Top > W-DESTINY_第01話
HTML convert time to 0.007 sec.


W-DESTINY_第01話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:52:30

 ユニウスセブンの破砕作業が完遂せぬまま帰還命令を受けたシンは無力感とそれに伴う苛立ちに苛まれながらミネルバに帰還しようとしていた。だがその途中シンの目に作業を続けるMSが映った。

「何をやってるんです!帰還命令が出たでしょう。通信も入ったはずだ」
「ああ、解ってる。君は早く戻れ」
「一緒に吹っ飛ばされますよ?いいんですか?」
「ミネルバの艦主砲と言っても外からの攻撃では確実とは言えない。これだけでも…」

 シンは帰還命令が出ても破砕作業を続けるアスランに戸惑っていた。確かにアスランの言う通りタンホイザーの威力でもこの破片の消滅は不可能だろう。だが、何故この人はそこまでやるのか、自分の命を何だと思っているのだろう。アーモリーワンでの新型MSの強奪から、なし崩しに今回の戦いにも参加しているが、2年間のブランクは大きく、かつての英雄は並のパイロット以下の腕前に落ちぶれていた。
 それでも、この男は懸命に戦い続け自分に出来ることをしようとする。その姿はシンにとって好感の持てるものだったが、この男はシンが最も憎む国から来ているのだ。そのことが作戦に失敗したシンの怒りに油を注いだ。完全な八つ当たりだと自覚してるが言わずにいられなかったのだ。

「貴方みたいな人がなんでオーブになんか…」

 その時、襲い掛かってくるジンの存在に気付いた。

「うおぉぉ!」
「これ以上はやらせん!」
「こいつらまだ!」

 シンはアスランを庇うように構え、迎撃を開始するが 逃した一機がメテオブレーカーの破壊を成功させてしまった。

「メテオブレーカーが!」

アスランが悲痛な声をあげたとき、敵パイロットの音声がコクピットに入ってきた。

「我が娘のこの墓標、落として焼かねば世界は変わらぬ!」
「娘…?」
「此処で無惨に散った命の嘆き忘れ、討った者等と何故偽りの世界で笑うか!貴様等は!」
「何を!」
「軟弱なクラインの後継者どもに騙されて、ザフトは変わってしまった!何故気付かぬかッ!」
「く…」

 敵パイロット、サトーの攻撃で腕を切り飛ばされ 、アスランは苦悶の声をあげた。しかし、その後に聞いた言葉はアスランの心に傷をつける。

「我等コーディネーターにとってパトリック・ザラの執った道こそが唯一正しきものと!」
「はぁ?……あの人の行いが正しいだと?」

 愚かな父だった。憎しみにより復習の鬼と化し、多くの同胞を巻き込んだ男、それがアスランの知るパトリック・ザラという人間だ。だが、この男はその父こそ正しいのだと言う。

(そんなはずは無い……あの人が正しいなんて……絶対に!)

 アスランは敵のジンに父を重ねる。この男の所為で多くの人命が失われた。かつては大量破壊兵器のジェネシスを用い、そして、今回はプラントを落とすと言うのか。
 父を打つべくビームトマホークを投擲するが…

「未熟者!」

 あっさりと避けられ反撃を喰らう。目の前に迫る巨大な刃、自分の死を予感したとき、ビームが奔りジンの腕が破壊される。唖然とした両者の間にインパルスが現れ、サーベルを一閃すると、ジンの上半身と下半身が分断され、そのまま後ろへ飛ばされた。そしてアスランに通信が入った。

「大丈夫ですか?」
「……ああ」

 自分が勝てなかった相手を落としたのは、まだ若い少年だった。元オーブの難民で故郷を憎む少年は恋人のカガリに激しい敵意を剥き出しにしている。
 その事が余計にアスランの失意を大きくしていた。カガリを守るために乗ったMSで叩きのめされ、今回の作戦に至っては、かつての仲間と再会したがMSの操作技術で遥かに劣っている事を自覚した。
 そして、追い討ちをかけるかの様な若いパイロットの登場。新型のインパルスとは言えザクの性能さえ充分に生かしきれていない以上、言い訳にはならなかった。
 アスランの2年間のブランクは彼からパイロットとしての能力を奪っていたのだ。

(その代わりに得たものは……)

 考えに耽るアスランにシンから通信が入る。

「もう、ミネルバに戻るのは無理です。このまま大気圏に突入しますから姿勢の制御を行ってください。
 ザクでは大気圏内の飛行は無理ですがインパルスで拾いますので安心してください。」
「ああ、よろしく頼む……敵のジンはどうなった?」
「……ロストしましたが、おそらく……」
「死んだろうな……」
「はい……それより、壊せませんでしたね」
「ああ………ん?」

 大気圏に突入するザクのモニターに奇妙な映像が映った。空間がぶれると四角い金属の塊が現れた。戦艦の破片だろうか、否、それにしては巨大すぎる。しかしコロニーとも思えない。

「何だよ……これ?」

通信からシンの声が聞こえる。ということは自分の目がおかしくなった訳ではなさそうだ。やがて、それも消えると、その奥にはさらに奇妙な物体があった。

「は?……天使?」
「モ、モビルスーツか?」

巨大な銃を構えるソレは銃口から光を生み出した。

「ユニウスセブンが……」
「……消えた……」

その光は陽電子砲でさえ消し去るのは不可能と思われたユニウスセブンの残骸を消し去っていた。

「何だ?あの光は!?」

 ミネルバからボルテールに移っていたデュランダルの目にも、巨大な閃光がユニウスセブンを消し去る光景が映った。
 その威力はかつてのジェネシスを思わせ……

「連合の新兵器だとでもいうのか?……ぬおっ!」

 恐るべき可能性を考えたとき、船体に強い衝撃が奔った。

「何事だ!?」
「わかりません!取り急ぎノーマルスーツを着用して下さい……何かに当たった模様ですが……」
「パイロットの目は節穴か?」

 スーツを着け、操縦室へ向かう。そこには呆然とするパイロットがいた。

「どうしたというのだね?」
「そ、それが……突然MSが現れて……」

 その言葉でデュランダルに緊張が奔る。突然MSが現れるとしたらミラージュコロイドを使用した敵の可能性が高かった。
 しかし、それにしては様子がおかしい。錯乱したかのようにパイロットが呟く。

「悪魔だ……だって……」
「何だというのだ……コイツは?」

パイロットの視線の先を見たデュランダルが声を漏らす。あまりにも禍々しい姿。血のような色。悪魔の様な翼。

「こんな……怖い顔して……はっきりと目に見えるのに……」
「落ち着きたまえ!」
「レ ー ダ ー に 反 応 が 無 い ん で す !」

 彼等の目の前には左腕の無い、まるで亡霊の様に真紅のMSが力なく浮遊していた。

「わかったわ、下がっていいわよ」
「はい……その……」
「追って連絡するわ、それまで周囲には黙っておくように!」
「はい!失礼します」

 シンから詳細を聞いたミネルバ艦長タリア・グラディスはシンを下がらせると大きな溜息をついた。
 タリアは大気圏降下中にユニウスセブンを少しでも破壊しようとミネルバの主砲タンホイザーを起動させた……が、ミネルバが撃つ前にユニウスセブンは消失してしまった。その後、回収したシンが消失の理由を伝えるためタリアの元に来たのだが、その理由はあまりにも非現実的だった。

「天使の羽を持ったMSがライフルで消滅させた?……バカバカしい」

 陽電子砲でさえ不可能な破壊作業をMSが手持ちの武器で行ったと言うのだ。普通なら夢を見ていたか幻覚で済ませるのだが、目撃者が自分の艦のエースパイロットと友好国の代表のボディーガード、その正体は英雄と言われたアスラン・ザラというのが笑えない理由だった。

「もし、そのMSが連合の物だったら……」

 タリアの背に冷たいものが奔った。

「やっぱり、信じてくれないよな……」

 シンはタリアに報告を済ませると先程見た光景を思い浮かべた。あまりにも現実離れした破壊力、自分でも信じられなかった。
 今のシンは幽霊等を見た人間に見られる共有の心理に陥っていた。つまり仲間を探していた。

「シン、どうしたの?浮かない顔をして?」
「なんだ、ルナか」
「なんだじゃ無いでしょ!まったく人が心配してやってんのに…」
「悪かったよ、それよかアスランさん知らない?」
「は?あの人だったら甲板にいたけど……何の用なの?」
「別に良いだろ、聞きたい事があるんだよ」
「あ!ちょっと、話はまだ…」

 シンはルナの声を無視して甲板に向かった。

「だから、待ちなさいって!何で、そんなにアスランさんに会いたいのよ?」
「別に理由なんていいだろ」
「そうだけどさ、アンタまた突っかかったりしない?」
「しない」

 心配性の友人を見て苦笑する。ルナはアカデミー時代から何かとシンの世話を焼きたがる。嫌では無いが、少し煩わしくもあった。
 やがて、甲板に着くとカガリの姿が目に入った。

「あ……」

 カガリはシンに気付くと近づいてきて、いきなり頭を下げた。

「アスランを助けてくれて有難う……私なんかに言われても嬉しくは無いだろうが…」
「……いえ、別に……」
「アイツ、今は落ち込んでるけど、そのうちアイツからも礼を言わせるから…」
「別に気を使っていただなくても結構であります」

 シンは嫌いな人間に頭を下げられ戸惑っていた。ただ先程ルナに注意された事もあり、出来るだけ冷静に対処しよう思いながら口を開いた。

「あの人、頑張った方だと思いますです。たしかにあんまり強くは無かったけど、最後まで諦めなかったでしたから…それに昔は強かったんでしょ…」
「言葉遣いが無茶苦茶よ……」

 ルナに突っ込まれながら、奥に見えるアスランに目を移した。

 その姿は、ひどく落ち込んでるようで、今にも倒れそうなほどくたびれていた。

(何をやっているんだ……俺は)

 アーモリーワンからここに至るまでの道中を振り返り、アスランは溜息をついた。これまでも自分の無力さに嘆いた事はあったが、今回は連続で起こりすぎたし、自分は足手まといだったのでは?と自己嫌悪に陥っていた。
 そして、追い討ちをかけるように理解不能のMSの登場。あれは何だったのか?その時、こちらを見ているシンと目が合った。

「あ……」
「……どうも……」

 二人で話がしたいと、カガリとルナを下がらせ、あのMSについて話し合っていた。

「何だったんですかね……アレ」
「さあな……案外、地球を救いに来た本物の天使かもな……もしくは愚かな人間を滅ぼすため……」
「バカ言わないで下さいよ、アレ絶対MSでしょ」
「羽をパタパタさせて、ユニウスセブンを消し去るヤツが?」
「…………まぁ、変なヤツでしたけど…」
「実際、MSだとして、何処の陣営が作ったかだが……」
「ザフトは違いますよ、インパルスは最新鋭のMSですし……」
「だが、連合は……」

 アスランはその先を言わなかった。アーモリーワンでMSを強奪したのは連合の可能性が高い。それは、ユニウスセブンでの戦闘で確信に変わっていた。
 もし羽のMSが連合だとしたら、わざわざ苦労して盗んだりしないだろう。あの機体は明らかにザフトの新型の性能を上回っていた。

「オーブってことは?」
「オーブにそこまでの技術力は無い。アレは異常すぎる。明らかにオーバーテクノロジーだ」
「確かにとんでもない火力ですよね」
「それだけじゃ無いさ、あの羽を見ただろ?…どんな材質使ったらあんな動きが出来る?」
「……ゴムとか?」
「じゃあ、ザフトの開発部に言ってみるか?ゴムの羽を付けてくれって」

 シンは場の空気が重かったため冗談を言ったのだが、呆れたように問い返すアスランを見て困っていた。もっともこの場合は冗談を言った方のセンスにも問題があるのだが。

「冗談ですよ……実際にアレ、大気圏を突破しましたし」
「そうだな……ユニウスセブンを破壊する火力を持ち、大気圏に突入、その後の移動も付近に収容する船も無さそうだった事から、かなりの長距離を自由自在に……」
「……化け物ですよね」
「まったくだ……」

「何、内緒話してるんですかね?」
「う〜ん……それよりアイツ等、何時の間に仲良くなったんだ?」
「確かに、シンって、最初はアスランさんのこと避けてましたよね」

 同じ秘密を共有するものは親密になるが、それを知らない回りの人から見たら不気味な光景にすぎなかった。

 そのころザフトでは、より深刻で、かつ異質な出来事に呆れる人物の姿があった。

「……呆れたものだな」

 デュランダルは先の事件で持ち帰ったMSを研究室で調査させていた。そしてあまりにも信じられない報告を受ける。
 現状のザフトのMSに使われる武器、ビームサーベルやビームライフルを始め、プラズマ収束ビーム砲、高エネルギー長射程ビーム砲、etc……あらゆる攻撃を与えても傷一つ付かないのだ。
 それだけでは無い、コクピットハッチを開き中に人が居るのを確認したのだが、その人物は意識不明で、せめて機体の性能を確認すべく、操作してみたのだがテストパイロットが操縦中に発狂、そのまま死亡してしまったのだ。

「コレ……本当にMSなんでしょうか?」
「こうなっては中にいたパイロットの目覚めを待つ他はあるまい」
「やはり、連合の新兵器でしょうか?」
「わからんよ、そうでないと思いたいが……関係が有るか無いか不明だが、ミネルバから興味深い報告が来ている」
「は?」
「ユニウスセブンを破壊したのは天使の様なMSだったらしい」
「そ、それは!」
「我々が回収したのは、悪魔の様なMS……アルマゲドンでも始るのかな?」
「アルマゲドン?」
「昔の御伽噺の類さ……いや、神話だったかな?……神と悪魔の最終戦争のことだよ」

 暗い室内でパソコンのモニターの明かりだけが薄っすらと周りを照らす。ここはオーブにある学校でこの深夜の時間はパソコンを操作する少年以外は誰も居なかった。本来は時折、見回りをする宿直の教師が居るのだが彼は宿直室で眠っている。正確に言うなら薬で暫くは起きれない様になっていた。
 朝起きると真面目な彼は己の怠慢に自己嫌悪に落ちる事になるが、同時に何も異常が無いことに安堵するだろう。少なくとも彼は自分が薬で眠らされた事も、眠っている間に部外者が勝手に学校の備品を使用している事にも永遠に気付くことは無かった。

「CE……信じられないが……どうやら俺は本当に異世界へ来たらしい」

 少年、ヒイロ・ユイは淡々と呟いた。
 ヒイロは今の状況を確認する。リーブラの破片を撃つため大気圏に落下しながらツインバスターライフルを放った。それは間違いない。だがリーブラを撃ったと思ったら景色がぶれ、次の瞬間は隕石の様なものを破壊しているのに気付いた。予定よりも巨大な物質、そして、周辺にはバスターライフルから逃れた無数の岩……リーブラの破片は完全に消し去るつもりだったが、予想外の岩の破片が落ちていた。
 その後、そのまま大気圏内に入り地球の被害を確認したが、途中で違和感を感じる。

――この世界はおかしいと――有る筈のものが無く、無い筈のものが有る――

 そして、MSを隠し南半球の島国で調査を開始する。その結果が自分が異世界にいるという事実。
 ヒイロ・ユイという少年は何処へ行こうと生きて行ける自身がある。だから別に元の世界に戻れなくとも恐怖に駆られる事は無い。
 だが彼は心配な事があった。自分の命よりも大切な存在が――

「リリーナはどうしている?」

 ヒイロは今出来ることとして、情報の収集をすることに決めた。今はどうにも動きようが無いのだ。
それと、当座の行動費用を調達するため見知らぬ他人の口座から勝手に拝借するよう銀行にもハッキングする。他人の金を奪うのだから道徳も何も無いのだが、流石に生活に困っていそうな人からは取りづらい。そこで、定期的に入金はあるが、あまり出金の無い裕福そうで金の管理に甘い人物を見繕う。

「このアレックス・ディノという男には悪いが……」

 一通り作業を終えると、夜の街に出る。資金も手に入れたし、食事を取り寝泊りする場所を決めようと辺りを観察しながら歩く。
 そして、しばらく歩くと、まだ幼い少女が近付いてくるのが見える。深夜に近い時間ゆえ不審に思いながら少女の顔が確認できる距離まで近づく、そして外には出さないが少し驚きを覚えた。
 それが不味かったのか少女が笑みを浮かべる……普通の人間ならヒイロのように無表情では無いはずだ。
それほど、その少女にはインパクトがあった。柔らかそうな栗色がかった黒髪、ルビーの様な紅い瞳、『傷付いていない』部分の透き通るような白い肌、かつては愛くるしい少女として、注目を浴びた事だろう……そう『かつて』は……少女の顔には無数の大きな傷があり、右腕が肩先から失われていた。
 そして、何よりも少女の持つ空気……そのまま何も無くすれ違うとヒイロは呟いた。

「いったい、何人の人間を殺せば、ああなる?……この世界も狂っているようだな……」

 その頃、デュランダルは執務室である報告を受けていた。現在の彼はユニウスセブン落下の件で多忙を極めている。壊滅的な被害は避けれたといっても、地上の受けた被害は決して小さいものでは無かった。
 しかし、彼の最大の懸念事項は別のものだった。真紅のMSの秘密。それに乗っていたパイロットが目を覚ましたと言うのだ。

「では、そのゼクス・マーキスと名乗る人物は異世界から来たとでも言うのかね?」