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Seed-Ace_579氏_第01話

Last-modified: 2013-12-25 (水) 22:07:24

俺は死んだはずだった。
あの戦いでアスランのインフィニットジャスティスの攻撃がディスティニーのコックピットへ直撃するコースを取り、それを回避することができない時と分かった時に死を悟った。
コックピットに直撃した瞬間、これでマユやステラに会えるんだなって思いながら俺の目の前は真っ白になった。

あれで死んだはずだった…
だが、気が付くとモニターには魚が映ってた。
少しの間、呆然としていたがアラーム音で我に返り、すぐさま状況を確認する。
そして、俺は自分の目を疑った。
モニターに表示されたデータはディスティニーが水中に居る事。そして、沈んでいってる事。
俺は機体を浮上させようとしたが動く気配は無い。
アスランとの戦いでダメージを負った上に見ずに浸かったせいか、どこかが逝ったらしい。
逝った箇所を確認しようとしたがモニターが死んだ。
計器類も次々と消えていく中、俺はディスティニーがもうダメだと悟った。
ハーネスを外し、ハッチの緊急開放スイッチを押してハッチを爆薬で吹き飛ばす。
水が一気に流れ込んでくるがパイロットスーツのお陰で溺れる心配は無かった。
コックピットから泳ぎ出る…どうやら、まだ浅いらしく水圧はさほど無い。
水面を目指して泳ぎながら俺は下を見た。
主を失ったディスティニーが…まるで主に助けてと言うかのように右手を上に伸ばしたまま、深い暗闇へと消えようとしていた。
その姿に俺は心の中でディスティニーに謝った。
MSに謝るなんておかしいかもしれないが…その時、目に焼きついたディスティニーの最後はMSにも心があるんじゃないかって思えたんだ。

水面に浮上すると同時にヘルメットを脱いで新鮮な空気を吸いながら周囲を見回した。
俺が居たのは海だった。宇宙に居たはずなのに…
ふと、轟音が聞こえた。
聞こえた方向を見れば遠くに島があり、そこから小型の航空機が離陸するのが見えた。
プラントかオーブか連合か民間か分からないがこのまま漂流するよりはマシだ。その島を目指して泳ぎ始めた。

 

『平和の崩壊』

 

俺は海中を海面を目指して泳いでる。
突然、誰かに脚が掴まれて引っ張られた。
何かと思って下を見れば傷を負った俺の愛機、ディスティニーが俺の脚を掴んでいた。

「置イテ行カナイデ」

ディスティニーがそう言い、俺の脚を掴んだまま暗い深海へと俺を引きずり込んでいく。
俺は戦闘の中でも感じた事の無い恐怖に悲鳴を上げた…

「おい、五月蝿いぞ!」
相部屋の同居人の男の声に俺は目を覚まして身体を起こした。
額を拭えば汗まみれでシャツもビッショリだった。
「これで何度目なんだよ。今日は起床時間ぴっ足しだからいいけど夜中に起こされるのはたまったもんじゃないんだぞ」
「すまない…」
同居人の男に謝ると寝ていた2段ベッドの上段から降りて、汗を洗い流してさっぱりしようと着替えを持ってシャワー室へと向かった。

泳いで島に着いた俺が目にしたのは軍用と思われる建物と格納庫が幾つも立ち並び、更に滑走路と離陸していく戦闘機の姿がそこにあった。
その戦闘機は見慣れたプラントのインフェトゥスや連合のスピアヘッド、スカイグラスパーとは違う、何度か記録映像で見たことのあった旧時代の戦闘機だった。
しばらく、呆然としていた俺は上空を飛び抜けていった戦闘機の轟音で我に返り、近くの草むらに隠れた。
よく見れば戦闘機の国籍マークは見たことの無い物で遠めに見える兵士や整備兵の服も俺が見た事も無いデザインだ。
ココハドコナンダ? 俺のいた世界とは何かが違うような気がして頭が混乱していた。
なんとか頭を落ち着かせ、これからどうしようか、あの基地に潜り込んでみるべきか考えてくると建物の一つからプラントでも連合でもオーブのものでもない軍服の人物が俺のいた砂浜に歩いてくるのが見えた。
見つかったのか…そう思った俺は草むらの中でその人物(近づいてきたことで男だとは分かったが顔までは分からなかった)が近くまで来たら飛び掛れるように身構えた。

「居るんだろう、ザフトか連合かオーブの?」
男のその聞き覚えのある声に俺は驚いた。
「ハイネ・・・死んだはずじゃないのか!?」
俺は草むらから出て男に姿を見せ、男の顔を見た。
建物から来た男はダーダネルス海峡で戦死したはずのハイネ・ヴェステンフルスだった。
「シン、お前も死んだのか!?」
死んだはずの男のその言葉に俺は本当にパニックになった。

それから、ハイネに草むらに連れ込まれて何とか落ち着かされた俺はハイネから何があったのか教えられた。
ダーダネルス海峡で死んだと思ったら何故か、見た事も無い山の中に居た事。
さ迷い歩いている内に同姓同名の遭難者の遺体を見つけ、身寄りも知り合いも居なかった『この世界のハイネ・ヴェステンフルス』に成り代った事。
それがこの世界で4年前の事でしばらくの間、このオーシアと言う国でストリートミュージシャンをしていたが金銭的に苦しくなり、空軍士官学校に入学した事。
この世界にはコーディネーターやナチュラルの観念は無いが何度か戦争があり、14年前には核兵器も使用した戦争があった事。
士官学校卒業後は主計科の少尉としてこの偏狭のサンド島基地に配属された事。
先ほど、何かを感じてそれが気になり、ここの砂浜に来た事。
それを聞いた俺は…ハイネの言ってる事が信じられずこれが悪い夢だと思いたかった。

現実逃避しかけた俺にハイネは自分が死んだ後、元の世界で何が起きたのか聞いてきた。
俺はハイネが死んでからの元の世界の事を話した。
ハイネのグフを撃墜したガイアのパイロット、スレラ・ルーシェとの出会いとベルリンでの悲劇…
フリーダムを一度は撃墜するもパイロットのキラ・ヤマトは生き延びてオーブでの戦いでストライクフリーダムで再び現れた事。
仲間であり、共にデュランダル議長が掲げるディスティニープランに賛同したプランレイ・ザ・バレルがクローンであった事
アスラン・ザラの裏切りとメイリン・ホークを伴っての脱走、新型機ディスティニーで二人のグフを撃墜するも二人とも生き延び、
アスランはオーブでの戦いでインフィニットジャスティスで現れ、メサイヤを巡る戦いで自分を撃墜した事。
そして、アスランに撃墜されたと思った瞬間に目の前が真っ白になり、気がつけばディスティニーで海中にいて機能停止したディスティーを捨てて一番近かったこの島に泳ぎ着いた事…
「そうか、アスランに…奴は何かに迷っていたようで何かトラブルを起こすと思っていたが…まさか、裏切るなんてな」
ハイネは腕を組んで唸りながら言った。どうやら、彼も薄々アスランに不信感を感じてたらしい。
「とりあえず、ここは基地だから出て行きたいんだけど」
「サンド島からオーシア本土まで結構距離があるからな…まず泳いでのは無理だぞ」
「じゃあ、戦闘機を奪って…」
「無理だ。幾ら、インパルスに乗っているときにコアスプレンダーを操縦していたからと言ってもこの世界の航空機をいきなり操縦するのは無理だ」
「俺にだってあの程度の戦闘機、簡単に操縦できる!」
「分かってないな。いいか、この世界は今、西暦2010年なんだ。
 お前が生まれる…いや、俺が生まれるよりも昔、年号がコズミック・イラになる前より4,50年は昔なんだ。
 そんな時代の戦闘機だ。電子化されててエンジンもジェットだがあくまでも飛ばすのは人間だ。
 コンピューターがアシストしてくれるCEの戦闘機とはワケが違うんだ。
 マシンは大量のメーターで機体のコンディションを伝えるが決してアシストしてくれるわけではない」
「……」
「そう…最近の若者が栓抜きの使い方を分からないのと同じだ。
 俺はヤキン・ドゥーエ戦役でインフェトゥスを操縦したことがある。
 それで士官学校に入学した時に最初はパイロットコースを選択したが基本をマスターするのが精一杯で途中で卒業後はこの基地の主計科に配属されたんだ。
 最近はこの基地のシミュレーターで練習しているから基地に配備されてるF−5Eの操縦ぐらいは出来る自信があるが…
 一応は副座の機体にお前を乗せて逃げ出す事もできる。だが、仮にそれをやっても行く宛もないし間違いなく追撃機が上がる。
 ここの隊長は『万年大尉』のあだ名で呼ばれているが14年前のベルカ戦争を飛んだ猛者だ。とてもじゃないが俺には振り切る自信は無い。
 それに安定した仕事を失うのは嫌だからな」
「…じゃあ、どうすればいいんだ? 遭難した漂流者でも演じるか? この服で…」
「…一つ、俺にいい考えがある」
「どんな考えだ? 俺がハイネの弟とかか?」
ハイネは「俺に任せろ」と言って計画を話し始めた。

この世界に来てサンド島に流れ着き、ハイネと再会してから数日が経った。
俺はその間、この草むらでじっとしていた。
食事は最初の二日はパイロットスーツに付属していたサバイバルキットの非常食で何とかしたがそれが無くなってからはハイネが持ってきたオーシア空軍のレーションで空腹を満たした。
正直に言うが…このレーションは不味い。犬も食べないぐらいにだ。ここにはハイネ以外にパイロットの一人が飼っている犬が来る。
不味いあまりに食べ残しをその犬に与えようとしたのだが、少し食っただけで逃げていきやがった。
そんな食っちゃ寝の生活を一週間ほど続けていたある日、ハイネに連れられて見つからないように兵舎の一つへ向かった。
ハイネに見張りをしてもらいながらシャワーを浴び、一週間分の垢を落としてハイネが用意したTシャツとジーンズに着替える。
そして、入念に打ち合わせを行った後、バッグを一つ持たされてハイネと別れると格納庫のそばの物陰に隠れた。
太陽が照りつける中、滑走路にプロペラ推進の双発の輸送機が着陸する。
着陸した輸送機は滑走路を出て格納庫の直ぐ側に来ると停止した。
輸送機のプロペラが完全に停止すると後部のカーゴベイが開き、乗員が降りてくる。
降りてきたのは民間人にしか見えないのが4人…連中にクリップボードを持ったハイネが近づき、ある建物の一つにいくように指示を出す。
どうやら、輸送機は途中で相当揺れたらしく、荷物を持った連中はふらふらとしながら歩いていく。
一方で輸送機では荷物を降ろす降ろ作業が始まった。だが、直ぐに降ろしたばかりの荷物が崩れて騒ぎになる。
作業をしていた兵士や飛行後のチェックをしていた中年のパイロットの注意がそれに向けられた隙に俺は物陰から飛び出し、民間人たちの最後尾に並んだ。
ハイネの計画は食堂のアルバイトの補充を利用して俺を採用しようと言う計画だった。
幸運にもハイネは主計科で食堂と売店関係を任せられており、今回のバイトの募集の一切を取り仕切っていた。
そこで本土から来たバイト達に俺を紛れ込ませることにしたのだ。
書類関係はハイネが用意した。本来なら身分証明書も必要だが採用はハイネに一任されているので今回は何とかなった。
無論、今後の事を考えるなら必要なのでハイネが休暇を取って本土に戻る際に詐称や捏造などして何とか俺の戸籍を手に入れてもらうつもりだ。
こうして、ハイネのお陰でとりあえずは俺は職と住む場所を手に入れた。

シャワーを浴び終えた俺は一旦部屋に戻り、身支度を整えると小型の冷蔵庫から用意していたサンドイッチで簡単な朝食を取り、職場である食堂の厨房へと向かった。
厨房でエプロンを着て、他のバイトや兵士と共に兵士たちの朝食を調理する。この世界に着てから一年近く続けてるのでもう、慣れたものだ。
今日の朝食のベーコンとスクランブルエッグ、パンなどが用意できるとそれを兵士たちの前に並べる。
既に並んでいた兵士たちは皿を手にして自分が食べる分を取っていく。
俺の作ったスクランブルエッグは人気がある。最初に無くなるほどだ。
今日も何時ものように、スクランブルエッグが先に無くなり、訓練生の一等空士は今日も食べ損ねたようだ。
後は兵士たちが食べ終わった食器の後片付けという仕事があるのだが、その前に二つ、俺にはやる事があった。
ミルクのパックを手にして厨房の通用口から外に出るとそこには専用の皿を前に黒毛のラブラドール・レトリーバーが待っていた。
「待たせたな、カーク」
この基地の飛行隊のロック好きのパイロットのペットであり、皆に可愛がられているこのカークに朝のミルクを与えるのが俺の日課だ。
もう一つはトレイに用意してあった朝食を基地司令の元に持って行く事だ。
このサンド島基地の司令官、オーソン・ペロー大佐も俺のスクランブルエッグのファンなのだ。
見栄っ張りで戦闘機のコックピットに入ることは無理に思える肥満体だが朝食のスクランブルエッグのお陰で空いてる時なら時ならパイロット以外でもシミュレーターを使用してもよいと言う許可を出してくれた気の良い所もある男だ。
司令官室の前で司令の従卒にトレイを渡すと俺は厨房に戻る。これから食器の後片付けだ。

食器の後片付けが終わった俺は他のバイトと共に休憩に入る。
俺は昼飯を作るまでの時間に昼寝をするバイト達から離れて散歩をする事にした。
ぶらぶらと格納庫の側まで来れば格納庫では丁度、副座のF−4Gが牽引車で駐機場へと引き出されていた。
他にも単座のF−5Eが点検中で何機かは既に駐機場で待機している。
今日は演習の予定で万年大尉の隊長が取材に来ているカメラマンを乗せて訓練生と共に飛ぶそうだ。
その準備を眺めながらこの基地の飛行隊の隊長の事を思い出す。
『ハートブイレクワン』のTACネームを持つ風変わりな男だ。
この隊長の元に居ればどんなひよっ子も一人前のパイロットになる…誰かがそう言っていた。
元の世界でこんな男は見た事が無い。いや、居ないだろう。
整備隊の輸送機のパイロットで皆が『おやじさん』と呼ぶベテランのパイロットも元の世界には居ないだろう。
ミネルバにおやじさんや隊長のような『大人』が居ればどうなってただろうか…
そんな事を考えながら準備が行われてるのとは別の格納庫に入る。
ここは辺境の基地だが演習で使用するアグレッサー機が2機、F−1とMiG−21−93が配備されている。
今日の演習では使用しないので2機ともその格納庫に格納されていた。
俺はF−1の胴体にそっと触れた。ジェラルミン合金の機体はひんやりとしていた。
「相当それが気に入っているようだね?」
後から声がかけられ、振り返った。声の主はおやじさん…ピーター・N・ビーグル特務少尉だった。
「昔、これに似たカラーリングの機体を見た事があって…それにスマートな機体で好きなんですよ」
アグレッサーは通常よりも派手なカラーリングされる。このF−1は赤と青と白で所々に黄色いラインというカラーリングだ。
そのカラーリングがディスティニーに乗る前の愛機、インパルスを思い出させるので俺はこのF−1に愛着を持っていた。
因みにこのカラーリングはハイネが考え付いた物をサンド島分遣隊隊長のジャック・バートレット『万年大尉』殿が気に入り、このカラーリングにしたのだ。尚、MiG−21はオレンジ一色に塗装されている。
「私が実際に乗ったことは無いがいい機体だよ、F−1は。
 対艦攻撃や対地攻撃を行う攻撃機的な性格が強いがベルカ戦争の時はF−1で対地対艦、果ては対空戦闘もこなす猛者が居たほどさ」
おやじさんは懐かしむように言う。パイロットたちから聞いたのだが50台半ばのこの人は今でこそ輸送機のパイロットをしているが15年前のベルカ戦争では現役のファイターパイロットだったそうなのだ。
「確か、おやじさんは15年前の戦争に参加して…」
「…ああ、撃墜されたよ」
目を閉じ、少し間をおいてからおやじさんは答えた。
「ベルカ戦争の終盤の事だ。核が落とされる前にB7R…通称『円卓』と呼ばれるエリアで大規模な空戦があってね、そこで撃墜されたのさ。バートレット隊長も一緒にね」
「じゃあ、『円卓の鬼神』を見たことがあるんですか?」
この偏狭の基地にも図書室はあり、そこの書籍で俺はこの世界の事をある程度勉強した。
この世界では過去にベルカ戦争を始め、幾つか大きな戦争があり、それらのほとんどに『英雄』と呼ばれる存在があった。
スカーフェイス1、メビウス1、ガルム1…たった一機で戦局を変えたと言われる連中だ。
何故か、俺は見た事も会った事もないその英雄の事が気になっていた。
「ウスティオ空軍のエースだね、見たとも。15年前の事だが今でも覚えている。
 その空戦ではじめて見たが…そう、空を知り尽くしている。そういう飛び方をしていたね…興味があるのかね?」
「え…ええ、本で知って気になったんで…」
「彼は…かつての総合軍のスカーフェイスやISAFのメビウスと同じ分類の人間だと私は思うね。そうだ、今日もシミュレーターで飛んでみるかね?」
「この時間は何時もは訓練生が使う予定が…」
「今日はカメラマンを乗せて演習をするから演習に参加する物以外は非番かスクランブル待機でシミュレーターは空いているんだよ」
「じゃあ、今日もよろしくお願いします」
俺が始めてシミュレーターを使った時、散々な結果を出してそれを見たおやじさんは俺にアドバイスをしてくれた。
それ以来、時間がある時に監督してもらっている。

「よろしい、付いてきたまえ」
俺はおやじさんに連れられてシミュレーションルームに向かう。こんな偏狭の基地だがシミュレーターは本格的な物が4台も設置されている。
俺達がシミュレーションルームに入ったとき、訓練生が一人で自習していた。
おやじさんがモニター席でシミュレーターのシステムを設定する間、俺は開いているシミュレーターの座席に座、ヘッドセットを装着する。
インパルス…コアスプレンターのコックピットよりも古めかしい設計のコックピットの操縦桿とスロットを握り締め、シミュレーターが起動するのを待つ。
「では、始めるよ」
シミュレーターが起動し、俺の操縦するF−5E タイガー兇仮想空間に現れた。

おやじさんの監督の下、シミュレーターで俺はまずはウォーミングアップに離発着から簡単な対地対空戦闘まで次々にこなしていく。
コーディネーターであり、MSパイロットであった俺だが、簡単な対地対空戦闘をウォーミングアップでできるようになるまで相当苦労した。
最初の頃など、本当に真っ直ぐ飛ばすのはおろか、離陸することすら出来なかったほどだ。
ここまで上達したのはおやじさんがアドバイスをくれたお陰だ。
ウォーミングアップを終えると画面が切り替わり、俺の機体はF/A−18C ホーネットに変わって空母のカタパルトに接続されていた。
今日はこの前失敗した空母での発艦と戦闘、着艦に再挑戦する。
前回は戦闘までは何とかできたが着艦でミスをし、空母の艦尾に激突した。
だから、今度こそは着艦を成功させるつもりだ。
発艦OKの表示が出て、スロットルを全開にする。するとスチームカタパルトが機体を急激に加速させて強制的に離陸速度へ持って行く。
もし、現実なら俺の身体には強いGがかかるがシミュレーターなので感じることは無い。
発艦するとランディングギアを格納してフルスロットルのまま指定された高度まで上昇する。
指定の高度でスロットルを戻しながら水平飛行に移るとレーダーに機影が移る。数は2。
前回と同じく、爆装したA−6E イントルーダーと対艦ミサイルを搭載したF/A−18Cだ。
そのまま、正面から来るF/A−18Cにヘッドオンで機銃弾を浴びせる。
すれ違って爆発するF/A−18Cに構わずにそのままハーフループ…インメルマンターンと言われる動きでA−6Eの後ろに付き、回避しようとするターゲットに後から銃撃して撃墜する。
この前はこの後、F−4E ファントム兇真正面に現れたのでそれに備える。
だが、俺の予想に反してロックオン警報がなり、反射的に操縦桿を倒して機体を急旋回させる。
後方から発射されたミサイルを回避した俺はそのまま旋回して敵機を探す。
居た。F/A−18E スーパーホーネットだ。F/A−18Eの後方に回り込んだ俺は回避行動を取る奴の尻に喰らい付いていく。
ミサイルのシーカーのトーン音が途切れなくなる。ロックオン。
すかさず、操縦桿の発射ボタンを押して翼端のミサイルを発射。
白い煙の尾を引きながらミサイルは飛び、F/A−18Eのエンジンノズルに突き刺さるとそれを火の玉へと変えた。
これで敵機は全滅した。後は着艦だけで空母への帰還コースを取る。
空母に近づくとギアダウン、着艦フックも降ろして着艦コースに機体を乗せる。
前回は空母の手前で減速しすぎて失速、艦尾に激突したので慎重に減速して行く。
そのまま、適正コースで進入してタッチダウン。フックがケーブルを引っ掛けて機体が停止する。
「シン、なかなかの上達振りだね。このまま、空軍学校に入学してはどうかね?
 君ならいいパイロットになれるだろう」
おやじさんがモニター席から声をかけてくる。
「入るつもりは無いですけど…まあ、考えておきます」
「そうか…ん? 先に来ていた訓練生が君と対戦したいそうだ。どうだね、やってみるかね?」
「対戦ですか? やります」
「分かった。では彼のシステムとリンクさせよう」
このシミュレーターには対戦機能があり、シミュレーター同士をリンクすることで最大で4名まで対戦することが出来るのだ。
システムがリンクしたのだろう。ヘッドセットから対戦相手の声が聞こえる。
「スクランブルエッグの上手い食堂のバイトだな? 結構、やるそうじゃないか」
「本職さんには負けますよ。俺、実機は操縦したこと無いんでただ、シミュレーターが上手いだけですから」
「そうかい? それでも訓練生並の腕前だよ」
「二人とも準備はいいかね? それでは始めるよ」

訓練生との対戦は今までシミュレーターで経験した戦闘とは全く違った。
二人とも使用機は同じF−5Eで勝敗は腕で決まる。
お互い、相手の後を取れずに取れたとしても取られた側が直ぐに引き離す…ほぼ、同じ技量だ。
長期戦になると思った…でも、俺が同じ機動を二度取ると言うミスを奴は見逃さなかった。
小さなミスで生まれた僅かな隙…それを狙われ、俺のF−5Eは機銃弾で穴だらけになって爆発、仮想空間の空に四散した。
人を相手にして始めて負けた俺は呆然としていたがミスさえなければ俺は負けなかったはずと考え、相手にもう一勝負してもらおうとした。
「彼なら用事があるとそうで出て行ったよ」
対戦相手にもう一度だと言おうとした俺におやじさんが言う。
おやじさんの言うとおり、相手との接続は切れていた。
「おやじさん。俺、もうちょっとであいつに勝てるはずだったんだ」
「分かっているよ。だが、君は同じ機動を繰り返すと言うミスをしてしまったんだ。
 彼は隊長の秘蔵っ子だからね、それを見逃さなかったんだよ」
「同じ機動…」
「空戦では相手に見せてはいけないことだ。
 もし、実際に戦闘機に乗る時になったら絶対に忘れないようにするんだよ」
おやじさんの言葉を心に刻みながらふと、時計を見た。時刻は11時9分…昼飯を作り始めるのは11時からだ。
「やべぇ…おやじさん、後お願いします!」
俺はそう言うと、シミュレーションルームを飛び出して、食堂へと突っ走る。
食堂に走りながら俺は先ほど勝負したブレイズ…TACネームしか知らない相手とまた勝負するか一緒に飛んでみたい事とタムラ料理長にどうやって遅刻の言い訳するかを考えた。

2010年9月23日、11時9分。
演習中のサンド島基地所属機が不明機と遭遇、交戦。
教官機、訓練生機を合わせて7機が撃墜されて7名の命が空に散った。
こっぴどく料理長に怒られた俺がそれを知るのは生き残っていた教官機が着陸時に力尽き、墜落した騒ぎで厨房から飛び出した後だった。

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