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SSA_400氏_第7話

Last-modified: 2008-03-03 (月) 23:37:03

CE70.7月22日――

 

 第8艦隊司令デュエイン・ハルバートン准将は軍司令部に呼び出されていた。
 彼は連合製モビルスーツ開発プロジェクト"G計画"の本格的な始動。
 そして、その開発計画の一翼を担うようにとの命令を下されたのだ。ハルバートンとしては願ってもない話である。
 だが、最初こそ彼の心中に生じていたある種の高揚感は幾つかの書類やデータに目を通していくうちに
 急速に違和感へと塗りつぶされていった。

 

「これは・・・」

 

 書類上ではすでに開発予算などを含めたあらゆるお膳立てが既に整えられていた。
 そう、今までの苦労が嘘だったかに思えるほどに"整えられすぎている"のだ。

 

「おやおや、何をそんなに恐い顔をしてらっしゃるのですか。
 准将の今日に至る努力がようやく認められたのです。もっと喜んでみてもいいのでは?」

 

 軽薄そうな笑みを浮かべながらタイミングを見計らったように一人の男が入室してくる。

 

「・・・あなたは!?」
「予算に人員、十二分に確保したつもりなんですが・・・まだ何かご不満でも?」

 

 突如現れた闖入者を確認し、ハルバートンはようやく状況を理解した。
 これほどにG計画の環境が整えられたのは間違いなく目の前の男の介入があったのだという事を。
 だが、こうなってくるとハルバートンも素直に喜んではいられなかった。
 目の前の男――国防産業連合理事ムルタ・アズラエルは軍内部に蠢動するブルーコスモスの首魁でもあるのだ。
 地球連合軍においてハルバートンはいわゆる反ブルーコスモス派に属する。
 彼を含む反ブルーコスモス派はブルーコスモス派閥の人事権への介入や過激な行動を憂い
 それを支援していると目されるアズラエルを目の敵にしていた。

 

「アズラエル理事・・・これはあなたが?」
「僕としてはハルバートン少将の慧眼に感銘を受けた次第でしてね。
 まあ、こういった形でご協力させていただいたということです」

 

 むろん、アズラエルの言葉には一分子の本心も含まれてなどいない。
 アズラエルの芝居ががった口上にハルバートンは憮然とした想いを自覚せざるを得なかった。
「まあ、そういう事で今計画におけるあなたの手腕を期待します。
 ああそれと、僕もこの計画には"特別顧問"という形で参加させていただくことになりましたので」

 

 ―――商人が!!

 

 アズラエルの物言いはハルバートンにしてみればモビルスーツ開発における利権確保の為のものだとしか思えなかった。

 

「なるほど、計画の指揮と責任は私に。・・・ただし、最高指揮権はあくまであなたにあるということですか?」
「さすがに察しがいい。むろん、あなたがうまくやっているうちは口を挟むつもりはありませんが・・・なにかご不満な点でも?」

 

 場の空気が一気に剣呑なものへと変わっていく。
 別の将官がハルバートンを叱責するが彼はアズラエルの真意を聞き出すまで退くつもりは無かった。

 

「アズラエル理事はこの計画において一体何をしようとしているのですか!?」

 

 ハルバートンの静かだが威圧を多分に含んだ言葉にもアズラエルは動じた様子も無く答える。

 

「開発計画というのは新しい技術を生み出す為の土壌になりえるでしょう?
 それに乗ろうというのは、我々商人にとっては当然のことだと思いますがねぇ」

 

 そうはぐらかしつつアズラエルは背を向けそのまま退室しようとする。

 

「――あなたは前線で死に逝く兵達のことを何も考えてはいないのですか!!」

 

 アズラエルの背にハルバートンは怒声を浴びせた。
 この戦争で死んでいった多くの者達に応える為にもこの計画は必要であり
 そして、それにはアズラエルの協力も必要なことはハルバートンも理解していた。
 しかし、『利』以外の何も見えてこないアズラエルの言に感情が理性を上回ってしまったのだ。

 

 ―――これだから軍人さんは・・・結果的にその『兵』が救われればどうでもいい話だろうに。

 

 心構えだけ問われてもアズラエルとしては正直腹立たしいだけだった。
 多くの兵を実際に死地に向かわせている将官がこのような事を臆面も無く言ってくるのだ。
 ハルバートンを人情家を気取る滑稽な男だと、アズラエルは軽蔑を含んだ視線を向け、

 

「当たり前じゃありませんか、それでは――」

 

 アズラエルはそう言い放つと部屋を出て行ってしまった。

 
 

 CE70.8月18日――

 

「それじゃあ誰だって怒ると思うぞ」
「いやぁ、今にして思えば他にも言い様があったなと僕自身思いますが・・・」

 

 その時の話を聞いたアムロの指摘にアズラエルはバツが悪そうに答える。
 どうにも敵を作りやすい男だとアムロは若干呆れながら思った。
 最後の捨て台詞などアズラエル自身余計であったとは自覚している。
 何のことはない、腹が立ったのでハルバートンの最も聞きたくないであろう返答を選んでしまったのだ。

 

「まあ、他ならぬ『白き流星』殿の指摘とあれば、今後は控えることにしましょう」
「・・・俺としては勝手に祭り上げられていい迷惑なのだがな」

 

 『新星攻防戦』の後、アムロ・レイの名は英雄として連合内に広く喧伝されていた。
 無論それは、新星における敗北から目を逸らし兵の士気を高揚させるためという
 連合上層部の思惑が大いに反映されたものではあったが。

 

 ―――僕も困っているんだけどさ・・・戦う相手を見に行ったと思えば、あっという間に"英雄"なのだから。

 

 まさか、アムロが"ここまでやってしまう"とはアズラエルにも予想外の事だったのだ。
 むろん、それなりの活躍は期待していたのだがそこにアズラエルの誤算があった。
 モビルアーマーでの戦闘参加にも関わらず一度の戦いでアムロは連合のトップエースに躍り出たのだ。
 モビルスーツ開発前にアムロがこれ程の武勲をたて、目立ち過ぎてしまったのはアズラエルの計算外であった。
 そのため、アムロを後方に回し自由に使えるように手はずを整えるのにも予想以上の費用とコネを必要とした。
 その新しい英雄に対するアズラエルの行動は軍内部にまことしやかに広まってしまい
 アムロ・レイは軍内部で"ブルーコスモス盟主ムルタ・アズラエルに近い位置にいる英雄"と認知されてしまったのだ。
 すでに、アムロに反ブルーコスモス派を含む多くの派閥からの接触があったと報告を受けていた。
 各派閥それぞれ違った思惑があるのだろうが、アムロの利用価値に目をつけての事なのは明白だった。

 

 ―――色々と僕やブルーコスモスについて言い含められたな、きっと。・・・ああ、頭が痛い。

 

 アムロが最近ブルーコスモスについて独自に調べ始めているともアズラエルは部下から聞いていた。
 これは、対応を間違えると取り返しがつかなくなる類のものだとアズラエルも分かっている。
 アムロの予想以上の能力を確認できた事は喜ばしい限りなのだが、その副産物として発生した弊害にアズラエルは頭を抱えていた。
 今、アムロとアズラエルは、ヘリでワシントンにあるホテルに向かっていた。
 そのホテルの最上階全てはモルゲンレーテ社が永久に借り受ける契約となっており外部との会談に主に利用されている。

 

「しかし、オーブとの会談に俺が顔を出す必要があるのか?こんな格好までさせて」

 

 アムロの服装は黒のスーツにサングラス、典型的な警護随員の格好だ。
 余りの似合わなさにアムロ自身、辟易としている。

 

「オーブじゃありません。モルゲンレーテですよ、一応ね」

 

 アズラエルは"G計画"にはモルゲンレーテの協力が必要だと
 一度、オーブ連合首長国国家元首ウズミ・ナラ・アスハと会談の場を持った。
 その時は取り付く島もなく交渉はあっさり決裂したのだが
 すぐ後にモルゲンレーテ社からの――オーブの五大氏族の中でも暗部を担うサハク家からの接触があったのだ。
 アズラエルは予測できていた事とはいえ、ウズミに対しては良い印象を持ち得なかった。
 『オーブの理念』――『他国を侵略せず・他国の侵略を許さず・他国の争いに介入しない』
 に固執し、思考を硬直させているように感じたのだ。

 

 ―――『オーブの獅子』ウズミ・ナラ・アスハか。今のところはそれでも問題ないのだろうが・・・
 『理念』とやらが時勢にそぐわなくなった時の事を彼は果たして考えているのか?

 

 オーブに中立を認めるだけの価値を連合もしくはザフトが見出し得なくなった時
 『オーブの理念』は、オーブ自身にとっての害悪となりはてるだろう。
 その時、ウズミがとりえる行動を幾通りか推測したアズラエルだったが一瞬なにか危険なものを感じた。

 

 ―――まあ、オーブの未来の事を僕がいちいち考えるのもおかしな話か。

 

 しかし、それは希薄なものであったためアズラエルはそれ以上考えるのを止めてしまった。
 ムルタ・アズラエルがコーディネイターへの劣等感という『固執』を増幅させ続けていたなら
 あるいは、ウズミ・ナラ・アスハの危険性を看破し得ていたのかもしれない。
 だが、この時にはアズラエルの内面では思考の質が既に変化していたために
 ウズミの『固執』を彼は却って読みきれなくなっていたのだ。

 

「まあ、詳しい説明は終わった後にしますよ」
「そうか・・・」

 

 アムロは、それ以上追求するのは止めておいた。
 アズラエルがそう言うからには何かしら理由があるのだろうし
 後で説明するというのなら、今むやみに聞きだす必要も無い。

 

 ―――しかし、何を考えているのだろうな。

 

 地球に降りてから、アムロには様々な人間から接触があった。
 アズラエルへの橋渡しにと利権を得るために利用しようとする将官達が主だったが
 ブルーコスモスの弱みをアムロから引き出そうとする輩なども少なからず存在した。
 もっとも、ブルーコスモスの思想になど全く共感しておらず内部の事情など何も知らない
 アムロから聞き出そうというのだから随分と間の抜けた話だといえた。
 アムロはアズラエルの義理というよりは、単純に政治に巻き込まれるのを嫌い今の時点では全て撥ね付けていた。
 しかし、彼自身ある程度の情報を聞かされ、そしてそれを自分で整理していくにつれ
 アズラエルにこのまま協力してもいいものか早いうちに判断しておく必要があることは感じていた。
 エイプリルフール・クライシスの災禍を眼前で見せ付けられ戦う事を決意したものの
 それは、アズラエルに協力し続ける事とは必ずしも同一のものではない。
 アズラエルに対し少なからず恩義があるが、場合によっては敵対する事も考慮せねばならないのだ。

 

『そして結局は、お前はまた才能を利用されようとしているのだからな』

 

 シャアに言われた言葉が一瞬アムロの思考を流れた。

 

 アムロ達が会談の場となるホテルの最上階の一室に到着すると全身を黒で包んだ男女が彼らを出迎えた。
 ロンド・ミナ・サハク、そして、双子の弟ロンド・ギナ・サハク。
 両者の外見は一見、鏡に映っているかのように同じに見えるが
 やはり、性別の違いかよく見れば顔つき、体つきに相違点を見出す事が出来た。 
 サハク家はオーブ五大氏族の中でも累代軍事を司ってきた家柄であり、モルゲンレーテ社との結びつきも深い。
 彼女たち姉弟はオーブのために造られたコーディネイターであり養子という形でサハク家に入っており
 その能力によって、既に養父コトー・サハクに変わり実質的な権限を有するに至っている。
 そのためG計画におけるモルゲンレーテとのやり取りも主に彼女らを通じて行われていた。

 

「これはアズラエル理事、おいで頂いて恐縮です」
「いえいえ、こちらの方こそご多忙のところ時間をとって貰ってありがたく思いますよ」

 

 ミナは一瞬アズラエルの背後にいるアムロに目を向けるが表面上は気にするそぶりも無くすぐにアズラエルの方に視線を戻した。
 一応の挨拶が終わり、話はモビルスーツの開発計画のものへと移っていく。
 この日までにモルゲンレーテは大容量パワーパック技術の提供をきっかけとして
 支援ユニットの開発を初めとする多くのプロジェクトへの参入を勝ち取っていた。
 そうなれば、後は簡単だ。
 モルゲンレーテがモビルスーツ開発のルートの一翼を請け負う事になるのも自明の理というものだった。

 

「あなた方にはスペック実証用のスペシャル機の製造を請け負ってもらう事になります」
「分かりました。では、開発は先の話の通り『ヘリオポリス』で」
「ええ、お願いしますよ」

 

 今回の会談は、あくまでトップ同士の最終確認に過ぎないものだ。
 会談はスムーズに進行し、ごく短時間のうちに終了した。
「いやぁ、それにしても本当に助かりましたよ。ウズミ代表にあっさり振られた時にはどうしたものかと思ったものです」
「これは、異な事を。あなたはこの展開を充分読めていたのでは?」

 

 唐突にアズラエルが口にしたウズミの名に、ミナの雰囲気が若干棘棘しいものに変わる。

 

「代表があなた方の協力依頼を断ったとて、それは必ずしもオーブの総意というわけではありません。
 だからこそ、我々がモルゲンレーテを通じて協力させていただいているのです」

 

 洩れだしかねない敵意をなんとか抑え付けようとするロンド姉弟の精神の動きが場の空気に干渉していた。
 表舞台で華々しく活躍するアスハ家が光とするならば
 このようなアンダーグラウンドな仕事を担うサハク家は影といえる。
 そして、彼女らはその境遇を決してよしとしている訳ではなかった。

 

「まあ、そういう事にしておきましょう。それでは僕はこれで・・・」

 

 最後に握手を交わすとアズラエルはアムロを伴って部屋を後にした。

 

「・・・食えない男だな、あいかわらず」

 

 二人きりになった所でギナがアズラエルをそう評した。

 

「ああ、そうだな。・・・ところでお前は気付いたか?後ろにいた男の事を」
「後ろにいた男・・・赤毛のSPか?いや、特に気にはしなかったが・・・」
「あれは、おそらく連合の『白き流星』だ」
「連合のトップエースか・・・何故ここに?」

 

 ギナは当然の疑問を彼の半身に対して返す。

 

「さあな、だがアズラエルの側近という話もある。んっ、そうだな、少し調べてみよう」

 

 アムロが聞けば間違いなく眉をしかめることを口にしつつもミナはアムロに若干の興味を示した。

 
 

「アムロ君、彼らをどう思いました?」

 

 その日の深夜、デトロイトのオフィスで再びアムロはアズラエルと顔を合わせた。
 ロンド姉弟との会談の後にもアズラエルには別件があり、アムロは先にデトロイトに戻っていた。
 忙しい身の上なのだろう、アズラエルの顔には疲労の色が見受けられた。

 

「・・・危険な感じがしたな、具体的にどうとはいえないが」

 

 それが、アムロがロンド姉弟に感じた率直な感想だった。
 ウズミの名が出た時に生じた感情によからぬ邪気が結びついているイメージが飛び込んできたのだ。

 

「危険な感じですか・・・なるほど」
「俺に彼らを見せる為についてこさせたのか?言っておくが・・・」
「"ニュータイプは超能力者じゃない"でしょう?」
「ああ、あくまで勘の範疇だと思ってくれ」
「だが、他ならぬ君の勘が危険を告げているんだ。考慮にいれる価値があると僕は考えます」

 

 アズラエルはアムロの勘が、特に敵意や悪意などに対し鋭く反応するものだと見越していた。
 これは、戦場において特に重要となる要因のはずだからだ。
 実際にアズラエルはエイプリルフール・クライシスの折、その片鱗を目の当たりにしている。

 

 ―――戦士としての才能の表現・・・彼自身は快く思ってはいないのでしょうが。

 

 それは、アムロが言ったニュータイプとして失敗しているという自身の評価の根源というべきものだった。
 人は解り合えるということを知っていながら最後は拒絶し合うことしかできず
 殺し合うのがニュータイプではないと言うララァの言葉を信じているのにも関わらず
 自身の才能をこのようにしか表現できないのだから。
 アズラエルが決めかねていたのは、所有する技術をモルゲンレーテに提供するかというものだった。
 アムロが危険を感じているのならば、きっとそうなのだろう。
 これでは、νガンダムの解析を経て得た技術など到底『ヘリオポリス』では使えるものではない。
 アズラエルはアムロの協力を基にモビルスーツを開発するのには、やはり別の拠点が必要だという結論に達した。

 

「それじゃあ、ちょっと値は張りますがこちらのプランで行くことにします」

 

 そう言って、アズラエルは2枚あったディスクの片方をアムロ手渡す。
 それには、連合のモビルスーツ開発の三つのルートが示されていた。
 まず、地球上のパナマ基地を中心とした量産型の開発計画。
 もう一つは、オーブのコロニー『ヘリオポリス』での連合の技術を全て注ぎ込んだスペシャル機の開発。
 これは、ハルバートンに一任するつもりだった。
 データだけ定期的に送ってもらえれば特に干渉をする必要もないだろうと考えたからだ。
 最後にザフトが放棄したローレンツ・クレーター基地を再建した上でのモビルスーツ開発計画だ。
 むろん、再建を一手に引き受けようと考えると莫大な費用が発生するが
 アズラエルが好きに使える拠点が宇宙に必要なのも事実だった。
 そして、そこで得たデータもヘリオポリスの方と合わせ
 逐一パナマの量産計画にフィードバックするというのがアズラエルの考えだ。

 

「良いのか?費用も馬鹿にならないぞ」
「投資と考えればそう悪い話じゃありません、宇宙での拠点も欲しかったところですから」
「それじゃあ、俺はここで?」
「はい、君の意見と我が社の技術を合わせたカスタム機の開発計画に参加してもらいます」
「νのコクピット、サイコフレームも使うのか?」
「いえ、そちらは今回は無しです。貴重な資料を早急に投入するのは愚というものです」
「もう少しデータが揃ったところで使うという事か」

 

 アムロの言葉をアズラエルは肯定した。
 そのまま、今後の対応について話していたのだが、しばらくすると急にアズラエルの口が重くなった。

 

「・・・・・・・・・」 

 

 アムロはアズラエルが何か言いよどんでいるのを察していた。
 何か、口に出すのを迷っている様だった。

 

 しばらくして、アズラエルは一度だけ頭を掻くと、

 

「この計画では君の他に・・・"ソキウス"を投入しようと考えています」

 

 アズラエルは普段の彼からは想像も出来ないような顔つきでソキウスについての説明を始めた。
 それは、賭けに出た者にしか出せない表情だった。

 

 戦闘用コーディネイター"ソキウス"
 遺伝子操作と、訓練と教育により戦闘に特化した能力を持たされた存在。
 その行動原理を服従遺伝子による刷り込み効果によって支配されたナチュラルのための兵器である。

 

「計画が始まった当初、コーディネイターとの戦争が始まることなど当時は誰も予想していなかったようです」

 

 ジョージ・グレンによってコーディネイターという存在が世に出現した時
 まず、それに注目したのは軍だった。
 戦闘用コーディネイターの研究は軍主導で長い年月をかけて続けられ徐々に成果をあげていた。
 だが、コーディネイターとの戦争が勃発してしまい計画は中止されたのだ。
 コーディネイターがナチュラル達の敵となった上に服従遺伝子よるコントロールも完全なものではなく
 少しでも裏切る可能性が残っている以上、戦闘に特化したコーディネイターを造ることなどできる話ではなかったのだ。

 

「本来なら、既に造られたソキウス達も処分される所でした。ですが、それをロゴスの一派が引き継ぎましてね」

 

 そこからの、内容はさらに酷いものへとなっていく。
 引き取られたソキウス達はロゴス内で配分され、ある者はラボに送られ実験動物として利用され
 また、ある者は薬物で精神を壊された後、パナマのモビルスーツ開発の為に使われる事になるだろうと。

 

「・・・・・・・・・」
「――話を続けます」

 

 先程からアムロは一言も口にしてはいない。
 だが、部屋中を満たしている圧迫感は彼を中心にして発せられているのは確かだった。

 

 ―――怒っているな。でも、これは今、言っておかなければいけない。

 

 アズラエルも意を決してこの話を持ち出している。
 決して、楽天的に考えているわけではない。
 下手をすればアムロの離反も招く事になりかねない事も承知の上だ。

 

 ―――今、僕はどうしようもなく馬鹿な事をしているのかもしれない。
 アズラエルは次に自分にあてがわれたソキウス達についてアムロに説明した。
 現在、彼らはアズラエルのファクトリーで様々な作業に従事している。
 その扱いは、他のソキウスに比べれば雲泥の差と言えるものだった。

 

「これは、僕自身、決して善意でやっている訳じゃありません。あくまで彼らが利用できるからです」

 

 ソキウスのコーディネイターとしての能力は充分に生かせるものでありアズラエルは彼らを優秀な人的資源と捉えていた。

 

「無駄に使い潰すなどとんでもない事ですよ、ですから――」
「精神コントロールが完全ではないといったな。その点について、あなたはどう思っているんだ?」

 

 それまで黙って話を聞いていたアムロは、ここにきて初めて疑問をアズラエルにぶつけた。

 

「そうですね・・・僕自身は、正直たいした問題では無いと考えています」

 

 完全に制御しきれる存在など在りえるものではない。
 裏切りなどナチュラルの間でも日常茶飯事だ。
 ソキウス達が裏切れば被害もそれ相応ものになるだろうがそれだけのリスクを負うだけの価値はあると考えている。
 己の根幹となっていたコーディネイターの能力への劣等感をはっきりと認識し
 それを自身でも認めたことがアズラエルの選択と視野を広げていた。
 重要なのは心中の妄執に囚われすぎない事なのだ。

 

「これが僕のやり方です。利用できるものは何でも最大限に利用する」

 

 アムロも今の話の流れを一点を除いて理解していた。
 ソキウスの事を皮切りにアズラエルは自らの遣り様を言っているのだ。

 

「これを変えるつもりはありません。
 綺麗事だけで何でも解決できると思っているほど僕は自惚れてもいないし、強くない事も自覚しています」

 

 サハクにしてもそうだが光があれば必ず影ができる。
 そうでなければ不自然であり、またそれを担う役割の人間がいない世界など歪みきった代物に過ぎない。
 少なくともアズラエルはそう思っている。

 

「そうか・・・それでは、無駄に切り捨てるという気は無いんだな?」
「ええ、少なくとも僕の手の届く範囲では・・・ね」

 

 何時の間にか圧迫感は部屋から消え去っていた。

 

「場合によっては、俺はあなたの敵になるかもしれないぞ」
「あまり想像したくはありませんが・・・そうですね、それくらいでちょうどいいと思いますよ」

 

 アズラエルの言に完全には同意出来そうになかった。
 だが、アズラエル自身もそれは承知の上のことである。
 そのリスクを飲み込む覚悟が無ければこんな話などしない。

 

「何故、俺にこの話をしたんだ。俺が言うのもなんだが幾らでも誤魔化しようはあっただろう?」

 

 これが、アズラエルがソキウスについて話し始めた時にアムロが感じた疑問だった。
 この話題を持ち出すことはリスクが高かったはずなのだ。
 アムロもブルーコスモスについて調べる事でアズラエルの反応を確かめようとはしていたが
 この展開は、正直予想外だった。

 

「そうですねぇ〜」

 

 アズラエルは表情を普段の何処か軽薄な印象を与えるものに戻すとしばらく唸り、

 

「まあ、腹を探り合いながら飲む酒は仕事だけで沢山・・・って事でどうでしょうか」
「なっ・・・」

 

 アムロはその答えに絶句し、しばらくすると苦笑いしながら頭を抱えた。
 分かってしまったのだ、その冗談めいた言葉がまったく偽りの無い物だということが。
 利に聡い男だとは思っていたが、そうでも無い一面も持っているのだとアムロは確認した。

 

「そういう事で一杯どうですか?いい酒を用意しているんです」
「ああ、いただくよ」

 

 アズラエルは部屋の奥からブランデーの入った木箱と二つのグラスを持ってくる。

 

「それじゃあ、早めにソキウス達に会えるよう手配してくれ。あと、幾つか条件もある」
「ええ、分かりました」

 

 そして、グラスを軽く当て、二人は注がれた琥珀色の液体を一気に飲み干した。

 
 
 

 コズミック・イラ70、地球、プラント間の緊張は、一気に本格的武力衝突へと発展した。
 誰もが疑わなかった数で勝る地球軍の勝利。
 が、当初の予測は大きく裏切られ、戦局は優秀な少数の兵器と大軍のぶつかり合いという歪な形のまま膠着していった。

 
 

 ―――これは、帰るべき場所を失い、新たな世界で戦乱の中を駆け抜けた一人の戦士の物語。