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SRW-SEED_660氏_ディバインSEED DESTINY_第46話

Last-modified: 2010-09-10 (金) 22:04:40
 

ディバインSEED DESTINY
第四十六話 黄泉帰りのキャリコ

 
 

 地球のとある空間にて。
 全長十キロメートルほどの島の上に、ザフトの陸上戦艦レセップス級が一隻鎮座していた。またレセップスから二百メートルほど離れた所には、神話の時代に建設されたというバベルの塔を思わせる白い巨塔がそびえている。
 不思議な空間であった。
 真昼の様な明るさが空間を満たしてはいたが、空には紅蓮に燃えさかる太陽はなく、また静かな光で夜の闇を照らす月もない。夜天を流れる川の様な無数の星もあるわけでもない。
 なにも光の源となるはずの天体はないのだが、世界が不思議と明るさに満ちているのは、島に聳える塔をはじめとした建築物になにか秘密があるのだろう。
 南洋の海上にて滅びを名とする軍勢同士の戦いに介入した月に潜む騎士『フューリア聖騎士団』と、彼らをこの場に招き入れた『バラル』を名乗る集団が、いま、巨塔の中で会合を行っていた所である。
 前大戦で地球連合との戦いで撃沈されたレセップス級の一隻をジャンク屋から買い取り、フューリーの技術も加えて回収した船の艦橋で、一人の女性がなんとも暇を持て余した様子で艦長席に腰かけていた。
 憂いを秘めた瞳で溜息でもつけば、絵になる様な美女であったが、鬱陶しげに頬にかかる雪色の髪を掻き上げて、彼方に映る巨塔を見つめる視線は猛禽類のごとく鋭く、近づく事さえ憚られるような雰囲気を濃密に醸し出している。
 引き締まった太ももを大胆に晒すレザー製のミニワンピースの上に、月に根拠地を置くアシュアリー・クロイツェル社のロゴが入った緑のジャケットを羽織る美女は、カルヴィナ・クーランジュ。
 地球圏の水先案内人としてフューリーに協力している元地球連合のMSパイロットでもあった。
預けられたフューリーの尖兵であるトーヤ、カティア、フェステニア、メルアの教官役も務める彼女であったが、バラルとの会合においては非常時に備えてレセップス級に待機していた。
 バラルの最高意思であるイルイ・ガンエデンと名乗る女性との会合自体は既に終わっており、いまはレセップス級に戻ってきたトーヤ達が艦橋に上がるのを待っている所である。
 何度目か、苛立たしげにカルヴィナは左手首に巻いた時計に目をやった時、自動扉の開く音と共に、四人分の足音がカルヴィナのピアスをはめた耳に届く。
 戦場に立つにはまだ早いだろうと思わせる少年少女達の帰還であった。
 艦長席に座ったまま、こちら側へ回り込んできたトーヤへ、カルヴィナはぞんざいな口調で話しかけた。不機嫌だな、と初対面の人間でもすぐにわかるだろう。

 

「ずいぶん遅かったじゃない。鼻の下でも伸ばしてた? トーヤ」

 

「そんなわけないだろう。それと、地球ではおれはトーヤ・セルダ=シューンじゃない。紫雲統夜だ」

 

「ああ、それがアンタの地球人としての名前だったわね。次から気を付けるわよ。それで、なにか収穫はあったの? この分けの分からない所に転移させられて、こっちの手も足も出しようのないってのは、安穏としていられるような状況ではないわよ」

 

 本来ならMS管制オペレーターの座るシートの背もたれに座ったトーヤは、カルヴィナの用心深さを頼もしく思いながら、肩を竦めて答えた。
 月を立つ時、地球に眠るバラルとの過去の経緯は聞かされている。過去の記録が間違っていなければ、彼女らは心強い、そして決して欠く事の出来ない味方になる。

 

「イルイが言うにはルイーナの連中はまだ大規模な戦力を整えられてはいないらしい。南極の根拠地の場所も分かってはいるが、破滅の王がわざわざ力を割いてまでシールドしているから、突入するのは無理みたいだ」

 

「なに、それじゃあ、私達は外に出てきた雑魚を片づけることしたできないってこと? タイムリミットありの相手なんでしょ。すでに状況が詰んでいるってのは考えたくもないわね」

 

「いやそっちもイルイがなんとかするってさ。おれ達のするべき事はルイーナの尖兵と、その他の脅威の排除。今、地球連合とDCとザフトの三つ巴の戦いの裏で動き回っている連中を、地球圏の戦力が消耗しきる前に出来るだけ叩くなり、情報を集めておく事だ」

 

「灯りなしで暗闇を進むような話ね。フューリーの情報網でもあまり詳しい事は分かってないって、アルが言っていたわよ」

 

 確かに、と答える代りにトーヤこと統夜は肩をすくめて見せる。
 それにしてもヴォルレントを駆り、戦場に立った時と比べてずいぶんと砕けた口調の統夜だが、どうも普段の騎士然とした時代がかった口調や所作は作ったもので、こちらの普通の少年の様な言動の方が本来の統夜のようだ。
 目の前の白髪の美女が、フューリーを支える騎士団有数の騎士であるアル=ヴァンと恋仲である事は、統夜も知る所であった。
 カルヴィナの苛立ちは、状況の不透明さの他にもアル=ヴァンとしばらく会えていないこともあるのかもしれない。
 意外に、というべきか、この女性は情の深い所がある。時折その情の深い所が彼女にすごみを与えて、話をしている時にふいに背筋冷たくなるのは、統夜だけではあるまい。

 

「とりあえずシャナ王女、総代にはご報告しないと話を進められません。地球に降ろす戦力を私達だけに留めるのか、それとも追加の騎士達を降下させるのか、それに今地球圏で起きている戦争にどれだけ干渉するのか、まだまだ早急に決めないといけない懸案も多いし」

 

 そう取りなしたのは統夜の傍らのカティアだ。地球に降下して以来捜し続けていたバラルとの接触が叶い、いざこれから本格的な活動を、とは簡単には行かない事情が彼らフューリーにもあった。
 フューリーの本拠地ではいまだに新たな故郷への入植を夢見て眠りについている同胞たち数百万が居り、それに対してフューリーの保有する戦力や人員はすくなく、組織戦を挑むには心許無い点が多い。
 月に立ちあげたアシュアリー・クロイツェル社を隠れ蓑にして、機動兵器の保有数を確保し、経験不足であった新米の従士、騎士達を鍛え上げる事には成功していたが、地球圏に蠢く勢力の全てを敵にするには不足であった。
 統夜達とてフューリーの規模から考えれば、消耗を是と出来るような小さな戦力ではない。
 また友好勢力となったバラルの組織の全容もまだ把握できおらず、フューリーの意思を決定するシャナ=ミア王女達の判断を待ってからでなければ、統夜達も次の行動へ移る事は難しい。
 統夜達がいかにも深刻そうに話す様子に、面白くないとばかりにフェステニアは、見た目通りの子供らしい仕草で頬を膨らませる。

 

「せっかく地球の美味しいものが食べられると思ったのに。フィッシュ&チップス、ボルシチ、天麩羅、すき焼き、北京ダック、トムヤムクン……」

 

「……テニアの胃袋は相変わらずとして、骨休めにはともかくここに長居すると退屈で死んでしまいそうね」

 

 いまにも涎を垂らさんばかりの様子のテニアに呆れながら、カルヴィナは憂鬱そうに環境の外に広がるバラルの園の光景を見やる。古代の遺跡を思わせる意匠の建築物がそびえ、生い茂る緑が辺り一面に広がる光景は、欧州風の観光地に見えない事もない。
 しかし、まるで時の流れが止まっているかのように、静謐の中に沈むこのバラルの園の雰囲気は、たしかにカルヴィナの言うとおり慣れぬ者には退屈に殺されてしまうような気分に陥ってしまうことだろう。
 テニアは変わらず地球各地の名物料理をひとつひとつ列挙していたが、それにつられてメルアの方も世界各地のスイーツの名前を口にして、目の前にそのお菓子がずらりと並べられているのを幻視しはじめていた。
 普段は二人を注意する事の多いカティアも、これはもう注意しても直る様なものではないと諦めたのか、額に手を当てて大きなため息一つを吐く。

 

 * * *

 

 東アジア共和国国内『頂武』専用基地地下に設けられた広大なスペースに、いま、四機の巨大な機体が鎮座している。
 将来的に開発される特機の運用なども考慮に入れて建設された基地の地下は、全高二十メートルを超す機体が居ても、まだまだ十分な余裕があり、特機の標準サイズとされる五十メートル級の機体があと二個小隊は収容できるだろう。
 煌々と輝く証明の光を浴びながら鎮座しているのは、翼の生えた青い鱗の機竜『龍王機』と白い体に黒い縞の身体を持った機虎『虎王機』。さらに朱色の身体を持ち刃を重ねたように鋭い翼を折り畳んでいる機鳥『雀王機』に巨大な岩石の塊から削り出したような甕の巨体と蛇の尾を持つ機亀『武王機』である。
 宇宙にまで人類が進出し生活の場とする昨今に、よくも残っていたと感嘆するような深山幽谷の地に眠っていた古代の人々が残した人界守護の機神達だ。
 共和国上層部が、予め彼らの存在を知って大規模な発掘部隊を送り込んだのかどうかまでは分からぬが、よくもこのようなオカルトめいたものが実在していたのものだ、と格納庫の壁面に設けられた観覧ブースの中で、頂武指揮官セルゲイ・スミルノフ中佐は内心で溜息を吐いた。
 自分の目で見たしか信じない、と普段から部下や同僚に公言しているセルゲイではあったが、これまでの自分の軍人生活で培った価値観や常識の壁を崩す存在を目の前にするとやはり認めがたいという想いは否めない。
 とはいえ、未知の技術の塊である四体の超機人を前にして、研究・解析の為に派遣されてきた特殊技術開発関連部署のスタッフ達は、超機人のデータを閲覧した時から色めき立ち、寝食を忘れて職務に没頭している。
 セルゲイは彼らの情熱には辟易するものを覚えるが、仕事振りに関してだけは認めなければと思っていた。
 しかしその特技のスタッフ達の情熱が理由でトラブルもまた発生していた。機体を解体して内部の動力機関など、核となる部分の解明に触手を伸ばそうとした彼らを、それぞれの超機人のパイロット達が制止した為に、口論に発展してしまったのである。
 超機人のパイロット達――クスハ・ミズハ、ブルックリン・ラックフィールド、リオ・メイロン、リョウト・ヒカワの四名の語る所によれば、超機人達はそれぞれに高度な知性と明確な自我を併せ持っている、という。
 それに合わせて気位も高く、彼らをぞんざいに扱う事は要らぬ敵意を抱かせ、今後超機人を戦力として組み込むつもりであるならば、解体をはじめとした踏み込んだ調査は控えるべきだ、というのがパイロット達の弁である。
 機動兵器が自我を持ち、更には自分達の搭乗者を選ぶ、というのは現状の地球圏の軍事技術を考慮すれば、到底実現不可能に思える超技術だ。
 それを数千年も昔の時代に実現されていたという事も考慮すれば、超機人達の存在自体が、人類史の一部に改訂を要する起爆剤といってもいい。
 クスハ達の言い分を完全に飲み込んだわけではなかったが、セルゲイは歴史的にも軍事的にも極めて大きな価値を持つ超機人達の扱いに慎重な態度を取り、特技スタッフの熱意を退けて、突っ込んだ機体の解析を控えるよう通達していた。
 いまだ解明が遅々と進まぬ超機人達は、意思があるとは思えぬ様子で黙して語らず鎮座し、それぞれ機体を拘束具で固定された状態にある。
 超機人にもともとから設えられていた、まるで背後から巨大ななにかの爪で掴まれるようなコックピットには、東アジア共和国軍と同一規格の通信機器や操縦に必要な装備を設置されていた。
 超機人達の意思を感じ取れるのが目下それぞれのパイロット達だけという事もあり、装備の増設にしても彼らを立ち合わせて、超機人達の様子を逐一確認しながらの作業で随分と時間がかかったものだ。
 現在は超機人とパイロット達が交信している状態をモニタリングし、超機人運用に関するデータを収集している。
 セルゲイは副官のミン中尉と部隊きってのエースであるソーマ・ピーリスを伴い、その様子を見守っていた。ブースに無数に設置された各種のモニターは先ほどから変わらぬ画面のままで、なにがしかの益となる様なデータを得られているようには見えない。
超機人の発掘からこの基地までの移送、解析などにかかった費用もばかにはならず、軍上層部が見切りをつけるのも早いのではないかと、セルゲイは冷静に判断していた。
 もしそうなったら、自分達が何を探しているのかも知らず、壊滅させられた発掘部隊の面々が浮かばれないことが、セルゲイには気がかりだった。
 それに超機人のパイロット達は全員が発掘部隊の数少ない生き残りである。仲間達の無念を考えれば、パイロットの四人も叶うならば超機人によってなにがしかの成果を上げたい所であろう。

 

「少尉達の様子はどうか?」

 

 手近な所でモニターを食い入るように見つめている特技のスタッフに声をかければ、人形を相手にしているかのような淡々とした声が返ってくる。興味対象以外にはまるで無関心な態度を取るのが、特技スタッフの特徴だった。

 

「モニターを開始してから変化はありません。超機人の方も同じです」

 

「そうか」

 

 いまだ超機人達は秘めた力を振るった事はなく、その存在に驚愕の念こそ抱くものの兵器として運用する事には懐疑的なセルゲイからすれば、このまま彼ら超機人は死蔵される方がよいのではないかとも思える。
 現在、東アジア共和国を含めた地球連合軍で普及している特機は、前大戦時に開発されたユーラシアのガルムレイドを、量産用にデチューンした機種だけだ。
 ザムザザーやゲルズゲーと言った大型MAの開発と配備も進められているが、DCが今後繰り出してくるであろう特機を相手にするには、いささか物足りなく感じられるのも事実だ。
 また大型MAが開発されたことで、地球連合軍内でもMSとMAのどちらを軍の主戦力とするかで派閥が分れはじめており、いまはまだ問題なく機能しているが今後MSやMAの開発・配備に支障をきたすと危惧する者は少なくない。
 そんな中でまた新たに特機にまで手を伸ばすとなると、また余計な一波乱が起きそうなものだ。それに、地球連合と一括りにされてはいるが、東アジア、ユーラシア、大西洋の三勢力は、結局のところ一枚岩などではなく潜在的敵対勢力である事は三国それぞれが知悉している。
 DC、プラントという共通の敵がいるからこそ手を結んでいるが、戦後に復興が進んだ時には、三国がそれぞれを敵性国家として見るようになるのは火を見るよりも明らかだ。
 その様な事態に陥った時、他国に対するアドバンテージは一つでも多く所持している事が望ましい。
発掘された超機人達も今後の展望を見据えたうえで、繰り出す札の一枚となればと目を掛けられたからであろう。
 しかし予算も時間も人員も限られている状況下で、伝える者絶えて久しい超機人の存在をどうやって共和国上層部が知り得たのか、セルゲイは訝しくこそ思え、謎を解き明かすことはできそうになかった。

 

「超機人か、よもや上層部が本気で兵器としての運用を狙っているとは信じ難いが。少尉、ハレルヤ達はいまはどうしているのかね?」

 

 普段ならミンと共にセルゲイの補佐的な立ち位置には、ソーマの双子の姉妹であるマリーがいるのだが、今日はハレルヤが受領した新型機の調整にアレルヤと共に立ち会っており、この場には不在であった。

 

「はい、タイムスケジュールでは現在ミロンガの飛行テストを行っている予定です」

 

 銀髪金眼の人形めいた造作の美しさの少女は、セルゲイに淡々と伝えた。同じ超兵でありながら一人だけ新型機を受領したハレルヤへのやっかみが、わずかなりともあったせいかもしれない。
 それを察知する事が出来るのは、同じ超兵のマリー、ハレルヤ、アレルヤ、それに傍らのセルゲイくらいのものであろう。

 

「そうか」

 

 稚気に近いソーマの苛立ちは、セルゲイには手に取るように把握できたが、それを指摘する事に何の益も見出さなかった為、ソーマに返す言葉は短かい。
 そしてまた、ハレルヤが受領したミロンガという機体にもセルゲイには思う所があった。東アジア共和国で主力MSとして配備の進むティエレンとはコンセプトをまるで別とした新型機は、高性能テスラ・ドライブの搭載による高機動・高加速性などを活かすために極力装甲を殺ぎ、またパイロットへ多くの負担を強いるものだ。
 殺人的なGを強要するミロンガは、コーディネイターをはるかに上回って身体強化措置を受けた超兵ならともかく、一般のパイロットが搭乗した所でその性能を十全に活かせる仕様とは言い難い。
 セルゲイ自身はミロンガでも十分に戦闘を行える優れた技量と頑健な肉体の主であったが、画期的なGキャンセラーかパイロットスーツの改善が見られなければ、ミロンガを友人機として主力機扱いするのは難しいことだろう。
 地球連合構成国内では最大の人員を持つ東アジア共和国といえども、そうそうあのミロンガという機体に適性を持つ人間を確保することはできないだろう、というのがセルゲイの私見であった。
 軍上層部の迷走とも思える様な行動の数々は、セルゲイに少なからぬ不信感と不安の種を埋め込んでいた。
 セルゲイが悩む間も、超機人達は何の変化も見せてはいなかったが、不意に心電図が乱れるようにしてモニタリングしていた画面が大きく乱れて、甲高い電子音が鳴り響く。

 

「どうし――」

 

 セルゲイの言葉を遮ったのは、超機人の異常を伝える電子音に重なる更なる警報であった。警報の音のみならず地下まで伝播する大きな振動も断続的に続く。

 

「状況を報告しろ。どうなっている?」

 

「先日交戦したバグスの群れです。既に第三警戒ラインまで侵入されています。基地の防衛設備が迎撃していますが、既に三十パーセント以上が機能していません」

 

「どうしてここまで発見が遅れた」

 

 そう問い詰める間もセルゲイは足を動かし、MS格納庫へと急いでいた。ソーマ、ミンもセルゲイにつき従う。現在の頂武は所属人員も保有MSにも欠損を出し、本来の能力を発揮できる状態にはない。
 基地に配備されていた部隊は、既にバグス――メギロードのコードネーム――迎撃に向けて動いているだろうが、質的には頂武に劣る。バグス個々の性能もさることながら、その数も脅威だ。基地の部隊では足元をすくわれる算段の方が大きい。
 だからこそセルゲイは動かす足を速める。

 

「レーダーに映らない低空から一気に侵攻してきたものかと。また侵攻速度が速く、迎撃が追い付いていません」

 

「なんとか私達が間に合うまで保てばいいが」

 

 * * *

 

 予め砂中に設置されていた対空レールガン、対MSガトリング砲をはじめとした火器が盛大に弾薬をばらまき、一直線に頂武基地を目指すバグスの群れを叩き落とさんとするが、昆虫の外装通りの軽快な動きに当てられず、反撃に放たれるリング状のレーザーによって次々と沈黙してゆく。
 バグスことメギロートに搭載された各種センサーは、既に稼働状態にいたり自分達を迎え撃つべく布陣を敷くティエレンを認識していた。しかし彼らの最優先目標はティエレンではない。
 地下に眠る超古代の遺物超機人であった。目標達成の障害となるティエレン部隊の排除を選択したメギロートらが、折り畳んでいた肢を展開して格闘戦の対応も可能な状態に移行する。
 鏃の様にメギロートらが編隊を組み直し、機動性を活かして一挙に基地構内に飛び込んで基地の壊滅を狙うといったところか。
 基地まで残り七百、六百、五百メートル……。ヤマアラシの針よろしく基地から伸びる火線に数機撃墜されながらも、メギロートの侵攻速度はまるで遅れる事はなく、基地に突入されるまで数秒とかからない所まで接近する。
 そして唐突に編隊の戦闘を飛んでいたメギロートが、飛来した無数の弾丸に貫かれて爆散する。ギギ、とメギロートの内の数機が昆虫めいた音声を洩らして機首を巡らし、上空で白い尾を引きながら高速で迫る機影を発見する。
 フレームにほとんど最低限の装甲を被せ、背には幾枚ものウィングバインダーを伸ばす東アジア共和国の新型MS・ミロンガである。顔もティエレンやダガータイプのゴーグル型と異なり、縦長の細い造作だ。
 右手に構えたストレイ・トマシンガンを無造作に見えつつ正確無比な狙いで、薬莢をばら撒きながらメギロートを次々と白い爆炎花に変えて行く。
 回避機動をとるメギロートを相手に、自身もまた高速で飛行しながら命中弾を重ねて行くミロンガのパイロットの技量は、それこそ神がかったと讃えるほかあるまい。

 

「おいおい、もう歯応えがねえな。この前の人型は出し惜しみかあ?」

 

 血に餓えた野獣を思わせる猛悪な笑みを浮かべて、ミロンガの高速機動が生む殺人的な加速にも平然と耐えているのは、金銀妖眼の凶戦士ハレルヤ・ハプティズム。
 超兵専用に用意されたティエレン・タオツーから新たにミロンガに乗り換え、機種転換訓練の最中に在ったのだが、メギロートの強襲という事態に制止する周囲を振り切り、独断で迎撃に出たのである。
 正式な命令を受けたわけではない軍令無視の行動であったが、ハレルヤとミロンガがメギロートの頭を上空から抑え、銃弾と両肘内部の小型ミサイルで叩き落とした事は、基地の迎撃の用意を整える貴重な時間を稼ぎだしていた。

 

「おれに全部相手させる気かあ? ええ、アレルヤ、マリー?」

 

 ミロンガめがけて放たれるリングレーザーの雨の中を、鼻歌を歌い出しそうな余裕を伺わせながら躱すハレルヤは、自分の機種転換訓練につきあっていた片割れと同類の名を呼ぶ。
 打てば響く鐘の音の様なタイミングで、速度で勝るミロンガに遅れていたアレルヤのタオツーとマリーのタオツーがメギロートの横脇腹を突く方向から姿を現し、滑空砲を連射して弾幕を形成しながら吶喊を刊行する。

 

「ミロンガはまだ細かい調整が残っているのよ、無茶は禁物よ、ハレルヤ」

 

「中佐とソーマが出てくるまで状況を維持しなくては。ハレルヤ、ぼくとマリーがサポートする」

 

 二人に返ってきた答えは極めて好戦的なハレルヤの脳量子波であった。あくまで思考の芯は冷徹に、しかし戦闘の昂揚に性的な快楽に近いものを感じながら、ハレルヤは自己の生を実感するためにもより激しくメギロートの群れに斬り込んでゆく。
 ストレイト・マシンガンのマガジンを交換する片手間に、マイクロミサイルで包囲を狙うメギロートを牽制撃墜し、ハレルヤはタイム・ラグなしで伝わるアレルヤの思考とマリーの思考を脳量子波で受け取り、誤射などまるで気にした素振りの無い大胆な操縦を続ける。
 メギロートが展開した節足でミロンガに接近戦を挑む。小型のメギロートであっても、機動性の為に装甲を犠牲にしたミロンガを破壊することは容易い事だ。
 四方八方からごく小さな旋回半径を描いて、在る種の蜂が敵に群がってその熱と圧力で殺す様に囲い込んだ上で迫りくるメギロートを、ハレルヤはビームサーベルで首を刈り取る様な仕草で容易く斬り飛ばす。
 あるとは見えないメギロート間のわずかな隙間を見つけ出し、節足を弾きくぐりいなし、次々と胴を断たれ、頭を落とされ、羽を斬り飛ばされたメギロートの数が飛躍的に増えて行く。
 ことにアレルヤとマリーの息のぴたりと合ったとしか言いようのない援護の合いの手が、ハレルヤの動きをより大胆にし、メギロートの周囲をミロンガが鋼の風となって駆け抜け、射撃と斬撃により、メギロートの殲滅は時間の問題かと思われた。
 だが、そうやすやすと事が運ぶとは、ハレルヤもアレルヤもマリーも考えてはいなかった。以前の発掘現場の戦いで姿を見せたのは、この虫達だけではなく、現状の地球圏の機動兵器の水準を上回る人型の部隊。
 それらがまだ姿を見せてはいない。先だっての戦闘以来、メギロートの襲撃は少なくとも東アジア共和国各地では確認されていないために断定はできないものの、より困難な事態になると予測しておくことは必要だ。
 既にメギロート迎撃のための基地の部隊も展開を終えて、一般兵士用のティエレン地上型もビームライフルや滑空砲、対空連装砲などでメギロートの撃墜に一役を買い始めている。
 いつ増援が来るか、とアレルヤ達が気を張りめぐらした時、彼らの脳量子波をかき乱す何かが稲妻のように額の裏を貫いた。鈍い痛みを伴う悪寒は彼らに粘っこい脂汗を一粒二粒と滲ませる。
 前回、メギロートを有するアンノウンの部隊と交戦した時以上の、胸の内を潰すような重圧とこめかみを万力で締め上げられるような苦痛が超兵たる三人を襲う。
 さしものハレルヤも浮かべていた残忍な笑みを崩し、苦痛を齎す何ものかへの憎悪を募らせた表情を浮かべた。

 

「んだ、この感じは。この前の野郎と同じ感じだが、前よりヤベえな」

 

「来るぞ!!」

 

 アレルヤの緊張に満ちた声と共に、基地上空の空間が歪曲して、そこにMSとほとんど変わらぬ巨大な質量が姿を現し始める。メギロートの迎撃に集中し始めていた頂武及び基地の部隊を嘲笑うようにその上空や背後、左右に降下しだす。

 

「そんな、空間転移!? プラントやDCだって実現できていない技術なのに」

 

 マリーの驚愕の声が収まらぬうちに、以前頂武部隊と敵対したヴァルク・ベンではなく、全体的に丸みを帯びた緑色の機体『ゼカリア』達が、重々しい着地音を立てながら、即座に携えていた長い銃身のオプティカル・ライフルをティエレンと撃ち始めた。
 空間転移という想像だにしていなかった奇襲方法に、心理的動揺に見舞われていた基地の面々は満足に回避する事も出来ず、呆気ないほど簡単に光弾に重厚な装甲に穴を穿たれてゆく。
 ウィンダム、イナクト、フラッグなど地球連合の主力MSに比べて一段分厚いティエレンの装甲は、たとえ直撃を受けても一撃ならば耐えたが二撃、三撃と着弾が重ねると流石に耐えかねて、黒煙を噴き出しながら倒れ伏す。
 ゼカリアとメギロート達の交戦を見下ろす高度では、顔の上半分を特異な形状の仮面で覆ったキャリコ・マクレディが戦闘の様子を観察している。
 今回は、ヴァルク・ベンこそ伴って来なかったものの、二十機以上に及ぶゼカリアを同道させており、戦力的には十分なものであった。
 人の感情を持っているとは思い難い冷笑を浮かべ、キャリコは嘲りと共に厚い岩盤と幾層もの構造材を見透かすように、それらを見つめる。

 

「この星の超機人の性能とサイコドライバーの能力、そろそろ試させてもらおうか」

 

 キャリコの発するどす黒い――それこそ星や太陽の光さえも飲み込む無限の闇の様な圧倒的な質量さえ備えた重圧は、生前の彼が持ち得なかったものであるが、一度死を経験した事によって、この男は言い知れぬ何かを身に着けていた。
 昇降エレベーターから基地地上部に到着したセルゲイ、ソーマ、ミンは混戦の様相を呈している状況をいち早く察して、無言のままに火器の方向をゼカリアに向けて一気に火を噴かす。
 ややミンは遅れたが、きっかり三機のゼカリアの頭部や胸部に滑空砲の着弾による爆発が起きる。

 

「わざとバグスを発見させたのは空間転移による奇襲のカモフラージュか。空間転移を察知する技術など、こちらにはないというのに」

 

 両陣営の技術格差をわざわざ知らしめるような行為にセルゲイは苦虫を噛み潰した思いであった。

 

「中佐、マリー達が」

 

 ソーマの声にゴーグルに投影されている全方位映像の一画面に目をやれば、それまで基地を目指していたメギロート達が、目標をハレルヤやマリーに切り替えて基地側のセルゲイ達と分断するように動き始めている。

 

「戦力の分断か。常套手段を取ってきたな」

 

 とはいえ増援が来る見込みもない現状ではいかに東アジア共和国有数の指揮官とはいえ、手札がまるでない状態では先の展開を読む事もイカサマを仕掛ける事もできない。

 

「ミン中尉、少尉、緑色の機体の撃墜を急ぐぞ。バグスに囲まれたパーファシー少尉達の救出はその後だ。彼らの力量を信じる」

 

「了解」

 

「……了解っ」

 

 自分を半分に分かったも同様のマリーを、すぐに助けに行けぬ事にソーマは二の足を踏む思いだったようだが、全幅の信頼を置くセルゲイの判断に異を唱えるような事はしなかった。
 ゼカリアの不意を突いた転移襲撃に浮足立った頂武部隊員達も、指揮官であるセルゲイが姿を見せ、ソーマとミンを伴って格の違う実力で持ってゼカリアを撃墜しだすと徐々に混乱が落ち着き、効果的な反撃を行い始める。
 流石にそうやすやすと行くとは思っていなかったのだろう。キャリコは浮かべる嘲笑こそ変わらぬ冷たい温度を保っていたが、事態の推移が遅々としたものである事に稚気とそう変わらぬ苛立ちを覚えたようであった。
 仮面を軽く叩いていた指を止めて、キャリコは幾分か億劫気そうに居住まいを正して動かぬ超機人達を見据える。

 

「ふ、眠りが永すぎたか。ならば無理矢理にでも眼を覚まさせてやろう。サイコドライバーのサンプルはあるに越したことはないが、既に必要なものではないのでな」

 

 高空でホバリングしていたヴァルク・バアルは、万雷の喝采を受ける往年の大俳優のごとく左右に腕を開き、その存在を誇示するように胸を張る。
その胸部装甲の奥底で、世の果てまでも震えあがらせる魔物の咆哮の如き音が徐々に大きくなり始めた。
音は光を伴い、砂漠の灼熱の陽光を押しのけて赤黒い光がヴァルク・バアルの胸部を禍々しく輝かせ始める。やがて地獄の門が開かれるようにして、ヴァルク・バアルの胸部装甲は花開くように展開して、その最奥に秘していた物体を露わにする。
キャリコはソレをこう呼んだ。

 

「さあ、出でよ、ディス・レヴ」

 
 

――つづく

 
 

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