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SSA_400氏_第21話

Last-modified: 2009-02-15 (日) 13:39:15

 ダガーのビーム粒子が、ジンの機銃弾が戦場に乱れ飛び、美しい交差を演出する。
 だが、その眩い光の網に絡めとられた者は、例外なく身を削り取られ、貫かれ、無残な屍を大地に晒した。
 現実の時間にすれば、戦闘が開始してから、それほどの時は過ぎていなかったかもしれない。
 それがたとえ、迫る死に対し懸命に抗う者達にとって、無限に近い煉獄の渦中であったとしても。

 

「スウェン少尉!!奥に入り込みすぎです、グッ…!!」

 

 シグー・ディープアームズと格闘戦に入ったスウェンのエールダガーを援護しようにも、単眼を紅く爛々と輝かせるジンの群れが壁となって立ちはだかる。
 セブンの働きがあればこそ、スウェンが戦える状況にあるのだが、それもこのままでは長くは続かないだろう。
 シグー・ディープアームズが接近を許してなお、エールダガーの猛攻に耐えているのだ。
 戦場は突破を成功させたからといって、安易にスウェン達へ配当を与えはしなかったのだ。

 

「自動人形がチョコマカと…!!」
「いけないっ!!」

 

 セブンのロングダガーがシールドを構えると同時に、ジンの重斬刀が深々と突き刺さった。

 

「クソッ…退けよっ!!」

 

 セブンは普段になく語気を強めて、操縦スティックを押し込む。
 ロングダガーが損壊したシールドごと重斬刀を放り投げ、ビーム・カービンの至近弾をジンに浴びせた。
 ビームに穿たれ、装甲をグズグズに崩したジンは自重に耐え切れず胴体を圧し折って爆散した。

 

「キサマァァァッ!!」

 

 すぐさま、横合いから機銃弾が牙を剥いてロングダガーに襲い掛かる。
 セブンが姿勢を回復させる間隙を突いた一撃だ。

 

≪させん…ッ!!≫

 

 しかし、火線に割り込んだ機影がシールドを構えて機銃弾を防ぐ。
 そのまま、テールノズルの光を放ちながら突進。ビーム・サーベルを横薙ぎに振るいジンに直撃させた。
 澱みのない見事な戦闘機動だ。

 

≪こちら、ウルフドッグ01!!モノケロスの坊や、危なかったな!!≫
「01…シェバリエ大尉、感謝します」

 

 セブンを救った機体。そのデュエルダガーにはスウェンのモノと同様にエールストライカーが装備されていた。
 搭乗する壮年のパイロット――モーガン・シェバリエは今回モノケロスΣ小隊と行動を共にする中隊の隊長を務めている。
 アフリカ戦線において『砂漠の虎』アンドリュー・バルトフェルド率いるモビルスーツ部隊に指揮する戦車部隊を壊滅させられてのち、自らの属するユーラシア連邦軍に再三にわたってモビルスーツの必要性を訴えるも却下され、ほとんど厄介払い同然に訓練交換士官として大西洋連邦に配属されたという、些か複雑な経歴を持つパイロットだ。
 大西洋連邦軍はモーガンの戦歴と能力を高く評価し、特機教導師団所属のモビルスーツ中隊隊長として彼を迎え入れた。
 そして、本来はヨソ者である彼もまた、その能力と人柄で特機隊の猛者達の信望を勝ち得ていた。

 

≪助けられているのはお互い様だ。礼には及ばんよ。だが…くるぞッ!!≫
「ミサイル!?それならっ!!」

 

 二機のダガー目掛けてミサイルが矢となり襲い掛かる。
 セブンとモーガンはイーゲルシュテルンの弾幕を張りそれを撃墜した。
 爆風が視界を歪め、粉塵を飛び散らせる。

 

≪まったく、蒼い奴のビームが止んでも…これでは、な!!≫

 

 モーガンの率いるモビルスーツ中隊も消耗が色濃く現れてきている。
 敵とてそれは同様なのだが、強襲する立場である連合にとって消耗戦はいただけない。

 

「…シェバリエ大尉、援護を頼みます」

 

 そう口にすると、セブンはコンソールを操作しフォルテストラを切り離そうとする。
 だが、モーガンのエールダガーが腕を上げ、それを制した。

 

≪まて、こういう場合は焦っても碌な結果にはならん≫
「しかし…!!」
≪坊や、ここは年長者の言う事を素直に聞いておけ。それに…どうやら間に合いそうだ≫
「えっ…?」

 

 モーガンの不可解な言葉にセブンは思わず怪訝を口にした。

 
 

「グゥゥ…!!」
「ハァ…ハァ…そこっ!!」

 

 シグー・ディープアームズが構えたビーム重斬刀を一気に振り下ろす。
 エールダガーは右手のビーム・サーベルで斬撃を受け止めると、左手の光刃で反撃。
 シホは滑るように割り込んだビーム・サーベルの刃を紙一重で機体を後退させて回避する。
 光刃の先端が装甲表面をかすめ、紅い線が刻まれた。まさに間一髪だ。

 

「チィ…!!」

 

 スウェンは距離をとられぬよう、間髪いれず迫撃をかける。
 その二刀による猛攻が示しているのは、スウェンの非凡な才能。そして、焦りだ。

 

「距離がまだとれない…でもっ!!」

 

 確かにシホは圧されている。これはパイロットの腕もあるが、機体特性に起因するところが大きい。
 しかし、一度でも距離を稼ぎ、味方の援護を受けられる状況を得れば敵に為す術はない。
 それを彼女も解っているから、防御に重点を置きつつ、一瞬のタイミングを計っているのだ。
 両者は共に若兵ながらも、すでに戦士としての器量を発揮し、鎬を削っていた。

 

「――!!」

 

 双方のビーム粒子で形成された刃が激突する度、干渉波が周囲に飛び散る。
 刹那、ビーム重斬刀の軌跡を捉えたエールダガーのビーム・サーベルの直撃が、それを根元から切り裂いた。
 これで、シグー・ディープアームズにサーベルによる攻撃を防ぐ術はない。

 

「崩れたかっ。これでっ!!」
「グッ…舐めるなぁーッ!!」

 

 直後、シホはスラスターを全開にし、姿勢も無理矢理にキックを見舞う。
 スウェンはエールダガーに右腕で受け止めさせるが、スラスターのパワーを付与された攻撃に機体が大きく弾き飛ばされた。

 

≪シホ、援護する!!≫
≪これで、終わりだ!!ナチュラル!!≫
「クソッ…!!」

 

 すぐさまジンが間に割り込み機銃をエールダガーに向ける。
 シグー・ディープアームズの両肩のビーム・キャノンも再度展開される。
 多対一。スウェンは致命的な隙を曝け出してしまった。

 

「助かりました!!これで、終わり――!?」

 

 瞬間、シホは何が起きているか理解できなかった。
 連携攻撃をエールダガーに向ける寸前に、"白い影"が空から降ってきたのだ。
 "白い影"の背おう光が何度か明滅し、粉塵が舞って周囲の視界が封じられる。
 その奥で翡翠に輝く両眼だけが、やけに鮮明に前面ディスプレイに映し出されていた。
 存在を誇示するように輝く牙、――ビーム・サーベルとともに。

 

「――いけない!!よけ…」

 

 そのシホの叫びは間に合わなかった。
 ビーム・サーベルが荒々しく振るわれ、先方にいたジン二機を一息に両断する。

 

「ア…ア…ッ!!」

 

 シホはこの時、己の眼前の光景に一瞬ではあったが自失した。
 くるくる、くるくると、滑稽さすら漂わせながら切断されたジンの上半身が、腕が、破片が宙を舞っている。
 援護に来てくれた仲間の、それが最期の姿だった。
 そして、凶刃を振るった白い影。それの呼び名を彼女は知っている。

 

「白…い…あく…」

 

 振り抜いたビーム・サーベルをそのままに、惨劇の主――ガンダムMk-兇料倨箸シホを射抜く。
 次の獲物は誰なのかを無慈悲に宣告するかのように。
 暴力的な恐怖に射竦められ、動かない。動けない。

 

≪シホーッ!!下がれぇーっ!!≫

 

 シホの窮地に叫びを上げ、ジンがMk-兇妨かい急接近し、重斬刀を振り下ろす。
 しかし、Mk-兇蓮△泙襪覇匹鵑任い燭のように反応。
 振るわれた斬撃をシールドで腕ごと弾き、ビーム・サーベルの反撃で胴体を貫いた。
 あまりにも呆気ない攻防だった。

 

「ウ…ウウゥゥァァアアアアーーーッ!!」

 

 シホの意識は飽和し、悲鳴を上げながらビーム・キャノンをMk-兇北楹櫃韻凸誼禧戝磴坊發訴つ。
 それは、人間が恐怖に対して行う最も自然な反応であった。

 

「スウェン、態勢を立て直せ!!後ろから来るぞ!!」
「――了解!!」

 

 シホ達とは裏腹に、窮地を脱したスウェンは駆けつけたアムロの声にすぐに反応し、エールダガーに攻撃態勢をとらせた。
 シグー・ディープアームズと自機の直線から巧みにエールダガーを外すようにアムロが操縦しているのが見て取れる。
 救援に駆けつけられて、その上、足手纏いになるわけにはいかなかった。
 ビーム・ライフルを三連射。それを回避するジンだったが、直後に横手から二条のビームが疾り、貫かれる。
 セブンとモーガンのビーム攻撃だ。

 

≪やっと来たか、アムロ少佐っ!!≫
「モーガン大尉か!?悪い、他に手間取った」

 

 アムロの声はモーガンのエールダガーにだけではなく、その場にいる味方にも伝播していた。

 

≪アムロ少佐!?…我らがエース殿のご到着だ!!無様は見せられんぞっ!!≫
≪よしっ!!敵陣に穴を開ける。余っているランサー(携行ロケット)、纏めてブッ放すぞ!!≫

 

 ここに来て、連合モビルスーツ部隊の削られていた士気が一気に盛り上がる。
 連合軍最高のエースカードが、今この場に配されたのだ。

 

「撃ちすぎだな…なら、そろそろか?」
「えっ…あ…これ以上は冷却系に…!!」

 

 敵によるビーム攻撃が止んだ間隙を縫って、アムロはMk-兇飽戝教離をとらせる。
 連続射撃に不安のある試作モビルスーツの短所が露呈した形だ。

 

「セブン、スウェンはウルフドッグと共同し敵に当たれ!!…二人とも、あまり無茶はするなよ。気が気じゃない」

 

 このアムロの台詞は、セブンとスウェンがシグー・ディープアームズに行った突撃の事を指していた。
 状況からそれを直感的に知覚出来てしまうのがアムロだ。
 無論、生死がかかった戦場で無茶をするなというのは道理ではない。
 その事は彼自身、十二分に承知してはいる。それでも、である。

 

「了解です」
「……了解」

 

 これには、二人とも多少むず痒いものを覚えながら返事をした。兵士ではなく、父親に叱られる子供のような扱いをされた気分だ。

 

≪ハハッ、過保護はいけないな。…だが、任されましょう≫

 

 年齢はともかく、階級はアムロのほうが上なのにモーガンの口調はフランクだ。
 アムロも己の階級には頓着しない性質だが、それ以上にそういうのを許容させる雰囲気は、さすが年の功と言ったところか。
 そして、アムロの指示通りに、三機のダガーは連携して敵にその鋭い刃を向ける。

 

「ああ、――頼んだぞっ!!」

 

 アムロは語気を強め、ビーム・ライフルの一撃を放つ。
 それは、シグー・ディープアームズの左肩のビーム・キャノンを掠めて抉った。

 

「暴発する…!!」

 

 タイミング悪く、撃つ直前だったのが、彼女にとって不幸だった。
 シホがビーム・キャノンを肩から切り離すと同時に、銃身が爆発を起こす。
 飛び散ったビーム粒子と衝撃波が左腕に突き刺さった。

 

「左腕駆動パルス…反応が死んだ!?」

 

 機体状態を示すディスプレイで左腕が真っ赤に表示されている。
 だが、悠長にそれを気にする暇を与えるアムロではない。

 

「よし、一気にカタを付けるっ!!」

 

 Mk-兇シグー・ディープアームズの射線の外へ動きながら距離を詰める。

 

「当た…らない……!?」

 

 さらにビーム・キャノンの取り回しの悪さもありビームの閃光は全て空を切った。

 

『俺も戦場は怖いさ。だけど、怖いからって震えてちゃ自分も護れないだろ?』

 

 初陣の時だったか、撃つのが、撃たれるのが怖いと吐露した時に隊長から言われた言葉だ。
 それが、今、シホの戦意をギリギリで支えていた。

 

 ――大丈夫…悪魔って言ったって同じモビルスーツ…!!怖くない…怖くない…怖くない…ッ!!

 

 目尻に涙の粒を溜め、歯をカチカチと鳴らしながら、それでも『白い悪魔』を照準に捉えようとシホは懸命に機体を動かす。しかし、

 

「…いいパイロットだが、無駄だっ!!」
「アア…ッ!?」

 

 ビーム・ライフルが閃光を疾らせ、シグー・ディープアームズの右肘を射抜いた。
 さらに間髪いれず、アムロは機体をブースト。
 シールドを前面に構え機体を直接シグー・ディープアームズに激突させる。
 あまりの衝撃に、シグー・ディープアームズは吹き飛ばされ宙に浮いた。致命的な隙だ。

 

「アァァァァーーーーッ!!」
「もらったッ!!」 

 

 Mk-兇ビーム・ライフルを二連射。一撃目が右肩をビーム・キャノンごと吹き飛ばす。
 さらに二撃目の火線が、シホの生命を刈り取らんと、コクピットへ大気を燃焼させながら迫った。

 

『――殺らせるかぁーッ!!』

 

 別の方角から強い意志を含有した怒声とともにビーム・ライフルが撃たれる。
 ビーム粒子の奔流が、アムロの放った赫い光束を衝突し、爆発的なソニックウェーブを発生させた。
 狙って出来る事ではない。シホの命運と狙撃者の技量が生んだ、万分の一の奇跡だった。

 

「チィ、援軍か!?」

 

 地面を引き摺りながら倒れ、戦闘不能となったシグー・ディープアームズに構わず、アムロは新たな敵機に意識を向ける。
 ダークカラーにレッドのライン。Mk-兇搬佝罎垢襪のようなカラーリングのシグー・メディウムに。

 

≪隊長――ホーク隊長!!≫
「B小隊は、壁になっている奴らの側面を衝け!!Dは支掩射撃だ。
 ――クソッ、モノケロス…箱舟の乗り損ないが、好き勝手にやってくれたな!!」

 

 黒の機体が、ビーム・ライフルをMk-兇棒銅佑垢襦
 崩れ落ちた蒼の機体から引き剥がすように。

 

「シホッ…!!生きてるのなら返事をしろ!!」
≪……………≫

 

 しかし、ホークの呼びかけにも反応がない。ノイズが走るのみだ。
 通信機器をやられたか、負傷し気絶しているのだろう。

 

「…待っててくれよ。悪魔さんの相手が終わったら…だ!!」
「コイツ…やるっ!!」

 

 二人のエースは互いに俊敏に機体を操り、ビームの火線を回避する。
 そして、両者が横の動きに慣れてきたところで、アムロはMk-兇魄豕い貌予个気擦襦

 

「クッ…見切りが速いなッ!!だが、接近戦なら容易く殺れるなどと思うな!!」
「コイツでっ!!」

 

 Mk-兇離咫璽燹Ε機璽戰襪了揃發鉾娠して躱し、黒い機体はフォールディングレイザーを胸部に目掛けて衝く。
 アムロは、そこにシールドを捻じ込んで腕ごと叩き落す。直後、至近から放たれた本命のビーム粒子がシールド表面に散った。
 シグー・メディウムの狙いを全て読んでいたかのようなMk-兇瞭阿だ。

 

「今のを、防いだ!?くそ、サイキックじゃあるまいし!!」
「チィ、それならっ!!」

 

 Mk-兇瞭部バルカンが連射される。
 ホークは機体を捻る様にして回避し、バーニアを噴かしてジグザグに後退し距離をとった。
 最新鋭のモビルスーツを駆る二人のエースパイロット。
 その実力は、明らかに他と一線を隔すものだった。

 

「コイツじゃなきゃ、殺られてるな…!!」

 

 ホークは、ビームの追撃を回避させながら吐き捨てた。
 実のところ、一連の攻防において、限界までカスタムされたシグー・メディウムの反応に彼は助けられている。
 パイロットとしては屈辱だが、ノーマルベースのシグーなら既にゲームオーバーであった公算が大きい。
 そのような困難を曲がりなりにもやってのけたのは、ザフトでただ一人。
 ラウ・ル・クルーゼのみである。

 

 ――確かに悪魔じみてやがる。ならば…!!

 

 シグー・メディウムのモノアイが不気味に震える。
 モニターに映る二つの照準がMk-兇暴鼎覆蝓▲蹈奪するのをホークに知らせた。
 そして、Mk-兇發泙拭⊆隋覆△襪検砲亡躙韻鯀覆┐襦

 

「レーザー着信――ロックされた!?」
「っけぇぇぇーっ!!」

 

 シグー・メディウムから大型のミサイルが、咆哮を伴って空に向かって射出される。
 それは、太陽の放射光に紛れ、一瞬だけ姿を眩ませた。

 

「!!――ミサイル…いや、何だ!?」

 

 アムロの感覚は、その"熱いものの気"に違和感を覚え警告した。
 それは、強い熱量の塊ではなく、複数個が群れで集まっているようなイメージを彼に感じさせていた。

 

 ――拙いっ!!

 

 ミサイルに設置されたシーカーがレーザーを高速で振りまわし、地面との距離を計測。
 シグー・メディウムのロックオンと照合し、地形から突出するMk-兇鯊えた。白兵戦仕様の短距離レーザー誘導だ。
 バグンッ、と、大型のミサイルの外郭が割れ、内包されていた小型ミサイルがMk-兇鯡楹櫃韻動貔討忙εする。
 破壊衝動の赴くままに直進するモノ。または、周り込むように緩い曲線を描く炎が凄まじい速度で群がった。

 

「スプレッド(収束誘導弾)かっ!!」

 

 アムロは即座に反応。機体を急速後退させながら弾幕を張る。
 焔の群れは構わずに収斂し、Mk-兇竜 ̄討惑炎に包まれ見えなくなった。

 

「ハァ…ハァ…。一発限りの"とっておき"だったが…」

 

 シグー・メディウムのコクピットで荒く息を吐きながら、彼は立ち昇る黒煙を凝視する。
 普通ならば、間違いなくこれで終わりなのだが、

 

「――来たっ!?」

 

 タイミングを計っていたかのように、ビームの火線が遮られた視界の向こう側から放たれる。
 直後、Mk-兇黒煙を突き破りながらビーム・ライフルを斉射するのがモニターに映し出された。

 

「冗談じゃない、誘導弾を全て躱しやがった…!!」

 

 苦笑すら洩らして、彼はシグー・メディウムに反撃させる。
 討ち取ったと油断していたら、今のでアウトだった。

 

「クソ、手ごわいっ!!FCS、シールドランチャー!!」

 

 Mk-兇離掘璽襯匹ら一斉にミサイルが射出される。
 それは炎を従えながら刃となって、シグーメディウムに向かい疾走した。
 黒の機体の動きに合わせて、クンッ、と先端が動く。誘導型だ。

 

「レーザー着信は無いか。それなら…!!」

 

 下手な回避運動をすれば、たちまちビームの餌食だ。
 Mk-兇両鏥阿魄錣靴身娠の速さは、その結末を容易にホークに悟らせた。
 彼は、迫るミサイルに対し、コンソールを乱暴に叩く。
 その搭乗者の命令を受けて、シグー・メディウムのバックパックから、熱と光の塊が機体の周囲に一斉にばら巻かれる。
 アムロの放ったミサイル攻撃は、光に群れる蛾のようにそれに飛びつき、無駄な破壊を振りまくに終わった。

 

「フレアを積んでいたのか!?」
「備えあれば何とやらだ。機動で張り合おうなんてハナから思っちゃいないさ」

 

 この時、通信機から互いの声がノイズ交じりで傍受されていた。

 

「…へぇ、悪魔って割りには良い声だな。あんたは本当にナチュラルか?」
「………ああ」
「そうか、会ったら聞いてみたかったんだ。ハハッ、お偉方の泣きっ面が目に浮かぶな。
 …まあ、俺も死にたくはないんでな。ここで決着をつけるぞ!!」
「こちらもだ!!」

 

 互いにビーム・ライフルを構え、殺気を孕んで睨みあう双眸と単眼が光を放った。

 

「――ブースト!!」
「メディウム、行くぞっ!!」

 

 Mk-兇離董璽襦Ε離坤襪慮が、尾となって突進する機体に追従する。
 シグー・メディウムも示し合わせたかのようにスラスターを開放。
 急速に互いの距離を殺しながら放たれるビーム・ライフルの粒子が交錯した。
 両者共に、我知らず雄叫びに如き咆哮を発しながら。

 

「ガァァアアアアアアアーッ!!」
「ウオォオオオオーッ!!」

 

 ショートレンジ。Mk-兇魯薀ぅ侫襪鯤り捨てビーム・サーベルを抜き放つ。
 その直撃が、シグー・メディウムのビーム・ライフルを切断するが、黒の機体は構わずにフォールディングレイザーの刃を振るい、白の機体が持つ光刃の発生器を貫く。

 

「切り札って奴は――!!」
「――!?」

 

 シグー・メディウムの背後から、一瞬で新たな火器――クスィフィアス・レール砲が展開する。
 最後の切り札。これにかかればMk-兇諒9臍甲など紙クズほどの役にもたたない。
 そして、その砲口は、至近距離でMk-兇瞭溝里鯊えている。

 

「ここぞって時に使うものだ!!」

 

 凄まじい運動エネルギーによって、凶悪な破壊が連続して射出される。
 衝撃が大気を震わせ、Mk-兇ら多量の金属片が弾け飛んだ。

 

「――当たらなければっ!!」

 

 それは、Mk-兇離掘璽襯匹蛤枯咾隣韻蠎茲蕕譴秦甲片だった。砲撃の刹那の瞬間にアムロは反応。
 クスィフィアス・レール砲の砲身にMk-兇虜枯咾鬟掘璽襯匹瓦斑,つけて、狙いを無理矢理に逸らしたのだ。
 盾を構え防御しようなどとすれば、確実にシールドごと機体を貫通されていた。

 

「この距離で躱した!?」
「ウオオオオオッ!!」

 

 アムロは、間髪いれずに機体をシグー・メディウムに捻じ込ませて、胸部に拳打を叩き込む。
 衝撃がダイレクトにコクピットユニットを揺らし、軽減されているとはいえパイロットにも襲い掛かる。

 

「グァッッ…!!」
「――FCS、ガトリング!!」

 

 Mk-兇瞭佑出した腕からガトリングガンが展開する。
 零距離で放たれる連続弾の直撃は、シグー・メディウムの装甲といえどどうにもならない。
 そして、最早、反撃することも防ぐことも出来ない。結末は、ひとつだ。
 ホークはそれを察し、穏やかさと寂しさを同居させたような表情で貼り付けていた写真に顔を向ける。

 

「…ハッ。ダセェな、俺も…」
「――!?」

 

 シグー・メディウムの装甲越しにパイロットの意識がアムロに伝播した。
 そこにあったのは、アムロに対する憎しみではなく、遺すことへの悔い。
 今のアムロには、持つ術がない想い。

 

「悪い…みんな。帰れなくなっちまった…」
「――ッツ!!」

 

 幾つかのイメージがアムロの意識に飛び込んだ。
 寂しそうに笑う女性。涙を零しながら手作りのお守りを手渡す女の子と、後ろを向いて肩を震わせている少女。
 彼女達から大切な人間を奪うのだ。それが戦争だ。解ってはいるつもりだ。

 
 

『戦争だから、だと?個人的な欲望のためじゃないと、どうして言い切れる?アムロ・レイ』

 
 

「グッ…ウオオオオオォォォーッ!!」

 

 それらを悲鳴に似た咆哮を以って意識帯から追放し、アムロは引き金を引く。
 猛烈な勢いで銃弾が吐き出され、シグー・メディウムの装甲を突き破り、内部に在る全てをグチャグチャに蹂躙していく。
 血が弾けて、コクピットの写真を紅く濡らし、それもすぐに破られ粉々になっていった。

 
 

 プラントには今、夜空が広がっていた。
 正確には、夜間に設定された時間の空と呼ぶべきなのだが、それは、あまりにも無粋というものだろう。

 

「………」

 

 その夜空の下、少女が両手を合わせて、地球で戦っている父親の無事を祈っていた。
 少女は、父が家を後にしてから、一日たりとも、その祈りを奉げなかったことはない。
 プラントでは、神は信じられていない。と、いう事になっている。
 それでも、超常的な何かに対して祈りを奉げるのは、人の性というものかもしれなかった。

 

「メイリン、お母さんがご飯って。…だからさ、もう入りましょ」
「お姉ちゃん…」

 

 彼女――メイリン・ホークの姉、ルナマリア・ホークが意識的に笑みを浮かべて妹を呼んだ。
 ご飯――食料。戦争の中、理事国からの食料供給が止められているが、プラントで誰かが飢えに苦しむといった話は存在しない。
 これは、親プラント国家である大洋州連合の恩恵によってのみではなかった。
 『黒衣の独立宣言』の際、プラント政府は農作物の生産、魚の養殖などがすでに安定供給可能なまでに成功していた事実を発表。
 これは、理事国からの食料生産制限が、実のところ全く遵守されてはおらず、それまでに虚偽の発表が繰り返されていた事を意味していた。
 プラントでも、これには懐疑的な見方も一部にはあったものの、『血のバレンタイン』で怒りに沸き立つ民衆のほとんどは、理事国の無能を蔑み、それを出し抜いたプラント政府を賞賛した。

 

『プラント政府は導火線の火を待ちわびていた。そして、連合がそれに火を入れた。
 その火が核の炎であった事を見抜けなかった打算家たちの想像力の欠如は怒声によってその責を免れた』

 

 プラント政府の発表に反発したジャーナリストが、変死を遂げる直前に残した言葉だ。

 

「うん…もう少し…わわっ!?」

 

 愚図る妹にわざとらしく大げさにため息を吐くと、
 ルナマリアは、メイリンの肩を引っ掛けてこちらに顔を向かせる。

 

「だいじょーぶよっ!!お父さんは自称だけど不死身のエースパイロット。
 地球で悪い奴らをさっさと倒して、呑気に欠伸でもしながら帰ってくるわよ!!」
「…うん」
「よっし、それじゃあ食べるわよ〜!!」

 

 ガッツポーズまでとる姉の姿に、メイリンは小さく笑みをこぼした。
 ルナマリアが家族を自分なりに護ろうと努めて明るく振舞っているのを知っていたからだ。

 
 

 この姉妹に父親の死が知らされるのは、それから少し後のことになった。

 
 

 ズシン、ズシンと、モビルスーツが地を鳴らす音に、シホは暗いコクピットで意識を取り戻した。

 

 ――私…一体…どうして…?

 

 意識がぼやけて、考えがまとまらない。
 彼女は、反射的にコンソールに片手の指を滑らせるが反応はなかった。
 動力系の致命的な箇所を損傷しているのだろう。機体を動かすどころの話じゃない。

 

「わた…し…悪魔に…ア…!?」

 

 意識を喪失する最後の映像。ビーム・ライフルを構えた『白い悪魔』と爆発的に弾けたビーム粒子の奔流。
 それを思い出したのを契機に、シホの意識が僅かに輪郭を取り戻す。

 

「み…皆は…うう…ッツ!!」

 

 途端に、鈍い痛みが身体を突き抜けた。
 ダメージを受けているのは機体だけではなさそうだ。

 

「おい、この機体…パイロット生存!!パイロット、意識はあるか、オイッ!?拾いに来たぞ!!」

 

 その時、装甲越しにドンドンと機体を叩く音が響いた。
 様子からおそらく敵ではない。救助隊であるとシホは推察した。
 よほど性格の悪い人間でなければ、連合軍がこのような演技に興じる理由などない。

 

「スピーカーは…生きてる――手動で開きます。離れてください…」
「女の声!?ああ、解った。少し待ってくれ…いいぞ!!」

 

 直後、シホが手探りで緊急脱出用レバーを掴み、弾かれるようにコクピットの前面が吹き飛んだ。
 燃え立つような日の光が眼(まなこ)を刺し、視界が眩んだ。
 シホの『赤服』が目に付いたか、または、少女といってもいい年齢であった事が関係しているのだろうか。
 救助に来たと思わしきザフト兵は口調を和らげて、ゆっくりとコクピットから外へシホの身体を移動させる。

 

「よくがんばったな。おい、早くタンカ持って来い!!」
「は…はい…。あの…」

 

 状況がいまいち掴みきれないシホは眩む目を押さえて、それを聞き出そうとした。

 

 しかし、そこで別の兵士の声が彼女の鼓膜と意識を振るわせる。

 

「ああ、生存者は一人だけだ。これ以上は必要ない。部隊は全滅している――」

 

 ――えっ!?

 

 ドグンと心臓が早鐘を鳴らす。不吉な言葉にシホは目を見開き、無理やり身体を起こす。
 自分の左腕が妙な向きでぶら下がっているのが見えたが、そのような事は今はどうでもよかった。

 

「チッ、バカ野郎が!!ここで言う台詞かっ!!」

 

 そばにいた兵士から怒号が飛んだ。だけど、それもいい。どうでもいい。
 灰色の視界で映る光景の前には、他の全ての事柄など何の価値もなかった。

 

「イヤ…イヤ…」

 

 辺り一面に屍を晒す仲間のジン。
 それは倒錯した美しさすらあったが、ここで消えた生命をよく知る者にとっては地獄そのものだ。
 隊の皆が最期まで戦っていた。自分だけが気を失った挙句に生き延びてしまった。
 そのように受け止めてしまった事実が彼女の精神を追い詰める。

 

「オイ、そっちは駄目だ!!大丈夫か!?聞こえているか!?」

 

 シホは兵士の呼びかけを無視、否、知覚できずに足を引き摺っていく。
 そして、墓標のように突き立ったフォールディングレイザーが視界に映し出された。

 

 ――ホーク隊長!!助けに来てくれていたんだ。なのに…私は!!

 

「ア…ア…!!イヤァァァァァーーーーッ!!」

 

 感情を飽和させ、悲鳴を叫んだのを最後にシホの意識は再び暗闇へと埋没していった。

 
 

 シホ・ハーネンフース。ザフトレッド。全滅した隊の唯一の生存者。
 後にザフト軍広報局によって、彼女の身に起こった悲劇は多分に脚色され、プロパカンダの具として利用され、消費されていく事になる。

 

 彼女が心を開いた隊長がかつて危惧したとおりに。

 
 

 南アメリカ戦線にて、実行された連合軍の反撃作戦によって、その序盤に、多くの精鋭部隊を損なったザフト軍は、その後も効果的な阻止線を張ることは出来ず、三日間にわたって、戦線を混乱の坩堝(るつぼ)に叩き落とされた。
 特に深刻だったのが、自軍勢力圏であるはずの後方から圧力を受け、一時的に孤立した形となったザフト軍先線部隊だ。
 それらは秩序を乱れに乱れさせ、さらに連合軍の逆撃をそれにつけこむ形で展開されて、全線の後退を強いられる有様だった。
 四日目にようやく混乱を収拾したザフト軍司令部が、逆に突入部隊を包囲殲滅せんと動き始めた時、新たに連合機甲大隊の前線突出の報が届く。
 これに再度の突入を予感し、恐れたザフト軍が動きを鈍化させた隙に突入部隊は撤退を開始。
 そして、大した追撃も受けぬままに推移し、次の日までに、それをあっさりと完了させてしまった。
 ザフト軍は一方的に攻められ、何も出来ぬままに見送るという醜態を晒したのだ。
 連合軍によるモビルスーツ機動戦術。これが、その最初の例であった。

 

 ザフト軍は、連合軍の予測を遥かに上回る反撃によって、その貴重な戦力の多くを失い、抵抗線を噛み破る事も出来ぬまま攻勢限界点を迎えた。
 無論、連合軍も無傷とはいかず『壁』部隊を、そして、多くの将兵を損耗させられており、防禦線の修復に忙殺される事となる。
 こうして、サンフランシスコ・ラインの突破を企図したザフト軍の総攻撃は、その目標を達成せぬまま頓挫し戦線は再び膠着状態に入った。

 
 

「プハーッ。ウメェーッ」

 

 クロトがジョッキに注がれたビールを一気に己に流し込んで息を吐いた。
 社会通念上の問題は、凱旋記念のパーティーという事もあり黙認なのだろう。

 

「ったく、それにしても何でいつも勝てないんだよ。何かコツとかあんの?」
「コツ…ですか。システム上の特性を生かす操作をすることですが」

 

 クロトは、妙に高いテンションで、隣のエイトに絡む。
 話の内容はクロトがよく遊ぶ携帯ゲームについてだ。
 ちなみに二人の勝率は、会話の内容のとおりである。

 

「はぁ?小難しい理屈とかはいいんだよ。もっとこう、簡単に強くなる方法をさ」
「勝ち星が必要でしたら、対戦ではそのように配慮します」
「あ〜、それじゃあ、意味ないんだって!!」
「???」

 

 クロトはエイトの融通の利かなさに呆れて頭を抱える。
 エイトは考え込み、頭にクエスチョンマークを浮かべた。

 

 モノケロス隊の面々は誰一人欠けることなく今作戦を終えていた。
 もちろん、連合軍最強の独立特殊MS部隊の名に恥じぬ赫々たる戦果を挙げての事だ。
 しかし、今、子供も混じって馬鹿騒ぎしている様子からは、その様な精鋭部隊らしさは、欠片も見受けられないに違いない。

 

 エイトのやり取りを面白そうに眺めているセブンの目の前に細長い棒が突き出される。
 ビリヤードのプレイで球を撞くのに使われるキューだ。

 

「スウェン少尉?」
「…付き合え」
「これのルールには詳しくないのですが…」
「今から教える。お前なら一度で覚えられるだろう?」

 

 どういう心境の変化か解らないが、スウェンも仲間に歩み寄る努力をすることにしたようだ。
 もっとも、それは不器用極まりなくてセブンは漏れそうになる苦笑を抑え込む必要に迫られたが。

 

「…分かりました。お願いします」

 

 そう言って、ふと、横に目をやるとイレブンが背の低い整備兵の泣き上戸に付き合わされて
 彼なりに若干アタフタとしながら対応しているのが見て取れた。

 

 ――随分と変わったな。

 

 『弟』たちの変化を喜ばしく思えるのがソキウスとして正しいのか彼自身は分からない。
 セブンが理解しているのは、そのような事を思える己もまた変わったという事実だ。 

 

「始めるぞ…」

 

 クイ、とビリヤードテーブルに誘われる。セッティングは既に終えているようだった。

 

「あ、ハイ」

 

 思考を中断し、セブンはゲームに集中するために、彼にとって全く効能のないはずの酒を一息に飲み干した。

 
 

 アムロはそのパーティー会場の外、無造作に設えられたベンチに独り座していた。
 何の感情も見出せない表情でそうしている姿は、連合の英雄というフレーズからはかけ離れたものだ。
 覇気も、ともすれば存在感すら今の彼には感じられない。

 

「………」

 

 ジャリ、と足音が聞こえ、アムロはそちらに意識を向ける。
 いつの間にか、すぐそばに『主任』が立っていた。

 

「いっぱい"戦争"をしましたね…」
「ん…ああ。そうだな。いっぱいしたよ」

 

 聞きようによっては、不穏当にも感じられる会話だ。
 当人達以外では、会話として成立するかどうかすら疑わしい。
 まるで、言葉遊びのようだった。

 

「………何か用かい?」
「用が無いといけないのですか」
「いや…」

 

 『主任』は戦いがあった後、時折アムロがこのような表情をするのを知っていた。
 独りにしておくべきかも知れないし、それではいけないのかも知れない。
 それを、彼女自身、決めかねているのだ。
 こういう時は、アズラエルの程よい鈍感さが羨ましく思えた。

 

「あなたが何に苦しんでいるのかは私には多分、察しがついています。でも、あの子達の前ではそんな顔見せないでくださいね」
「当たり前さ。理解しているよ…」
「………すみません。嫌な女ですね、私は」

 

 自らが演じている役どころに、彼女は謝罪を口にする。
 結局、しばらくアムロを独りにしてやることにした。
 このような姿は、きっと誰にも見られたくないだろうと結論付けて。

 

「…ありがとう」

 

 背中越しにアムロの声を聞き、僅かな笑みを返して『主任』はその場から離れていった。

 
 

 CE71.3月28日。特機教導師団はフォルタレザ基地へと戻される事になった。
 遠雷のように木霊する砲声は、いまだ止む事を知らない。