部隊を交戦したとの事だ。もっとも、交戦の形跡こそ残っているが、被弾の形跡はない。
 タマハガネに残っていた戦力だけでも一個大隊を相手に互角以上に渡り合えるエース集団である事を考えれば当然のことかもしれない。
 大雑把な数の数え方ではあるが、MSが3、4機で一個小隊、四個小隊で一個中隊(12〜16機)となり、四個中隊で一個大隊(48〜64機)、四個大隊で一個師団(192〜256機)となる。
 必ずしも上記の法則に従うわけではないが、これが当代のMS部隊の編成目安となり、これに歩兵や戦車、航空戦力各種を組み合わせて運用されている。
 刹那達が席を空けていた間に戦った連合の戦力は一個中隊ほどの様で、同数の敵部隊との戦闘では、まず負ける可能性のないクライ・ウルブズにとっては、さしたる負担を感じる事もなかったろう。
 青い海面に漏れだした推進剤や潤滑油その他もろもろの液体が溢れている中に、着水したタマハガネの威容がある。周囲に漂う黒煙や、海面に浮き沈みを繰り返しているMSの残骸は、すべてが地球連合側の機体のなれの果てだ。
 水平線の彼方が燃えるような夕暮れの色に染まる時刻、出撃した時とはずいぶんと異なる様相に変わったジニン小隊は、管制オペレーターの指示に従って艦後部のデッキに着地し、格納庫へと入る。
 アヘッドとは異なる見慣れないガンダムタイプの機体の姿に、メカニック達が不可思議な顔をしたが、ダメージの痕がある機体の姿を見ればなによりパイロットの無事と機体の状態の方が気になる。
 エクシアやデュナメス、ヴァーチェ、ジニンのアヘッドらの他に後部デッキにはステラのエルアインスとアルベロのビルトシュバイン、アウルのエムリオンRCの姿があった。
 どの機体も見た目から分かるほどの損傷を負ってはおらず、修理されたというわけではないだろうから、パイロット達の方も無事なのだろう。
 シールドとサブマシンガンをメンテナンスベッド脇のラックにかけ、ジニンは機体を直立式のメンテナンスベッドに固定させる。目を瞑っても行えるくらい馴染んだ機体の停止作業を終了し、ハッチを開いて外へと出た。
 ラダーを使ってジニンが格納庫に降り立つと、機体に近づこうとしていたDCのメカニックを押し退けて、ティエリアの所属するPMCの整備士達が姿を見せてヴェーチェとエクシア、デュナメスらに群がる。
 ティエリアとデスピニス、それに両者の機体と整備士などの専門スタッフをDCに出向させている企業はネルガルといい、近年急激に業績を伸ばしてきた軍需企業だ。
 兵士の育成、兵器開発をはじめとした戦争関連の事業を一手に引き受け、DCのみならず地球連合各構成国とも取引がある。これはザ・データーベースが地球圏の争いに半公的に介入する為に創設したダミー会社だ。
 社員のほとんどはザ・データベースの首魁クリティックが製造したディセイバーという人造人間達からなる。
 このネルガルという社名には一応の由来が存在しており、こちらの世界に転移してくる前の世界で、ザ・データベースの前に立ちふさがった部隊の、旗艦的な役割を果たしたナデシコCを開発した会社の名前だ。
 ナデシコシリーズをはじめ、エステバリスというMSより二回り近く小型の機動兵器を主力商品とした企業で、ネルガルの工業力と技術力はクリティックをはじめ地球を狙っていた各勢力にとって災厄となった。
 クリティックが創設したネルガルは、ナデシコ級やエステバリス関連の技術をベースに、アルヴァトーレやアルケーガンダムから得られた技術を元にした製品を主力商品として販売している。
 そのネルガルのロゴと社名の入ったツナギを着た整備士達の姿を、砂糖菓子に群がる蟻のようだ、と刹那はエクシアのコックピットでふと思う。彼らの前ではとても口には出来ない感想だ。
 ティエリアにも時に感じることであるがネルガル出向の整備士達は、まるで良くできた人形のようだ。言葉をかければ返事はあるし、廊下で会えば挨拶もする。食事もすれば、笑みを浮かべもする。
 けれども人間ならそれらの行為に当たり前に伴う筈のモノが、彼らにはなかった。あったとしても、それは普通の人間には感じ取れないほど希薄なものだったのだろう。それは、心。あるいは感情と言い換えてもいい。
 美味い、まずい、気分がいい、むしゃくしゃする、鬱陶しい、悲しい、憎たらしい、人間なら誰だって持ち合わせている筈の情動が彼らの精神構造からはごっそりと欠如しているのだ。
 だから彼らの言葉も行動もなにもかもが、人間以外の何かが人間の真似をしている――そんな印象が強い。
 男も女も例外なく工場で製造される規格品の様に端正な顔立ちの彼らの皮を剥いだ時、そこにあるのは果たして人間と同じ肉と骨と血と心臓だろうか?
 ローストされた牛肉を、茹でられた温野菜を、香ばしく焼かれたパンを、魚のフライを口にする時、彼らは硬さも触感も量も異なるそれらの食べ物を、すべて同じリズムで咀嚼してはいないだろうか?
 鏡を前にしているのかと錯覚する様な無感情な彼らの瞳を覆う瞼は、風がある時もない時も、煙にまかれた時も動く事はないのでは? あるいは、どんな時でも同じ間隔で瞬きを繰り返してはいないか?
 そんな埒もないことを考えている事に気づき、刹那は軽く首を振って自分の愚かな妄想を振り払った。
 そんな馬鹿な事があるものか。生体強化によって超人となった生体強化兵士、脳髄以外をすべて機械に代替したフル・サイボーグなどのSF的な存在が現実になったとはいえ、完璧な人造人間はまだ未来の産物の筈だ。
 何世紀も昔の映画に、未来から殺し屋のロボットが送り込まれる話があったが、あくまで映画の中の話に過ぎない筈なのだ。
 刹那はヘルメットを小脇に抱え、床に降り立つや否や、PMCの整備士達に取り囲まれ、ロックオンの方は、と首を巡らすと同じように囲まれていた。
 というよりはエクシアとデュナメスから遠ざけようと無言の圧力を加えてきているというべきか。
 自分の周囲を十重二十重と取り囲む美しいマネキン人形の姿を、刹那は連想した。もっとも近い者は、臨終の床にある病人と等しい静けさの息遣いもはっきりと聞き取れる距離だ。
 その距離から感情を宿さぬ幾対もの瞳に見つめられている状況は、息をする事さえ忘れ、全身の産毛がそそけ立つ様なおぞましさを感じさせる。
 幼い頃から銃弾の下を行き交い、硝煙と血と糞尿と臓物の臭いが立ち込める戦場に身を置いた刹那をして脊髄を凍らせる恐怖を抱かせた。
 戦場の恐怖と、肉の質感を持ちながら心を伴わぬ人形に見つめられる恐怖は別種のものであった。かすかに自分が息を飲む音が聞こえた時、ティエリアが舌鋒鋭く刹那とロックオンに声を掛けて来る。
 青年とも少年とも見える若い美貌には、かすかに怒りの赤が目に見えぬ刷毛で刷かれている。白磁の肌の内側からうっすらと赤色が浮かびあがっている様子は同性をしても息を飲ませる妖しさがあった。

 

「二人とも、エクシアとデュナメスから離れてもらおう」
「どうしてだ、ティエリア?」

 

 ロックオンは肩を竦めて、ティエリアの静かな緊張と苛立ちを孕む声を宥める様に返事をした。

 

「その機体はネルガルが大西洋連邦に送る筈だった機体だ。偶発的な要因があって君達が乗る事になったとはいえ、その機体の権利はまだネルガルにある」
「おいおい、大西洋連邦の輸送機に載せられていた上にフラッグにしっかり護衛されていたじゃないか。もう引き渡した後だろ? 
 なら、それが連邦の敵対勢力に強奪されてもネルガルは文句を言えないだろう。むしろ、機体を守れなかった大西洋連邦に言えって」
「そういうわけにもゆかないのだ。正式に社の方から抗議させてもらう。それまでは機体に不用意に近づく事も控えてもらう」
「そうカッカしなさんな。それはどっちかっていうと、おれらより艦長とお偉方の決める事だろう?」

 

 淡々としてこそいるものの抑えた声の下に、熱く煮えた感情を隠すティエリアの背後を、ロックオンが顎をしゃくって示すと、ちょうど自動扉の奥から話題に上がったエペソ・ジュデッカ・ゴッツォ大佐が姿を見せた。
 封建社会時代の貴族を思わせる気品と落ち着き払った態度は、いつもと変わらない。ディセイバーとどこか通ずる人造の美貌には、つい数時間前まで戦闘の指揮を取っていた余韻は微塵もない。
 やや強張った緊張感の漂う空気を敏感に悟ってか、エペソはやや足早にロックオンとティエリア達に近づき、周囲のDCの整備士達に手を振って道を開けさせると事情を聴き始める。

 

「バラック・ジニン、ロックオン・ストラトス、刹那・F・セイエイ、ティエリア・アーデ、任務ご苦労であった。いくつか質問をせねばならぬ事がある様だが、まずはこの状況はどういう事か?」

 

 形ばかりの労いの言葉を送って、エペソはちらっと送った視線でティエリアとジニンに問いかけた。

 

 

『……というわけだ』

 

 ティエリアらか事情を聴き終えたエペソは艦長室に戻り、オノゴロの軍本部につめていたビアンに報告していた。電子の画像の向こう側のビアンは、いつもと変わらず精悍で精気に溢れている。
 後、二十年、三十年はヴァルシオンのパイロットを現役で続行しても大丈夫だろう。
 アヘッド二機と擬似太陽炉二基の喪失と、代わりに入手したガンダム二機、またそのガンダムに対するティエリアとネルガルからの抗議。ティエリアの様子からして、相当調べられたくないものが隠してある様子である事。
 それらの事情を聴き終えたビアンは背もたれに体重を預け、右頬杖を突いて思案に耽る様子を見せる。擬似太陽炉の大西洋連邦への流出は、さして重要視する事ではないだろう。
 これからの戦闘で擬似太陽炉搭載機が鹵獲される事はあるだろうし、ネルガルを介して技術が流れる可能性とてあった。要は時間の問題だった懸案だ。すでに実機が鹵獲された以上は、有効な対策もほとんどない。
 となるとネルガルからの抗議と要求が如何なるものになるか、が気になる所だ。可能ならばそのままエクシアとデュナメスの性能を試したい所ではある。
 ネルガルが、ビアンら同様異世界から招かれた死人が大きく関与した組織である事は、すでに見当がついている。
 その異世界の技術が用いられた機体に対する興味は、一科学者としても一軍の長としても大いに掻き立てられる所だし、DCとネルガルで運用している擬似太陽炉の比較も可能ならば行いたい。

 

「すくなくとも機体強奪時にティエリアに撃たれなかっただけましではあるか」
『これから撃たれるかもしれんぞ?』
「かもしれんな。返還を要求されるのが擬似太陽炉であるなら、これは応じても構わん。機体そのものを引き渡すのは出来るならば避けたいな。せっかく作り上げたアレがまたしばらく埃を被る事になる」

 

 もし、ビアンがザ・データベース製の擬似太陽炉にプロトンドライヴが併設されている事を知っていたならば、この時の会話の内容も多少は違うものになっていた事だろう。

 

『……どう転ぶかは分からぬが、仮に擬似太陽炉やそれに関するプログラムもろもろで済んだとして、太陽炉を換装する暇があるのか?』
「MGの配置は済んでいる。カーペンタリアからザフトの援軍も来ているから戦力的に不安はないな」

 

 タケミカズチ・タケミナカタ両空母を筆頭にキラーホエール級攻撃型潜水母艦、ストーク級空中戦闘母艦、旧来のイージス艦、駆逐艦を中心とした艦隊がすでに出撃している。
 エルアインスを中心に、ガーリオン、リオンが機動兵器の中核を担い、擬似太陽炉とプラズマジェネレーターを搭載したアヘッドや量産型アーマリオンが部隊を構成しており、これに加えて特機がグルンガスト弐式、ヴァルシオン改の二種が加わる。
 そこにカーペンタリア基地から、ミネルバ隊とボズゴロフ級潜水艦で構成された潜水艦隊がDCに合流している。カーペンタリアとDCの位置関係からすると、DCは地球連合に対する欠かせぬ盾となる。
 そのDCに負けられてはカーペンタリア基地の命運は風前の灯にも等しくなる事を考えれば、今回の援軍は至極当然の成り行きであった。
 ザフトとDCの総合戦力は、連合側が用意したのが通常戦力であるのなら、勝機は十分にある。
 ただ、『なにをしてくるのか分からない非常識な軍』として認識されているDCに、決戦規模の戦力を投入する以上、連合側も隠し玉の一つ二つは用意しているだろうから、それがDC側にとっては不安要素であった。
 画面越しにエペソと会話していたビアンが、新たなキャッチに気づき、エペソに一言断ってからそちらの内容に耳を傾けた。
 卓上に表示された秘書のバストアップホログラフの話に、ビアンはかすかに眉を動かし、苦笑する様に唇を歪める。

 

「ネルガルからの抗議は、いまちょうど来た所だ。私の方で話を早く済ませれば戦列への参加は十分に間に合うだろう」
『随分と速い抗議だな』
「輸送機を襲い、エクシアとデュナメスが姿を見せた時点でティエリアが秘密裏に連絡を入れたのかもしれん」
『既存の技術で長距離通信が可能なのはレーザー通信位か。フォールド通信に類似した通信技術を実用化した組織か、あるいはテレパス的な異能か』

 

 地球人類にしても、旧世紀でソビエト連邦がESPの本格的な研究を行っていた実例がある様に、現在の軍部でもESP関連の研究を行っている機関は確認されている。
 先に例を挙げた生体強化兵士の研究にも応用されていたと言うし、東アジア共和国で存在が噂されている超常戦略特殊部隊も、ESPを強化・開発された兵士で構成されているという。
 地球でもある程度実現されている技術なのだから、異世界からの来訪者達がより優れた技術を持ち、実用していないと言いきれるものではない。
 対魔術に関してはすでにオーブ諸島全域に『調和の結界』を展開済みゆえ、ともかくとして対ESPとなるとこれは対応が難しい。
 ゼ・バルマリィ帝国の霊力関係の技術があれば、まだ対応のしようもあろうが、シヴァー・ゴッツォが技術の大部分を保有していたもので、帝国一の忠臣と称されたエペソの手元にも十分なデータは無い。
 いますぐに根本的な解決策を提示できぬ以上、二人の会話はかろうじて打てるありきたりな対応についてになる。

 

「ティエリアとデスピニス、それにネルガルからの出向者に情報が漏れぬよう徹底させるべきだろうな」
『艦内部に関しては余の方で通達しよう。では、ビアン、ネルガルとの交渉はそちらに任せるぞ』
「ああ」

 

 短いビアンの返事を聞き終えるや、エペソはひとつ頷くだけで通信を切る。人造の将軍の呆気ないまでの反応は、約三年の付き合いで慣れたものだから、ビアンは何も言わない。
 ビアンは一度目をつむって背もたれに大きく体重を預けたが、数秒ほどで再び目を開き、ネルガルの代表を名乗るリボンズ・アルマークとの交渉を行うべく、卓上の通信機に指を伸ばした。

 

 

 タマハガネに戻った刹那・ロックオンが、オノゴロ島へと呼び出しを受けたのは、ネルガルのリボンズとビアンとの交渉が一応の決着を見て一時間後の事である。
 洋上を航行中だったタマハガネから、輸送機にエクシア・デュナメスを積載して刹那らを乗せ、一路超音速輸送機はあっという間に彼らをオノゴロ島へと運ぶ。
 刹那達もエクシア関連の事で決着がついたのだろうと見当は着いていたから、自分達が呼ばれ事に対して疑問符を浮かべる事は無かった。
 ティエリアが同道していないのは、彼があくまでもネルガルの社員であり、DCとは別にネルガル社の方から連絡が行くからだろう。
 DC領海外へと集結している地球連合艦隊迎撃のために慌ただしくなっているオノゴロ軍港を眼下に見下ろしつつ、刹那達は幸いにも途中で襲撃される事もなくオノゴロへと降り立つ事が出来た。
 よほど急いでいるのか輸送機のタラップを降りた刹那達はなかば連行される様にして、オノゴロの地下に無数に存在する隠し倉庫の一つへと案内された。
 二十代後半と思しい金髪の美女が案内役だ。アングロサクソン系の透ける様な白い肌と、やや厚ぼったい官能的な唇はロックオンの好みだった。仕立ての良いダークグレイのスーツの上に白衣を纏い、胸にはDC特殊兵器開発部門第五班主任とある。
 DCの戦線を支える非常識な戦闘能力を持つ機動兵器群の開発を担当する、総帥直属の機関である。
 ナチュラル・コーディネイターを問わず金に糸目をつけず、世界中からかき集めたあらゆる分野における秀才・天才・鬼才・変態・ド変態で構成されている。
 ぱっと見た感じではあくまで常識的な人に見える美人主任の後に続き、刹那とロックオンはどこの悪の秘密結社だ、と疑いたくなるような重厚な合金製扉の奥へと足を進める。
 いやまあ、実際世界征服を標榜している軍事政権であることは紛れもない事実であるし、運用している兵器の一部は、アニメに出てくるような代物であるのもまた事実で、刹那とロックオンの感想もあながち間違いではない。
 足を踏み入れたものを迷いこませて餓死させるつもりなのではないかと、本気で疑う様な複雑な造りの道を進みつづけ、いまはいったい、地下何百メートルだとロックオンがうんざりし始めた所で、案内役の足が止まる。

 

「こちらで総帥がお待ちです」

 

 ややハスキーな女の声を、今日初めて聞いた事にロックオンは今さら気付いたが、だからといって何かあるわけでもないと肩を竦めて、少しばかり嫌味を込めて返事をした。

 

「機体ごとおれたちを呼び戻したんだ。いい見せ物があるんだろう?」
「さあ、総帥のお考えは時に私達でも理解できない事もありますし……」

 

 意味ありげに呟き、主任はうっすらと唇を吊り上げる。赤い口紅の端にある小さな黒子が妖艶な雰囲気を醸し出している。なかにあるものがロックオン達を驚かせるには十分なものと理解しているのだろう。
 主任は扉横にあるスリットにカードキーを差し込み、ごうん、と音を立てて上下左右に開き始めた扉の奥へ進むよう二人を導く。

 

「刹那様、ロックオン様、それではお進みください。きっとお二人にとって良いものが待っていることでしょうから」

 

 淫蕩な女悪魔に騙されて地獄に繋がる洞穴に導かれたような錯覚に、ロックオンはやれやれと首を振るう。大なり小なり反応を示すロックオンと比べて、刹那は無表情と無言を貫いたままである。
 興味がないのか、それともただ表には出していないだけで、心中では思う所があるのか。ロックオンでもなかなか分からない。
 主任の案内はここまでのようで、これからさきはロックオンと刹那の二人で進む事になった。無機質な金属製の壁に四方を覆われ、息が苦しくなる圧倒的な質量感が四方八方から圧し掛かってくる。
 ロックオン達の真正面に分厚いガラスが一面に張られ、その奥にはさらに広大な空間が広がっているようだ。そのガラス面の方を向いてこちらに背を向けている偉丈夫の姿に二人は気付く。
 肩幅が広くどっしりと根を張った大樹の様に伸ばされた背筋と存在感、目にも鮮やかな鮮血色のロングコートとくれば、これはDC総帥ビアン・ゾルダーク当人に他ならない。
 刹那とロックオンの来訪はとっくに分かっていたのだろう。ビアンはゆっくりと背後を振り返るその顔には、穏やかな笑みが浮かんでいた。
 民間の協力者という立場とロックオンらのバックアップにいるマティアスとの関係から、刹那とロックオンは形式ばった挨拶や礼儀を取らなくてもよいと保証されている。
 それでも一軍の長との会合である。ロックオンと刹那にも多少の緊張はある。

 

「二人ともよく来てくれた。忙しい所をすまんな」
「いや、アヘッドを失った失態もありますし」
「それで、おれ達のガンダムは?」

 

 ここまで無言で通していた刹那がようやく口を開いたかと思えば、やはりというべきか、ガンダムエクシアの処遇についてだった。まっすぐにビアンを見つめる刹那の瞳は、強い意志の光を湛えている。
 答えを得るまでは絶対に退かないと物語る刹那の瞳を、ビアンは好もしげに見つめ返した。それからもう一度ガラス張りの壁の方へと振り返り、二人にも同じようにするよう促す。

 

「ふたりともこちらへ」

 

 ガラスの向こうは暗黒に閉ざされていて、こちらの部屋の照明によってかすかに照らし出されているきりだ。それだけの灯りで見ることのできるモノはほとんどない。
 向こう側がかなり広大な空間らしい事は確かだが、はたしてそこに何があるというのか。

 

「お前達が手に入れたガンダム二機だが、ネルガルのリボンズ代表との交渉の結果、機体そのものは我々が運用する了承を得た」
「機体そのものは?」
「そうだ。二機に使用されている擬似太陽炉とOS他、プログラム各種は一切手を触れず、ネルガルの方へ返還する事が要求された」
「それだけですんだってわけじゃないだろうが、じゃあ、デュナメスとエクシアはこのままおれ達が使うって事か」

 

 扱い慣れたかつての愛機が再び手に入った事に少なからず喜びを感じているのだろう。ロックオンの顔には薄く喜色が浮かび、刹那の顔にも似た色が浮かびあがっている。
 実際には、ビアンが口にした以上の交換条件が出され、エクシアとデュナメスの入手には手痛い出血が伴っている。
 機体の通常整備はともかく、奥の奥まで見る必要のあるフルメンテナンスには、ネルガルのスタッフがあたる。
 ヴァーチェに専門のスタッフがいるように、エクシアとデュナメスに同様の専属スタッフが派遣される予定だ。

 

「そうなるが、動力機関は擬似太陽炉ではないものを使う」
「プラズマジェネレーターか?」
「いや、違う。刹那・F・セイエイ、不思議に思った事はないか? なぜアヘッドに使われているGNドライヴは“擬似”太陽炉と呼ばれるのか」
「擬似とつくからには、アヘッドに使われているものが模倣品と言う事だと見当はつく。それが使われているのは、オリジナルが実用にたえないものだったからではないのか?」
「ふふ、少し違うな。太陽炉のオリジナルは性能的には擬似太陽炉とはそう大差はないが、製造に際し長い時間がかかるのだ。製造に際し高重力環境でならなければならないという条件があってな」

 

 ビアンの口ぶりから、ある可能性に気づいたロックオンが驚きと共にビアンの横顔を見つめる。ビアンは、ロックオンの反応が思った通りのものであったことに、してやったりとばかりに笑っている。

 

「我々が保有する重力操作技術を用いて擬似的に木星に等しい重力環境を作り出し、オリジナルと等しい機能を持つ太陽炉を製造するのには苦労した」

 

 純正太陽炉を製造するまでの苦労を思い返してか、ビアンは感慨深げに呟く。すると向うの空間に落とされていた照明が点灯され、闇の帳の中に隠していた人造の小太陽の姿を露わにした。
 一見すれば擬似太陽炉と何ら変わることのないゆるやかな円錐形の動力機関が、照明に照らされながら、刹那とロックオンの瞳にその姿を写す。

 

「これがオリジナルの太陽炉――イオリア・シュヘンベルグの遺産だ」

 

 

 エクシアとデュナメスへオリジナル太陽炉の換装作業が行われている間に、地球連合艦隊とDC・ザフト艦隊の戦端は開かれていた。
 本命のDC艦隊はタケミカズチ級空母とキラーホエール、各種艦艇からなる総数五十あまり、対して地球連合が海面に並べた艦隊の数は優に倍するものであった。
 単純に真正面から受け止めて戦うには無理のある戦力差といえよう。
 古典的な少数精鋭部隊であるクライ・ウルブズは母艦タマハガネの他に、ストーク級空中母艦二隻を伴い、本艦隊より離れ独自に行動し、連合艦隊の横腹を突く役割を与えられている。
 無数の敵が構成する分厚い壁を打ち破って、敵司令中心部に大打撃を与えるのは、クライ・ウルブズの得意とする所だから、クライ・ウルブズの特性を最大限に生かす活用の仕方だろう。
 クライ・ウルブズ抜きのDC本隊は、地球連合が幾重にも構築した艦隊とMS群との戦闘を開始し、空と海で命の奪い合いを繰り広げていた。
 オーブ解放作戦時にDCが優位に戦えた理由の一つに、連合が伴わなかった水中用MSをDC側が多数用意していた事が挙げられる。
 連合側は前回の反省を踏まえて、フォビドゥンの量産発展型であるフォビドゥンヴォーテクスを多数艦隊に配備していた。
 TP装甲とゲシュマイディッヒ・パンツァーを搭載したこの機体は製造コストこそ嵩むものの、その戦闘能力は前大戦中DCの水中用MSの主力であったシーエムリオンでは対抗できないレベルにある。
 DC側ももともと武装の貧弱なシーリオン・シーエムリオンには限界を感じており、ギナが連合との交渉で手に入れていたフォビドゥンブルーを研究・解析し、フォビドゥンホデリを完成させている。
 機体性能それ自体はヴォーテクスと大きく変わる事はないが、ホデリにはヴォーテクスにはない強い武器があった。水中でも使用可能なビーム兵器である。
 一年戦争時にジオン軍が使っていたハイゴッグも水中でビームカノンを使用出来た事から、この世界の技術進歩レベルを考えれば、十分に実用化されてもおかしくはない。ましてや開発したのがDCである。
 さらにビームトライデント、水中用ビームライフル、水中用ビームキャノンと幾つも作られた武装は、新西暦世界で運用されたガンダニュウム合金製のガンダムタイプのデータを流用したものだ。
 オペレーション・メテオで使用された五機のガンダムには接近戦に特化したものが三機あったが、その中から例をあげれば、ガンダムデスサイズは水中で名前の由来となったビームサイズを自在に振るっている。
 このビーム兵器の技術を応用し、水中でもビーム兵器の破格の攻撃力を振るう事が出来るようになったのだ。これは水中戦でTP装甲に有効な武器を持たないフォビドゥンヴォーテクスに対して、大きなアドバンテージだ。
 なお名前に冠せられた『ホデリ』とは日本神話に語られる所の海幸彦の事だ。かつて日本を宗主国と仰いだ歴史があるためか、オーブには端々で日本神話やおとぎ話の名前を用いる傾向がある。
 フォビドゥンホデリとはあまり語呂の良いものではないが、フォビドゥンウラシマとか名付けられるよりはマシというものだろう。
 さらにザフトのゾノ、グーンといった旧来の水中用MSに加えて、足を細長くした蛙を連想させる珍妙なデザインの新型機、アッシュも海面下の戦いに参加していた。
 三勢力それぞれの保有する新しい海戦戦力が、エメラルドグリーンに輝く南洋の下で衝突するなか、空でも同様に新型機動兵器が熾烈な激突を繰り返していた。
 地球連合側は、ウィンダムを中心にフラッグ、イナクトと言った新世代型MSを投入し、ザフトはバビというMAへの可変機構を持ったMSと、ザクシリーズで対抗する。
 一方でDC側は地球連合軍をエルアインスの他に、旧世紀の戦闘機としか見えない外見の新型機動兵器を持って迎え撃っていた。
 博物館にしか残っていないような戦闘機を前に侮った連合パイロット達は、しかし、いざ戦いが始まるや、戦闘機から人型、人型から人型と戦闘機の中間形態へと三段階に可変する戦闘機の機動性に翻弄されていた。
 DCが空戦における切り札の一つとして開発した可変戦闘機バルキリー。新西暦世界で一年戦争の最中地球に落下した、外宇宙からの物体SDF−1に残されていたデータを基に開発された可変戦闘機である。
 一見すると確かに戦闘機にしか見えないのだが、その実、中身は異世界技術満載の超高性能機である。
 搭載された熱核バーストタービンエンジンは取り込んだ空気を利用し推進力を得るため大気圏内ではほぼ無限の航続距離を持ち、脆弱な装甲には余剰エネルギーを利用したエネルギー転換装甲やピンポイントバリアを持つ。
 エペソが所属していたゼ・バルマリィ帝国が収集した地球製機動兵器のデータを十分に利用し、開発されたのはバルキリーシリーズの初代VF−1タイプではなく、VF−19エクスカリバーである。
 VF−19の操縦には高い技量が要求され、扱える者が少なくなるという点がDC開発陣から問題視されたが、それでもVF−19の機体性能が惜しまれて、本格的な量産モデルとする為にある程度妥協が図られている。
 じゃじゃ馬な飛行特性を安定させるために設計を改め、DCの保有していた異世界技術の導入(風の精霊との契約案もあった)も行われ、晴れて目出度く実戦配備となり、日の目を見る事となったのだ。
 武装も内蔵したマイクロミサイルとビーム・実弾を交互に発射できるよう改造されたガトリングガンポッド、またバトロイド(人型)形態に限るが、使用できるピンポイントバリアパンチは十分な威力を持つ。
 新西暦世界で、MS、機械獣、メカザウルス、ゼントラーディ、メルトランディ、宇宙怪獣、プロトデビルンなど相手を選ばずに戦った名機VF−19の血脈を引く機体は、初陣ながら見事な戦果を上げつつあった。
 海空共に新型機動兵器の性能と、突出した力を持つ二種の特機の投入によって互角以上の戦いを堅持しているものの、艦隊司令部に状況を楽観視する者は一人もいなかった。
 本土防衛の役割を担うこの一戦での敗北は、決して許されるものではないのだから。
 そしてなにより、ここぞと言う時には常に戦果をあげて来たクライ・ウルブズから、芳しい報告がいまだに一つもない事が、彼らの胸中に不安の苗を植え付けていた。

 

「MM−01、02、03起動確認、いつでも発進できます」
「すぐに出撃させろ。海の底からの恐怖という奴を叩き込んでやれ!!」

 

 クライ・ウルブズの戦果の未報告からくる不安を振り払うように、DC艦隊司令部はMMと称された切り札を早々に切った。
 それらは、以前の戦いで連合に苦汁を飲ませた重力アンカーを撤去する為に、徹底的に探査された筈の海底から姿を露わした。敷設された重力アンカーは、真の切り札であるそれらを隠すための囮であったのだろう。
 フォビドゥンヴォーテクス、アッシュ、ゾノなどが戦う海域へと、岩盤を崩しながら姿を露わしたそれらは、ゆっくりと尾を揺らしながら、全身に気泡を纏い泳ぎだす。
 連合艦隊では、海中から次々と異様なペースで反応を消失させてゆくMS部隊に、まずMS管制オペレーターが驚きの声を上げ、その報告が艦隊司令部に行き渡った頃、海面に巨大な三つの水柱が立ち上がった。
 それぞれが数百メートルにも届く巨大な水柱で、上空で数千万粒の滴と荒波に代わって艦艇を揺らし、白く濁った水柱を突き破った異形達は。太陽の光を鈍い銀色に変えて照らし返す。
 その光景を見た時、まるで悪い冗談のようだと誰もが思った。全高が百メートル近い巨大な二足歩行と思しい恐竜が海中から姿を現すなど!
 三体の内の二体は鉄板を荒々しく熔接してビス止めしたような外見で、百メートルに迫る巨躯を持ち、その古き良き怪獣映画の中の怪獣王を恐怖と共に思い起こさせるその姿は、目撃した連合諸兵の網膜に鮮烈に焼きつけられた。
 三体目は他の二体よりもさらに機械的だが、全体的な印象は丸みを帯びており、見ようによっては生物的な印象が強まっている様にも映る。また機体のサイズもおおよそ六十メートルほどと小型化が図られている。
 MM――モビルモンスターシリーズの一号機、二号機、三号機であり、01、02、03のいずれもヴァルシオンを始まりとするプロジェクトURの派生機となる。
 開発には、前大戦時に改修したヴィガジの搭乗機ガルガウのデータが流用されており、インスペクターの技術と地球技術の初の本格的な融合機と言えるだろう。
 また後年、陸の王者と称賛される非人間型機動兵器ゾイドの先駆けとなる兵器開発史のターニングポイントとなる機体でもあった。
 怪獣じみた外見は、知性を持った敵対者に心理的な恐怖を与える、というコンセプトを踏襲しその効果を追求した結果とも、ビアン総帥の趣味が反映されているとも言われるが、真相は闇の中である。
 実際にアンケートを取れば百人中九十九人は総帥の趣味、と答えるに違いない事が、事実を物語っているだろうけれども。
 テスラ・ドライヴ他各種技術の慣性制御、重力制御を組み合わせても、有人で活用するにはパイロットにかかる負担が大きく、暴虐のその性能を完全に発揮するには、高い身体能力を有さなければならない。
 コーディネイターも受けいれるDCとはいえ、そこまで高度なコーディネイトを受けた人材は少なく、現在鋼鉄の怪獣王達に乗っているのは、ミナ直属の配下であるソキウス三人だ。
 海中で連合のMS部隊を、霜を踏み砕くように蹴散らしたメカゴジラS型、メカゴジラH型、メカゴジラ参式“機龍”は、数万の雷がまとめて落ちたかの様な咆哮で、四方を轟かせる。
 研ぎ澄ました槍穂の様な牙が並ぶ口を開き、無機質な冷たい光を宿す目を、指先のミサイル弾頭を、膝、肘、胴をはじめとした全身に内蔵した無数の武装を、洋上の艦隊へと向ける。
 この日、この時、メカゴジラ三体と遭遇し、その恐怖と脅威を骨身に刻みこまれながらも、運よく生き延びた者達が語るにいわく、まさしくあれこそは死そのもの、人間にはどうしようもない暴力の権化だという。
 全身を濡らし滴る海水の滴は纏わり着く巨獣達の咆哮によって一瞬で蒸発し、ついで連合艦隊を吹き飛ばした爆風と爆熱によって、海面が一時半球形に抉れる。
 メカゴジラが撃ったミサイルの弾頭に戦術核が混じっていたわけでもあるまいに、その破壊力たるや、見る者の思考と理性を一時奪うだけのインパクトを兼ね備えていた。
 三体のメカゴジラによる全火器の一斉発射によって発生した全ての音を吹き飛ばす轟音と目を潰すほどの閃光が、破壊と恐怖だけが役者の絶望悲劇の始まりを告げたのである。 

 

 

 そして、珍しく単独ではない任務に従事するクライ・ウルブズは、苦しい戦いを強いられていた。連合艦隊に奇襲をかけるべく別行動を取っていた彼らを、同じように連合艦隊から抽出された精鋭部隊が迎え撃ったのである。
 偶発的な遭遇でないのは、戦闘準備を入念に固めていた敵陣容と動揺した様子がまるでないことから、一目瞭然であった。何らかの手段によってこちらの情報が漏れたのであろう。
 それでも待ち伏せていたのが“ただの精鋭部隊”であったなら、多少時間はかかっても蹴散らすだけの戦闘能力を彼らは備えていたが、クライ・ウルブズを待ち受けていたのは精鋭中の精鋭部隊だった。
 ストーク級二隻から出撃したエルアインス十六機、ランドグリーズ・レイヴン八機の二個中隊、さらにクライ・ウルブズ搭載の機動兵器群は、待ち伏せを受けてから一向に戦闘に決着をつける事が出来ずにいた。
 それは、DC屈指のエース、シン・アスカでさえ同じ事だった。
 シンが搭乗しているのは背にX字型の大型可動バーニアを持ったクロスボーンシルエットに換装したクロスボーンインパルスである。
 木星などの高重力下でも問題なく戦闘できるよう、背のX字のバーニアによって大推力を与えられ、武装も近〜遠距離まですべてに対応できるよう整えられている。
 これは新西暦世界で勃発した封印戦争において活躍した宇宙海賊クロスボーン・バンガードが使ったF97クロスボーンガンダムX1、X2、X3の武装を併せ持った総合シルエットでもある。
 X1のスクリューウェッブ、シザーアンカー、X2のバスターランチャー、X3のムラマサブラスター、さらにビームシールド、ザンバスター、ビームザンバー、ヒートダガーなどを装備し、あらゆる距離で戦う事の出来る万能機だ。
 武装の取り回しが難しいものや、多くの武装を適切な距離で扱う為の高い判断能力と技量が要求されるが、パイロットと機体が噛み合えばこれまでのシルエットの中でも飛び抜けた力を発揮する。
 シン・アスカならばそれらの条件を十二分に満たす事を考えれば、この組み合わせは正解例の一つだ。それでも、苦戦を強いられているのは、彼らの前に立ちふさがった敵の強大さゆえに他ならない。
 クロスボーンインパルスの右腕にショットランサー、左腕にバスターランチャーを握らせ、ショットランサーのマシンガンで牽制、バスターランチャーで撃墜を狙うが、敵は鳥のように自在に動いて射線から逃れる。

 

「くそっ!」

 

 三機まとめて落とすべく、イナクトをセンターマークに捉えてトリガーを引いたにもかかわらず、バスターランチャーから放出された高威力の黄色いビームは、先頭のイナクト一機を飲み込むに留まる。
 僚友の仇を取るべく二機のイナクトは猛然とビームライフルを撃ちかけ、シンはクロスボーンインパルスの可動バーニアの生む大推力と超人レベルの反射神経で、すべての射線を躱しきる。
 パイロットであるシンの身体能力は異常の一言だが、それに追従するインパルスの柔軟性と追従性も瞠目に値する。
 インパルスの胸部の20mmCIWSは牽制にしかならないが、それでもショットランサーと合わせて炸裂弾の弾幕を張り、左右に分かれて息の合った射撃を加えてくるイナクトの捕捉を振り払うべく、大きく機体を動かす。

 

「乗っているのも並のパイロットじゃないぞ、前の戦いの時のレベルなら、とっくに落としているってのに!」

 

 ほぼ直角の回避機動を上下左右に繰り返し、敵パイロットの目が徐々に追い切れなくなった所で、ショットランサーのランサー部位を射出する。
 でたらめな回避機動の最中でも、シンの超直感と深紅の瞳は、イナクトのドラムフレームを透過して、パイロットの呼吸と殺意を明確に察知していた。
 宇宙世紀の言い方で分別するならばオールドタイプながら、優れたニュータイプにも匹敵する思念察知感覚と第六感は、シンの強さを支える大きな理由の一つである。
 射出された巨大な馬上槍を模したランサーは、イナクトが咄嗟にコックピットを庇ったディフェンスロッドを、紙の様に容易く貫いてイナクトの胴を半ばから二つに裂く。
 千切れた胴が爆発を起こすのと同時に、マシンガンだけになったショットランサーを放り捨て、腰裏のアーマーに収納されているグリップを右手で思い切り引き抜く。
 三機目のイナクトがさらに勢いを増して撃ち掛けてくるビーム全弾をすべて視認し、回避しながら、シンはスクリューウェッブを引き抜いた。
 スクリューウェッブは鞭状の武器で、その先端部に高速で回転するドリルが装着されている武器だ。対ビーム装甲処理が施してあり、ビームサーベルで斬り払われても切断される事はない。
 接近戦で武器のリーチの差で負けたのなら、さらにリーチを伸ばせばいいという単純明快な理屈で作られた武器で、刀剣の扱いに特化したシンには扱うのが難しいが、奇抜で新鮮味があり、シンは気に入っている。
 ぎゅら、と回転に伴う耳障りな音がスクリューウェッブの先端から発生し、ビームサーベルならともかく、見慣れぬ武器に反応が遅れたイナクトの頭部を一撃で叩き潰し、そのまま胸部上方の周囲を抉り粉砕する。
 シンは三機のイナクトを片づけた事に安堵する間もなく、センサーと自身の知覚能力を最大限に研ぎ澄まし、次の脅威を探り出す。
 周囲で味方と交戦しているのは、フラッグ、イナクト、ティエレンといった新型に、量産型ガルムレイドだ。それらに乗っているパイロットの技量もかなりのもので、対クライ・ウルブズ用に編成した部隊に違いない。
 機動空母四隻と護衛のスペングラー級、ダニロフ級護衛艦のみならず、アークエンジェル級二隻を含む二十五隻の艦隊からなっており、それだけクライ・ウルブズの戦力を評価したと言う事だ。
 艦隊のみならず、編成されているMS部隊もおよそ考えうる最高クラスの部隊が揃えられている。
 先ごろ刹那とロックオンが交戦した大西洋連邦のオーバーフラッグス、ユーラシア連邦のパトリック・コーラサワーとパプティマス・シロッコ、東アジア共和国のセルゲイ・スミルノフと指揮下の頂武。
 これにくわえ、アーモリーワンで強奪されたカオス、ガイア、アビスに搭乗したオルガ、クロト、シャニ、ガルムレイドの専任パイロットのヒューゴ・メディオ、月下の狂犬モーガン・シュバリエ。
 と名だたるパイロットと機体が名を連ねており、今回の戦闘で確実にクライ・ウルブズを壊滅させるための戦力が揃えられたと言っても過言ではない。
 艦艇数だけでも三対二十五という状況下ながら、クライ・ウルブズと同行しているストーク級二隻は善戦してはいたが、それでも徐々に被弾が増えて動きが鈍り始めている。
 警告音が鳴り響くよりも早く、前方と後方、下方からの殺気を知覚したシンは、機体を右に動かしバスターランチャーを下方へ、スクリューウェッブを放り投げて、右腰にマウントしてあるザンバスターを右手に握って上方へと向ける。
 ザンバスターは護拳付きのビームガンとビームサーベルをドッキングした状態の事だ。
 シンは直感と皮膚を貫いた氷の針のような殺気の発生源と向けて照準を向け、三方向の敵を瞳に映す事もなしに捕捉し、ザンバスターとバスターランチャーの引き金を同時に引き絞る。
 天地を繋ぐ雷の様に放たれた二種のビームは、狙い過たず殺気の源を貫く。
 通常のビームライフルを大幅に超える出力のザンバスターと、艦艇を一撃で沈めるバスターランチャーの直撃を受けたジェットウィンダムは、一瞬で黒煙の塊へと変わる。
 シンはそのまま機体を流水の様に動かし、一瞬の停滞もなしに前方のジェットウィンダムへザンバスターの銃口を向ける。
 ザンバスターの銃口とジェットウィンダムのビームライフルが光を放つのはほぼ同時であった。ザンバスターのビームはジェットウィンダムの腰部を貫き、内部の推進剤に引火して盛大に内部から爆発させる。
 一方、ジェットウィンダムのビームは、クロスボーンインパルスが展開した左手のビームシールドを貫くこと叶わず、無数の粒子となって大気に散っている。
 安堵の息を吐く余裕はない。再び右腰にザンバスターをマウントし、機体を急下降させて一度は放り捨てたスクリューウェッブを回収し、真下でエルアインスと撃ちあっていたノワールウィンダムの胸部を頭ごと叩き潰す。
 直撃位置からしてパイロットもミンチに変わっている事だろう。三機のイナクトとの交戦からわずか二分に満たぬ時間で、見事七機ものMSを撃墜して見せたシンの腕の冴えはエースの名に恥じない。
 単独で突出して獅子奮迅の活躍を見せていたシンの瞳は、すでに輝きの引いた暗い血の色をしている。全身に波紋を呼び起こす種子の破裂のイメージを、いつ脳裏に描いたのか、シンは明確には覚えていない。
 元から目に見えない方向までも知覚できていたシンの視界が、霧が晴れた様に一層クリアなものに変わり、全身を細胞レベルで操縦できる一種の境地に没入していることの表れだ。
 金色の輝きを帯びるスーパーモードとは異なるこの状態を、これまでシンは何度か経験していたが、武道家としての資質を高めたいまのシンは、これを意図的に起こす事が出来るレベルにあった。
 しかし、瞳と同じ赤色の種子を破裂させたシンをして疲労を蓄積し、身体的な消耗を強いられるほど敵の技量は高い。これが並の部隊相手だったら、倍の戦果を上げている所なのだ。
 スクリューウェッブを腰裏収納部に戻し、バスターランチャーを構え直したところで、視界の端にきらりと光るものが映る。
 光の速さで迫るビームを回避せしめたのは、シンの脳内で構築された超人的神経回路の反応速度のおかげだ。
 機体への直撃こそ回避したものの、バスターランチャーの砲身中央部に着弾し、過負荷に耐えかねたバスターランチャーは、クロスボーンインパルスが手放すのとほとんど同時に爆発を起こす。
 貴重な砲撃用の武器を失った事の苛立ちよりも早く、シンは腰裏にマウントしていたムラマサブラスターを抜き放ち、右手一本の右八双に構えさせていた。
 ムラマサブラスターは、十四基ものビームサーベルの基部を備えた強力な接近専用の武装であり、同時に刀身内部にビームガンを備えた遠近両距離に対応できるマルチウェポンである。
 ムラマサブラスターの切っ先に仕込まれているビームガンで、バスターランチャーを撃ち抜いた敵機への牽制に、五射放つ。一発ごとの間隔が極めて短い見事な連射技術であるが、すべてが空を穿つ。

 

「あんな鈍重そうな機体で、なんて動きをする!」

 

 シンの視界の先に映ったのは、東アジア共和国で運用されているティエレンだ。地球連合では珍しいモノアイが、赤く輝きながらクロスボーンインパルスを捉えている。
 シンは相対するティエレンが通常タイプとは異なる形状をしている事に気づいた。
ぱっと見た分には大きな違いはないが、オレンジのカラーリングや、右肩だけ金色に塗られていることから、エース専用のカスタム化された機体なのだろう。
シンの予想通り、新たに襲い来たこのティエレンは、超兵専用のチューンが加えられたティエレンタオツーである。
だが、シンの背筋に緊張の楔を打ち込んだのは、機体の外見の差異よりも、自分以外の全てを燃やしつくす様な激しさで、タオツーから放射される殺意と破壊衝動の強さと冷たさであった。
猛獣も及ばぬ凶悪な闘争本能と人間だからこその冷酷さを兼ね備え、戦いに対して一切躊躇いも迷いもないのが、ひしひしと伝わってくる。戦闘中毒者とも殺人機械とも異なるが、類稀な強敵に相違ない。
 さらに酷似した気配を持った同型機が、その背後から姿を見せる。オレンジのカラーリングは同じだが、左肩を銀色に塗られた機体である。こちらは逆に抑え込んだ躊躇や迷いといった感情がわずかに感じ取れる。
 正反対の性質を持ちながら、そのくせ根本的な部分、根っこの様なものは鏡で映したように同じものであるとシンには感じられた。

 

「なんだ、双子でも乗っているのか!?」

 

 思わず放ったシンの言葉は、偶然にも真実を射ていたのである。
あっという間に友軍機を立て続けに撃墜したガンダムタイプに興味を惹かれ、獲物を嬲る残虐性を発露して襲い掛かったのは、東アジア共和国のハレルヤ・ハプティズムであった。
そしてハレルヤのサポートを行うべく若干遅れて動いた銀の肩を持つタオツーに乗るのは、アレルヤ・ハプティズム。その性格を除けばハレルヤと鏡で映したように同じ容姿を持った青年だ。
今回の地球連合艦隊精鋭部隊でも十指にはいるエース二人が、獰猛な金と銀の牙を剥き、シンに襲いかかろうとしていた。

 

「はっはあ! 動きが鈍ってるぜぇ!!」
「DCのワンオフ機か。ここで落とせればっ」
「来るなら、来い!!」

 

 全十四基のビームサーベルを起動させ、アンチ・ビーム・コーティング済みシールドも、ラミネート装甲も問答無用で切り裂くムラマサブラスターを構え、シンは襲い来る二機のタオツーへ、疾風となって斬りかかった。

 
 

――つづく。

 
 

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