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Sin-Jule-IF_101氏_第07話

Last-modified: 2007-12-28 (金) 03:49:20

 DSSDの地球のステーションを経ち、幾日かが過ぎ去っていた。局地的な戦闘の多
いMSパイロットの仕事は忙しさの緩急が激しい。特務を背負っているジュール隊も、
それは例外ではなかった。敵の動きに対して迅速に反応すべく構えてはいるが、常に張
り詰めていては疲れてしまうのもまた事実である。
 食堂のお世辞にも美味いとは言えないコーヒーを前に、シンは一人動きを停滞させて
いた。どこぞの名将が少ない予算から味の精度やらコストパフォーマンスやらの問題を
抱えながらも考えに考えた代物であるという触れ込みの一品だが、どういう訳か兵士の
中での人気は低い。
 進んでいないのは舌に合わなかったからではなかった。DSSDの一件以来、どうに
も気分がすっきりしない。

 

「ここ、いいかしら?」
「あ、シホさん」

 

 グラスを一つ乗せたトレイを手に、シホはシンに話しかける。シンが頷くと、シホは
テーブルにトレイを置き、向かいの席につく。
 簡単に頷いたものの、シンは表情に出さずに心をあたふたさせる。シホと二人という
のはかなり珍しい状態だ。連戦によって培われた戦闘の勘も、こういったことには働い
てくれそうになかった。何か気の効いた話題でもないものかと思考を逡巡させ、自分の
記憶の中の師匠に教えを請う。心の師は「なんでもいいから相手に話しかけるのよっ!」
と赤いアホ毛を直立させつつあまり役に立たない指令を下した。

 

「あ、アイスティーですか?」
「ええ。さっきまでMSの調整に立ち会ってたから」

 

 ああ、とシンは頷く。巨大な機械の塊であるMSは起動させるだけでも多量の熱を排
出する。冷たい飲み物が欲しくなる気持ちは十分シンにも理解できた。
 シホはザフトレッドを纏う一方で、技術仕官の心得を持っている。手に入れたばかり
のデュエルやバスターの改良機は、彼女の知的好奇心を十分にくすぐる代物だったのだ
ろう。自分でもとっつける話題を見つけ、シンは一つ安堵の嘆息をした。

 

「あれ、やっぱりいい機体なんですか?」
「正直に言えば、性能は悪くないといった程度ね」

 

 パーツや武装を補強してはいるが、デュエルとバスターを素体としている点には代わ
りない。火力や機動力こそ伸びているものの、既に旧型と読んで差し支えのないMSな
だけに、ポテンシャルは高くはない。新型の製造ではなく旧型の強化という手に走った
のは、ひとえにパイロットのモチベーションに依存してのことだろう。

 

「なぜあんな機体を使う気になるのかって思いたいところだけど」
「隊長たち、あの方が調子出るらしいですからね」

 

 苦笑しながらシンは言う。シミュレーションの結果、二人の操るブルデュエルとヴェ
ルデバスターは元々乗っていたグフとザクを雑魚でも相手にするように瞬殺した。見学
していたシンたちは揃って呆然とした。乗り手のモチベーションの及ぼす効果は絶大だ
と証明した瞬間でもある。

 

 

「飲まないの?」
「え? あっ」

 

 話が一段楽したところで指摘され、すっかり頭から抜け落ちていた不味いコーヒーの
存在を思い出す。カップの底の全く見えない漆黒の様子は、またもや陰鬱な気分をシン
にもたらした。
 コーヒーに手が伸びない理由は、ひとえにそれだった。

 

「あのあと、連合の兵士と、話をしたんです」

 

 シンはぽつりと口にした。
 スウェン・カル・バヤンとの戦闘を思い起こす。ヴォワチュール・リュミエールの奔
流に飲み込まれながらも、ストライクノワールは攻撃の手を緩めなかった。フラガラッ
ハが折られればビームライフルショーティーを、ビームライフルショーティーが壊され
れば羽根に仕込んだレールガンをスターゲイザーに向けてきた。光の輪はそれら全てを
払い落とし、文字通り跡形も残さないほどにズタズタに破壊する。
 スウェンと実際に会うまでは、凄まじい執念だとシンは感じていた。何があろうと任
務を全うしようとする行動は、シンにも解る部分がある。
 現実はシンの想像とはかけ離れたところにあった。彼らは勝つために全てをかなぐり
捨てるような戦い方をしたのではなかった。彼らは最初からそうあるべくして“造り上
げられた”存在なのだ。

 

「連合には、戦いたくもないのに戦わされてる人がいる」

 

 かつてオーブを襲い家族を奪った連中の中にも、そういった人間がいたのかもしれな
い。知らず知らず、シンは拳を固める。

 

「もしかしたら、俺もああなっていたのかもしれない」

 

 全てを奪われて自暴自棄になっていたとき、連合に引き渡されていたら果たして拒否
できただろうか。地球にもコーディネーターはいる。膨大な数に上る連合兵すべてがナ
チュラルという訳でもないだろう。同じ運命を辿っていても、決して不思議ではないは
ずだ。
 そこまでコーディネーターを憎ませているものが何なのか、シンには解らない。それ
がシンを余計に苛立たせていた。

 

「そう思うと、これ以上あんな人たちを増やしちゃいけないって考えが止まらなくて」

 

 やや寝不足の眼をすっきりさせるべく頼んだコーヒーだが、その独特さがさらにシン
の思考を加速させていた。ごちゃ混ぜのコーヒーは味も色もひどく不透明で、口に含め
ばえらく苦い。

 

「――なら、部屋に戻りなさい。休むのも仕事のうちよ」

 

 

 旗艦ミネルバに言い渡された任務は、連合が各地に建造したであろう研究機関の実態
を暴くことだった。
 DSSDでジュール隊が掴んだ情報は、連合の闇の部分に触れるものだ。洗脳や戦闘
行為の強制、人体への悪影響を及ぼす物質の投薬など非人道的な行為が行われている恐
れがある。もしも事実ならば、それらの行為をなんとしてでも中断させねばならない。

 

「では、我々はロドニアに向かうのですね」

 

 レイの表情は固いままだ。どんな任務であっても、彼は眉一つ動かさない。

 

「ああ。どうもそこは臭いらしい」
「でもパッとしない研究所なんでしょ? それなのに」
「だからこそ、さ。火のないところに煙は立たないって言うしな」

 

 ルナマリアの疑問に、ハイネは唇の端を吊り上げて答える。ロドニアの郊外に位置す
る今回の目標には、彼女の言う通りめぼしい実績はない。
 投資されている莫大な予算をもとに環境保全を謳った研究を行っているらしいが、詳
しい研究結果は明かされておらず、その一方でよほど大事なものでも眠っているのかの
ごとく強固なセキュリティが敷かれている。
 地には多脚MAのゲルズゲー、空にはジェットストライカーを装備したダガーLら数
機が常に姿を見せていた。国際組織の所有する研究所としては防備を固めるのは当然だ
が、膨大すぎる戦力だ。怪しまれることを犠牲にしてでも守秘するものがあると考えざ
るを得ない。

 

「もし不安ならジュール隊に増援を頼んでもいいそうだぜ」
「えっ、じゃあ」
「必要ありません」

 

 瞳を輝かせたルナマリアを制するようにレイがばっさりと言い切る。
 DSSDでの戦闘記録の一切は既にミネルバにも渡っている。スターゲイザーの戦い
ぶりは、レイの対抗心に久々に火をつける結果になった。セカンドステージの最新機体
セイバーで負けを喫した自分に対し、シンは守るべき非戦闘機で戦い抜いた。そんな差
があるようでは、肩を並べて戦うことすらおこがましい。その思いは、レイに意固地に
近い感情を与えていた。

 

「ジュール隊はアスラン・ザラの追討任務の途中のはずです。任務の邪魔は、好ましく
ありません」

 

 目を丸くした二人に向け、レイは言葉を付け加えた。

 

 

「ちょっと、情報よりだいぶ多くない?」
「文句ならシンに言うんだな」

 

 ルナマリアはレーダーに映る反応の多さに辟易する。レイはそんな彼女に対し短く言
い放った。連合に危機意識を抱かせたのは、間違いなくジュール隊の功績だ。連合が施
設の防御を固めたのも、これ以上の情報の流出を防ぐために他ならない。
 ミネルバの勧告に対し、ロドニアのラボからの返事はMSの出撃だった。十機にも満
たなかった機影が見る見る増え、重要と思しき施設を護るような布陣を敷く。
 銃口を向けられたミネルバがすべきことは、一つしかなかった。

 

「ガルナハンの時のような物騒な代物は無いが油断するな!」

 

 ハイネは号を飛ばし、グフイグナイテッドで先陣を切る。ダガーLの編隊が迎撃せん
とビームを放つが、グフの機動力はダガーLを凌ぐ。敵のライフルが補足する速度より
スレイヤーウィップで薙ぎ払う方が遥かに速い。
 近接先頭に特化しているグフイグナイテッドだが、その特殊な兵装は多対一の場面に
おいて意外にも効果的な代物だった。曲線的な軌道を描くスレイヤーウィップは、射撃
や斬撃に慣れたパイロットの判断を鈍らせる。縦横無尽に奔る鞭は単純に振り回すだけ
でも敵を怯ませた。
 踏み込みに躊躇し、囲みにかかろうとするMSが赤い砲火が貫く。動きを止めた先か
らオルトロスは次々に獲物を撃ち抜いていた。
 ルナマリアはもともと射撃が不得手な部類に入るが、動かない的ならば話は別だ。射
撃に特化したOSのサポートが粗い狙いを補正し、正確無比な死神の一撃へと変貌させ
る。
 勇敢に挑むものは斬り捨てられ、敵に恐れを抱けば撃ち抜かれる。グフとザクの連携
が敵部隊の戦力と戦意を同時に削ぎ取り、同時に敵の意識を釘付けにする。敵からの攻
撃は特に距離の近いグフに集中するが、ハイネは決定打をことごとく避けていた。包囲
されないように動いてさえいれば、回避に反撃を織り交ぜることさえ不可能ではない。

 

 そんな中、セイバーは低空で飛び敵の本陣へと切り込んでいた。防備の部隊の大半は
ハイネとルナマリアに集中していた。その間に現存するザフトMSの中で最高速度を誇
るセイバーで敵陣を切り崩すのがレイの仕事だ。
 物量で劣るミネルバにとって、正面からの正攻法の攻略は自殺行為に等しい。どちら
かが囮となり、もう片方が隙を突く。

 

「セイバー、敵MAを撃墜しました!」
「そう、タンホイザーの準備を。砲門を開くだけでいいわ」

 

 ゲルズゲーとて、本来は簡単に撃ち落せる代物ではない。
 多脚による機体の安定性と運動性、陽電子リフレクターを備える防御力にダガー系列
の操縦システムの汎用性まで備えた機体である。ラボ最大の防御壁でもあるゲルズゲー
だが、速度と小回りという面だけを武器に飛び回るセイバーには分が悪かった。
 報せと供に、ミネルバのもつ最大の武器がラボに向けられる。指令の内容上、標的を
撃つなどあろうはずもないが、敵がそれを知る由もない。

 

 

 陽電子砲の脅威は“それを持っている”という点だけでも発揮される。防御の手段を
失ったラボ側の降伏は速やかなものだった。残っていたMSは次々に武装を解除し、大
地に降りていく。

 

「もうちょっとゆっくりでも良かったんだぜ?」
『履行は素早いに越したことはありません』

 

 相変わらずの無愛想な応対にやれやれと溜息をつきながらハイネもまた武装を解く。
ほとんど防戦に徹していたためか、ハイネの方は若干ながら不完全燃焼だ。多対一の状
況で勝ち残れたかといえば疑問も残るが、その不利な状況で腕を試してみたかったとい
うのも正直なところである。
 テンペストを盾に収め、スレイヤーウィップを腕に収納する。スラスターの火を徐々
に弱めていき、グフは地上に向けてゆっくりと降下していった。

 

『MS反応! ハイネさん!』
「何ッ!?」

 

 グフに向けて幾重もの光線が照射される。反射的に身を捩じらせコクピットへの直撃
を避けたが、フライトユニットの翼は根こそぎ奪われた。右の半身にダメージを受け、
停滞した機体ごとハイネは地面に叩きつけられる。

 

「ハイネッ!」

 

 ルナマリアのザクが落下したグフに駆け寄る。レイはセイバーを立たせ、光を放った
敵へと向き直った。放たれた連装ビームは何度も戦場で見たものと同じだった。瞬時に
脳裏に浮かんでいたヴィジョンと、そこに立っていた敵の姿が一致する。
 ZGMF−X31S アビス。両肩に膝まで届くような巨大なバインダーを装着した
そのMSは、ビームランスを手にたった一人で立ち向かおうとしていた。

 

「母さんが……母さんがぁッ!!」

 

 敵に届くはずのない叫びを上げ、アビスは無茶苦茶に槍を振り回す。その標的はもっ
とも近くに待機していたセイバーだった。
 こいつは本当にあの強奪犯と同一人物なのだろうか。相手をしながらレイの脳裏には
疑問符が浮いていた。射撃の精度も滅茶苦茶な上に近接距離での格闘もいたって乱雑、
言ってしまえば下手糞この上ない。
 この場での破壊は容易い。レイはそう判断する。それどころか、今の自分ならば無力
化し機体を奪い返すことさえも可能だろう。アビスとセイバーの陸上の適性、機体を操
るパイロットの差、あらゆる要素が有利に傾いている。驕りを含まない算段の末、レイ
はそう結論を下した。
 ビームサーベルが煌き、ビームランスを叩き斬る。アビスも反抗するが、疎かな照準
のバラエーナが最高速のセイバーを捉えることはなかった。

 

「その機体、返してもらうぞ!」

 

 身を護る盾でもあるバインダーを刃が分割し、返す刀で片足を切り裂く。もともと安
定を失っていたアビスは抵抗もなく転倒し、装甲の色を灰に染めた。
 


 

「普段は平然と殺し合いまでしてる連中だってのに、困ったもんです」
「そういうあなたは、ずいぶんと平気そうなのね」

 

 ラボ内の捜索を一通り終え、報告書を纏めたディスクを提出しながらハイネはぼやく。
 受け取ったタリア艦長の言葉には、若干皮肉のような意味の混じっていた。言われた
ハイネの方は、しかめた表情を崩しジェスチャーをしつつ応える。

 

「それはそれ、これはこれってことですよ。FAITHの処世術ってヤツです」

 

 アビスのコクピットから錯乱するアウル・ニーダが引っ張り出されたのを見、ルナマ
リアとメイリンの二人は激しく動揺していた。平静を装っていたかに見えていたレイも、
人体実験のログを目にし著しく精神を揺さぶられた。気持ちは分からなくもないので不
満を口にすることはしなかったが、逃げ腰のアーサー副長と急増のコンビを組むことに
なり、ハイネは深い溜息をついたものである。
 もっとも、アーサーとのコンビも決して悪いものではなかった。施設内で保存されて
いた、かつては人間だった肉の塊らを見るたびアーサーは奇声を上げて驚いていた。芸
人さながらのリアクションが無ければ、ハイネも最後まで見通せたかは分からない。そ
れだけ、ラボの実態は酷いものだった。
 結果の面で見るならば収穫は大きい。そのうちの一つは、連合の裏の実態を掴めたこ
とだ。この事実は連合を切り崩すにおいて大きな意味を持つ。
 もしかしたら、と思われていた他の二人と二機の姿は無かった。捜索に乗り出すより
も先に運び出されたのだろう。他にも逃したものがあるかもしれないと思うと口惜しい
が、思ったところで結果が変わるわけでもない。

 

「アビスについては?」
「修復できるなら、こちらで使ってくれても構わないそうよ」

 

 ハイネは頷いた。これまで凶悪な相手だっただけに、これからは戦力として頼りにな
ることだろう。もっとも、自分はグフイグナイテッドを降りるつもりは無いが。

 

「それじゃ、報告はこれで」
「待って。あの子たちの様子を見てきてもらえる?」
「必要ないんじゃないでしょうかね」

 

 薄く笑みを浮かべ、ハイネは踵を返した。子ども扱いされてはいても、彼らも前線に
身を置いて短いわけではない。
 ハイネの予測は正しかった。医務室の近くを通りかかった時にルナマリアとレイの姿
を彼は見かけた。声をかけても二人の様子に陰りは無い。ルナマリアの方に至ってはむ
しろ戦意を高揚させていた。“友達”は人道を外れたものの犠牲者になっている可能性
が高い。そのことを思えば当然のことだろう。

 

「ま、肩肘張りすぎるなよ」

 

 ぽんと肩に手を置き、ハイネは嗜めるように言った。

 

 

 幾日か経った後、ジュール隊に新たな指令が通達された。内容は以下のとおりになる。
 旗艦ミネルバに合流し、合同に作戦を遂行すること。尚、アスラン・ザラ追討の任務
については最優先事項とし、現れた場合にはいかなる状況においてでもこれを行うこと。

 

「複雑そうな顔だな」

 

 ブリーフィングの後でディアッカはシンに声をかけた。無理も無いか、と返事を聞く
よりも先にディアッカはうそぶく。ジュール隊をミネルバの救援に回すということは、
ザラの一派を追うに当たっての効力を発揮していないと見なされたからだ。地球で幾度
かジャスティスの姿は目撃されたが、ジンを引き連れたジャスティスはいくらか戦闘に
参加してはすぐに消えていく。地球でのザフトの力を借り捜索したが、それ以上の詳細
は未だ掴めずにいた。
 シンが不満に思うのも無理からぬことだった。広い地球のどこに潜んでいるのかも分
からない相手に対し、こちらの捜索能力は限られている。さらには連合という操作の妨
害までいる始末だ。条件は最初から不利なのだ。理不尽極まりない。
 一方で、今のシンは理不尽な指令の理由をある程度は納得できてしまう。戦場は常に
変化し続けるものだ。こうしている間にも、どこかでは新しい武器が生まれ、別の場所
ではそれを扱う人間が消えていく。プラントのもつ戦力を自由に投下できるわけではな
い以上、使える力を遊ばせるのがいかに非効率かは考えるまでもない。

 

「俺たちがミネルバに協力すれば、戦いは少しでも早く終わるんですよね」
「ま、ここでブラついてるよりはマシだろうな」
「だったら……」

 

 行くしかない。拳を固め、シンは一度だけ強く瞼を閉じる。
 戦力はMSたった四機。数にしてみれば取るに足らないものだが、ジュール隊の持つ
名前の重みは少なからず敵味方に影響することだろう。同じく少ない戦力で奇跡的な快
進撃を続けているミネルバにとって、それは大きな力となる。
 それでもシンが釈然としない表情でいるのを、ディアッカは見逃さなかった。かつて
シンに昔のイザークの面影を見ただけに、その顔の表す意味をディアッカは嫌でも見抜
いてしまった。

 

「イザークのことなら、気にしなくていいぜ」
「え?」
「たぶん、あいつも割り切ってる。俺たちは二度と命令に逆らえない立場だしな」

 

 イザークがアスランを追うことにどれだけ集中しているのか知っているだけに、シン
は素直に喜ぶことができないでいた。
 仲間との再会を目の前にしているというのに、心は全く躍らない。隊長が抱えている
であろう無念さ、敵である連合のもつ闇の部分、新しく知ったことが次々にシンを絡め
取り、どうしていいのかわからなくさせた。冷静にして聡明な友ならば、飛来する疑問
の一つ一つに適切な解を与えることができたのだろうか。
 シンが知恵熱で倒れたのは、もう少し後のことだ。

 
 

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