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SSA_400氏_第20話

Last-modified: 2009-01-26 (月) 00:08:21

「ふあ〜…」

 

 ジンのコクピットで若いパイロットが気の抜けた欠伸を漏らしていた。

 

「気を抜かずにしゃんとしろ。お前、最近気が抜けすぎだぞ」
「ちゃんと見てるよ、ったく、このままじゃ俺は偵察のプロになりそうだ」

 

 四機のジンから構成された小隊の周囲は、のどかなもので集中力が散漫になるのも無理からぬことだ。
 それがたとえ、戦場それも最前線の中の一時の静寂に過ぎぬものにしてもである。
 人間が人間である以上、集中力を延々持続させるのは困難であるし、自然と慣れが生まれてくる。
 これはコーディネイターとて、決して例外ではない。

 

「レーダーが使えりゃもっと楽なんだがな、このポンコツが」

 

 技術の発達はニュートロンジャマーの影響下であってもレーダーの使用を可能としていたが、
 それは、有効範囲・機能ともに極めて限定されたものであり、ジャマーの濃度が濃くなれば、それすら不可能となるといった有様である。
 これでは、有視界・白兵戦闘に成り果てた戦争形態の退化を妨げるには至らない。

 

「変な事でムキになるな。まあ、前はドンパチしてんのに俺達は散歩しかしてないってのはアレだけどな」
「ケッ、俺もナチュラルどもを蜂の巣にしてやりてぇのによ」
「…どうやら、お前の希望通りになるかもしれないぞ?前方、拡大確認しろ!!」
「あ…!?」

 

 突然の怒号に眉を顰めると、彼はジンのモノアイを機能させる。

 

「なっ…」

 

 そして、モニターに広がった光景に息を詰まらせた。
 目の前に広がるのは、リニアガンタンクを初めとする戦車の群れが整然と進軍する姿。
 戦場の主役の座をモビルスーツに明け渡してなお、人の精神を圧すその威容は健在だった。

 

「なんてこった…!!こんな場所に連合の戦車だと!?」
「まさか防禦線が抜かれたってのか!?一体――!!」

 

 直後、ドゥンと腹に響く轟音が大気を振るわせる。
 そして、爆炎が獰猛な身姿を次々と立ち昇らせていった。

 
 

 南アメリカ戦線は、今、大きなうねりの中で揺らいでいる。
 サンフランシスコ・ラインの堅固な抵抗線で敵の再攻勢を受け止めつつ、連合軍はアラヒラカ付近に集結させた戦力をザフト南米方面軍の右側面に叩きつけたのだ。
 そして、ザフト側面防禦線を瞬時に食い破った機甲部隊は西へと縦断突撃を開始していた。

 

「少佐っ!!前方、敵中隊規模、距離4000」
「戦車部隊に援護要請。測定はこちらで行う。αチーム、突撃するぞ!!」

 

 アムロの駆るMk-兇、サーフボードのようにドダイを低空で滑らせながら突入する。

 

「真っ直ぐ突撃だと!?クソ、当たれ!!死にやがれ!!」

 

 ジンによる機銃弾が死の点と線になってMk-玉楹櫃韻道εする。
 しかし、アムロは怯むどころか、さらにテールノズルの尾を膨張させ一気に距離を詰める。
 機銃弾は、Mk-兇梁μ未魏瓩、あるいはシールドで防がれた。

 

「FCS、ロケットランチャー!!」

 

 アムロの声を操作を認識し、ドダイ両翼に設置されたロケットランチャーが一斉に炎の群れを吐き出す。
 派手な見た目とは裏腹に、その攻撃はジンの装甲を突き破るには至らないが、ジンの機動を阻害するというにおいては充分すぎるほどの効果だ。

 

「っくぞ、オラァー!!」
「うるせぇよ、オルガ!!」
「…どっちもウザい」

 

 さらに追従して地面を滑るロングダガーから一斉にビーム・カービンからビーム光が放たれる。
 射程・威力においては、ビーム・ライフルに劣るものの、取り回しや速射性に優れており扱いやすい。
 それが、ビーム・カービンの利点だ。

 

「えっ…あっ――!!」

 

 ビーム粒子の群れを成して襲い掛かられ、虚を衝かれたジンの装甲を削り取るように穿った。
 しかし、ほとんどのモビルスーツはすぐに態勢を立て直し回避、あるいはシールドを構える。
 G兵器強奪事件での成果で、今後はビーム兵装がモビルスーツにおける標準携行火器になると確信したザフトの懸命の努力により、耐ビームシールドの配備が進んでいるという証左だ。

 

「あの一角獣のエンブレム…モノケロスって奴等か!!」

 

 『白い悪魔』が率いる一角獣の群れの名はザフトにも浸透していた。
 大西洋連邦が声高に喧伝しているだけでなく、同地のザフトも幾度も出血を強いられているのだ。

 

「くそ、あの白い奴は何処に…!?」

 

 先程の攻撃に紛れ姿を消したMk-兇了僂鮓つけんと、ジンのモノアイが頻繁に動く。
 そして、空に視線を移した時、狂猛な力を湛えた機影が映し出された。
 左背のグレネードランチャーを展開しこちらに狙いを定めている姿を。

 

「マズい!!回避し――」

 

 直後、猛烈な砲撃による爆炎と粉塵が巻き起こり、その声が、か細く消えていく。

 

「デュクロ大尉、モノケロスから観測データ届きました――狙いOKです!!」
「っよし!!砲身が焼け付いてもかまわん!!撃ちまくれ!!」

 

 さらに着弾測定を終えたリニアガンダンクの間接砲撃も加わり凄まじい破壊が現出した。
 これにより、ジンの中隊が秩序を失っていくのをアムロは冷静に感知した。

 

「うまくいったな。モノケロスαは残敵を掃討後、ブリーフィングに従い行動しろ。俺はこれから単独行動に移る」
≪了解、子供の世話はうまくやりますよ≫
「頼む」

 

 そう短く言い残すと、アムロはMk-兇鮗動旋回している上空のドダイにつけ、その場を後にした。
 どの戦闘小隊にも帰属せず、問題と思える地点を探り戦闘行動を行う。
 これは、戦闘技術と戦場の把握に優れた極一部のエースにのみ許される方法だった。
 特に快速と打撃力とを以って敵を騒乱状態に陥れることにより、小局面が錯綜するであろう今作戦において、アムロ・レイが自由に動くことが、どれほどザフトの現状把握を誤らせる事になるかは自明の理だろう。

 

「という訳だ。お前ら暴れて来い!!」
≪言われなくてもそうするっての。オラオラオラーッ!!≫

 

 デュエルダガーからの通信に不躾に応えるとオルガはロングダガーに砲撃を再開させる。
 部隊としての機能を失ったジンなど最早ブーステッドマンの敵ではない。

 

「やれやれ、こりゃどうにも骨が折れそうだな。っと」
≪ハァァッ!!撃滅!!≫
≪ハハッ、逃がしゃしないって…≫

 

 白兵戦を展開するクロト機、シャニ機が動きやすいようデュエルダガーによる絶妙の支掩を入れつつも、
 彼は先行きの不安に顎鬚を弄ってひとりごちた。

 
 

「ハァ、ハァ、ハァ…」

 

 電源車に接続しエネルギーを蓄えるディープアームズに鎧われて、シホは荒く息を吐き出していた。
 今、彼女達は出口の見えぬ混迷の最中にある。つい先程までの戦闘による緊張がまだ抜けきらない。
 ザフト南米方面軍の司令部は、連合の突然の反撃に対し部隊を頻繁に配置転換、ようするに右往左往していた。
 今までが攻めてばかりだったのだ。自然と逆境に弱くなっていたようだ。
 戦力の投入は逐次となり、情報を求めても臨機応変に対処せよといった始末である。
 そして、それによるザフトの兵達の心身の消耗は激しく、深刻だった。

 

「補給物資を受け取ったら次はG-55地点に向かえ、か。クソ司令部がっ、完全に混乱していやがる。シホ、大丈夫か?」
「ハ、ハイ。もう少し休めたら…なんとか」

 

 自分を気遣う声に返事を返すと、シホの呼吸はようやく整い始めた。
 そうして、自分以外に目を向ける間と取り戻すと、シホはこの場にいない者に意識を向けた。

 

「ホーク隊長、単独で救援に行って…無事だといいですけど」
「ああ…」

 

 補給の最中、錯綜する通信の中で拾った救援要請に応じ、彼は部下に隊を任し、いち早く補給を終えたシグー・メディウムを駆って、単独でその場に向かった。
 その地点が補給集積所までの極めて重要な要諦であり、今しばらくの時を稼ぐ必要があると見抜いていたためである。
 そこを片付けたらG-55地点で合流する。そういう手筈になっていた。

 

「大丈夫さ。あの人、根っからの不平屋で上からも睨まれているけど腕は確かだからさ」

 

 さらに付け加えるなら変わり者でもあった。
 休憩中には、必ずオーディオを流すが、実は『プラントの歌姫』の歌は全く選んでいないなんて事もその一つである。

 

『皆が皆、同じモノが好きなんて健全じゃないだろ?あの歌が嫌いな奴が一人くらいいたってバチは当たらんさ』

 

 と、言った具合だ。流石にシホもこの偏屈振りには少々呆れている。
 この性分については、娘達に父さんは変だと責められた事もあるそうだ。

 

「補給、OKだな。よし、チェック完了後、全機向かうぞ!!」
「了解。ディープアームズ、オールグリーン。行きます!!」

 

 シホは、先行するジンの最後尾にシグー・ディープアームズをつけて加速させる。
 G-55。そこで、モノケロスとホーク隊は交戦する事になるのだった。

 
 

 黒煙を吐き続けるジンの残骸を睥睨しつつ、GAT-A01/E2 バスターダガーのコクピットで女性パイロットが機体の状態を確認していた。
 花弁を散らしたような痣が頬筋にあるものの、それは彼女の凛とした魅力を何ら損ねてはいない。
 レナ・イメリア。元はカリフォルニア士官学校の教官職にあり、彼女自身、優れたパイロット適正を有している優秀な兵士だ。
 モノケロスへの配属を要請されたほどなのだが、彼女はこれを固辞している。
 ナチュラルのために調整したソキウスとはいえ、コーディネイターに背を預けるなど彼女には到底耐えられない事だったからだ。
 ザフト――コーディネイターによる非戦闘員への虐殺。レナの大切な弟は人としての原型すら留めてはいなかった。
 戦場のルールすら守れぬ宇宙のバケモノを彼女は生涯許すつもりは無い。

 

「サフラン12、こちらブロッサム4。H-03ポイント2の制圧完了。
 弾薬・エネルギーの残りが少ない。任務の継続には補給が必要だ」
≪了解。補給部隊がすでにこちらに向かっている。今からなら10分もかからない≫

 

 レナは状態の確認を完了すると前方の小隊に通信を送った。
 ブロッサム――桜というコールサインは自分の痣への嫌味なのかと勘繰りたくなるのは秘密だ。

 

「中尉。新しい機体、相性いいみたいですね」
「ええ、ちょっと重いけど素直ないい子よ」

 

 レナのバスターダガーは、アムロ達が回収した戦闘データを参考にGAT-X-103 バスターを量産用に設計したプロトタイプだ。
 バスターの装備をストライカーパックに、という案も以前はあったのだが、それは早々に廃案となっている。
 無理なストライカーパック化は機体バランスを著しく損なうであろうという声が上がったためだ。
 これは、アムロ・レイの意見がアズラエル財閥を経由して伝えられた事によるという噂をレナは耳にしていた。
 真偽はともかく、モビルスーツの開発環境の変化が、バスターダガーの開発を早めたのは確かだ。
 なお、弾薬の規格は他のダガーと共通であり戦闘最中の補給に不都合は無い。

 

 ――アムロ・レイ少佐。モビルスーツの設計にも通じていると聞いていたけど。

 

 コーディネイターに対する姿勢は違えど、多くの意味で頼もしい上官であるのは確かだった。

 

「サフラン12、モノケロスはどうなっている?」
≪ああ、待て。…ちょっと遅れているみたいだ。まあ、奴らがキツイの引き受けているおかげでこっちは――!?≫

 

 突如、ザザッっという耳障りなノイズが入りサフラン12からの通信が途絶する。

 

≪サフラン12が殺られた!?クソ、敵は――!?≫
≪サフラン8、二時の方向!!長距離射撃してくるぞ、速い!!≫
≪馬鹿な!?この距離――≫
≪サフラン8が殺られた!!6もだ!!何だあの機体は!?≫

 

 錯綜する通信にレナは心臓を冷たい手で鷲掴みにされるような悪寒を覚えた。
 小隊が全滅寸前。それもあっという間の出来事だ。

 

≪ブロッサム4、そっちに行くぞ!!――グァッ!!≫

 

 視認できるギリギリの距離でビーム・カービンを撃ちながら後退するデュエルダガーの機影が映る。
 しかし、直後に光束が大気ごとデュエルダガーの装甲を貫き爆散させた。

 

「っ!!――ブロッサム各機、戦闘態勢!!正面から来るぞ!!」

 

 レナの緊張した声に応え、小隊のダガーが前方に各々の火器を構える。
 小隊が二十秒足らずで全滅したのだ、これは尋常ではなかった。

 

「敵、ビーム兵装を所持。1200――いや、1500で攻撃開始。狙って当てようと思うな!!――来る!!」

 

 ダガーの小隊を屠り去った敵機体――黒と赤。ツートンカラーのシグーがモノアイを不気味に輝かせる。
 通常のシグーとは明らかに異なるシルエットの異様なモビルスーツ。
 ザフトにおいて、シグー・メディウムと呼ばれる機体だ。

 

「クソ、駆けつけてみれば全滅した後なんて、我ながら格好がつかないよな!!礼はさせてもらうぞ!!」

 

 パイロットの怒声に呼応するように、シグー・メディウムがテール・ノズルの炎を従え、突入する。

 

「距離3600、2800――速い!!」

 

 シグー・メディウムが高速機動しながらビーム・ライフルを構える。
 直後、閃光がダガーを捉え穴が穿たれる。爆発の直前、コクピットユニットが射出された。

 

「あの動きで、狙える!?――距離1700、全機撃て!!」

 

 ダガーのビーム・カービン、バスターダガーの350mmガンランチャーが一斉に放たれる。
 有効射程外の攻撃。しかし、それでも放たれた攻撃に対し、シグー・メディウムは、回避運動と同時にビームを放つ。
 光の粒子が猛烈な勢いで疾り、別のダガーの胸部を貫く。パイロットは一瞬で灼かれ蒸発した。助かりようが無い。

 

「止まらない!?――これは」

 

 回避し切れない攻撃をシールドで受け止め、ついに最接近を果たしたシグー・メディウムは左手に抜き放ったフォールディングレイザーでダガーの胴体を寸断し、交差の直後ターンして最後に残ったバスターダガーに照準を向ける。しかし、

 

「――悪いけど、捉えたわ!!」
「読まれた!?」

 

 一瞬早く、バスターダガーの94mm高エネルギー収束火線ライフルの銃口が機体に向けられていた。
 レナの反応速度の速さと読みがこの時はホークに勝ったのだ。

 

「これで、終わりよ!!」
「――!!」

 

 強力なビームの粒子が大気を一気に燃焼させ貫く。そう、大気だけをだ。
 その直線で貫くはずの機影が姿を消していた

 

「フゥ…危なかったな。新型だけあって普通のパイロットじゃないって訳か」

 

 シグー・メディウムは、ほぼ零距離から放たれたビームをその機動をもって回避し距離を置いていた。
 左手の小型シールドの一部にコルク栓を抜いたような破壊の痕がある。間一髪であった。

 

「今のが躱される!?でも、まだやれるわ!!」

 

 そして、シグー・メディウムはビーム・ライフルを。バスターダガーは両手の火器を。
 一瞬で相手を屠り去る武器を互いに向け両者は相対した。

 
 

「隊長がいないっていうのに!!」

 

 シグー・ディープアームズの両肩から猛烈なビームの火腺が放たれる。
 それは、強力な砲撃となりモノケロスΣチームの勢いを封じていた。
 さらにその支掩を受けるジンも各々が高い技量を持って攻撃を仕掛けてくる。

 

「っ――やる、でも!!」

 

 ロングダガーをターンさせ機銃弾を回避すると同時にセブンはビーム・カービンを撃つ。
 しかし、それはシールドで寸前に防がれる。

 

「クッ――!!」

 

 後退直後、ビーム・キャノンが目の前に強烈なビーム粒子を撒き散らす。
 互いに錬度が極めて高い。それ故に決定打を与えられない。
 双方共に膠着した状況に陥っている。しかし、天秤は徐々に一方向に傾きつつあった。

 

「長引けばこちらが不利だ。このままじゃあ…」

 

 モノケロスΣチームと連携をとって戦闘行動するダガーの中隊に損害が目立ち始めている。
 さらに彼ら自身のエネルギー・弾薬に底が見え始めていた。

 

「セブン…ミサイルは残っているか?」

 

 硬質の声――スウェンが搭乗するエールダガーからだ。

 

「残りは、三発。…突撃を!?」

 

 セブンはスウェンが言わんとすることを察知した。

 

「あの蒼いシグーの火力を封じなければどうにもならない。少しでいい、動きを封じてくれ」

 

 エールダガーの装甲越しにもスウェンの決意が見て取れた。
 確かに、このままでは弾薬とエネルギーを消耗して不利になるばかりだ。

 

「エールの出力なら距離を詰められる。5カウントだ」
「危険です!!もし詰め損なったら――」

 

 その時は、機銃弾の集中砲火を浴びるかビーム・キャノンに貫かれる。
 危険な役割はナチュラルであるスウェンではなく自分が引き受けるべきだ。
 セブンのソキウスであろうという考えがスウェンの提案に反発した。

 

「お前の援護があればやれる。時間が惜しい。カウント5、4…」
「…分かりました。任せてください」

 

 スウェンはエールストライカーの大出力スラスターに火を入れる。

 

 ――僕ならやれると言ってくれた。なら、僕はソキウスとしてそれに応えなければならない!!

 

 スウェンは自分の援護を信じて死地に飛び込もうとしている。
 ここで、成功させずして何のためのソキウス――"戦友"か。
 その意思が、セブンの迷いを払拭し完遂への決意となった。

 

「2…1…行ってください!!」

 

 カウントゼロと同時にロングダガーが残ったミサイルを一斉に吐き出す。

 

「エールストライカー、ブースト!!」

 

 直後、エールストライカーを全開にして、エールダガーがシグー・ディープアームズ目掛けて突貫する。

 

「シホ!?殺らせてたまるかぁ!!」
「少尉の邪魔は、僕がさせません!!」

 

 回避運動を取るジンがエールダガー目掛け機銃を向けようとするが、
 それをロングダガーはビーム・カービンで妨害する。

 

「向かってくる!?――墜ちろぉぉぉ!!」

 

 シホの叫びに呼応したかのようにビーム・キャノンが撃ち放たれる。
 スウェンはエールダガーにシールドを構えさせるが、強力なビームの火線がシールドを一気に危険域まで追い詰める。

 

「――スウェン少尉!!」

 

 セブンの叫び。ビームの粒子が散り、エールダガーが光に消える。
 否、砕け散ったシールドの欠片を零しながらもビーム粒子を突破しビーム・サーベルを抜き放つ。

 

「コーディネイター…消えろ!!」
「クッ…!!」

 

 シホもシグー・ディープアームズにビーム重斬刀を抜かせ光刃を受け止める。
 互いのビーム刃による干渉波が周囲に飛び散った。

 
 

「ふざけるな…ふざけるな…」

 

 別の地点では更に凄惨な地獄絵図が展開されていた。
 今、うわ言のように言葉を繰り返すジンのパイロットの眼前、モニターに一杯に広がる惨状。
 味方の残骸、つい一時間ほど前までその威容を誇らしげに主張していたジンが、
 今では見る影も無く四肢を飛び散らせ、あるいは胸部を抉られていた。
 まるで、凶悪な悪魔のような生き物が喰い散らかしたようだ。
 そして、その悪魔はモビルスーツのような姿をしているのだ。

 

「たった一人に…中隊が全滅。俺の仲間…チクショウ…」

 

 先程からジンの機銃からは次々と火線が吐き出されている。
 無駄な努力だ。それでも引き金を引く。生きるために。
 それが、どれ程、か細い希望であるかを半ば理解していたとしても。

 

「死ね…死にやがれ…悪魔なら居場所は地獄のはずだろう…」

 

 悪魔が片手を上げる。誰一人、生かしはしないと主張するように。
 その一瞬の光景が、彼の肉体が溶け消える間際みた最後の映像となった。

 

「こちら、Mk-供M縦螢櫂ぅ鵐箸療┐亙夘佞い拭進軍を再開してくれ」

 

 悪魔――ガンダムMk-兇離灰ピットでアムロが通信を開く。

 

≪了解。助かったよ、『白き流星』。補給部隊は遠いが…一旦退くか?≫
「いや、主兵装の消耗は少ない。このまま次へ向かう」

 

 アムロはコンソールを操作し、Mk-兇らグレネードランチャーを切り離す。
 重量感のある砲身は地面に接触すると、ズシンと腹に響く音を振るわせた。

 

≪解った。俺みたいなサンピンが言うのも何だが…幸運を≫
「ありがとう」

 

 アムロは機体を再びドダイにつけると飛行しながら戦場を探る。
 味方が危ない戦域、激しい戦闘が行われている場には、それぞれに独特の気配がある。
 その直感と手持ちの情報を掛け合わせて、より迅速かつ適切な戦闘機動を行うのだ。

 

「…Σが圧されているか、よし!!」

 

 アムロはMk-兇らドダイをコントロールし、スラスターの出力を強めた。

 
 

 シグー・メディウムとバスターダガーの戦闘は最後の局面に入ろうとしていた。
 バスターダガーが既にガンランチャー、ミサイルの弾薬が底をついているのに対し、シグー・メディウムには、充分な余力がある。
 さらには、彼は背中の武器を一度もまだ使用していない。
 その片方――大型のミサイル発射管が内在する力を使えば、もっと早く決着をつけられたかもしれない。だが、

 

 ――なんか、嫌な感じがするんだよな。

 

 決してレナを過小評価しているわけではない。機体の状態が違えば自分が危機に陥っていたかもしれない。
 ナチュラルとは思えぬ、凄腕のパイロットであると認識している。
 しかし、である。彼の戦士としての勘が『切り札たち』の使用を躊躇わせていた。
 この場ではない。違う局面で必ず必要になると。それは他者には説明困難な直感である。

 

「だが、いい加減待たせている仲間もいるんでな。そっちはそろそろ弾切れだろ」
「クッ…これでは、もう」

 

 バスターダガーのエネルギーも残り僅か。補給を受ける前に戦闘となったのが最後まで響いた。
 しかし、戦場の綾というモノは決して定型ではないのだ。

 

「んっ!?何だ…」

 

 バスターダガーの背後に見える空。そこを光の尾が高速で通り過ぎる。
 油断しているわけでは無かったが、サブカメラを最大望遠にしてそれを確認した。

 

 ――あの機影、『白い悪魔』だと!?いや、それよりも、あそこには!!

 

 アムロが向かう方向、それは、今、彼の部下達が戦っている場所だ。
 心臓が一気に鼓動を速める。一目見て解ったのだ。Mk-兇隆躙韻機仲間の危機を。
 そして、彼は己の過失を悟った。確実に勝とうとバスターダガーに時間をかけ過ぎたのだ。

 

 ――事情が変わった…一気にここを突破する。

 

 背を向ける事は出来ない。それはレナが許さない。

 

「黙って行かせては…くれないんだろうな」
「攻める気?それなら、まだ勝機がある!!」

 

 レナは眼前の敵の変化を感じ取り、意識を集中させた。

 

「"クスィフィアス"セット――仕掛ける!!」

 

 シグー・メディウムが殺気を漲らせスラスターの光を開放。一気に加速する。

 

「――来る!!」

 

 シグー・メディウムの黒い影が疾走しながらビーム・ライフルを放つ。
 それをレナは、バスターダガーに最小限の動きで回避行動をとらせる。
 幾つかの光束はバスターダガーの装甲を確実に削り取っていくが、レナは致命傷にならなければよいと既に覚悟を決めている。

 

「もう少し、距離800、600、今っ!!」

 

 バスターダガーが94mm高エネルギー収束火線ライフルを構える。
 これは避けられる事を前提に撃つ。本命はビーム・サーベルによる斬撃だ。しかし、

 

「――!?」

 

 一瞬だった。ライフルを構えるはずの腕が粉々に弾け飛んでいた。
 ビーム・ライフルの射撃間隔を計っての反撃のはずなのにだ。

 

「もらったぞ!!」

 

 ビーム・ライフルではない。シグー・メディウムの背中から砲身が展開されている。
 無論、レナも警戒はしていた。だが、折り畳まれていた砲身の展開速度、そしてその威力を見誤ったのだ。
 クスィフィアス・レール砲――後に『自由』の名を冠する機体に搭載される強力無比な実弾兵器だ。
 ただし、シグー・メディウムが携行するそれは四発の使用が限界である。正に切り札だ。

 

「アアアアアッ!!」
「チィ、邪魔だぁ!!」

 

 片腕を無残に破壊されながら、なお足掻き、ビーム・サーベルを振るった事が彼女自身の生命を救った。
 斬撃を躱しながらのビーム攻撃は、コクピットから外れてバスターダガーを貫いたのだ。
 そして、機体が爆炎に包まれる間際にコクピットユニットが射出された。
 そのまま、残骸と成り果てたバスターダガーには目もくれず、彼は黒の機体を仲間の元へと急行させる。

 

「皆…嬢ちゃん…耐えてくれよ!!」

 
 

 白と青の機体。黒と赤の機体。
 帰る場所を失った者と、帰る場所を持つ者の衝突が間近に迫っていた。