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Sin-Jule-IF_101氏_第12話

Last-modified: 2007-12-28 (金) 03:28:20

 世界は震撼した。
 ギルバート・デュランダルが暴いた世界の裏側に潜む存在は、それまで争っていたナ
チュラルとコーディネーターに混乱と畏怖を与えるものだった。たった一つの組織が世
界を牛耳り、
 その組織にとって、全ての人間は等しい価値だった。
 その組織にとって、あらゆる事象において数字こそが絶対の教えだった。
 組織の名を、ロゴスという。ロゴスは、ほぼ寡占の状態を布く軍事企業の集合体を母
体とし、紛争という空間を市場とする。いわば、紛争地帯にいる全ての人間が労働者で
あり、消費者であり、同時に商品の部品だ。ナチュラルとコーディネーターの垣根もそ
こには存在しない。あるのは、商品としての価値と流通の活発な市場だけだ。

 

「コーディネーターだけではありません。同胞すら、彼らにとっては駒でしかない」

 

 コーディネーターは優性種の自覚がある。それゆえに、一種の騎士道精神じみた誇り
を持っている。時に剣を交わらせようと、命を懸ける戦いで相手への敬意を忘れること
はない。自身もそうだとその前置きを強調した上で、デュランダルは強く主張した。
 真に憎むべきは、溝の先にいる相手ではない。その溝を食い物にしている連中だと。

 

 その演説をモニターの端においやり、ネオ・ロアノークは苦笑して見せた。

 

「酷い言われようですな」
「ふん、狸の戯言など人間が聞くと思うか?」

 

 忌むべき集団の一人として自身の名が挙がっている中、通信の相手であるロード・ジ
ブリールは気にもしていないようにネオに話しかける。ネオはひび割れた仮面の下で眉
をひそめた。

 

「えげつない男だよ。仮に奴の言葉が真実だとしても、駒でなく大事なお得意様だとい
うのにな」
「私は、そういった話は不得手ですんで」

 

 言葉を短く、ネオは話を切り上げる方向へと向ける。ネオはジブリールという男があ
まり好きではなかった。非正規部隊のファントムペインなどではなく、ただ上官に従う
だけの軍人だったらどんなに良かったろうと思うことは一度や二度ではない。
 その望みは決して叶うことはないも、ネオ自身は理解している。ネオ・ロアノークと
いう人間はもともと正規の軍人ではない。そもそも、ネオに関するあらゆるデータの多
くがでっち上げられた偽物だ。
 前大戦で奇跡的に助かった彼に向け、ジブリールは取引を持ちかけた。ファントムペ
インとして直属の部下となる代わりに、裏切り者の戦艦アークエンジェルとそれに関る
者たちへの追討をしないというものだ。ネオに迷いはなかった。もともと、陽電子砲で
文字通り無くなっていたはずの命だ。
 顔の多くを隠す仮面は、過去の自分との決別の証だった。安易に整形に走らなかった
のは、直接の上官であるジブリールがいい顔をしなかったからだ。

 

「次はここに来るだろうな。今度こそ期待を裏切らんでくれよ?」
「ええ、全力を尽くしますとも」

 

 かつてフラガの名を継いでいた男は、感情も無しに答えた。

 

 

 地球圏に駐留するザフト軍の多くが対デストロイの戦いに馳せ参じたのは、アスラン
たちにとってある種の幸運だった。連合、ザフトともにに集中していたおかげで、パト
リックは悠々と補給を終えていた。
 とはいえ、大勢はあまり芳しくないのが事実だった。未だセイバーのミネルバを巻き
込んだ自爆の傷は癒えないでいる。医療スタッフをまともに調達できないような中では、
療養には自然と時間がかかるのが現実だ。いくら治癒力に優れたコーディネーターでも、
人間であることに変わりはない。

 

「で、あたしたちにラクス様を裏切れって言うのかい?」

 

 不機嫌そうな声を隠さず、眼帯をした女性ヒルダ・ハーケンはアスランを睨む。
 パトリックにとって必要なのは、セイランに寄らない補給地点と仲間だった。その中
でアスランが選んだのは、現在の駐留部隊からの直接のスカウトだ。一歩間違えれば本
隊に連絡されて終わりの選択だが、賭けに負けない自身はあった。既に自分は戦艦一隻
にすら勝っている。

 

「別にそういうことを言っているんじゃない。今のザフトを変えようと言っているんだ」

 

 真摯な視線をヒルダに向け、アスランは傷む身体で話をする。折衝をサトーに任せず、
傷を押して自らが前に立つのも彼なりの真剣な態度のつもりだった。
 ハーケン隊は特にラクスへの信奉が強い。もし軍人としての職務とそれを秤にかけれ
ば、ラクスへの忠誠心の方に傾くことだろう。そこを突き、心の解れを狙う。それがア
スランの狙いだった。

 

「同じことだろう? お前たちテロリストと手を組むってのはさ」
「埒が明かないな……」
「とっとと出て行きな。あたしだって怪我人を後ろから撃ちたくはないからね」
「待ってくれ。時間はまだあるだろう。ひとつ、見てもらいたいものがある」

 

 アスランは表情に出さずに自身の運に感謝した。ヒルダが話を切り上げれば、その場
で射殺されてもおかしくはない。
 解っていたことだが、いくつかの映像証拠を見せないことには取り付く島もない。宗
教じみた信心を、一気に失望へと叩き落す。消滅したドムトルーパーのデータの一件や
オーブより戦場に現れたフリーダム、状況証拠も揃っている。
 仄暗い意思は、徐々に広がりを見せつつあった。
 それがサトーらが今まで生き延びてきた手管と同じものだと、アスランは気付かない。

 

 

「で、ボクとの契約はどうなったのさ?」

 

 私室のモニターに向け、ユウナは意地悪い声をかけた。対するアスランは目を逸らし、
すまないと謝る一方である。アークエンジェルからカガリを連れ戻すという約束の元の
庇護だったが、当の不沈艦はさっぱり消息を絶っている。唯一にして最大の戦力である
フリーダムだけがザフト本隊に渡っているというのが現状だ。

 

『そちらでは何も掴んでいないのか?』
「全然だね。戦艦ごときを気にかけてられないし」

 

 言葉では軽んじているが、実際はユウナはアスランに感謝していた。オーブの戦力の
大半は未だ本島に残っている。アスランたちはセイランの世話になった折、オーブ近郊
を転々としていた。いくつかの目撃事例の中からセイラン家にとって不都合ではないも
のを連合に報告し、防備の名目で兵力を温存する。
 いい加減、曖昧な態度のままではザラとの繋がりを疑われかねない。ユウナはアスラ
ンを急かすことにした。

 

「連合……というか、ブルーコスモスだね。彼らも追い詰められてきてる」
『あの巨大なMSがやられるとは思ってなかったんだろうな』
「そう。だからね。次は本気で来るよ」
『まだ隠し玉があるのか!?』
「あれの量産がされてるって噂だよ。それと、オーブ最強のMSも送っちゃったしね」

 

 驚愕するアスランに向け、ユウナは言葉を続ける。

 

「カガリの発言力なんてタカが知れてるけど、やっぱり必要なんだよねえ」

 

 戦場で陣頭に立つ姫獅子の発言力は、極限状態では救いの手となろう。ある意味にお
いては、理想の状況となりえるのかもしれない。

 

「たいしたことがなくて悪かったな」

 

 突然の第三者の発言に、画面の先同士で二人が凍りつく。ユウナの指はコーディネー
ターも真っ青な速度を発揮し、何事か喚くアスランとの回線を一方的に中断した。

 

「かっ、カガリぃ!?」
「今の通信はどういうことだ、ユウナ」

 

 鋭い語調は、決して機嫌の良くないことを表していた。
 あまりに突然の状態でユウナは口をパクパクとさせた。平素であるならば、直情をの
らりくらりとかわすことなど造作もない。ただ、この時だけは複雑な思考回路が全て直
列のものにされたように働かない。
 驚愕の渦の中で、ユウナとアスランは一つの事実に辿り着いた。

 

 アークエンジェルは、オーブに戻っている。

 

 

「成長したもんじゃないの」
「何が言いたい」

 

 ディアッカの茶化すような物言いに、イザークは穏やかな返答で返す。議長自らが寄
越した新型機とくれば、功名心の強いイザークが欲しがりそうなものだ。だというのに、
若き隊長殿はシンに渡ったことに対しやっかみを見せず、むしろ喜んでいる素振りさえ
見せている。

 

「てっきり新型機は俺のだ、とか言い出すもんかと思ったぜ。……それとも、プラント
に戻ったっていうラクス・クラインが気がかりで呆けてた?」

 

 少しうろたえながら「ふざけるな!」と一喝し、イザークは咳払いをする。

 

「……確かに、デスティニーには惹かれるものはあるがな」

 

 肩を竦めながら、ディアッカはそうだろう、と頷く。従来のものを越える新しい核動
力、遠近なんでもござれの万能性、どれをとっても陣頭を往くに相応しい性能だ。たと
えイザークでなくても欲しいとディアッカは考える。展開すればMSの身長並みの高エ
ネルギービーム砲は、ぶっ放せばさぞかし気分爽快なものだろう。
 イザークはそれ以上は答えず、含み笑いを返答とする。

 

 デスティニーはまさにシンのための機体だ。
 インパルスの三種の個性を一つに纏め上げただけではない。巨大な翼に仕込まれた戦
闘型のヴォワチュール・リュミエールは、シンがDSSDに協力してこそ入手すること
ができた代物だ。その事実を無下に扱って割り込むほどイザークは無粋ではない。シン
の功績を考えれば、彼がそれを扱うのは当然のことだ。

 

 ブルデュエルを降りるつもりも今の彼にはなかった。デュエルに相応しい乗り手とな
ると誓いを立ててから、まだ日も浅い。ベルリンでの戦いにおいては多くの敵を落とし
たが、それで十分とは思えなかった。
 デュエルの名が示す意味は“決闘”だ。自身が決闘をする騎士のように誇り高く在る
かと問えば、今の自分では満足にYESと答えられないような気がした。誓いをあっさ
り破るようでは、これまでに立てた数々の誓いさえも薄っぺらくなる。かつて額の傷を
あえて消さなかった時の悔しさが下らないことに成り下がるのは、それこそ我慢がなら
ない。
 デュランダルが演説で口にした“コーディネーターの誇り”は、多くのザフトの兵た
ちに自身の在り方を見直させた。イザークもまた、その例外ではない。

 

「行くぞディアッカ。デスティニーを交えるとなれば、新しい戦術を考えねばならん」

 

 シホとシンをブリーフィングルームに呼び出さんと、イザークは一歩を踏み出す。
 そこで思いついたように、一言だけ付け足した。

 

「チームとして、弱い方から補強していくのは当然のことだろう?」

 

 確かにシンは強くなったが、まだ負けてやるつもりも全く無かった。

 
 

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