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SRW-SEED_660氏_ディバインSEED DESTINY_第45話

Last-modified: 2010-08-02 (月) 15:47:04
 

ディバインSEED DESTINY
第四十五話 テンザンの憤慨 / セルゲイの憂鬱

 
 

 それぞれが「滅び」を意味する名を冠するルイーナとイディクスの因縁の戦いが、南半球で行われていた時より、いささか時は遡る。
 かつてヤキン・ドゥーエで早退したデビルジェネシスや真ナグツァートなどの異界の魔物を除けば、シン・アスカの歴戦の経験を持ってしても一、二を争うほどの窮地に追い込まれた戦いの直後の事である。
 ロード・ジブリールが己の持てる強権を最大限に活用し、地球連合各構成国から強制的に招集した、高い質と圧倒的な物量を兼ね備え、さらには奇策までも用意した艦隊との激戦を終え、本隊と合流してオノゴロへと帰還するその道すがら。
 過剰余熱で熱を持ったアサルトバスターシルエットが、DCインパルスの素体から作業用クレーンによって、王族の着替えを行う侍従の様な繊細さで外されてゆく。
 まだ試作段階に在るアサルトバスターシルエットが、過酷極まる使用にも耐え破損することなく持ちかえられたのはきわめて幸運なことといえた。
 今回の戦場が昨今の戦いの中でも群を抜いて厳しいものであったことも確かだが、それ以上にインパルスのパイロットであるシンは、とかく機体に無理をさせて損傷させる、とメカニックや研究班から辛辣な評価をされているからだ。
 実際には、シンが機体にも自分にも無理をさせるのは、そうしなければ部隊に多大な被害がもたらされるような不利な状況に陥った場合にのみ限られる話である。
 だが自軍の者たちでも信じられないような戦果をあげてきたクライ・ウルブズにぶつけられる敵戦力は、近代戦のセオリーを無視した物量か質をそろえたものである事が多く、その無理をしなければならないケースが増えてきているのも事実だった。
 そのために必然としてシンが機体と自分自身に無理をさせる事は多く、機体の整備の時や健康診断を受けるたびに自分の体と愛機の事をもっといとえと諭されてばかりいる。
 コックピットからラダーを使ってセプタ級ジグロードの格納庫に降り立ったシンは、インパルスに続いて着艦してきた特異な外見の機体に目を向けた。
 DC最強と言われるクライ・ウルブズの精鋭といえどもさすがに損傷している機体ばかりで、メンテナンス用のオートロボットやメカニック達は死体に群がる蟻のようにせわしなく動き回っている。
 彼らにとっていまこそが本当の戦場であったろう。戦闘の後の興奮を二度の呼吸で整えたシンは、メカニックの一人から受け取ったドリンクで咽喉を潤しながら額に浮かぶ汗の玉をぬぐう。
 シンが赤い視線を向ける機体の全高はインパルスとそう大きく変わらぬものではあったが、円筒形の二の腕や太もも、重火器やシールドなどを携帯していない無手に、どことなくテレビの中の悪の幹部やライバルキャラを思わせる露悪的なデザインは否応に目を引く。
 まあ、DCに、特にクライ・ウルブズに籍を置いていると奇妙奇天烈な外見の機体に出くわす機会が多いのでさほどインパクトは強くなかったが。
 ガンキラーという名前らしい機体が足元のシンに気付き、顔をこちらに向ける。全身にサブ・カメラがあるはずだから、わざわざメインカメラを向ける必要はないだろうに。
 とはいえやはり人型をしている以上、メインカメラを向けられると見られている、という意識が否応にも抱くものだ。シンはそのガンキラーに向けて軽く右腕をあげる。簡素だが、とりあえず再会の合図である。

 

「お久しぶりです、テンザン大尉」

 

『いよう、シン。やっぱりてめえらはおれがいねえと駄目だなぁ。ええ? ぎゃはははは』

 

 格納庫に響き渡る人を食ってかかる根性の悪い男の笑い声に、シンは憎たらしくも懐かしさを覚えて、苦笑を浮かべる。
 テンザン・ナカジマ。シン・アスカにとって最初の上司であり、オーブ解放作戦からヤキン・ドゥーエ戦役の終戦に至るまでの間、共に闘い続けた戦友でもある。
 戦争をゲーム感覚で行っている危険な傾向は有るものの、その機動兵器パイロットとしての資質は極めて高く、オレンジとイエローのパーソナルカラーに塗装したヴァイクルを駆って多くの戦果をあげている。
 経歴や人格を全く考慮しないわけではないが、それ以上に個人の実力を重視するDCらしいパイロットの一人であると言えよう。

 

 * * *

 

 テンザンとガンキラーがセプタ級に着艦した一方で、フューラーザタリオン形態からデストロイドアグレッサーへと再変形し随伴させながら、艦長兼パイロットであるレーツェル・ファインシュメッカーは、エペソと通信にて会談を行っていた。
 大洋州連合、ザフト、DCの三国で編成されていた本艦隊の司令を務めるエペソは、目下被害状況の確認や着艦事故、撃墜機の回収など忙しさに追われる身ではあったが、生み出される時に付与された高い能力で、一区切りつけたのだろう。
 サングラスをかけた怪しい人物との会談を平然と行っているエペソの姿に、エペソと接した経験の短いセプタ級の艦長とブリッジクルーは胡散臭げに見つめているが、エペソに気にした様子はない。
 体中に張りめぐらされている神経が、一般人と異なって鋼のものと言っていいくらいに頑丈にできているのだろう。
 それも単に鈍感というのではなく他人からどう見まれているかも理解したうえで平然としているのだから、並みならぬ胆力だ。

 

「貴公らは我らに合流するわけではない、と?」

 

『テンザンとガンキラーは置いてゆくがフューラーザタリオンとミルヒーのヒュッケバインは別の用に使わねばならんのでな。大洋州の南極調査隊がルイーナの軍勢に壊滅させられた事、各地で続く部隊の行方不明事件……』

 

「部隊の消失はゾヴォークのやり口。DSSDステーションでも同様にゾヴォークの軍勢が姿を見せている。確かに貴公らの実力と機体でもなければ少数での調査には向かぬな」

 

『その通りだ。現状、どれほどの正体不明の勢力がこの地球圏に紛れ込んでいるかわからん。かといって正規軍を動かすには地球連合とザフトとの緊迫状態が危うすぎる。サイレント・ウルブズは欧州の抑えとして動かせんしな』

 

「ふむ。ならばオーブの残滓を利用することも視野に入れておくべきであろう。あれらの保有する戦力は消して馬鹿に出来ぬ。地球圏の統一を為さねば対抗できぬ脅威が出現するのも、そう遠い日の事ではないかもしれんぞ?」

 

『総帥や我が父もそれは理解していよう。ゆえにフューラーザタリオンをはじめ戦力の増強に余念がない』

 

 答えるレーツェルであるが、内心はそういうほどに平静というわけではない。実際、DCの軍事部門で重要な人物となっているエペソとて、こちらの宇宙にゼ・バルマリィが出現すればそちらに着く事はほぼ間違いない。
 せめてストライキあたりで済ましてくれれば御の字といったところだろう。この人造の将がここ数年でずいぶんと地球人にも好意的(非常に察しにくくは有るが)になっているが、故国に対する忠義は微塵も揺らいではいないのだ。
 エペソもその事は公言して憚らぬから、大佐という階級、クライ・ウルブズ司令という立場に在りながらDC軍内部での情報閲覧に厳しい制限が設けられている。
 良くも悪くも裏切る、裏切られるということをどちらも覚悟している。

 

「ふ、前戦役でルオーゾルめが暴れたせいで、いざという時に一致団結しやすくはなっているかも知れんが、それも精々前線に赴き現実を知るモノだけであろう。画像とデータでだけしか知らぬ連中の判断は、常に遅きものよ」

 

『言ってくれるな、エペソ司令。理想としてはDCの手で地球圏を統一し、その後に事が起きるのが望ましいがな』

 

「もっとも貴公と余で話をした所で未来が変わるわけでも分かるわけでもない。不毛な話はここまでとしよう。テンザンとガンキラーは余の責任においてしかと預かろう。貴公らはいつ行くのだ?」

 

『私とミルヒーもオノゴロまでは共に行き、そこで補給と修理、物資の積み込みを終えてから地球圏の調査に動く。南半球では特に問題ないが、北半球では少々動きづらいのが問題だが』

 

 そうか、と味気なくエペソは呟き、両者の会談は幕を閉じた。地球の水に馴染み始めたか、と自分でも思う頃になって活発化し始めた異星勢力。
 それらが自分達同様に死後にこちらの世界に転移してきたものか、それとももともとこちらの宇宙に存在したものかは今は分からない。
 だがどちらにせよ、ゼ・バルマリィの御旗がこの宇宙にはためいているのなら、自分は迷わずその御旗のもとへと馳せ参じるだろう。それ自体に迷いはない。
 だが、このクライ・ウルブズの者たちを筆頭に、地球の諸勢力を敵に回す事になるかと考えると、

 

「手強いな」

 

 と思わずにはいられない。自分も少なからず精強となるに一枚噛んだ部隊を敵にした時の想像に、我知らず、エペソは静かに笑みを浮かべていた。手元で育てた弟子の成長を喜ぶ師の胸中かもしれない。
 あるいは全身全霊を賭しても勝てるとは断ずる事の出来ない強敵との相対を待ち望む、武人としての高揚ゆえだったかもしれない。
 どちらにせよ、エペソは心中に思い浮かべたクライ・ウルブズとの戦いに、浮かび上がる笑みを抑える事はしなかった。

 

 * * *

 

 トダカ率いる三国合同艦隊本隊との合流を果たしたクライ・ウルブズは、無事にオノゴロ島への帰還の途に在り、クライ・ウルブズ預かりとなっているセプタ級の艦内では、久方ぶりの合流に話の花が咲いていた。
 クライ・ウルブズの機動兵器パイロット達が集合し、賑わう食堂の一角の中心には古参パイロットであるテンザンがいた。
 前大戦終結後、専用機動兵器であるヴァイクルと共に低軌道ステーションアメノミハシラ防衛任務についていたはずの男であるが、今回、新型MSガンキラーと共に古巣であるクライ・ウルブズへと合流してきた。
 テンザンの元部下であったシンやステラ、スティング達の他にもテンザンとは初対面の刹那、アクセル、エキドナ、ティエリア、ジニンといった面々もこの場に顔を突き合わせている。
 人を見下した態度が常のテンザンであるから、初対面の相手にはとかく悪印象を持たれがちだが、そこはそれ、テンザンの気質をよく知るシン達が同席しているためにさりげないフォローが行われている。
 アウルに持ってこさせたストロベリークリームソーダをちゅうちゅう音を立てて啜ってから、テンザンはしげしげと食堂に集まった面々の顔を見回す。

 

「しっかしまあ、バラエティに富んだ面々が集まってるじゃねえの。シン達とそう変わんねえくらいのガキンチョもいるかと思えば、ピンクおかっぱの姉ちゃんもいやがる。ますます軍隊離れしてんなあ、こかぁよ」

 

 ガキンチョと言われたのは刹那やレントンらであり、ピンクおかっぱと言えばもちろんエキドナである。クライ・ウルブズ構成員の中でも露出過剰の衣服で豊かな事極まりない肢体を覆っているから、性的な視線を寄せられるのも無理はない。
 テンザンの歯に衣着せぬものいいに、ほとんどの人間は顔を顰めて不愉快気な顔をするが、エキドナばかりは人の心の機微を持たぬゆえにさして気にとめた様子もない。

 

(テンザン・ナカジマか。DCに所属するアドバンスド・チルドレンの一人。ディバインウォーズからDCに在籍し、多くの戦果をあげたエース。性格に難は有るが高いパイロット適正と実力は侮れんか)

 

 要注意対象が一人増えたか、とエキドナは電子頭脳内のメモリーチップに書き加える。アクセルもいまだエキドナのよく知る彼らしい素振りを見せずにおり、ヴィンデルやレモンからの連絡もない以上、エキドナは特に大きな行動をとるつもりはなかった。
 テンザンにじろじろと舐めまわす視線を向けられているにも関わらず、エキドナは微動だにしなかったが、周りのジニンやアクセルはむしろエキドナがこの場に居る事に小さな驚きを覚えていた。
 基本的に周囲に対して無関心な調子でいる事が多いエキドナが、新しく赴任――というよりも再赴任してきた元所属員の顔を見ようとするのは、首をひねる思いであったからだ。
 テンザンの方は周囲の反応やエキドナの無関心には興味がない様子で、対面に座ってアイスココアをちびちびと飲んでいるステラに目を向け直す。その目には悪戯小僧めいた光が輝いている。

 

「ところでよ、ステラ」

 

「なに?」

 

 と小首を傾げるステラ。十六歳の所作としてはいささかあどけないものだが、幼い雰囲気と相まって何とも愛くるしいものがある。
 ふわふわと綿菓子のように柔らかな金髪の先端が、桜色の頬に数本かかり、菫色の瞳は他者への悪意や疑いを知らぬ無垢な瞳できらきらと輝いている。
 グルンガスト弐式を駆ってヴァルシオン改と死闘を繰り広げた疲労は、いまだ体の中に残っているはずだが、ちっともそれが表に出てはいない。
 エクステンデッドとしての後天的付与能力はほとんど失ったが、同時に苛烈な訓練と過酷な実戦で積み重ねた経験が、ステラの体に尋常ならざるタフネスを与えているのだ。ステラやアウルもそれを同様であろう

 

「おめえ、シンとどうよ? 前からおめえらいちゃいちゃしてたけどよ、少しは仲ぁ、進んだかあ?」

 

「ふぇ?」

 

 ぶふぅ、と口にしていたオレンジジュースを噴き出したのはシンである。周囲が二人の仲は二人の自然な成り行きに任せる、と空気を読んで暖かく見守ってくれていたのに対し、この太めの元上司は容赦なく当人たちに切りこんできた。

 

「おめえが忘れても記録にはばっちり残ってんだよ、シン。初出撃ん時に、ステラが撃墜されたと勘違いしたてめえが怒りまくって叫んだのやらなんやらなあ? 第一、総帥も副総帥も二人の事はほとんど暗黙してんじゃねえかよ」

 

「い、いいや、それはそれで、これはこれで! お、おれとステラは、その、な、なんという、なんといいますか!」

 

 汚した口の周りを軍服の袖で乱暴にぬぐいながら、シンは理路整然と言う言葉からはかけ離れた調子で、なんとか弁明しようとするもろくに言葉を整える事も出来ない。
 シンの対面に座っていたアウルは、顔面に浴びせかけられたオレンジ色の滴をぬぐいながら、怒りを満とたたえた瞳でシンを睨んでいるが、あっという間に切羽詰まされたシンに気付く余裕はない。
 周囲の方も、ずばりと切りこんだテンザンに、デリカシーがないとは思いつつも結局、思う所は一緒なので、シンのフォローに回る事はなかった。
 ティエリアやジニン、刹那などは何を言っているんだこいつらは、といった所だが、アクセルやレントン、タスクあたりは興味を示している。意外にエキドナも部隊内の人間関係の情報とあって、テンザンとシン達のやり取りから目と耳を外さずにいた。
 シンが慌てる一方で、ステラはにっこりと笑んだ。大輪の向日葵がそこに咲いたような、輝かんばかりの笑みであった。

 

「ステラ、シンの事、大好きだよ!」

 

「あ、う……」

 

 爆弾といえばもうこれ以上ないというほどのステラの爆弾発言に、シンは自然と抗弁する口を閉ざす。話題の中心人物の片方がこの様子では、自分が何を言おうとも無駄に終わるのは明白だ。
 以前は男女の好きではなく、友情の延長上での意味合いの大きかったステラの好きも、今ではすっかりと異性に向ける好きに変わってきている。
 自分の発言に困ったような嬉しいような、けれど賛成はしてくれていないシンの様子に、ステラは不安げに眉根を寄せる。シンにはステラの頭にしょぼんと垂れる犬の耳がはっきりと見えた。無論、幻覚だ。

 

「シンは、ステラのこと嫌い?」

 

 大粒の瞳を不安げに揺らし、かすかに開かれた唇から紡ぎだされた言葉には拒絶への恐れと期待が混じり合い、上目づかいに自分を見上げてくるステラの様子に、シンは耳の先まで赤くなり熱くなるのを自覚した。
 ステラさん、それは反則ですよ。

 

「……もちろん、おれも、ステラの事が、好きだよ」

 

 噛み締めるように力を込めて、シンはステラを安心させるように笑みを浮かべる努力をしながら正直な気持ちを告げる。シンとてステラに対して向けている自分の感情くらい、流石に把握している。
 初めて会ったときからはや二年近い年月が経過していて、いまさら自分の気持ちに気付いていないという事は、散々鈍感、鈍い、と言われてきたシンでもなかった。だからといって公衆の面前で口にするのには果てしなく抵抗を覚えるけれど。

 

「うん!」

 

 そんなシンの心境はお構いなしに、シンもステラの事が好き、と言ってもらったステラは、喜びの表現を惜しむ事はなく、隣に座っていたシンの左腕に自分から抱きついて頬を摩り寄せる。
 ステラがシンに対して頻繁に見せる子犬が甘えるような仕草であるが、豊満なステラの乳房を惜しげもなく当てられ、挟み込まれているシンとしては非常に困るモノがあった。おもに下半身が。
 かといってこの極楽状態から自分の意思で脱しようなどという考えは、思春期まっただなかのシンに在るはずもなく、鼻の下を伸ばしながらステラの好きにさせるきりだった。
 ただ、後から食堂に入ってきた黒髪の女性が、目に見えないハートマークとうっすらピンク色の雰囲気を振りまいている二人の姿を目撃して、自分でもわからぬうちのその場から逃げ出してしまったが、無論、シンがその事に気付くはずもなかった。

 

「けーー」

 

 と奇怪な声と共に舌を出し、やってらんねえぜ、と言外に物語っているのはこのきっかけを作りだした当のテンザン本人である。シンの奴を久しぶりにからかってやろうと思ったのに、間違って藪を突いて蛇を出してしまったらしい。
 シンとステラの衆目を憚らぬ様子に、集まっていた面々もあーあー、はいはい、ごちそうさま、といった様子だ。ま、たしかに第三者が見ていて楽しいものでもない。
 シンとステラは周囲の様子に気づかないようで、ステラがシンの腕に抱きついた姿勢のまま長いことその場を動かなかった。
 その場の雰囲気を何とかしようと努力したのは、スティングだった。微妙に口元をひきつらせながら、なるべくシンとステラを視界の外に外してテンザンの顔を覗き込む。あまりまっすぐ見つめて楽しい顔ではなかった。

 

「ところで大尉のヴァイクルはどうしたんだ? 正直、ガンキラーよりあっちの方が大人数を相手にするのは向いているだろ?」

 

「け、ヴァイクルよりもガンキラーの方がおれの趣味に合うっての。……ヴァイクルの奴ぁなあ、壊されちまったんだよ。いま思い出しても胸糞悪いぜ」

 

 スティングの質問にあからさまに不機嫌になって答えるテンザンに、ヴァイクルの性能とテンザンの実力を知る古参組の面々がそれぞれ顔を突き合わせた。
 テンザンの実力もさることながら一対多の戦闘において圧倒的な戦闘能力を発するヴァイクルが破壊された、というのは少なからず衝撃を与えるものだ。
 七十メートル近い特機以上の巨躯とそれに見合う耐久性、下手なMSを上回る高い機動性、機体を保護する強固な防御フィールドに、一撃で艦船を轟沈させる強力な砲や無線誘導兵器であるカナフ・スレイブと、申し分ない装備を備えている。
 発見時にはほぼ大破に近い状態であったため、ゼ・バルマリィ帝国純正のパーツがいくつか欠損しており、DC製のものに置き換えられているがそれでもその性能は、現状の地球圏では指折りのものを誇っているはずだ。

 

「テンザン大尉が乗っていて、ヴァイクルが壊されちまったのかよ?」

 

「ちいと前にアメノミハシラ近海で、連合の連中が怪しい動きをしているってんでザフトの艦隊と一緒に警戒している時に、アンノウンに襲われっちまってよ。ザフトのWRXともどもそいつらにやられちまったぜ」

 

「WRXも!? じゃあ、ルナマリアやレイ、シホは無事なのかよ」

 

「ん〜? ああ、おれもこうしてピンピンしているのとおんなじでよ、あいつらもちょいと怪我しただけで大したこたぁねえよ」

 

 ヴァイクルのみならずザフトのWRXも敗れた、という話は惚気ていたシンとステラにも、その顔に真剣なものを浮かばせるだけの効果があった。前大戦時によく共闘する機会の多かったWRXチームの敗北は、容易には信じられたものではない。
 友人の訃報にたいする拒絶もあるし、WRXというザフトの切り札的機動兵器の戦闘能力から、敗れる姿が想像できなかったというのもある。
 シン達に衝撃を与えるテンザンの言葉はさらに続いた。

 

「それだけじゃねえぞ。その時の戦闘を嗅ぎつけて姿を見せた地球連合の艦隊もまとめて潰されちまったからなあ。そん中にはあのリュウセイとかいうクソ野郎のヴァイクルも含まれてたぜ。け、ザマアミロっての」

 

 地球連合のヴァイクルとなれば、さんざんテンザンのヴァイクルと戦って互角の戦いを繰り広げた機体だ。古参組のクライ・ウルブズのメンバーの中には戦った経験のある者もいるから、その厄介さをよく理解している。
 WRXにヴァイクル二機が撃破されたというテンザンの言葉に、アウルは驚きを隠さずに声を上げる。女の子っぽい顔立ちの中で鋭すぎて印象を悪くしている瞳がまん丸と見開かれていた。

 

「マジかよ!? 大尉もリュウセイって野郎もルナ達も相当にやれるはずだぜ? よくまとめて倒せたな。その三機だけでMS百機くらいは軽いだろっ」

 

「まあ、おれらの周りにいたフツーの連中はまるで役に立たなかったわな。ヴァイクルよりもでけえ奴でな。下半身は蛇で腕は四本、そのうち右の上の腕が蛇の頭みたいになってたな。白い奴でまるで十字架みたいにも見えたぜ」

 

「ザフトに連合、DCにまで牙を向けてきたとなるといったいどこの連中だ? 大尉はなんか聞いてんのか」

 

 テンザンの言う白い奴の姿くらいは、あとでデータを閲覧すれば見れるかもしれないが、実際に戦ったテンザンがこうも憎々しげに脂肪満載の顔を歪めている所を見るに、相当に強力な機体であるのは間違いないだろう。

 

「いや、その後にマイヤー総司令なんかと会う機会はあったんだがよ、なにも言わねえでやんのよ。ありゃ何か知っている可能性は高いが、まだおれらに知らせる段階じゃあねえ、てことだろうよ。
 どうにもうちの上層部は得体の知れねえ連中の機動兵器や事情ってやつを不自然なほど知っているみたいだし、うっさんくせえ所ありやがっかんなあ」

 

 上層部批判というほどではないにせよ、人の耳目が集まる所でよくもまあ口にできたものだ。テンザンの神経の図太さもさることながらそれを容認しているDC内部にも、いろいろと問題はあるだろう。
 流石にテンザンの物言いがあざと過ぎると思ったのか、タスクが宥めにかかった。

 

「いやいや、そこらへんで止しときなってえ。これ以上はアルベロ少佐かエペソ大佐に怒鳴られかねないっですってば」

 

「けえ、んな賢い大人にゃなりたくねえっての」

 

「相変わらずだなぁ。大尉が部隊に戻るってんだから、おれ達の苦労が増えるなあ」

 

 とほほ、と言わんばかりに顔面表情筋を崩すタスクに、テンザンはぐふふ、といかにも小悪党丸出しの笑みを浮かべる。部隊に戻ってもテンザン節とでもいおうか、悪態度を崩すつもりはないらしい。
 これは周りの連中が苦労することだろう。

 

 * * *

 

 東アジア共和国領にある軍事基地にて、新品同然のティエレンをはじめとした東アジア共和国最新から従来の信頼性の高い品に至るまで、大量の軍需物資が大型の輸送機によって運びこまれていた。
 先だってのクライ・ウルブズ壊滅戦にて手痛い反撃を被り、無数の被害者を出した“頂武”部隊に対する人員と物資の補給である。
 強制的に徴収された頂武部隊だが、共和国軍部の期待以上の戦果をあげる事が出来なかったが、それはどこの国エース部隊も同じということもあり、上層部から早急に処分を下されることは免れている。
 今回運び込まれた物資のリストに目を通していた壮年の男性士官が、問題のない事を確認してリストを兵士に渡して下がらせる。場所は大型輸送機の入り込んだ格納庫内だ。
 MSが立ったままでも問題なく動き回れるほど広い格納庫の中には、待機状態のティエレンを中心に、ウィンダムやスカイグラスパーなど連合の主戦力となっている機体がずらりと並んでいる。
 経験と実績を併せ持った優秀なパイロット達を多く失い、それらの機体を有用に活用できる人材は少なくなっていて、機体よりも人材の補充の方が男性士官――セルゲイ・スミルノフの頭を悩ませていた。
 セルゲイの予想を超えた実力を持っていたクライ・ウルブズの戦闘能力に加え、想定外というほかない増援部隊の出現と、頂武やオーバーフラッグスのエースらでも対処できる限度を超えた事態が続いた以上、仕方のない結果ではあるかもしれない。
 しかし次代の戦争に対し切り札として用意していた超兵を四人も投じ、潜在的仮想敵国である大西洋連邦やユーラシア連邦と轡を並べて戦ってまで、明確な結果を出せなかった事に、上層部がよい顔をするわけもない。
 いまはまだ強制的に今回の作戦を発動させた大西洋連邦に非難が集中しているが、実績を出さねば直にセルゲイと頂武の面々にもそれなり処罰が下されるのは間違いないだろう。
 指揮官としての責任を負う事に恐れや迷いはないが、部下たちにまで累が及ぶことだけは何とか避けられないか、それが不可能でもせめて処罰が少しでも軽くなるよう、結果を残しておきたい所だが。

 

「とはいえ、部隊の再編に時間はかかる。ザフトとDCが国内に侵攻してくれば出撃の命令も出るかもしれんが」

 

 現状では頂武がまともに部隊として機能するのはいささか難しい。セルゲイや副官のミン中尉の能力があれば、それでも部隊をまとめ上げることは不可能ではないが、万全とは言い難い。
 部隊規模を小さくするか強制的にでも共和国内の優秀な人材を集中させるべきか。敵が来るのを迎え撃つ防衛戦ならまだしも機能はできようが。
 セルゲイの冷めた心情を知らぬげに、旧世紀の環境破壊の影響によって砂漠化の進んだユーラシア大陸の大地に吹く風は、多分に黄砂を含み、開け放たれている格納庫の中にまで入り込んでくる。
 数時間も放っておけばなにもかも黄色い砂の中に塗りつぶされてしまう過酷な環境だ。セルゲイは眼に砂が入るのを嫌って、両眼を細めながら基地に戻ろうとした所で、腰につけていた通信機が応答を求めてきた。

 

「私だ」

 

『中佐、超機人の起動実験の時間までもうまもなくです。司令部にまでお越しください』

 

「分かった。すぐに行く」

 

 超機人。それもまたセルゲイの頭を悩ませている元凶の一つであった。東アジア共和国軍上層部が、他国にもパトロンたるブルーコスモスの盟主達にも秘した半生体兵器。
 セルゲイ自身が目のあたりにしてもなおその存在を信じきれぬ、常識の埒外にある超古代文明が残したという遺産達。
数ヶ月前に超機人を発掘していた共和国の部隊が、謎の二勢力によって壊滅させられた際に、土中から出現した神話上の生物を模したMSの軽く倍はある巨躯を持った紛れもない兵器だ。
それが四機。
いずれも古代中国で存在が論じられた四方を守る四体の神獣の姿をした彼らは、自らの意思を持ち、さらには操者を選ぶのみならず特定の異能力を持たねば、操縦するごとに命を削るという。
どの情報も、発掘現場襲撃の際に超機人達に乗り込んだ共和国軍兵士四名の証言によって判明した事ではあるが、明らかに現代の兵器としては扱う事に困難の二文字を思い浮かばせられる内容ばかりだ。
せめてもの救いは彼ら自身が選んだ操者たちが自軍の所属兵であり、こちらの命令を聞く事と、ロストテクノロジーの結晶である彼ら自身に自己修復能力があり、メンテナンスの心配がない事か。

 

「しかし、よもやあのようなオカルト的な存在が実在していたとは。歴史がひっくりかえるかもしれんな」

 

 ひょっとすればこの中国大陸の地下には超機人達の同類が今も無数に眠りについているのかもしれない。龍王機、虎王機、雀王機、武王機、彼らの発見によって軍上層部が迷走してしまうのではないかと、セルゲイは一抹の不安を隠しきれない。
 これまで四機の超機人達の調査は全く未知の存在に対するものであることと、意思を有する半生体兵器であることを懸念したセルゲイの進言もあって、内部構造などに踏み込んだものではなかったが、いつまでもそうはしていられまい。
 焦った上層部や研究班が独断で事を起こし、超機人の暴走を招こうものなら目も当てられない惨事になりそうだ。さんざんSF映画やパニック映画で見られた展開ではあるが、現実でも似たような出来事が歴史で繰り返されてきている。
 自分たちだけがその例外であるなどと、傲慢にも思う事はセルゲイにはできなかった。
 それに超機人達を地球連合を構成する他国に対する対抗手段にしようという上層部の判断にも、セルゲイは戸惑いを禁じえない。確かにこれまでの調査段階でも彼らの潜在的な戦闘能力の高さは報告に挙げられているが、それらは全て推察の域を超えてはいない。
 まるで彼らの戦力としての有用性をよく知るモノが上層部を動かしているようではないか。いくらなんでも考え過ぎのようにも思えるが、セルゲイにとっては超兵の若者達四人よりもよほど厄介な問題のように思われた。
 とにかく、今は自分の目で彼らという存在をよく見、そして判断しなければならない。彼らは国家と国民にとって有益なる存在なのか否か。
 そう遠くない未来に、国家と国民という枠を超え、人類にとっていかなる存在であるか、そう判断しなければならない事態に陥る事を、さしものセルゲイといえどもこの時点で察する事が出来るわけもなかった。

 
 

――つづく

 
 

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