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W-DESTINY_第02話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:52:58

病室を訪れたデュランダルは、異世界の住人と面会していた。彼は自分が異世界に来たという事を半分は信じかけているようだが、まだ不審にも思っているようだ。当然だろうとデュランダルは思う。現に自分も信じれないのだ。
そこでデュランダルは彼に自分がいた世界の事を詳しく語らせた。ACという戦乱の消えぬ時代、ゼクス・マーキスという男の血塗られた人生、コロニーへの圧政から起こる復讐劇と戦乱を倦んだ人々の平和への渇望、そしてリリーナ・ピースクラフトの登場。
全てを聞き終えるとデュランダルは納得するしかなかった。この男が嘘を言ってるのでは無いと。

「で、君の事はゼクス、それともミリアルドと呼んだ方が良いのかな?」
「お好きな方で、と言いたいのですがゼクスの方が慣れています。それにピースクラフトの名は私には重すぎます。」
「……なるほど、ではゼクスと呼ばせてもらうよ」
「はい」
「それにしても信じられんな。異世界からの来訪者などとは」
「私もです」
「だが、同時に納得も出来たよ。あのようなMSは初めてだ」
「MS?」
「我が世界にもMSと呼ばれる人型兵器があるのだよ。もっとも、君が乗っていたモノほど高性能では無いがね」
「そういえば…エピオンはどうしたのです?…まさか誰か乗ったのでは!」
「……嘘をついても仕方ないだろうから、正直に言おう。我が軍のテストパイロットが搭乗し、性能のテストを行った。
 そのパイロットは最初のうちは機動性の高さやGの強さに辟易し、文句を言いながらもダミーの的を装備されたビームの刃で破壊していたのだが……」
「やがて、味方を攻撃し、最後は発狂した」
「……正解だよ、ついでに言うなら、そのパイロットは死亡した。死因は高すぎるGに体が耐えられなかったからだそうだ……あれは何なのだね?」
「……ゼロシステムに翻弄されたのです」
「システムが翻弄?」
「話せば長くなりますが良いでしょうか?それと、この世界についても、ご教授願いたい」
「ああ、良いだろう、こちらの事も知って貰いたいからね」

もうすぐオーブに到着するという時、アスランはミネルバの艦長タリアから呼び出されていた。

「呼び出したりして御免なさいね。本当は、もっと早く呼びたかったのだけれど、こちらも色々あってね」
「いえ、大丈夫です」
「まずは改めて礼を言わせてもらうわ。アーモリーワンからここまで色々と手伝ってくれて有難う」
「いえ、大して役には立てませんでしたし……」
「MSの操縦の事なら気にすることは無いわ……逆に貴方に大活躍でもされたら、私はオーブを危険視していたかもしれない」
「え?」
「そうでしょ?貴方が活躍出来なかったのは、この2年間MSに乗ってなかった何よりの証拠。逆に以前のように問題なく乗りこなしたら、私はこう思うところだった。『この男はザフトを追放になった後オーブで何をしていたのか?戦争の準備でもしていたんじゃないだろうか?』ってね。私はザフトの軍人よ。警戒もするでしょう」
「それは……」
「だから安心した。ずっとMSから離れてたって事だし、好きではないんでしょ?」
「……はい、MSに乗って楽しい思い出はありません……それに……」
「わかってる。……それでも戦ってくれた。だからこそ、有難うと言いたいの」
「…………」
「それに、状況判断なんかは見事だったわ。流石ね、アスラン・ザラ」
「あ、ありがとう…ございます」

アスランは心の傷が少しだけ癒されるのを感じた。自分が役に立てたのだと思うと純粋に嬉しく思う。

「それで、今回は貴方に頼みたいことがあるの」
「頼み?」
「ええ、私からでは無く、プラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルからのね」
「議長から?」
「ええ、その頼みというのは『ラクス・クラインにプラントへ戻ってきて欲しい』という内容よ」
「ラクスに!?」
「ええ、ミネルバからボルテールに移る際に……同時に私からもお願いするわ、理由は判るわね?」
「……やはり、戦争は避けられないと、お考えで?」
「……避けたいとは思っているのだけれけど……」

オーブに到着すると、カガリは行政府に向かい、アスランはデュランダルの依頼を果たすためラクスの元へ向かった。

(久しぶりに会うことになるな……あの二人とは……)

車を走らせながら、ラクスとキラについて考える。
正式にザフトの裁判を受け、追放処分になったアスランと違いラクスは行方不明扱いになってた。
裁判は元々、和平成立後の連合側への建前として、ザラ派の過激な軍人を主に裁くものだった。民間機を落としたイザークを始め、降伏した兵を嬲り殺しにするなど先の戦闘で行き過ぎた行為を行った兵を処罰するというものだ。結局はデュランダルの弁護で若い兵は無罪となったのだが、この中に特殊な事情を持つ者がいた。それがアスランとディアッカらの三隻同盟に加担した者である。
三隻同盟のトップと言えるラクスは前議長シーゲル・クラインの娘ではあっても、本人は民間人で単なる歌手にすぎない。そのような人物の率いる集団が戦いに参加しても、普通なら勝てるはずが無いのだが、こともあろうに三隻同盟はヤキン・ドゥーエの戦いにおける事実上の勝利者になってしまった。
本来なら、勝利者のラクスがザフトのトップになることで何も問題は起きないはずだった。しかし、彼女が行方不明になったことで、状況がおかしくなる。アスラン等はザフトにとっては反逆者なのだが、今のザフトはクライン派でアスラン等は英雄になるし。ラクスに関しては更に複雑で下手に処分を下せない立場だった。
アスラン等に関しては追放や降格といった処分で事なきをえたが、問題はラクスである。民間人だから降格は存在しないし、追放や懲役など下そうものならどのような騒ぎになるか分かったものではない。
そこで行方不明をいいことに問題の先送りをしていたのだが……

(戦争になれば、そうも言ってられないか……)

先の事を考えれば戦争は避けられないというのが大方の予想だった。依然、連合の中枢にはブルーコスモスのメンバーが多く、今回の事件は彼等に戦争をする大義名分を与えた事になる。
そして、それに対しザフト側が怒りに任せて衝突すれば、再び多くの血が流されるだろう。デュランダルは最悪の事態を避けるためにもプラントの民の怒りを静められる人物、ラクス・クラインの復帰を打診してきたのだ。

(だが、ラクスが了承してくれるだろうか……)

やがて目的地であるラクスの暮らす孤児院が見えてきた。

ラクスはアスランの訪問を受けると客室に案内し、自らお茶を入れてくれた。
そんな彼女を見て、少し変わったなと思う。悪く言えば俗っぽくなったのだが、昔の捉えどころのないお嬢様だった頃より、よほど好感が持てるとアスランは思った。

「お久しぶりですわね。アスラン」
「ああ、元気そうで何よりだよ」
「プラントに行っていたとの事ですが?」
「ああ、今回はその件で頼まれごとをしてね……」

アスランはプラントに行ってからの一連の出来事を伝えた。そして、再び戦争になるだろうとの予測とデュランダルからの依頼も……

「…………そうですか……でも……」
「キラは元気になったんだろ?」
「はい……今は子供たちと散歩にお出かけですわ」

2年前の戦いの後、キラは一時期、自閉症に近い状態に陥っていた。戦いの中で知った己の出生の秘密
そして、ラウ・ル・クルーゼはキラの存在こそ人類の罪の証明だと呪いの言葉を投げつけた。
キラはそれを懸命に否定しながら戦ったが、まともな反論も出来ず、最後は力に頼り彼を殺すことでしか対抗出来なかった。
その結果、呪いの言葉はキラの心を蝕むものとなる。ラクスは彼に戦わせた責任を感じ、すっと看病を続けていた。それがプラントの民の期待を裏切るものと知りながら……

「あれ?アスラン……」

その時、散歩を終えたキラが帰ってきた。子供達と手を繋いで安らかな表情をしている。その表情を見てると、これ以上のラクスの説得は躊躇われた。アスランは実感する。

(キラにはラクスが必要なんだな)

アスランは、これ以上の説得は諦め、来た道を戻っていた。運転しながら悩み続ける。この先どうすれば良いのかと。
人類全体の事を考えればラクスはプラントへ戻るべきだと思う。戦争になれば前のように怒りと憎しみに任せて、無益な虐殺が起こり、憎しみが憎しみを呼ぶ負の連鎖が起こるだろう。
特にブルーコスモスの過激派にとってはコーディネーターを殺すのは正義であり、共存を訴える穏健派は悪なのだ。そして、彼等に対抗すればプラント側も過激な行動に走らざるを得なくなる。
しかし、問題なのはブルーコスモス側は敵、つまりザフトは全てコーディネーターであり、殺すべき怪物であるのに対し、プラント側にとっては相手の思想までは分からないということだ。

(そうなれば、結局はナチュラルは全て敵と思うしかない、かつての俺のように)

プラント側は頭では悪いのはブルーコスモスの過激派だと分かってはいる。しかし、目の前に敵がいてしかも、その相手が行き過ぎた行為を行ったとする。そうなれば……

(こっちも反撃したくなるな、そうしなければ殺られるのは自分だけじゃ済まなくなるし)

プラントにあるナチュラル蔑視の感情は、そういった自分を正当化する一面もあった。そうでも思わなかったら、人殺しなど出来はしないのだ。
しかし、そうなればコーディネーターに特別な悪意を持たない人間も殺すだろう。そして殺された者には家族や友人がいるはずだ。その人達はどう思うか、多くはコーディネーターを憎み、ブルーコスモスの支持者を増やすだけだ。
それを避けるためにも穏健派の象徴といえるラクスの力が必要なのだが…

(でも、ラクスは人の上に立つのを嫌がっている。そして、キラとの平凡な日常を求めている……無責任と言えば無責任なんだが…気持ちも分からないでもないし……ん?)

アスランは少年が1人歩いているのを目にした。この先は孤児院しか無いが少年に用があるとも思えかった。
そして、どこか異様な雰囲気……不審に思ったアスランは思い切って声をかけることにした。

ヒイロは普段の彼らしくなく迷っていた。この先どうするかと。
元の世界に帰りたい気持ちはある。しかし、いくら情報を集めても原因が分からない。そうなるとネガティブな思考も出ようというものだ。
そもそも、帰りたい理由の大半はリリーナのためだった。彼女がどうしてるかが心配で一目確認したいのだが、その後どうする?と問われると何も考えていない。
そもそもリリーナはAC世界における平和の象徴である。それに比べ自分はどうだろう?多くの命を奪ったテロリストで戦うこと意外、何も知らない機械のような人間だ。
そして、彼の最大の罪ともいえるノベンタ元帥を始めとする連合軍の和平派の軍人が乗ったシャトルを落とした事件、あの後遺族に審判を受けるために各地を訪問し、許しを得られたがヒイロ本人は自分を許せなかった。
ノベンタさえ生きていたなら、コロニーへの圧政は終わりヒイロ達の役目も終わりだったのだが、彼の死で戦乱は広がり、さらに多くの人が死んでいった。
そもそもリリーナに多くの責任を負わせる必要さえ無かったのだ。
そんな自分がリリーナに会う資格があるのか?もしかしたら、穢れた自分が彼女の元に近づかないように何らかの力が働いて異世界に飛ばされたのではないか?そんな事を考えながら歩いていると、目の前で派手な車が停まり、運転している若い男が声をかけてきた。

「この先は何も無いぞ」

その男の額を見てると、かつて共に戦った張五飛を思い出された。彼はどうしているだろうか?
もし、彼がこの世界に来ていたらブルーコスモスかザフトの過激派に戦いを仕掛ける気がする。しかし今のところ、そういった事件も聞かないし、そう考えると彼は来ていない可能性が高いのだが…

「どうかしたのか?」

余計なことを考えていると男が重ねて聞いてきた。どうやら自分を不審人物と思っているらしい。確かに、この地上で自分以上の不審人物はいないだろうから、この男の判断は正しいのだろう。
しかし、余計な騒ぎになっても意味が無いので適当に答えることにする。

「道に迷った。市街地はどちらへ行けば良いか教えてもらうと助かる」
「だったら、距離も遠いし乗せていこう」

道に迷ってるというのは嘘でなない。もっともヒイロの場合は地理的なものではないのだが……
どちらにしろ、この男が自分を不審に思っている以上、素直に従う方が賢明と思い、助手席に乗り込んだ。

「道に迷ってるって、他所から来たのか?」

男が運転しながら話しかけてくる。どうやら、尋問されているらしい。その動作には隙が無く、男が軍人、またはその関係で働いていた経験がある事を伺わせる。
だが、工作員の経験からヒイロはこういった場合を想定して前もって答えを用意していた。

「この前の事件で家を失った。コーディネーターという連中は酷いことをする」

先の事件で家を失った者は多い。そして、そんな人間が思う感想を添えて返答する。
こう言っておけば、大抵は同情される。このオーブにはコーディネーターも暮らしているらしいが、2年前の戦闘以来、殆どがプラントに移り住んでいる。よって、現在オーブの住人は殆どがナチュラルだった。万が一相手がコーディネーターであったとしても、自分からコーディネーターと告白するものは皆無だし、ましてブレイク・ザ・ワールド事件の被害者の前で余計なことを言うバカはいないと思っていたのだが……

「……つまり、アレは一部の過激派が起こしたことで……」

……バカだった。ヒイロは頭を抱えたいのを我慢しながら、男の演説を聞き流していた。
だが、何時までも演説を続け、こちらの反応を伺っているところを見ると、男は自分にコーディネーターへの偏見を解きたくて必死なのだろう。面倒だが分かったフリをするため、率直な感想をもらした。

「憐れだな、戦う目的を失った兵というのは」
「え?……憐れって、ブレイク・ザ・ワールド事件の犯人がか?」
「ああ、兵は目的を見失えば迷走する」
「どういうことだ?」
「……………」
「…あ、そういえば自己紹介がまだだったな。俺はアス…アレックス、アレックス・ディノだ」
「ヒイロ・ユイだ」

自分の名を告げながら、再び頭を抱えたいのを我慢した。

「ワカメうどん、トッピングにワカメを入れてくれ」
「毎度!何時ものヤツですね」
「ここのは美味いぞ、好きなものを注文してくれヒイロ」
「……きつねうどん」

先程の返答の何が気になったのか、食事に誘われ、うどん屋に連れられて来てしまった。
奇妙な注文をする男を尻目に自分の巡り合わせの縁について考える。
思えば、オペレーション・メテオで地上に降りる際も、よりによってゼクス・マーキスと遭遇してしまった。降下中の自分を倒せる敵など地上に二人しか存在しないのに、その内の1人といきなり遭遇したのだ。さらにその後、流れ着いた海岸ではリリーナに出会うし、あまりにもピンポイントすぎる。
そして、このアレックスだ。ヒイロにとって一番…いや、この世界で唯一の会いたくない相手と遭遇してしまった。これで、この男に妹がいて、この後、会ったりしたら最悪のパターンなのだが……そこまで考えた後、1人の少女を思い浮かべた。この世界に初めて来た日の夜、アレックスの口座から資金を拝借し、夜の街ですれ違っただけの少女。

――ヒイロ・ユイと同じ臭いのする少女――

(――!……まさかな)

慌てて自分の想像を打ち消す。すると、アレックスが自分を興味深そうに見ているのに気付いた。

「どうした?」
「ああ、別に…それにしても変わった意見だな」
「……そうか?」
「ああ、目的を失った兵か……ある意味、俺もそうだな」
「元軍人か?」
「ああ、前の戦争では戦争を止めるという目的があったが、今では何をしていいのか…」
「……………」

目の前の男のセリフから、先の戦いで3隻同盟に所属していた事が判断できた。
ヒイロは既にこの世界の情報の大部分を把握している。先の大戦がどのような顛末を迎えたかも一般の人間に伝わらない範囲まで知りえていた。そこで、目の前の男に見覚えがあるのに気付いた。

(アスラン・ザラか……)

ヒイロは先の大戦を調べるうちに、ある疑問を感じていた。
この世界での先の大戦では平和の歌姫と言われるラクス・クラインの存在、ザフトと連合の2大勢力に属さない少数部隊の勝利など、ヒイロの元の世界の戦争と似た部分があった。
しかし『彼等は何の目的で戦ったのか?』がどう考えても理解出来ないのだ。
リリーナの目標は『争いの無い世界』を作ることだった。
しかし、同じ平和の象徴と呼ばれるラクス・クラインはリリーナと違い、戦艦を強奪し自ら戦線に起っている。これに関しても疑問だったが『手を汚す覚悟がある』と思えばまだ分かる。決して争わないこと=平和では無い。場合によってはラクスのように戦うことが平和への近道になるのは間違い無いことだ。現にヒイロたちの世界も彼等を始めトレーズやゼクスが戦ったからこそ平和の道が開けた部分がある。
だが、分からないのはラクスが戦後、身を隠したことだ。戦死したかと思えば、とてもそうは思えない。
結局は何の為に戦ったか不明だったのだが、目の前の男の発言で納得した。

『彼等は道を見失ったのだ』

そして、改めて思う。ラクス・クラインは戦場へ出るべきではなかったと。彼女も毒されたのだろう、己を見失いやすい戦場の空気に、戦場では目の前のことで一杯で遠くが見えなくなってしまう。
そこが最後まで目標を誤らなかったリリーナとラクスの違いだろう。

「お前達は、目的と手段の区別が出来ていない」
「え?」
「お前の目的はなんだ?」
「それは、争いを止めて…」
「争いを止めるという行動は手段だ。目的ではない。目的とは状態のことだ」
「……!」
「兵は容易く道を見失う、兵が道を見失わないには信頼できる政治的指導者が必要だ」
「じゃあ…」
「後は自分で考えろ」

自分の考えに浸るアスランを無視して、うどんを啜る。たしかに美味い、勧めるだけのことはある。
やがて食べ終わったが、アスランはまだ考えてる最中らしく、こちらに反応しない。

(逃げるなら今か……)

ヒイロは柄にもなく喋りすぎたと思いながら、そっと席を立ち会計を済ませて店を出た。

(目的は状態……手段は行動……言われてみれば当たり前のことじゃないか……)

例えば戦争をするのが目的、と言われることは多い。だが、厳密に言うなら戦争という行為は手段にすぎない。ブルーコスモスだったらコーディネーターのいない『状態』を目的に戦争をする。逆に考えれば『何故、戦争は起こるのか?』そんな考えをしてるかぎり正解は出ない、だが何故『戦争という手段を選んだか?』と考えれば答えは容易だ。

(俺たちが戦ったのはコーディネーターとナチュラルが争わない世界を作るため事だった。それには、戦争を止める必要があった。だが、その後どうすれば良かった?)

そんな基本的なことも決めずに戦ってきた代償がこの状態だ。ラクスが消えたのは確かに痛いが最初からラクスに政権をとらせる気だったか?と問われると否だ。
自分たちは戦争を止めるという行為で手一杯だった。いや、酔っていたと言える。

(父はどうだったのだろう?)

アスランは自問した。パトリックの最初の目的はプラントの自立だった。しかし、血のバレンタインを境にプラントの自立よりナチュラルへの復讐という行為の方が目的になっていたのではないか?
最初からナチュラルを全滅させる気なら他にいくらでもやりようがある。ブレイク・ザ・ワールドを大規模にやれば良いのだし、簡単な方法ではNJCが完成した時点で核攻撃をすれば良い。
自分たちが戦争を止めるという行為に酔っていたように、父もナチュラルへの復讐という行為に酔っていたのではないか?両者とも目的と手段を履き違えた典型である。

(結局、目指す状態が異なる限りは争いは無くならない)

ナチュラルのいない世界、コーディネーターのいない世界、そして両者が共存する世界。アスランが共存を目的にする以上、前二つを目的とする者の考えを改めさせるか改めない以上は……
そこまで考えた後、目の前から少年がいなくなった事に気付いた。

「あれ?ヒイロ?」
「ああ、お連れさんならアレックスさんの分も払ってお帰りになりましたよ」

それを聞いてアスランの胸が熱くなった。ブレイク・ザ・ワールドで家を失った少年がコーディネーターの自分の悩みの相談にのってくれた上、会計までしてくれたのだ。両者は分かりあえる!アスランの目には明るい未来が見えていた。

そのころプラントでも似たような会話が行われていた。しかし、デュランダルはアスランとは立場も情報量も違えば、お目出度くも無く、さらに辛辣だった。

「つまり、君は弱冠15歳の少女に後始末を押し付けたわけだ」
「――!…それは…」
「違うかね?だが、本当に平気なのかな……何しろ君は人類史上最大の虐殺を行おうとしたのだろう?
 そんな男が兄などと認めてくれるのかね?いっそ、誰にも会わないように隠遁生活をしても不思議ではないと思うのだが?」
「………………」
「すまない……言い過ぎたようだ」
「……いえ、仰る通りです」

デュランダルは何故、自分がこのような事を言ってるのか不思議に思っていた。
彼の話を聞く内にエピオンと呼ばれるMSが、とてもこの世界で使える物では無いと感じたからか?
ゼロシステムというのは曖昧な目的で使えるMSでは無い。プラントではナチュラルと共存か徹底抗戦かで揺れている。デュランダル自身は共存派だがナチュラルを滅ぼしたい気持ちが皆無なわけでは無かった。おそらく全ての人が揺れているのだろう。もし、そんな状態であのMSに乗ったら?
それにゼクス自身が使ったとて、こちらの望みに答えてくれる保障は無かった。だから、利用価値の無くなった彼に辛く当たったのか?……違う、これは嫉妬だ。リリーナ・ピースクラフトという時代の最も必要とする人材を持てた世界に対する嫉妬だ。
ナチュラルを滅ぼし、それを民衆に正当な行為と思わせきる気概を持つ英傑も無く、両者の橋渡しを可能とする聖人もいないこの世界。
ラクス・クラインですら、プラントのコーディネーターにしか支持されていない。地球全体の僅か一割、カガリ・ユラ・アスハや他の指導者にいたっては、それ以下だろう。それに比べリリーナ・ピースクラフトは地球圏の殆どの支持を集めたという。
そして、それが嫉妬と気付いたときデュランダルは無性に悲しくなった。この世界はダメなのか……ラクスが戻ったとて、何が出来るというのか……

「今日のところは失礼させてもらうよ」
「……はい」

落ち込むゼクスにこれ以上かける言葉が見つからず、そっと退席したのだが、執務室に戻るうちに大事なことを聞いていない事を思い出し、デュランダルは再び元の道を戻った。

ゼクスは胃の痛みを我慢していた。デュランダルに言われ初めて気付いた…否、目を逸らしていた事実を突きつけられたのだ。
思えばリリーナには普通の少女として暮らすという選択肢もあったのだ。だが彼女はサンクキングダムを復興させ、それが滅ぼされて地球圏の統一女王として傀儡にされかけた時さえ、逆に乗っ取り、利用しようとしたデルマイユ侯の追い出しに成功した。妹ながら、とんでもない女だと思う。
何故、そこまで出来たのだろう?そこまでの苦難の道を人は選べるのか、ある意味リリーナは時代の生贄だ。誰もが平和を望みながら、自ら行うには苦難が多すぎる故に諦める。自分がそうであるように、リリーナの行動を考えると顔も憶えてない親のためだけで出来る事では無い。ましてや人類全てなど人に背負えるものだは無いだろう。
ゼクスは戦場での経験から理想や大儀だけでは戦えないことを知っている。周りの大切な人間や戦友の為にこそ戦えるのだ。
そこまで考えた後、ふと思い出した……あの少年だ。ヒイロ・ユイを戦わせたくないからではないか?
リリーナも理想や大儀のために戦場以外の場所で戦った。だが人はそれだけでは戦えない、ましてや目に見えない全人類の為になど。
リリーナは明らかにヒイロに愛情を持っていた。そしてヒイロは戦争がある限り戦い続けるだろう。
もし彼に戦って欲しくないなら、地上から戦争を無くす他に手段はあるまい。

(ヒイロ・ユイが支えてくれるなら安心か……)

ゼクスは胃の痛みが少なくなるのを感じた。何度も戦ったからこそ分かる彼の強さ、自分を打ち破った少年がいれば大丈夫だと……

「不甲斐ない私の代わりにリリーナを頼む」

そう呟いた時、再びデュランダルが訪問してきた。

「すまないが確認したい事があってね。実は部下からこのような報告があってね、ユニウスセブンを破壊したのは天使のようなシルエットを持つ、君たちの言うガンダムタイプのMSが手に持ったライフルの射撃で破壊したそうなのだよ。長めの銃口が二つあるタイプらしい、知ってるかね?」
「――!……ゼロ」

ゼクスは目の前が真っ暗になった気がした。

「やはりそうか……君の話を聞いて、まさかとは思っていたのだが……」
「ヒイロ・ユイがこの世界に……」
「パイロットも知っているのだろう?単刀直入に聞くがそのパイロットは、連合の手伝いをするような男かね?」
「いいえ、それは無いでしょう……異世界での争いに参加するほど短絡的な人間ではありません。もし参加するとしても、ゼロは使わないはずです…」
「信用しても良いのだね?」
「はい、彼は…この世界で一生を過ごす事になったとしたら、ゼロを始末するはずです……―!」
「そうか、安心した…何しろ戦争になりそうでね。アレが敵に回ると思うと頭の痛いところだったが…いや、味方でも安心出来んか……ん?顔色が悪いようだ。私は失礼するから、ゆっくりと休みたまえ」

ゼクスは最早デュランダルの声は聞こえていなかった。自分のセリフ『この世界で一生を過ごす』という言葉に恐怖を感じていたからだ。
自分は良い、むしろリリーナにとっては自分は邪魔だろう。自分を最後まで慕ってくれた女性もいるが、リリーナの邪魔になる方が辛かった。
しかし、ヒイロは違う。彼はリリーナに必要な人間だった。そして、厄介なことに彼は自分と同じ決断を下す可能性が高い人間だった。『自分こそがリリーナに相応しくない』と……

「帰らなくては……何としてでも!」

声を大きく出して自分に喝を入れる。続いて思考を活性化させる。
どうやって帰る?いや、その前にヒイロと連絡を取らなくては……議長に頼むか?…否、無理だ。そもそも議長に何をさせる気だ?『異世界から来たヒイロ・ユイ、ゼクスが待っている』とでも言わせる気か?……自分の存在は大っぴらに出来ない、だから別の方法で自分の居場所を伝えなくては……待て、議長が最後の方に言った言葉『戦争になりそう』そうだ……

「戦争になるなら兵士がいる。議長にとっても1人でも多く必要なはずだ……ならば」

ゼクスは立ち上がり、デュランダルとの面会を求めた。

デュランダルはゼクスの面会を許可し、彼を招き入れると意外なセリフを聞いた。

「君を兵として、雇えと言うのかね?」
「はい、勝手な願いとは承知しておりますが」
「……だが、エピオンは危険すぎる。あんな物が戦場に出たら連合は、どう思う? 私の目的はナチュラルとの共存だ。しかしアレは余計な疑いを持たせる」

デュランダルはカガリの言葉を思い出していた。『過ぎた力は争いを呼ぶ』セカンドシリーズが過ぎた力だとは思わない。あれは守るために必要な力だと確信している。だが、エピオンは違う。明らかに、この時代のテクノロジーから逸した機体。無用な疑いから争いが起きるのは必至だった。

「はい、それは承知しています。それに私自身が今の状態でゼロシステムに耐える自信がありません」
「では、どうすると?」
「この世界のMSを与えて下さい。私はナチュラルですがナチュラル用のOSも有るのでしょう?」
「確かに、そうだが……」
「パイロットは必要なはずです」
「……うむ」
「ダメなら諦めもします。ですから試すだけ試して頂けないでしょうか?」
「……良いだろう、エピオンという化け物を乗りこなしていた君だ。上手くやれるかもしれん」
「ありがとうございます」
「とりあえず練習用のジンを用意させよう……それにしても何故、急にパイロットになる気になったか聞いていいかね?」
「はい、武勲を立てたいと思っております」
「武勲を?別に働かなくても生活には不自由はさせないつもりなのだが?」
「ご好意には重ね重ね感謝しております。ですが元の世界に私は帰りたいのです。いえ、私が帰れなくとも帰したい男がいるのです」
「……話が見えないのだが?」
「武勲を立てれば、私の存在に気付く人間がいます」
「なるほど、先程話したゼロのパイロットか?しかし、彼は異世界の争いには参加しないと?」
「はい、彼は今頃この世界の情報を集めているでしょう。そして私がこの世界に来て戦争をしてると知ったら…」

ゼクスは自信に満ちた声で断言する。

「彼は、ヒイロ・ユイは必ずや私を殺しに来ます」