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SSA_400氏_第14話後編

Last-modified: 2008-03-04 (火) 00:42:27

プロジェクト進行報告書/No.11124―抜粋

 

 ロード・ジブリール氏から提供を受けたデータを基に伝達ユニットの試作機を開発。
 ただし、作動のためにはνのサイコミュユニットは不可欠である。

 

 サイコミュから駆動系へのフィードバックについては昨年11月の実験で初回目標値に到達。
 サイコフレームの機能も正常。詳細については試料Fを参照。

 

 試料F(一部抜粋):サイコフレームは金属粒子の隙間にサイコミュの基礎機能を持つコンピュータチップを
 鋳込んでいる特殊な合金でありその機能には未知の部分も多い。
 もっとも、サイコミュという技術自体が未知を内在したままに『協力者』の世界で用いられてきた事を考えれば…

 

 試料F(一部抜粋):サイコフレーム励起時の燐光発生現象の他、伝達ユニットとの干渉によって力場の発生を確認。
 実装後に発生した場合には機体表面を伝うように覆うと予測。ただし、何らの機能も有さず、ただ、在るだけとしか確認できず。
 これによる『協力者』への悪影響は認められなかった。調査は継続して行う予定。

 
 

 L.T.A.(Luna-Titanium Alloy)。PS装甲素材の精製技術を一部流用する事により、完成を見る。
 優れた硬性、耐熱性、耐蝕性を併せ持ち、軽量であるという当初の目的は達成するも
 精製には高度な技術と希少金属が不可欠であり、PS装甲以上のコストが掛かると概算される。
 実装時にはセラミックス系の素材と複合し、使用する予定。
 比較実験では、展開時のPS装甲に比し6割程の防御能力を記録。今後は7割強にまで引き上げるのを目標とする。

 

 CE71.2月15日 ローラ・ロッテ技術中尉

 
 

 開発主任手記―抜粋

 

 ニュータイプ能力の人工的な再現には、可能性として、投薬・催眠による洗脳操作が考えられるが
 ノウハウの確立にはデータ、技術ともに不足していると言わざるを得ず、
 また、情緒不安等の精神的悪影響を受けた兵が十全に活用できるかは、甚だ疑問である。
 CE70.12月に機材開発部より提出されたニュータイプ能力再現案(『協力者』の拘束・解析も含まれる)の即時破棄は
 個人的にもムルタ・アズラエルは妥当な判断を下したと認める。
 尚、提案ユニットのパージの際には幾分かの私的感情の発露もあったと…

 
 
 

 CE71.2月21日――

 

「大分遅れるかな、アムロ君逃げていなきゃいいけど…」
「フフッ、冗談も程々にしないと。本当に逃げてしまっていたらどうするつもり?」
「まあ、その時は笑って誤魔化すよ」

 

 アズラエルは車上の人となり大西洋連邦首都ワシントンから100kmほど離れた
 大西洋連邦軍統合作戦本部へと向かっていた。
 この日に行われる式典に出席するためである。

 

「彼は今回の主役だからね。まあ、窮屈そうにしているのは間違いないかな」
「まあ、少佐も苦手だと言っていたから」

 

 アズラエルは機嫌がよかった。
 この式典は大西洋連邦初のモビルスーツ実践投入の大々的な喧伝の席となる。
 それは、ここまで推し進めてきた自分の判断が正しかったという証明である。
 道化扱いとなるアムロには悪いが嬉しくないはずが無い。
 無論、アムロと約半年振りに直接顔を合わせる楽しみも上機嫌の要因の一つなのだが。
 『主任』はその様子が妙に可笑しく微笑を浮かべていた。

 

 ――少佐が来てから…少し変わった。いや、戻ったのね。

 

 アズラエルはコーディネイターに対しての心的外傷を持っている。
 アズラエル自身は認めたがらないだろうが、それはある時期までは才幹を引き出すバネとして有効に働いていたのだ。
 だが、内面で燻り続けたモノは年を経るごとに肥大化の傾向を見せ始め、徐々にではあるが彼から均衡を奪っていった。
 そして、ザフト開発の新兵器モビルスーツ、圧倒的国力差を覆す戦局。――見せ付けられるナチュラルとコーディネイターの差。
 開戦後にそれは顕著ともいえる形で加速を始め、あとは酷くなっていく一方だった。
 一通の通信文からなる数奇な出会いが彼にもたらされるまでは。

 

 ――結局、誰にも出来なかった事を想定の外からやって来た人だけが可能にした。

 

 アムロがいなければアズラエルはどのように変質していただろうかと思うと暗澹となる。
 正直、彼女はエイプリルフール・クライシスが起こった時、アズラエルの破綻を覚悟していたぐらいだ。
 だが、実際にはこうしてアズラエルは彼流に言う『利』に従い行動している。
 それが、彼女には嬉しく思えた。

 
 

 低軌道会戦の後、アズラエルは反ブルーコスモス派との間に非公式に席を設けた。
 ヘリオポリスでのG兵器強奪事件から始まる今回の失態は全てハルバートン一人に被ってもらうという事にして
 アズラエル側でも調整するという内容で話をつけたのだ。
 これは、手ぬるいという以前に助け舟に等しい行動だったがブルーコスモス内がゴタゴタしているいま、
 下手に軍内部で勢力拡大を図るのは避けるべきであると判断したゆえである。
 それに、たとえ恩という物を便所紙程度にしか考えていない連中であっても繋ぎをつけておくのはそう悪くない。

 

 ――『血のバレンタイン』なんて勝手な事をまたされちゃあ堪んないからね。

 

 あれはあれで、宇宙の一隅が清潔になったとは思うが禁忌の力を中途半端に用いた結果がエイプリルフール・クライシスだ。
 核を使うならば相手の戦闘継続意思を粉微塵に打ち砕く公算があってしかるべきだというのがアズラエルの見解だった。

 

「ところで、彼女と今日会えるはずだけど…例の件は?」
「はい」

 

 アズラエルの言葉を合図とし『主任』は手元のターミナルを操作する。
 ディスプレイに映し出されたのはG兵器と似たようなフォルムでありながら連合製モビルスーツのどれとも異なる。
 オーブが連合の技術を無断転用して極秘裏に開発したモビルスーツである。

 

「その後の調査によれば、これらMBF-Pシリーズのコードネームは、"アストレイ"」

 

 『主任』の口調が変わる。今はプライベートではないからだ。

 

「アストレイ(王道ではない)?なんともピッタリというか、皮肉というか」
「主任設計技師、エリカ・シモンズ。オーブ在住のコーディネイターです。
 もっとも、本人は隠しおおせていると思い込んでいるようですが…」

 

 オーブはコーディネイターを無条件に受け入れている国家だ。
 その技術者がコーディネイターであること自体は別段不思議でもなんでもない。

 

「隠しているっていうのは?」

 

 アズラエルのこの質問に他意はない、純粋な興味から出たものだ。

 

「オーブに移住後、ナチュラルとして暮らしているようです。
 理由までは正確に解りかねますが、両親がナチュラルという事が関係していると思われます」
「両親がナチュラル、ねぇ」

 

 『主任』の言葉にアズラエルは若干の苦笑を無意識の内に浮かべていた。
 何故、自分をコーディネイターにしなかったかと母親に詰め寄った事がある。
 今思えば、馬鹿な事を言ったものだと思う。

 

 ――どうでもいい事だ。馬鹿馬鹿しい。

 

 かぶりを振って思考の澱みを振り払う。過去は過去だ。
 気付けば『主任』の眼が心配そうにこちらを覗いている。

 

「大丈夫?」
「えっ、ああ、問題ないよ。肝心の機体の方は…」
「はい」

 

 『主任』はキーを叩き、次々とディスプレイの情報を入れ替えていく。

 

「どうやら、連合よりも早い時期に機体開発のプランは動いていたようです。
 G兵器開発プロジェクトに参加したのも連合の技術をこれに使用する意図も含まれていたと考えるのが妥当でしょう」
「フットワークが軽くて羨ましい限りじゃないか。ビーム兵装はやられて、と…PS装甲はどうだったっけ?」
「軽量発砲金属を使用した軽量化システムを採用していると確認出来ました。PS装甲材関連までは無理だったという事かと。
 また、OSもヘリオポリスのモノと大差ないようです」
「相変わらず如才無いじゃないか、ご苦労さま」
「はい」

 

 そこで、アズラエルに笑顔を向け『主任』はターミナルを閉じた。
 少し前まで月に居ながらどうやってここまでの情報を探れるのかは知れないが
 大したものだとアズラエルは素直に感嘆した。

 

 ――それにしても、なかなかどうして派手にやったものじゃないか。これで『予定通り』だったら都合も良かったんだけど。

 
 

「…お伺いしてよろしいですか?"プロジェクト"の事で」
「んっ?」
「報告書の通り、現在、順調に進んでいますが…」

 

 物思いに耽っていたアズラエルに『主任』は口調を変えて問う。
 モビルスーツ開発にアムロの知識、νガンダムに投入されている技術を用いるのは有効である。
 実際にMk-兇砲蓮幾つか導入されており実戦データからもそれは顕著に示されている。しかし、

 

「サイコミュは現状アムロ少佐しか扱えない技術です。多少は流用できる部分があるにせよ全体的な採算としては合わないでしょう。
 貴重な資料を投入前提とし、ジブリールに借りを作ってまで開発を進める狙いをよければ聞かせて頂きたいです」
「えーと…それは…」

 

 『主任』の問いにアズラエルは若干尻込みする。
 理由はあるのだ、アズラエルなりの理由は。ただ、それを聞けば彼女がどう反応するのか考えると
 何か良い言い訳は無いものかと思ったが、下手な取り繕いは通じない事も分かっていたので結局は観念する事にした。

 

「我々の技術でどれだけ出来るが、どこまでは出来ないか、どれだけの物を造りだせるか。まあ、ようするに…」

 

 そこで、アズラエルは一拍置き、

 

「見てみたいと思わない?ニュータイプ専用モビルスーツって奴を」
「…えっ?」

 

 とたんに白々しい雰囲気が車内を覆う。
 少なくともアズラエルはそう感じた。

 

「…それだけを理由に?」

 

 動機はあまりに単純だった。珍しいモノ見たさ、好奇心が主因だとは。
 アズラエルは少しだけ自嘲するような笑みを浮かべて、

 

「以前、アムロ君に言われてね。僕は隣の芝を青く見過ぎってさ。
 彼にしてみたらこの世界の技術は随所に見るべきところがあり卑下する事は無いと。
 それじゃあ、νの次をこちらなりに造ってみるのも悪くないかなぁと…」

 

「………」
「………」

 

 沈黙が続いている。肩を震わせている彼女を見てやはり怒らせたかとも思ったが、

 

「プッ…アハハハハッ」

 

 アズラエルの予想に反し『主任』は笑い始めた。どうやらさっきまでのは笑いを堪えていたためのようだ。

 

「あ、いえ、ごめんなさい。フフフッ…」

 

 目端に涙まで浮かべている。諌められる事を覚悟していたアズラエルからしてみれば肩透かしを喰ったものだ。

 

「そんなに笑う事かい?」
「いえ、思った以上にいい答えを聞けました。少なくとも頑張ろうって気になるくらいには」

 

 何だかよく分からないが彼女は納得したらしい。ならば結果オーライだとアズラエルもそれに倣うことにした。

 

「報告書といえば…この名前、他でも使ってなかったかい?」

 

 ファイルに印字された名を見てアズラエルは呆れ混じりに呟く。

 

「そうでしたかしら?まあ、名前には大した意味はないから…」

 

 大した感慨も無くあっさりとそう答えた彼女の髪が揺れる。
 紺色の髪、その本来の色が黒だと知る者は少ない。
 相変わらずの答えにアズラエルは、

 

「変なところで無頓着だよねぇ、君も…」

 

 と、呟いた。

 
 
 
 

 大西洋連邦軍統合作戦本部――

 

 ――シャアがウンザリしていたのも解るな…

 

 アズラエル達の予想通り、アムロは政治ショーにいい加減付き合いきれなくなっていた。
 国防委員長のアジ演説の具にされ、自分や自分の縁を利用しようとあからさまに媚を売ってくる将官や政治関係者。
 今回の式典は、大西洋連邦のモビルスーツ開発が大きく前進しているという対外向けの発表の場として
 連合内での地位をより磐石にするためという意味合いが含まれている事もあり政財界の有力者も多数見えるのだ。
 彼らにとっては低軌道会戦戦没者の事など二の次らしい。
 そして今は、無責任なジャーナリズムにこぞって取り囲まれており散々である。
 英雄を祭り上げる事も、モビルスーツの喧伝の必要も全く理解できないほど
 アムロは子供ではなかったが、これはもう、向き不向きの領域だ。

 

「ああ、流石にモビルスーツはメビウスと勝手が違っててね。最初は苦労したな」

 

 インタビューに対し出鱈目を並べ立てて答える。
 スムーズに受け答え出来るのはそれなりの努力の成果だった。
 こういう時にボロを出さぬよう何度も練習を重ねている。

 

「しかし、苦労っていってもあなたの実戦での成果は流石に不自然じゃあないか?」

 

 紫の髪の一部を金に染めている青年が後方から耳障りな音量で声を発した。
 些か、神経がささくれ立っている今のアムロにそれは不快に思えた。

 

「…訓練の成果と優秀な開発陣の努力のおかげだと理解しているよ」

 

 ぶしつけな質問に用意していた答えで応じる。
 妙な熱意に浮かされたジャーナリスト達を醒めた眼で見ながらアムロは己の役割を淡々とこなした。
 それゆえに取材時間が終了となった時は内心嬉しく思えた。

 
 

「はぁ…」

 

 ようやく、一段落しアムロは会場の隅で溜め息を付いていた。

 

 ――柄じゃないのは承知だが…疲れたな。

 

 どうにも居場所に困る、そう思ったがそれでは今の自分に居場所などあるのかとも考えてしまいそうで気疲れする。
 こんなことを考えてしまう事自体が疲労を示している。そう、自覚せざるを得ない。
 ここは何もかもが色褪せて見え、自分に閉塞感を与えるのだ。

 

「随分と所在なさげだな」
「んっ?」

 

 俯き加減だった顔を上げると190cm近い長身が目に入った。

 

「君は…」

 

 アムロは彼女に見覚えがあった。
 その怜悧な印象を与える顔立ちも微かに香の香りがする流れるような黒髪も。

 

「確かオーブの…」
「ほう、覚えていたか。もっとも半年前はお前には挨拶もしてもらえなかったが」
「俺を知っていたのかい。無礼だったなら謝るよ」
「かまわんさ。こちらも確証が無かったとはいえ気付かぬ振りで通したしな」

 

 二人はどちらともなく握手を交わす。
 当たり前の事だが、一度はちゃんとした形で名乗っておくべきだ。
 互いにそう思った。

 

「オーブ連合首長国、ロンド・ミナ・サハク。こうして会えて嬉しく思う」
「こちらもそれは同様さ。連合軍少佐、アムロ・レイだ」

 

 アムロ・レイとロンド・ミナ・サハク。打算の渦の中で彼等は再会を果たした。