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SRW-SEED_660氏_ディバインSEED DESTINY_番外編04話

Last-modified: 2010-03-25 (木) 23:47:13
 

ディバインSEED DESTINY
外伝04 クォヴレー・ゴードン強化計画 『チートを更なるチートへ』

 
 

―カオスレギオン

 

 

「主、汚れし霊に問いたもう。――汝の名は何か」
「彼、答えて曰く――軍団(レギオン)――我ら、大勢なるがゆえに」

 

 

 そこにはこの世のあらゆる色が存在し、あらゆる方向が無作為に存在していた。
 ゆえにありとあらゆる色が存在せず、ありとあらゆる方向がなかった。
 目に映る景色は粘度の高い海のように粘っこく緩やかに波打っている。前も後ろも右も左も奇妙な波で満たされている様な空間であった。大気はなく、空気はなく、エーテルによって満たされたこの世ならざる異界といってよい。
 三次元宇宙に存在する無限の並行世界それぞれの間を埋める次元の狭間がとる形態の内の一つである。
 因果干渉権限や時空間超越能力、次元通行証、超次元観測機能を有さない限りは足を踏み入れる事も、目に映す事さえも叶わない。
 ここに存在する事を許されるのは、ある意味において人の言う神と悪魔の領域に近づいたものだけなのだ。
 そして、この空間にはいくつもの命を持たぬモノが存在していた。ある一機の機動兵器を数万にも及ぶ異形の影が囲い込み、その存在を因果の中からも完全に抹消せんと戦いを挑んでいる。
 白い甲殻を持った虫や緑の鎧を纏った兵士、黄色い巨体の砲兵、それらを指揮する青き鎧の騎士、いくつもの肢をもった白い半虫半人の如き異形。それらが十重二十重と囲む陣形を成す中心に、ソレはいた。
 黄金の四肢を闇よりもなお暗く影よりもなお深い黒い鎧で纏い、古来より人間の心の奥底に巣食う恐怖の象徴たる悪魔の如き翼を広げ、死せる者の魂を刈り取って冥府へ運ぶ鎌を手に持っている。
 ただそこに存在する。それだけで生ある者に根源的な死への恐怖と不安を呼び起こす、死へと繋がる門のような存在。
 それは冥府の銃神、悪魔王と恐るべき異名を、限りない畏怖と畏敬を持って冠せられた者。その名をディス・アストラナガン。
 全宇宙に共通する真理のひとつ、死者の輪廻に関わる力を持ち、危うい均衡を保つ並行世界の秩序を保ち、正と負の無限力の狭間に存在する因果律の番人。
 あまりに超常的な力を持つがゆえに、宇宙の続く限り永劫に終わりを迎えぬ宿業を背負う呪われた機体でもあった。
 二十メートル級のディス・アストラナガンのコックピットの中には、唯一の操者たるクォヴレー・ゴードンが、険しい表情のまま全周囲を覆い尽くす無数の敵を冷たく見つめていた。
 驚くほど眩い輝きを放つ純銀色の髪は、本物の銀を細く紡いで髪としたかの様に美しく、少年の域を出ない顔立ちは、どれほど美男美女を見慣れた人間でもはっと息をのむほどに整っている。
 あるいは整い過ぎているというべきか。人の手で生み出された人ならざりし人、それがクォヴレーの出自であった。
 同じように神ならざるモノの手で生み出されたイングラム・プリスケンより因果律の番人の役目を引き継いだこの少年は、いま、混沌を極めつつあるコズミック・イラの年号を有する並行世界へ介入すべく行動を起こしていた。
 次元間移動能力を有するディス・アストラナガンを阻む人為的な次元の壁を突破した矢先に、この空間に引きずり込まれて、待ちうけていた五万をゆうに超すこの部隊との戦いを強いられている。
 ディス・アストラナガンの有する強力な武装――ZOサイズ、ラアム・ショットガン、ガン・スレイヴ、メス・アッシャーを最大効率で駆使し、すでに数百を超える敵機を撃墜していた。
 ズフィルード・クリスタルで構築された機体は高い自己修復能力を有し、また万能の防御壁ディフレクト・フィールドの防御力もあって、生半な攻撃はそもそもディス・アストラナガンの装甲に到達さえしない。
 しかし同時に数十から百前後に及ぶ攻撃が殺到し、いかにクォヴレーの操縦技術が、銀河最強の超異常エース集団αナンバーズの中でもエースと呼べるものであっても、また機体の運動性がずば抜けたものあろうとも、回避しきれるものではない。
 秒間数発で防御場を揺さぶる連続攻撃は、直撃に至らずとも機体の内側にじわじわと負荷を強いて、いずれ来る破綻をクォヴレーに予感させている。
 一つの銀河を丸々勢力下に置くバッフ・クランや、銀河中心から発生し、恒星に卵を産み付けて爆発的に数を増やす宇宙怪獣との戦いと比べれば、この程度の物量差は鼻で笑える優しい戦いに過ぎない。
 しかし、ディス・アストラナガンの次元転移を阻む力が、ディス・レヴと主動力機関ティプラー・シリンダーに干渉し、ディス・アストラナガンの真の戦闘能力を封じている。
 因果律の番人にしてタイムダイバーとなったクォヴレーの肉体は、すでにバルシェムとして誕生した時と異なり、栄養摂取や睡眠を必要としない特異なものへと変わってはいたが、単独で万以上の敵と戦う孤独に肉体は疲労を蓄積しつつあった。
 クォヴレーのエメラルドの原石を加工して象眼したように美しい瞳には、諦めの二文字こそなかったが、追い詰められつつある現状に対する厳しさばかりがある。
 目標としているC.E.宇宙と異なる時間軸にあるこの次元の狭間で長く拘束されれば、いかにディス・アストラナガンの機能を持ってしてもクォヴレーが到着した時には、すでに手遅れという事態になっていかねない。
 時と世界を渡る異邦人となったクォヴレーの経験と、イングラムから引き継いだ知識、ディス・アストラナガンが秘めたる意思が、自分達の介入が間に合わなかったとき全並行世界規模の災厄が生まれると告げている。
 特定の存在を捉える事が恐ろしく困難なこの次元の狭間の中で、正確にクォヴレーの位置を把握し、討滅の為に派遣した軍勢の機種を考えればクォヴレーが倒さねばならない相手を推測する事は出来た。
 番人としての役割を果たす使命感の他に、クォヴレーにも間接的に因縁のある相手が介入している事はもはや明白であり、クォヴレーの魂に融けたイングラムの残滓がかすかに熱を帯びている様な感覚も覚えていた。
 白い甲虫――メギロードの放つサークルレーザーの雨を、慣性の法則を完全に無視した、さながら真ゲッター1を彷彿とさせる回避機動で、悪魔王は翡翠の粒子を零しながらかわし飛ぶ。
 灰色から青へ、青から白へ、白から紫へ――さらにさらに色を変え行く波打つ空間を背に、悪魔王の羽ばたきと共に粉雪のように舞う翡翠の粒子と、悪魔王の黒影の二色だけが、犯されざる最後の聖域の様に変わらない。
 しかし交わす先にも雷光の弾丸が無数に放たれ、ディス・アストラナガンの周囲には常にミサイルやラアムライフルの弾丸が満ちていて、どんな回避機動を取ったとしても必ず着弾が発生してしまう。
 ディフレクト・フィールドが悪意を阻み、阻み切れなかった攻撃が悪魔王の鋼鉄の肉体に触れる度、爆炎の薔薇と虹色の雷花がその肉体に咲き誇ってゆく。

 

「ディス・レヴとティプラー・シリンダーの回転率が鈍い。奴の力で抑え込まれているにしても、これほどの影響力を有するほど力を蓄えているとは」

 

 普段感情の抑揚を見せることの少ないクォヴレーの顔に、はっきりと浮かび上がる苦しげな表情が、状況の厳しさを物語っている。
 圧倒的な彼我の戦力差。かつてクォヴレーで誕生した仲間達と共にくぐり抜けた死闘の経験から、クォヴレーが諦めの波を感情の海に起こす事は無かったが、孤軍奮闘しなければならない現実は揺るがない。

 

「……ならば、数には数で応えるか」

 

 ランダムな回避運動で着弾を最小限に抑え、ディフレクト・フィールドの防御壁で着弾の多くを無力化し、それでも相殺しきれなかった分を、ZOサイズを回転させて盾のように扱う事で打ち消す。
 クォヴレーは以前訪れた事のある世界で出会った者達から、ヒントを得たディス・レヴの新たな力を使う事を決めた。それはディス・レヴを有するディス・アストラナガンだからこそ扱う事の出来る、恐るべき力であった。
 銀色のシャベルを持った赤い髪の葬士と、それにつき従う見た目は凶悪だが美味な料理を作る可憐な少女、口やかましいが人の心を救う明るさを持った妖精、銀の銃を持った浄める者の名を持った少女。
 その世界で出会った彼らの名前と顔が脳裏をよぎり、耳にした聖典の一節を我知らず口にする。

 

「……汝の担うは暗黒の印。其は、さまよえる魂を贄とし、この世ならざる者どもを呼び寄せるなり。この世ならざる者ども、汝に侍り従うべし。其は、混沌の軍勢なり……」

 

 力を行使する際にはごく短い時間ではあるが、無防備にならざるを得ない。敵機の攻撃をかいくぐりながら、その時間を作るべく、クォヴレーは力を抑え込まれたディス・アストラナガンを操り、群れなす敵勢の数を削ぐ。
 大鎌の柄尻に内蔵されているラアム・ショットガンは、機関銃と変わったかの様な速度で連射され、ディス・アストラナガンの背から飛び羽ばたいた小型の悪魔銃達は、高速で飛び回りながら弾丸をばら撒き続けている。
 変則的な機動と速度を維持する為に翼を常に展開しているから、メス・アッシャーの使用はできない。
 己が犠牲となるのをまるで恐れないメギロードやハバククをはじめとした、旧ゼ・バルマリィ帝国の機動兵器達は、被弾を意に介さずひたすらに悪魔王を狩り立てようと、包囲陣形を柔軟に変えながら影のように追ってくる。
 アストラナガンに装備されていたT−LINKフェザーやアトラクター・シャワーのような広域攻撃兵器がディス・アストラナガンにも備わっていれば、もう少し戦い方の幅を広げる事も出来たろう。
 無いものをねだる自分の思考に気づき、クォヴレーは形よく整った眉間に小さな皺を浅く刻む。
 ディス・レヴの搭載によって負の無限力を力とする機能を得たディス・アストラナガンだが、アストラナガンに比べると若干武装のバリエーションが乏しい。機会があれば自分で手を入れる事も選択肢の一つかもしれない。
 思考の片隅で囁かれる声を噛み殺し、クォヴレーは能面のように美しいがどこか不気味な無表情の仮面を張り付けて、両手足と思考をフル回転させて、ディス・アストラナガンに集中する火線の雨を回避しつづける。
 ゾル・オリハルコニウムとズフィルード・クリスタルで形作られたラアム・ショットガンの銃身が過剰な熱を帯び、虚空に羽ばたく銃の使い魔達の動きがわずかに鈍り始めたころ、ようやくに、クォヴレーは敵群の攻撃網に僅かなほつれを創りだす事に成功した。
 この一瞬の隙を見逃せば、再び機会を掴み取ることができるのかどうか、危ういタイミングである。

 

「出でよ、ディス・レヴ。そして扉を開け、アストラナガン!!」

 

 掲げたディス・アストラナガンの左腕で胸部を掻きむしる様な動作で、胸部装甲が勢い良く開き、その奥に秘められたディス・レヴが目を焼き潰すほどの苛烈な光を放つ。 
 多角形の水晶柱とでもいおうか、内部に青と赤と白の雷光の様な光を輝かせるディス・レヴの深奥に、この時、複雑精妙極まる光輝く文字の様な、紋章の様なものが刻まれ始めていた。
 聖印(ハイリヒ)。それが文字とも紋章とも読める輝きの呼び名である。霊なる神アズライールが人にもたらした人の魂の力を解放する術。
 ディス・アストラナガンは生身の人間が胸に刃で文字を刻まれ、苦痛に悶え絶叫するかのように胸を張り、天を仰ぎ、開いた胸部の深奥から溢れだす光が真紅の色に染まり出す。
 いまや悪魔王の心臓がえぐり出され、鮮血を噴いているかの如き凄惨な様相を呈していた。
 その異変を察知したのか、ディス・アストラナガンを包囲していた軍勢の背後に、桁違いに巨大な物体が転移して姿を現す。
 巨大な竜の頭部のような形状の黒に近い灰色をした全長4000mに達する巨大な船であった。船尾に先端が鋭い角の様な、緑色の水晶状のパーツを幾つもはやしたゼ・バルマリィ帝国主力戦艦フーレ。
 その細まった船首にある巨大な穴の奥から、莫大なエネルギーが集められて解放の時を今か今かと待ち始める。フーレ級の主砲にして最大火力レギオン・イレイザーの発射体勢が整いつつあるのだ。
 艦のサイズから考慮すれば一撃でスペース・コロニーさえも破壊しうるであろう超高エネルギーだ。いかにディス・アストラナガンとて直撃を受ければ、無傷では済まない。
 楔に繋がれた鎖からの解放は、間もなく与えられた。鉱物で作られた造花を思わせるフーレの船首から、ついに巨大なエネルギーが一筋の奔流となって放たれ、ディス・アストラナガンを包囲していた友軍ごと飲み込まんと奔る。
 莫大な輝きが彼方で生まれようとした時、クォヴレーは叫んだ。

 

「クォヴレー・ゴードンが招く!!」

 

 操者の叫びに応じてディス・アストラナガンの胸部から溢れる血の色をした稲妻の眩さが一段とまし、轟々とエーテル風が吹き荒れ始める。
 それは途方もない何かが産み落とされる前兆の様であった。

 

「無念の魂よ! 天刻星(ウルノー)の連なりの下、甲魔アロガンスとなりて、我が身を護れ!」

 

 アロガンスと呼ばれた何かは、ディス・レヴの奥より開かれた異界の扉を通じて、十数体におよぶ数となって、ディス・アストラナガンの周囲を囲んだ。
 それはディス・アストラナガンとほぼ同じ大きさの、全身を冷たい印象を受ける甲羅に覆われた亀か水母を思わせたが、肩からは腕の代わりに左右二本ずつ、計四本の巨大な爪が生えていた。

 

「天秤座の陣(ズリエル!)」

 

 クヴォレーの号礼一下、アロガンスは一斉に四本の爪を開くとその間に青い光の防壁が生じて、襲い来たレギオン・イレイザーを阻む堅固な盾となった。
 青白い奔流の中で、アロガンスの盾に守られたディス・アストラナガンが、白々と照らし出される。
 やがて十秒以上続いたレギオン・イレイザーの照射が終わると、それまで絶対の防御陣となっていたアロガンス達に青い輝きが灯ったかと見えた次の瞬間、十数体分のアロガンスの輝きが集約し、レギオン・イレイザーそのままの光が放たれた。
 つい先程まで描かれていたレギオン・イレイザーの残光をなぞり返してアロガンス達の放つ烈光が、フーレの船首に吸い込まれると、たちまちの内にフーレは内部から崩壊して、周囲のメギロード達を巻き込みながら大きな爆発を起こす。
 それを見届け、クォヴレーはさらに招いた。

 

「非業の魂よ、地刻星(サターヌス)の連なりの下、剛魔ダゴンとなりて我が敵の前に立て!」

 

 アロガンスの召喚時に層倍する稲妻の輝きが放たれるや、あり得ない “ずん!”という地響きとともに、一糸乱れぬ足並びで数百数千という数となって、それらは確たる存在感と共に現れた。
 それらはディス・アストラナガンの倍以上もある大きさの、実に薄汚れた鉄の塊を思わせた。戦場の血と泥にまみれた重装歩兵の様な姿であったが、頭はなく首から直接獣の口が生えて、牙が卑しくがちがちと音を打ち鳴らしている。
 丸太のように太い手には何も持たず、胸元から巨大な槍の穂先の如き角が生えている。
 ディス・アストラナガンの全方位を守護の兵士の如く囲みこんだダゴンどもは、ZOサイズが振り下ろされるのに合わせて、怨みに満ちた声を上げながら周囲の敵機へと驀進する。
 オプティカル・ライフルやディバイダー・ミサイル、メタリウム・キャノンが隊列を成して殺到するダゴン共に放たれ、汚らわしい鉄塊を吹き飛ばすが、痛みも恐れも感じぬようで、ダゴン共の勢いは衰えるどころかより一層激しさを増す。
 たちまちの内に、巨槍のごときダゴンの角に貫かれた装甲の破片が舞い散り、凄惨な破砕音が周囲の空間に響き渡り始める。
 甲魔アロガンス、剛魔ダゴン、それらは怨み憎しみに汚れ、殺戮をもってしか鎮魂叶わぬ哀れな魂たちを、<招く者>――レギオンの力によって、魔兵と化して招いた者達である。
 とある異世界のアルカーナ大陸に存在する招く者の力を、負の無限力を力の源とするディス・レヴの力と、異世界と繋がるティプラー・シリンダーの機能を利用して再現した力である。
 正と死の輪廻の輪の中、優しき思い出、懐かしき記憶さえも忘れ果て、ひたすらに殺戮と破壊のみを求める魂となってしまった死者達の力を借りて、たった一人が軍団となり、大群となる魔性の秘儀。
 レギオン・イレイザーの発射と、フーレの撃沈によって乱れた敵群の陣形に、ダゴン達は躊躇なく飛び込み、射撃兵装を持たない不利を知らぬげに猛威をふるい続ける。
 魔兵招来の成功によって、これまでの戦場の秩序が崩壊し、新たな混沌が生まれた隙を狙って、クォヴレーは更なるレギオンの力を振るう。
 かの存在によるディス・レヴとティプラー・シリンダーへの干渉が強まるよりも早く、この戦いに決着をつけ、空間を脱出しなければならない。
 クォヴレーは続けざまにさらに三種にも及ぶ魔兵の召喚を行った。いまやディス・レヴより吹き荒れる紅の稲妻は、嵐の如き激しさと変わっている。

 

「非憤の魂よ! 地刻星(アーノス)の連なりの下、巌魔ヘイドレッドとなりて我が敵を払え!」

 

 ダゴンをさらに上回る巨躯を持ち、手足の太さが50m級特機の胴ほどもある巨人が出現し、浴びせ掛けられる攻撃をものともせずに、スーパーロボット級のパワーでゼカリアやメギロードを握り潰しては放り投げる。

 

「水刻星(ネプトゥーニ)の連なりの下、迅魔オウディウムとなりて我が敵に走れ!」

 

 呼び出されたのはディス・アストラナガンの腰ほどまでの背丈しかない、小さな影であった。細身に長い手足を備え、手の甲からは三本の血染めの爪が刃のように伸びている。

 

「蠍座の陣(バルビエル)!!」

 

 小さな影達は高度に発達した戦闘用AIを搭載したゼカリアやハバククが捉えきれぬ疾風の速さで動き回り、六本の爪が閃く度に切り裂かれた機体がわずかな間を置いて爆発を起こしてゆく。

 

「木刻星(ユピトール)の連なりの下、尖魔マリスとなりて我が敵を射れ!」

 

 それまでかろうじて人の四肢を維持していた魔兵達とは異なり、マリスは海老のように丸まった猫背で、下半身に至ってはまるで人間の者とはかけ離れていた。
 黄金の弩弓が腹から下と融合しており、華奢な手でその弓を捧げ持つ様にして支えている。

 

「双子座の陣(アムヴリエル)!!」

 

 ダゴン、ヘイドレッド、オウディウムによって次々と討たれてゆく敵機の群れへと、マリスが自分自身である弓より、ティプラー・シリンダーから供給されるエネルギーから生成した弾丸を連続斉射する。
 いまやディス・アストラナガンを包囲し殲滅せんとした数万の大軍は、大勢なる魔兵達によって蹴散らされ、蹂躙され、破壊され、殺戮され、虐殺され、三々五々に散った所を駆逐されていた。
 ディス・レヴを解放状態で維持しつつ、招く者の力の行使を一時中断して、クォヴレーは魔兵達の指揮をとり、魔軍団の軍団長となった悪魔王が、いまや敗残者と変わりつつある敵機の群れの中へと飛翔。
 巨大な刃を形作ったZOサイズを振るうや、エゼキエルとゼカリア達の首が喜劇のようにスパパパ、と刃応えをディス・アストラナガンに伝えながらくるくると宙を舞う。

 

「メス・アッシャー、マキシマムシュート!」

 

 それまで大きく広げていた翼を折り畳んで砲身へと変え、貫通力に優れたエネルギー砲が何十機もの敵機を貫いて破壊し、極彩色にして無彩色の空間に爆花を咲かせ散る。
 悪魔王に率いられた汚れし魂たちの魔軍勢は、見る間の内に敵軍団を壊滅させ、敵軍が存在した事は、砕かれ融解し、貫かれて切り裂かれ潰された残骸が伝えるのみとなった。

 

「よし、後は次元突破点を見つけ、そこから脱出するだけか」

 

 人為的に作られたこの空間は、短期間の寿命しか与えられておらず、必ずやどこかに決壊の起点となる座標が存在している。その座標を特定し、ディス・アストラナガンの力で干渉して、空間に穴を開ければそこから脱出が可能となる。
 敵機からの横やりが無くなった今、ディス・アストラナガンの機能を座標特定に集中できる。であれば目的を達成するのにさしたる時間は要らない。
 座標の特定を伝えるメッセージが正面ディスプレイに表示されたのを確認し、クォヴレーはメス・アッシャーを用いて空間の脆弱点に干渉し、空間転移を行おうとコンソールの操作を進める。
 その指が、ぴく、と一度震えてから止まったのは、その脆弱点から再びフーレ級が三隻も出現するのを目撃した瞬間だった。
 さらにフーレ級の出現と同時にこの閉鎖空間が異常な速度で収縮をはじめ、クォヴレーをこのままこの空間に閉じ込め、圧殺せんと動き始めているではないか。

 

「おれをこの空間ごと葬る手に出たか。ならば、強引にでも突破するのみ!」

 

 力づくで押し通るのは、自分よりもアラドの方が得意なのだが、とクォヴレーは思いながら、ディス・レヴに可能な限り負の無限力を呼び込ませ、ティプラー・シリンダーに現在出しうる最大出力を供出させる。

 

「クォヴレー・ゴ−ドンが招く!」

 

 再びディス・レヴの深奥で輝きを増す招く者の聖印。猛然と吹きあがり周囲の空間を染め上げる紅蓮の稲妻のすさまじさよ。それは怨念に塗れた死者の上げる呪いの声であったか。

 

「九刻星(カオス)の連なりの下、神魔サナトスとなりて我が敵を塵せ!」

 

 ディス・レヴより溢れる稲妻の奔流の中から、それは姿を露わした。全身に紅蓮の稲妻を纏い、青い肌に覆われた巨体に金色の文様を浮かべ、背からは肩を覆う様に白い骨の様な甲殻が伸びている。
 ディス・アストラナガンの倍を軽く超える巨体の顔には白い仮面の様なものが被せられ、瞳は処女の血を凝縮したかの如く赤い。歯も瞼も唇もなく、剥きだしとなった歯列には、人の犯す無数の罪の名が記されている。
 巨大さで言えばダイターン3やガンバスターという100mを超す機体が存在するが、それでもこのサナトスは、純粋に霊的な、人の魂によってその巨体を成した存在である。
 その姿は人の負の念が凝縮されたおぞましく禍々しく、そして悲しい魔兵なのだ。
 クォヴレーが招くことのできる魔兵の中でも最も強大な力を持つサナトスの総身から放たれるのは、容赦ない鏖殺しの意思のみ。
 すでに招いていた魔兵の軍勢と、悪魔王と共に神魔がフーレへと行進する。それはいかなる生命であれ、目の辺りにすれば瘧にかかったかの様な震えに襲われる、異形極まりない魔性の大軍勢。
 フーレ級の船体から放たれるバルカン・ファランクス、ディバイダー・ミサイル、レギオン・イレイザーの数々を、マリスの弓が撃ち落とし、アロガンスの盾が受け止める。
 真っ先に取りついたのは最も敏捷なオウディウムである。次いでディス・アストラナガンがフーレの展開するEフィールドの内側へと潜り込み、対空砲火をかわしながらガン・スレイヴを放出して、火力を集中させる。
 いかに巨大な船といえど、数千を越す軍団と化したレギオンを前にしては長くはもたず、たちまちの上に積み重なるダメージの船体内部から次々と爆発を起こして行く。

 

「行け、サナトス。立ち塞がる敵をことごとく灰塵に帰せ!!」

 

 空間消滅までのタイムリミットまで間もない事を確認したクォヴレーが、最も強大で罪と穢れに塗れた神魔へと命ずる。
 数十万に及ぶ殺戮を求める魂の集合体たるサナトスは、本来人の魂が持つあらゆる種の力を無制限に放つ極めて強大な魔兵である。肉体の枷から解放され、ひたすらに憎悪と怨念に突き動かされる魂たちに加減などというものは存在しない。
 フーレの船体上に降り立ったサナトスは、高々と両拳を振り上げ、紅の瞳に凶悪という言葉では到底足りぬ破壊の意思を輝かせるや、紅蓮の稲妻を纏う拳を叩きつける。
 組まれた拳がフーレの船体を叩くと同時に、直径数百メートルに及ぶ罅が巨大な蜘蛛の巣のように船体の外殻を打ち砕き、空間に衝撃が吹き荒れて、同時に他のフーレ級の船体内部から紅蓮の稲妻が奔出し、粉々に打ち砕いて撃ち滅ぼしつくす。
 ダメージを負っていたとはいえ、三隻のフーレ級を一撃で粉砕し、破壊し尽す圧倒的な攻撃力は、まさに最強最凶の魔兵と、神なる魔と呼ぶに値するであろう。

 

「これで邪魔者は消えたか。行くぞ、ディス・アストラナガン。今度こそあの世界へ、そして奴の目論見を叩き潰す」

 

 フーレによって塞がれていた座標へと、クォヴレーは愛機たるディス・アストラナガンを羽ばたかせた。

 
 

 (おしまい)

 
 

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