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SRW-SEED_660氏_ディバインSEED DESTINY_第35話

Last-modified: 2010-03-07 (日) 13:42:37
 

ディバインSEED DESTINY
第三十五話 国防に生き国滅に死した男

 
 

 第二次オーブ侵攻艦隊――指揮官である大西洋連邦軍第八十八独立機動群ファントムペイン司令、三輪防人中将から名を取られて、通称は三輪艦隊――の位置を把握したDCトダカ艦隊の動きは早かった。
 まず最新鋭機動兵器VF−19F、Sエクスカリバー合計三十六機、さらに特務部隊レイブンズ用に調整されたA型エクスカリバー十四機、高速戦闘用装備を施したリオン、ガーリオンタイプからなる全百三十八機の航空部隊が編成された。
 爆撃機と攻撃機、偵察機、ステルス機とあらゆる種類の戦闘機として機能することを基本コンセプトとしたAMや、エクスカリバーの突破力と多機能性を活かして敵母艦を叩く策を選択したためだ。
 策とも呼べぬ古今からありきたりの母艦狙いの方法だが、それを実行する戦力の性能が極めて突出していることを考えれば、平凡で王道的な方法であるからこそ効力を発揮する。
 大気圏外ぎりぎりの高高度から一気に降下し艦隊を爆撃する先行隊に続くのは、メカゴジラ三機種とエルアインス、アヘッド、ガーリオンで構成された通常部隊とグルンガスト弐式、ヴァルシオン改からなる特機部隊である。
 アヘッドは、擬似太陽炉の生産コストがプラズマ・ジェネレーターに比して若干高い事から、投入されたアヘッドの七割はプラズマ・ジェネレーター搭載機である。
 基本的な出力などに大きな差はないが太陽炉特有の慣性制御のある分、擬似太陽炉搭載機の方が運動性や特異な機動をとる事が出来る。
 ただし機体の運用全てに渡ってGN粒子を用いなければならない為に、戦闘可能時間はプラズマ・ジェネレーター搭載機の方が長く、どちらの方が有用な機体かというと要は使い方次第となる。
 DCの次世代量産機であるマルチロールPTエルアインスはまだ全体の四割ほどしか行き渡っておらず、DCの主要機動兵器戦力のほとんどはガーリオンとリオンで構成される。
 それらの戦力に、物資の補充を終えてそのまま合流したセプタ三隻と後続艦隊と合わせて力押しに出たわけだ。
 また、オモシロ兵器もといトンデモ兵器もとい特殊兵器満載のクライ・ウルブズは、今度こそ奇襲を成功させるべく再びの別行動を取っている。
 嵌る所に嵌れば十倍くらいまでの通常編成の戦力差ならなんとかできる化け物集団であるから、つい先日のように対抗戦力を用意されなければおおよそ問題は無い。

 

 * * *

 

 トダカ艦隊とは別行動を再びとる事になったクライ・ウルブズ母艦として一時的に使用する事になったセプタ艦のガンルームで、レントン・サーストンは限りなく緊張に身を震わせていた。
 初陣がよりにもよってかつてのωナンバーズにも匹敵する質と、それを上回る量で構成された地球連合最精鋭部隊が相手だっただけに、心と身体の負担はこの少年の人生史上最大のものであったのは間違いない。
 レントン自身、サブとはいえニルヴァーシュのパイロットに選ばれた事を不思議に思っていたが、正直なところほんの少し前までは軍の最新鋭機体のパイロットに選ばれた事で調子に乗って、どこかへと放り投げていた考えだった。
 しかし、いまになってその事実に対する不信と恐怖が心の中で巨大な暗雲となって広がっている。
 どうして自分などがサブパイロットに選ばれたのか。どうして自分などが戦場に出ているのか。どうして自分は軍人などになってしまったのか。
 ニルヴァーシュのシートに座りながら、何もできずにエウレカに全てを任せてただ嘔吐を堪えていただけという負い目、情けなさ、また何もできずにいるだけではないかという恐怖。
 戦場に身を置いた事への後悔、都合のよい甘い考えだったと思い知らされた現実、調子に乗っていた自分を皆がどんな目で見ていたのか、どれほど滑稽であったろうかと思えば、誰とも顔を合わせられぬほど恥ずかしく情けない。
 いや、いや、いや、そのような考えも全ては戦場に出ることを躊躇う自分の弱虫な気持ちを、誤魔化す為の方便では? そんな風に考えると、とても自分が卑怯で、とても自分がちっぽけで、とても自分を許せない。
 考えれば考えるほどに自分を追い込み続けているレントンは、ガンルームの壁に備え付けの椅子に腰かけて、俯いた姿勢のまま大きく体を震わせ続けていた。
 少年らしい闊達さと未来への可能性を秘めた大きい瞳を潤ませ始めるのも、時間の問題だったろう。
 一度思い込むととことん突っ走る分、この少年、逆方向に思いこんで落ち込み始めるとどん底まで自分で自分を落とし込む困った傾向があるらしい。良くも悪くも性根がまっすぐであるという事だろう。
 長所よりも短所として機能しているその性格を慮ってか、後頭部で腕を組んで眼を閉じていたロックオンが不意に立ち上がって、レントンの隣に腰掛けた。ほかに人の影はない。
 先ほどからレントンの様子を窺っていたのだが、そろそろ声をかける頃合だろうと判断したようだ。どす、と音を立てて自分の隣に座ったロックオンに、レントンの体が一度だけびくりと震える。
 今のレントンの心境は自分以外の誰もが、自分のことを嗤っているのではないかという疑心暗鬼に囚われている。そんなことはないと慰めてほしい気持ちと、詰られて叱責されることを恐れる気持ちとが同じ分量だけ心の中にある。

 

「ずいぶん落ち込んでいるじゃねえか。お前の周りだけ暗くなっているみたいだぜ、レントン」
「すみません」

 

 蚊の鳴くような声で返事をするレントンを、こりゃ重症だとロックオンは思う。いやべつに声をかける前から見ているだけで相当凹んでいることは察しが着いたが、この落ち込みようは生半可ではない。
 顔色は水死体がかろうじて息を吹き返した、といっても通用するくらいに青白いものだし、八の字に曲げられた眉は心苦しそうに震え、頬や額を伝う汗はそのてかり具合からして脂汗や冷や汗の類だろう。
 幼稚園児が見ても、絶対に普通ではないレントンの様子である。アルベロやジニン、デンゼルといったベテランの上官勢が、新兵であるレントンのケアを多少成り行って然るべきだ。
 なおエペソにそのような心情的な配慮は最初から期待していない。エペソが前大戦時から戦争の当事者であると同時に自分は傍観者である、というスタンスを崩していない為だ。
 ロアノーク艦隊との戦いから間を置かずの連戦になったことや母艦タマハガネからセプタへの移乗作業、機体の補充、部隊の編成や指揮系統の再構築などと忙しさに追われたこと。
 またレントンと同じ立場のはずのエウレカが至って平静であったことやクライ・ウルブズの新兵たちというのが自力で立ち直るなり、初陣後もまったく取り乱さなかった例ばかりであったことからアルベロ達の対処は遅れたようだ。
 これは多少止むを得ない緊急の事情があったとはいえ、アルベロたちの失点というほかないだろう。
 ロックオンと立場や年齢が近いトビーはトビーで、自小隊の新兵セツコのフォローとサポートに手を取られているし、自然的にロックオン辺りにレントンのフォローを行う役が回ってくる。
 戦場を経験した数ならシンやアウル、スティング、刹那などはレントンと比較にならない猛者なのだが、彼らはその経歴や人格、年齢の問題から落ち込んでいるレントンを発奮させるなり激励するのには向いていない。
 こういうのがおれの役目さ、とロックオンは心の中で苦笑する。兄貴風を吹かすのは、昔から得意だったし、別にいやな役目だとも思わないしな――心中でそのように独語し、ロックオンは口を動かし始める。

 

「自分がカッコ悪くて仕方がないって顔をしているな」
「……そりゃ、自分がどんだけ情けなかったくらいは分かってます」
「そういう風に自分で自分の事を責めるってのは、他人に言われるよりは傷つかないからするもんだ」
「っ!」

 

 ロックオンの言葉に、レントンは膝の上で握っていた拳に力を込める。どれだけ力が込められているのか、指の付け根は白く盛り上がり震える。
 まだ、完璧に折れちゃいない。レントンのその様子を横目に見ていたロックオンは、ふとこのままレントンを励ますべきかどうか迷う。
 この場で戦う事を諦めさせれば、遠からずレントンは前線から身を引くだろう。そうすれば、少なくともこの部隊に在籍したまま戦うよりも安全だろう。
 エウレカはこのまま部隊に残るだろうから、二人は引き離される事となるがレントンの身の安全を考えれば、このまま部隊を離れるべきだ。
 しかし同時にレントンのエウレカへの入れ込み具合も、短い付き合いではっきりとロックオンにも分かっている。このまま別れれば、エウレカは分からないがレントンにとっては一生自分を許せなくなるかもしれない。
 命を優先すべきか、心を優先すべきか。いや、何を偉そうに考えている、ロックオン・ストラトス。年長者ぶって、上から物を言う資格が自分にあるなんて思いあがっているんじゃないのか?
 せいぜい出来るのは、レントンの背中を少しだけ押す事か、あるいは踏ん切りをつけるきっかけを与える事くらいだろう。それだけでも十分に上出来だ。

 

「レントン、別にお前がカッコ悪かろうとカッコよかろうと、この部隊の連中は気にしない。良くも悪くもな。だからよ、他人の評価なんて気にしないでがむしゃらにやれよ」
「がむしゃらに、っスか?」
「そうだ。お前の年頃は色々と悩んじまうもんだが、後になってみればどうってことないって事だった、笑っちまう事ばっかりだ。エウレカに格好いい所見せたいって気持ちはおれも良く分かる。
 けどそううまくはいかないってよくわかっただろ? だったら今度は逆にとことん格好悪い所見せちまえよ。一度どん底まで落ちれば、後はそこから這い上がるだけだからな。そっちの方が気が楽なもんだぜ?」

 

 真面目とも冗談ともつかぬロックオンの口調と言葉に、レントンはどう判断するべきか戸惑っている様な顔をした。ただ、ロックオンの言う事を真摯に聞こうとしているのは確かだ。

 

「そうは言いますけど、だって、戦場なんですよ。下手したら、おれだけじゃなくてエウレカだって死んじゃうかもしれないのに、そんながむしゃらにやってみろって、無責任に言われても!」
「お前ががむしゃらにやれるようにサポートはする。お前が全力を出せる様に責任を持ってな。だから、お前は自分の事にだけ責任を持ってがむしゃらにやれ。この部隊の連中はみんなお前よりか強い。
 おまけにお人好しが多いからな、お前が上手くやったら祝ってくれるような連中だ。だから他人の事なんざ気にしないで、自分のやりたいようにやれ。ここで踏ん張って戦うのもいい。戦わずに艦を降りてもいい。それがお前の選択ならな」
「みんなを置いて逃げろってんですか!」
「怖い顔するなよ。お前は逃げるって感じるだろうが、戦う事を止めるのも一つの勇気だ。銃を向けられて銃を手に取らずにいられる人間ってのは少ない。一方的に撃たれる恐怖に耐えなきゃならないからな」
「……」
「悪いな、かえって頭の中をこんがらがせちまったか。まあ、おれの言いたい事はだ、自分のする事に責任を持て、ただしおれの出来る範囲でお前の助けにはなるって話さ」
「結局、腹括って自分で決めろって事なんすね」
「恨めしげに見ても何も出て来ねえぞ。おれはお前より十年かそこら長く生きちゃいるが、何でも解決できるような事言えるほど人間が出来ちゃいないんだ。残念な事にな」

 

 言葉では謝るロックオンだが顔は軽く笑っており、あくまでレントンの気分を落ち着かせる為か、気を紛らわせる程度のつもりで話していたのだと分かる。
 両手で頭を抱えて俯いた姿勢から顔を上げてロックオンの表情を確認し、はあ〜〜っと深い諦め交じりの溜息を零す。重すぎてそのままごとんと音を立てて床に落ちそうな溜息である。
 そのまましばらく沈黙を維持し続けたレントンだが、とりあえずロックオンとの会話である程度の整理ができたか、区切りをつけたのか、口を開いてぽつりと零す。

 

「少し気分は落ち着きましたんで、前には進めそうっス」
「おお、そいつはなによりだ、青少年。格好悪かろうがなんだろうが、全力でやれ」

 

 ぱんぱん、とレントンが軽く痛みを覚える位に肩を叩いてロックオンは立ち上がり、ガンルームを後にする。あまり上手くはやれなかったが、ま、よしとしておこう。ロックオンはわりかし細かい所を気にしない性格らしかった。

 

 * * *

 

 推定された三輪艦隊との会敵時刻に備えて各パイロットが自機に搭乗し待機するよう告げられるよりもはやく、クライ・ウルブズの若きエース、シン・アスカはインパルスのコックピットに居た。
 浅く緩く息を吐き、丹田で練り込んだ気を血流に乗せて全身に巡らせ、五感を研ぎ澄まし、六感の働きを活発なモノにする。
 自己の意識を拡張し、他の生命のみならずMSや戦艦を含む無機物にさえもシン・アスカの意識を浸透させ同調を深くしてゆく。
 インパルスの手足はシンの手足となり、カメラ・アイはシンの瞳となり、プラズマ・リアクターは心臓と化す――決して錯覚ではないその感覚を深めるほど、シンと機体間でのタイム・ラグはなくなり、人機一体の境地へと至る。
 調子が良ければOSの補助なしの完全なマニュアル操作で、インパルスの指で生卵の殻を割ることだってできるし、皿の上の豆を別の皿に移す作業も成功させた事がある。
 機体の重心移動を自分の肉体と同等に感知し、ミリ単位での操作も可能としている。流石に皮膚感覚まで再現するのはまだ無理だが、そのうちできる様になるだろう。
 肉体と機体の同調作業以外にも、シンには精神とシステムとの同調にも時間を割かなければならなかった。
 精神力と気を物理エネルギーに変換するエネルギー・マルチプライヤーシステム、万人が持つ念動力の素養を強制的に引き出し増幅するカルケリア・パルス・ティルゲム、この二つとの同調作業はシンにとって死活問題である。
 シンが血道を上げる修行の果てに開花させた念能力と、武道家としての理想に近づきつつある精神に依存する両システムは、シンの絶大な戦闘能力を支える一因であり、同時にシンの精神次第で著しく戦闘能力が弱体化する原因だ。
 戦場に身を置いて三年年近くが経ち、その間欠かさなかった修行の成果もあって、シンは感情と思考を切り離す術や、怒りを真に爆発させる時まで抑える事を学んではいたが、生来の情動の激しさばかりはどうしようもない。
 擬似念動力ともいえるシンの“念”の力は、前大戦時にカルケリア・パルス・ティルゲムの第三段階リミッター“アンティノラ”の領域に達していたが、そこからはどうにも伸び悩んでいる。
 念能力の瞬発的な最大値の上昇よりも、制御能力の向上に努めていたという事もあるが、第四段階ジュデッカともなれば準サイコドライバー級の念動力に覚醒しなければ到達し得ない。
 純粋な念動力者でない分シンにとってその壁は相当に厚く、突破するのはまだまだ難しいと自分でも分かっている。
 ウォーダン・ユミルとの二度目の戦闘の時の感覚を完全につかめば、あるいは、と思うが、ただ、あの時はビアンが殺されたと思い込んだ怒りと憎悪に突き動かされた危険な状態だった。
 いってしまえば爆発寸前の核爆弾みたいなものだったから、あの時を再現してはならないと固く心に誓っている。
 増幅された負の感情は、シンの精神的潜在能力を爆発的に開花させるが、それは同時に目に映るもの全てを破壊する殺戮者の誕生につながる危険性を秘めているのだ。

 

「っと、いけね。ちょっと焦っちゃったか」

 

 ピピ、と小さくシステム同調エラーを告げる電子音に気づいて、瞑目していたシンが目を開き、リスタートの作業を進める。出撃の命令が下る三十分前には戦闘可能状態に持っていかなければなるまい。
 最高のテンションに達すれば自然にエネルギー・マルチプライヤーが、機体をスーパーモードに移行させ、耐久力・順応性・運動性とあらゆる性能が一段強化される。
 DCインパルスは装備するシルエット次第でではあるが、シンの戦闘技術によって特機とも真正面から戦える打撃力を備えるが、スーパーモードともなれば足を止めた殴り合いさえ可能となる。
 シンの肉体のリハビリは済んで、すでに絶好調といえるコンディションではあるが、意図してスーパーモードを起動させられるのはほんの一、二分ほどが限度で、かろうじて星薙ぎの太刀に必要とされる時間を確保できるのみだ。
 おそらく念法と戴天流の功夫を積み重ねていけば遠からず、自在にスーパーモードを発動できるだろう、とシンは確信していたが、今はまだそこまで到達していないのが事実。
 シンは改めて息を吸い、自身の肉体を構成する数十兆個の細胞と機体を構成する無数の部品とを同調させる作業に戻る。
 先日のロアノーク艦隊での戦いでは、敵艦隊のエースらしき三機に拘束されて味方の援護に回る事が出来ず、大きな被害を出してしまった。
 たった一機で戦場の勝利を左右するほどの存在、それがシン・アスカであることは自他ともに認めるところである。
 シンからすればたった三機に拘束された事を不甲斐なく思っているが、シンと戦ったセルゲイやアレルヤたちからすれば、自分達三人を相手にたった一機で互角に渡り合ったシンの方こそとんでもないと言うだろう。

 

 * * *

 

 偵察部隊の報告によって互いの存在を感知していた三輪艦隊とトダカ艦隊は、それぞれの空母とMS運用艦からMSを発進させ、両艦隊の中間地点の空域で戦端を開く事となった。
 三輪艦隊の司令を務める三輪防人は、経歴不明の限りなく怪しい人間であったが前大戦時からブルーコスモスの熱烈な信奉者として、ムルタ・アズラエルに気に入られ、アズラエルの死後も新たな盟主ロード・ジブリールによく仕えた人物である。
 己の信ずる道をひたすらに邁進し、大概の障害は民間人軍人問わず地位や権力を駆使し、暴力を振るう事も厭わぬ性分であるが、仮にも艦隊司令を任されるだけの能力はあり、将官と佐官が欠乏している地球連合には貴重な人材でもある。
 三輪司令は艦隊旗艦であるクラップ級巡洋艦“ヒノモト”の司令用シートに腰掛け、アームレストを一定のリズムでタバしながら、DC・大洋州連合・ザフト混合部隊とジェットウィンダム部隊の交戦開始の報告を受けていた。
 三輪は苛烈な性分で部下に対してさほど気配りをする人物ではない為、直属の部下からもさほど信頼されてはいなかったが、一年戦争、Dr.ヘルや恐竜帝国、妖魔帝国との戦い、ゼ・バルマリィ帝国との戦いや、封印戦争を戦い抜いた猛将である。
 MSは言うに及ばず機械獣、メカザウルス、ゾンダー、ゼントラーディ、使徒などとも交戦経験を持ち、大概の事では動じない耐性を有しており、また果敢に攻勢に打って出る思い切りの良さを持つ。
 かような経験を持つこの人物は、もちろんコズミック・イラ生来の人間ではない。DCのエペソ大佐同様に新西暦世界に置いて、アズラエルの配下についてプラント殲滅に勇訳猛進した軍人だ。
 三輪が生まれ、戦い、そして死んだ世界で地球を襲った敵の種類は実に豊富で、何が出てくるか分からないDCのバリエーションを上回る経験の持ち主だけに、意外に対DC戦では有用な人物と言えない事もない。

 

「コッホ博士、ヴァルシオン改部隊の出撃はまだか?」

 

 三輪が親の仇でも見るみたいに険しい瞳を向けたのは、彼の隣にオブザーバーシートに腰かけた妖怪じみた老人、アードラー・コッホ博士だ。
 ブルーコスモス前盟主ムルタ・アズラエルに引き続き、新盟主ロード・ジブリールにも巧に取り入り、大西洋連合軍内でかくたる地位を確保している。
 アードラーは倫理を無視した狂気的な頭脳の持ち主であるが、かつてDCの副総帥を任されただけはあり政治的な物の見方や、行うべきアクションというものを理解しているのだろう。
 艦隊の指揮系統の外に設けられたヴァルシオン改部隊は、アードラーの許可がなければ戦闘に参加させる事が出来ない。自身の指揮を受け付けないイレギュラーの存在を忌わしく思うのは、三輪でなくとも当然であったろう。
 けひ、とひどく耳障りな笑い声を一つ零し、アードラーは邪悪極まりない魔法使いの様に、三輪を下から睨め上げる。

 

「DCのやり口からして例の特殊任務部隊が牙を研いで折るじゃろうからな。そいつらを迎え撃つために残しておるのよ。わしのゲイム・システム部隊が後の守りについておる。
 千の援軍があるのと同義と思ってくれてよいぞ。艦隊の通常戦力はいっぺんに全部出して構わんのではないかな、三輪司令」
「ふん、敵性兵器などを喜々として使いおって。ヴァルシオンなどといういかがわしい兵器は貴様の好きにせい。そのかわり艦隊の指揮にいっぺんたりとも口を出すな。子泣き爺めが」
「ひひひ」

 

 このくそじじいが、という悪態を三輪はかろうじて喉の奥に飲み込み直した。本国に残ったアギラ・セトメがいたら、三輪の悪態は堪え切れずに倍の数となって外に飛び出ていただろう。
 艦隊司令とオブザーバーの不毛極まりない口撃の応酬が行われる間にも、会敵した両軍の部隊の戦闘は着実に被害を出しあっている。
 ジェットウィンダムの性能は三国混合艦隊の運用する機動兵器に比べ、やや劣る性能ではあったが、十分に優秀といえる機体であり、先の大戦により学んだ運用方法と連携技術を活かして戦っている。
 ただし交戦している三国艦隊には予想通りクライ・ウルブズの機動兵器の姿はなく、メカゴジラタイプ三機やケロンタイプ五機の機影もいまはまだなかった。
 海中を潜行して三輪艦隊の真下から襲いかかるのか、それとも両艦隊の距離が遠く開戦序盤とあって様子を見ているのかは分からないが、姿を露わしたならば、アードラーもヴァルシオン改の投入を決断するだろう。
 メカゴジラタイプとケロンタイプ両方共に、そうでなくば到底抑えきれるものではない突破力と殲滅力を兼ね備えた恐ろしくもまた愉快な機動兵器であるからだ。

 

 * * *

 

 先行するジェットウィンダムの中に、マゼンタカラーに塗装された機体がある。通常設けられているジェットストライカーのリミッターを解除し、爆発的な加速力を有する特殊な機体である。
 搭乗者はファントムペイン所属ロアノーク艦隊元司令ネオ・ロアノーク大佐だ。大佐という階級を有しながら、先のクライ・ウルブズとの戦闘で成果を挙げられず、先行部隊の指揮権すら与えられぬままに前線に出ている。
 一応指揮下にはオルガのガイア、クロトのカオス、シャニのアビスがいるがそれきりだ。ネオ自身、功績を挙げられず文句を言う資格がない事は痛感しているため、黙って操縦桿を操りながら、三国軍と戦う事に集中している。
 ブーステッドライフルの大口径弾頭を羽毛のようにふわりと軽やかな動作で躱して、ネオは区切られたモニターの中に映るガーリオンを照準内に捉える。
 ブーステッドライフルは威力が大きい分反動が大きく、わずかにではあるがガーリオンの動きは鈍くなり、そこを逃さずネオはビームライフルのトリガーを引く。
 感覚的に百発百中の射撃であったから、ネオはすぐさま別の標的を捉えるべく仮面の奥の瞳を、モニターに表示される各種のデータに巡らせる。
 粉塵と爆炎混じりの爆発へとガーリオンが変わった時には、ネオはデータに照合しない新機種を捉えていた。
 胴体に埋もれるようにして曲線的な頭部を持つ変わった印象を受ける機体であった。DC系列ともザフト系列とも異なるデザインは、残る最後の選択肢である大洋州連合の機体かとネオに思わせた。
 ネオの感じた印象は正しく、四機編隊を組んでネオのジェットウィンダムに光弾を撃ち掛けて来たのは、量産に漕ぎ着けられた大洋州の主力機動兵器ガンアーク。
 タック機は純白、マリナ機は薄紅色であったが、量産型は青い塗装が施されている。先行量産されたタック達の機体のデータをフィードバックし、十分な信頼性と安定した性能を併せ持った優秀な機体である。
 擬似的な戦闘機形態をとり、その高機動性を活かした乱戦に持ち込み、数の有利と連携を持ってネオを撃破する目論見のようだ。

 

「目に優しい青だ。おれも好きだぜ、その色。だが、すべて落とさせてもらう」

 

 アークライフルとホーミングミサイルの雨の中を、ネオは曲芸めいた動きで飛び回り、ジェットストライカーの翼に供えられた小型ミサイルの雨をばら撒いて牽制を行いながら、四機のガンアークの動きを同時に全てとらえつづける。
 四機のうちのどれか一機だけでも動きを見逃せば、次の瞬間にはネオ自身の命を脅かす危機になり得る。
 生来の高度な空間認識能力に加えて、後天的に強化されたネオの能力は容易くそれを可能とし、ジェットウィンダムに対して右側に弧を描いて通り抜けるガンアークの一機にビームライフルを射かける。
 正確な狙いをつけていない編隊を乱す為の乱射だ。当たれば儲けものと思って撃ったライフルだが、幸運にも一発がガンアークの左主翼を撃ち抜いてバランスを崩させた。
 逸ってその機体を撃墜しにかかれば、それぞれ別方向に回避した他の三機に集中砲火を浴びせ掛けられてこちらが海の藻屑に変えられるだろう。
 さて、どの機体から落とすか、とネオがほんのわずか思案したところで後方から放たれた強大なエネルギーが、上方に回避機動を取ったガンアークを飲み込んで、高熱に耐えかねたガンアークの装甲が一息に爆発を起こす。

 

「クロトか、いいサポートしてくれるじゃないか」

 

 ガンアークを落としたのは、クロトの駆るカオスが放った一撃だ。特にクロト達に指示を出してはいなかったが、カイ・キタムラの鉄拳教育の名残から、機会あれば援護射撃くらいはしてくれる。
 思ったよりは使えるかね? と口元に微笑を浮かべ、ネオは味方の撃墜に動揺を見せるガンアークへとビームサーベルを抜き放って、一気に距離を詰める。その最中、もう一機のガンアークへもライフルで牽制を行っている。
 ガンアークのパイロットは、リミッターを解除されたジェットストライカーの推進力を見誤った様で、小回りの利く人型へと変形を行い、アークライフルをサーベルモードに切り替えて、ネオのジェットウィンダムと斬り結ぶ。
 ミラージュコロイド技術によって形作られるビームサーベルとは、アークライフルのサーベルは原理が異なる様で、鍔競る事も可能だ。
 バチ、と鼓膜を割き網膜を焼くような電光が二つの光刃の衝突点で発生した、とネオとガンアークのパイロットが認識した瞬間に、両者の力量の差が如実に表れた。
 サーベルを合わせた瞬間に、ネオは機体がパワー負けしている事を悟り、すぐさま刃を退き、ガンアークはサーベルを押しつける力をいなされて、大きくバランスを崩して前屈みの姿勢となる。
 それを見逃さぬネオではなかった。ジェットウィンダムの左手に握るビームサーベルは、一切の迷いなくガンアークの胴を薙ぎ払い、高熱によって切断面を赤熱させながら、その背へと抜ける。
 振り抜いた刃と共にガンアークの後方へと飛翔したジェットウィンダムの背後で、上下に両断された鋼鉄の巨人が、新たな死の爆発花となってこの世から搭乗者もろとも消えた。

 

「機体はいいが、あんたらみたいな普通の人間相手に傷一つでもつけられたら、おれの生みの親と兄弟に馬鹿にされちまうんでね。悪いがここでやられるわけにはいかないのさ」

 

 身体能力の他に、彼の肉体を健常人と同じものと誤診させる役にも立っているマシンセルが、ネオの意志と興奮状態に応じて活動を活発化させた。

 

 * * *

 

 ネオを含む三輪艦隊先行部隊が、三国艦隊の先行部隊との戦闘を徐々に激しいものに変える中、戦闘地域を避けながら青い海が暗黒に変わる深さを航行する巨大な影がいくつもあった。
 地上水中両用の機体であるメカゴジラ三機種、そして準特機として実戦に初投入されたケロンタイプ五機種、そしてクライ・ウルブズ各機を搭載したドック艦の域を超えたドック艦セプタが、その影の正体であった。
 彼らが向かう先は、三輪艦隊本隊。
 天空からその矢の先を向ける航空戦隊に加えて、海の底より襲い来る怪獣部隊。
 それを迎え撃つのは、狂気の老科学者が生み出した完全なる無人機動兵器部隊。
 勝利の天秤が傾く先は未だ知れずとも、その戦いが恐るべき死闘となる事は間違いなかった。

 
 

――つづく

 
 

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