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SSA_400氏_第6話

Last-modified: 2008-07-03 (木) 18:55:10

 後に『新星攻防戦』と呼ばれることになる戦いは
 連合、ザフト共に決定打の無いまま小競り合いが繰り返され
 L4宙域コロニー群に多数の被害を与えながらひと月が経過しようとしていた。

 

「こちらB中隊、ジン残存4!!」
「了解、こちらも結構やられちまった。だが・・・」

 

 ザフトのモビルスーツ部隊は多く被害をもたらしながらもついに第10艦隊の艦影を捉えた。
 もしモビルスーツにとりつかれれば戦艦などひとたまりもないだろう。
 もちろんこのまま蹂躙されるのを黙って待つ者などいやしない。
 艦隊から発進したモビルアーマー、メビウス部隊が多数の光の尾を発しながら火線を抜けたモビルスーツ部隊に接近する。

 

「隊長、敵艦隊のモビルアーマー発進を確認!!例の"白い奴"も!!」
「"白い奴"――あれが・・・」

 

 このひと月の間、ザフトのパイロット達に徐々に浸透していった存在。
 それが白のボディにオレンジのラインが入ったメビウス・ゼロ――"連合の白い奴"であった。
 曰くパイロットは裏切り者のコーディネイターである。
 曰く連合の新兵器が搭載されているなど、その存在はいつしか彼らの中で恐怖という名の幻想となり誇張されていった。

 

「各機、なんとしてもこの群れを突破し敵艦隊に接近しろ!!奴らの帰る家を無くしてやるんだ!!」
「そんなこと言ったって・・・うわッ!!」

 

 応答する間もなくそのパイロットのジンが4機のメビウスに囲まれる。
 反撃する間の無く銃身、そしてもう片方の腕にリニアガンを浴び戦闘能力を奪われる。
 その手際の良さからもこのメビウスの連携が完全に確立されたものだと見て取れた。
 ザフトのパイロット達のやや直線的過ぎるきらいのある攻撃を機体性能差に関わらず見事に阻止してみせていた。

 

「クソッ、ここまできてやられてたまるかぁ!!」

 

 急加速したジンに取り付かれたメビウスは無反動砲の直撃を受け爆散する。
 ジンのパイロット達はここに到るまでに第10艦隊が構築せしめた布陣からの高密度かつ立体的な射線と十字砲火によって出血を強いられていた。
 正に殺人機構と呼ぶに相応しいビームとミサイルの嵐による多数の犠牲を無駄にせぬ為にもと彼らとて必死なのだ。

 

「こちらアルファ。アムロ中尉そちらに三機いった!!」

 

 その声に呼応するかのように三本の光の尾が撃破されたメビウスの空域から艦隊にめがけて伸びていく。

 

「了解!ブラヴォー各機、敵に飲まれるなよ。教えたとおりにやれば生き残れる、よし散開!!」

 

 アムロの率いる編隊に直進を阻まれ勢いを殺されたジンの一機に容赦なくリニアガンの雨が降り注ぐ。
 艦砲の射線上に機体を弾き出された所を見計らった様に発射された猛烈なビーム光に包まれ大破した。
 残りの二機もメビウス・ゼロによるガンバレルの牽制を受け、思うように進む事ができない状況にあった。

 

「これがウワサの白い奴か、流石に!!」
「俺が・・・俺がヤツを葬ってやる!!」

 

 二機のジンの火線を回避しながらアムロはリニアガンを連射しジンを大きく仰け反らせる。
 そこに他のメビウスが放ったミサイルが突き刺さりすでに限界にきていた装甲が砕け散った。

 

「クソォ!!他は・・・他の隊はどうした!!」

 

 ただ一機残ったジンのパイロットは恐慌し絶望の声をあげる。
 レーダーはニュートロンジャマーの強い影響で使い物にならず、カメラを動かし周囲の仲間に救援を求めようとする。
 だが、あたり一帯の宙域にはすでに戦闘を告げる閃光は見受けられず己が状況を否応にも理解させられる結果となった。
 そのジンの周囲をメビウスの群れが隙間なく包囲する。
 有体に言えば完全に詰みの状態だ。

 

「フッ・・・フフッヒヒッヒヒヒァハハハ・・・」

 

 360度を完全に包囲するメビウスから一斉に放たれたリニアガンの光が何故か酷くゆっくりに見える。
 それが彼が最期に見る光景となった。

 

「ザフトに栄光あれぇ!!」

 
 

メビウス・ゼロから降りたったアムロにオペレーターの女性から清潔なタオルが手渡される。

 

「お疲れ様です!!」
「ああ、ありがとう」

 

 アムロが汗を拭いながら会釈すると彼女は顔を少し赤らめながら
 遠くから様子を見やっていた女性の群れに戻っていく。
 すぐに黄色い声がテッキ中に広がり彼女らが離れていくとともに徐々に消えていった。

 

「いやぁ、流石エース様ともなるとモテモテですなぁ」
「モテモテって・・・いつの時代の台詞だ?」

 

 背後から聞こえてきたメカニックの冷やかしを軽く流しながらアムロは己の乗機を見やる。

 

「反応がまだ鈍く感じるんだが・・・これ以上は無理なのか?」
「おいおい、贅沢言わんでくれ!!これでもアンタに合わせてチューンしているんだぜ。これ以上は無理だ」
「まあ、確かにノーマルよりは幾分マシにはなっているのだがな」
「ったく、出撃の度に被弾はゼロでも操縦で機体をガタガタにしちまうんだから。整備士泣かせだよ、アンタは」
「すまない、これでもそれなりに機体に気を使っているつもりなんだけどな・・・」
「それじゃあ、本気を出したら一体どうなるってんだ?いやはや・・・」

 

 そのような談笑を続けているうちにブラヴォーチームのパイロットがアムロの周囲に集まる。

 

「アムロ中尉、今回もお疲れっす」
「中尉も腹減ってんでしょ?メシにいきましょうぜ、メシに」
「そうそう、我らが偉大なるエース様に乾杯ってね。まあ酒は飲めねぇけど」
「おいおい、戻ってきたばっかりだぞ。先に着替えさせてくれないか?」

 

 アムロ達がそのような会話を交わしている間に他のチームのパイロットも参加し始める。

 

「いけませんなぁ、アムロ中尉。不本意ですがあなたを抗命の罪で食堂まで連行させていただきます!!」
「さ、エース殿。食いながらでいいんで、今日もなにか戦術の一つでもご教授お願いしますよ」
「そういえば叙勲の推薦もされているそうじゃないか。うらやましいねぇ」

 

 アムロが考案した対モビルスーツ戦におけるメビウスの運用法は他の編隊も積極的に取り入れていた。
 そして、第10艦隊の空戦隊のこの一連の戦いにおける敢闘がその有用性を証明していた。
 アムロが他の編隊のパイロットからも一目置かれる存在となるのも当然のことだったといえるだろう。

 

「待て、分かったから押さないでくれ。自分で歩ける」

 

 そうして、半ば引き摺られる格好ながらもアムロは顔に笑みを浮かべながら食堂に向かっていった。

 

だが、半日も経たないうちに状況は一変する。
 戦線の左翼方面を担当する友軍、第12艦隊がザフトの特殊部隊の強襲を受けたのだ。
 防衛陣の間隙をつく形で懐深くまで潜り込まれた艦隊の狼狽振りは哀れなほどで
 それに乗じる形で押し寄せたザフト主力艦隊よる打撃をまともに受け短時間のうちに潰走したのだ。
 これによって第10艦隊左翼側背に敵の圧力が生じ、これ以上の戦線の維持は不可能と判断した第10艦隊司令部は撤退を決定した。
 この時点で『新星攻防戦』の帰趨は決していたとみていいだろう。
 第10艦隊にしてみれば友軍に足を引っ張られた格好ではあるが、だからといって第12艦隊を責めるのは酷というものだ。
 今大戦においてザフトに対し連合軍は常に劣勢の立場にあるのだから。

 

「我が艦隊の現在の状況は説明したとおりです。今なら敵主力からの半包囲を受ける前に後退する事は可能ですが・・・」

 

 そして今、ジェファーソンのブリーフィング・ルームには各艦長以下のメインスタッフと
 小隊クラスのパイロットが集められ撤退戦における作戦行動の説明が行われていた。
 ザフトもただ黙ってこちらを逃がしてくれるつもりは無いようで
 ナスカ級高速戦闘艦の接近がすでに確認されていた。
 もし、敵モビルスーツに艦隊への突入を許せば、第10艦隊は第12艦隊同様に多大な被害を被ることになる。

 

「――以上です」

 

 作戦仕官の説明が終わると第10艦隊提督を初めとした全員が立ち上がり、

 

「厳しい戦いが予想されるがなんとしても敵モビルスーツ部隊の行動を阻止してくれ。
 空戦隊の諸君の奮起に期待するところ大である!!」
「「「了解!!」」」

 

 その提督の言葉に一同も返礼した。

 

≪クルーゼ隊長、ナチュラルどもの尻尾を捕まえました≫

 

 先行する偵察型ジンからの報告を聞きクルーゼはジン・ハイマニューバを加速させる。
 報告のあったポイントに接近するとモニター越しに確認できる数隻の戦艦がこちらへ急速に回頭するのが見てとれた。

 

「敵は半数は後方、遅滞行動ということだな。ふむ・・・」

 

 艦隊から次々と接近するモビルアーマー部隊のテール・ノズルの光が束になって見え、それが徐々に近づいてくる。
 だが、その行動の妙な鈍さにクルーゼは違和感を持った。
 慌てているにしては余りに動きが整然としすぎている。
 何かある。クルーゼの直感がそう告げていた。

 

「隊長、ナチュラルどものカトンボが!!」
「落ち着け、逸る必要など無い。――我々と敵との中間位置の上方にデブリ帯・・・
 このまま突入すれば接触はそれを背にする辺り――これは・・・そういう事か、小細工を!!」

 

 血気盛んな若い兵を御しつつクルーゼは第10艦隊の狙いを正確に看破する。

 

「各機、敵の狙いは前方の艦隊を餌にし、挟撃を仕掛けることにある!!」

 

 その言葉にクルーゼ隊の先鋒は今まさに突撃せんとした足を押しとどめる。
 そちらには目を向ける事無くクルーゼはヴェサリウスに回線をすぐさま開く。

 

「アデス、上方デブリ群に主砲三連!!コソコソと隠れているハエを燻りだすぞ!!」
「ハッ!!」

 

 ヴェサリウスを含めたナスカ級艦艇から一斉射されたビームがデブリを焼き払い
 クルーゼの予測どおりに息を潜めていたメビウスの一群がたまらずに飛び出してくる。

 

「チィ、失敗だ!!各機、散開しろ!!」

 

 たまらず出てきたメビウスをジン・ハイマニューバの重斬刀が真っ二つに切り裂く。
 メビウス隊の中隊長が作戦の失敗を悟り全機に散開を命じるが
 時すでに遅くクルーゼ隊の攻勢に対処し得ないままに次々と撃墜されていった。

 

≪オメガチーム、全機シグナルロスト!!≫

 

 その報告を聞いた全員に戦慄が走る。
 オメガチームはアムロ率いるブラヴォーチームに次ぐ戦果をあげていた精鋭だ。
 作戦を見破られたこと以上にそのオメガチームを全滅させるまでのあまりの速さに
 彼らは心臓が凍てつくかのような思いを味わっていた。
 アムロも動揺こそしてはいなかったものの、クルーゼ隊の予想を上回る強さに苦虫を噛む思いだった。

 

「今までの相手とはまるで違うという事か・・・」

 

 アムロは、迫り来る敵部隊の錬度の高さと強靭な力を持つ者の存在を察知し慄然とした。

 

「ブラヴォー各機、ここで押さえるぞ。本隊に一機たりとも近づけるな!!」
「「了解!!」」」

 

 各部隊が一斉にクルーゼ隊に向かい殺到する。
 アムロはガンバレルを展開し敵を牽制、それに気をとられたジン数機にミサイルが直撃する。
 アムロの編隊が一連の戦いでもっともよく使用した連携だった。
 クルーゼもこの時になって初めてメビウス・ゼロの気配を感知する。

 

「なんだ!?奴らの中に壁になる者がいる!?――なんだというのだ、この感覚は!?」

 

 クルーゼは慣れない感覚に戸惑いながらも機体を上昇させ一気に直進する。そこで、白いメビウス・ゼロの姿を視認した。

 

「零式だと!ムウ・ラ・フラガか・・・!?」

 

 メビウス・ゼロが下からのジン・ハイマニューバの攻撃を大きく回避し機種を向ける。

 

「来たか!!各機、コイツは危険だ。近付くなよ!!」

 

 展開していたガンバレルを機体に戻しメビウス・ゼロをジン・ハイマニューバに向かい加速させる。
 クルーゼは試製27mm機甲突撃銃で牽制しつつ、メビウス・ゼロの放つリニアガンを回避した。

 

「これは・・・」

 

 攻撃の際に放たれたアムロのシャープな意思はクルーゼの感覚を刺激した。

 

「クッ・・・これは!?――いや、違う、違うな!!奴ではない」

 

 ラウ・ル・クルーゼとムウ・ラ・フラガはその出自の秘密もあり互いの存在を感知できるという特殊な才能があったが
 今、クルーゼが感じているのはそれとは全く異質のモノだった。
 まるで、相手の意思そのものがぶつかってくる様な感覚に戸惑いながらもクルーゼは攻撃の手を決して緩めない。

 

「一体、何者だね、君は!!」
「・・・・・・!?」

 

 アムロはまだ漠然とではあるがジン・ハイマニューバから徐々にプレッシャーが漏れ出し始めているのを感じとる。
 それに比例するかのようにジン・ハイマニューバの動きに鋭さが増していく。

 

「何だ!?これは・・・」

 

 リニアガンを最小限の動きで回避しつつ接近するクルーゼの異質な気をアムロは見た。
 シャア・アズナブルとはまた違う類の絶望を確かに『見た』のだ。
 すれ違いざまに抜き放たれた重斬刀の一撃をメビウス・ゼロの機体各所のバーニアを噴射させてすんでのところで避ける。

 

「押されている!?どうした!奴の気にあてられたのか!?」

 

 アムロは、こうも手こずる自分の腕に焦りを覚え始めていた。
 モビルスーツとモビルアーマーの機動性の差など初めから承知していた事だ。
 もっとも、アムロだからこそクルーゼに対しガンバレルによる攻撃は無意味と推量し
 ガンバレルのスラスターを本体の加速にあてねば抗し得ないと瞬時に判断できたのだが。
 そのアムロをこうまで翻弄しているのもクルーゼが特別だからである。

 

「チィ、弾切れだと!?」

 

 交戦を続けているうちにジン・ハイマニューバの突撃銃の弾薬を使い果たしたのだ。
 アムロが、そうさせたのだ。
 直線的な動きしか描けないメビウス・ゼロでよくもったというのが正直なところだが
 メビウス・ゼロも、もう反撃する力は残っていない。
 限界を超える機動を行い続けた為に機体の挙動がおかしくなり始めていた。

 

「ここまでだな・・・アデス、後退するぞ!!」

 

 クルーゼは状況からこれ以上の戦闘継続はリスクが大きいと判断し後退指令を出す。
 ヴェサリウスが信号弾を三回発射するとクルーゼのモビルスーツ部隊は、一挙に後退していった。

 

「引き際も鮮やかなものだな・・・」

 

 アムロは退いていくクルーゼ隊を一瞥すると回線を開く。

 

「こちら、一号機。状況はどうか?」
≪はっ・・・はい!?・・・艦隊への接近は阻止できましたが・・・空戦隊の40%以上がやられて・・・敵の攻勢は尋常なものではありませんでした≫

 

 若干、涙交じりの声になっているオペレーターの報告を聞くとアムロは大きく息を吐いた。

 

「艦隊は確かに守りきれたが・・・完敗だな。――くそっ不甲斐無いものだな、俺も」

 

 任務こそ達成できたもののパイロットの半数近くを失ったのだ、まさしく敗北といってよかった。

 
 

 クルーゼはジン・ハイマニューバをヴェサリウスのカタパルトデッキに押し込みながら
 先程の凄まじい技量を誇るパイロットとの戦闘を思い返していた。

 

「まさか、あれほどの敵が存在していたとはな。面白い・・・しかしあの時の感覚は一体?」

 

 アムロと交戦していた時、クルーゼは周囲の状況や殺気といったものがダイレクトに察知できていた。
 もっとも、その感覚も後退と共に消え失せてしまったのだが。

 

「錯覚とも思えんな。奴ともう一度戦えば何か解かるのかも知れないが・・・」

 

 この時、クルーゼは漠然とではあるが自身の隠された才能が
 ――アムロ・レイとの接触が無ければ決して目覚める事の無かったであろう力が息づき始めているのを感じ取っていた。

 
 

 ―――戦線を崩壊させた地球連合軍は同日、新星の放棄を決定。
 ザフトはこの衛星を自軍の防衛用軍事衛星として改装、L5へのに移送を開始。
 後に新星はボアズとその名を改めることになる。

 

 アムロはメビウスによる対モビルスーツ戦における戦術の構築を評価され
 そして、なによりも戦意高揚の為の"英雄"を欲した地球軍上層部の意向により大尉への昇進とオークスター勲章を授与した。
 新星での"勇戦"を支えた英雄として、今後、彼は『白き流星』という異名で喧伝される事となる。