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VOTOMS-Seed-1-553氏_第00話

Last-modified: 2008-01-28 (月) 13:01:58

装甲騎兵ガンダムSEED
―― The Red Shoulder ――

 

第0話「覚醒」

 

目が覚めて、そこにあったのは地獄だった。
ぼんやりとした視界に最初に入り込んできたのは、赤い色だ。ただ、それだけしか認識できない。
徐々に視界が元に戻って来るにつれて、様々な物が新たに眼の中に入り込んでくる。
燃える街、林、木々、草。めくれ上がった大地。そして・・・・・粉々に砕け散った家族の姿。
彼は慟哭した。叫び、涙を流し、妹の遺品を握りしめ、地面を搔き毟った。

 

そんな時、彼は背後から聞こえてくる奇妙な“音楽”を耳にした。

 

それは、マーチだった。軽快で勇ましい、そして、こんな地獄には似つかわしくない明るいメロディーだった。

 

彼は振り向き、そして見た。その紅の双眸で。

 

“そいつら”は人を、家を、車を、街を、焼き、壊し、蹂躙していた。
空に飛ぶヘリコプターは軽快なマーチを奏で、地を駆けるMS群は銃声をかき鳴らした。
音楽と銃声、爆音が交差する中で、“やつら”は次々と死体の山を築き上げていった。
そして、MSの足もとには、まるでゴキブリの様に地面を這いまわる小さな影が幾つも見えた。
“それら”を見ていた“彼”には露知らぬことではあったが、
“そいつら”は連合・・特に大西洋連邦でMS開発以前より研究開発されていた、
戦車の、いや歩兵の延長線上にある新兵器、“Armored Trooper”、通称ATであった。
そして、それに乗る男たちは彼らの在り様など、様々な理由からこう呼ばれた。
“ボトムズ”・・・すなわち“最低野郎”、と。

 

“彼”の“故郷”を蹂躙するMSとATの群れ・・・そいつらには一つの共通点があった。
何れも、その右肩が、まるで血の色のような赤で染められているのだ。
その赤が、ひゅんと煌くたびに、オーブのMSが弾け飛び、家が焼け、人が四散した。

 

赤い死神達が、その死神のマーチを奏でながら踊る死の舞踏。

 

それを、“彼”は、死神達の右肩と同じ色をした双眸で見ていた。

 

右手で妹の唯一の形見を握りしめ、左手で地面に爪を立てながら、赤い死神達の狂宴を、その赤い瞳で睨みつけていた。

 

 

トダカ一佐はジープに乗って、部下と共に懸命に避難し遅れた市民の探索と避難の誘導に努めていた。
オーブ行政府の指示の遅れのために、随所随所で避難の遅れがおこっており、民間人が大量に戦禍に巻き込まれていた。
また、連合軍の侵攻速度の予想外の早さもまた混乱に拍車をかけていた。
「一佐!このエリアにはもう生存者はいないようです!」
「クソッ、遅かったか・・・・・次のエリアに向かうっ!!全員付いてくるんだ」
オーブ軍司令部の防衛指揮の杜撰さと、連合軍の容赦のない怒涛の攻撃により、
既にオノゴロ島の市街部までもが火の海になっていた。
トダカ一佐率いる救助部隊は、すでに市街部のあちこちを回ったが、発見できた生存者はわずかで、
大半がすでに死体となったものであった。
(連合軍めっ!何と残酷な・・・許せんっ!!)
トダカ一佐は胸の中で激しく毒づいた。
彼の所属するオーブ軍の杜撰さが犠牲者を招いたのは否定できないにしても、それでも民間人の犠牲者が多すぎる。
(連合軍は民間人を完全に無視して、いや意図的に殺している節すらある!)
彼らが発見した死体のほとんどが、対人用の経口の小さい銃弾か、火炎放射器で焼き殺されていたところを見ると、
明らかに連合軍は民間人を狙っている。
(くそっ、外道どもめ・・・このカリは必ず・・・・)
トダカ一佐が、すさまじい怒りの炎をその胸で燃やしていた、まさにその時であった。
「!」
「一佐!」
「散開っ、散開しろっ!」
彼らの目の前に煙幕弾が撃ち込まれる。トダカ一佐の部隊は、瞬く間に白煙によって包まれてしまう。
「散開するんだ・・・敵に狙い撃ちに・・・」
「ぎゃぁぁぁあああああああああああああっ!!!!」
凄まじい量の銃弾が彼らに降り注ぐ。大口径の銃弾は、トダカ一佐の部下たちを尽く粉微塵に引き裂いた。
「ぬ・・・・あ・・・・・・・」
周囲を取りまく白煙と血煙の中、トダカ一佐が最後に見たもの・・・・それは

 

揺らめく赤い影と、回る三つの無機質な瞳であった。

 

 

回るターレットを通して、“彼”は血煙と化す“かつての祖国”の軍人と、爆発炎上するジープを見た。
さらに、“彼”は“彼”の乗る機体の右足の足裏に取り付けられた杭打ち機、“ターンピック”を地面に打ち込むと、
両足の裏側にあるホイール、“グライディングホイール”を回転させ、その場で一回転する。
一回転しながら“彼”は“彼”の機体の左腰部に取り付けられたガトリングガンを乱射する。
これにより、最初の攻撃から生き延びたオーブ軍兵士達は、残らずあの世に送られた。

 

白煙が晴れ、一機のATが姿を現した。ATM−09−ST“スコープドッグ”、大西洋連邦の巨大資本にして、
世界的な軍需企業連合体「ロゴス」傘下のアデルハビッツ社が開発した小型人型機動兵器である。
全高3.8メートル、標準重量6.6トンと、ZAFTの開発したモビルスーツに比べると大体4分の1から5分の1の大きさであり、
一応ATの正式名称はVOTOMS、Vertical One-man Tank for Offence & Maneuver(攻撃と機動のための直立一人乗り戦車)の複数形(-S)ではあるものの、
その運用方法などからも考えれば、二足歩行戦車というよりはむしろパワードスーツといってよい代物である。
開発され始めたのはMSよりも古く、起源は大西洋連邦の前進の国家が開発していた軍事用強化外骨格であるらしい。
軍への試験的導入自体は10年近く前に既になされており、本格的な導入は5年ほど前のことであった。
機動性に優れ、市街戦などでも小回りが利き、安価で大量生産できて、しかも修理も簡単、と理想的な兵器と言えるが、
この兵器には致命的な欠点があった。それは機動性を優先せんがための必然としての如何ともしがたい装甲の薄さと、
駆動系に使用されるポリマーリンゲル液の気化性と引火性の強さによるATの“脆さ”である。
実際、AT乗りの戦死率は高く、それゆえに乗り手も荒くれどもや兵隊ヤクザが多かったために、
ATはその乗り手も含めて「最低の野郎ども」と蔑まれていた。

 

白煙の中にいたATは標準のスコープドッグとはいささか違っていた。
スコープドッグ系の標準装備であるGAT−22ヘヴィーマシンガン以外に、
右肩にミサイル・ガン・ポッド、左肩にスモークディスチャージャー、右腰に二連装ミサイル、
左腰にガトリングガンと重装備であり、さらに、搭乗者の趣味なのか左足の太ももに、
ストライクガンダムのアーマーシュナイダーによく似た形状のAT用コンバッナイフが括りつけてある。
さらに他者の目を引くのは、その血のような赤で染め上げられた右肩である。
これこそ悪名高き“吸血部隊”、第24大西洋連邦軍戦略機甲兵団特殊任務班X−1“レッドショルダー”の一員である証であった。
“彼”はターレットを回転させ、視覚を切り替えて周囲を見回す。
生き残りはいないと思われるが、戦場では一瞬の気の緩みが死に繋がりかねないのだ。
<このあたりの敵さんは全部片付けたみてぇだな>
野太い声が突然“彼”の耳に入り込んでくる。
見れば“彼”と同じく赤い肩をした三機のスコープドッグが、自分の方へと向かってくる所であった。
<全く・・・嫌になるぜ・・・・こんな仕事はよぅ・・・・>
<まあ、仕方ない・・・・・これも運ってやつさ>
“彼”の耳には新たに2種類の声が入り込んでくる。やや甲高い特徴的な声に、色気を感じさせる静かな声だ。
彼ら三人は“彼”の同僚にして先輩にあたる人間だ。
グレゴルー=ガロッシュ上級曹長、ムーザ=メリメ伍長、バイマン=ハガード伍長の三人である。
野太い声がグレゴルーで、三人中で最も年齢が高く、ごつい顔立ちの大男だ。
甲高い声がムーザで、三人の中では最も真面目な性格で、やや短気なきらいがある。
色気のある声がバイマンであり、皮肉屋でキザな伊達男だ。
<はっ!違ぇねえ>
グレゴルーが二人の言葉を受けて言う。三人とも一応周囲を警戒しているものの、少しばかり気を緩めて楽にしているようだ。
“彼”もほとんど敵は片付いたとは思っているが、一応警戒はしておく。
<“キラ”・・・・そう肩を張ることもねぇ・・・・俺達の仕事はあらかた終わったんだ>
“彼”の心情を見透かしたかのようにグレゴルーがそう声を掛けてくる。
<真面目にやるだけ損するぜぇ・・・・こんな仕事は・・・・>
バイマンも同意のようだ。
<マスドライバーとモルゲンレーテの制圧はまだだったな>
<俺達が気にすることでもねぇ。あっちは第二方面隊とMS部隊の仕事だろ。俺達の出る幕じゃねぇ>
<へっ、そういうこった>
三人は気楽に軽口を叩き合っている。
彼らは軍人としての素行にいささか問題のある人間だ。
無論、彼らが“レッドショルダー”に入隊させられた契機や、
そこでの扱いを知ればある程度納得のいくものではあるのだが。
「僕は・・・・マスドライバー攻略の支援に向かいます。ここの確保をお願いします・・・・」
<おい、キラ!止めとけ。わざわざ仕事を増やすまでもねぇ>
<全くだ。あっちは第二方面隊とMS部隊にまかせときゃ大丈夫だろう>
<俺達が、ペールゼンのために一生懸命にならなきゃいけねぇ理由なんざ、何にも無ぇんだぞ>
“彼”が突然言い出した言葉に、三人から制止の声がかかる。
三人の声には何らかの思いやりのような物が感じられる。しかし・・・
「でも、戦うのが僕の仕事ですし・・・・・行きます!」
<お、おいっ!!>
<キラっ!>
彼らの制止の声を無視して、グランディングホイールを回転させ、“ローラーダッシュ”を行う。
それだけではなく、脚部裏に内蔵された、ローラダッシュ用ノズルを展開すると、
ノズルを吹かして猛スピードで激戦区へと向けて走り出す。
“ターボカスタム”と呼ばれる上級者向けのカスタムであり、脚部裏のノズルを展開することで
“ジェットローラダッシュ”を行うことができる代物だ。
加速性、機動性は標準のスコープドッグの数倍にもなる。
しかしその反面、安定性、操縦性は格段に悪くなるために、これを使いこなせるのは上級者のAT乗りに限られていた。
瞬く間に、小さな鉄の背中は遠くへと行ってしまった。それを見て、バイマンはポツリと漏らした。
<まるで死にたがりの兵隊だ・・・・>
<あいつ、変わったな・・・・>
グレゴルーがバイマンの言葉を受けて言う。
<無事だといいが・・・・>
ムーザが、“彼”が駆けて行った方向を見ながら・・・言った。

 

 

“彼”は“鉄の騎兵”を走らせながら思う。
(これでいいんだ・・・・戦っている間は、全て忘れていられる・・・・・)
この体を縛り付ける過去という名のしがらみ、迷い、悲しみ、怒り、あらゆる感情を忘れていられる。
生と死のぎりぎりの狭間の死闘の中ではそんなものはどうでも良くなる。
(だから戦うんだ・・・・・それに・・・ぼくはもう・・・・)
最早自分は引き返すことは出来ないのだ。この手で、既に何人もの同郷の隣人たちを殺した。
少年時代の大半は月とコロニーで過ごしてきたと言え、紛れもない故郷を今、彼は自らの手で蹂躙しているのだ。
(僕は、“レッドショルダー”なんだ・・・・)
そうだ、自分は人殺し。情け知らずの吸血鬼野郎。赤い肩をした鉄の悪魔なのだ。
(どの道・・・・もう戻れない・・・・ならばいっそ・・・・・)
“彼”の脳裏を駆け巡るのは思い出。「父と母」と、友人たちと、親友と、「アスラン」と過ごした思い出。
それはもはや戻れない過去。この両手を血に染めてしまったが故に。「真実」を知ってしまったが故に。
ならば全て燃やしてしまえ・・・・全てを・・・・・
どうせ「親友」の、アスランの戦友を殺し、また彼に掛け替えのない友人を殺され、
そのまま互いに殺し殺されしたあの時から・・・
否、炎に燃えるあのヘリオポリスのMSドッグで彼と出会った時から自分の運命は狂い始めていたのだ。
もはや、取り返しなどきないのだ。
(だから・・・戦うんだ・・・どの道・・・僕には他に生きる道などないんだ・・・あの日から!)
“彼”は、“キラ=ヤマト”は思いを巡らせる。
狂い始めていた自分の運命を決定的に変えたあの日のことを。
真実を知ってしまったあの日のことを。
そう、全ては、あの男との出会いから始まったのだ。

 
 

To Be Continued

 

 

次回予告

 

アスランとの死闘の果てにキラがたどり着いたのは、また地獄だった。
敵の血潮で濡れた肩
戦場で蠢く地獄の部隊と人は言う
情け知らずの鉄騎兵、“吸血部隊”レッドショルダー!
キラはその只中に放り込まれる
次回「出会い」
ライトブラウンの双眸が真実を語る

 
 

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