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SSA_400氏_第14話

Last-modified: 2008-03-04 (火) 00:41:41

「な、何で・・・グッ!!」
「・・・・・・・・・」

 

 ムウは瞳に怒りを湛えたまま地面に倒れ伏すキラの胸倉を掴み上げ無理やり立たせる。
 手加減なしの力任せの一撃によってキラの口角からは血が垂れていた。
 その場に居合わせたフレイ達は突然の展開に思考がついてこれず立ち尽くすのみだ。

 

「どんな思いで戦ってきたか・・・だと?――自惚れるな!!」
「自惚れ…だって?僕は――」
「お前はっ!!」

 

 反論しようとしたキラの言葉をムウは語気を荒げ無理やり封じ込める。
 理不尽と思いたければ思えばいい。
 今のムウは子供の能書きを黙って許す寛容など持ち合わせてはいなかった。

 

「お前はパイロットとしてアークエンジェルに残った!!
 なら、お前には艦を護る義務があるんだよ!!いちいち感傷を持ち出して甘えるなっ!!」
「感傷…だって――ッ!!僕等を戦いに引き込んだ、大人のあなたがそれを言うんですかっ!!」

 

 キラも反発し感情を吐き出す。
 元々、大人達が勝手に始めた戦争に巻き込まれヘリオポリスで暮らしていた自分達の平和は崩された。
 ストライクを操縦できるというだけで、戦い、護る責任を背負うことになりザフトの兵を幾人もこの手に掛けた。
 そして、コーディネイターと言うだけで裏切り者と呼ばれ、幼馴染と決裂し、
 護ろうと決めたはずの友人達ともヘリオポリスでは意識しなかった"違い"が浮き彫りとなり溝が生まれ始めた。
 キラの綯い交ぜになった感情がダイレクトにムウにぶつかる。だが、

 

「ああ、そうだ。先達として教育しなきゃならんからな。
 自分が全部背負い込んでいると錯覚して気分晴らしに仲間を傷つける餓鬼のな!!」

 

 ムウは"事のありのまま"を直感していた。
 問題はキラが不幸な事ではない。キラが自分を不幸だと思い込み、哀れんでいる事だと。
 ムウには、キラが既に志願兵扱いで同盟軍少尉として登録されている事からこの場を上官として振舞うことも出来た。
 そうしなかったのは、ムウもキラに対する自らの負債を自覚していたからなのかもしれない。

 
 

「もう、もうやめてっ!!」

 

 ようやく、思考の糸を繋ぎ合わせたフレイが砂に足をとられながらも駆け足でムウとキラの間に割って入ろうとする。
 ムウの言っている事が間違っていないのはフレイにも理解できていた。だが、事の是非など関係ない。
 ここで下手に拗れでもして、キラがストライクから降ろされるような事にでもなれば、
 自分の身体を許してまでキラを戦いに繋ぎ止めた苦労が水の泡だ。
 そのような事は、フレイには断じて許容できることではない。
 キラには戦って、戦い続けて、死んでもらわなくては自分に対する償いにはならないのだ。
 だから、ここは止める、かばう。
 そう、彼女は自分に信じ込ませた。

 

「フラガ少佐も、キラも…ね?」
「フレイ…」

 

 フレイの介入で場に存在していた緊張感が若干撓み、ムウはキラから手を放した。

 

「…キラ、お前なら俺が見知ってるコーディネイターって奴とは別のモノを見せてくれると思ってたが…残念だよッ!!」

 

 最後に怒りとは別の感情を交えて言うと、そのままムウは背を向けた。
 それを確認し、フレイはキラに駆け寄ろうとする。

 

「キラッ!!」
「こんな『自分まで騙すやり方』じゃ、君自身救われないぜ…」
「――!!」

 

 すれ違う間際にムウがかすかな声で言った言葉にフレイは射すくめられ硬直した。

 

 ――自分まで騙す?何を言っている、俺は?

 

 ムウ自身、何故、このような言葉が己の口から出たのか理解できず内心で動揺したが、

 

「チッ!!」

 

 頭を振ると、それを押し殺してしまった。
 概念も無く、感得するための対象を持ち得ないままに
 芽生えたばかりの感覚のままに推量するにはムウはもう大人過ぎたのだ。

 

「なん…で…」

 

 フレイが振り返った時には、ムウはサイとカガリに声をかけ移動した後だった。

 
 

 アークエンジェル艦内――

 

「今日の外出で少しは気分が変わるといいのだけど――はあ、もぉ…」

 

 マリューは本日何度目かの溜め息を吐く。
 ゲリラとの共闘、砂漠の虎、単独での勢力圏脱出など只でさえ問題は山積みだというのに
 艦内においてもこのような事態が起こっているのだ。
 技術仕官あがりの肩には流石に堪えるというものだ。

 

「まあまあ、気を落としなさんな。俺も出来る限り協力するからさ」

 

 現にムウはサイの方にはすでにフォローを入れていた。
 あの後、サイに溜まった鬱憤を吐かせた上、ムウ・ラ・フラガ青春の苦い思い出のストックも
 2、3披露する羽目になったがそれは仕方が無かった。
 激発して事でも起こされたら本当にサイには救いようがなくなる。
 正直、いつまでも個人の不満に付き合ってなどいられないのだから、未然に問題を防げるならそれに越した事は無い。

 

「外出って、金髪のお嬢ちゃんとだろ…んー」

 

 そう言ってムウはマリューの上から下をにやけた目線眺め、

 

「確かに…悪くない手だなっ」
「少佐――セクハラです」

 

 ムウにジト目を向けるとマリューは肩を怒らせてさっさと先に行ってしまった。

 

「やれやれ…無理をするなってのもおかしいけどさ」

 

 軽薄な仮面の下でムウは状況を精査していた。
 彼らは現在の情勢についてはゲリラによってそれなりに情報を掴んでいた。
 もっとも、どれも芳しいものではないと書き加える必要があるが。
 結論から言えば、援軍はまず望めない。
 それも、連合の体質やここがザフト勢力圏というだけが理由ではない。
 低軌道会戦においてアムロ・レイの指揮する部隊が壮絶な撤退戦を完遂し第8艦隊の全滅を防いだ事も関係していた。
 つまるところ、"ナチュラルの操るMS"が現存し、宇宙でのストライクのデータも運ばれたとあっては
 連合にとってアークエンジェルの重要度はもうそれほどには高くないのだ。
 さらには、後ろ盾になってくれそうだったハルバートンが戦死し
 G強奪事件から敗北の責任までを虚実交えて何から何まで被らされたとなってはなおさらだ。
 皮肉にもアムロの存在がアークエンジェルを結果としてさらに追い詰めている形ではあるが
 ムウはアムロを恨もうなどとは思わなかった。

 

「本当に…大変だな。戻れたら約束守ってくれよ、アムロ大…いや少佐か…」

 

 ムウは、明るい展望など見込めそうに無い先行きに頭を抱え一人ごちた。

 
 

 ――全く、あの人はっ!!

 

 マリューは不機嫌な表情のまま艦長室に戻り温いコーヒーを一飲みにした。
 若干、塩を効かせただけのお世辞も言えない程度の味だがリラックスという役割は充分に果たしてくれた。

 

「気遣ってくれるのは分かるけど…あのノリは慣れそうにないわ…」

 

 なし崩し的にアークエンジェルの艦長代理となり第8艦隊との合流時に正式に艦長を拝命したが
 彼女は、自分が柄では無い事はもう充分に思い知らされていた。
 キラの事にしても、パイロットとしての優秀さにばかり目が行ってしまい
 精神的にはまだ未熟な子供であることを失念していたと。
 もっとも、これは本来、彼女だけが責任を感じることではないのだが。

 

『君が何を悩んでいるかは大体解かるつもりだ。だが、このままじゃ君は――』

 

 ふと、以前に耳に入った言葉が脳裏に過ぎった。
 彼女の恩師が戦死した戦いで勇名をはせた男がキラに言った言葉だ。
 マリューのアムロに対する感情は複雑だ。
 今にして思えばハルバートンにしても自分にしてもアムロをぞんざいに扱った。
 戦闘用に調整されたという噂のコーディネイター達を率いてやってきた闖入者であり
 ムルタ・アズラエルの懐刀であるという以上には踏み込まなかった。いや、踏み込めなかった。
 だが、戦場で実際に彼が起こした行動は連合の若き英雄として恥じないものであった。
 活躍するにしろ、MSの実力を証明するにしろ幾らでも別の機会があったろうに
 全滅寸前の艦隊の撤退を援護するため寡兵で死地に赴き、見事にやりおおせた。
 彼には、艦隊を見捨てて戦闘宙域を離脱する選択もあったのだ。
 それだけで信に置くのは安易であるが、少なくとも、卑劣漢に出来うることではない。
 だからこそ、マリューは自問していた。あの時、自分の目はちゃんと開いていたのだろうか。
 もしかしたら、キラの助けになってくれるかもしれなかった言葉を、人物を先入観に基づいて
 中途半端な所で引き離してしまったのではないかと。

 

「もし、会えたら…謝らないといけないわね」

 

 思案に一区切りつけると、マリューは表情を整えブリッジに戻った。

 
 

 大西洋連邦首都ワシントン――

 

 無駄とも言える程に豪奢な室内でアズラエルはチェスをしながら言葉を交わしている。

 

「以前、提供してもらったデータの借りに…という訳ですか」
「ああ、それ位は当然というものだろう」

 

 尊大が張り付いた様な顔つきに紫のルージュ。趣味が良いとは言いがたい貴族趣味の風体。
 ブルーコスモスでもアズラエルに並ぶ地位にありロゴスメンバーでもある。
 男の名はロード・ジブリールという。

 

「まあ、それについてはやぶさかではありませんが…ね」

 

 そう言いながらアズラエルは駒を動かす。
 見るものが見れば直ぐに解るが先ほどから拙い手ばかりを打っている。

 

「精神系デバイス研究のデータ一式を丸々寄越せなどという無茶な要求に応えたんだ。
 それも何に使うかも聞かずに…な」

 

 盤上の駒の配置は無茶苦茶だ。
 正直な所、互いに全くやる気が無い。
 このような只のゲームでさえお互いの手の内をさらけ出すのを拒否しているかのようだ。

 

 ――不本意甚だしいが…我慢かな。

 

 アズラエルは、自身が極秘裏に進めているプロジェクトにジブリール側が研究している
 精神系制御のデータが必要と早期に判断しジブリールの一派からの提供にこぎつけていた。
 ブルーコスモス内でも精神コントロールの研究を担う彼等からの資料は
 実際にアズラエルのプロジェクトを大きく前進させたが
 無駄ともいえる生命の大量消費で培われたデータのために借りを作ってしまった事については
 愉快に思える道理が無かった。

 
 

「それじゃあ、太陽光の資料その他諸々…後で送らせておきますよ」
「フッ…、ブルーコスモスの力は今までに無いくらいに高まっている。こういう時こそ協力してねばならんからな」

 

 ジブリールはねめつける様な口調で発した。
 今日の情勢にあって、コーディネイターの排斥を唱えるブルーコスモスの思想は爆発的に広がりを見せた。
 政治、メディア、果ては裏社会までもがブルーコスモスを支持しその影響力は肥大化の一途を辿っている。
 白々しい事をとアズラエルは心中で毒つく。
 ブルーコスモスを錦の旗にして好き勝手な行動をする連中のおかげで
 ブルーコスモス思想の在り様そのものが変質させられかねないこの状態は決して手放しに喜べるものではない。
 アズラエルにとっては収拾のために人も時間も割く羽目になるやっかいな案件であり
 より過激な思想を唱えるジブリールにとっては放っておいても自身の権勢を増す絶好の機会だった。
 判っていて言っているのだ、この男は。

 

 ――潰せれば何でもいいって感じだな。やれやれ、過激思想の宗教家って奴は…

 

 ジブリールのコーディネイターに対する病的なまでの憎悪は旧時代からの連綿と続く彼等の教義によるところが大きい。
 一部ではジョージ・グレンのエヴィデンス01の発見で宗教界は権威を失墜したなどと報じられるが
 信仰という奴はそんなに生易しい代物ではない。
 そして、『神の領域』を侵して誕生したコーディネイターはその存在自体が彼にとって不倶戴天の敵なのだ。

 

「用件は済んだでしょう、それじゃあこれで…」

 

 アズラエルは話はこれまでと席を立つ。
 個人的にも嫌悪しか湧かない男と何時までも同席するのはご免だった。

 
 

「ジブリール様…あの男よろしいので…?我々の思想より別の思惑で動いている節があります」
「…言いたい事は分かるがな」

 

 昨今のアズラエルの行動は、以前の彼とは少し変わっていた。
 現在、アズラエルはモビルスーツ開発における戦闘用コーディネイターの活用を足がかりに
 地上のコーディネイターの有効活用を実施している。
 本来ならば、非難されて然るべきだったが、その内容は一応の説得力を有するモノだった。

 

『選定するのは"プラントに憎しみを持つ"コーディネイター。
 同族意識が高いと言っている連中へのいい皮肉にもなるでしょう?』

 

 エイプリルフール・クライシス――地上の人口の一割を死に追いやったコーディネイターに対する憎悪は
 皮肉にも実際に行ったプラントではなく同じく被害を被ったはずの地球に住むコーディネイターに容赦なく降り注がれた。
 一般人、メディア、権力はもちろんの事、所謂裏社会までもを敵に回し虐殺紛いの蛮行も繰り広げられたのだ。
 このような事態になり地球に住むコーディネイターへの処遇について
 連合各国、ブルーコスモス、果てはロゴス内部においても頻繁に話し合いが行われた。
 地球の利になるならば積極的に保護するべき、潜在的な脅威にとして排斥されて然るべきと
 意見は割れて纏まる気配は無かった。
 結局は、それぞれが好き勝手にやり始めたのだが
 その中で、アズラエルはブルーコスモス思想の解釈を巧みに利用し
 プラントを敵視するコーディネイターの保護に乗り出したのだ。
 無論、思想チェックでかなり弾いている上に無原則に救済するつもりはアズラエルには無かった。

 

『ここまでされて、憎しみも持てない者には用はありません。
 平和のためとか戦争を終わらせるためと擦り寄ってくる連中は特に論外です。』

 

 一応、対外的に通用する言い分の用意が必要だった事もあるのだが
 実の所、アズラエルはそれ以上に『芯』を持つ人材を欲していたのだ。
 コーディネイターを内部に孕むのはリスクも大きい。
 情勢次第でどう転ぶか判別つかない者まで引き入れて心変わりでもされて内部から工作されては目も当てられない。
 そのための条件だったのだ。
 そして、この処置を是としたブルーコスモス内の一部の穏健派を味方に引き入れること成功し
 アズラエルも勢力の拡大を果たしていた。

 

「今は奴の才幹が必要なのだ。滅多な事は口にするな」

 

 ジブリールにとってアズラエルは潰すべき敵であったが
 この情勢下で積極的な派閥闘争にのめり込む気は毛頭無かった。
 彼にとって、アズラエル以上にコーディネイターに対する敵意は根強かったのだ。

 

 ――そう、今は…な。

 

 上昇志向と敵意に彩られたジブリールの瞳はただただ昏くギラついていた。