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SSA_400氏_第18話

Last-modified: 2008-07-03 (木) 19:25:43

CE71.3月19日――

 

 大気を震わせる滑腔砲、機関砲の射撃音。
 そして、耳を劈く爆発音は一時も熄む事無く混然一体となり戦場に木霊する。
 それは、ただでさえ熱を孕んだ空気に圧力と死臭を加え、人間が生存するに相応しくない地獄をこの場に出現させていた。

 

「クソッたれ!!『壁』共は一体何やってたんだ!!」

 

 リニアガンタンクの内部で窮屈な身体を捩りながら兵士が毒づく。
 直後、すぐ側の戦車が直撃弾を受け炎上する。

 

「ギャァァァァァッ!!」

 

 奇跡的に即死を免れたものの火達磨になりながら堪らず車両を飛び出した兵士に
 榴弾の雨が容赦なく襲いかかり、その身体をバラバラに引き裂く。
 しかし、それに関心をはらう者はいない。
 そのような、余裕・贅沢などそもそも許されていないし、
 次の瞬間には己がそうなっていたとしても何ら不思議ではないのだ。

 

「無駄口を叩くな!!前が粘ったおかげでどうにか戦争になっているんだぞ!!」

 

 同乗する上官――地球連合軍所属エドモンド・デュクロ大尉は複雑な表情を貼り付けながら怒鳴った。
 『壁』というのは、主に連合に所属するコーディネイターで編成された部隊に対する蔑称であった。
 今回のザフトの総攻撃に際し、連合に鹵獲されたジン数機、または雑多な火器を加えて戦線を支え、
 既にその大半は役割を終えていた。当然の事ながら、全滅という形で。

 

 ――クッ…!!

 

 何に対してなのか、自身でも判然とせぬままにデュクロは呻く。
 愚痴を吐き捨てた部下を責めるつもりは無いが、
 捨て駒として予定調和のもとに効率よく消耗し、すり潰された『壁』部隊が哀れに思えた。
 ザフト軍は地球に味方するコーディネイターに対して特に遠慮が無い。
 鹵獲ジンに搭乗していた者は、まず、間違いなく降伏を許されず殺されただろう。
 こういう話になると、よくコルシカ条約などをしたり顔で持ち出す輩がいる。
 確かにそれは、捕虜の権利を認めており、戦場での無意味な殺戮を禁じてもいる。
 だが、結局は戦争である以上、敵を殺す事についての明確な規定など定められるはずも無く
 戦場にあってそれは、当然のように反故され、黙認され、そして、隠蔽される。
 表面に曝され、裁かれる事例など全体からすれば氷山の一角もいいところなのだ。
 所詮、紙文書など銃弾と狂気が支配する戦場にあっては、モノの役にもたたぬという証左であろう。

 

「伍長、徹甲弾装填!!1号車より小隊各車――」

 

 顔も知らぬ者達への憐憫も一瞬の事。
 デュクロは、すぐさま鬼車長の顔を取り戻し、指揮を続けた。

 
 

 南アメリカ大陸。
 この地は、元々はブラジル・コロンビアなどの中南米諸国による南アメリカ合衆国の地であった。
 しかし、C.E.70年2月18日――プラント最高評議会議長シーゲル・クラインによる『積極的中立勧告』を南アメリカ合衆国が受諾した際、マスドライバー"ポルタ・パナマ"がザフトの手に渡ることを危惧した地球連合軍による電撃的武力侵攻を受け、現在は大西洋連邦に併合されている。

 

 南アメリカ大陸の大きな特徴として、真っ先に思い浮かぶのはアマゾン川流域に広がる熱帯雨林の存在だ。
 省略してアマゾンと呼ばれるこの場所は、地球上のあらゆる生物になくてはならぬ酸素を多く放出する地球の肺であり、人類とそれ以外の生物にとっては特別な場所なのだ。
 それこそ、地球連合はもとより、ザフト軍でさえもアマゾンでの戦闘行為は自粛している程である。
 そして、その様な事情により、南アメリカ大陸の戦線はアマゾンを迂回する形で限定される事となった。
 連合軍は、大陸北部太平洋側には地形を利用した大小様々な野戦築城をなしており、
 ザフトの積極的な攻勢が予測される大西洋側には、サンフランシスコ川に沿って
 400kmに渡って伸びる長大な防禦陣――サンフランシスコ・ラインを構築する。
 サンフランシスコ・ラインは、宇宙港を持ち、パナマへの橋頭堡ともなりえるフォルタレザを防衛する要衝であった。

 

 C.E.71年3月13日。
 サンフランシスコ・ライン南部100km地点において、連合軍の最前線をこれまで支え続けていた
 『壁』の消耗を正確に測っていたザフト軍はついにサンフランシスコ・ラインに対して総攻撃を開始。
 それに際し、総攻撃が近い事を予測していたにも関わらず、地球連合南アメリカ方面軍の対応は後手後手にまわった。
 司令部は、ザフトの戦力と速度を大きく見誤っていたのだ。
 これは、部隊移動等の秘匿に腐心したザフトの忍耐が結実した結果であった。
 それでも、何とかまがりなりにも態勢を整える事が出来たのは『壁』部隊の働きによるところが大きい。
 彼等は、隣人から排斥される事となった元凶との戦いを、戦わねば自らの、
 そして愛する妻子の正当な権利を護れないという悲愴な決意も手伝って凄絶に戦い玉砕した。
 悲愴なメンタリズムを期待し前線に配置した司令部の救われざる軍官僚的思考に彼等は自らの犠牲を持って応えたのだ。
 なお、『壁』部隊に水準を遥かに超え精神を破壊するレベルの試製強化薬が、
 この時、密かに用いられていたという噂が後にまことしやかに囁かれる事になるが、その真偽が明らかにされる事はなかった。

 

 そして、CE71.3月18日までにザフト軍は、多大な犠牲を払いながらも、各所で渡河を成功させ連合軍野戦陣に対して突撃を開始した。
 対する地球連合南アメリカ方面軍は、軍司令部予備兵力として後置していた特機教導師団を急遽展開していた。
 特機教導師団とは、教育総監部直属の機関・部隊でありモビルスーツの戦闘技術研究・開発を担当している。
 モビルスーツ訓練教官・テスターによる集団であり、純粋なモビルスーツ部隊としては精々一個大隊規模だが、実戦部隊とした場合、モビルスーツ部隊として最精鋭である(現状でも実戦に耐えうると判断された)ために一個戦車旅団を初めとする実働部隊と併せて師団編成され、南アメリカ方面軍隷下に編入されていた。

 

 ここに、南アメリカ戦線は大きな山場を迎える事となる。

 
 

「グッ…!!」

 

 空からの散発的な爆撃が地を揺らしデュクロは顔を顰める。
 スピアヘッドによる空戦部隊もザフト軍空戦用モビルスーツ――ディンに押されつつあるのだ。

 

「全く、ジリ貧って奴だな…援軍はまだか!?」
「――敵、突撃…来ます!!」

 

 叫びと共に眼前の粉塵の向こうから無数の影が迫ってくる。ジンとは全く異なるシルエット。
 それが、大気を切り裂き猛烈な勢いで疾駆する。

 

「四本足…バクゥか!!」

 

 高い走破性、機動性を有すザフト軍陸戦用モビルスーツ――
 バクゥは、これまで幾度となく連合軍の地上戦力を喰い破り、蹂躙し続けてきた難敵だ。
 リニアガンタンクなど、バクゥの前にあってはノロマな亀同然なのだ。
 これまでの戦いでその事をよく知っているデュクロはそれ故に戦慄した。

 

「接近されたら終わりだぞっ!!各車ありったけの弾をブチ込め!!」

 

 徹甲弾の雨がバクゥ目掛けて降り注ぐ。
 そのうちの幾つかは命中しバクゥの俊足を鈍らせるが、阻む者に対して怒りを向けるかのごとく、その単眼が獰猛な光を放ちレールガンとミサイルランチャーによる報復を敢行する。

 

「ヤバい!!全車緊急回避!!散れ!!」

 

 回避運動をとって数瞬もしないうちに激震が戦車を揺らした。
 爆風と巻き上げられた砂塵によって視界が封じられる。

 

「クソったれっ!!各車被害状――!!」

 

 言い終わる間も無くデュクロは目を見開いた。
 モニターの画面一杯にバクゥの巨体が映し出されている。至近だ。反撃も、回避も、到底間に合わない。

 

「大尉ぃぃぃっ!!」

 

 悲鳴が戦車内に満ちる。デュクロは死を確信し歯軋りした。
 遺される甥の顔が脳裏を過ぎ、デュクロはこれから己を屠り去るであろうバクゥを自身の意地を総動員して睨みつけた。

 

「――やらせないっ!!」

 

 次の瞬間、突如、側面から放たれたビームの連射がバクゥの装甲をこそぎとるように削り、動きを封じる。
 手に持ったビーム・カービンを斉射しながら、巨大な影が背に炎を従えて、バクゥに一気に接敵するのをデュクロの眼は捉えていた。
 交差する一瞬、機影が逆手に持つ青白く輝く刃がバクゥの腹部を引き裂いた。

 

「これは…モビルスーツだと!?」

 

 デュクロは、思わずそう口にしていた。
 だが、その機体は連合が今まで運用していた鹵獲ジンなどとはまるで異っていた。

 

≪こちら『モノケロス』所属、イレブン・ソキウス曹長です。戦車部隊は至急にD-16まで退避してください≫

 

 自分を救った機体から少年――イレブンの声がスピーカーを震わせる。

 

「フゥ、助かった…か。援軍、感謝する」

 

 デュクロは生命の危機を脱した事に安堵の息を吐きイレブンに謝辞を述べた。
 あまりにギリギリのタイミングだったので運命の女神のイタズラかと揶揄の一つもしてやろうかと一瞬考えなくもなかったが、ここは生きながらえた事を素直に感謝する事にした。

 

「た…大尉…」

 

 同乗する伍長が情けない声を震わせている。
 恐怖と安堵により、どうやら彼は、小便を漏らしてしまっているようだった。
 もちろん、デュクロはその事を馬鹿にするつもりは無い。

 

「俺もお前もどうやらまだ運には見放されていないって事だ。小隊各車、一気に後退するぞ!!」

 

 未だに震える伍長を尻目にデュクロは威勢の良い声を発し命令を伝える。
 今、この場にいても自分達は足手纏いにしかならない。
 速やかに後退する事こそが救援に駆けつけた者達に報いる事になるのだ。

 

「ほら、お前も何時までもボサっとするなっ!!」

 

 後部座席から怒声を発し伍長の頭に蹴りを入れる。
 伍長は弾かれた様に一瞬背を伸ばすと、ようやくリニアガンタンクを後退させた。
 視界が広がると同時、スピアヘッドと共同してディンにあたる機影が見て取れた。
 こちらは、見覚えのある機体だ。連合最強のエースが駆る機体――ガンダムMk-供

 

「モノケロス隊長、アムロ・レイ少佐。さて、噂どおりか…な」

 

 デュクロは徐々に小さくなってゆくモビルスーツの群れを見やりながら、シニカルな笑みと共に誰とも無くそう呟いた。

 
 

 特機教導師団司令部直属独立特殊MS部隊『モノケロス』。
 古い言葉で一角獣を意味するこの名を冠した部隊は、装備と訓練に特権的な優遇措置が認められており、
 隊長を務めるアムロは無論だが、各方面から選抜された隊員達の実力も極めて高いレベルを誇っている。
 しかし、その反面、ブルーコスモス盟主ムルタ・アズラエルの私兵集団として揶揄されてもいた。
 これは、アムロとアズラエルに対する勘繰りも大きな原因の一つではあったが、
 それ以上に、ブーステッドマン、そして『訓練施設』の人間が同部隊に所属しているため極めてブルーコスモス色の強い実験部隊として見られている事が主な要因である。
 なお、隊を編成するにあたって、戦闘用コーディネイターであるソキウスの配属に関して、
 連合高官の一部で物議を醸したが、これは事なきを得ている。

 

『ナチュラルのエースが戦闘人形を扱う。これは、我々が求めていた構図そのものではありませんか』

 

 この様な言葉が飛び出し、それが連合高官の歪んだ優越感をいたく満足させるものだったらしいのだ。
 ナチュラルの便利な道具としてのコーディネイター。率いるは、コーディネイターの優位性を脅かすエースパイロット。
 あまりにも、解りやすく、耳に甘美に響き、それでいて安っぽい事この上ない構図だ。
 実に馬鹿馬鹿しい話だが、それでも、当のソキウス達はアムロと同じ部隊で戦える事を素直に喜んでいるのだから、これ以上の言及は野暮というモノであろう。

 

「モノケロス各機、状況開始。地上チームは予定を変更しE-19から浸透するバクゥの殲滅を優――」

 

 アムロは回線を開き矢継ぎ早に指示を送る。状況が予測より遥かに酷く、迅速な対応が求められていた。

 

 ――BRF(ブリーフィング)の予測は甘すぎたな。

 

 それ自体は、アムロも連邦に属していた頃から慣れている。
 上層に位置する者達は、現実の悲観よりも虚ろな楽観をまず兵に強いるのだという一種の悪癖は、どうやらどの世界でも同様らしい。

 

「――俺とクロトはブリーフィング通りにドダイでスピアヘッドの支援に移る…行けっ!!」
≪了解っ!!≫

 

 通信を終えるとアムロは、ザフト軍のMS支援空中機"グゥル"とは全く異なり、
 スペースシャトルの翼だけを独立させたような形状のS.F.S.(サブフライトシステム)をMk-兇ら操作すると、ディンの編隊に向け機体を飛び込ませた。

 

「あれはっ!?」
「地球軍のモビルスーツ部隊――新型かっ!?」

 

 ザフトのパイロット達にも動揺がはしる。
 それでも、彼らはそれを即座に振り払い、自らを戦闘状態に持っていった。
 これは皮肉にも、南アメリカ戦線において連合軍が鹵獲ジンと連合所属コーディネイターを
 優先的に配備していた事による対モビルスーツ戦闘の経験が大きかった。

 

「連合も自前のモビルスーツを投入って事かっ!!しかし、地上戦でバクゥに勝てるなどと!!」
「クッ…!!」

 

 獲物を狙う猟犬の如く迫り来るバクゥの群れの背から、間断無くミサイルが放たれる。
 それをイレブンは、イーゲルシュテルンとビーム・カービンで弾幕を張りつつ軽快な機動で回避する。

 

「流石に…速いがっ!!」

 

 一転、イレブンは突出したバクゥを中心に円を描く様に周囲を滑りながらビーム・カービンを叩き込む。
 バクゥに決して引けをとらぬ運動性能を見せつけるモビルスーツの機敏さにザフトは今度こそ戦慄した。

 

「その動き…貴様も裏切り者なのかぁ!!」
「くっ…あなた達は何でいつもっ!!」

 

 激昂したバクゥからの攻撃が群れを為してイレブンの機体――GAT-01D1e ロングダガーに迫る。
 これは、先行量産された新型主力モビルスーツをソキウス用に改修した機体だ。
 さらにイレブンは自機に基本装備の他に新開発のアーマーシュナイダーを持たせている。
 これは、従来の高周波振動型ではなく、TCV(熱伝振動)を採用した新型でPS装甲すらも貫く事が可能だ。
 旧来のモノと同じく、機体のエネルギーを損なう事無く使用出来るのが利点だった。

 

「前に出すぎだ、イレブン!!――そこっ!!」

 

 後方から一気に飛び出した重装備の機体――ロングダガーに増加装甲フォルテストラを装備させたセブン機が、上空から8連装ミサイルポッドの炎と噴煙をばら撒いて援護する。
 土砂が弾け飛び、燃焼する爆炎が一帯の大気を灼いてゆく。
 その渦中に他の機体――GAT-01D1 デュエルダガーも踊りこみ一方的な殺戮の場は戦場へと変化を遂げた。

 

 イレブンが高い戦闘力を発揮しながら切り込んでいき、セブンは支援射撃を行いつつそれに追従する。
 それに動きをあわせ、エイト機とダガーもバクゥの群れを切り崩していく。
 その突破力は、敵機体そのものだけではなく、そのパイロットの精神をも直撃するような鋭さを伴っていた。

 

「犬コロどもがっ!!ウザいんだよーっ!!」

 

 態勢を崩したバクゥを、オルガ・サブナックのロングダガーが容赦なくリニアキャノンとミサイルのシャワーを降らして焼き尽くす。
 一見すると、無分別に火砲をばら撒いているようでもあるが、実効果として、適切な箇所に放たれる濃密な弾幕は、他の敵機体への牽制も果たしていた。
 もっとも、当人が考えてやっているのか、本能によるものなのかは判然とせぬが。

 

「くそ、ナチュラルが調子に――ぐわっ!!」

 

 衝撃とともに背を貫いたビーム・サーベルの刃が台詞を言い終わる事を許さなかった。
 斬撃はコクピットからギリギリ外れていたが、この場合は何ら慰めにはならないだろう。

 

「や…やめろーーっ!!」
「ハハッ!!」

 

 酷薄な笑みを浮かべザフト兵の声を一笑に付し、
 シャニ・アンドラスは光刃を一気に滑らせてコクピットユニットを搭乗者もろとも蒸発させる。
 オルガ、シャニ、そして、空でアムロの僚機を務めているクロト・ブエルは、連合が戦争遂行にあたり生み出したブーステッドマンだ。
 彼らに敵の生命を奪うことに対する躊躇いなど期待するだけ無駄というものだ。
 ブーステッドマンは、敵とみなす者に対し徹底的に容赦がない。

 

「いやー、子供は元気がいいよなぁ、勢いがある」
「しかし、いい大人がガキに楽させてもらうってもな!!」

 

 無駄口を叩きつつ他のデュエルダガーのパイロットも緊密な連携で次々とバクゥを蹴散らしていく。
 現在のOSで戦闘機動を行えるほどに優秀ではあるが、彼等はソキウスやブーステッドマンとは違う生身のナチュラルだ。
 その事を充分念頭に置いた上で、常に多対一という状況を作り出し彼等は彼等の仕事を忠実に果たす。
 個体依存性の極めて高い兵器であるモビルスーツとはいえ、極めて稀な幾つかの例外を除けば、やり様は幾らでもあるのだ。

 

「俺達と同じノーマルつっても、隊長と"ルーキー"はどうなんですかねぇ」
「モノが違うんだろうよ、モノが。大方、才能の女神様とやらにしこたま愛想をくれてやったんだろうさ」
「両方とも、モテそうだもんな〜」

 

 気を抜けば死という状況下でも冗談と毒舌が飛び交う。これは間違いなく隊長の責任であろう。
 アムロが"優秀な軍人"である事は今や誰もが認めるところだが、
 かといって、"優良な軍人"であるかと問われれば、疑問符がつかざるを得ないという一例であった。

 

「あまり調子に…乗るなぁーっ!!」 
「ぐっ…!!」

 

 タイミングを見計らって放たれた、バクゥのレールガンが僅かに脚部を掠め、
 前衛を務めていたイレブン機は損傷こそ負わなかったもののその姿勢を大きく崩した。
 この強かさこそが、同地のザフト兵の錬度の高さを如実に示している。

 

「もらったぞ、新型!!」
「くそっ!!」

 

 好機と見て、二機のバクゥが俊敏な動きで飛び上がり一気に襲い掛からんとする。
 それは、正に獲物に喰いかからんとする野犬の動きだった。

 

「イレブン!!」
「拙いっ!!」

 

 援護しようにも射線上にバクゥに割り込まれていては不可能だった。
 既にフォルテストラを切り離し、身軽になっているとはいえバクゥの機動性は脅威である事に変わりは無い。
 そして、かたやエイトも似たような状況に陥っていた。が、

 

≪―――右は殺る、左は自分でやれ≫

 

 若いが、まるで感情を感じさせない声が届くと同時、エールストライカーの大推力を活かし、空隙を貫くようにダガーが突入する。
 装備の換装やフォルテストラを好んで用いる傾向の強いモノケロスにあって、ストライカーパックを使用するダガーは珍しい存在だった。

 

「やるかァァァッ!!」
「―――!!」

 

 2連装ビームサーベルを発生させ猪突するバクゥの顎をエールダガーは計ったように一気に蹴り上げる。
 スラスターの膨大なパワーを付加したキックに弾き飛ばされ、バクゥはあおむけに無様に倒れこむ。

 

「………」

 

 バクゥをその脚で踏みしめると、エールダガーは手に持ったビーム・ライフルの先端を装甲面に滑らせる。
 そしてそれは、金属の擦れる音を響かせながら腹部の位置でピタリと止まった。

 

『コーディネイターは宇宙の悪魔です。
 僕達、私達のお父さん・お母さんを殺したのはコーディネイターです。
 私達の平和のためにコーディネイターを皆殺しにしよう!!』

 

 何度も繰り返され、刷り込まれた声が彼の思考に響く。
 既にビーム粒子はバクゥの装甲を貫いていた。

 
 

 一方、空中ではスピアヘッドと共同でアムロとクロトがディン部隊と戦闘を開始していた。

 

「モビルスーツをこうも簡単に自由飛行させるかっ!!」

 

 ディンの散弾をシールドで防ぎながら、アムロはMk-兇留η悗房茲衂佞韻織船Дぅ鵐ンを起動させる。
 猛烈な勢いで吐き出される機銃弾は、大気圏内飛行の代償として極端に軽量化されているディンの装甲を容易く穿つ。

 

「運動性ならコチラが上だっ!!」
「ありったけのミサイルだ!!たっぷり喰らえ!!」

 

 編隊を組むディンの6連装多目的ランチャーから一斉に短距離誘導ミサイルが射出される。
 それは、熱と煙で尾を引きつつ、獰猛な牙を剥いてMk-兇暴韻こ櫃った。

 

「…このくらい!!」

 

 アムロは襲いくる計18発のミサイルを機動を全開にして回避、あるいはバルカンで撃墜する。
 そして、機体をドダイから切り離して一気に上昇すると、ディンに向かい自由落下で機体重量を押し付け光刃を浴びせた。

 

「なんで、ナチュラルにあんな事が出来るんだ!?」

 

 それは"ドダイ履き"での空中戦闘をグリプス戦役の頃に幾多も経験している彼ならではの芸当だった。
 ザフト兵には解り様も無い事だが、培った機動がまるで違うのだ。

 

「動揺したな…これなら、まだいけるか!?」
「バケモノがァ!!」

 

 双眼に昏い光を帯びて接近するMk-兇呂發呂籠韻献皀咼襯后璽弔箸六廚┐覆ぁ
 それでも、機銃を向け引き金を引く。それが無駄だと半ば知りつつも。
 ビーム・ライフルの光。その光条が空を切り裂くたび悲鳴があがる。

 

「ひぃ…母さ…」

 

 距離を詰めたMk-兇頑強なシールドの先端でディンの胸部を刺し貫く。
 そのままモビルスーツのパワーでシールドごと横薙ぎに振るう。

 

「そろそろ、バーニアがキツいか…」

 

 そして、無残に引き千切られたディンに目を向けることなく彼は機体を後退させた。

 

「ドダイ――あそこかっ!!」

 

 敵機をビーム・ライフルで牽制しながら、アムロは自動で周回飛行しているドダイに危なげなく着地する。
 もし、一連の動きを俯瞰で見れば、正に惚れ惚れとするような戦闘機動である事だろう。
 迷いも無く、一切の躊躇も同情も無く、無駄の無い"効率的な殺戮"だ。

 

「うっはーっ!!さっすが隊長、手際良く殺す――って!?」

 

 不意に下方から伸びてきた火線をクロトはすんでのところで避ける。

 

≪クロト、余所見をするんじゃない!!≫
「分かってるよ…ったく。――クソッ、テメエラの所為じゃねーか!!滅殺!!」

 

 クロトは怒りの矛先を敵に向けビーム攻撃で敵機を撃墜する。
 些か、理不尽でなくもない怒りは、ダイレクトに力に転化されてクロトに勢いを与えた。
 彼は空中機動の高い資質を買われて、今回アムロの僚機を任されているのだ。

 

「せやぁぁぁぁッ!!纏めて、瞬殺っ!!」

 

 絶叫を放って、クロトはロングダガーに両脚部の3連装ミサイルポッドのミサイルを一気に吐き出させる。
 狙って撃ったモノではない。ディンに回避運動を強いるため攻撃だ。

 

「よし、捉まえた!!」
「しまっ――グッ…!!」

 

 アムロは敵の意思の揺らぎを見逃さず、ビーム・ライフル、チェインガンの正確な射撃で多数のディンを一瞬にして葬り去った。
 ここにきて、壊滅状態に陥った事を悟った残りの機体は一斉に撤退していく。

 

「クロト、今のはいいタイミングだったぞ」
「アハッ、まあ当たり前ってね」

 

 調子づきながら上官に対してとは思えぬ口調でクロトは返答した。
 この様な態度ではあるが、彼は彼なりにアムロを尊敬している。
 力を直接的に見せ付けるアムロのような存在は、兵士として生きるしか路のない者には憧れなのだ。
 それは彼のみならず、オルガ、シャニも同様だった。

 

「どうやら、下も終わったようだ。一旦補給に戻ろう。長くなるぞ」
「了ー解!!」
「ふぅ…」

 

 アムロは、軽い溜め息を吐く。少し自由にさせ過ぎたかと思ったのだ。
 ドダイのスラスターを噴射させながら二機のモビルスーツは空域を離脱していった。